科学的な推論の進め方には向きがあり、仮説に対応して推論を結論に向けて進める前向きの進め方と、結論から推論を展開する逆向きの進め方がある。
そして両方向で成立すれば必要十分条件となる話は、高校の数学で学習する。風が吹くと桶屋が儲かる、というのは、前向きの推論の問題が見え隠れするので面白い。
風が吹いたときに発生する現象は、ゴミをまき散らすだけではない。洗濯が速く乾いたり、着衣に風がまとわりついて歩きにくかったり、さまざまである。
本来この風が吹くことにより発生するそれぞれの現象について検証をしながら、次の議論を進めなければいけない。それが科学的な推論の展開方法である。
しかし、風が吹くと、の話はそのような厳密な展開がとられていないために、風が吹いて本当に桶屋が儲かるのか保証されない。また、仮に保証されたとしても桶屋が儲かるのは、いくつもの事象の中の一つの結論であり、それが「風が吹いたときに」いつも成立すると保証されないどころか、この話において風が吹いたときに起きる現象について全てを網羅し考察することは至難の技である。
ところが、結論である桶屋が儲かっているかどうかという事象や、風呂桶がネズミにかじられて故障している現象が多いかどうかは、調査すればすぐにわかる。さらに、結論となる事象から逆向きに推論を進めると、結論につながる一つの推論の道筋だけを確認することになるが、それだけで結論に確実につながる一つの推論を示すことが可能となる。
このように、結論から逆向きの推論を進める方法、すなわち全体が十分条件であることを示す方法は、必要条件を述べる前向きの推論よりも圧倒的に効率が良い。
技術開発も同様で、市場で要求されている機能とその機能を実現する方法を考案し、プロトタイプを創りそれをまず市場でテストする手法は従来の技術開発の進め方を革新する。
ゴム会社のU取締役は、「女学生より甘い」なる迷言も残されているが、「まずモノもってこい」という一喝はアジャイル開発を命じた名言である。この一喝により、SiCるつぼやダミーウェハー、SiCヒーター、SiCターボチャージャー、SiC切削チップなどが、試作され市場調査が可能となった。
高純度SiCの粉を持って社外のメーカーにお願いし、製造設備を借りながら試作実験を進めた苦労は楽しい思い出として今でも夢に出てくる。滋賀県の某メーカーの現場で出されたお弁当で腹痛を起こし苦しんだこともあったが、O157でなくてよかった。食事前は必ず手をあらいましょう。
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情報化時代となり、IOTが進行して、その結果得られるビッグデータがもてはやされている。このビッグデータの時代では、意外にも科学の方法ではなく、風が吹けば桶屋が儲かる式の議論が重要になってくる。すなわち、科学の時代に知らず知らずに技術の方法が復活しつつある。また、技術の方法でなければビッグデータを迅速に生かすことができない。
ビッグデータによる現象理解では、「結論からお迎え」式の逆向きの推論が前向きの推論よりも大切になってくる。この推論の向きについて、科学では、前向きに進めるのがお決まりである。そしてそれが必要十分な条件であることを言いたいときに逆向きの推論も行うと高校数学で習う。
ビッグデータの解析がどのように行われているか桶屋の事例で示す。桶屋が儲かっているというデータの傾向が明らかになると、どうして桶屋が儲かっているのか調べる。IOTにより、ふろおけの故障モードの情報が得られているのでそれを見ると、ネズミにかじられて穴ができたという故障が多かった。
ふろおけのクレーム件数の伸びとネズミの数の年次変化のグラフを見比べると相関がありそうだ。どうしてネズミが増えたのか知るために猫の統計情報を眺めると、野良猫が減ってきている。猫の革の用途の一つ、三味線の売り上げ情報と野良猫の減少傾向とは妙な関係があり、どうも三味線の生産が増えたことにより、猫が乱獲されたのだとデータベースで結論を出す。
盲人は三味線を弾くので盲人が増えていないか調べてみると、視力の悪い人が増加しているデータがあった。さらに最近は竜巻などの異常気象の日が多くなったので、風がまき散らすごみで目を傷める人が増えても不思議ではない。
桶屋が儲かっている、という市場情報から逆向きに推論を進め、風が吹くと桶屋が儲かるという一つの法則が見つかった。これが今行われているビッグデータを用いた解析の事例である。ただしこれは架空の事例であることをお断りしておく。今の時代、三味線の生産台数が特に増えているわけではない。ギターは団塊の世代のおかげで少し増加傾向であるがーーー
