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2015.01/31 混練プロセス(26)(媒介変数としての高次構造の作りこみ)

電気特性と力学特性というまったく異なる事象のパラメーターが相関するような現象が本当に起きるのか。PPS-ナイロンーカーボンの3元系で製造された中間転写ベルトでは、そのパラメーターの一組が見つかったので、押出工程で抜き取り検査を行っている電気特性について、混練プロセスで粘弾性評価を行いその品質を管理している。

 

その結果、退職するまでの4年間押出工程で品質問題を起こしたコンパウンドのロットは無かった。外部のコンパウンドメーカーの技術サービスから引っ込んでおれ、と言われたのでコンパウンドメーカーとの打ち合わせはマネージャーに任せ、コンパウンドの内製化の準備を始めた時に行った業務であり、これは転職してきた若者の最初の成果である。

 

すなわちコンパウンド開発の最初の仕事として、ベルトを製造しなくてもコンパウンド段階でベルト性能を評価する方法について検討した。この方法を開発しようとしたのは混練プロセスだけを独立して検討したかったからだ。外部からコンパウンドを購入し開発する方針で進められていた業務に、リスク回避のための内製化検討で製造したコンパウンドまで評価する業務を推進することはマンパワーの関係で不可能だった。

 

また、外部メーカーのコンパウンドと同じ条件で押出してよいのかも不明であり、うまく内製化コンパウンドの開発を進めないと同じ穴のモグラと勘違いされる可能性があった。幸いにもコンパウンドメーカーのモグラは当方のコンパウンドプロセスに紛れ込まず、新たに生まれたモグラを退治するだけで済んだ。新たに生まれたモグラは、氏素性が解っていたので一発で仕留めることができた。新たに生まれたモグラについては粘弾性評価で簡単に見つけることができたのである。

 

中間転写ベルトの基本機能は電気特性なのに、それが力学特性を評価する粘弾性装置でエラーを見つけることができるという不思議さに、転職してきた若者は夢中になって仕事をするようになった。知識労働者のモラールは知的好奇心が刺激されれば上がる。

 

かつて有機合成を大学で学びながら最初に担当した仕事がバンバリーとロール混錬で一瞬モラールが下がったが、優秀な指導社員のおかげでサービス残業も苦にならず仕事に没頭することができた時のことを思い出した。

 

異なる事象のパラメーターが高次構造を媒介変数として相関する話は、混練プロセスを学んだ時に感動した知識の一つである。高分子物性の媒介変数を作りこむために混練プロセスの理解は重要である。

カテゴリー : 高分子

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2015.01/30 混練プロセス(25)

(昨日の続き)単身赴任してテーマの問題点を整理してみたが、へたくそなモグラたたきをしている状況だった。モグラが頭を出していないのに一生懸命ハンマーを振り回していた。すなわちモグラは混練プロセスにいるのに押出プロセスでモグラたたきをしていたのである。

 

コンパウンドメーカーは、そこでモグラが暴れまわっているのにモグラを見ようともせず、押出プロセスにモグラが走って行った、と騒いでいるだけだった。コンパウンドメーカーにモグラ用の罠を提案してもモグラを捕まえた経験のないものは黙っとれ、と相手にしてくれない。

 

部下のマネージャーはPPSベルトの電子顕微鏡写真をいっぱい集めてモグラを探していた。電子顕微鏡写真というのは大変狭い領域を見ていることに気がついていない。コンパウンドの解析データを尋ねたら、ベルトの写真と変わらなかったのでベルトを中心に問題の原因を解析している、という。いくら見える化しても見えない人には、あるいは見ようとしない人には無駄である、という典型的な状況だった。

 

たまたま単身赴任した同じ時期に、ゴムベルトの押出をやっていた、という若者が転職してきた。ベルトが嫌でこの会社に来たのにまたベルトをやることになってがっかりした、と言っていたのでコンパウンドを担当させることにした。

 

粘弾性測定装置を用いた様々の測定法を指導し、コンパウンドの粘弾性について解析させた。マネージャーは開発しているのは中間転写ベルトなので力学特性ではなく電気特性の評価が重要ではないか、と仕事の進め方について疑問をぶつけてきたが、力学特性と電気特性との強相関性を講義し煙に巻いた。

 

