表題の展示会が東京ビッグサイトで27日まで開催されている。かつてセラミックスフィーバーの時代には、年に2回ほど類似の展示会があっても満員盛況の状態であったが、この会場では出展者も少なく閑古鳥が鳴いていた。時代の流れを知るために時間のある方はその様子をご覧になると勉強になる。ゴム会社も小さなブースで代わり映えのしない展示物をならべていた。
そもそも30年前のセラミックスフィーバーは、断熱セラミックスエンジンの開発を目標としたムーンライト計画がきっかけとなり勃発した。このフィーバーでセラミックスに関する材料科学は大きく進歩したが、この科学の進歩を牽引したのが企業の技術である。
金属材料科学は古くから着実な進歩があり、20世紀中頃から石油化学の急速の発展で高分子材料科学が発展し、最後に登場したのがセラミックス材料科学のイノベーションである。大学まで科学を学び、社会に出てセラミックスフィーバーを体験し、科学の進歩が実は技術の進歩に牽引されている実態を知った。学生時代に科学は技術を牽引している、と学んだが、現実は新たな挑戦による技術開発で新たな現象が見いだされ、それが科学の発展を促していた。
マッハ力学史を読んでみても、科学と技術について技術は古くから存在していたが、どこから科学が生まれたかを明確にすることはできない、と書かれている。ニュートンでさえ非科学的な思考を行ってニュートン力学を完成させた、と表現されている。科学の発展により技術の進歩が加速されることはあったが、科学が無ければ新たな技術が生まれない、ということは人類の歴史を見る限り起きていない。
確かに新たな科学的発見と言われている成果により、技術のイノベーションが引き起こされてきた事実は多い。しかしイムレラカトシュの「方法の擁護」を読むと科学で完璧に証明できるのは否定証明だけ、と書かれており、「発見」そのものは非科学的であった可能性がある。
学生時代に科学を学んできた目にはセラミックスフィーバーは新鮮な世界であった。新たな技術により新たな科学が生まれる、という学校で学んだ流れとは逆向きの潮流が起きていたのだ。経済性を無視すればセラミックス断熱エンジンの車「セラミックスアスカ」は公道を走ることに成功した。これはセラミックスフィーバー初期に生まれた技術である。
セラミックス材料の展示会の低調ぶりは、材料科学の進歩が止まった、と見るのか、新たな技術開発が行われなくなった、と捉えるべきか。ゴム会社の展示物を見る限り20年ほど前から技術開発が止まっているかのようである。ところがゴム会社が商品の販売まで辞めてしまったSiCウェハーについては、事業を開始したときのパートナー住友金属工業から液相による結晶成長法という新たな技術について特許出願が行われている。特許を読むと着実に技術が進歩していることを理解できる。
バブルがはじけて20年以上経ち、新たなイノベーションが期待されているが、それを科学に期待するよりも、新たな機能にチャレンジする技術に期待した方が良いかもしれない。積極的に新たな技術にチャレンジする活動が新たなイノベーションを引き起こす。ゴム会社の高純度SiC技術は歴史の時計が止まったように見えるが、基本特許が多数切れ始めたので新たな技術開発のチャンスが生まれてきている。
前駆体法による高純度SiC合成法は、まだ新たな機能を生み出す技術開発の余地がたくさん残っている面白い技術である。弊社では研究開発必勝法プログラムに新たな技術をセットしたメニューも用意していますのでお問い合わせください。ちなみにこの場合は温故知新戦略となる。
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電気粘性流体は絶縁オイルに半導体粒子を分散したデバイスである。この半導体粒子は、帯電しやすく放電しやすい物質であり、さらに電流を流さないぐらいの高抵抗であることが望ましい。雑用係として外部から調達された粉体を評価しながらその必要な機能を想像した。
このような物性は均一で単相の物質では実現できない。電流を流さないくらいの高抵抗で表面を設計しなければいけないが、そうすると誘電体となり放電が困難となる。粒子の内部は10000Ωcmくらいの体積固有抵抗で電荷移動が容易な材料でなければ電荷の急速な拡散が難しい。この両者を満たすのは、表面を10の12乗Ωcm程度の絶縁体で設計し、内部は10000Ωcmとするが、粒子内部に抵抗の傾斜をつけると二律背反の電気特性を実現できるのではないか、と想像した。
