6ナイロンが相溶したPPSをマトリックスに用いた半導体ベルトの高次構造は、球状のカーボンクラスターがパーコレーション転移を起こさずに抵抗を安定化している構造をとっていた。
導電性の良好なカーボンを絶縁体高分子に分散し、高分子を半導体にする技術は、50年以上前から開発されていた。しかしその時にパーコレーション転移の概念は用いられず、混合則が適用されてきた。
パーコレーションという概念が高分子材料で一般的に用いられるようになったのは、1990年以降で、1990年末に当方の部下がパーコレーションの概念を用いた帯電防止層の劣化現象を日本化学会で発表し講演賞を受賞できたほどである。
数学の世界では山火事の現象をパーコレーションの概念で扱い解析が進められていた。1950年代にはパーコレーションの閾値がモデルにより変化する問題についてボンド問題とサイト問題として議論されている。
パーコレーション転移の概念が高分子材料分野で普及が遅れたことについては、以前この欄で紹介した。今ではフィラーの分散についてパーコレーションで扱うことは常識となっているが、このパーコレーション転移をどのように制御したらよいのか、そのコツについてはあまり発表されていない。
絶縁体高分子を半導体にするには導電性のよいカーボンが一般に用いられるが、10の10乗前後を安定に作り出すにはちょっとした工夫が必要である。
詳しくは弊社に問い合わせていただきたいが、パーコレーション転移を起こしている凝集粒子、すなわち球状のクラスターを分散する方法は、その工夫の一つして優れた方法である。
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粘弾性試験機は、高分子材料の動的粘度あるいは弾性率の周波数分散を求めるためだけの装置だけではない。高分子が紐状の分子であることから描かれる妄想についてこの装置をうまく用いた実験で確認することが可能である。
PPS中間転写ベルト用コンパウンドの生産ラインを立ち上げたときに、フローリーハギンズの理論で否定されるPPSと6ナイロンが相溶している状態をどのように品質管理するのか問題になった。
高分子の専門家がいなかったので、迅速に世界初のカオス混合プロセスを立ち上げることができた。これが専門家集団の中での提案だったなら、その検証のために数年が費やされたかもしれない。
科学の知識が少ない集団では、非科学的な内容の技術を立ち上げることは、誰も判断することができないという理由で容易である。これが科学者集団であるとSTAP細胞のような騒動になる。
山中先生もiPS細胞の技術を発見されたときにはその発表の仕方に大変気を使われていたそうだが、科学者が多い組織では、時として技術立ち上げがうまくゆかないことが多い。
科学が分からない集団の組織では、非科学的なことであろうと何だろうと簡単にできるならやってしまえという体育会系のノリで仕事を進めることができる。カオス混合プロセスもそんなノリで、開発が進められた。
ただそのような状況でも品質管理には慎重になる。PPSと6ナイロンの相溶をコンパウンド段階で管理せよとの声があがった。言い出すことは簡単であるが、それを実行するには難しい事象はビジネスプロセスでよくある。
えてして難しい問題になればなるほど皆わからないから騒ぎ出す。この相溶の問題も誰も理解していなかったので、コンパウンド段階における相溶の品質管理という大合唱が起きた。
量産まで3ケ月しかない段階で、手軽に相溶状態を管理する評価技術開発が求められた。二成分だけならばヘイズは一つの品質管理の指標になるがカーボンが分散しているために不透明で,相容状態の判定に光の透過性を使用できない。
この時粘弾性試験機をトリッキーに使用し品質管理する手法を思いついた。詳細は省略するが妄想から作り出した評価技術だが、タグチメソッドのSN比の概念も採用した手法で周囲を納得させやすいパラメーターを見つけることができた。
驚くべきことに、力学パラメーターなのに中間転写ベルトの周方向の抵抗ばらつきという電気的なパラメーターと相関したのだ。これにはびっくりしたが、高次構造が媒介変数になっているのかもしれないと思い、電子顕微鏡写真も動員して並べたところ、妄想が妄想ではなくなって、相関することが当然であるとの考察が可能となった。
高分子材料のような科学的解明が遅れている分野ではこのような妄想あるいは心眼による技術開発が重要であり、科学、科学と叫んでいても解けない問題の時に、この開発手法で簡単に解決できることがある。
コンパウンドの粘弾性測定により、押出成形で無端ベルトを生産するときの品質管理技術としたのだが、これが高分子の高次構造を粘弾性試験により評価している点については想定内だったが、その高次構造がベルトの周方向の抵抗ばらつきまで関係しており、その結果、力学測定で電気特性の品質管理を行うという面白い技術ができあがった。
