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2014.02/01 ケミカルアタック(3)

ケミカルアタックはケミカル製品と樹脂の溶解度指数(SP)で決まる、という説明も樹脂の教科書に書かれていたりする。またそこに着目したケミカルアタック防止樹脂という怪しい特許も存在する。確かにSPあるいはχパラメーターに着目すればケミカルアタックを防ぐことは可能である。ただし、その値を分子構造から計算で求めた場合には痛い目に遭う可能性が高い。

 

さらに高分子の溶解の問題あるいは相溶の問題は、実は科学的に100%解明されていない。例えばχの大きい高分子を相溶させた経験がある。光学用樹脂のアペルは側鎖基が嵩高い構造をしている。Tgを高くするためにそのような構造に設計しているわけであるが、そのためこの空間にうまく入るように高分子を設計してやると、χが大きくても相溶させることが可能である。

 

15年近く前に様々な条件で重合したポリスチレンをアペルに混練したところ、16番目の処方で重合したポリスチレンを相溶させることができた。このポリスチレンを相溶したアペルは興味深い熱特性を示した。

 

二種の高分子が相溶したこの樹脂は、室温で透明であるが、80-90℃で白濁が始まる。これはポリスチレンのTgに相当する温度領域である。しかし、135℃前後で透明になり始める。この135℃というのはアペルのTgである。

 

この現象から分かるように分子の一次構造が特殊であるとSPやχパラメーターと無関係に相溶という現象が起きることがあるのだ。高分子のモノマー構造からχを定義し組み立てられたフローリー・ハギンズ理論は大変狭い現象を扱っている理論であるか、あるいは間違っている可能性がある。科学とは一つそれを否定する現象が現れたら再度理論の見直しが行われなければならないが、アペルで見つかった現象を知っているアカデミアの学者は少ない。

 

ケミカルアタックが発生した状態を油と樹脂のχパラメーターあるいはSPからうまく説明することができたとしても対策は実技で対応することが賢明である。現象を科学的に説明することと再発を防止する実務では目的とするゴールが異なるのである。再発防止策は技術的に現場に即して対応することが必要である(続く)。

 

カテゴリー : 一般 連載 高分子

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2014.01/31 技術開発のヒントがSTAP細胞の発明に隠されている

STAP細胞の応用分野に関し、すでにTVや新聞の報道で山中博士のiPS細胞との比較なども行いながら夢が語られている。ここではSTAP細胞の発明から日々の技術開発に活用できるヒントを考えてみる。

 

理化学研究所の小保方晴子研究ユニットリーダーの話によると、昨年春に英科学誌「ネイチャー」に投稿した際には、「過去何百年の生物細胞学の歴史を愚弄していると酷評され、掲載を却下された」ということです。

 

このことは、彼女の発明発見そのものが非科学的であったことを示しています。また論文も昨年春の段階では、非科学的と評価されていることです。この点は新しい技術開発を志すときに参考にすべき重要なことだと思う。

 

また彼女が今回の発明のヒントを思いついたのは、ハーバード大学で行っていたマウスから若い幹細胞を取り出す実験だ、と語っている。小さな幹細胞だけを取り出すために細い管の中を通して選別する実験において、管を通す前には無かった幹細胞がなぜできるのか、と考えたそうである。すなわち幹細胞を選び出す実験において、結果である現象を重視して、選び出しているのではなく細胞が刺激を受けて幹細胞になっている、と考えたのである。

 

また、細い管を通るときの刺激で幹細胞ができているのだから、もし刺激で幹細胞ができるならば、細胞に与える刺激をいろいろ試してみよう、と実験を行った。そして、オレンジジュースくらいの酸っぱさの刺激がSTAP細胞作成に適していると発見し、今回の発表に至った。

 

この着想とその後のアクションのプロセスが今回成功するために最も重要なことである。科学的常識にとらわれず、実験の結果である現象に着目し、その現象を再現するためにどのようなアクションが必要か彼女は考えた。これは弊社の研究開発必勝法プログラムで一般の技術開発でどのように実践したら良いか具体的方法を説明している。