30年前に、ゴム会社の指導社員から高分子物性に関して高次構造との相関があれば事象の異なる特性も相関するという面白い現象が起きる、と習った。目標を達成した中間転写ベルトの材料ではそれが起きるはずである、と想像した。また、粘弾性評価という巨視的な材料評価は、コンパウンドの混錬の状態を観察するのに適した方法である。

 

高分子材料では解析目的に適したサイズをまず決めなければいけない。導電性微粒子と絶縁体の複合材料において、導電性はパーコレーション転移という現象で決定される。最も小さい領域は、微粒子界面の現象で、接触点の一点は大変小さいが導電性微粒子同士にわずかな接触があればホッピング伝導領域も含め微粒子サイズレベルよりも大きなサイズとなる。

 

すなわち電子顕微鏡で求めることができるのは、微粒子の集合体であるクラスターの大きさ程度で、クラスターの分散状態やその状態から生じる現象を見るためには、もう少し大きな領域を見る必要がある。粘弾性評価を工夫すると、その領域で引き起こされる現象を観察することが可能となる。粘弾性評価装置は動的弾性率を求めるだけの装置ではないのだ。

 

カテゴリー : 高分子

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2015.01/29 混練プロセス(24)

混錬により何が変わるのか?これが理解されていないと混練機の性能を評価することができない。混練プロセスにより高分子は変性されているのだが、それに気がつかず、ただひたすら二軸混練機の混練条件を変えてみてみても、目的とする物性が得られるわけではない。

 

また二軸混練機のどこに問題があるのかも解明できない。混合では分散が均一になっていること、とそのゴールを明確に言える。しかし、混錬は単なる混合ではなく練も行われている。そして練を活用して混合も進めている、と言うことに気がつかなければ、二軸混練機を使用して材料の開発などできない。

 

また、既存の二軸混練機ではゴールを実現できない場合もあることを知らなければ、材料開発はモグラたたきになる。2005年に八王子勤務から、近くには中京の熱海と言われる蒲郡があり、お稲荷さんとちくわで有名な豊川へ単身赴任した時に一生懸命モグラたたきを行っているコンパウンドメーカーに出会った。

 

モグラの捕まえ方と料理の仕方を教える、と言ったら素人は黙っとれ、と技術サービスに言われた。確かにそれまで二軸混練機を使用したのは、パルプ樹脂複合材料を開発しようとした時に、KOBELCOの二軸混練機を一度借りて、二軸混練機では異臭のしないパルプ樹脂複合材料はできない、という結論をだした経験だけである。

 

6年もPPSというモグラをたたいている一流のコンパウンドメーカーの技術者のような二軸混練機の経験は無い。しかし、3ケ月間二本のロールとバンバリーを相手に平均睡眠4時間以下という状態で格闘し、世界初の樹脂補強ゴムで某社の防振ゴムを仕上げた経験があった。混錬で高分子の何が変性されるのか豊富な分析データとシミュレーションデータ、およびそれらと実データとの突合せで混錬の理解を深くし新たなテーマの整理ができていた。モグラを当時と同じ3ケ月で料理できる自信はあった。

 

豊川へは左遷だったが、約30年前の課題を解決できるチャンスとなる楽しい単身赴任だった。家族にもなぜ楽しい顔をしているのか、と言われた。当時赴任する途中のドライブインで撮影した家族写真では、一人だけ楽しそうな顔が写っていた。サラリーマン最後の仕事をする覚悟もできており、後は周囲が失敗するだろうと噂していたテーマを成功させるだけであった。

カテゴリー : 高分子

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2015.01/28 混練プロセス(23)

上海近郊の大学で見学した混練機は怪しげな設備であったが、混錬性能をあげるためにはロータの改良が重要という主張は正しいと思った。そして押出部分とロータ部分を分けた設備を開発している点は間違っていないが、ロータの改良をしている、といいながらも見せてくれたロータの種類は少なかった。

 

ただそのすべての形状は印象に残った。モーノポンプと呼ばれる特殊なポンプに使用されているスクリューとロータを組み合わせたような形である。恐らくロータに送り機能をつけたくて考え出された構造と思われるが、通訳の説明にはそのような解説は無かった。

 

また、押出機と組み合わせているのでそこまで考えて設計していないのかもしれない。しかし、もしヤマカンであのような構造に至ったとするならば面白い、と帰国する飛行機の中で考えた。やや怪しげな先生だったが、もしかしたら混練マニアかもしれない、と思った。