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昨日の粘弾性の実験でPPSという樹脂が300℃において溶融しにくいことを書いた。このことで溶融しても粘度が高く、さらに300℃で6ナイロンと混錬するときにそれらの粘度差が極めて大きいのではないかと容易に想像がつく。
2成分の高分子を混練するときに、粘度差が大きいと剪断流動では細かいサイズまで混錬できないことが知られている。また、混練の教科書を読むとそのような結果を示すグラフが伸長流動との比較で示されている。
一方カオス混合で得られたPPSと6ナイロンが相溶したコンパウンドは、300℃に設定された粘弾性試験機の中で容易に溶けて均一な融体となる。それは粘弾性試験をすれば容易に理解できる。
さらにPPSだけでは、290℃前後で動的粘度の上昇が起き始めるのに、6ナイロンが相溶したPPSでは260℃前後まで低粘度のまま均一の融体となっている。
このような粘弾性の観察結果から、PPSの融点より低い温度でも混練可能で、その時に混練がどのように進行してゆくのか思いめぐらすことが可能である。
もちろんこのような妄想は科学的ではない。科学的ではないが高分子材料の開発ではこのような妄想が新材料の創出やプロセシングの改善に役立ったりする。
現場を重視する技術者はこのような妄想を密かに行っている。このとき技術者の頭に描かれているのはひも状の高分子である。
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PPSの溶融状態については奇妙な現象が観察された。二枚の円盤に樹脂を挟み、粘弾性の温度変化を調べる実験を行ったときの体験。
樹脂を円盤に乗せて300℃の温度をかけて溶融する。溶融したことを確かめて温度を低下させながら粘度特性を観察した。このとき300℃における溶融時間を変えると異なる粘度特性のデータが得られたのだ。
すなわち、円盤の上で溶融状態になってもさらに長時間300℃で保持してやると、どんどん粘度が下がるのだ。みかけはそれほど変わっていないが、粘度特性だけ変化している。すなわち、未溶融状態の物質が存在しているかのような挙動を示す。
PPSと6ナイロンを二軸混練機で混錬したコンパウンドでも同様の現象が観察されるが、これがカオス混合を行ったコンパウンドでは観察されなくなる。
高分子学会賞の審査会でもこのデータを示したが、おかしなデータとされた。当方は、相溶が進行した結果の証拠として示したつもりだったが、6ナイロンとPPSの相溶はフローリーハギンズの理論では否定される現象だ。
科学で否定される現象のため信用されなかった、と言えばそれまでだが、その後コンサルティングで同様の実験を中国企業で確認させたが、やはり再現した。STAP細胞はその再現が難しく騒動になったがカオス混合の結果については再現性のある技術的結果である。
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混練は剪断流動と伸張流動で進行し、ナノオーダーの高次構造制御には伸長流動が有効である、として考案された装置は伸長流動装置である。
ウトラッキーの発明によるこの装置の問題点は生産性が悪い点である。ウトラッキーのアイデアを参考に二軸混練機の先にお弁当箱ぐらいの装置をつけて行うのが当方の発明によるカオス混合装置である。
ウトラッキーのアイデアでは鋭利なスリットを通過する時に発生する伸張流動を利用して混練を進めようとした。
これに対して、当方の発明は平行なスリットに樹脂を流動させて、このスリット壁面近傍で発生する剪断流動と中央部の急激な伸長流動、そしてスリットの10倍以上の空間へ押し出されたときの樹脂の折れ曲がりを利用してカオス混合を行う仕組みである。
この平行スリットのアイデアは、乳化分散装置にも転用可能で、この特許が出願されてから、構造を特殊な形に設計した乳化分散装置の特許がいくつか公開されている。
平行スリットは、ややカーブをつけて非平行とすることにより、より機能しやすくなる。この発明も同時期に特許出願されている。量産には、非平行スリットが有利でその設計についてはご相談ください。加工業者も含め技術周辺情報を提供させていただきます。
カオス混合は、ゴム会社へ入社したときに指導社員から混練技術について伝承されたときに、それを実現するのが当方の宿題とされた。30年考えいくつか実現手段をメモっていたのが、PPSと6ナイロンの混練で役立った。
本来はゴム会社でその技術が生まれるはずだったが、当方は高純度SiCの事業化に邁進したためにしばらくそのアイデアを練る時間が無かった。しかし頭の中では十分に練りこまれ、混練の基盤技術のかけらもない写真会社で実用化する機会が訪れ、アイデアが具現化された。
