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2016.02/16 企画を実現する(2)

STAGE-GATE法に限らずどのような開発管理手法の会社であっても、企画を実現させるために最も重要なコツは、その風土なり土壌を活かすことだと思っている。これは企画の内容によらず、その土壌、特に中間管理職を含めた担当者すべてが企画を成功させたいという思いが、あるかどうかで企画の成功確率は左右される。どんな優れた企画であっても人間関係が崩れたならば失敗を覚悟しなければいけない。
 
ゴム会社である騒動が起きたときに当方の頭をよぎったのは、高純度SiC事業の失敗である。住友金属工業とJVとして立ち上がった仕事をすべて住友金属工業に移管する、という解決策も残っていた。また、実際に契約後そのような動きもあった。
 
これは経営陣の意思と異なり、中間管理職の間で聞かれた噂話である。本来イノベーションを担当すべきコーポレートの研究所でありながら、大学顔負けの研究を指向するような風土の研究所が流行した時代であり、そのような風土では新事業など育たない。
 
当時研究所で推進されていた二次電池事業や電気粘性流体の開発の進め方を見てきて、高純度SiC事業については、絶対に成功させようという意思は強かった。その思いが研究所の風土に合わず人間関係が知らず知らずのうちに崩れていたのだ。
 
会社の仕事では、一人だけの力で企画が実現することはまれで、多くの上司、同僚、取引先の方々のバックアップや協力があって成功に結びつく。企画を成功させるためには、いつでもこのことを忘れてはいけない。ドラッカーの「貢献を中心にした思考」とは、このような人間関係に気を配ることも含まれる。そしてそれを重要視することは、企画を成功させるために最も大切な思考方法である。
  

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2016.02/15 企画を実現する(1)

昨日は弊社へ混練に関して質問があったので、混練について当方の考えを書いてみた。中間転写ベルト用のコンパウンド工場建設は、当方のサラリーマン技術者として卒業試験のような位置づけになった。約30年間、経営者を目標にがんばってきたが、結局サラリーマン時代はそのチャンスがありながらも、不心得者に対する対応を誤ったので夢が叶わなかった。
 
しかし、当方が企画し推進した高純度SiCの事業はゴム会社で現在も続いている。恐らく企画としては大成功だろう。さらに学会賞まで受賞している(その審査資料が転職し学会賞の審査員をしていた当方に回ってきたときにはびっくりしたが。)
 
写真会社では、過去のトラウマから徹底的に既存事業の技術開発企画に徹したが、デジタル化の波に押し流されて、豊川へたどり着き、そこで写真会社とは無縁のコンパウンド工場建設を思い立ち、企画立案し成功させた。その工場は、現在神戸へ移転され稼働していると風の便りに聞いた。
 
このコンパウンド工場建設の企画は、高分子科学の教科書に書かれたフローリー・ハギンズ理論からはずれた科学的に実現不可能な、すなわち100%成功できないといわれた仕事だったが、その実現不可能だったポリマーアロイの生産工場が10年近く安定に稼働している。これも100%成功した新事業企画といっても許されるだろう。しかも科学で否定される技術企画の成功事例である。
 
21世紀の開発プロセスと題して書き続けてきたが、本日からは実際に企画を成功させるための方法論を書いてみたい。21世紀の開発プロセス同様に、キモの部分は少し隠しているが、関心のある方は弊社へご相談いただければ対応致します。あるいは昨日の混練の考え方のように、本欄で回答させていただく場合もあります。
 
なお、弊社では現在混練技術のコンサルティングのために二軸混練機の設備のセットを3000万円程度で販売できないか企画中です。本設備に関してご興味のある方はお問い合わせください。詳細が決まり次第公開致しますが、国内の協力メーカーの調整が完了し、現在は実際の手順を詰める段階まで来ましたので、早期に導入希望のお客様には公開前でも対応させていただきます。
    

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2016.02/14 混ぜると練る

混練は、高分子をただ混ぜているだけのプロセスではない。練りも進めているのだ。練りのプロセスでは高分子のコンフォメーションも含めた変化がその理解を難しくしている。
 
混練の教科書を開くと分配混合と分散混合の違いが説明されている場合が多い。形式知として知っていても実戦ではあまり役に立たない知識である。なぜなら、L/Dが50程度の長い混練機でさえも、スクリューセグメントをどのように工夫しても100%完全な混合を実現できないのである。
 