傾斜組成の機能をどのように実現するのか。これは導電性物資へ絶縁体を拡散させ、表面に絶縁体の濃度を高め内部に向けて絶縁体の濃度を傾斜組成にすると実現できる。金属へアルミナなどの酸化物を拡散させるのは難しいが、有機物に金属アルコキシドの形態で拡散させることは容易である。そこでフェノール樹脂球にTEOS(テトラエチルシリケート)を拡散させてそれを炭化することにした。TEOSは熱分解するとシリカになる。
フェノール樹脂は難黒鉛化カーボンとなるが高温度で炭化すれば10000Ωcm程度の抵抗になることが知られていた。そこで直径1μm程度のフェノール樹脂球を購入しTEOSを1日含浸させその後酸触媒で処理し表面に薄いシリカ薄膜ができるようにした。それを1000℃以上で炭化させたところ、表面から0.2μmまでシリカが傾斜組成で分散した炭素球を製造することができた。
この傾斜組成の炭素球を絶縁オイルに分散させて電気粘性流体を製造し、その特性を評価したところ応答性が優れ、低電圧でも高い電気粘性効果の得られることが分かった。耐久性も良好で当時世界一の性能であった(恐らく今も世界一かもしれない)。
この発明に電気粘性流体に関する先端の科学情報は活用されていない。外部から調達された材料を用いた性能が低い電気粘性流体の計測を行った経験だけである。その経験において機能を実現する方法を過去の経験から学んだ二律背反の材料設計手法(ゴム会社の内部で流行語でもあった)で練り上げた。すなわち科学情報が無くても経験でモノを創り出すことができるのである。
たまたま重要文献が機密扱いとなっており社内の他部署の担当者には先端の科学情報を見せてもらえない状況で、経験だけでモノを創る体験すなわち純粋の技術で機能を実現した。有機化学から無機化学分野まで幅広く実験を行ってきた豊富な経験で身についた技術は科学情報が無くても新しい「モノ」を創り出せるまでになっていた。
傾斜組成の粒子開発に成功したので、傾斜組成と異なり均一に絶縁体超微粒子が表面に出るように半導体相に分散した微粒子を実験したところ、傾斜組成の粒子よりも性能は低かったが、外部より購入している粒子を用いた電気粘性流体よりも性能は高かった。この結果を受けコンデンサーが分散した微粒子は恐らく超微粒子分散粒子よりも性能が高いだろうと想像した。近くで見ていた、かつて高純度SiCを一緒に開発していた若手技術者が自分が創ってみたい、と言ったので指導した。結果は傾斜組成の粒子の場合と同様で、期待通り超微粒子分散粒子よりも性能は高かった。
このように技術による開発は、同じ経験を共有している人には容易に伝承できる。科学ではまず思想の理解から始まり、科学的論理による議論となる。議論に納得したところで技術が伝わる。しかし、経験の無い人に経験の成果を伝承できる便利さが存在する。ただし非科学的な現象を扱った技術を伝承することが難しい。経験からアイデアを生み出し技術とする手法や非科学的な現象まで含んだ技術の伝承は弊社の研究開発必勝法プログラムで効率良く学べます。
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電気粘性流体は、半導体微粒子を絶縁オイルに分散させて製造する。電場をかけると半導体微粒子が帯電して電極間に並び、そのため懸濁オイルが流動性を失ってあたかも固体のように振る舞う。電場を取り除くと粒子の帯電が無くなり、もとの流動状態に戻る。電場でその粘性を制御できる流体である。70年ほど前にウィンズローにより発見されウィンズロー効果として知られていた。
しかし単純な半導体微粒子では電気が流れたり、高抵抗であれば微粒子が帯電したままになり流体の機能を失ったりする。すなわち電気粘性流体をデバイスとして活用するためには絶縁オイルに分散する微粒子の設計が重要になる。
このテーマはゴム会社に勤務して10年目に携わるようになった。電気粘性流体の重要な機能を発現する微粒子を社外から調達し開発していたために、テーマがうまく進捗せず、さらにゴムからの抽出物で增粘する問題を抱えプロジェクトがひっくり返りそうになっていた。不幸にもそのお手伝いをすることになった。不幸の理由は特に書かないが、お手伝いメンバーには重要な科学文献を見せていただけないなど開発に協力するうえでの制限があった。プロジェクトのメンバーは、頭ではなく労働力だけを求めていた。
