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2018.06/24 定年を迎えたら何をしたらよいか

組織社会では組織で働ける年齢に制限を設ける必要がある。そうしないと組織の新陳代謝ができないからだ。すなわち、定年は組織社会において宿命である。ゆえに今社会全体で考えなければいけないのは、人間の寿命がこの定年の年齢よりもはるかに長くなったことである。

 

そこで、定年者を有効活用する企業がTVで話題になったりしているが、有効活用できる定年者が少ない、あるいは本来そのポテンシャルがあるのに有効活用されていないといった問題がある。もしこの問題に関心があるならば弊社に問い合わせていただきたいが、定年を迎えるサラリーマン個人が今すぐ取り組むべきことがある。

 

それは、サラリーマン人生の棚卸である。運よく出世できた人も出世できなかった人もこの棚卸を行い、自分の価値を自分でまず評価することである。そのとき組織における自分のポジションから評価してはいけない。自分の価値をいつから意識し、それを高める努力をどれだけしたかについて評価してほしい。

 

定年まで一つの会社で無事働ける立場にあったなら、それだけで必ずその人には何か価値があったはずである。自分の価値を勝手に決めて組織の仕事をまったくやらず会社に来て本だけを読んでいた人物を偶然部下(このような人物でも日本ではクビにできない。会社の上司を自由に選べないが、転職では部下を自由に選べないので注意する必要がある)に持った経験から言えるのは、日本の多くの組織は個人が希望し努力すれば自己実現を実践しやすい社会である、ということだ。だから自己実現努力を正しく自己評価できれば自分の価値を判断できる。

 

何も自己実現努力をしてこなかった、というサラリーマンは日本の社会では少ないはずだ。ただしその努力の仕方や量には個人差があるかもしれないが、ささやかなことでも良いから自分はこの点については少し努力してきた、という点について自己採点することが大切だ。

 

この自己採点で定年後の人生をどうしたらよいのか見えてくる。自己採点結果が全くダメでも、そのダメなところに気がつくことが残りの人生に生きてくると思っている。人生は生きている限り、死ぬまでやり直しができる。

 

ただやり直しの努力において加齢により生じる苦労は若い時の想像を越えるが、苦労を味わう術は若い時よりも長けているはずなので、その気になりさえあればどのようなことでもチャレンジできる。

 

問題は苦労を人生の中で楽しみとして捉えられるかどうかである。ただしこれはサドマゾの世界ではない。いつまでも苦労を越えたところにある夢を見ることができるかどうか、という点である。

 

例えば、定年後の再就職を給与の額面で決めてはいけない。このような棚卸で見えてきた自己の強みで再就職先を決めるのである。

 

再就職先では若い人材以上に厳しい評価をして採用しているはずで、担当する仕事や役割は明確である。そこで改めて自分の目標を設定し働くのである。

 

亡父は晩年体が動く限り、郵便局で働いていた。元警察官だったので十分な年金があったはずだが、交通費程度しかもらえないあて名書きの仕事をしていた。

 

たまに名古屋へ行ったときに郵便局の屋上から垂れ下がる垂れ幕の達筆な字をみつけると亡父によるものだったが、それで手当てをもらっていない、と笑っていた。「字を書くこと」ただそれだけに働く意味を見出したのだろう。未だにくぎの折れ曲がったような字で満足している当方にはおよそ勤まらない仕事である。交通費と給与が支払われる仕事につまらない仕事は無い。

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2018.06/23 有機合成化学(1)

大学4年に進級し選択した講座は、有機金属化学(パラジウム錯体化学)で世界的な研究成果をあげていた石井研である。ただ、その翌年に石井先生が退官されるということで大学院への進学がどうなるかという心配があった。しかし有機合成化学への強い憧れから石井研を選択した。

 

結局大学院進学が決まってからその講座は閉鎖されることになり、その時の研究テーマを継続することができなくて、それならば、とつまらない意地からセラミックスの講座で大学院の研究生活を送ることになった。

 

本当は有機合成化学を勉強したかったが、大学の都合で講座が閉鎖されるとの事態になったのでへそを曲げたのである。学生が一人抵抗しても体制が変わるような時代ではなかったが、同じ講座の友人もいっそのこと興味のなかった勉強をするのも面白いかもしれない、と同じように無機の講座へ進学を決めたので、曲げたへその方向へ躊躇なく流された。

