ポリウレタンはイソシアネート化合物とポリオール化合物あるいはポリカルボン酸化合物類と反応させて合成されるTPEである。TPEは当時の新素材であり、その難燃化も重要な社会テーマだった。
先端材料の発泡化技術は、特許を読んでみてもうまくできるものではない。それなりの技術ノウハウが必要だった。しかし、ゴム会社にはすでにその材料の製品を生産していた部署があり、その現場にはノウハウが蓄積されていた。
アメリカ企業から導入された技術でポリウレタン発泡体が生産されていたので、この技術の習得をしている。技術習得しながら、ポリウレタンを変性するためのホスファゼン誘導体を設計し合成していた。
原材料の合成と技術習得を同時並行で進めたが、これは上司から命じられていたわけではない。工場の現場で技術を見学したときにやるべきことがすぐに理解できたからである。
この現場で技術をすぐに理解できる能力は、誰でも備えているわけではないことを当時理解していなかった。大学院までの3年間で育成された能力だった。それは、写真会社へ転職し、ゴム会社における12年間の反省をしていて気づいたことである。
生産現場では様々なノウハウが機能している様子を観察できる。この機能に着目し観察できるという能力は、実験をすることにより鍛えられる。ただし、何も考えずに実験していては能力を鍛えることができない。仮説の検証と機能の動作観察という二つの視点で実験を観察して能力を鍛えなければいけない。
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ポリウレタンに限らず有機高分子の主鎖にホスファゼンを導入する技術は、当時未開拓の領域だった。ゆえにホスファゼン変性ポリウレタン合成は、世界初の技術であり、また情報が無いので難易度も高い。
さらに原料となるホスファゼンは新素材として注目され始めた時代であり市販されていなかった。この理由から、技術の難易度よりもホスファゼンをどのように調達するのか企画検討会で問題にされた。
大学院修了後就職するまでの1か月間、ご指導いただいた先生のお手伝いを無償でしている。その先生と新年度の学生が使用予定のホスファゼンを大量合成し数kg精製した。
その仕事を終えても2週間ほど時間があったので、実験を行い新規のホスファゼン誘導体を4種と、そのうち1種の誘導体を使って新たな環鎖状型ホスファゼンの重合に成功した。これらはその後論文2報にまとめられたが、その御褒美として2kgほどホスファゼンを頂いた。
企画検討会でその話をしたところ課長からそれを使って研究するように命じられた。そして足らなくなったら大学からもらうように指示された。
しかし、ホスファゼン変性ポリウレタンの合成は、新入社員という立場で残業手当がつかない当方の毎日の努力により、大学から追加分をもらうことなく6か月後に工場試作まで成功することができた。そして始末書、となった話は以前この欄で紹介している。
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ゴム会社に入社して9カ月が経過した時に職場異動となった。10月1日に研究所へ配属されて担当していた1年間で実施予定だった新入社員テーマ樹脂補強ゴムを3か月で終了したからである。
1980年1月からのテーマを企画してほしいと新しく上司となった主任研究員(課長)から命じられた。高分子材料科学の分野では、耐熱高分子の研究の流れから1970年代高分子の難燃化研究が生まれている。
大学院の2年間は無機の講座に在籍していたので無機化合物が難燃剤として応用されていることを知っていた。また、単に情報として知っていただけでなく、研究も少し行っている。
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塗料として用いられているPVAの難燃化が難しい、といわれていたのでホスフォリルトリアミドのホルマリン付加体を合成し、難燃性のPVAに変性する研究を行い色材協会誌に発表している。
ゆえに課長の期待に応えることは朝飯前であった。新たに配属された部署の看板は高分子合成研究室であり、世界初の難燃性軟質ポリウレタンフォームを合成してほしい、と具体的なテーマを命じられた。
世界初の技術であることが重要だ、と念を押された。リン酸エステル系難燃剤の開発競争が始まっていたので、新たなリン系難燃剤のコンセプトが生まれたらすごい、と指導社員から言われた。
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新入社員のモラールアップのためのリップサービスと最初はとらえたが、ホスファゼン変性ポリウレタンフォームの企画を提出したら、大変感謝された。高分子合成研究室という看板だったが、新入社員のアイデアをそのまま受け入れるレベルだった。