 

雑談では混練技術をライフワークとして考えているとか世界中で自分ほど混練技術を研究している研究者はいない、とか連発していた。そして混練技術の教科書的な説明を数式をまじえながら説明するその姿は自信に満ち溢れていた。見える化した二軸混練機はその先生の自信作だ。

 

ただ残念だったのは高分子と混練技術の関係を質問しても答えていただけなかった点である。一応高分子が専門と自称していたが、面談で9割は混練設備の話で残り1割はナノカーボンを分散したというポリエチレンシートの話である。

 

このポリエチレンシートの話では、本当に分散が成功したのか示す証拠を見せていただけなかっただけでなく、日本の高分子学会技術賞を受賞した、粘土を高分子にナノ分散した研究のこともご存じなかった。

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2015.01/27 混練プロセス(22)

二軸混練機の運転で難しいのは、スクリューセグメントの設計と混練温度である。スクリューセグメントについては押出機として使われていた時代から様々なデザインのスクリューがある。スクリューを眺めているとその時代の技術者の思いが伝わってくるようなものもある。

 

30年以上前に二軸混練機を使用していた技術者は、あまり練を意識していなかったように思われる。混合を促進する構造のスクリューばかりである。ローターを発明した技術者は恐らくこの点に着目したのかもしれない。この30年間に様々なローターが開発されている。

 

上海近郊にある某大学で混錬を研究しているという先生の紹介を受けた。ポリエチレンにナノカーボンを分散する研究を行っているという。そして、その先生の独創とされるすべてロータで構成された混練機を見せられた。

 

押出機と組み合わせて使用するような構造で、実験室には、それも独創の押出機と組み合わせて、システムとしてオリジナルな設備だと説明していた。そしてそのシステム構成に秘密があり、詳しくは教えられない、と言ってきた。

 

どこが秘密なのかさっぱりわからなかったが、ナノカーボンの分散に成功したと言われるポリエチレンシートを見せられた。真っ黒なポリエチレンシートを渡されたが、その電顕写真はこれから撮影するのですぐに返せという。怪しげな説明である。

 

その後混錬の講義をするというので、1時間プレゼンテーションを聞いたが、一般の教科書に書かれた内容の後に独創と称するロータの写真が少し述べられただけのがっかりする講義だった。混練機のシステムやロータが独創であることを何度も聞かされたがその性能の発揮された十分な証拠を見せていただけなかった。

 

現地通訳を介しての説明なので我慢していたが、プレゼンテーションが終了してからウトラッキーのEFMの評価を聞いたところ、ウトラッキーなど知らない、といい、EFMはなんだ、と聞いてきた。伸長流動装置のことだ、と言ったら、どんな構造をしている、と聞いてきたので、議論をやめた。

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2015.01/26 混練プロセス(21)

バンバリーや二本ロールで樹脂を混練する人はあまりいないと思うが、ぜひ一度試してほしい。例えばオープンロールで樹脂を混練すると、時間はかかり、樹脂によっては面倒な現象が起きる。しかし目的とする温度で丁寧に練り上げることができるので、特定の温度で混練された樹脂サンプルが必要な時に重宝する。

 

15年ほど前にパルプとポリエチレンの複合材料をロール混錬で製造し、異臭のしないパルプ樹脂複合材料を開発した。二軸混練機やKCK、バンバリーで混練すると、どのように温度調整しても異臭のする複合材料しかできなかった。しかしオープンロールで混練したところ、パルプの熱分解物が人間の鼻では感知できないレベルの量になった。

 

これはオープンロールだから臭気が揮発した、というよりも混練温度を管理することができた効果である。すなわち二軸混練機やKCK、バンバリーミキサーなどの密閉系混練プロセスでは、温度計の指示温度よりも10℃以上高い温度がサンプルにかかっている。実際にどの程度の温度がかかっているのかはスクリューの構造にもよる。

 

二軸混練機のシミュレーターによれば、指示温度よりも20℃以上も高くなる場合もある。もちろんこれは二軸混練機のスクリューセグメントの設計や運転条件、混練時の樹脂粘度にも依存し、ケースにより大きく異なるが、二軸混練機の設定温度よりも高い温度に樹脂がさらされていることは確かである。

 

