貢献を軸にした思考では、自己責任の原則が重要である。会社で事業企画をする機会は誰でもある。企画部門に属していない担当者の企画でも、今の時代において新事業の企画を拒む経営者はいない。すべてが知識労働者と呼ばれる時代では、誰もが企画マンである。
そのとき、企画した人の責任は大きい。それは給与とか権限に依存しない。少なくとも企画を提案した時点でその責任は発生する。すなわち、企画は自己責任の原則で提案すべきである。権限とか給与にとらわれるとよい企画はできないし、視点も低くなる。少なくとも自分が社長になったつもりで企画内容は考えなければいけない。
社長になったつもりで、といわれても給与は低いし権限も無い、さらには花の窓際族だ、という考えがあるならば、企画をしない方が良い。さらには、その企画で給与が増えることや昇進することなど期待しない方が良い。会社によっては、他人の企画を横取りする人もいるのである。また、人事システムがそのようになっている場合もある。
企画する気が失せるような極端なことを書いている、と言われそうだが、本欄では巷にあふれている自己啓発書のたぐいのようなキャリアポルノを書くつもりはない。企業の実戦で役立つ弊社の販売しているプログラムの内容の紹介が目的である。
どこの企業でも様々な人が勤務しており、その人々は善人ばかりではない。また、最近発売された「あの日」を読めば、おぞましい人間関係がでてくる。そして、著者の視点で書かれた一方的な悪書ともいえないどこの研究所でもありそうなシーンも出てくる。
これらを特殊な問題として甘く考える人には企画をしようなどと考えない方が幸せと、とりあえず結論を書いておく。企画によりイノベーションの規模が大きくなるほど企画者に対するストレスは大きくなる。
しかし、企業ではイノベーションが常に求められており、質の高い企画は企業の成長のために重要である。ゆえに質の高い企画を提案すれば、それは採用され、提案者はそれなりの処遇なり報酬があるかもしれないが、企画者は、あくまでも企画した後のリスクを十分考慮し、すべて自己責任として捉える覚悟が重要である。
そのような覚悟をして企画提案すれば、何が起きようとも企画実現のために邁進できる(注)。重要なことは、サラリーマン生活で一度は組織を動かすようなイノベーションを起こしたいと考えるかどうかである。今の日本では、プロジェクトに失敗しても首にならないし、チャレンジした醍醐味を味わえる会社は多い。そして、その気になればチャンスは誰にでもある。
(注)転職時に、子供二人がまだ小さく可愛い盛りだった。また、学位も国立T大を蹴っ飛ばしたばかりで、ここで書いているような社長の気持ちで企画を立てる勇気は無かった。せいぜい本部長あるいは部長の視点で、気軽にフィルムやフィルムの表面処理技術の企画を立てて推進していた。それでもドラッカーが言っているように、習慣としていくつか成果が出て、その中で3つほど外部の賞を頂ける仕事は出来た。
気持ちよく仕事をやっていたら、それまで倉庫として利用されていた部屋を区切り、日当たりの良い暇な席に異動になった。
そこで、一念発起早期退職をする覚悟をし、フローリー・ハギンズ理論では説明のつかない技術を企画した。科学では説明がつかないので高分子学会技術賞は逃がしたが、この企画は、基盤技術0からコンパウンド工場を産み出し、高純度SiCの企画同様にサラリーマン生活の良い思い出となっている。
その技術で生まれた押出成形によるベルトは、キャスト成膜によるPI樹脂ベルトを置き換えることに成功し、コストダウンと環境負荷軽減に貢献した。
また、ゴム会社で指導社員に頂いたカオス混合の実用化という宿題もまとめることができた。貢献と自己実現を行い、満足して退職しようとしたら、最終日2011年3月11日は会社に宿泊することになった。永遠に残る退職日の思い出を天からご褒美として頂いたが、サラリーマン誰でも褒めて持ち上げられる機会がつぶれてしまった。
やはり、死ぬ気の覚悟まではいらないが、本気度が足りないと満足の行く企画はできない。出世は運もあるのでコントロールできないが、少なくとも思い出に残るような企画は、それなりの本気度を出せば誰でも出来るはずだ。そのコツが弊社の研究開発必勝法である。