 

科学的方法を重視する指導者は、まず仮説を考えろという。しかしその仮説の立案方法をうまくコーチングできない。実は科学的常識から仮説を考える作業は小学校から学んできてもなかなか身につかない難しい作業プロセスである。弊社の研究開発法プログラムではカラスができる程度のレベルでコーチングする方法を提供し、その結果小保方さんのレベルの技術成果がでる可能性を高める。

 

ここでカラスを例に出したのは、以前見たテレビ番組で紹介されたカラスの行動が参考になる、と思い出したためで他意は無い。その番組ではカラスがガードレールに止まっていたところから始まった。そのカラスは、たまたま通過した自動車がクルミを轢き、殻が割れて実が出たシーンを見ました。そこで、別のクルミをくわえてきて道路に置いたところ同じシーンが再現されたので、自動車にクルミの殻を割らせる工夫を思いつき、それを繰り返すようになった。

 

カラスは目の前の現象を見て、その再現を実現できるアクションを試し、それに成功して、堅いクルミの殻を割る簡単な方法を発明したのです。このカラスの発明プロセスで重要なことは、堅いクルミの殻が割れるとおいしいクルミの実が出てくる、という結果を再現しようと考えて、新たなクルミをくわえて道路においている、ということです。そして人間がカラスよりも賢いのは、自動車の代わりになる道具を試してみるという点です。

 

弊社の研究開発必勝法プログラムの一部を紹介しました。ご興味のある方はお問い合わせください。

 

カテゴリー : 一般 宣伝 連載

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2014.01/30 ケミカルアタック(2)

ケミカルアタックは、環境応力割れとも呼ばれている。樹脂のまわりにケミカル製品が存在すると、本来の強度以下の応力または歪みで樹脂が破壊する現象は、いつでも発生するわけではない。もしいつでも発生する現象であれば、ケミカル製品の容器を樹脂で作ることができなくなる。

 

いつでも発生するわけではないので科学的に取り扱いにくい問題である。例えばポリスチレンでもSPSの場合にはケミカルアタックを起こしにくい。ゆえにSPSの箸なども登場している。この経験からケミカルアタックは非晶質相が多いと発生しやすい、という直感がはたらく。

 

ここで、ABS樹脂やPC、PC/ABS樹脂でケミカルアタックによる故障が多いのはそのためか、と思わず膝を叩いた人は樹脂を少し知っている人である。一方ポリエチレンやポリプロピレンが脆くなって痛い目に遭った人は納得がゆかない。実は結晶性樹脂でもケミカルアタックは起きるのである(注)。

 

ただし、ケミカルアタックが起きたときに樹脂の種類によりその破壊機構が異なる。結晶性樹脂でケミカルアタックが起きた場合には脆性的に破壊する。例えば界面活性剤の水溶液をポリエチレン容器に入れて販売しているケースがあるが、「年」のオーダーでケミカルアタックが進行する。ゆえに破壊したときにケミカルアタックだったのか経時劣化なのか分からないことが多い。そのため、知らずに自動車窓用ウオッシャー液をポリエチレン容器に入れて販売している例を店頭で見る。

 

このようにケミカルアタックでは、非晶質樹脂でも結晶質樹脂でも発生し、その発生機構が異なるが、非晶質樹脂特有の問題として扱っている教科書も存在するので注意が必要だ。科学的には非晶質樹脂特有の問題、と説明した方が説明しやすいからだが、ケミカルアタックに対して科学的に取り組むと問題解決できない、というぐらいに心がけておいた方が痛い目に遭わない。

 

(注)PCは、非晶性樹脂に分類される場合があるが、正しくは結晶性樹脂である。結晶性樹脂とか非晶性樹脂という呼び名は、成形体の状態で業界では使われている。しかし、正しくは全く結晶化しない樹脂に対して非晶性樹脂という言葉を使用すべきである。例えばポリオレフィン樹脂で光学用途に使用されているアペルという樹脂は結晶化する。しかし非晶性樹脂として売られている。そのため樹脂が結晶化して引き起こす問題を見落とす。

