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2015.03/19 イノベーション(38)素材メーカーの場合

かつてシーズ指向ではなくニーズ指向による技術開発を、と叫ばれた時期がある。市場のニーズをとらえて技術開発せよ、という趣旨だが、技術開発そのものは、どちらでも良いように当方は思う。イノベーションの戦略としてシーズ指向で技術開発を行っても間違いではない、と経験上思っている。

 

例えば業界や市場で予期せぬことを見出し、それをイノベーションの機会として捉えた時に、自社の技術シーズで戦略的にどのように取り組むのか、という考え方があっても良い。このときニーズ指向にとらわれ過ぎると自社の強みを生かせないことになる場合がでてくるからだ。

 

そもそもシーズかニーズかという議論よりもイノベーションをどのように引き起こしたらよいのか、という議論をしなければいけないと思っている。ドラッカーはイノベーションを起こすための機会として、最も成功確率の高い業界や市場内部の予期せぬ変化以外に6つの機会をあげている。

 

そして新しい知識の登場を機会として捉えることはイノベーションの成功と言う視点として最も確度が低い、と述べている。そのほかの5つの機会は、調和しないもの、プロセスに潜むニーズ、産業と市場の構造変化、人口構成の変化や認識の変化などが述べられているが、今という時代は素材メーカーにとってイノベーションを起こす好機ともいえる。

 

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2015.03/18 イノベーション(37)素材メーカーの場合

東レの社内風土は知人から聞いても、技術者にとってうらやましい風土である。これは経営陣の努力の賜物だろう。炭素繊維のテーマは、それを担当した技術者とそれをサポートした中間管理職が一体となって貢献した成果だと思う。

 

経営陣はドラッカーのマネジメント論に述べられたイノベーションの意図から少しはずれて、貴重なシーズを事業として成功に導く努力をした。そしてその努力の過程で、マネジメント体制を整備した功績が生まれた。
 
実はこの功績がイノベーションを成功させるために最も重要なことだ。技術としての成功だけではイノベーションを成功させたことにならない。マネジメント体制の整備があって初めてイノベーションは成功に導かれる。
 
これはゴム会社における高純度SiCの事業を見ると理解できる。二億四千万円の先行投資でスタートした技術開発は、社長交代と業界3位の会社を6位のゴム会社が買収するという事業環境の変化で会社の中ではお荷物テーマとなる。
 
しかし経営幹部は技術開発の担当者を励まし続けた。但し、中間管理職は冷ややかな目でテーマを眺めているだけだった。やがて死の谷を歩いてきた担当者は転職を決意する。
 
この転職の決意に、マネジメント体制の整備への願いがあったことは言うまでもない。他社とのJVが立ち上がりながら、技術開発の中心人物が退職するという事態になり、研究開発本部ではあわてて研究開発体制を作ることになり、その結果事業として成功し、ゴム会社はこの技術で日本化学会化学技術賞を受賞する。
 

すなわち、技術が生まれた後、それを事業として成功させるのには、マネジメント体制が極めて重要であり、とりわけ中間管理職のマネジメントがその成否を左右する。

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2015.03/17 イノベーション(36)素材メーカーの場合

東レの炭素繊維技術は、PAN繊維の技術シーズを基に発展し、スポーツ用品分野に大きなイノベーションをもたらした。1980年代はテニスラケットやゴルフシャフトへ炭素繊維の複合材料がどんどん応用されていった。
この意味で東レの炭素繊維技術は、企業が起こしたイノベーションの典型例として語られることが多い。しかしドラッカーのイノベーションの視点では、最も信頼性確実性の低いイノベーションの機会とされている。
技術者から見れば、東レの技術開発は王道をゆく、うらやましい姿をしているが、中小企業を含めた製造業の全てがお手本にできる例ではなく、むしろ確実性の低い真似すべきではない方法と言われる。
ドラッカーは、イノベーションの機会として業界や市場内部で生じた予期せぬことが見出された時に、イノベーションを起こす良い機会である、と述べている。これは東レが炭素繊維を上市した時に、繊維メーカーの多くが新しい炭素繊維の製造方法を開発し市場に出てきた現象でさらにその意味を学ぶことができる。