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昔は第一次産業から第三次産業までだったが、今は情報も加えて第4次産業と言われたりする。しかし、数字が大きくなるにつけ労働集約的とならないところは同じである。
ところがこの見方も間違っている、と言われた時代があった。第三次産業が労働集約的というのだ。しかし、第二次産業の多くが中国進出したところ国内の空洞化が起き、労働市場が消失したことを否定する人はいない。
今円安に振れたことやチャイナリスクその他の理由で、中国へ出ていったメーカーの国内回帰が起きているという。さらに中国国内の賃金が上がり日本の労働者賃金との差が小さくなったので新興中国企業が日本に工場を建てる現象まで起き始めた。
また、日米半導体摩擦で産業の米と言われた半導体産業が壊滅状態にもなった。今これを立て直そうと国も金を出しての取り組みがされ始めた。
このような変化は、第二次産業への新たな回帰という見方ができる。第一次産業の農業においても回帰現象がささやかながら起き始めた。
産業構造の変化が起きるときに注意をしなければいけないのは、労働者である。派遣社員というシステムが批判されたりするが、このシステムにより、労働者は人生における労働場所を選択できる自由が生まれた。
同一労働同一労働賃金が議論されたりしているが、業務選択の自由というシステムが労働者の学びに極めて有利なシステムとして気がつかなければ無意味である。
故ドラッカーは知識労働者の時代として現代を定義している。すなわち、労働者は単純な機械の代わりではないのだ。しかし、労働者の中には目の前の仕事を言われたとおりにかたずけることしか考えていない人が多い。
大学院を出てきた若者さえもそのような働き方をする者がいて、叱ったことがある。ところがこのような行為は今はパワハラとして禁じ手となった。派遣だろうが正規だろうが知識労働者であることに変わりはない。
その労働に知識が必要という自覚をもって働かなければ給与をあげることはできない。どんな仕事にも知識が必要であり、仕事から新たな知識が生まれるのは改善を日々意識した時である。これはどのような産業構造にも共通している。
データサイエンスはDXの進展した今の時代に誰もに要求される基礎知識となった。どのような仕事でもデータは生まれる。データ中心に仕事を眺めるノウハウは一度知識として身に着ける必要がある。
ようやく小学校でもプログラミング教育が始まった今データサイエンスの知識は子育てにも必要である。3月から問題解決法としてのデータサイエンスのセミナーを開始します。是非活用してください。
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劣悪な環境で働いていても上司を襲わない日本人を外国人は不思議に思う、という記事があった。記事には日本人の労働に対する考え方が紹介されていたが、腑に落ちなかったのは日本人は仕事が嫌い、ということを前提にしたような内容だったことである。
もしそれが現在の風潮であれば、仕事は好きになった方が良い、とアドバイスしたい。あるいは、好きな仕事をした方が良い、のほうが適切かもしれない。
好きな仕事であれば、どんな環境でも楽しめるのだ。当方はその楽しむ時間さえも奪われたのでゴム会社を転職している。同様に写真会社は早期退職している。
以前ここに書いているので詳細は過去の記事を参照していただきたいが、高分子の難燃化研究を担当していた時の上司は最悪だった。しかし、仕事の中身は自分で楽しくできたのでそのような上司の下でも我慢して仕事ができた。
ましてや襲撃してやろうとなどと思ったことはない。たとえ新入社員でありながら世界初の技術について工場試作を成功させて始末書を書けと命じられても、せいぜいその始末書に新しい企画を添付してほしいと要求したぐらいである。
仕事を長期間続けるためにはそれを楽しめることが大切である。仕事を通じての人間関係とか、仕事の内容そのものとか楽しめる要素はいろいろある。それを見出すためには若干の知識が必要になる。
今の時代、何の知識もなく楽しめるような仕事は皆無である。ハンバーガーの売り子にしてもマニュアル通り挨拶していてはだめなのだ。
マニュアルをベースにしてお客さんに笑顔でお金を支払ってもらえるような応対ができるためにはやはりそれなりの教養が必要になる。