 

この友人はデンソーでセラミックス技術者として生きてゆくのだが、そのおおらかでゆるい人生観に共鳴はできなっかったがうらやましく感じていた。良く言えばしなやかな人生観で、打たれ強く強靭さが垣間見えて、見習いたいと思った。

 

大学院でセラミックスを勉強することになったのもこの人物の影響が少しある。人生において憤りを覚える事態に遭遇しても、このような人物が身近にいると悲観的な方向だけでなく楽観的な方向に少し目を向ける気持ちが出てくる。

 

今、日大の組織運営が問題になっているが、名古屋大学も同様で、大学院に進学する学生がいてもその希望を無視して容赦なく講座をつぶすような大学だった。この時つぶす方向で中心になって動いていた複数の先生とその講座の先生との人間関係が学生の間で噂になっていた。

 

また、この様なうわさは文春砲と同じで面白い話として尾ひれがついてゆく。しかし尾ひれをうわさ話から取り外しても週刊誌よりも低次元な理由である。石井研の先生方がおかしな先生ではなく誠実で教育熱心な方々ばかりであることを学生も知っていたので、噂は日大と同じようなつぶそうと画策されている先生方の人格がおかしいという内容になってゆく。

 

つぶそうとしている先生方の講座に所属している学生もうちの先生なら少しおかしいから学術的に高い研究成果を出している石井研をつぶしたいのだろう、と面白おかしく言うので、進学できなくて悩んでいる当方などは現実と噂の中で大学院進学そのものを悩むことになる。ゆるい性格の友人がいなければ大学院進学をやめていたかもしれない。

 

アカデミアの世界にこの時失望し、技術者として生きる決意をしたのだが、社会に出て学んだのは、日大の組織から見えてきたような人事というものがリーダーの好みで決まってしまう懸念である。人事を担当したならば、まず誠実真摯にその平等と公平性に務めなければ組織がおかしくなる。

 

有機合成化学分野をあきらめ、受験時に書いていなかった進学希望先としてセラミックスの講座を選択したのは、大学の組織運営にへそを曲げたつもりだったが、それがゴム会社で高純度SiCの企画をする下地になっていったので長い目で見れば悪くはない選択だった。

 

ただ当方の興味として有機合成に対する憧れがそれなりに強かったので、あの時有機合成化学に拘っていたならどのような人生だったのか後悔することもある。このような視点に立つとセラミックスの講座を選んだのはくだらない意地に見えてくる。

 

くだらない意地だったが、それからの40年間の技術者生活では良くも悪くも小説よりも刺激的な人生で、今こうしてこの年齢でも技術者として仕事をしているのが不思議である。ドラッカーが言うところの誠実真摯に強みを意識してどのように覚えられたいかを意識して生きる大切さを実感している。

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2018.06/22 材料科学

高分子材料の開発過程で観察される現象について金属やセラミックスと比較すると、科学的に説明できる範囲が限られているような気がしている。

 

金属やセラミックスでも経験知や暗黙知に頼らなくてはいけない部分も多いが、昨年末から今年にかけて問題となったようなデータの捏造が科学の進歩で安心してできるレベルになってきた(皮肉ではない。恐らく担当者の気持ちもこのような感覚を持っていたのだろう)。

 

ところが今でも高分子材料では、同様の捏造には高いリスクが伴う。まだ科学でうまく説明できない現象が多いからだ。高分子材料科学は、この40年間にアカデミアの努力もあり大きく進歩した。しかしセラミックス材料をかつて研究した経験から高分子材料を眺めたときに、果てのない世界に見えてくる時が今でもある。

 

高分子材料を真剣に研究した経験がないので、勝手な印象しか表現できないが、セラミックス材料よりも研究者の数が多いにもかかわらず、高分子材料科学の進歩が遅いのは、研究者の問題というよりも非晶質の理解が難しいことによると「感じている」。

 