ゆえに、お手本にすべきは、カイノール繊維やピッチ系炭素繊維、その他無機繊維などを生み出した企業の姿勢である。予期せぬ現象が市場に起きたと判断し、開発を始めた姿勢がイノベーションを起こした姿勢である。
東レの炭素繊維技術は、その開発ストーリーではシーズ指向の開発であったと語られることが多い。マーケットニーズを把握して開発された技術ではなかったので、事業として成功するまで長い死の谷を歩くことになった。

 

その時の経営陣の対応など社外の技術者が見てうらやましい社内風土なので技術開発の模範事例として語られているし、当方もその姿勢にあこがれ高純度SiCの開発でイノベーションを狙ったが、6年間大変苦労した。

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2015.03/16 イノベーション(35)素材メーカーの場合

企業の目的である顧客創造の機能として、マーケティングとイノベーションが重要と、ドラッカーの書に書かれている。マーケティングについては、多数の図書が発行され、その具体的方法を学ぶのに苦労をしない。

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しかし、イノベーションを起こす方法については、なかなか良い本が見つからない。そのため、この活動報告で書いているが、素材メーカーを例にして、具体的なイノベーションについて考察してみる。

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東レの炭素繊維技術は、日本を代表するイノベーションの例としてよく取り上げられる。確かに優れた技術開発の事例であり、イノベーションの一例であることを否定をしない。しかし、スピード感のあったイノベーションかどうかについては、その開発の歴史をみればご理解いただけると思う。

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ドラッカーは、その著書の中でこの炭素繊維の技術開発のようなイノベーションをどちらかというとよくない事例としている。企業が行うイノベーションは、もっと単純でなければいけないとまで言っている。

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おそらく、このドラッカーの見解について異論を唱える人は多いかもしれない。しかし技術開発を人類史のレベルで考察すると、このドラッカーの見解は正しいと思う。企業がその活動の中で普段行うべきイノベーションは、もっと簡単な実践で良いのだ。

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ただ、これは炭素繊維の技術を否定する意味ではない。ドラッカーの見解を深く考察すると、むしろこのような技術をたくさん効率よく生み出す方法が見えてくる。

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2015.03/15 イノベーション(34)ドラッカーの場合

昨日は60年前のドラッカーの著作に書かれたイノベーションについて触れたが、1985年に出版された「イノベーションと企業家精神」は、ドラッカーのイノベーション論の集大成とも言える書である。この書では、「創造する経営者(1964)」や「断絶の時代(1969)」、「マネジメント(1974)」はじめ多数の著書に書かれたイノベーションを改めてまとめ直している。

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ドラッカーの意味するイノベーションは、以前にも説明したように技術革新だけではない。創造的破壊により、非連続的な発展が起きる全ての経営に関係する現象を言っている。だから「断絶の時代」という言葉は、日本で単なる世代間の断絶として新聞で誤用されたりしたが、これは素直に訳せば不連続あるいは非連続の時代という意味である。

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ドラッカーのイノベーションによれば、目の前に起きている変化、それに気づくことが重要で、その変化の先端にある価値の具現化されたものをただ真似る、というだけでもイノベーションを起こせる可能性がある。ドラッカーはここまで言っていないが、30年以上の技術開発経験から、少なくとも技術については、トレンドの先端にある技術を少し真似るだけでもマーケティングと組み合わせればイノベーションを起こせると思っている。

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たとえば1990年代にゾルをミセルに用いてラテックスを合成する技術の開発に成功したが、これは当時先端技術であったライバル会社のコアシェルラテックスの合成方法をトレースしていて発明した方法である。そして、この技術は当方の開発から5年後学会誌で欧米の研究者により、革新的技術として学術論文に発表された。

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当方のグループで開発したときには、おもしろい技術という程度の認識で、たまたま国立大学の先生から高分子学会賞に推薦された時には謙虚に技術説明を述べたが、その審査会で某私立大学の先生から陳腐な技術と言われ、がっくりした。日本のアカデミアには、技術を理解していないで審査員として出てくる、このような問題のある先生もいるので注意が必要だ。

