シリカをコアにしたコアシェルラテックスの発明は、硬くても脆くないゼラチンの究極の技術とみなされ、この技術に追従する開発がすぐに業界で活発に行われた。
このような場合に技術を開発した会社が特許戦略に詳しくない会社ならばよいが、このコアシェルラテックスを最初に開発した会社は業界トップの会社で特許戦略に長けており、追従開発は、至難の道だった。
ちょうど転職したころがこのような状況で、担当者が苦労して開発している姿を見てかわいそうだと思った。当方ならさっさとあきらめて他の技術を探す。高分子材料技術では、大抵の場合に同じカテゴリーでなくても異なるカテゴリーのアイデアで同様の力学物性を達成可能だからだ。
すなわち少なくともABC3つの複合化カテゴリーがある。さらにコアシェルラテックスを用いたゼラチンの高次構造は、シリカの周りにラテックスが必ず存在し、その周りにゼラチンが海となっている構造で、シリカが直接ゼラチンを補強しているわけではない。
シリカが直接ゼラチンを補強し、そのもろさをラテックスが改善しているような構造はライバルの特許に含まれない。この内容を最初に話したときに、その構造ならば旧来の技術と同じで何も改善されない、とすぐに担当者から否定された。これは科学という哲学に毒された若者の典型的な意見だった。
科学は技術開発を行う上で重要な哲学である。しかし、科学に囚われない自由な発想はもっと大切である。その発想から生まれたアイデアが実現可能かどうかは、科学で完璧な証明は難しいが否定証明は容易である。ゆえにしばしば自由な発想のアイデアは否定されることになる。
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靱性の低い(脆い)高分子としてゼラチンがある。このゼラチンの脆さを改善するために柔らかいラテックスと複合化する技術が写真フィルムのバインダー技術として開発された。
面白いのはラテックスの種類により、脆さの改善具合が変わるのである。そこでゼラチンを保護コロイドに用いたゼラチンラテックスという材料まで開発された。この材料技術ではラテックスの組成の範囲が広がったので、複合化においてラテックスとゼラチンの界面の性質が重要であることがわかる。
ゼラチンとラテックスの複合化で問題になったのは、この両者の界面だけではなく、現像処理時にゼラチンが水で膨潤し弾性率低下が起き、ラテックスの柔らかさが傷のつきやすさと考えられたことだ。
この考え方が正しいかどうか知らないが、とにかくゼラチンを硬くしたいというニーズが生まれ、シリカゾルの添加という技術手段が考え出された。ところがシリカゾルを添加したところ、せっかくラテックスと複合化して高靱性化したゼラチンの靱性が下がってしまった。
その結果、ラテックスとシリカゾルの添加量のバランスをとりながら、硬くて脆くないゼラチンの開発が進められた。このような技術開発は、すぐに限界が見えてきて、シリカをコアにしてラテックスでシリカの周りを覆ったコアシェルラテックスをゼラチンに添加する技術が開発された。
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靱性とは、材料の脆さを表す指標であり、線形破壊力学ではK1cという値で表現される。高分子材料の靱性は、金属同様に高いものから低いものまで幅広い。セラミックスは、部分安定化ジルコニアや、繊維補強セラミックス程度までである。
靱性が低い高分子材料の物性を改善する方法として複合化があり、他の高分子と複合化する方法はポリマーブレンド(B)、他の材料と複合化した場合にはコンポジット(C)と呼ばれれている。またポリマーブレンドにおいて二種の高分子が相溶したものはポリマーアロイ(A)と呼ばれている。
高分子ABC研究会というのがあって何をやっているのか覗いたら、複合材料の研究会だった。この研究会では、とにかく混ぜ物をした高分子について討論しており、初めて参加した人には、あまりにも扱う範囲が広いので戸惑う。
しかし慣れると高分子を学ぶために大変有益な研究会だとわかってくる。なぜなら、高分子はABCとして使われている事例が圧倒的に多いからだ。だからこのような一見ごった煮の様な研究会は重要である。