高分子材料の非晶質部分は、すべてガラスであるが、密度の高いところと低いところがある。密度の低いところでは室温で高分子の枝が分子運動をしている。すなわち、動いている。この部分は部分自由体積と呼ばれているが、この量がばらつくと高分子の密度もばらつくことになる。

 

密度がばらつけば、密度の関数である弾性率や屈折率、誘電率がばらつく。弾性率がばらつけば引張強度もばらつく、といった具合に成形体で要求される高分子物性ばらつきの原因はこの部分自由体積と呼ばれるところにある。

 

また、高分子材料は、目標とする性能を新たなブレンドで実現しようとしたときに、やってみなければわからない点が多い。そのとき、混練のプロセシングでさえ科学で満足な説明ができない状態で、どのように材料開発を進めたらよいかは経験を頼りに工夫も必要になってくる時がある。

 

例えばPPSと6ナイロンを混練で相溶できる、などと教科書には書かれていない。書かれていないだけでなく、そのような現象を否定する説明が書かれている。相溶しないとされるブレンドなので、やがてはスピノーダル分解をして相分離するが、一度相溶してから相分離した材料と一度も相溶しなかった材料では同一組成でも脆さの指標である靭性が異なっている。

 

ゆえに混練プロセスを工夫し、相溶した材料や一度相溶させてから冷却速度を遅くし相分離させた材料、急冷しても相分離している材料をプロセシングで創り出すことが可能である。この3種の材料は、力学物性だけでなく電気特性も異なる全く別の材料となっているが、化学的組成分析では同じものである。

 

このような現象を一度でも体験すると高分子の材料設計では、目標とするブレンド組成について、一度組成を大きく変動させたサンプルを作ってみて自分が必要としている組成の位置づけを見てから開発を進めるといった、泥臭い方法が重要になってくる。

 

当たり前の結果しか出ないかもしれないが、当たり前であることも確認してから進めないと足元をすくわれる可能性があるのが高分子材料の世界である。もしこの実験で当たり前で無い結果が出たならフィーバーするかびっくりして腰を抜かすかすればよい。落胆してはいけない。

 

その後は、ゆっくりと落ち着いて知識の整理を行い、それから研究開発を進める姿勢が大切で、当たり前で無い結果を理解できない結果として捨て去ってはいけない。20年近く前に日本写真学会から賞を頂いた高靭性ゼラチンは捨てられていた実験結果を拾い上げた成果である。

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2018.06/21 知識(8)

中間転写ベルトの押出成形工程で発生する騒音が、清掃作業で金属音から鈍い音に変化する現象を誰もが情報として知っていた。その現象に疑問を持ち解決策の機能をみつけることができなかったのは、目の前の現象が発している情報を知識と結び付け、新たな知識に変える作業をしていなかったためである。

 

カンが働く人と働かない人との差はこのようなものである。目の前の現象の変化に疑問を持ち、現象の情報を知識に変えるためには、現象の変化を自らの言葉で説明する作業が有効である。その時不明点が出てきたならば、書籍に載っている形式知でその不明点を解決してゆく。

 

すると、形式知で説明できないところが見つかるかもしれない。形式知には限界があるからそこは経験知で理解できないか考える。経験知には暗黙知もぶら下がっているから、運が良ければ暗黙知を現象と結びつけて具体化できるかもしれない。

 

この一連の作業で、ある不思議な現象を前にしたときにそこから得られる情報と身についている知が現象と結び付けられてゆく。すなわち、形式知と経験知、そして暗黙知が整理された状態で目の前の現象といつでもうまく対峙できる状態に自ら努力しなければいけない。

 

自然現象から得られる情報を知識に効率よく変えるために、まず身に着けている知識をいつも整理された状態にしておかなければいけない。そのとき、形式知や経験知は容易に具体化でき整理できるが、暗黙知は厄介である。

 

当方が実践している方法は、暗黙知を経験知にぶら下げておく努力である。経験知の枝に何かわけのわからない袋がぶら下がっているようなイメージを忘れない努力である。

 

経験知の中には、何か腑に落ちないが、何となくこうなる、だから覚えておこう、と感じるような知識がある。この腑に落ちない、しっくりこない感覚を忘れないことである。

 