カテゴリー : 一般
pagetop
この3年間、弊社が中国で活動してきました成果を踏まえ、5月までに3件ほど混練技術に関する講演会を開催致します。いずれも異なるセミナー会社で開催されますが、申し込みは弊社で行いますのでご案内をさせていただきます。
特に、4月と5月開催の講演会につきましては、セミナー会社に申し込みますと、今期の予算で処理できないですが、弊社に申し込みいただく場合には、講演会参加証が付録となりました「DL版高分子のツボ」配布版その他を購入していただく形態になりますので、講演会聴講料が不要となり大変お得であるとともに、今期の経理処理が可能です。是非ご利用ください。
お申し込みは、ぜひ弊社(info@kensyu323.com)へお問い合わせください。詳細のご案内を電子メールにてさせていただきます。コンパウンドメーカー以外の方にもご理解いただけるような内容を準備しています。
1.混練技術のトラブル対策に関する講演会
(1)日時 4月21日 10時30分-16時まで
(2)場所:高砂ビル 2F CMC+AndTech FORUM セミナールーム【東京・千代田区】
(3)参加費:27,000円
(4)http://ec.techzone.jp/products/detail.php?product_id=4152
2.混練の経験知を伝承する講演会
(1)日時 5月19日 10時30分-16時まで
(2)場所:江東区産業会館 第1会議室
(3)参加費:49,980円(税込)
(4)https://www.rdsc.co.jp/seminar/160522
カテゴリー : 学会講習会情報
pagetop
今年の野球殿堂入りの候補が決まり、星野元中日監督が落選した。ネットで一部話題になっている。当方は、星野元中日監督が殿堂入りしていないことを今回の騒動で知り驚いている。
星野元中日監督は、中日、阪神、楽天の3球団を率いて優勝監督となっている。web情報によれば、3チームで優勝を果たしているのは故・三原脩氏、故・西本幸雄氏を含め、3人しかいないそうだ。
さらに、監督として勝利した数は通算1181勝であり、新聞記事によればこの数字は歴代10位という成績だそうだ。上位の9人全員と、通算勝利数では13位の故・仰木彬氏などがすでに殿堂入りしているので10位の成績ならば殿堂入りしていてもおかしくない順位と感じている。
低迷していた阪神、楽天という2チームを闘将と呼ばれるほどの熱血リーダーシップで優勝に導いた功績は倒産しかかった企業を再生したようなもので、それだけでも殿堂入りしていておかしくない経歴だと思う。恐らく殿堂入りの問題は、審査員の好き嫌いという低レベルな判断が影響しているのではないか。
審査員は殿堂入りしている選手から選ばれているそうだから、同業者の評判がそのまま結果として出る。星野元中日監督は、個性の明確な人物で球界に敵が多い、と噂されていたが、スポーツの世界でも実績より仲良しグループに入ることが求められるのだろう。
競技の勝ち負けは動かしようがないが、殿堂入りは通俗的で適当な評価の世界なのかもしれない。星野元中日監督の個性の問題と言ってしまえばそれまでだが、少し寂しい感じがする。おそらく審査員に選ばれている元選手は小物揃いなのだろう。星野元中日監督のファンとしてではなく、その業績に敬意を持つものには理解できない評価結果である。
イノベーションはいつの時代でも求められており、尖った人材がもてはやされたりした。しかし、組織は必ずしも実績だけで評価しない。星野元中日監督は、当方の時代のスター選手だったが、同僚あるいは同業者から好まれていなかった可能性が高い。
ただし、その際立った才能と個性に強い魅力を感じていたファンは多いはずだ。また、殿堂入りしている他の選手と比較しても、TVや週刊誌で見る人物像は悪くなく性格も良さそうである。殿堂入りしている人の中には、TVの発言を聞いていて常識を疑いたくなる人もいる。
スポーツ界でもこのような状態である。もしサラリーマンとして成功したいならば、このような問題は軽く考えない方が良い。企画を実現しようとするときも同様で、いくら会社に貢献できそうな良い企画でも、組織が大きくなれば企画の品質だけでその採用は決まらないのである。30年以上前に高純度SiC事業の先行投資を決断した経営陣には感謝しているし、このような経営が業界トップになる会社を育てるのだと思う。