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訪米中に同行した岸田首相の長男が観光地を遊び歩いていた、という報道が流れたと思ったら、今度は複数の閣僚が、首相からお土産をもらった、と記者会見で述べている。
土産をもらった、という話をリークする目的があるのかないのか知らないが、記者団から何をもらったか、という質問に、内容を言えば角が立つ、と答えたそうだ。
そもそも訪米から帰国した首相から土産をもらった話をすることが、「角が立たない」と考えているところが世間の常識を知らない。土産をもらっていない人がどのようにその話を受け取るのか、想像しなかったのか。
飴玉一個でももらえなかったことを怒っていた上司がゴム会社にいたが、お土産はバレンタインデーの義理チョコよりも重い時がある、とその時学んだ(注)。
そもそも自分の長男をまだその年齢にふさわしくない役職に就けていることがおかしいのだ。能力がずば抜けてよいなら国民も納得するが、週刊誌情報からするとそうでもないらしいから呆れるのだ。
もっともご自分の支持率が低いので政権についているうちにやりたい放題やっておこう、という魂胆かもしれない。最近の首相の行動がそのように見えて仕方が無い。
これでは自民党の支持率も落ちるが、情けないのはそうした失点があっても加点を拾える野党がいないのも問題である。若い立憲民主党の美人政治家が自民党に鞍替えし、岐阜県会議員に立候補することがニュースとなっている。
しかし、美人という尺度で政界渡り鳥と言われた小池百合子都知事の話がこのニュースに出てこないのは、年齢差がありすぎて比較の対象とならないからか。節操も無く政党を渡り歩いても都知事になれるのである。
日本の政党政治とはその程度であり、将来有望な政党へ鞍替えをと考える若者が出てきてもおかしくない。それが若くて美人だからニュースになっているのなら、マスコミはとりあげかたがおかしい。
戦争で大変な国もあるかと思えば、外遊の土産が話題になって、その中身まで質問するマスコミ、平和な風景である。もっと質問すべきことがたくさんあるはずである。今この国で何が問題かをマスコミは率先して考えるのが仕事だ。真面目に仕事をやってほしい。
(注)ゴム会社から写真会社へ転職した時に、職場へ一切お土産を買わない習慣とした。そのほうがすっきりすると考えたからだ。部下からケチと思われてもつらぬいた。また、お歳暮やお中元が管理職に届くと総務課がせっせと返却する会社だったのでお土産の処理も特に問題とならなかったようだ。
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タイトルを見てすぐに理解される方は、恐らく30代までではないか。今注目されている若手芸人である。当方は、たまたまM-1グランプリを見て知った。その芸を最初見たときにさっぱりわからなかったが、ネタの途中から笑ってしまった。
彼女らの芸は、この数年の若者のトレンドを理解していないと笑えないのだろうと、笑い終えて考えてしまった。コロナ禍となって仕事が減り、TV視聴やネットサーフィンの時間が増えた。その結果笑えたのだろうと思い、少し暗くなった。
しかし、この芸の構成は技術アイデアを練る時に当方が使用している方法なので、芸の流れから笑えたのかもしれない、と考え直し、芸人がネタを考えるのも技術アイデアを考え出すのも同じ思考方法をとっているのかもしれないと改めて思った。
実はこのような印象は初めてではない。ピコ太郎のPPAPを見た時にも同様の印象を受けている。ピコ太郎にしても彼女らにしても芸を見る限り変人奇人である。
しかし、そこには人を笑わせようとしている緻密な計算がある。ピコ太郎は大阪のおばさんを想起させるその衣装から登場した時に笑いを誘うが、彼女らの芸はそこから何も理解できなければどこかに収容すべきと思う人もいるかもしれない。
誰がネタをまとめたのか知らないが、一つ一つはつまらない、また演技も下手であるが、それが組み合わされてうまくつながると下手な演技が逆に光り、笑いを誘う。
実はカオス混合のアイデアも全体の流れの中の発見が、温めてきた概念とうまく結びつき生まれたものであり、彼女らの芸の面白さと似ているところがある。その装置自体は見ても他愛もない構造をした装置である。しかし、二軸混練機と組み合わせられるとPPSと6ナイロンを相溶させる機能が発揮される。
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昨年ONKYOの経営危機騒動があったが、電気店のオーディオコーナーなどすでに消えている。一部大手量販店にオーディオコーナーが残っているが、高級品ばかりである。