身に着けていた経験知でたまたまうまくゆき、それで満足している人を時々見かけるが、しっくりこない経験知で運よくうまくいっても満足してはいけない。なぜうまくいったのかそこで考えると暗黙知が新たな経験知に変化する。

 

この暗黙知が新たな経験知に変わる瞬間は、まさに一を聞いて十を知る、という感覚である。言葉では言い表せないすっきり感がある。PPS/6ナイロンの相溶に成功した時、経験知から狙い通りの結果ではあったが、やはり満足のゆかないところがあったので、さらにいろいろと実験を行ってみた。

 

すると満足のゆかないところが具体化され、新たな技術アイデアが生み出された。3年前中国のローカル企業を指導していた時にそれを実行する機会があり無事成功し、頭の中がすっきりした。

 

何を発明してすっきりしたかは問い合わせてほしい。高分子のプロセシングと材料設計にかかわる発明で、これはコンサルティングのお客である某社から特許が出願された。

 

ちなみに、カオス混合装置はゴム会社の新入社員実習で指導社員から彼のすっきりしない経験知を伝承していただき、頭の隅で悶々となっていた暗黙知の寄与が大きい。30年弱の時間をかけた発明である。

 

 

 

 

カテゴリー : 一般 高分子

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2018.06/20 形式知の限界(2)

プロジェクトリーダーが、テーマの見直しで当方一人となったファインセラミックス研究棟まで来て、仕事を手伝うように、これは本部長命令だ、と伝えてきた。

 

住友金属工業とのJVの準備を行っていたので、この事業テーマよりも重要なテーマだと言いたかったのだろう。モノになりそうにない研究テーマが事業化テーマよりも重要と判断している見識はおかしいが、U取締役からI取締役へ代わって、高純度SiCのテーマは風前の灯火になった。当方は「半分だけ、手伝う」と回答したらダメだという。

 

何やかやと議論になったが、残務整理と称して1週間余裕を頂き、電気粘性流体の仕事を検証することにした。当方が転職後もこのテーマは少し続けられたが、やがて担当者のほとんどは、当方が0から始めた高純度SiCのテーマを担当することになる。このとき風前の灯火だったが、住友金属工業とのJVを足掛かりにして立ち上がり現在までピュアベータ事業は続いている。

 

研究所のテーマ評価は難しい、と言われているが、当時事業になりかけ、SiCパワー半導体などの将来ニーズも見込まれていたテーマと高価なシリコーンオイルを大量に使わなければ機能しない、あるいはその他実用性を考えると技術的に克服できない欠点が多数あったテーマとどちらが重要かは明らかだった。

 

それゆえに社長から直接先行投資として2億4千万円が出されたのであり、住友金属工業とのJVもスタートできたのである。U取締役の「まずモノを持ってこい」とか今ならハラスメントとして扱われかねない「女子学生より甘い」発言が妙に懐かしくなった。I取締役になり、入社直後の全社の中で少し浮いている、特殊な組織の研究所という風土に逆戻りした印象を感じた。

 

電気粘性流体という材料は、技術者の視点で眺めたときに、キワモノ材料となるがレオロジー研究者には面白い対象だった。そのためその開発方法もアカデミアのような科学的研究が主体だった。そこからはモノを創りだそうとする姿勢がおよそ伝わってこない。たとえば、この増粘問題にしても、その問題解決よりも増粘メカニズムの解析が仕事の中心におかれていた(注)。

 

基礎研究の重要性を否定するつもりはないが、増粘メカニズムの解析と同時にその解決策の検討も企業では同時に進めるべきである。プロジェクトリーダーは解決策を見つけるために研究を推進した、と言っていたが、解決策は界面活性剤の添加以外に方法は無いことは2ー3年レオロジーや界面科学をかじった人間ならば理解できていたはずだ。

 

プロジェクトリーダーは研究所の中でその分野における能力において評価の高い研究者だった。だから、間違った科学的真理を否定証明で導き出しても疑う人はいなかった。このような場合には、「できる、という実例」を一つ示せば、「真理」をひっくり返すことができる(ひっくり返した結果、転職することになるのだがーー。会社に貢献する結果を出しても評価をされないどころかひどい目にあった)。

 