少なくとも実用的な工程では、100%完全な混合(注)を実現できているところは無いと思っている。何を持って100%とするのか、も問題があるが、ここでは仮に混合しようとしている材料の完全に平衡状態となった分散という意味とする。
 
かつてバンバリータイプの混練機で混練時間を変化させて取り出したサンプルについて、Tgやそのエンタルピーはじめ各種パラメーターを計測する実験を行ってみたが、30分以内の混練で、およそ平衡状態に到達したと思えるサンプルは得られなかった。
 
シリンダーの中の滞留時間は二軸混練機では30分未満だろう。完全に材料が平衡状態になるまで混練されずにストランドが押し出されていることになる。仮に分散効率をあげるために微粒子の表面を低分子で化学修飾してもこの状態は大きく変わらないと推定される。
 
やや話がそれるが、分散効率をあげるために微粒子を低分子で化学修飾したり、分散助剤を添加したりするが、力学物性にその効果が観察されても電子顕微鏡で分散状態の改良効果が見えなかったりする。もし電子顕微鏡観察で改良効果が見てすぐに分かるようであれば、それは大成功である。
 
たいていは電子顕微鏡写真を加工し、統計的に整理してその違いを議論することになるくらい効果がわかりにくいものである。だから、粘弾性試験も含めた力学物性は分散の効果を知るために感度の高い方法で、その昔、指導社員がご自分で製造されたサンプルの力学物性と同じになるまで混練の練習をしなさいと言っていたことがよく分かる。
 
(注)熱力学的に平衡な混合状態を混錬で実現しようとしたならば、ロール混錬を用いる以外に無いのでは、と思っている。しかしロール混錬で行ってもどのくらいの時間が必要なのか、ご存知の方がいらっしゃったら教えてほしい。
    

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2016.02/13 21世紀の開発プロセス(23)

中間転写ベルトの成功で一番大切な技術は、カオス混合プロセスであるが、在職中は学会でも評価されず、あげくのはては混練機のメーカーではない、という理由で関連技術の特許出願をすることができなかった。早期退職して起業した一因でもあるが、その後中国のローカル企業で実績を積みながら在職中に開発したタイプと異なる構造の装置の改良を進め、2014年に高分子学会から招待されて講演を1時間行っている。また、二軸混練機とセットでこの時のプロセスの別様式バージョンを販売準備中である。
 
準備が整い次第、本欄で価格等の情報を発信するが、科学的に説明が難しい技術は日本の企業で扱いにくい。しかし、21世紀はこのような状態を打破しなければ、日本のものつくりは発展しないと思っている。科学を捨てよ、と言っているのではなく、科学を道具として使い、人間の6つの感覚をフルに活用した技術開発が重要と提案したい。
 
科学教育が科学の普及を達成でき、科学の時代を実現できたように、日本の教育に欠落している技術教育を弊社は指向したいと思っている。今、日本では実績が無いが、中国では少しずつ実績が出ており、ローカル企業の開発力向上に役立てていただいている。
 
日本でメソッド単体の販売は難しそうなので、二軸混練機に混練機の使い方としてメソッドの普及を考えている。二軸混練機は、科学的には完全に説明できていないプロセスであり、混練されて吐出されたコンパウンドが中途半端なモノであることがあまり知られていない。
 
中間転写ベルトの開発で一番障害となったのが、根拠の無いコンパウンドメーカーの自信である。科学的に満足な説明のできないコンパウンドを自信を持って販売している、という不思議な状況である。もし機能性コンパウンドを開発したい企業があればいつでもご相談ください。コンパウンド技術について0からご指導させていただきます。射出成形や押出成形を行っているメーカーで既存のコンパウンドに不満があれば内製化した方が良いと思っている。弊社は、そのお手伝いを致します。
  

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2016.02/12 21世紀の開発プロセス(22)

単身赴任前に、研究開発必勝法により開発成功へのシナリオは描かれていた。ただ、PPSと6ナイロンを相溶させる機能をどのように実現するのか、机上で考えても分からなかった。科学で否定される機能なので、論理的に導かれないのは当然のことである。窓際管理職という幸運な立場だったので、予算はなかったが自由に出張や実験はできた。
 
ドラッカーが言っていた貢献と自己実現が働く意味という言葉は、窓際族には勇気になる。貢献のベクトルを間違えなければ何でもできる立場を味わうことができる。しかも日本の会社では生活できる十分な給与がもらえる。さらにベクトルさえ合っておれば、首にならないし、自分で進路さえも自由に選べるのである。さらに窓際で明るく輝くことも自己実現次第である。ゴム会社の新入社員時代にメモしていた備忘録を見ながら、混錬技術の勉強を始めたが、何でも記録する習慣は大切である。
 