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電気粘性流体の増粘問題の解決法を検討するときに多数の界面活性剤を集めていた。また、その材料のカタログも入手していた。そこでカタログ数値をマトリックスで整理して、多変量解析にかけた。
昨今のビッグデータの扱いと同様の方法である。すなわち、各特性値の関係について科学的な考察を行うのではなく、ブラックボックスとして扱い、統計的なつながりをよりどころにして各データ間の関係について考察を行うのである。
このようなデータの取り扱い方法により、データを考察するときに先入観が入るのを防ぎ、純粋にデータのつながりと変化の関係について情報を取り出すことが可能になる(科学の仮説も、先入観の一つともいえる)。
ビッグデータがもてはやされているのは、このようなデータの扱いで、人間が思いも及ばなかった相関を発見できる可能性があり、その相関関係を考察することにより新たな真実を生み出すことができるからだ。
ただこの時注意しなくてはいけないのは、ビッグデータの集団が変化すれば、過去に見いだされた真実が容易にひっくり返る可能性がある、ということだ。科学の世界で見いだされた絶対的な真実は科学で議論している限りその確実性は保証されている。これは科学で技術開発を行うときに便利な科学という哲学の特徴である。
界面活性剤のカタログデータを主成分分析したところ、第一主成分にはHLB値が現れた。これは界面活性剤の定義から当然の結果だったが、それでも15%ほど他の特性値の寄与が第一主成分に含まれてきた。
そこで第二主成分を見たところ、HLB値が10%ほど寄与していたが、2種ほどの組み合わせで70%以上の寄与をする特性値が見つかった。そこで第一主成分と第二主成分でサンプルデータをプロットしたところ、この平面に8つほどの群を作りデータが分布した。
驚くべきことに、同一HLB値でも第二主成分の意味づけを考慮すると界面活性効果が異なる可能性のある群も存在している。さらに、増粘した電気粘性流体の問題解決に寄与しそうな界面活性剤は、そのようなある群に集まっていた。
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フィルムのインピーダンス評価を行うのに電気の知識はあれば便利という程度である。すでに当時販売されていたインピーダンス測定装置にはフィルム用電極が用意されていただけでなく、自動計測が可能だった。GP-IBでパソコンにつないでやれば、計測データを簡単にパソコンへ取り込むことができた。
さらに、N88BASICにはGP-IBがサポートされていたので、プログラムも簡単にできた。今どきの技術者は分野に関わらず、計測制御のプログラムぐらいはすぐに作れるようにしたい。当時と比べ今はC#がUSBなどをファイルとしてサポートしているので切った、はったでプログラムができてしまう。
ところでフィルムのインピーダンスを計測してどうしたか。ここでも頭など使わない。他の計測データとインピーダンスの測定値をコンピュータに放り込んで多変量解析しただけである。測定器から吐き出された訳の分からないデータでも訳の分かっているデータとの相関がみえると、そこから理解が進む。
データの整理ができて、パーコレーションの評価ができるようになったところで、CTOからインピーダンス評価法について質問が飛んできた。科学を重視している会社ではこうなる。頭を使っていないから質問にすぐ答えることなどできない。
すぐに電気化学に詳しい先生のところへ相談に行った。そしたら、客員教授を依頼された。客員教授になって学生を指導しながら質問の答えについて研究してみたらと言われた。これは運がよかったと思っている。研究成果はカナダで開催された国際写真学会で報告した。このように科学の研究は大学で行えば早く結論を出せる。
科学よりも技術が先行した場合には、アカデミアでもすぐに回答を出せない。このとき、現象をブラックボックスとして扱っているのが問題だというのは科学の視点である。ブラックボックスの中を見える化する必要があるならば、産学連携で研究を行えばよい。
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(9/9続き)酸化スズゾルには帯電防止層を設計できるだけの導電性があるが、超微粒子で水に分散しているため、何も工夫しなければパーコレーション転移が起きにくい。酸化スズゾルを用いて帯電防止層を製造するためには、パーコレーション転移を起きやすくする技術とパーコレーション転移の閾値を評価する技術が必要になる。