問題解決策のヒントを得るために、耐久試験で増粘し機能しなくなった電気粘性流体を20lほどもらい、それを小さな試薬瓶に小分けし、それぞれへ界面活性剤と思われる組成物を次々と添加していった。これは、添加量も不正確な適当な実験である。

 

翌朝その試薬瓶を観察したら、粘度が下がっている小瓶が一つだけ見つかった。再現性を見るために、その界面活性剤を改めて増粘した電気粘性流体に正確に0.5%に相当する量を秤量し添加したら、驚くべきことに増粘が解消され電気粘性流体として機能しそうな粘度に回復した。

 

電気粘性流体を担当していた若手を呼び、実験の一部始終を話したら驚き、すぐにそれを評価しますとなり、評価結果を持ってきた。彼の評価では、今回の手法は十分実用性がある技術とのこと。

 

すぐに新たなテーマを企画し、プロジェクトリーダーを補佐していた課長に説明したところ、難色を示した。界面活性剤を用いた改良という企画では通らないという。原因は、一年研究して見いだされた間違った科学的真理のためだった。

 

ただ、「電気粘性流体と組み合わせても大丈夫なゴムなどできないと思うから何とかこのアイデアを企画にしたい。第三成分の添加ではだめか?」と提案があった。

 

当方は、高純度SiCのJV立ち上げの仕事を半分推進してもよい、という条件ならば、そのタイトルでもOKと答えた。

 

「ゴムからブリードアウトした添加剤のために電気粘性流体が増粘する問題は、界面現象が関わっており、それを解決できる界面活性剤は存在しない」という真理を尊重し、「第三成分(として界面活性剤)を電気粘性流体に添加し増粘問題を解決する」というテーマを提案することになった。企画書では()内は削除され、界面活性剤はすべて第三成分と呼ばれた。形式知を重視しすぎるとこのような笑い話となる。

 

 

 

(注)この増粘問題だけでなく、当時扱っていた電気粘性流体の性能も悪かった。この性能改善のため当方は電気粘性流体を高性能化するための新コンセプトの粉体を3種類提案し、特許出願を行っている。この電気粘性流体では粉体が肝のはずなのに、外部から調達して研究を進めていた。電気粘性流体の機能が粉体の働きによることが分かっていながら、その粉体を創り出す努力をしていなかったのも技術者の目からは奇妙に映った。技術開発のために研究は必要だが、その研究の中身の評価は専門外には難しいとよく言われる。しかし、U取締役の口癖だった、まずモノをもってこい、という方法は、一つのフィルターになる。「技術を理解しているならば、性能を向上できる粉体を持ってこい」と命じたならば、このテーマはもう少しまともな進め方や判断がなされたと思う。本部長命令で、当方はとりあえず半分工数の力で手伝うことになったので、新コンセプトの粉体や高性能難燃オイルなど電気粘性流体を実用化するために必須となる技術を実際のモノを創って提案している。そして当方が転職後それらの技術を使ってしばらくテーマが推進されたようだ。

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2018.06/19 形式知の限界(1)

高純度SiCの事業化を一人で推進していた時である。30年近く前の話なのでもう時効と思うが、電気粘性流体をゴムの袋に入れてデバイスとして組み上げると増粘するという問題が起きた。

 

電気粘性流体とは、絶縁オイルの中に半導体微粒子を分散した粘性流体で、電気のON-OFFで固体になったり流体になったり、さらに電圧でそのレオロジ挙動を制御できるレオロジー流体である。

 

当時その現象がウィンズローにより発見されて40年ほど経過したころで実用化研究が活発に行われていた。そこで起きた増粘問題に高学歴のスタッフが数名投入されてこの問題を一年かけて研究した。

 

そして、「電気粘性流体の増粘問題は界面活性剤で問題解決できない」という間違っている一つの科学的真理を論理的に導いた。

 

この真理はゴム会社だから現象を早く見出し、結論も優秀なスタッフで迅速に出すことができた、と研究所でもてはやされた。そして、この真理は重要な極秘情報として扱われた。

 

新たなテーマで「電気粘性流体を増粘させない新しいゴム材料の開発」というとんでもない企画が研究所の最重要テーマとなり、新入社員時代にたった3ケ月で樹脂補強ゴムを開発した、という噂から当方にこのテーマが回ってきた。