しかしプロジェクトの状態を見ると、科学的に運営が進められていたが、機能粒子を外部から調達するなどの体制になっており重要な基幹技術の担当者が欠損していた。いわゆる常識的な、科学で電気粘性流体を解明し材料設計するという方針でプロジェクトが運営されていた。これは表現を変えれば技術が無いので科学的に技術を創りだそうとしている運営である。ところが電気粘性流体の增粘の問題では增粘メカニズムの科学的解析ができたが、プロジェクトに技術が無いため(注)に界面活性剤では対策できないという結論を出していた。
試行錯誤で增粘の問題を解決したら、それ以上はプロジェクトメンバーで行うから、ということになり雑務が回ってきた。成果が見えてくると功労者を排除し生え抜きを大切にしようとするマネジメントである。お言葉に甘えて雑務を行いながら、見いだされた界面活性剤の位置づけを知るためにカタログの多変量解析を行い情報提供したり、傾斜組成の粒子や、超微粒子分散粒子、コンデンサー分散粒子といった電気粘性流体用3種の粒子を雑務を終えた定時後創ってみた。
重要な科学論文を見せていただけないので、科学的ではなく見よう見まねで電気粘性流体の機能を実現できる3種類の粒子設計を行った。雑用という立場で多くの電気粘性流体を扱うことができたので経験の蓄積を行う事ができた。つまらないと思われる仕事でも誠実に真摯に行う意味がここにある。
(注)ゴム会社には基盤技術として界面活性剤の技術が存在した。社内の公開されたプレゼンテーションを聞けば毎年1-2件はその関係の技術を含んでいる発表があり、他部署のプレゼンテーションを聞けば技術の共有化が可能であった。ただ、多くの会社で同じような状況と思われるが、他人のプレゼンテーションを技術の共有化の機会として動機づけされていないためにここで紹介したようなことが起きる。また、科学的に基盤技術を構築し、とよく言われるが、すでに書いてきたようにおかしな考え方である。もし科学的にプロジェクトを推進しなければならないなら、最低1名技術者をメンバーに入れるべきである。企業において科学的訓練を受けた研究者だけで開発を行うと「モノ」はできない。企業のプロジェクトでは早い段階から企業内で育成された技術者を入れるべきである。学位を持った技術者であれば科学と技術の両方を推進できるので便利である。「なぜ」を追究する分析的研究者では「モノ」を創り出すことはできない。科学的に当たり前の結論を出すだけである。うまくいかないときにはうまくいかないことまでも科学的に説明するおかしな状況も生まれる。しかしそのおかしな状況に気がつかない研究部門の経営者も何人か見てきた。科学という思想は重要である。ただし「ものづくり」の行為を尊重しない思想重視の考え方には問題がある。ものづくりの行為にうまく科学を取り入れる手法が弊社の研究開発必勝法プログラムである。
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電気粘性流体の增粘の問題はHLB値の異なる界面活性剤を検討し、良い結果が得られなかったので、界面活性剤では解決できない問題である、と結論が出されたらしい。らしい、と書いたのは実際の実験方法等を見ていないからだ。O/WあるいはW/Oタイプすべて検討されたと当時説明を聞いたが、添加するだけで確認できる実験なので、再度技術的に検討することにした。
理由は、科学的に説明されても、機能を実現しようという試みあるいは気迫を感じられなかったから。説明に必要なデータはきれいにグラフ化され、論理的に効果の無かった説明が展開されている。しかし、それはHLB値を中心に議論されているだけで、それ以外の科学的に不確かな要因について仮説は記載されていなかった。
技術とは機能を実現しようとする行為であり、科学的に完璧に否定された結論に対してはその結論を尊重しなければならないが、完璧でないならば新しい発見を求めて、その結論に技術で挑戦する価値がある。
電気粘性流体の增粘の問題は、HLB値という指標だけでは解決できないことが分かった。しかし、このHLB値は低分子あるいはオリゴマー程度の分子の長さであれば、教科書に書いてあるようなきれいなミセルを形成し、科学的な効果を期待できるであろう。しかし高分子量になったときにミセルの形態をどのように考えれば良いのだろうか。