カテゴリー : 一般
pagetop
STAGE-GATE法に限らずどのような開発管理手法の会社であっても、企画を実現させるために最も重要なコツは、その風土なり土壌を活かすことだと思っている。これは企画の内容によらず、その土壌、特に中間管理職を含めた担当者すべてが企画を成功させたいという思いが、あるかどうかで企画の成功確率は左右される。どんな優れた企画であっても人間関係が崩れたならば失敗を覚悟しなければいけない。
ゴム会社である騒動が起きたときに当方の頭をよぎったのは、高純度SiC事業の失敗である。住友金属工業とJVとして立ち上がった仕事をすべて住友金属工業に移管する、という解決策も残っていた。また、実際に契約後そのような動きもあった。
これは経営陣の意思と異なり、中間管理職の間で聞かれた噂話である。本来イノベーションを担当すべきコーポレートの研究所でありながら、大学顔負けの研究を指向するような風土の研究所が流行した時代であり、そのような風土では新事業など育たない。
当時研究所で推進されていた二次電池事業や電気粘性流体の開発の進め方を見てきて、高純度SiC事業については、絶対に成功させようという意思は強かった。その思いが研究所の風土に合わず人間関係が知らず知らずのうちに崩れていたのだ。
会社の仕事では、一人だけの力で企画が実現することはまれで、多くの上司、同僚、取引先の方々のバックアップや協力があって成功に結びつく。企画を成功させるためには、いつでもこのことを忘れてはいけない。ドラッカーの「貢献を中心にした思考」とは、このような人間関係に気を配ることも含まれる。そしてそれを重要視することは、企画を成功させるために最も大切な思考方法である。
カテゴリー : 一般
pagetop
昨日は弊社へ混練に関して質問があったので、混練について当方の考えを書いてみた。中間転写ベルト用のコンパウンド工場建設は、当方のサラリーマン技術者として卒業試験のような位置づけになった。約30年間、経営者を目標にがんばってきたが、結局サラリーマン時代はそのチャンスがありながらも、不心得者に対する対応を誤ったので夢が叶わなかった。
しかし、当方が企画し推進した高純度SiCの事業はゴム会社で現在も続いている。恐らく企画としては大成功だろう。さらに学会賞まで受賞している(その審査資料が転職し学会賞の審査員をしていた当方に回ってきたときにはびっくりしたが。)
写真会社では、過去のトラウマから徹底的に既存事業の技術開発企画に徹したが、デジタル化の波に押し流されて、豊川へたどり着き、そこで写真会社とは無縁のコンパウンド工場建設を思い立ち、企画立案し成功させた。その工場は、現在神戸へ移転され稼働していると風の便りに聞いた。
このコンパウンド工場建設の企画は、高分子科学の教科書に書かれたフローリー・ハギンズ理論からはずれた科学的に実現不可能な、すなわち100%成功できないといわれた仕事だったが、その実現不可能だったポリマーアロイの生産工場が10年近く安定に稼働している。これも100%成功した新事業企画といっても許されるだろう。しかも科学で否定される技術企画の成功事例である。
21世紀の開発プロセスと題して書き続けてきたが、本日からは実際に企画を成功させるための方法論を書いてみたい。21世紀の開発プロセス同様に、キモの部分は少し隠しているが、関心のある方は弊社へご相談いただければ対応致します。あるいは昨日の混練の考え方のように、本欄で回答させていただく場合もあります。
なお、弊社では現在混練技術のコンサルティングのために二軸混練機の設備のセットを3000万円程度で販売できないか企画中です。本設備に関してご興味のある方はお問い合わせください。詳細が決まり次第公開致しますが、国内の協力メーカーの調整が完了し、現在は実際の手順を詰める段階まで来ましたので、早期に導入希望のお客様には公開前でも対応させていただきます。
カテゴリー : 一般
pagetop