 

「電気粘性流体の増粘問題は界面活性剤で問題解決できない」という結論は、最新の分析機器を用いて解析的に進められ、その手順は極めて科学的プロセスで進められて導き出されていた。

 

科学的真理が間違っていた、という事実はこの事例だけではない。過去の学会発表を見ればいくつか存在する。またSTAP細胞の騒動でも間違った科学的真理が導き出されたかもしれない。

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2018.06/18 昨日の種明かし

カオス混合装置の発明について、セミナーで説明するときにウトラッキーの発明した伸長流動装置をヒントにした、と話している。これは半分正しいが、実際には昨日書いた現場で起きた音色の変化の寄与が大きいと思っている。

 

経験知として、新入社員時代に指導社員から教えられたカオス混合という技術を体得していたからである。40年近く前の体験について以前この欄で書いているが、1年間のテーマだった樹脂補強ゴムの開発を3ケ月でやり遂げた話だ。

 

その3ケ月は、ほとんど徹夜で過重労働の極みだったが、学生時代の知識の蓄積も無い全く未経験の領域の仕事であり、楽しさはあっても苦しくなかった。毎日午前中行われたレオロジーに関する座学が睡眠学習となり、鋭気が養われていたからだ。その座学で剪断流動やカオス混合について説明を受けた。大切なところは、しっかりと拝聴し、ケムンパスのような半目で質問もしている。

 

このカオス混合の説明では、カオスという言葉に惹かれ、1時間ほど議論していた記憶がある。ロール混練では剪断流動が発生していると説明されているが、単純な二本のロール回転で複雑な高分子の流動がそこで発生している、というのが指導社員の説明である。

 

明確な説明をされないので、ホワイトボードで当方が絵を書きこのようなことかといろいろ質問していたような記憶も残っている。最初は指導社員自身も訳が分からないからカオス混合とゴマかしているのかと思ったら、伸長流動と剪断流動がごちゃ混ぜになったような流動と理解が進み、とにかく急激な伸長が生み出す組織の微細化の機能がカオス混合である、と経験知のすべてを教えてくれた。

 

指導社員は、京都大学で修士まで高分子のレオロジーの研究をやってこられた方である。しかし形式知で凝り固まった理論派ではなく、電卓で微分方程式を解き、具体的なグラフとしてダッシュポットとバネのモデルを説明する実践派であった。それだけでなく、ご自分のやられた手法がやがて時代遅れとなり、新しい高分子のシミュレート手法が生まれるという予測もされていた。このような雑談も含め指導社員の経験知や暗黙知を身に着けることができた。

 

さらに指導社員は、当時混練の世界で二軸混練機が普及し始めた背景を説明してくださった。その後、こうした混練の自動化システムでカオス混合を実現できるのは君しかいない、とからかわれたりした。そのようなときには、当方は元気よく実現したいと思います、と答えている。指導社員の熱意に対してこの回答しかなかった。

 

この日の午後は早速ロール混練でカオス混合を確認する実験を行っている。そこでロール間の距離やロールの回転速度がロール混練で混練を制御する重要な因子であることを学んだ。ここで得た経験知や暗黙知があったので、押出速度が速くなり、結晶ができなくなる現象において、金型に機能が隠されていると発想できたのである。

 

これは余談だが、転職してびっくりしたのは研究所の管理職会議で役員が、会社でホワイトボードに向かってちーちぱっぱをやるようなことは無駄だからやめよ、と発言されたことである。要するに勉強は自分でやるものだ、というのがその意図である。それでは、経験知の伝承を会社でやれなければどこでやるのか、とつっこみたくなったが、役員のご指導なので20年間やらないように努めた。

 

伝えきれていない経験知をセミナーでは何とか伝えようと努力しているが、企業におけるOJTの在り方として、新入社員時代の3ケ月にご指導を受けたスタイルが理想だと思っている。現場で得られた経験知と形式知を整理し伝承する使命が先輩技術者にはあると思う。勉強は自分でやるものだ、という考え方は正しいが、経験知はOJTでしか伝えることができない。

 

