マテリアルズインフォマティクスでは、ディープラーニングが用いられ、回帰や分類などをAIで行うと解説されたりする。この時AIを教師データで鍛える。教師データを使わないアルゴリズムもあるがパーセプトロンを用いた場合には必要となる。
AIがもてはやされているので、何故かこの方法が先端であり、その他は遅れた方法と誤解している人がいるが、データが50個とか100個程度しかない時には、昔ながらの多変量解析で十分だ。むしろ多変量解析の方がよい結果となる。
データマイニングにより情報処理する知恵は50年以上前から行われてきた。また実験計画法に至っては、20世紀初頭に行われている。
そもそも実験計画法という言葉の意味をご存知ないアカデミアの研究者もいる。故田口玄一先生は、タグチメソッドは実験計画法ではない、といつも言われていたが、タグチメソッドの教科書の標題に実験計画法が使われるようになった。
この経緯を知らないが、田口先生が1970年代に書かれた書籍にも「実験計画法」というタイトルのついた書籍が存在するが、タグチメソッドではなく、正真正銘の実験計画法に関する教科書だ。
さて、データが少ない時に回帰や分類を行いたいときには、弊社のサイトでも無料公開している多変量解析で十分だ、と最初に述べたが、それを実際の実験データでもプログラムを開発して確認している。
このほか、データ駆動による面白い話題がある。50年ほど前からデータサイエンスを研究開発に取り入れてきた技術者からみると昨今のデータ駆動や実験計画法という言葉には薄っぺらさが感じられる。
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フィギュアスケート教室の問題が1か月ほど前からニュースとして流れている。本田氏と安藤氏は世界トップレベルの大会で活躍してきた経歴があるが、彼らの教室について指導料が高いとかモラハラがあったとか週刊誌に書かれている。
まず最初に断っておきたいのは、教室を選んでいるのは親であり学んでいるのはその子供である、という事実を理解してからこのような記事を読まなくてはいけない。
本田氏も安藤氏も趣味でスケートを行う生徒を教えるつもりはないと思っているだろう。それを当方はよく理解できる。当方は彼らと異なるが、セミナーで指導に当たる時には、受講者に技術者として成功してほしいという思いを持って指導している。
指導者はそのモチベーションを保つために思いを前面に出し過ぎる場合も出てくる。例えば弊社の場合には過剰なサービスである。価格以上の内容のセミナーを提供している。
このような視点で記事を読むと保護者の誤った考え方にすぐに気がつく。勘違いではないのだ。あくまでも間違った考え方である。
まず本田氏も安藤氏も優れた選手ではあったが、優れた指導者ではないのだ。本田氏や安藤氏よりも優れた無名の指導者はフィギュアスケート界には多い。宇野昌磨選手を育てたコーチはかつて山田コーチの無名アシスタントである。
指導方法が子供に合っていない、と感じたら指導者を変えなくてはいけない。文句を言うのは子供のためにならない。本田氏にとって、あるいは安藤氏にとって世界のトップを目指せる素質の無い子供を教えるのは苦痛なのだろう。
世の中には、才能のある生徒しか教えたくない、という指導者もいる。一方で誠実真摯に学ぼうとする生徒にはサービスを惜しまない無名の指導者もいる。後者の指導者を選ぶのが子供のためには良い。
本田氏や安藤氏に指導を受けたからと言ってトップスケーターになれるとは限らないのだ。無名であっても子供のことを真摯に思いその成長に役立つ指導をしてくれる先生を探すのは親の責任である。
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研究開発において対象となる技術をどのように具体化するのかは重要である。「まず、モノ持ってこい」と言われたMOTの大家はアジャイル開発の創始者だと思っている。
しかし、ゴム会社の研究所では評判が悪かった。当方はこのマネジメントスタイルで大変勉強でき、写真会社で多くの成果を出すことができた。製品を目標とすることを否定していたゴム会社の研究所がおかしかったと思っている。
今時事業目標を目指さない研究所は存在しないと思うが、ゴム会社の研究所では社長方針さえ笑い飛ばす管理職が多かった不思議な企業研究所だった。