技術開発において、機能がうまく動作するかどうか評価する技術は重要で、基盤技術が整備されている企業では、常にそのメンテナンスが行われている。ゴム会社はその典型で、アカデミアよりも評価解析技術のレベルは高かった。しかし写真会社は特公昭35-6616の例が示すように技術の継続性すら無い会社であり、既存商品の品質評価ができる程度だった。原因は20年勤務して十分理解できた。
さて、十分な評価技術が無い会社では、評価技術開発のオブジェクトが新しい技術の開発で重要となってくる。新しい機能がうまく動作するかどうかは、それを評価できる技術が無かったら確認できないからである。故田口先生も基本機能とそれを評価する技術の研究が大切である、と述べられていた。
フィルムの帯電防止技術は写真会社の基盤技術のはずだったが、評価装置の大半が倉庫に眠っていて、表面比抵抗測定器と電荷減衰計測装置が使われている程度だった。パーコレーションを評価できそうな装置を探したが無かった。帯電について書かれた教科書にもあたったが、使えそうな評価方法は書かれていなかった。
奇妙に思ったのは、評価装置のすべてが、放電現象を直流に見立てて作られていることだ。電気には交流と直流があり、なぜ交流的な放電を前提にした評価装置が無いのか疑問に思った。
このような疑問は考えているよりも実際にフィルムのインピーダンスを計測すればよい。そこでフィルムのインピーダンスを測定したところ、パーコレーション転移の閾値と低周波数領域のインピーダンスが関係していることなど様々なことがわかった。疑問に思ったことは、すぐにアクションをおこし解決することは大切である。
実験も重要だが調査も重要なアクションの一つである。ところが何故と考える前にアクションを起こせる技術者が少ない。アクションの内容は疑問と開発のゴールで決まってくる。この時頭をあまり使わないという意味で技術者は体育会系である。
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本のマーケットが縮小する中、一部雑誌は元気が良い。しかし、感心するのは、大変良いタイミングで撮られた写真が多いと言うことだ。
それだけでなく絶妙のタイミングでズドーンと発表する週刊誌もある。散髪の待ち時間に週刊誌を読んでいるが、ゴシップ記事の中には、たとえそれが事実であったとしてもつまらない記事や社会的影響のないものがある。
一方で仮に事実で無かったとしても社会に影響を及ぼす効果的な記事を連発している週刊誌もあり、世間ではそれを文春砲と呼んでいる。
しかし、今回の山尾志桜里議員の記事については、そのタイミングや記事に載せられた写真に、これまでの文春砲と比較すると幾つか不自然なところが存在している。
記事の内容がどこまで真実かどうかは知らないが、写真が大変うまく撮られているのだ。すなわち、あたかも必ずそこに被写体が現れる、という確信の元に写真が撮られていると言って良い。
写真はいかにも隠し撮りのように写されているが、ピントは確かであり、単にカメラの性能が良かっただけでは説明のつかないショットまである。
すなわち、一連の写真を見ると、一週間の行動情報がすべて分かっていたのではないかと疑われる。山尾志桜里議員についてはガソリン代請求やその他の問題が報じられている。
今回のスキャンダルが無くても国民の代表としての資質に欠けると思われるので弁護をするつもりは無いが、この記事の発表から今日まで写真だけでなくどこか不自然さがある。
実は技術開発に成功するためのコツの一つに、現象を流れとして捉え、その流れの中で機能として不自然さが無いのかよく観察する手法がある。
QC手法では、ストップウオッチ片手に工程観察をしている挿絵が出ていたりする。ポイントとして眺めていると問題に気がつかないが、全体の流れとして眺めたときに違和感を感じその問題発見につながる。
例えば、PPS中間転写ベルトの押出プロセス開発では、生産開始から終了まで一日眺めていて、歩留まりを大幅に改良する発明のヒントが出てきている。工場内の騒音の変化がそのきっかけだったのだが、之については後日この欄で詳細を書く。
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写真会社に転職して、酸化スズゾルは帯電防止層に使えない、という否定証明の報告書を読みびっくりした。科学的推論に基づき見事に帯電防止層の材料として酸化スズゾルは使えないとされていた。
発見の経緯は省略するが、この会社で当時から30年ほど前に出願された特公昭35-6616には酸化スズゾルの合成法から帯電防止層を製造する技術まで書かれていた。科学的に書かれた報告書とこの特許の内容とは見かけ上矛盾している。
導電性微粒子を絶縁体のバインダーに分散して導電層を形成するときにパーコレーション転移という現象が生じる。ところが当時のこの分野の材料設計手法では、混合則が使われており、パーコレーションの考え方は普及していなかった。