指導社員は先端のレオロジーの形式知に裏打ちされた豊富な経験知を持っておられた。しかし、電卓でレオロジーモデルを解析できる一流の形式知を持ちながらも現場主義の考え方のため研究所で評価されていなかった。樹脂補強ゴムは大手自動車メーカーの防振ゴムとして採用されているので大きな成果だと思われるが、このような成果をそのほかにもいくつか出していながらも課長格で退職している。

 

そのようなキャリアのため、ゴムに関し全く無知の小生に同情され毎日座学をしてくれたのだと思う。マンツーマンの座学で居眠りをしていても決して叱らなかった。しかし、時々現場で質問をして答えられないと、「これ先ほど話したばかりだが」といじられた。このようなことがあっても何故か腐る気持ちは起きなかった。それはいつも指導社員が経験知の伝承に真剣だったからである。

 

知識には、現場でなければ伝えられないカテゴリーも存在する。自然現象のすべてを未だ科学で説明できていないためだが、このようなカテゴリーの知識ではOJT以外に伝える方法が無い。OJTがうまくいっていない会社経営者はご相談ください。

カテゴリー : 一般 高分子

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2018.06/17 知識(7)

形式知で考えれば、PPSと6ナイロンが相溶する現象はフローリーハギンズ理論から否定される。

 

しかし、フローリー・ハギンズ理論では説明できないフェノール樹脂とポリエチルシリケートとの相溶や、ポリオレフィンとポリスチレンの相溶など自ら実験を行ってきたので、いくつか経験知が身についていた。

 

経験知から想像すると、条件さえ整えばPPSと6ナイロンが相溶してもよいことになる。これがもし起きたならどうなるか。相溶は結晶相で起きないことが形式知から理解できていた。

 

相溶は非晶質相だけで起きる。PPSは結晶化しやすい樹脂であり、おまけに押出工程における伸長流動がそれを促進する。ゆえに結晶化しやすいPPS材料の押出では、結晶化して弾性率が上がったベルトが振動するため工場内に金属音が響くことになる。

 

工程を見学していた時には、身に着けた知識で説明できる現象だけ起きていたのだが、製品試作作業終了後の押出速度を早くしてPPS樹脂を押出機から排出する洗浄作業により、形式知では説明できない現象が引き起こされた。

 

すなわち、押し出されたベルトから発せられる金属音が鈍い音に変化したのがそれで、その時目の前で押し出されているベルトから発せられた音の変化から結晶化が起きていないことが想像され、一方で押出速度を速めて伸長流動が大きくなって、結晶化が起きやすい状況でその矛盾した現象が起きていた。

 

これは形式知により説明できない。しかし、経験知とそれにぶら下がっていた暗黙知から、カオス混合(伸長流動と剪断流動の組み合わせ)によりPPSと6ナイロンが相溶し、結晶化しなくなった、と合理的に説明できる。

 

科学的に考えると矛盾するありえない現象であっても、経験知と暗黙知からは十分に説明できる現象であれば、それを信じることができるのは技術者である。余談になるが、STAP細胞の失敗は、形式知では説明できない現象を科学の世界で考えようとしたところにある。技術の世界で機能に着目していたならあのような不幸な事件にならなかった。

 

科学者は現象から真理を導き出そうとするので、形式知で矛盾する現象を受け入れることが難しくなる。しかし技術者は目の前で起きている現象から機能を取り出すのが仕事なので、その現象が形式知で説明できるかどうかは重要ではなく、うまく機能を取り出せるかどうかに関心が向く。

 

例えばこうだ。押出速度が早くなって不思議な現象が起きたのだから、金型にカオス混合を発生させる仕掛けがある、という暗黙知からのヒントがもらえて、すぐに案内をしてくれた課長にベルトの熱分析を依頼するとともに金型の構造をチェックするという「現象に潜む機能を探す」動作に結びついてゆく。

 

ややパワハラ気味ではあったが、力で仕事を加速させ、命じた30分後にはDSCのデータが出てきて、当方の金型の理解もでき、暗黙知が具体化されて新たな経験知がその日のうちに生まれるとともにカオス混合装置の青写真も頭の中に完成した。

 