 

カテゴリー : 一般 連載 高分子

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2014.01/30 理系女子の大発見

朝、ビッグニュースが飛び込んできた。

体の細胞に酸性の溶液で刺激を与えるだけで、人工多能性幹細胞(iPS細胞)などと同様、あらゆる臓器や組織になれる「万能細胞」を作ることに、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(神戸市中央区)などのグループがマウスの実験で成功した。作製に2~3週間かかるiPS細胞に対し、最短2日間ででき、成功率や使う際の安全性も高いという。効率の良い万能細胞の作製に加え、生体内での臓器再生や細胞の若返りなど、医療の新たな応用に期待が高まる、という。

 

発見者は、理化学研究所の小保方晴子研究ユニットリーダーだ。今AKB48と同様にブレークしているリケジョだ。「刺激惹起性多能性獲得細胞(STAP)細胞」と名付けられたその細胞は、外からの刺激で多能性を与えることができる。さらに研究が進めば、機能の分化も外部刺激で制御できるようになるかもしれない。

 

この大発見の面白い点は、まだ科学で明らかになっていない分野における発見である点だ。柔軟な発想で大発見できた、とどこもが大ニュースで伝えているが、その柔軟な発想を技術者ができるようにする一つの方法が弊社の提供する研究開発必勝法である。

 

発見者の「リケジョ」は泣いたこともある、と記事に書かれている。恐らく科学的にできると保証されていない方法をただひたすら自分を信じて実験を進めたに違いない。もし科学的に明らかな方法であれば山中先生もその方法を試しただろうと思われる。

 

その山中先生は、実験を担当した大学院生の大胆な実験の提案を受け入れ実施しノーベル賞を受賞した。受賞するまでその方法は特許でも公開しなかった、という。特許ではヤマナカファクターの権利を確保すれば良いのだから、「驚くべき方法」で見つけた、と書けば良いのである。

 

山中先生がNHKの放送で明かされたiPS細胞発見にいたる戦略は弊社が販売している研究開発必勝法プログラムで立案できる。また、弊社のプログラムは、そのような戦略を導き出すための方法である。

 

科学的にサポートされた問題解決の方法にはTRIZあるいはUSITがあり、退職まで勤務した元写真会社で導入され、現場では面倒な方法で進めて当たり前の解しか得られない、との評判である。冷静に考えて欲しい。もし科学的に不明な解が、真理が一つである科学的方法を忠実に実行する問題解決法で得られるのかどうか、ということを。

 

TRIZやUSITを使って当たり前のこと以外が出てきたのなら、それは使い方が間違っているのである。TRIZやUSITは、50年以上前にロシアで開発された科学を忠実に再現する問題解決法である。定年前に担当したPPSと6ナイロンの混合されたコンパウンドを用いて半導体ベルトを製造する方法についてUSITで解いたところ、すでに担当者が実行し失敗していた方法しか解が得られなかった。

 

科学の時代では、誰でも最初に科学的に自明な方法を試すのである。そしてうまくゆかないから新たな発想が求められるのである。その新たな発想に科学をトレースするTRIZやUSITを用いることが適切であるかどうか考えて欲しい。科学を理解していない人には科学から得られる結論も必要なのでTRIZやUSITは少しありがたく写るのかもしれない。

 

弊社の問題解決法で解が得られたが周囲では「怪しい方法」と言う人もいたので単身赴任しその解を信じて技術を完成させた。ゴム会社から転職して20年間、「怪しい方法」と言われながら実践の場で活用し、科学で不明確な分野で技術成果をあげ日本化学協会や写真学会から賞を頂く成果もあげた。その基になったのは日本化学会化学技術賞を受賞した「高純度SiC技術」の企画開発手法である。

 

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2014.01/29 ケミカルアタック(1)

ケミカルアタックという名称は現象をわかりにくくする名称である。樹脂にオイルなどの「ケミカル製品」が付着し、それにより膨潤して、あるいは樹脂内部の添加剤が物理的影響を受けて樹脂が破壊に至る現象で、何も問題が無い状態における破壊応力よりも30%以上低い応力で材料が破壊する、化学的現象というよりも物理的現象と捉えた方が良いかもしれない。