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2015.03/14 イノベーション(33)ドラッカーの場合

あらためてドラッカーの意図したイノベーションについて、彼の著作から見てみると、かなり昔からイノベーションの重要性を訴えていたことがわかる。たとえば彼が44歳の時の著作「現代の経営(1954年)」では、マネジメントとは何か、という問いから始まり、マネジメントにおけるイノベーション実践の重要性を述べている。

 

彼は、その書でマネジメントを組織体特有の機関(日本語の訳)と表現し、組織は生きた存在として機能するためにマネジメントを必要とする、と述べている。そして企業のマネジメントは経済的な成果をあげることによってのみ、その存在と権威が正当化されると説明している。

 

そこから事業のマネジメントについて基本的な定義として「経済的な機関」が生まれ、その機能が現代の経営の中で3つ説明される。詳細は書籍を読んで欲しいが、60年前の書でありながら、その内容は色あせていないばかりか、現代の経営者として、この書に書かれた視点で満点をとれるのか、とわが身を反省したくなる。

 

この書でイノベーションは、事業の目標を設定すべき8つの領域の一つとして説明されている。ちなみに8つの領域とは、マーケティング、イ

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2015.03/13 イノベーション(32)ドラッカーの場合

実はマネベーション8つの戦略は、ドラッカーのイノベーション論を参考に考え出したものだ。彼は、イノベーションのはじめの一歩は、「すでに起こった未来を予期する」ことである、と述べている。これは彼の著作によく出てくる言葉だ。彼の遺作では、これが「誰も見たことのない未来が始まる」という言葉になっていた。

 

ドラッカーの遺作は、過去の著作を読んだ経験から10年後以降の予言と思っている。この遺作の表現をどのように解釈するかは、後日述べるが、少なくとも現在と数年後程度までのイノベーションの方法については、「すでに起こった未来を予期する」ことが重要である。

 

これは、どのような短い期間の流行でも、その発生から社会に流行するまでに一定の期間があるので、この一定の期間の間に機会を活用すると、変化の先頭に立つことができることを意味している。このときの機会の活用にマネベーション8つの戦略は有効である。

 

1980年代に起きたセラミックスフィーバーは、材料技術にイノベーションをもたらし、今ハイブリッド車に活用されているSiC半導体を実用化に導いた。このイノベーションで小生は、6年間死の谷を歩くような苦労をしたが、その苦労の経験からマネベーション8つの戦略を思いついた。

 

ドラッカーもその著作の中でイノベーションを成功させるためには、小規模に始めなければならない、とか、イノベーションは簡単なものにしなければいけない、と述べている(「イノベーションと企業家精神」)。

 

すなわち、イノベーションを引き起こすのに限られた天才しかできない全くの新規創造物である必要はなく、今目の前に変化の兆しとして見つけた製品のマネでかまわないのである。これは自分の経験から思いを込めて力説したい。すなわち、イノベーションは機会さえあれば、その機会をとらえるスキルとイノベーションを起こそうとする意志があればだれでもできることだ。

 

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2015.03/12 イノベーション(31)ドラッカーの場合

ドラッカーは、顧客の創造を実現する機能としてマーケティングとイノベーションの二つが重要と言っている。マーケティングについては説明の必要はないと思うが、顧客指向あるいは市場指向がポイントである。マーケティングの結果、顧客をよく理解できて独りでに売れてしまうような製品を生み出せる。

 

それではドラッカーの言うイノベーションとは何か。それは人的、物的、社会的資源に対し、より大きな富を生み出す新しい能力をもたらすことと著書に書かれている。その具体的方法としてこのシリーズの最初にマネベーション8つの戦略を示した。

 

ドラッカーは抽象的に4つの戦略を示しているだけだ。すなわち、業界や市場の内部要因と、外部要因に対して着眼し、1.顧客が真に欲求するものを提供することでイノベーションを起こす戦略、2.価格設定に工夫を凝らしてイノベーションを起こす戦略、3.顧客が抱える問題点を機会に変えてイノベーションを実現する戦略、4.顧客に価値を提供するという視点から製品やサービスを定義する戦略の4つを示している。