「あの日」を読むとメモを取っていなくても、恨みつらみというものは忘れない、という人間の性を改めて感じるが、実験ノートさえとっていなかった問題は、大事な細かい点がこの本に書かれていないことと関係があるのだろう。当方の備忘録は、実験ノートが無かったゴム会社で、実験ノート兼講義録兼**何でもノートだった。日記の代わりでもあった。
 
ドラッカーも言っていたように、記録することは自己実現努力の基本である。備忘録のおかげで、30年近く前のポテンシャルに技術力を戻すことができた。ゴム会社ではセラミックスのキャリアであったが、3ケ月間はゴム技術者だった。しかも、優秀な指導社員のおかげで、当時先端材料だった樹脂補強ゴムの実用的な処方を3ケ月で完成できるポテンシャルまで能力が高かった。
 
単身赴任前に使えそうな機能を探すために、バンバリーやロールなどの混練機でPPSと6ナイロン、カーボンを混練してみた。そのとき、機能に使えそうな現象が幾つか発見されていた。ただ、検討に用いた方法が連続プロセスではないので実用性が無く悩んでいた。しかし、ロール混練の条件を工夫するとPPSと6ナイロンが相溶したようなデータが得られていたので、実用的なカオス混合プロセスさえ考案すれば、必ず成功するという自信があった。
 
これはSTAP細胞の研究者と同様の感覚で、ただその研究者と当方の違いは、再現性に向けて工夫と実験を自分で繰り返していたことである。そして観察した状況を細かく手帳に記入していた。技術開発が成功するかどうかは、機能の発現について再現性がどの程度あるかによる。また、他の人が実験をしやすいように工夫した点を忘れないように書くことである(注)。機能の再現性が十分に高いならば、それを経済的なプロセスで組み上げるだけである。
 
経済的なプロセスのアイデアが、たまたま押出成形の現場で閃いた。機能の再現性の確認は、単身赴任前に、十分に実験していた。ゆえに発見された経済的なプロセスを周囲の納得が得られるようにデータを組み合わせて、論理的に構成する作業だけであった。
 
詳細は省略するが、製品化までの期間に、世界で例の無いカオス混合プロセスの工場が稼働し、PPSと6ナイロン、カーボンの配合を変更することなく、中間転写ベルトの開発に無事成功した。この開発の最後のデザインレビューで、方針管理に基づき外部のコンパウンダーとともに開発を進めてきたマネージャーBは、従来法では技術ができないことが証明された、と否定証明を展開し、子会社の工場のコンパウンドでなければ製品ができないことをプレゼンで示してくれた。否定証明もこのように使用すれば有益な方法となる。
 
(注)ドラッカーも記録することの重要性を著書の中で述べている。記録された内容を後日読んでみると大変参考になるときがある。また、数年後に読めば成長の記録となる。研究者が実験ノートを書くのは、ただ備忘録のためだけでなく自己の成長のためにも必要なことである。
 

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2016.02/11 21世紀の開発プロセス(21)

中間転写ベルトの開発では、外部からコンパウンドを購入して開発が進められていた。コンパウンドは高価格だったので、試作に失敗した材料は捨てずに、成形条件検討用に再利用していた。ただ、再生材で検討された成形条件が、新しいコンパウンドでは再現しない問題があり、押出成形の開発は一進一退を繰り返していた。
 
赴任したときに奇妙に感じたのはこの点で、担当者に尋ねたところ単なるコンパウンドのばらつきだろうという回答が返ってきた。当方はコンパウンドのカオス混合プロセスをどのように実現するのか考えていたので、押出金型のリップ部に着目した。担当者に指示し、新しいコンパウンドをベルト成形が難しい押出機の最大吐出能力で押し出してみた。そしてその材料でベルトを製造してみたところ、抵抗偏差の小さいベルトができた。
 
不思議なことにボツも少なくなっていた。そのベルトを見た瞬間カオス混合のアイデアが閃いた。すぐにコンパウンド会社にアイデアを実行させようとしたところ、「素人はダマットレ」と技術サービス担当者からアイデアを一喝、否定された。
 
また、部下の二人のマネージャーからも科学的根拠が無いという理由で、アイデアの評判は良くなかった。研究開発必勝法で考案したシナリオを発動すべき時が来た、と決断し、若手1名と現場で評判の悪かった作業者1名を組ませてコンパウンド開発チームを作り、コンパウンド工場建設に向けて活動し始めた。
 