高分子の靱性をあげる方法は、と問われたら複合化と答えれば間違いではないが、実際にはその答えだけでは不十分で、ABCの中からまずひとつ選び、選んだ中で最適化を行うことになる。
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一次構造が異なる二種類の高分子AとBをブレンドすると大半は島が海に浮かんでいるような、あるいはサラミソーセージのような海島構造となる。このときどちらが島になるのかは、比率で変化するが、添加割合が少なくても海になる場合もあり複雑である。
この時、AとBの構造を有する分子を添加すると両者がよく混ざり合って島が無くなり均一になる場合がある。このとき高分子は相容した、と表現され、AとBの二種類の構造を持った材料を相容化剤と呼んでいる。
このあたりの現象は、水と油の二相分離しているところに界面活性剤を添加し、エマルジョンとする操作と類似している。材料科学を考えるときに、異なる分野の現象で類似しているような操作方法と対応させて眺めると面白いだけでなくアイデアも出やすい。
すなわち高分子材料を考えるときに、界面活性剤の科学も一緒に勉強しておくとその見方が少し広くなる。
当方は写真会社に入社して高分子科学を真剣に勉強したが、その時に役だったのがセラミックスで泥しょうを設計する技術だった。豊富な界面活性剤に関する経験と知識で高分子材料の理解が容易となったのは、高分子材料は単品で実用化されることはなく、必ずブレンド物として実用に提供されるからと思っている。
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界面活性剤について、1970年代の教科書に不適切な記載がある。それは、その定義であり大変狭い。実は分子内の構造に親水性の部分と親油性の部分の二つが存在すると、どのような分子でも界面活性剤として利用しうる。用途によっては効果が低いだけだ。
当方がゴム会社を転職するきっかけとなった事件は、ゴムからの抽出物で電気粘性流体の粘度が増粘する問題を界面活性剤を用いて解決してから起きている。そしてその解決方法について、界面活性剤を用いて、という言い回しは禁句とされ、第三成分と呼ぶように指導された。
今から考えるとばかげた話だが、これは、電気粘性流体の増粘問題を界面活性剤で解決できない、という結論の報告書が出されたばかりだったからだ。すなわち界面活性剤で解決できない、と結論した直後に、その手段で解決できた、とは報告しにくかったからだろうと思う。
1991年の転職間際にこの否定証明の典型的な事例ともいえる報告書を記念に読んでみたが、科学的方法で忠実に研究が進められその考察も大変レベルの高い内容だった。当方が手持ちの200種類以上の材料を増粘した電気粘性流体に放り込んで一晩放置し、粘度を下げることができた化合物を発見した方法に比較すると天と地の差がある。
ただ、当方は界面活性剤の科学について危うい側面が存在することを知っていたので、界面活性剤として機能しうる化合物を常にコレクションとして持っていた。持っていた理由は、セラミックスの泥しょう開発に界面活性剤が欠かせなかったからである。当時はこのようなノウハウを集めていたセラミックス分野のプロフェッショナルだった。
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界面活性剤は、油に溶けやすい構造(親油基)と水に溶けやすい構造(親水基)とを一個の分子内に有する構造の分子である。そしてその構造の比をHLB値と呼び、それぞれの用途で必要となる界面活性剤を選択するときの指標となっている。
ただし界面活性剤の指標はHLB値だけでは無い。水に界面活性剤を分散したものを加熱していったときに曇ってくる温度、すなわち曇点も界面活性剤選択の上で重要な指標となる場合がある。
界面活性剤は、身近の例では石鹸や洗剤などの形態で見ることができる。界面活性剤がいつ頃から使用されてきたのか歴史的には諸説あるが、界面活性剤として呼ばれるようになったのは、少なくとも20世紀になってからではないか?