パルプ樹脂複合材料は、異臭の発生を抑えるために温度を低く設定しようとする剪断発熱が多くなり、混練時に加熱が不均一になりやすい。その結果いくら低温度にしても部分的にパルプの熱分解温度以上になるところができて、異臭が発生する。ゆえに密閉系の混練機を使用した場合には異臭の発生を抑える混練条件を見出すことができなかった。

 

シミュレーションの結果では最適点が見出されたが、実際に混練してみると複合材料の混錬をパルプの熱分解温度以下で混練することができなかったので、剪断発熱が予想以上に多いと推定された。新入社員の実習経験から想定内の出来事ではあったが驚いた。

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2015.01/25 混練プロセス(20)

二軸混練機で樹脂を混練する時に剪断混練という技がある。この剪断混錬では二軸混練機の温度設定にノウハウがある。詳細は問い合わせていただきたいが、そもそも混練プロセスは、教科書に書かれている事柄よりもノウハウが多い。

 

二軸混練機では、吐出量とシリンダー温度、スクリューの回転数以外に制御因子は無い、と思っている人が多い。そのほかにも制御因子は存在する。例えばストランドで押し出した場合には、冷却水槽の温度も成形体の物性に影響を与えるし、フィーダーの位置や、添加剤の投入順序も制御因子になる場合もある。

 

2種以上のポリマーからなるポリマーアロイではポリマーの投入順序で物性が影響を受ける場合もあるので注意が必要だ。また2種同時に添加する方法が良い結果をもたらさないこともある。目標とするポリマーアロイの物性に応じて混練プロセスをデザインする必要が出てくる。

 

特許や学術文献には、このあたりの情報が詳しく書かれていない。ノウハウであると同時に一般則として表現できないためである。例えばPPS系のポリマーアロイではKCKと呼ばれる石臼タイプの混練機で混練した時と二軸混練機では、同じ連続式混練機であるにもかかわらず、異なる高次構造のポリマーアロイが得られてびっくりしたことがある。

 

バンバリーではバッチ式なのでその運転方法により、異なる高次構造をデザインできることを知っていたが、KCKと二軸混練機の使い分けでそのようなことができることを知り、少し面白く感じた。混練作業は3Kの類であり、あまり好きな作業ではない。しかし、時々遭遇する難しく珍しい現象には、好奇心が刺激され何か気持ちよくなってくる。この気持よさは癖になる。科学で解明されていない技術は多いが、混練プロセスでは密閉系非平衡の現象なので、科学で完璧に解明できない。

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2015.01/24 混練プロセス(19)

温度が強度因子であることを知らない人が多い。ただ一点の温度計測で全体の現象を捉えようとすると、大失敗をする可能性が高くなる問題の一つに混練プロセスがある。

 

強度因子とは何かを説明するために、高校で習うニュートン力学の大前提を書くと、対象とする物体が剛体であるということだ。剛体とは力が加わった時に変形をしない物体で力のロスも起きない架空の物体である。このように高校の物理で剛体を仮定するのは、そうでない場合に問題が難しくなるからだ。

 

ある物質に力を加えると多くの物質は微小変形する。ゆえに力を加えた点で計測された強度の値が、他の場所を計測した時に同じ値になるとは限らない。このような計測点が異なると値が変わる、あるいは一点の計測値がその系の全体を説明するわけではない因子のことを強度因子と言う。

 

温度は計測している系が平衡状態にある時に、その系を代表する値となる。しかし現実の系は完璧な平衡状態を作りだすことが難しいので一点の温度計測で得られた値がその系のエネルギーを示しているとは限らない。熱分析装置で装置によりデータが多少異なってくるのはこのためである。ゆえに熱分析装置を扱う時には必ず標準サンプルを測定して温度の誤差を確認してから計測することがのぞましい。

 

二軸混練機はいくつかのゾーンで構成され、各ゾーンに熱電対がセットされている。例えばL/Dが40程度の二軸混練機の場合には10ゾーン程度に分かれている。この各ゾーンの熱電対が示す温度を手掛かりにヒーターの温度を設定するのだが、温度が強度因子であること以前に、10本の熱電対の誤差を日々管理していない人もいる。少なくとも沸騰したお湯に10本の熱電対をつけてみて皆同じ値を示すかどうかはチェックして欲しい。

 