当方の権限や業務はすべて、マネージャーBに任せ、当方もコンパウンド開発チームの一員として活動を始めた。すなわち、従来の管理職としての業務はすべてマネージャーBに任せ、3人でコンパウンド工場建設のための準備を開始したのである。時間と予算が無いので、設備は中古で揃えることにしたが、一番問題になったのは、その年の予算外の予算となることで、その獲得のために、まがりなりにも投資により成功するという科学的な説明が必要だった。
 

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2016.02/10 21世紀の開発プロセス(20)

科学的に問題解決不可能という問題をどのように解いたら良いのか。ゴム会社では、二律背反の問題が好んで技術テーマとして取り上げられていた。日本では、すりあわせの技術などがTVでもてはやされたこともある。ただ、その共通点は、科学で考えると解けない問題をどのように技術で解くのか、と言うことである。
 
科学と技術は同等という考え方で支配されていた、20年以上前のゴム会社の研究所では、研究所以外の開発部隊が二律背反の問題を解決する、というプレゼンを軽蔑していた。これは、科学で解けない問題ならば、あきらめるのが最善という考え方である。
 
あきらめる、という回答が許されないとしたならば、考えられる一つの方法は、妥協である。しかし、技術が科学と異なり、現象から機能を取り出す行為であることに気がつくと、科学の知識で考えて問題が解けない、という状態は、深刻ではないのである。技術的にどうしようもない状態より、どうにかなる。技術的にどうしようもない状態は、適当な完成レベルで妥協する以外に道は無い。
 
iPS細胞のヤマナカファクターを例に、このあたりを説明すると、機能を調べるために、実験を担当した学生は、24個の遺伝子を一度に細胞へ組み込むという無茶な実験を行っている。その実験で細胞に初期化が起こり、科学的な理由は不明だが、iPS細胞という機能が見つかった。そしてこの機能を洗練されたモノにするために、さらに科学的ではない消去法で、4個のヤマナカファクターの組を見いだしている。
 
技術開発とは、まさにこの例のように実行することである。科学的な意味が無くとも目的とする機能を取り出す実験を行うことが大切である。論理的プロスではなく、ヒューリスティック(heuristic注)プロセスによる実験が重要である。技術では、仮説が真であることよりも、機能実現が重要なので、理由は不明でも機能が発現すればそれで良い。科学こそ命という人がこのようなことを聞くと鼻血を出して怒りそうだが、新しい技術の多くはそのように生まれている。
 
但し、再現性が乏しい機能は、経済的な技術に創り上げることは難しい。すなわち技術開発とはロバストを改善することだ、というのは田口先生の名言だが、機能の再現性を上げるために開発するのが技術開発で、企業では科学の研究よりもこれを優先しなければ21世紀は生き残れない。
 
(注)いつも正しい答えが得られるわけではないが、すなわち論理性は保証されていないが、ある程度のレベルで正解が得られる、と言う意味

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2016.02/09 21世紀の開発プロセス(19)

写真会社とカメラ会社が統合した会社では、55歳以上に対して早期退職制度があり、中間転写ベルトの開発に失敗したら、責任をとりやすい状況だった。仮に開発に成功しても給与は増えないが、失敗しても早期退職制度を活用して会社を辞めれば、退職金は増えた。
 
当方に仕事を頼んできた来た人物は、よく当方の状況を調べてから来てくれたのだ。その人物は、この仕事が成功した後、センター長へ昇進している。失敗しても、当方に責任を負わせれば良いとでも考えたのかもしれないが、定年近い当方にとって、そのようなことはどうでも良かった。権限とか昇進に焦点を合わせると貢献すべき焦点がぼける。当方は、どのような手段を用いても開発を成功させる決意をし、豊川へ単身赴任した。また、弊社で販売している研究開発必勝法を使用し、その切れ味を試すにはちょうど良いテーマだった。
 
職場の風土は、皆が成功を信じている士気の高い雰囲気だった。ゴム会社の研究所以外の職場風土とよく似ていた。部下にマネージャーが2名いて、一名は材料技術に詳しいマネージャーAでPPSと6ナイロン、カーボンの処方を企画した人物である。最初にこのマネージャーとは徹底的に議論した。そしてこれまでにないアイデアをコンパウンド技術に投入しない限り、問題解決不可能という結論に至った。
 