 

ケミカルアタックに初めて遭遇したのは小学生の頃である。プラモデル(「スーパーカー」というTV番組に登場した車)の自動車を組み立てて遊んでいたら、ギアボックスがはずれ壊れた。組み立て方法には、ギアボックスがスムーズに動くようにグリースを濡るように説明されている。そのグリースがギアボックスを支えていたボスに付着し、ケミカルアタックでボス割れを引き起こし壊れたのだ。

 

ギアボックスはモーターの動力をタイヤに伝える機能があり、常に応力がかかっている。ギアボックスは、ねじ釘でボスに固定されていた。今から考えると組み立て説明書が悪い、ということになる。また添付されたグリースもケミカルアタックを考慮されたグリ-スでなかった。

 

グリースに問題があるが、なぜ組み立て説明書が悪い、という結論をくだしたのか。ケミカルアタックの説明がされていなかったからだ。ケミカルアタックの問題は、このような問題なのだ。すなわち科学的にはケミカルアタックを起こさないグリースに変更すれば解決がつくように見える。しかし、添付されたグリース以外の油をユーザーが使用する可能性もあり、その注意を喚起するように対策を打たなければ防ぐことはできない。

 

すなわち科学だけでケミカルアタックを捉えると実技で失敗する問題である。それではケミカルアタックという問題はどのような問題なのか改めて考えてみる(続く)。

 

 

カテゴリー : 一般 連載 高分子

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2014.01/28 科学的に明確でない問題を解く方法

高純度SiCの合成方法は1983年に生まれた。そしてその合成方法は6年間という開発の死の谷を乗り越えゴム会社で事業化され現在まで続いている。しかし1980年代にシリカ還元法の反応機構が明確になっていたわけではなく、さらに前駆体の合成条件に至っては、高分子の相溶で有名なフローリー・ハギンズ理論で否定される反応だった。

 

ところがこれらの科学的に明確になっていない問題を解き1週間で製造技術を創りだした。この例に限らず、最近ではノーベル賞を受賞したヤマナカファクターの発見も同様にiPS細胞を製造する因子発見という科学的に明確になっていない技術を創り出した例がある。

 

科学的に明確な問題は、科学的に解いてゆけば必ずゴールにたどり着ける。しかし、科学的に不明確な、あるいはできるかどうか分からない問題をどのように解いたらよいのか。一度科学的に不明確な問題を技術で解く経験をするとその一般則が見えてくる。

 

ただし誰でも見えてくるのではなく、科学と非科学を明確に意識して解いたときにおぼろげながら見えてくる。そしてそれを数回経験すると科学的に解決が難しい問題でも技術で解く事ができる自信が生まれる。

 

マッハは「マッハ力学史」の中で、科学的に明確になっていない問題を解く方法を示している。またイムレラカトシュは「方法の擁護」で、科学で容易にできるのは否定証明だけ、と明快に、科学的に不明確な問題を科学で説くのは難しいことを述べている。

 

弊社では、科学的に明確ではない問題を解く方法を指導しているが、この方法は科学的な問題でも解くことができる。ご興味のある方は問い合わせて頂きたい。この方法についてはゴム会社で経験を積み、写真会社でリーダーの立場で当時は専門外であった領域(注)で実践したところ多くの成果を出すことができた。

 

退職後、写真会社で実践した方法を豊田中研を退職されコンサルティングをされている方にお話ししたら、その方法は「マッハ力学史」に書かれている、と教えられた。あわてて「マッハ力学史」を書店で探し英語版を見つけて読んだら、確かに一部書かれていた。

 

そこで改めて世間の問題解決法について勉強しなおしまとめたのが弊社の研究開発必勝法プログラムである。

 