さて、製品を目標とした研究開発ではモデルベース開発が重要である。すなわち、製品を実現するパーツごとに市場における品質目標を明確に記述して行う開発である。
このような開発においてデータサイエンスの領域から汎用的な手法を用いるとするならばタグチメソッド(TM)が最初に候補となる。製品品質を実現するための基本機能を明確にすればその開発を実現できるからである。
その次に候補となるのは多変量解析である。その他に最近マテリアルズインフォマティクスではいろいろ言われているが、TMの視点では誤差因子をちまちまと扱うような実験を推奨しているアカデミアの先生もおられる。
これ以上書かないが、間違った研究開発の実験方法に対して注意を喚起する啓蒙書を書く必要性を感じている。研究開発の目標は、あくまでも市場に新しい価値を創造できる品質である。そしてそのロバストを実現できる計画的な実験を提供してくれるのがTMである。
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昨日大阪万博の料金が大人7500円と発表された。これを安いと思うか高いと思うかは人それぞれである。おそらく3000円でも10000円でも意見は分かれると思う。
当方は中途半端な価格と感じている。いかにも大阪人が決めそうな価格である。これが名古屋人なら10000円として前売り割引価格7000円と設定するだろう。そしてだれかがチケットをかじって見せて割引価格もあるでよ、と発表したかもしれない。
江戸っ子ならば迷わず10000円ぽっきりときりのよい価格に設定し、未来のために東京の子供達には無料チケットを配ります、と知事の大判振る舞いが記事になったかもしれない。
7500円と言うのは、議論の途中で、こんなもんやろな、と手打ちしたような価格である。それならばキリの良い価格に設定し、期間を分けた数種類の前売り価格を販売すれば事前に混雑具合の見込みも立つかもしれない。赤字とならないように大雑把に決めてしまうところがいかにも大阪万博である。
規模などから20000円に設定しても良い内容になるのかもしれないので、7500円と言う価格設定を中途半端と感じている。このような博覧会は、安く設定しても高く設定しても来場者数に大きな影響はないと思う。
むしろ利益が大きく出るようにチケット価格を高く設定し、子供たちを無料にするような配慮が必要ではないか。当方が高校生の時に大阪万博を2日間見学している。それでも全館制覇は難しかったが夢を持つことができた。
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小学校でもプログラミング教育が始まったので、10年後の技術開発の現場ではPythonを自由に扱えることが常識になっているのだろうと想像する。
Pythonはコンピューター言語として必ずしも優れた言語設計が成されているわけではない。同時期に登場したC#のほうが洗練されたオブジェクト指向言語として優れている。
C++からC#へ進化したのに、PythonはC++へ逆戻りしたような、あるいはC++よりいいかげんな設計の言語に戻ったような印象すら受ける。また、オブジェクト指向でプログラミングを行おうとするとC++の軽快さが無い。
ただC++をちょっとよいC的な言語としてそれが登場した時に使いやすいと感じたような心地よさがこの言語にある。すなわちオブジェクト指向として洗練されていないのだが、BASICのような使い方もでき、BASICよりも優れたデータ構造のおかげでデータ処理では扱いやすい言語である。
しかし、他の言語には無いPythonの一番大きなメリットは無料の豊富なライブラリー群の存在である。このようなプログラム環境ゆえにPythonは、10年後も技術者の標準言語として使われているに違いないと予想している。
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2種類以上の高分子を均一に混ぜたポリマーブレンドあるいはポリマーアロイについて考察するときにχが用いられる。χ>0の場合には2相以上に分離すると言われている。相の数は混ぜた高分子の種類の数となる、と言うようなことが一般的にいわれている。
教科書にはこの見解が正しいような説明がフローリー・ハギンズ理論として説明されている。一方1種類の高分子だけでも細かく見ると幾つかの構造が存在する。