赴任して一週間で科学的見地から開発は失敗する、という見通しが得られた。この結論は、センター長まで伝えたが、何とかならんか、と求められたので、当方が何とかします、と回答した。その時、二人の部下のマネージャーは、びっくりしていた。方針変更の打ち合わせがひっくり返ったためである。
 
上司であるセンター長は、8000万円までの予算であれば何とかできるので、それでコンパウンド工場が建たないか、と尋ねてきたら、マネージャーBは不可能です、と慌てて否定した。さらにマネージャーBは、予算よりも時間が無いことを理由にコンパウンド内製化に猛反対した。
 
当方は、コンパウンド工場は二軸混練機を設置すればよいだけであるが、品質管理規定に基づくデザインレビューの各ステップを通過することが難しい点を指摘したところ、どこか子会社は無いかという話になった。すなわち、子会社に投資してコンパウンド工場を建てれば、現在社外からコンパウンドを購入しているのと同じで、コンパウンドの試験だけで済む、とセンター長が知恵を出してくださった。
 
結局、PPSと6ナイロン、カーボン系の処方は、科学的に開発が困難でどうしましょう、という会議が、子会社にコンパウンド工場を建てましょうという結論に至り、当方のサラリーマン最後の仕事の舞台環境は整った。あとは、役者を揃えることである。
 
この会議の一番の収穫は、センター長が是非成功させたい、そのためにはできることは何でもする、と言ってくださったことだ。トップの固い決意があれば、それだけで成功確率は50%を超える。そして、マネージャー以外の担当者も成功することだけを考えているので、あとはどのように演じるかである。成功を確信した。

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2016.02/08 21世紀の開発プロセス(18)

新事業開発や研究開発のプロセスで必ず成果が出る方法があれば、誰でも知りたいだろう。特に企業でその任にある人は、具体的なメソッドをお金を出してでも、と考えておられるかもしれない。弊社の販売している研究開発必勝法は、一応その候補になり得ると考えているが、それでも70%以上の成功確率を約束できない。
 
理由は、企業風土や職場の風土、組織の問題、ヒトの問題などメソッド以外の要因が開発プロセスの成否の50%以上を占める(注1)と考えている。この問題の一般化は、研究開発必勝法に盛り込んだ一部の状況を除き、すべてを普遍のメソッドに落とし込むことは困難だと思っている。逆にこの問題についてパーフェクトの解が得られたら(会社あるいは組織の特性を熟知しなければ開発の成功確率は100%にならない)、失敗の可能性が99%以上ある仕事でも成功することがある。すなわち成功確率1%に賭ける常識外れな人物が社内から現れれば、そのようなことが起きる。
 
PPSと6ナイロン、カーボンからなる半導体無端ベルトの押出成形技術は、まさに失敗確率100%に近い仕事だった。外部のコンパウンドを購入して進められていたそのテーマ(すなわち、外部のコンパウンダーに問題解決能力が無ければ100%失敗するテーマである)は、科学的に技術開発を進める優秀なコンパウンドメーカー(注2)のバックアップもあり、簡単に成功するかに見えた。
 
しかし、無端ベルトの抵抗偏差が5%未満という高精度の押出成形技術を押出プロセスの改良だけで進めるには無理があった。さらに、科学的に推定される無端ベルトの高次構造において、6ナイロンがPPSに相容しない限り、実現できない力学物性との強相関性という問題があった。ところが、6ナイロンがPPSに相容する現象は、科学的にフローリー・ハギンズ理論から否定される。
 
まさに、科学者からみれば100%失敗する仕事でありながら、実務担当者から見れば何とかなりそうという矛盾に満ちたテーマであった。
 
この実例では、写真会社とカメラ会社という異なる企業風土の会社の合併直後であり、押出成形技術を担当していた現場の技術者がおよそ科学的な仕事を敬遠するカメラ会社のメンバーで構成されていたことが幸いしている。彼らは、必ず成功すると信じて仕事を進めていた。また、センター長はカメラ会社の出身者であり、金型の専門家でいわゆる徳のある人物だった。
 
周囲の管理職も材料に詳しい人材がいないことも成功の一因だった。唯一注意が必要だったのは、同じ写真会社出身だった部下のマネージャーで、彼は科学的に手堅く仕事を進めたいという人物だった。
 