混練は、高分子をただ混ぜているだけのプロセスではない。練りも進めているのだ。練りのプロセスでは高分子のコンフォメーションも含めた変化がその理解を難しくしている。
混練の教科書を開くと分配混合と分散混合の違いが説明されている場合が多い。形式知として知っていても実戦ではあまり役に立たない知識である。なぜなら、L/Dが50程度の長い混練機でさえも、スクリューセグメントをどのように工夫しても100%完全な混合を実現できないのである。
少なくとも実用的な工程では、100%完全な混合(注)を実現できているところは無いと思っている。何を持って100%とするのか、も問題があるが、ここでは仮に混合しようとしている材料の完全に平衡状態となった分散という意味とする。
かつてバンバリータイプの混練機で混練時間を変化させて取り出したサンプルについて、Tgやそのエンタルピーはじめ各種パラメーターを計測する実験を行ってみたが、30分以内の混練で、およそ平衡状態に到達したと思えるサンプルは得られなかった。
シリンダーの中の滞留時間は二軸混練機では30分未満だろう。完全に材料が平衡状態になるまで混練されずにストランドが押し出されていることになる。仮に分散効率をあげるために微粒子の表面を低分子で化学修飾してもこの状態は大きく変わらないと推定される。
やや話がそれるが、分散効率をあげるために微粒子を低分子で化学修飾したり、分散助剤を添加したりするが、力学物性にその効果が観察されても電子顕微鏡で分散状態の改良効果が見えなかったりする。もし電子顕微鏡観察で改良効果が見てすぐに分かるようであれば、それは大成功である。
たいていは電子顕微鏡写真を加工し、統計的に整理してその違いを議論することになるくらい効果がわかりにくいものである。だから、粘弾性試験も含めた力学物性は分散の効果を知るために感度の高い方法で、その昔、指導社員がご自分で製造されたサンプルの力学物性と同じになるまで混練の練習をしなさいと言っていたことがよく分かる。
(注)熱力学的に平衡な混合状態を混錬で実現しようとしたならば、ロール混錬を用いる以外に無いのでは、と思っている。しかしロール混錬で行ってもどのくらいの時間が必要なのか、ご存知の方がいらっしゃったら教えてほしい。
カテゴリー : 一般 高分子
pagetop
中間転写ベルトの成功で一番大切な技術は、カオス混合プロセスであるが、在職中は学会でも評価されず、あげくのはては混練機のメーカーではない、という理由で関連技術の特許出願をすることができなかった。早期退職して起業した一因でもあるが、その後中国のローカル企業で実績を積みながら在職中に開発したタイプと異なる構造の装置の改良を進め、2014年に高分子学会から招待されて講演を1時間行っている。また、二軸混練機とセットでこの時のプロセスの別様式バージョンを販売準備中である。
準備が整い次第、本欄で価格等の情報を発信するが、科学的に説明が難しい技術は日本の企業で扱いにくい。しかし、21世紀はこのような状態を打破しなければ、日本のものつくりは発展しないと思っている。科学を捨てよ、と言っているのではなく、科学を道具として使い、人間の6つの感覚をフルに活用した技術開発が重要と提案したい。
科学教育が科学の普及を達成でき、科学の時代を実現できたように、日本の教育に欠落している技術教育を弊社は指向したいと思っている。今、日本では実績が無いが、中国では少しずつ実績が出ており、ローカル企業の開発力向上に役立てていただいている。
日本でメソッド単体の販売は難しそうなので、二軸混練機に混練機の使い方としてメソッドの普及を考えている。二軸混練機は、科学的には完全に説明できていないプロセスであり、混練されて吐出されたコンパウンドが中途半端なモノであることがあまり知られていない。
中間転写ベルトの開発で一番障害となったのが、根拠の無いコンパウンドメーカーの自信である。科学的に満足な説明のできないコンパウンドを自信を持って販売している、という不思議な状況である。もし機能性コンパウンドを開発したい企業があればいつでもご相談ください。コンパウンド技術について0からご指導させていただきます。射出成形や押出成形を行っているメーカーで既存のコンパウンドに不満があれば内製化した方が良いと思っている。弊社は、そのお手伝いを致します。