科学的解説からある程度の推定は可能だが、教科書には書かれていない。また、その結果を図示しても様々な分散状態を描くことが可能である。今目の前で起きている現象は、SP値の異なる様々なゴムの添加剤がオイルの中に分散しその結果增粘しているのである。もし、そこへ新たな成分を添加したときに、ゴムからの抽出物が粒子との相互作用を起こさないように新たな相を形成する、という想像あるいは妄想は、科学の世界で論じられた他の現象から推論すると起こりうる可能性が高い。
技術とは機能を実現する行為であり、機能を実現できる可能性があればそれを試みるのは大切な使命である。すなわち技術的開発姿勢とは、機能を実現できそうな行為を全て試みようとする姿勢である。科学で完璧に否定された現象については可能性が無い、と考えるのは現代の約束事であるが、完璧でなければその結論に挑戦したときに新しい発見がある。
この電気粘性流体の問題解決で得られた新たな技術は、その後写真会社でゾルをミセルとして活用し、ラテックスを合成する技術につながっている。外国の研究者によるゾルをミセルとして活用した科学的論文の発表は2000年に入ってからであるが、写真会社の特許は1995年頃に出願されている。科学よりも先行している技術が存在するのである。
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電気粘性流体の增粘の問題は、第三者から見たらいい加減な実験で解決策が得られたことになる。さらにすでに市販の界面活性剤を検討し、結論を出した後だったので立腹された人もいたようだ。問題は解決されたのだが後味の悪い結末だった。何でも科学的に問題解決できる、と信じているとこのような状況でパニックになる人もいるようだ。
科学は真理を追究するのがその使命であり、機能を実現することを使命とする技術とは異なる。科学は哲学であり、ある一つの思想に過ぎない。19世紀以降科学の発展により技術開発のスピードは飛躍的に向上したが、17世紀以前にも技術は存在した。道具を使い始めた段階に技術は生まれたのである。科学は技術開発のスピードを早める役目を果たしたが、「ものづくり」は人間の営みの一部、技術が行ってきたことである。技術とは機能を実現しようとする行為そのものである。
すなわち試行錯誤は人類が昔から行ってきた技術の歴史に裏付けられた由緒正しき技術的方法である。試行錯誤でも頭を使う。この方法で大切なことは体中を動員し、汗をかいたときにすばらしい結果が得られることが多いことだ。セレンディピティーとして特殊な能力のように表現されているが、誰でもコツを体得すればできることなのだ。17世紀以前に人類が行ってきた実績がそれを裏付けている。科学は、それを効率良くできるようにする思想を示したに過ぎない。
ゆえに科学的に解明されていない、あるいは科学的に解明しようとすると膨大な時間がかかる場合には、いさぎよく試行錯誤で技術を創り、結果を出し、結果に対して科学的考察を与えた方が効率的だ。科学を否定しているわけではない。科学は思想に過ぎないのでその活用が重要でモノを創るのは技術である。社会生活でも一つの思想にこだわっていると問題解決できなくなるように科学的という思想にこだわると問題解決できないケースがあるのだ。「やってしまった方が早い」というKKD信奉者が胸をはるシーンも多い。
有名な事例としてヤマナカファクターの発見がある。ノーベル賞級の大発見は非科学的方法で生まれている。大量の遺伝子を一つの細胞に組み込んだり、その遺伝子から宝くじよろしく消去法的に4つのヤマナカファクターを見いだしているのである。ヤマナカファクター発見では一瞬科学的思考を捨てた点をよく学ぶべきである。繰り返すが科学を否定しているわけではない。科学的ということにこだわると解決できない、あるいは解決スピードが遅くなる問題があることを指摘している。
17世紀以前の技術は技術者も職人も区別なく技術を創り出してきた。現代はヤマナカファクター発見のように科学を活用しながらスピードアップしながら創造する行為を行う技術者が技術開発の中心である。タグチメソッドが技術開発のツールの一つとして普及したが、これは職人も含め誰でも技術開発ができるようになるからである。弊社の問題解決法も機能実現を容易にできるように独自ツールとメソッドを提供している。
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電気粘性流体のオイルでゴムに配合されている添加物が抽出されて增粘する問題は界面活性剤の添加で解決された。このような問題は界面活性剤で解決する以外に方法を思いつかないのだが、担当者は、あらゆるHLB値の界面活性剤で失敗したのでそれ以外の科学的な方法を探索していた。