結晶性高分子であれば、結晶相と非晶質相の2相が少なくともできるが、結晶相はラメラの集合体であり、多少の非晶質相を含んでいることが分かっている。
高分子の非晶質相は、無機材料の非晶質相と異なり、密度が不均一である。最も密度が低い部分で室温において得られるエネルギーで分子運動している相は自由体積あるいは部分自由体積と呼ばれている。
1種類の高分子でもこのように複雑なので2種類以上のポリマーブレンドではさらに複雑になる。力学物性では遭遇する機会が少ないが、それでも同一組成でありながらプロセス条件が異なると異なるSSカーブとなるケースが観察されることがある。
電気電子物性になるとその頻度は高いはずなのだが、測定パラメーターが直流の体積固有抵抗だけであるとばらつき程度に考えて深く追求しない。
18年前に中間転写ベルトの開発を行っていた時にインピーダンス測定を行っている。どのような測定を行ったか秘密であるが、その時面白い現象を発見している。
この発見は、中国ナノポリスでローカル企業が電子部品の外装材を開発している時にも類似と思われる現象の解釈に役立った。同じ高分子素材を使用していてもローカル企業のコンパウンドが優れた特性を示したのだ。ご興味のあるかたはお問い合わせください。
今日の話題は、今の科学の体系では典型的なトランスサイエンスの問題と捉えることもできるが、そもそも50年前とそれほど変わらない内容の高分子材料に関する教科書にも問題があるように感じている。
高純度SiCの反応速度論を中心とした学位論文を書いているが、無機材料の視点で高分子材料を眺めてみると、LGBTの問題以上に複雑な問題が見えてくる。
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金属材料やセラミックス材料の設計には相、細かくは結晶に着目して配合組成を設計する。それでは高分子ブレンド(以下ポリマーブレンド)あるいはポリマーアロイの設計の実情はどうか。
ポリマーブレンドの高次構造の相に着目して設計するところは金属やセラミックスと同じように見える。しかし、そこから先が無いのだ。ポリマーブレンドでは相といっても金属やセラミックスのように結晶相ではなく、ブレンドに用いたポリマー種が構成する複雑な相である。
フローリー・ハギンズ理論はこの時重要な理論として50年ほど前から専門の教科書に登場していた。当方の時代には、この理論が1行も登場しない高分子の教科書が存在した。
40年ほど前からそのような教科書は無くなり、説明の量の違いが教科書の特徴となっていた。すなわち、高分子物理の教科書ではフローリー・ハギンズ理論の解説が数ページに及ぶが、高分子合成に関する教科書では一言である。
高分子材料設計の教科書では、おそらく1ページ以上を割く必要があるかもしれない。この理論の解説は難しいというよりも悩ましい理論ゆえに、そこを正しく説明しないと新しい技術の発展を阻害することになるためである。
さて、金属やセラミックスでは結晶相に着目して材料設計が成されるのだが、ポリマーブレンドではポリマー種の結晶相まで考えないことが多い。
樹脂補強ゴムの開発を行ったときも同様であり、当方の書いた報告書では、樹脂の結晶相の割合が樹脂補強ゴムの弾性率を制御しているという結論が新発見として評価された。
架橋密度でゴムの弾性率を制御できることは公知だったが、耐久性も十分見込まれた実用化できたゴムでは、架橋密度よりも樹脂の結晶化度のほうが寄与が大きかった。
注意しなければいけないのは、ブレンドしたすべてのゴムを対象としていない点だ。耐久性も十分にあり、実用的にゴムとして利用可能な樹脂補強ゴムについてである。このようなゴムでは樹脂相は必ず海相となっていた。
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高分子材料の物性は金属材料やセラミックスよりもばらつきが大きい。セラミックスの力学物性は高分子材料と同じ程度にばらつくこともあるが、電気電子物性についてセラミックスは極めて安定している。
有機ELが実用化されたが、無機材料のLEDに比較してその寿命は短い。しかし、電流駆動という特徴と生産性の高さから有機ELがディスプレー材料として選ばれている。
高分子材料を機能性材料として実用化する時にはその1次構造を設計する必要がある。しかし、成形されたときに非晶質相が多く、その構造の特性ばらつきが機能性に少なからず影響を与える。