(注1)例えば、モノができても投資タイミングが種々の理由で遅れ、事業機会を失う、ということが起きる。投資タイミングを決めるのは経営者である。経営者にはいろいろな方がおられる。
(注2)会社名は明かせないが、有名な企業の一つである。科学的に業務を進める、とは科学的に進められないプロセスの可能性について検討しない、という意味である。すなわち、科学的に仕事を進める問題の一つに、条件の検討漏れが発生する場合があるが、それに気がつかない人がほとんどである。現象が、すべて科学的に解明されておればそのようなことは生じないが、科学的に未解明な現象を取り込んでいるのに、科学的に不明な条件を安易に理解しているような条件と誤解する場合である。フローリー・ハギンズの理論をよく読んでいただければわかるが、中途半端な考え方程度の理論である。現象の説明に使っても良いが、現象から機能を取り出すときに、この理論を信用すると痛い目に遭う場合も出てくる。例えば、科学を信じていたコンパウンドメーカーは当方が工場を建てたために市場を失ったのである。技術者にとって科学は利用すべき道具であって、盲目的に信用すべき対象ではない。また、道具であるので、技術者自身も常に使えるようにメンテナンスに努めなければいけない。

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2016.02/07 21世紀の開発プロセス(17)

年末から年始にかけて、研究開発に関わる2つのショッキングな出来事があった。「あの日」の出版と、SMAPの解散騒動である。ベッキーの問題は、文化でも何でもない痴話話であり、この欄で取り上げるのは恥ずかしい限りだが、前者は研究開発部門で起こりうるごたごたのケースを、後者は新しい市場での価値共創が引き起こす問題の事例として参考になる。そして、両者共通しているのは、現場の中心人物の行動が大きく関わっている点であり、その人物の行動次第では、その後の展開にも大きな影響が出てくる。
 
まず、後者については、中心人物であるSMAPのマネージャーが芸能界を引退することで一応の終息となった。この知恵は、問題が発生した時の解決策として大切である。当方も、高純度SiCの仕事とは関係ない高分子の仕事を選び、古巣への貢献を行っている。当人が被害者であったとしても、問題解決に当たり貢献を軸にして何を守らなければいけないのか、を冷静に考えるべきである。SMAPの騒動もSMAPは解散せずとりあえず活動しているし、ゴム会社で異色の高純度SiCの事業も30年近く続いている。
 
前者については、論文捏造問題が発生した時に辞職し問題の終息を計るべきだった、と思われる。おそらく一切の責任をかぶることになっただろうと容易に想像でき、その時組織の人間の汚い行動で、辞職した人の名誉など踏みにじられたかもしれない。しかし、それにより優秀な研究者の自殺やその後の理研におけるSTAP細胞研究の方向が大きく変わったと思われ、歴史から見たときに十分な貢献を軸とした判断になっただったろう。
 
すなわち、早めに著者が辞職しておれば、STAP細胞について、自殺した研究者をリーダーにして細々と科学的な研究が進められた、と想像される。ゆえに自殺された研究者は著者に研究の将来を託す遺書を書かれたのだ。また、公開されたSTAP細胞の研究費に書かれていた報酬からすれば、十分にその責任を果たすべき報酬が税金から支払われていた。当方は著者の報酬よりも低い報酬で、創業者でありながら高純度SiCの仕事を失った。
 
この二例が示すように、研究開発や新事業開発においてどんな優れたマネジメントが行われようと、どんな優れたメソッドによるプロセスが開発されようとも、キーマンが正しい「働く意味」を理解していなければ、成果は意図しない方向に変わる。成果がすべて無くなる場合もでてくる。すなわち、いつの時代になっても、ヒトの問題は重要で、とりわけキーマンの教育指導は重要である。
 
「あの日」という本は、著者の性格が色濃く出ており、読み手により誤解を招くかもしれないが、事実だけを拾い集めると、真理を追究することが使命となる職場ならどこでも起こりうる流れが浮かび上がる。例えば、著者だけにネズミの扱いを指導してくれない、ノウハウを教えてくれない、ということは、特別な技能を有した研究者が陥りがちな独占欲の現れで、ゴム会社の研究所でも同様の状況は存在した。
 
電気粘性流体のプロジェクトに加わったときなど、具体的な作業以外何も伝えられなかったひどい状態だった。研究者の中にはどうしても成果を独占したいとか、機会あれば他人の成果も自分のモノに、というよからぬ考えを持ってしまう人物が出てくる。第三者が見ればよからぬ考えだが、その研究者は、真理以外何も見えていないので、悪事を働いている意識など毛頭無いのが困った点である。例えば、当方の成果を勝手に論文にまとめた国立x大の先生も急いで発表した方が良いからと、平然としていた。確かに見つかった真理を迅速に公開することは科学者の使命ではあるが。
 

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