目の前で起きている現象は、様々なSP値の物質が微粒子とオイルで構成された流体に微量抽出されて增粘しているのである。電気粘性流体というデバイスではオイルは必須成分であり、この問題の解決手段によっては用途が限定されることになる。すなわち汎用的な技術手段で解決する必要もあった。
界面活性剤は、様々な物質が開発されている。また洗剤のビルダーに見られるようにその技術手段にはノウハウも存在する。しかし、教科書にはHLB値程度の説明しかされていない。すなわち界面活性剤の活用を科学的に考えるときHLB値が一つの指標になる。しかし、目の前では様々なSP値の物質が微量オイルの中に抽出され增粘しているのである。
幸運なことに耐久試験が終わった段階でゴムに配合された添加剤全てがオイルに抽出されているわけではなく、抽出されている量が微量であったことだ。様々なSP値の微量の成分のために增粘という現象が引き起こされていたので、問題解決は容易だと感じた。すなわちオイルと粒子と微量成分の集団の3種が独立で運動できるようにすれば良いのである。オイルの中で微粒子と抽出された微量成分の粒子が相互作用無く分散しておれば、增粘をわずかにできる。これが技術的なあるべき姿となる。
增粘したオイルを10ccずつ試薬瓶に入れ、そこへ1%程度界面活性剤を添加したものを50種類用意した。高純度SiCの前駆体合成条件を検討したときの1/6の実験数であるが、3種類ほど界面活性剤を添加しただけで粘度が下がった試薬瓶があり、観察された状態が頭で思い描いていたようになっていたので成功を確信した。
しかし、サンプル数が多かったので、振盪機を使うのをやめとりあえず各サンプル瓶を1日に10回ほど手で振り、80℃のオイルバスに放り込んで帰宅した。翌朝サンプル瓶を回収し観察したところ5種類ほど粘度が下がっており、そのうち2種類はほとんど粘度上昇が解決された状態になっていた。いい加減な実験であったが、技術的に確かな解決策を見いだすことができた。
ちなみに見いだされた2種類の界面活性剤は、界面活性剤として市販されている試薬ではなく、親水性基と疎水性基でできたブロックコポリマーであった。親水性基といっても水にわずかに溶解する程度の構造であり、一般の界面活性剤において分子設計するときに用いられる基ではない。界面活性剤として販売されていない化合物であったが、分子構造が界面活性剤と呼べる構造だったので検討に用いた。
試行錯誤の実験では、考えられること全てを実施することが重要である。それで解決できなければ、「今」問題解決できる技術手段は無い、という結論になる。もし界面活性剤で解決できなければ、ゴムの表面コーティングであらゆる手段を試す予定であった。表面コーティングの実験は時間がかかる。今回の実験は、たった1日で結論が得られる実権であった。
科学的に否定された実験であったが、1日でできる実験なので気楽にあらゆる材料を試すことができた。科学的に考えれば、表面コーティングの手段が可能性が高く、期待されていた実験でもあった。一方界面活性剤の技術手段で解決ができた場合に報告をしにくい雰囲気があった。
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電気粘性流体のオイルでゴムに配合されている添加物が抽出されて增粘する問題は界面活性剤の添加で解決された。このような問題は界面活性剤で解決する以外に方法を思いつかないのだが、担当者は界面活性剤で失敗したのでそれ以外の科学的な方法を探索していたようだ。例えば配合剤無添加のゴムを試したり、ゴム表面をガソリン用ゴムホースと同様に表面コーティングしたりして耐久試験を行っていた。
配合剤無添加のゴムでも加硫剤は添加しなければならないのでやはり電気粘性流体の增粘は生じた。この場合も加硫剤を何種も検討したらしいがいずれも効果が無かったようだ。表面コーティングも增粘するまでの時間をのばすことはできたが目標の耐久時間を達成することができなかった。絶縁オイルの種類を変える検討も同様の結果であった。わずかな抽出物で增粘していた。また抽出物の中にはゴムの低分子成分も含まれていたケースもあった。