カテゴリー : 一般
pagetop
単身赴任前に、研究開発必勝法により開発成功へのシナリオは描かれていた。ただ、PPSと6ナイロンを相溶させる機能をどのように実現するのか、机上で考えても分からなかった。科学で否定される機能なので、論理的に導かれないのは当然のことである。窓際管理職という幸運な立場だったので、予算はなかったが自由に出張や実験はできた。
ドラッカーが言っていた貢献と自己実現が働く意味という言葉は、窓際族には勇気になる。貢献のベクトルを間違えなければ何でもできる立場を味わうことができる。しかも日本の会社では生活できる十分な給与がもらえる。さらにベクトルさえ合っておれば、首にならないし、自分で進路さえも自由に選べるのである。さらに窓際で明るく輝くことも自己実現次第である。ゴム会社の新入社員時代にメモしていた備忘録を見ながら、混錬技術の勉強を始めたが、何でも記録する習慣は大切である。
「あの日」を読むとメモを取っていなくても、恨みつらみというものは忘れない、という人間の性を改めて感じるが、実験ノートさえとっていなかった問題は、大事な細かい点がこの本に書かれていないことと関係があるのだろう。当方の備忘録は、実験ノートが無かったゴム会社で、実験ノート兼講義録兼**何でもノートだった。日記の代わりでもあった。
ドラッカーも言っていたように、記録することは自己実現努力の基本である。備忘録のおかげで、30年近く前のポテンシャルに技術力を戻すことができた。ゴム会社ではセラミックスのキャリアであったが、3ケ月間はゴム技術者だった。しかも、優秀な指導社員のおかげで、当時先端材料だった樹脂補強ゴムの実用的な処方を3ケ月で完成できるポテンシャルまで能力が高かった。
単身赴任前に使えそうな機能を探すために、バンバリーやロールなどの混練機でPPSと6ナイロン、カーボンを混練してみた。そのとき、機能に使えそうな現象が幾つか発見されていた。ただ、検討に用いた方法が連続プロセスではないので実用性が無く悩んでいた。しかし、ロール混練の条件を工夫するとPPSと6ナイロンが相溶したようなデータが得られていたので、実用的なカオス混合プロセスさえ考案すれば、必ず成功するという自信があった。
これはSTAP細胞の研究者と同様の感覚で、ただその研究者と当方の違いは、再現性に向けて工夫と実験を自分で繰り返していたことである。そして観察した状況を細かく手帳に記入していた。技術開発が成功するかどうかは、機能の発現について再現性がどの程度あるかによる。また、他の人が実験をしやすいように工夫した点を忘れないように書くことである(注)。機能の再現性が十分に高いならば、それを経済的なプロセスで組み上げるだけである。
経済的なプロセスのアイデアが、たまたま押出成形の現場で閃いた。機能の再現性の確認は、単身赴任前に、十分に実験していた。ゆえに発見された経済的なプロセスを周囲の納得が得られるようにデータを組み合わせて、論理的に構成する作業だけであった。
詳細は省略するが、製品化までの期間に、世界で例の無いカオス混合プロセスの工場が稼働し、PPSと6ナイロン、カーボンの配合を変更することなく、中間転写ベルトの開発に無事成功した。この開発の最後のデザインレビューで、方針管理に基づき外部のコンパウンダーとともに開発を進めてきたマネージャーBは、従来法では技術ができないことが証明された、と否定証明を展開し、子会社の工場のコンパウンドでなければ製品ができないことをプレゼンで示してくれた。否定証明もこのように使用すれば有益な方法となる。
(注)ドラッカーも記録することの重要性を著書の中で述べている。記録された内容を後日読んでみると大変参考になるときがある。また、数年後に読めば成長の記録となる。研究者が実験ノートを書くのは、ただ備忘録のためだけでなく自己の成長のためにも必要なことである。
カテゴリー : 一般
pagetop
中間転写ベルトの開発では、外部からコンパウンドを購入して開発が進められていた。コンパウンドは高価格だったので、試作に失敗した材料は捨てずに、成形条件検討用に再利用していた。ただ、再生材で検討された成形条件が、新しいコンパウンドでは再現しない問題があり、押出成形の開発は一進一退を繰り返していた。