非科学的な発明というものの面白さである。科学的な発明であれば、このような頭の中でアイデアを長時間寝かせている間に誰かが実行していた可能性が高い。ところがシンプルなスリット構造で混錬ができると科学的に考えられる人はいなかったと思われる。
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PPSと6ナイロン(例えば10wt%前後)をPPSの融点以上で混練すると、溶融したPPSと6ナイロンの粘度差が大きい状態で剪断流動あるいは伸長流動を生じる。
その結果、EFMかL/Dが大変大きな二軸混練機を用いない限り、6ナイロン相の島相を小さくできずに大きなサイズの高次構造となる。このコンパウンドを用いて押出成形を行うとやはり6ナイロン相の大きな島相ができたフィルムとなる。
スクリューセグメントを工夫すればこの組成を260℃前後という低い温度で混練可能である。PPSという樹脂をご存じの方はこの話を聞くとすぐに「ウソだ」と言いたくなるらしい。某発表会の席で混練条件を説明したときに、非常識にも「ウソだ」と一言言われた。
しかし、この温度領域で10年近く実際にコンパウンドを製造しているメーカーも存在し、そのコンパウンドの分子量分布を計測してもGPCレベルで分子量の低下は起きていない。
当方がこのような低い温度で混練することを思いついたのは、バンバリーの運転で剪断混練がうまくいったからである。その実験を行った動機はなぜ樹脂は融点以下で混練を行わないのだろう、という素朴な疑問からである。
このような低い温度領域で混錬すると剪断流動でも6ナイロン相のサイズを少し小さくできる。この温度領域でも二成分の粘度差は大きいはずだが、PPSが溶融した状態よりも小さいために混練が進み小さな高次構造となる。
この状態でカオス混合装置へ通過させるとPPSと6ナイロンが相溶して単一相となる。本日の内容について質問のある方は弊社へ問い合わせてただきたい。
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表題は、2月末日にゴム会社を退職した1979年入社同期の挨拶状に書かれていた一文である。素晴らしい感想で、当方も現在の会社基盤が盤石になりリタイアするときの言葉として使いたいと感じた。
ドラッカーが定義したように、働く目的は貢献と自己実現にある。知識労働者は社会に必要な3つの組織のいずれかで働くことにより社会貢献できると言っている。
ドラッカーは旧来のマネジメントの定義を科学的に構築しなおした現代のマネジメントの生みの親であるが、そこで働く意味を明確にするととともに知識労働者の時代のマネジメントについて多数の書物で解説している。
彼の著書は難解と言われているが、知識労働者が働く視点で読むと、たとえ引用されているのが欧米社会の歴史であったとしても、働く意味は日本でも同じであり、ここに着眼すると理解が容易となる。
すなわち、彼の理想の一つ貢献と自己実現について知識労働者のそれぞれの役割で考えなければいけないことが語られている。
働く意味が貢献と自己実現にあるならば、仕事は単なるその手段あるいはそれが具体化されたオブジェクトに過ぎない。退職してそれまでの仕事が無くなっても、さらに貢献と自己実現したいならば新たな仕事をすればよく、十分な貢献と自己実現をした満足感があるならば、労働者ではない第二の人生を闊歩すればよい。
当方はゴム会社で高純度SiCの事業を起業しながら、生産設備で材料合成が可能という理由で電気粘性流体の仕事をお手伝いをしたためにFD事件にあい、写真会社へ転職した。この時犯人を見つけてしまい、その判断について大いに迷ったが、ドラッカーの教えに従い誠実と真摯とは何か、貢献と自己実現とは、と問いながら転職する道を選んだ。
自ら企画し、学位まで取得したSiCの仕事ではあったが、ゴム会社の面接で「タイヤ以外の新事業を起業し、その社長になっていたい」と自己実現目標を答えていたという思いがあった。社長とは誠実で真摯な判断ができなければいけない、ということで転職の選択をしている。
大変難しい判断で、30代までの自己実現目標であった学位を取得するほど打ち込んだ仕事であり、今でもそれが正しかったのかと時々考えるほど未練はあるが、最終の自己実現目標である社会に必要な新しい組織を作るため2011年3月11日に写真会社を退職し現在の会社を起業している。この会社が予想もできない新しい組織として機能し社会に富を生み出せるようになったとき、表題のセリフを拝借し退職のあいさつをしたい、と思った。
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PPSと6ナイロンの2成分系で混練を行うと、少ないほうの成分が島となる。不思議なことにバンバリーで混練したときに二軸混練機で同様の組成を混練した場合に比較して島が少し小さくなるのだ。