新入社員時代に指導社員からパーコレーションの理論について概略を聞いていただけでなく、電気粘性流体の開発ではまさにクラスターの生成を考察しなければいけなかったので、パーコレーションという現象についてそれなりの経験知と形式知を持っていた。
とりあえず目の前の矛盾に結論を出すためにパーコレーションをシミュレートするプログラムを開発した。このプログラム開発というアクションは、「報告書と特許が矛盾している」のではなく、「パーコレーションという現象のために見かけ上矛盾したような結果になっている」ことを示すためだった。
シミュレーションプログラムを用いて報告書に書かれたデータを入力し、酸化スズゾルの導電性を見積もったところ1000Ωcm程度の導電性があり、それがパーコレーション転移を起こしにくい条件で帯電防止層が製造されていたために導電性が無いとの結論になっていたことがわかった。
すなわち、特許と否定証明の報告書は矛盾したものではなく、後者の報告書に書かれたデータを混合則という形式知ではなく、パーコレーションの概念を取り入れて整理したならば、特許と矛盾しない結論を出すことができたと思われる。
科学という形式知は、その進歩を見落としているとこのような問題を引き起こす。ちなみにパーコレーションについては1960年頃に数学者の間で議論が始まり、1980年代にフラクタルの議論に進展している。理論としてわかりやすい日本語の教科書が販売されたのは、1980年末になってからである。
ゴム会社で出会った指導社員は数学に秀でた方で詳しかった。しかし、高分子に微粒子を分散したときの議論にパーコレーションが登場したのは1990年前後である。当方が講演で話し始めたときもその頃で、それまでは古くから用いられてきた混合則による議論で現象の結論が見いだされていた。
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電気粘性流体の増粘の問題を研究したメンバーは、構造が明確な界面活性剤をHLB値のすべての領域で集め、分子構造との関係も議論したにも関わらず、なぜ問題を解けなかったのか。その原因はサンプルの集め方にある。すべての領域のHLB値について集められたからといっても、その条件で界面活性剤のすべてが集められたことにはならないからである。
科学の議論で現象を述べる時に、現象を代表するサンプル群は重要であり、そのサンプル群を定義するパラメーターの客観性と普遍性、汎用性が問題となる。そしてサンプル群が誤差として広がりを持っているならば、その広がりを定義できるパラメーターまで記述できなければいけない。
しかし、技術では、それらのパラメーターが仮に不明であったとしても、界面活性剤が機能し十分なロバストを確保できるだけで良い。界面活性剤の分子構造や純度その他の特性がブラックボックス化されていても、安定な機能さえ得られれば良いのである。仮に安定な機能に制約があったとしても、市場で用いたときに、その制約条件が無関係であれば、実用化できるのである。
また、技術はそのようにして科学成立前には発展してきたのである。科学と技術を結び付けて技術開発を行ったのは産業革命以降で20世紀後半になってその結びつきは強くなった。19世紀以前には仮に科学が存在しても科学を無視した技術も多く開発されている。また当方は意図的に科学を無視して技術開発することもしばしばある。
当方がこの界面活性剤の問題を解決するにあたり、界面活性効果のありそうな材料、すなわち水や油に添加するとその表面張力を変化させる可能性のある材料を片っ端から無作為に集めた。集められた材料には界面活性剤と呼ばれていないものや、界面活性剤と呼ばれていても構造や組成が不詳の怪しい材料も含まれていた。
すなわち、およそ科学の研究では対象として選ばれない界面活性剤も含めて検討したのである。そのため、見つかった界面活性剤は、HLB値こそカタログに載っていたが、分析すると多成分の混合物で、何が効いているのか分からない状態だった。もっとも効果の高かった材料が問題解決用に採用されたのだが、効果は若干落ちるが実用性のある材料もいくつか見つかった。その結果を見ると、検討した界面活性剤よりもまだ効果の高い材料の存在が期待された。
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科学の方法で、界面活性剤が関わる問題を解くときにHLB値というパラメータが使われる。このHLB値とは、界面活性剤が親水基と疎水基と呼ばれる構造をもった分子であると仮定し、その比率を表している値である。