翌日は、東京に帰ることをやめ、清掃作業の時の押出速度でベルトを押し出してもらい、それを粉砕し、再度ベルトの押出成形をしてもらった。

 

驚くべきことに周方向で測定した電気抵抗の分布が安定し、品質規格に合格したベルトの歩留まりがほぼ100%となった。単身赴任前に成功が約束された瞬間である。

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2018.06/16 チコちゃんに叱られる

知恵は情報を知識に変えるために身に着けていなければならない機能だ。人間として生きている以上皆知恵を備えている。ただ、知恵がうまく働いていない人が多いのか、「チコちゃんのボーっと生きてんじゃないよ」というNHKの番組が好評である。

 

またこの番組に対するNHKの力の入れようもすごい。金曜日20時からと土曜日8時15分の二回も同じ内容で放送している。恐らく番組にお金がかかっているのだろう。残念なのは女子アナの知恵が少しうまく機能していない。

 

この番組は、最近流行の知識情報番組の一つだが、池上司会の番組よりわかりやすく面白い。この番組は、わかりやすく、という視点が強く働くと、やや偏った説明になる、ということを学ぶのに良い番組だ。すなわち、知識をここまで分かりやすい情報に変えると偏見になる、そこの面白さを笑う番組である。

 

女子アナに知恵があるならば、視聴者にそれを伝えるときに棒読みではなく、すこし機転をきかした説明になると、この番組はもっと笑える教養番組となる。また、かような番組なので、情報や知識、そして知恵とは何かを考えるには良い番組だ。

 

池上司会の知識情報番組は、その内容が偏見で組み立てられていたとしてもそこが見えにくい点が問題である。換言すれば池上思想に洗脳される危うさを番組が持っている。注意して聞いていないと誤った知識を自己の中に形成する恐れがある。

 

知恵を磨く方法の一つに情報を鵜呑みせず自分の言葉で整理する方法がある。「チコちゃんーー」という番組のよく考えられている点は司会者を5歳の女の子に設定している点である。

 

視聴者にチコちゃんの知識をそのまま鵜呑みにするな、あるいは五歳の女の子ならば許される、という言い訳になっている。もう少し工夫がほしいのは女子アナの補足説明である。あまりにもNHK的でやや違和感がある。そこを面白さとして狙っているならば、視聴者をバカにしている。

 

この女子アナを今以上にうまく活用すれば、この番組は知恵を磨ける教養娯楽番組という新しいジャンルを切り開くと思う。今の番組内容は、月並みの情報娯楽番組であり、ややもったいない。ただし、自分が女子アナならどのように補足をするのか考えてみていると知恵を磨くことができるが、それでは土曜朝の番組としては疲れる。

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2018.06/15 知識(6)

カオス混合装置の開発経緯について活動報告で書いているが、一番の決め手になったのは、単身赴任前に自分で担当することになる中間転写ベルトの押出工程を見学した時の出来事である。

 

この見学の時に、半年後に生産フェーズに入るため配合処方を変えてはいけないことを事前に聞いていた。そのためPPS/6ナイロン/カーボンの単純な処方以外の改良でベルトの面内抵抗を安定にしなければいけない極めて難しい、形式知だけで考えればほとんどゴールの実現が不可能なテーマであることを理解していた。

 

当時の研究部門の管理者は、全員この仕事が失敗すると判断しており、研究所が担当していたベルトの表面処理技術開発に戦力がさかれていなかった。

 

ちょうど窓際の立場だったので時間は豊富にあり、事前に自分が持っている経験知と世間で知られていた形式知を十分に整理できていた。その結果、暗黙知も経験知にいくつかぶら下がるような形で頭の中で蠢いていた。

 

たまたま押出工程を見学していて、現場の作業が終了になり片付け作業に移った時である。工場の騒音のトーンが金属音から鈍い音に変わった。この瞬間暗黙知がいくつか経験知と結びつき、この今耳にした現象をすべて経験知で説明できる状態に知恵が機能した。

 

早い話が、PPSと6ナイロンを相溶させる方法がひらめいたのである。すぐに、生産で使っていた金型の図面を用意してもらい、金型清掃作業中にひらめいたことを具体的に確認していった。

カテゴリー : 一般 高分子

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