界面活性剤を検討してだめだったので科学的に考えられることを全て試してみたそうだ。技術の問題を解決するときに試行錯誤というセレンディピティーを活用する方法を忘れているようだ。すなわちゴムからの抽出物で增粘しているので、このような問題は界面の問題であり、それを解決できるのは界面活性剤が最も良い手段である。そのほかの手段はたとえ科学的な手段といえどもゴムの表面コーティング以外は何らかの大きな副作用が存在する。
問題解決にあたり解決手段が限られる場合には、その限定された手段で汗を流す以外に解決の道は無い。このとき他の手段を有識者に聞き試すことは構わないが、その時の手段は技術的に実現可能性のある場合だけ解決手段として採用すべきである。例えば配合剤無添加のゴムという手段はゴムの役割を考慮すれば、たとえ科学的に正しくとも技術的な対応策とならないからである。
配合剤無添加のゴムを検討したおかげで、低分子成分のゴムの抽出物も增粘に関与しているらしいことも分かってきたからムダでは無い、と説明していたが、それは考え方の問題で、機能実現のために効率の良い開発を進める視点に立てば、無駄な実験である。すなわち抽出物の解析から、早い段階に様々なSP値の物質が電気粘性流体のオイルで抽出されていたのである。オイル用ゴムホースよりもさらに過酷な条件でゴムとオイルが直接接触しているデバイスで発生している問題だ。
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ゴムからの抽出物で電気粘性流体の增粘する問題について昨日からの続き。
開発グループの書棚に市販されている界面活性剤のカタログは、すべて取りそろえてあった。そのカタログ数値の幾つかをピックアップしてデータベースを作成し、多変量解析を行った。主成分分析で界面活性剤の分類も行ってみた。第Ⅰ主成分はHLB値と思われる値になったので、科学的に妥当な分類になっていると推定した。
見つけた界面活性剤について、第Ⅰ主成分と第Ⅱ主成分の軸で整理されたチャートへプロットしたら、ある群と重なった。相談に来た担当者にその群の界面活性剤の検討を行ったかどうか尋ねてみたら、1種類検討したが効果が無かった、という回答。
その群について他のパラメーターも入れて主成分分析を行ったところ、二つに分かれた(相談に来た担当者は運が悪かったのと汗をかきたくなかっただけである)。また第Ⅰ主成分は新たに導入したパラメーターとHLB値の積のような関係であった。この新たに導入したパラメーターは分子量で、高分子界面活性剤の特定のHLB値が問題の解決策を示すパラメーターとして浮かび上がった。
電気粘性流体の增粘の問題は、このように多変量解析を用いて問題解決を行ったが、必ずしも科学的な方法とは言えない。また多変量解析を行う前に、手当たり次第手元にあった試薬を增粘した電気粘性流体に添加して変化を観察している。方法は試行錯誤であり、まったく科学的とは言えない。手元に揃えてあった界面活性剤のキットの中に解があったので、むしろ運が良かったといえる。世間ではこのようにして解決策を得られる人をセレンディピティーがある、というがこんなことは誰でもできる。しかし、徹底してそれを最初から実行する人は少ない。
科学万能の時代では、まず科学的に考えようとする。科学的に考えて解決できそうな問題であれば科学的なアプローチは有効であるが、科学的な解決の糸口を見いだせない場合には、まず実験をやってみる、という姿勢が重要である。知恵のある人は知恵を出し、知恵の無い人は汗をだせ、という名言があるが、汗を出せば何か見つかる。何か見つかったら、その科学的意味を考える。
このような手順では、仮説設定など無い。可能性がありそうな(電気粘性流体の界面活性剤を見つけられなかった人のように、わけの分からないときに仮説で絞り込むと失敗する)手段や方法を「すべて」試してみる。これで兆候が見いだされなければ、「今」自分たちで問題解決できないのである。解決できる問題であれば必ず何か兆候がある。このあたりはヤマナカファクターの発見プロセスが参考になる。何が何でも問題解決したいときには、機能達成手段を無制限に広げ、可能性のある方法からすべて試みる以外に道は無い。コンサルタントや大学教授などの外部の有識者を活用するのも良い方法である。
但し、何か兆候が見つかったときに科学的意味を考えるかどうかは、技術を確立する時間に影響する。科学的意味が解明され、仮説設定できるようになると開発スピードはアップする。科学的に問題解決できるときには仮説設定して問題解決に当たった方が効率が良い。さすがに最初から最後までセレンディピティーでは、時間がかかる。一生運の良い人も稀にいるが、研究開発だけで運を使いたくない。最初に科学的に問題を考察し科学的に解決可能な問題であれば科学的に問題解決して大切な運を次の機会までとっておくこと。