但しこれはバンバリーの運転条件にもよる。バンバリーの運転は経験知と暗黙知により、最適条件が左右される、ノウハウの部分が大きいプロセスである。
バンバリーには基本的な運転方法が存在する。しかし二軸混練機に比較してかなり自由度の高い混練プロセスである。ロール混練プロセスも同様であり、バンバリーとロールで混練を行う加硫ゴム技術はノウハウの有無がその製品性能を大きく左右する。
二軸混練機を用いたときに、融点以下の温度条件で混練するとバンバリーに近い自由度が生まれる。高分子学会賞の審査会で企業審査員の発言を聞いて驚いた。融点以下で樹脂を混練すると必ず分子の断裂が起きると信じている人がいる。
融点以上で混練していても分子の断裂は起きているのである。また融点より低い温度条件ではスクリューセグメントの工夫をしない場合に分子の断裂は激しくなるかもしれないが、スクリューセグメントのデザインさえうまく行えば、混練前と混練後で分子量低下はほとんど起きない。
PETボトルのリサイクル樹脂を開発したときに特許調査を行ったところ、剪断混練と称して、リサイクルPET樹脂をPETの融点以下で混練する技術に関する特許が開示されていた。
このような特許が成立する背景を考えると、樹脂の混練を融点以上で行うことが常識であり、融点以下で行うのは驚くべき技術と言うことになるが、ゴムでは昔から融点以下で混練が行われてきた歴史がある。
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PPS・6ナイロン・カーボンの3成分をそのまま同時に投入して二軸混練機で混練するとPPS相と6ナイロン相にカーボンが分散したコンパウンドが得られる。
このコンパウンドを用いて丸ダイで押出成形を行うと、コートハンガーダイではウェルド部の抵抗が大きく変動する。また金型の温調がうまく制御されていなければ、ウェルド部以外も抵抗が変動する。
これは導電性微粒子の分散で問題となるパーコレーション転移という現象のためで、それを制御できる技術を開発しない限り、周方向で抵抗が安定したベルトを製造できない。
あらかじめ6ナイロンにカーボンを二軸混練機で分散し、その後PPSを投入すると6ナイロン相の島にカーボンが分散し、PPSにほとんどカーボンが分散していないコンパウンドを製造可能である。
但し、このコンパウンドを用いてベルトを製造すると周方向の抵抗を安定化できるが紙のように脆いベルトとなる。
バンバリーを用いても同様のコンパウンドを製造可能で、二軸混練機との違いは、6ナイロン相だけに選択的にカーボンを分散させることが可能である点と、カーボンが分散した6ナイロン相の島が少し小さくなる現象である。
このコンパウンドを用いても紙のように脆いベルトしか得られない点は、二軸混練機の場合と同様である。
このように混練機をうまく使い分けると高次構造を制御可能である。しかし、既存の混練機ではその制御可能な範囲に限界があるので新技術の開発が必要になった。
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PPSと6ナイロン、カーボンの3処方を混練し、外部のコンパウンダーよりも高性能で高品質のコンパウンドを製造する技術は、半年で完成したが、10年近く生産に使用されトラブル0である。
高分子材料の開発では、いくら時間をかけても、また科学的に開発を進めたとしてもうまくいかないことがある。これは、科学で解明されている事柄がいろいろ制約のついた現象に限られているからである。
科学論文の中には、その実験以外では成立しない現象を論じているものも存在する。これは高分子材料に限らずセラミックスでも同様である。すなわち科学としては正しくとも実務では役立たない論文である。
一方で、学会では評価されていなくても実務の観点では涙が出てくるくらい感動する論文に稀に出会う。このような時に著者が日本人であれば直接お会いして話を聞くことにしている。
高分子材料に関する研究報告では、自分の実験結果しか信じない、と言われた研究者もいるが、もっともな発言である。研究のための研究という論文を読むと脱力感さえ生まれる。
カオス混合技術は、科学の形式知だけでなく経験知と暗黙知を動員した成果である。また、高分子学会賞や経産省の補助金申請で幾度も落ちた世間で信じてもらえない非科学的技術でもある。しかし実際の生産で順調に稼働している。
このような技術はAIで作り出すことはできない。人間の手だけで初めて作り出される技術だ。すなわち、AIの時代の技術開発では、形式知だけでなく経験知や暗黙知を如何にうまく活用してゆくのかが差別化技術開発のために重要となってくる。
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