この時、問題となる現象を表す特性値を縦軸にして、HLB値を横軸にとり、その相関を考察し、界面活性剤の特徴が現象をどのように制御しているのか論じたりする。
そもそも界面活性剤とは、親水基と疎水基を持った分子の総称なので、この議論をすべての領域のHLB値で行えば、すべてのHLB値の界面活性剤で議論したことになる、と勘違いする。
これは同じHLB値でも異なる界面活性効果を持つ界面活性剤が存在した場合の条件を見落としている。ところが、教科書にはこのことが書かれていないし、公開されている2000年までの論文でも、この点を扱った研究は極めて少ない。さらに大学の先生の中にはこのことを御存じない方もいらっしゃる。
仮にこのことを心配し、化学構造が明確に分かっている界面活性剤を集めてきて、HLB値の議論を進めたとしても、得られた結果は、界面活性剤のHLB値というパラメーターについて現象を議論したに過ぎない。電気粘性流体の増粘問題を研究したメンバーもさすがにこの点も心配し、HLB値以外の特性についても収集した界面活性剤について、実験を行い、問題となる現象との関係を調べている。
科学的に厳密にHLB値以外のパラメーターについて配慮したにもかかわらず、なぜ問題解決できる界面活性剤を見つけられなかったのか。その原因は、研究するために集められた界面活性剤のサンプル群に問題がある。研究における議論を厳密にできるように、構造が既知の界面活性剤だけを集めたからである。その結果、当方が見つけた問題解決可能な界面活性剤の群を見落としたのである。
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電気粘性流体の増粘問題を解決するためにせっかく住友金属工業とスタートしたばかりのJVを止めたくなかった。さらに電気粘性流体の増粘問題を界面活性剤で解決できないので、添加剤の入っていないゴムを開発するという発想は技術者の経験知から判断してばかげている、と思った。
本当にこの問題を解決できないのか確認するために、手当たり次第に界面活性剤を集め、それを増粘した電気粘性流体に入れて確認した。具体的には300を超えるサンプル瓶に増粘した電気粘性流体と界面活性剤を混ぜて一晩放置しただけである。翌朝サンプル瓶を眺めたところ、一つ完全に粘度が下がっているものがあった。また、いくつかヘドロ状態から粘度が改善されているものも見つかった。
ところで、この実験の発想は、ゴムから配合剤がしみだして増粘した電気粘性流体の問題が解決された状態を想像して得たアイデアである。さらに、このような問題が解決できるとしたら界面活性剤を用いる以外に方法が無い、と経験知から判断したのである。
これは、問題解決のゴールを経験知から想像し、そこで界面活性剤が機能している状態を最初に確認しようとした行動である。
科学の視点ではこのような仕事の進め方をしない。素性の明らかな界面活性剤を添加して電気粘性流体を製造し、それを耐久試験にかけて得られた状態を考察する、という手順になる。この方法のどこが悪いのか。結果が出るまでに時間がかかるだけでなく、仮説により界面活性剤の種類を絞り込む作業が行われ、ゴールに到達する道筋を少なくすることになる。
いわゆる、仮説を確認するための実験を行う、ということだ。この方法では、仮説が正しければ必ずゴールに到達し、ゴールに到達しなければ仮説が間違っている、と判断を進めるが、これは科学では、仮説が真であれば、いかなる場合にも真にならなければいけない、というルールに基づいている。
しかし、技術では、仮に仮説の範囲で機能しない特異点があっても、それ以外の仮説条件の下でロバストが高く機能するならば、実用化できる。科学の実験では、機能しないという結果は、仮説を否定していると見なされる。
すなわち仮説の範囲に真とならない現象が存在したときに科学では偽と判断するので、前向きの推論で進める科学の方法では、技術では有効な解決手段(想定したゴール)を棄却する場合がある。
論文を書くためであれば、ゴールが存在しないときに否定証明を論じればよいが、技術開発では機能するゴールを開発しなければいけない。否定証明に陥るのを防ぐためには、ゴールである「機能している状態」から逆向きの推論を進めたほうがよい。
余談になるが、iPS細胞のヤマナカファクター発見もこの当方の実験に似ており、24個の遺伝子を細胞に取り込ませる実験を行っている。そしてこの非科学的方法で結果が出るや否や、これまた非科学的なあみだくじ方式で4個の組み合わせを見出している。ノーベル賞を受賞するような仕事でも非科学的方法が用いられているのだ。
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