*本日の内容をマジメにそのまま実行しようとすると天文学的時間となることもある。それを効率良くするために弊社の研究開発必勝法がある。ご活用ください。
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電気粘性流体をゴムに封入したデバイス開発をそのテーマの途中で担当した話。
先日までオイルと高分子成形体の組み合わせで引き起こされるケミカルアタックの話を書いたが、ゴム会社では、オイルを封入でき耐久性のあるゴムを開発できるのだ。
ところがオイルを封入するゴムができても電気粘性流体が劣化する問題が発生し担当者はあせっていた。電気粘性流体はオイルと特殊な半導体粒子でできている。電場をかけると電極間に粒子が並び、あたかも固体のように変化する。電場を除去するとまた流体に戻る。すなわち電場のON-OFFで流体の物性と固体の物性とに制御できるデバイスであるが、使用中にゴムの添加剤が電気粘性流体のオイルの中に抽出されゲル化するという問題が発生したのだ。
ゴムの耐久性を最も心配していたらしいが、ゴムの配合物が流体に抽出されゲル化する問題を考えていなかったらしい。コロイド科学の問題なので界面活性剤で対応する、というのが定石であるが、市販の界面活性剤をすべて試しても良いモノが見つからなかった、とのこと。担当者が相談に来たときに「解説策は界面活性剤」、といったら「それは試したけどだめだったので他のアイデアを期待している。」といって部屋を出て行った。
他のアイデアといっても界面活性剤以外に対応の方法は無いはずである。とりあえず增粘した流体をもらい、その中に1%ずつ手元にあった界面活性剤を添加したら、ある種類の界面活性剤で增粘が改善された。
さっそく担当者に連絡して方法を教えたら、それは市販の界面活性剤ではない、と言い出した。確かに界面活性剤として購入した化合物では無いが、分子構造は親水性部分と疎水性部分が存在するのでれっきとした界面活性剤である。このようなミスを防ぐには弊社の研究開発必勝法プログラムを導入するとよい。
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樹脂の破壊機構は複雑であり、研究報告を読むと諸説あるように思われるが、共通している点を取り出すと次のようである。
1.高分子の構造的、形態的な不均一によって生じる歪みが拘束されて応力集中が生じる。
2.ボイドの形成を伴う局所的な塑性変形であるクレイズ発生。
3.クレイズをささえていた繊維状組織の強度(フィブリル強度)を越えたときにクラックが形成されて脆性破壊は開始。
構造材として使用され古くなった樹脂を観察するとクレイズが多数発生している時がある。一方古くてもほとんどクレイズが観察されない場合もある。添加剤などの樹脂の配合設計の効果が現れているのである。
ゴムや樹脂の配合設計では必ず耐久試験が行われるが、屋外暴露試験をマジメにやっていたかどうかが樹脂やゴムの実際の耐久性に現れる。「マジメ」と表現したのは、屋外暴露試験にもノウハウが存在するためである。樹脂やゴムの用途により屋外暴露試験も工夫しなければならない。
例えばわざわざ北海道や沖縄まで試験用サンプルを運び行う場合もある。タイヤの試験でわざわざヨーロッパまで持ち込みテストをしている話を新入社員の時に聞いてびっくりした。信頼できるタイヤというのは見えないところにお金がかかっている。
退職前に事務機の品質問題に関わったことがあるが、材料メーカーの耐久試験がどこまで行われているのか(あるいは耐久試験など行っていないのではないか)という疑問を感じたことがある。事務機の部品であれば多少故障が起きても命に影響することはないので気楽に考えているのではないか、と思ったりもした。あるいはコストのかかる耐久試験など最初から省略している可能性があるのかもしれない。
100円ショップの樹脂製品の耐久性は様々である。100円ショップでも品質保証をしているところがある。購入して10日ほどで壊れたケースがあったので、試しに100円ショップで交換をお願いしたら、レシートが無くても交換してくれた。お客様の責任などと言わず良心的である。
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