そのはるか昔、油脂を石鹸代わりに使用していた痕跡が見つかっているので、紀元前から使用されていた可能性もある。ただ、テルマエロマエでは石鹸を使用している光景は現代へワープした後だった。
いつ頃から使われるようになったのか当方は知らないが、その科学的知識が明確に確立された、すなわち教科書に書かれている内容にばらつきが無くなったのは、つい最近の20世紀末である。
界面の科学は、意外と遅れていたのである。これは恐らく界面活性剤の利用技術が先行しており、その科学的知識の整理が遅れたためだろうと思う。すなわち技術が先行すると科学ですべて解明されているような気分になり、科学の問題設定が難しくなる。
例えばシリカゾルをミセルに用いたラテックス重合技術は1996年に実用化されたが、ある科学雑誌にイギリスの研究者から同様のコンセプトの論文が2000年に発表され、そこには世界初と書かれていた。
その論文に書かれた内容が世界初であれば、当方らの技術開発が本当の世界初であり、慌てて学会発表を行った。学会発表が遅れた理由は、ゾルをミセルに用いる研究はすでに誰かが発表していると勘違いしたからである。
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高分子の力学物性は、高分子の高次構造に影響を受ける。ここで高分子の構造について簡単に説明すると、高分子が一本の紐で表現できるとしたときに、その一本の紐の構造を一次構造と呼ぶ。
DNAは二本の紐状の分子の絡み合いでできているので、これを二次構造と呼ぶ場合もあるが、一般的ではない。一次構造の上はすぐに高次構造となる。だから高分子の高次構造といった場合にそのスケール範囲は広い。
10年以上前に分子一本の粘弾性測定が成功し、バルクで測定された結果と同様だった、とされているが、このそっくり具合は、双子のそれとは異なり、日本人のそっくりさんをアメリカ人の中から探し出して見つけた人程度のそっくり具合だと思う。
かつてゴム会社の指導社員は、高分子の力学物性は、高次構造の影響を受けばらつくからよくその構造に注意するように、と指導してくれた。例えば引張強度は、ある一定のサイズの欠陥が存在すると低い値となる。弾性率が密度に影響を受けるので自由体積の量によっても影響を受ける。だから、高次構造の影響を引張強度は受けることになる。
ところで引張強度は、経験的に靱性と弾性率の関数として表現できる、と教えられた。複合材料の教科書にもそのようなことが書かれていた。しかし、最近の高分子の教科書を本屋で立ち読みしてもそのようなことを書いた本が見当たらない。
引張強度が靱性と弾性率の関数になるという経験則は大切である。弾性率が高い高分子でも引張強度が低い樹脂が存在したり、弾性率が低い高分子で引張強度が大きなゴムが存在する理由をうまく説明できる。
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高分子のガラス転移点で困るのは、熱分析の方法で1℃から多いときには10℃ぐらいまで異なる値になることだ。例えばDSCで求めたTgと粘弾性装置で求めたTgとは5℃以上異なる。
だからガラス転移点が問題になるときには、どのような方法で測定したガラス転移点なのか確認する必要がある。このような測定装置による違い以外に高分子の配合組成によっても影響を受ける。
例えば、二種類の高分子をブレンドするとガラス転移点(Tg)は二つ現れるが、この二種類の組み合わせで相溶が起きたときには、Tgが一つになる。またTgが一つになった時に二種類の高分子は相溶している、と判定したりする。
このことから相溶という現象が非晶質相で起きている現象であることが想像できる。実際にいまだかつて二種類の高分子が相溶したまま結晶化した例は報告されていない。
Tgは、高分子の履歴やその状態、緩和現象の情報など様々な情報を持っているが、その測定結果から情報の意味を知る方法について大系だった知識としてまとめた論文が見当たらないのは残念である。もしご存じの方がいたら教えて頂きたい。
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非晶質でガラス転移点を有する物質をガラスという、というのがガラスの定義だが、これを知らない材料関係の学者もいる。「**教授」という名刺を頂いた先生で5人の方がご存じなかった。
300名以上アカデミアの先生から名刺を頂いているので割合から言えばごく少数だが、ガラスの定義を知らずに高分子ガラスをどのように授業で講義しているのか心配になった記憶がある。
ガラスという物質の状態の呼称は、無機材料分野から高分子材料分野へそのまま適用された呼び名である。高分子材料のガラスは、無機のガラスと少し様子が異なるが先に述べた定義を満たす。
無機材料では非晶質状態にはなるがガラスにならない物質も多い。しかし、高分子材料の非晶質は一応皆ガラス状態を有する。だから高分子のDSC(熱分析法の一つ)を初めて測定したときにTgが現れなかった衝撃は大きかった。但しこれはSTAP細胞のような大発見ではない。時々起きるので会社で大騒ぎすると恥をかく。