(注)転職当時はセラミックスや無機材料の専門家として活動していた。その後取得した学位で論文の半分は高純度SiCに関するテーマで単結晶に関しても少し触れている。写真会社では高分子技術の開発を担当した。20年間担当した結果、高分子の専門家としての執筆依頼や講演依頼が多い。来月2月には技術情報協会から依頼され高分子の難燃化技術について考え方を中心に講演する。また6月には高分子学会から招待講演を依頼され混練について講演を行うが、無機材料から有機材料まで、あるいは高度なノウハウが要求される分野まで弊社の問題解決法は何でも対応できます。

 

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2014.01/27 冷凍食品農薬混入事件

マルハニチロホールディングスで起きた冷凍食品農薬混入事件について犯人が逮捕され社長が辞任した。このような事件は日本では起きなかった、時代の流れ、という論調の記事が以前あった。また、この数日の新聞の論調には派遣社員が諸悪の根源のような記事もある。原因はいろいろあるだろうが、かつて企業内事件の被害者の立場から企業の風土が抑止力となる、健全な企業経営が重要である、という点を指摘したい。

 

おそらく今回の事件について犯人から事情聴取を行い、犯人の性格分析その他から事件に至った経緯と原因が説明されるだろう。しかしこのような調査分析から解析が難しい因子がある。企業風土である。職場環境についてはヒアリングなどの状況証拠で原因の幾つかが見つかるかもしれないが企業風土については難しい。

 

人間の行動や心理について科学的な研究が進んでいる。マズローの欲求五段階説などは、その一つの成果である。また、ドラッカーの著作は知識労働者がどのように社会に貢献したらよいのかを示した成果と読むこともできる。今回の事件もこれら成果から多くの学者がコメントを述べるだろうが企業風土の観点から考察できる学者はどれだけいるだろうか。

 

12年勤務したゴム会社は創業者の伝説が今でも生きている健全な企業風土の会社である。またその企業風土を信じることができたので、FDを壊された被害者でありながら誠実真摯に判断して事業を他の人に託し会社を去ることにした。そして高純度SiCの事業は今でもその会社で継続されている。健全な風土の会社でも大きなアメリカの会社を買収し、その負担から会社の建て直しを強引に進めなくてはいけない状況で従業員まで犠牲を強いるような事態になれば、職場環境が歪みおかしな事件も起きるのである。

 

しかし、もともと健全な企業風土の会社なので新聞沙汰になった事件が発生したところで社長が辞任し、昔ながらのすばらしい風土の会社に現在は回復している。サラリーマンは不測の事態に遭遇したら頭を隠してじっとしているのが一番、といった母の教えは健全な企業風土の会社では正しかった、と思う。すなわち創業者の伝説と健全な企業風土がある限り、いずれは改善されるからである。

 

昨今ブラック企業が騒がれておりその内容を読むと企業風土など念頭にない会社もあるようだ。一度良い企業風土の会社に勤務した経験があるとブラック企業という存在およびその経営者の感覚を理解できなくなる。今回の農薬混入事件では社長が辞任し新たな経営者になるが、その経営者に提案したい。企業風土の見直しに取り組まれてはいかがか。

 

 

 

カテゴリー : 一般

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2014.01/26 高純度SiC(9)

高純度SiCをフェノール樹脂とポリエチルシリケートから製造する技術は、前駆体の合成から高純度SiCの合成成功までたった4日でできあがった技術である。現在の製造方法は有機酸触媒が当時のスルフォン酸系からカルボン酸系に変更されたくらいである。

 

さらに技術構想や綿密に練られた事業シナリオが最初にあったわけではない。フェノールフォーム天井材の開発テーマが完了したときに、大量のフェノール樹脂を処分するつまらない作業を面白くするために遊びでフェノール樹脂のネットワークに分子レベルのシリカ成分を固定する作業をしていて思いついた。

 

たまたま世間でセラミックスフィーバーが起こり、会社の事業方針にファインセラミックス事業が設定され、無機材質研究所に派遣される、という状況で鼻歌まじりにゴミ捨て作業をしていた過程で技術シーズが生まれた。鼻歌を歌いながらSiCダイオードはじめ新規事業を推進する姿を想像しながら楽しんではいたが興奮するようなレベルまで至らなかった。