熱電対の管理が十分になされていても混練プロセスで計測される温度には注意する必要がある。熱電対の位置である。各ゾーン同じ位置にレイアウトされているから安心して計測できていると思ったら大間違いである。例えば送りゾーンとロータなどが設置されたゾーンではシリンダーの構造に加工が施されている二軸混練機も存在する。

 

すなわちシリンダーの肉厚が変わっているのだ。さらに二軸混練機の運転状態では非平衡の状態なのでそこで示されている温度は参考データとしての意味しかない。あくまで見かけの温度制御を行うためだけの温度計の役割でしかない。

 

シリンダーを加工し樹脂温度を直接計測できるようにして、最初から二軸混練機に設営されていた熱電対との温度比較をしたことがある。混練条件や混練物質により、その二本の熱電対の温度差は変化した。偶然同じ値を示した場合もあるのだ。すなわち各シリンダーに設営された熱電対はシリンダーの温度管理のためだけに有効であり、実際の樹脂温度変化を捉えていないということを認識するのは重要である。

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2015.01/23 混練プロセス(18)

リアクティブブレンドでは分子設計が重要である。シリコーンLIMSについて信越シリコーンやモメンティブ、東レダウコーニングの3社はそれぞれ異なったコンセプトで材料設計を行っている。恐らく特許の権利関係からこのようになったと思われるが、二官能のオリゴマーと架橋剤で構成された信越シリコーンの設計方針が最も素直なように思われる。そして電子写真分野における信越シリコーンのシェアは高い。

 

このLIMSの問題は、液状物質を均一な状態に混合できても、その後の鎖が伸びる反応と架橋する反応とが均一に生じるかどうか保障されていない点である。例えばローラ部品のような場合には長手方向に温度ムラができる。この点を理解していない人がいる。あるいは大学一年で習う物理化学の基礎の基礎を忘れてしまっている、と言った方が良いかもしれない。バーローやムーアが書いた物理化学の教科書でも数行しか触れていないから、これを焼きなおした日本人の著者による物理化学の教科書では欠落しているかもしれない。

 

ちなみにA教授の書かれた物理化学の教科書には、この大事な話が一言も書かれていない。本屋で立ち読みした程度だから欄外にでも書かれているかもしれないが、バーローやムーアのように本文にきちんと書いておくべき内容である。もしこの内容を軽く扱っている物理化学の教科書ならばゴミ箱に捨てたほうが良い。(その前に買わないほうが良い)

 

その内容を正しく知っていないと、研究開発の実務を行った時に問題そのものをわからなくする程度の重要な内容だからだ。フローリーハギンズの理論は知らなくても不自由しないが、この内容を知らないと目の前の現象を理解することもできない場合がある。また、この内容を知らないことについて恥ずかしいと思わない人が多い現実もあり、ますます問題解決を難しくする。

 

さて、なぜ均一な反応を実現することが難しいのか。それは反応によりエネルギー変化が生じるからで、そのエネルギー量を計測する手段は、一般には温度になるからである。エネルギーは容量因子であり温度は強度因子であることはまともな物理化学の教科書には最初に出てくる。これは実験を行う時に忘れてはいけないことで、大学に入って初めて習う重要な事項だ。また実務でもよく遭遇する基礎事項である。

 

大学で習ったことは実務で役に立たない、と言う不遜な技術者もいるがこれは大学で初めて習う事柄である。そして技術者が現場で現象を眺める時にいつも注意しなければいけない基礎の基礎事項である。この基礎事項を知らずに現象を眺めていると目の前の真の問題を見つけることができなくなる。

 

大学で習ったことが実務で役立たないという人がいるが、役立てる力量が無いのが問題で、当方は大学院までの6年間で習った事柄のほとんどを32年間に活用した。授業を聞いていた時には無関係と思っていた図学でもプロセス開発を行う時に最低限の図面を書く必要に迫られる。最初わらびや軍配などが出てきて難しいと思われた量子力学でも研究開発で遭遇する問題を基本機能まで分解する時に重要だ。電池開発をしない限り電気化学など不要と思っていたらゴム会社でLi二次電池を少し担当した。

 