赴任したときに奇妙に感じたのはこの点で、担当者に尋ねたところ単なるコンパウンドのばらつきだろうという回答が返ってきた。当方はコンパウンドのカオス混合プロセスをどのように実現するのか考えていたので、押出金型のリップ部に着目した。担当者に指示し、新しいコンパウンドをベルト成形が難しい押出機の最大吐出能力で押し出してみた。そしてその材料でベルトを製造してみたところ、抵抗偏差の小さいベルトができた。
不思議なことにボツも少なくなっていた。そのベルトを見た瞬間カオス混合のアイデアが閃いた。すぐにコンパウンド会社にアイデアを実行させようとしたところ、「素人はダマットレ」と技術サービス担当者からアイデアを一喝、否定された。
また、部下の二人のマネージャーからも科学的根拠が無いという理由で、アイデアの評判は良くなかった。研究開発必勝法で考案したシナリオを発動すべき時が来た、と決断し、若手1名と現場で評判の悪かった作業者1名を組ませてコンパウンド開発チームを作り、コンパウンド工場建設に向けて活動し始めた。
当方の権限や業務はすべて、マネージャーBに任せ、当方もコンパウンド開発チームの一員として活動を始めた。すなわち、従来の管理職としての業務はすべてマネージャーBに任せ、3人でコンパウンド工場建設のための準備を開始したのである。時間と予算が無いので、設備は中古で揃えることにしたが、一番問題になったのは、その年の予算外の予算となることで、その獲得のために、まがりなりにも投資により成功するという科学的な説明が必要だった。
カテゴリー : 一般
pagetop
科学的に問題解決不可能という問題をどのように解いたら良いのか。ゴム会社では、二律背反の問題が好んで技術テーマとして取り上げられていた。日本では、すりあわせの技術などがTVでもてはやされたこともある。ただ、その共通点は、科学で考えると解けない問題をどのように技術で解くのか、と言うことである。
科学と技術は同等という考え方で支配されていた、20年以上前のゴム会社の研究所では、研究所以外の開発部隊が二律背反の問題を解決する、というプレゼンを軽蔑していた。これは、科学で解けない問題ならば、あきらめるのが最善という考え方である。
あきらめる、という回答が許されないとしたならば、考えられる一つの方法は、妥協である。しかし、技術が科学と異なり、現象から機能を取り出す行為であることに気がつくと、科学の知識で考えて問題が解けない、という状態は、深刻ではないのである。技術的にどうしようもない状態より、どうにかなる。技術的にどうしようもない状態は、適当な完成レベルで妥協する以外に道は無い。
iPS細胞のヤマナカファクターを例に、このあたりを説明すると、機能を調べるために、実験を担当した学生は、24個の遺伝子を一度に細胞へ組み込むという無茶な実験を行っている。その実験で細胞に初期化が起こり、科学的な理由は不明だが、iPS細胞という機能が見つかった。そしてこの機能を洗練されたモノにするために、さらに科学的ではない消去法で、4個のヤマナカファクターの組を見いだしている。
技術開発とは、まさにこの例のように実行することである。科学的な意味が無くとも目的とする機能を取り出す実験を行うことが大切である。論理的プロスではなく、ヒューリスティック(heuristic注)プロセスによる実験が重要である。技術では、仮説が真であることよりも、機能実現が重要なので、理由は不明でも機能が発現すればそれで良い。科学こそ命という人がこのようなことを聞くと鼻血を出して怒りそうだが、新しい技術の多くはそのように生まれている。
但し、再現性が乏しい機能は、経済的な技術に創り上げることは難しい。すなわち技術開発とはロバストを改善することだ、というのは田口先生の名言だが、機能の再現性を上げるために開発するのが技術開発で、企業では科学の研究よりもこれを優先しなければ21世紀は生き残れない。
(注)いつも正しい答えが得られるわけではないが、すなわち論理性は保証されていないが、ある程度のレベルで正解が得られる、と言う意味
カテゴリー : 一般
pagetop