 

高純度SiCの事業をライフワークとして決意したのは無機材質研究所のI先生始め多くの先生方が真っ黄色のSiCをご覧になられて驚いたからである。1年前の白日夢が現実になったのである。留学前に無機材質研究所長と高純度SiCの事業の夢を語りあっても動機づけにはなったが、黄色い粉を見たI先生の「君はすごいよ」という一言ほどのインパクトは無かった。

 

もっともI先生の御指導を受けるためにI先生に高純度SiCの夢を入所前の面接で語ったが、語る本人も夢として語り、聞かれているI先生も若僧の背伸び程度に捉えていたと思う。ただ、実験に成功してからは、事業シナリオだけでなく学位取得に向けて研究シナリオも真剣に考えた。もしゴム会社で相手にされなかったとしても当時の状況から高純度SiCの技術を事業化したいメーカーが声をかけてくれる可能性が高いと期待できた30年前のことである。

 

Lely法は昔から知られており、SiCダイオードを開発するためにはSiCの結晶成長機構を解明する必要があった。当時諸説あったシリカ還元法の反応機構を解析すれば、ヒントが得られるのではないかと考えた。当時知られていたイビデンの縦型炉よりも高純度化に優れた電気炉を開発しなければならないと思った。一ヶ月ほどでおもしろい技術シナリオを作り上げることができたが、ゴム会社の研究所の管理職からは評価されなかった。

 

当時の人事部長はじめ本社の方々のご尽力がなければ、社長へ直接プレゼンテーションを行う機会も生まれなかった。周囲の方々の期待と努力を感じたのでゴム会社のためにJVを立ち上げるまで6年間頑張ることができた。そのため、研究所でFDを壊されるという妨害を受けたときに犯人捜しをしたことを今でも悔やんでいる。

 

長いサラリーマン生活で不測の事態が生じたら頭を隠して災難が通り過ぎるまでじっとしているのが一番である、と母親から教えられた。しかし研究の妨害をする犯人を黙認して許すことができなかった。静かにしていたら一度ならずも三度壊してきたのである。しかし企業内のこのような事件はうやむやになり、騒いだ人間が損をするのが日本社会である。事件を公にした結果ライフワークを諦めなければいけない事態になった。その数年後、この事件とは別の管理職による社長室乱入割腹事件がゴム会社で起きた。この事件は転職先の会社で臨時ニュースを見て知った。衛星放送でケネディー暗殺のニュースが伝えられたときよりもショックであった。

カテゴリー : 一般 連載 電気/電子材料

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2014.01/25 高純度SiC(8)

高純度SiCの最もホットな用途は、SiCウェハーの原料である。SiCウェハーは、パワー半導体用基板として6インチウェハーが販売され、その競争は激化している。一年半前ゴム会社はSiCウェハー事業から撤退した。このニュースは、世界的に買収競争が激しくなっていた時期だけに驚いた。この分野ではトップのCree社と新日鉄住金が国内で提携したニュースが流れた直後だった。

 

SiCウェハーは、改良Lely法で主に生産されているが、新しい方法として液相から結晶成長する製造プロセスやCVDと同様の方法が知られている。液相から製造する方法は開発途上だが、結晶成長速度は改良Lely法並の1mm/hまで到達した。

 

改良Lely法では、昇華させるSiCに高純度原料を必要とする。この原料にはゴム会社で開発された高純度SiCの製造方法が最も経済的な方法として知られている。原料はフェノール樹脂とポリエチルシリケートであり安価である。さらに、昇華しやすい超微粒子をカーボンでサポートした原料も製造可能で改良Lely法の原料として優れている。

 

また、改良Lely法で種結晶の設置位置を上部ではなく下部にした製造方法の特許がゴム会社から出願公開されたが、これは結晶成長に必要なガス濃度の制御のしやすさも改善され良い方法である。ただ技術的な難しさは、上部に昇華させる原料を成形して設置しなければならない問題である。しかし、この問題も前駆体高分子を用いる高純度SiC製造方法であれば容易に解決できる。