学生時代に反応速度論などあまり科学的な内容ではなさそうだ、と軽く見ていたら追試を受ける羽目になった。100点を取らないと単位をくれないと言われ、何度も追試を受けることになった。教養部の必須科目なので落とすと留年する。当初一人だけ追試を受けているので、いじめではないかとも思ったが、丁寧に毎回問題が違っている。通常の追試ではありえないことだ。問題を考える先生も大変だ、と思っていたら種本があった。英文しかなかったその種本を海賊版で読み、半年後ようやく100点を取ることができた。

 

半期の反応速度論の授業を一年かけて受講したことになる。やる気に燃えた若い先生の授業は大変だ。おかげで反応速度論は得意科目になり学位論文の半分はシリカ還元法の反応速度論である。そしてゴム会社の高純度SiCのパイロットプラントは、図学と速度論を駆使して設計された。大学の知識が役立たないというのは、32年間のサラリーマン生活を振り返るとおかしな意見である。

 

50歳過ぎてラインから外れ単身赴任した時に、火が着いていた定着ローラの品質問題を解決した。この時に、部品メーカーのあまりにもお粗末な開発陣に憤りを感じた。シリコーンLIMSの経験について思い出すと基礎学力の重要性を考えてしまう。

 

部品メーカーの開発スタッフは偏差値の高い大学出身者が揃っており、温度が強度因子であることや反応速度論の問題を理解しているはずだ。しかし、生産現場はそれが伺われないお粗末な状況だった。

 

混練プロセスの問題なら同情もできるが、そのあとの科学的に対応可能なプロセスでいくつかエラーが放置され生産が行われていた。混練プロセスは科学的解明が難しいが、その他のプロセスで科学的に対応できるところは問題をすべてつぶしておかないと、混練プロセスの問題が見えなくなる。

 

科学の便利なところは、真理は一つ、という考え方にあり、問題解決を容易にする。混練プロセスは経験に依存するところが多いので問題解決が難しい。ゆえに生産プロセスで混練プロセスを含んでいるときには、その他のプロセスで科学的に解決できる問題をすべてつぶしておくことが重要である。

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2015.01/22 混練プロセス(17)

高速撹拌で生じる剪断流動でχが大きな組み合わせでも一瞬均一になる、という現象は当時の常識はずれな事実であった。そもそも混錬の教科書では剪断流動は効率が高いが到達する分散サイズに限界があり、ナノオーダーまでの分散を行うためには効率が低いが伸長流動を行う必要がある、と書かれていた。

 

また学者も同様の見方をしており、そのような学術報告も発表されていた。しかし2000年ごろ推進された高分子精密制御プロジェクトでは産総研で高分子の高速撹拌機が開発され、剪断流動でもナノオーダーまで到達できることが示された。ただしこの装置は実用性がなくあくまで実験機である。また分子量の低下もあるので世間の評価はいまひとつである。

 

ポリエチルシリケートとフェノール樹脂の混合物は液体であり容易に高速混合が可能である。酸触媒が加えられなければすぐに相分離するが両者の反応バランスを取ることが可能な有機酸(有機カルボン酸でもスルフォン酸でも良い)を添加すると透明なゲル化物が得られる。この段階で分子レベルのポリマーアロイとなっている。

 

これを炭化した生成物についてフッ酸でシリカを除去すると、あたかも線状分子二本分のシリカが抜けたような模様が現れる。すなわちシリカと炭素が分子レベルで均一に混合された化合物が得られたことになる。

 

これを1600℃以上でSiC化すると均一固相反応で見出されたアブラミーエロエーフの式できれいに整理できる反応機構でシリカの還元が行われる。

 

この反応速度論の解析を行いたくてわざわざレーザー加熱可能な熱天秤を2000万円かけて開発した。2000℃まで1分程度で急速加熱可能なこの天秤を用いて収集された速度論データはアブラミーエロエーフの式できれいに説明できた。

 

すなわち高速で発生する剪断流動は伸長流動と同様にナノオーダーレベルまで分散を進めることが可能である。10年ほど前毎分800回転以上の回転が得られる二軸混練機について書かれた論文を読んだが残念ながらナノオーダーまでの混練物が得られていなかった。すなわち高速剪断流動を実用化するのは難易度が高いのである。

 

リアクティブブレンドが一定の市場を確保し、材料開発が進められている背景には、混錬よりも容易に分子レベルの混合分散が可能であることも一つの要因である。また混錬では実現できないポリマーアロイも製造可能である。

カテゴリー : 高分子

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