 

この4つの戦略それぞれに当方のマネベーション8つの戦略を具体的に実践可能である。ドラッカーが示した4つの戦略を成功させて製品や市場の性格を変えイノベーションを引き起こせば市場の勝者となる、というのがドラッカーのイノベーションの基本的な考え方である。

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すなわちドラッカーの意味するイノベーションとは、周期的に起きている大きなイノベーション以外に企業がその活動として実践しなければいけないことなのである。ゆえに技術開発ならば、誰にでも実践可能なマネベーションを体得しておくと便利である。

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2015.03/11 イノベーション(30)ドラッカーの場合

「マネベーション8つの戦略」というタイトルこそつけなかったが、20回近くにわたり、マネを基本にした誰でもできそうな戦略を紹介してきた。その理由はイノベーションには、まず実践が重要だからだ。まず何かを実行しなければ不連続的進歩にぶち当たらない。とどまっていては退歩するのと同じである。できるのかできないのか悩むのではなく「やる」のである。

 

ドラッカーは企業活動の目的は顧客の創造にあるとした。そして顧客の創造をするために、マーケティングとイノベーションを行わなければならない、と力説している。やれるかどうか、ではなく、企業の機能としてこの2つに取り組む必要があると述べている。すなわち、顧客の創造のために実行する必要がある、あるいは、ドラッカーはそれを「やれ」とまで言っているのである。

 

ただし注意しなければいけないのは、ドラッカーは具体的な方法を示していない。ドラッカーの著作が難解と言われるのは、すべてが抽象的な表現だからなのだ。そこで長年ドラッカーを読んできた当方が「マネベーション8つの戦略」として具体化してみた。これが唯一の方法とは言わないが、誰でも簡単にできる方法ではないか、と思っている。

 

もしこの活動報告を読まれている方が管理職の方ならば、部下に8つの戦略を試してほしい。ささやかなイノベーションをその日から引き起こせるかもしれない。イノベーションはマネジメントの根幹でもあるので、それを具体的にどのように実践するのか、特に技術畑の管理職は毎日悩む。もし悩んだらこのシリーズの最初から読み返していただきたい。

 

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2015.03/10 イノベーション(29)

イノベーション=技術革新という訳語がいつ日本で一般化したのか知らないが、少なくともバブルがはじけてから10年間はこの訳語が一般的だったような気がする。21世紀になり、失われた10年などという言葉が流行して「ハイコンセプトの時代」がやってきた。

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するとイノベーション=技術革新に対して異議を唱える日本人が増えてきた。さらに欧米ではイノベーションについてシュンペーターが1910年頃に「経済の革新」をイノベーションという言葉で表現していたのだから今更おかしい、という人まで現れてイノベーションの言葉の意味が技術革新では無い、と論評することが流行にまでなった。

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「化学と工業」の2014年9月号にまで、このことが載るようになった。言葉というのはおもしろいものだ。それを論じているだけで深く考えているような錯覚に陥る。大切なのはその意味するところの実行にあるのだが、言葉の議論に終始し、具体的な実行方法まで思いが至らないという間違いをやってしまう。

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ちなみに日本化学会の雑誌のタイトルでは「大学研究者にイノベーションはできるのか?」と実行ではなく疑問符になっていた。イノベーションはドラッカーも1970年頃の著作で指摘したように「断絶」すなわち非連続的発展であり、誰かにできて誰かにできない、という議論は無意味である。

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「まず、やる、イノベーション」という精神で取り組めば誰でもそのチャンスは訪れると思っている。その思いを込めてマネベーションなる造語で8個の戦略を説明した。犬も歩けば棒にあたる、という言葉があるように、日々イノベーションを心がけておればどこかで創造的破壊を引き起こすことが可能と思っている。

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それが起きた結果は不連続かもしれないが、そのきっかけまでは連続した知性の歴史があるはずだ。その歴史をマネベーションで少しずつ磨き上げていったときに、技術では突然不連続の発明が生まれる。技術だけでなくファッションや思想の歴史を見ればそのような不連続性を歴史の中に見つけることができる。変革を志す誰でもそのチャンスが存在する。

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