 

このように現在SiCウェハー製造方法として主流の改良Lely法はノウハウの蓄積によりさらに改良され、液相法など新しい方法が登場してきてはいるが、まだ改良の余地があり技術の発展が期待される方法である。

 

液相法であるが、これはSi溶液にCrなどの金属を溶解させカーボンの溶解度を上げた液相を用いるが、Siウェハーと同様に種結晶を回転させて結晶成長させる。最近その回転を100rpm以上の高速で行うと成長速度が速くなるという技術が発表された。液相法は新日鉄住金が先行しているが将来改良Lely法を凌ぐ方法にまでなるかどうか不明である。理由は、結晶成長させる温度が100℃程度低いだけで高いエネルギーを必要とする。

 

しかし、技術開発では、際だった特徴が見つかると一気にその方向へ動くので、液相法も含め他の結晶成長技術から目が離せない。このような技術の過渡期にゴム会社が撤退した判断は、勇気ある正しい判断だったのか。ただ、開発の進め方として、半導体冶工具ではS社とJVですばやく事業立ち上げを行っているのに対し、SiCウェハーの開発では技術が先行しながらなかなか市場に出てこなかった不思議な戦略だった。学会賞の受賞でSiCウェハーの技術を公開していたにも関わらず、市場展開を積極的に行わなかったのが不思議である。

 

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2014.01/24 高純度SiC(7)

前駆体を用いたシリカ還元法では、反応速度の解析により拡散律速でSiCが生じていることを示すことができた。有機物前駆体を炭化して得られた混合物を分析したところシリカとカーボンの混合物であることもわかっていた。ただシリカ粒子の大きさはナノオーダー以下(分子レベルと推定)で高解像度の電子顕微鏡観察(TEM)を行ってもシリカ粒子は見えなかった。

 

また恒温測定による熱重量分析で得られた重量減少曲線には、核生成過程と推定される重量減少が生じない時間が観察され、Si-Oの熱運動で構造が変わり、それが核に生成しているらしい様子まで現れていた。この生成した核へカーボンが拡散しCOを発生しながらSiC化してゆくのである。あるいは、拡散しているのはOやSiである、という議論も当時行っている。

 

恒温測定で得られた値、さらに精度をあげるため等速昇温測定まで行って得られた値などを比較し見積もると、400kJ/mol前後というカーボンの活性化エネルギーに相当する値が見積もられたので、この議論ではカーボンが拡散しているという結論になった。

 

この結果はSiCウェハーの製造に一般的に用いられている改良Lely法にも参考になる。改良Lely法で発生しているガス成分を調べると、SiやSi2Cであり、このまま析出したのではカーボンが不足する。しかし、反応をカーボンルツボ中で行っているので周囲にはカーボンが豊富に有り、活性化されたカーボンが拡散し結晶成長に使われていると思われる。すなわち、改良Lely法ではこのカーボンの拡散に着目したアイデアが重要で関心のある方は問い合わせていただきたい。

 

高純度SiCを有機物前駆体で製造するにあたり、その品質管理を熱重量分析で行う事を思いついたのだが、研究を進めたところSiCの結晶成長のヒントまで得られた。当時シリカ還元法のSiC化の機構では、気相のSiO生成が重要視され、カーボンを大過剰に用いるとともに、それをペレット化し、SiOガスが無駄にならないようにすることがノウハウとして知られていた。

 

しかし、新たに考案されたフェノール樹脂とポリエチルシリケートから製造される有機物前駆体を用いるとシリカとカーボンが化学量論比において反応させることができる。さらに従来法で悩まされていたウィスカーの副生も無い。3Cタイプの結晶だけを選択して製造することが可能である。

 

さらに分子レベルのSiCが分散したカーボンまで合成することが可能で、これは改良Lely法の最良の原料となる。面白いことに1700℃以上2000℃未満では、3Cのみ生成する。ただしこの温度領域でできる結晶の最大粒径は、4時間反応させても500ミクロン前後である。

 

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