DSCでTgが出にくい場合には、Tg付近で温度変化にブレーキをかけるテクニックを使う。このテクニックを使うと必ずTgが描かれたチャートが得られる。捏造と言われそうだが、あるべきTgの描かれていないDSCチャートをそのまま学会発表で使用すると質問が飛んできて右往左往することになる。
これは捏造ではなく、高分子のガラス状態を無機のガラスと同じという認識を維持するための生活の知恵のようなものである。Tgがうまく出ないときに直前にSTOPキーを5分ほど押し、その後計測を再開すればきれいなTg曲線が現れる。
但しTgがなぜ現れないことがあるのかは科学の問題だが、実務ではあまり深く考えなくても良いと思っている。昔の夫婦漫才では地下鉄をどこで埋めたのか問題にしていたが実務でこのTgの現象を問題にするとこの漫才同様に結論を出せない。
この現象以外に現代の高分子科学で説明しにくい状況をたくさん見てきたので、アカデミアの先生が説明しにくい問題を実務で深く考えるな、とアドバイスしたい。それよりも先日書いた疲労破壊のような失敗をしないように実技を重視した品質管理を十分に行った方が良い。
F100のフックが壊れた問題は、例えば品質評価試験において裏蓋のスプリング強度を強くした耐久試験を注意深くしていたなら防げた問題である。高価なデータパックが防湿庫に10年ほど静置されていただけで壊れたショックは、それがニコン製という理由で大きい。フィルムカメラの裏蓋は静置状態で絶対に開いてはいけないはずだ。高分子材料を常に負荷がかかっている部位に使用するときには細心の注意が必要だ。
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高分子材料が紐状の分子の塊であるために非晶質相でも密度の違いが生じる。自由体積部分は密度が低く、そこでは温度に依存した分子運動が行われている。すなわち、目の前にある樹脂もナノオーダーの一部の領域では、ぴくぴく動いている部分が存在する生き物のような材料なのだ。
自由体積部分以外の非晶質部分は、凍結し分子運動ができない状態である。これをガラス状態と呼んでいる。教科書によっては自由体積部分を区別せず、それを含む非晶質部分全体を高分子ガラスとして説明しているものもある。
教科書に区別されていなくても非晶質部分を分子運動が凍結された構造とわずかな分子運動が行われている自由体積部分とを分けて高分子材料を眺めることは大切である。先日書いたように高分子物性がばらつくという要因以外に、熱物性を測定したときに高分子材料の過去の履歴を想像することができるからだ。
歴史家は遺跡の発掘により古代の人の生活を想像するが、高分子材料技術者は熱物性から高分子材料の履歴を想像できなくてはいけない。そこには歴史家が体験できるロマンは無いが、生産現場の異常を発見することができる。
10年ほど前に一流企業のコンパウンドを使用した複写機の外装材がボス割れという品質問題を起こした。早速コンパウンドの熱物性を測定し、製造工程の異常をその企業に連絡したところ、何も異常が無いという。
すぐにその会社の現場を見せてもらったら、混練プロセスの制御盤にたくさんついていた温度計の一つが異常値を示していた。現場では特に問題としてとらえておらず、温度計が壊れているから、と淡々と説明していた。熱物性の測定結果では高温度に晒された履歴が観察されたので、そこで生産されていたペレットを抜き取り観察したところ、一部に巣が入っていた。
以上の現場観察結果から、会社に納入されたコンパウンドをすべて開封し検査したところ各袋に巣が入っているペレットが見つかった。一流企業のコンパウンドといっても現場管理が不十分であると、このような問題が起きているので注意する必要がある。
そしてコンパウンドの問題というのはその責任の所在を明確にすることが難しい。問題が発生した時にはコンパウンドメーカーの良心に従う以外に解決の道は無いのだが。
その日本の一流某コンパウンドメーカーには誠意がなく、コンパウンドの品質問題を最後まで否定していた。但し巣が入ったコンパウンドの存在だけは、実際にそのメーカーから納入された袋から大量に出てきたので問題として認めた。
明らかに異常を示したペレットが存在していても「原因不明です」の繰り返しだった。もし本欄を読まれている成形メーカーが同様の体験をされたならば気をつけていただきたい。日本の一流コンパウンドメーカーの中にはこのような企業も存在するのだ。
いくら高品質の成形体生産を目指してもコンパウンドメーカーが不十分な品質管理をしていたなら、そのゴール達成が難しくなる。ペレットの巣の問題をきっかけにコンパウンドメーカーを当時指導していた外国の某メーカーに変更したら品質問題が解決したことも書き加えておく。それは日本のメーカーではないがQCを厳しく指導したことにより品質が向上した発展途上国のローカルメーカーだ。
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