高分子の非晶質構造に存在する自由体積あるいは部分自由体積と呼ばれる構造を製造プロセスで制御することが難しい。
あるポリオレフィン樹脂をバンバリータイプの小型混練機でいろいろと条件を変えて混練し、その量のばらつき変化を調べたことがあるが3倍近くばらついたのでびっくりした。
自由体積の量が変化すれば、密度が大きく影響を受け変化する。密度の影響を受ける機能性は、その結果大きくばらつくことになる。
ゆえに高分子材料の物性についてインターネットから収集されたデータで物性予測を行おうとする時に問題となるのは、プロセス情報の公開が少ない点である。
良く知られているように、高分子材料の物性は成形体が製造されたプロセスに大きく依存する。金属やセラミックスも同様であるが、高分子材料の場合にコンパウンディングの履歴も引きずるので大変である。マテリアルズインフォマティクスを行う時にこの点に注意する必要がある。
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全仏オープン女子ダブルス3回戦で加藤未唯選手の不注意に返したボールがボールガールにあたり、対戦相手のスポーツマンシップのかけらもない直訴で失格となった問題は、その後同大会混合ダブルスで加藤選手の組が優勝する、というドラマチックな展開で終わった。
これだけでも十分なドラマだが、脚本家三谷氏は、「僕だったら優勝した瞬間に再びボールパーソンに向けて、ボールを打つ、そしてそれをボールパーソンがパッとつかむ、そのように書きますね」とTV番組の中で答えていた。
この全仏オープンの出来事には、様々な人が様々な視点でコメントを述べているが、実際のエンディングは、加藤選手とボールパーソンの笑顔の写真で終わっている。
脚本家はさらにそれを盛り上げるエンディングを提案しているのだが、今回の場合に脚本家のエンディングシーンでは、加藤選手がプロであることを忘れているように思う。
アマチュアならば脚本家のラストシーンは効果的かもしれないが、主人公がプロフェッショナルなので、残念ながらドラマチックなエンディングと言う評価を当方はできない。今回のようなボールパーソンとの笑顔による2ショットのエンディングが最高である。
ドラマの中にはエンディングの凝り過ぎですべてをダメにしているケースがある。今回のドラマでは、不運な出来事に遭遇しても腐らずミッションをやり遂げたことがテーマではないのか(注)。加藤選手の優勝後のインタビューにもそれが現れていた。
(注)現実はドラマではなく全仏オープンの運営の問題を改善しなくてはいけない事件である。失格となった選手が、混合ダブルスに出場できたのである。また、実際の現場をビデオで確認もせず一方的に相手選手の訴えで失格という一番厳しい結論を出したのである。
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半年後に中間転写ベルトの生産歩留まりを100%にしなければいけない状況で、コンパウンド工場を基盤技術0の状態から立ち上げるには個人の力だけでは不可能だ。
生産用の二軸混練機を導入するだけでも新品であれば発注から半年以上かかる。発注するための社内手続きでも最低1か月以上かかる。高額であれば役員会の承認も得る必要があって常識的判断をしたならば諦めることになる。
この時のセンター長は腹の座った人で、単身赴任したての小生が、早期退職の覚悟でこの仕事を引き受けたこと、コンパウンドの開発から行わない限り半年後も歩留まりは今のまま、と説明したら、8000万円で何とかしろ、と決断している。
8000万円では新品の二軸混練機も購入できないので中古機で量産ラインを立ち上げることが決まり、サプライチェーンの問題からQMSに登録されていない子会社を間借りする方針までその日にすぐに決まっている。あとは成功させるだけである。
中途採用の若者といかにも頭のキレがよさそうな職人二人をメンバーとしたプロジェクトでカオス混合のプラント立ち上げを始めたのだが楽しかった。
3か月ほどでラインが完成したので、まずPPSと6ナイロンだけのコンパウンドを混練している。カオス混合装置の吐出口から透明な樹脂液が出てきたときに、中途採用の若者は腰を抜かした。彼は高分子科学をよく理解していたので採用したのだが、期待通りだった。
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