今手軽に音楽を楽しみたいと思ったら、アマゾンかメルカリ、あるいはネットオークションで安価で性能の良い製品を探さなければいけないようだ。
当方は音楽垂れ流し状態で仕事をしている。ただしヘッドフォーンではなく、手作りのスピーカーにYAMAHAのアンプとそれにPCをつないだシステムである。居間にはROTELのアンプだが事務所にはYMAHAの理由は、システムを組もうとしたときにDACのついたROTELのアンプが無かったからだ。
スピーカーが手作りなのは、手ごろな大きさで高性能なスピーカーが無かったのがその理由である。実はスピーカーの完成品について海外メーカーが日本市場を席巻してから20年ほどになる。
バブルが崩壊し、オーディオメーカーの再編衰退がはじまったころに海外スピーカーが日本市場に普及しはじめた。5-10万円クラスで日本メーカーよりも音質の良いスピーカーが多かったからである。
ところが、今このクラスで良いスピーカーが欲しいと思ったら、キット製品を購入して得られる手作りスピーカーがもっとも高性能である。
良好な解像感や音場感は、この価格帯の市販品では得られない。わかりやすく表現すれば、ステレオで聴いたときに楽器の位置が分かり、演奏者の息使いまで伝わるようなスピーカーである。
スピーカーの原理は昔から大きな変化はないが、振動板の材質に技術の進歩がみられる。20年以上前にセルロースナノファイバーを用いた振動板や、マグネシウム合金を用いた振動板が登場し、これらが普及価格帯のスピーカー部品として販売されている。
ところが完成品となると値段が高いのだ。そこで高級スピーカー部品を安く購入し、自分で箱を組み立て使うことになる。現在のオーディオ市場は昔の趣味の世界に戻ったような印象を受ける。
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中国のことを日本ではこのように呼ぶそうである。科学技術の基盤をもたず、政府の補助金目当てにベンチャーを起業して事業を進めているだけ、だから日本は安心しろ、という記事を見つけた。
一つだけではない。このような論調の記事が最近多い。中国のEVが日本に押し寄せている状況を心配しなくても良いように書いている記事も見つけた。
この最近の傾向は、日本人に元気を与えようという配慮が垣間見えるが、決して正しい見方ではないことを警告したい。中国では張りぼてから中身の詰まった企業まで玉石混交状態が実体である。
中国市場で世界で著名な日本企業が中国企業にその品質で負ける光景を見てきたのでこの記事を書いている。当方が中国で指導した企業は、当方の指導を熱心に学びタグチメソッドを導入し開発を進めているのでロバストの高い製品を市場に提供している。
その企業では、最初に書いたニュースで報じられているように基礎科学の研究など行っていないが、技術開発のイロハについては、日本企業の技術者よりも正しく理解している。
もし、この企業を張りぼてと見なしていたら大変な間違いをする。タグチメソッドで新技術の開発が可能だからである。基礎科学が形式知として完成に近い分野では、技術開発だけでも形式知を活用し新技術を開発可能な時代であることを忘れてはいけない。
驚くべきことは、データサイエンスについて弊社に教育プログラムを依頼してきたことだ。最近弊社はデータサイエンスのセミナーに力を入れており、昨年だけでも20回以上のセミナー実績があり、その情報から依頼してきたようだ。
弊社のデータサイエンスのセミナーは40年前から活用してきた実績と、最近のディープラーニングの内容までカバーしており、他のセミナー講師では真似のできない内容である。日本企業も中国に負けないように弊社へ問い合わせていただきたい。
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技術開発で遭遇する多因子問題は数値を扱う。数値化できない場合には標準モデルを設定し、それを基準にして量的問題に変換して数値化し実験を行う。
ゆえに、たいていの問題では、数量を処理して因子間の相関に注意しつつ、目的とする変量を最適化できるように改良を繰り返す作業でそれを解くことになる。
基本機能を明確にでき、その信号因子があれば、信号因子のノイズに対するロバストをあげる制御因子をラテン方格に配置し実験を行い、分散分析により有意となった制御因子を見出し、それを用いて基本機能のロバストをあげる改良を行う手法はタグチメソッドである。
これは昔ながらの多変量解析と大きく異なるが、それでも多数の因子を整理して問題を解くという視点では多変量解析と呼びたくなる。これを多変量解析と呼んだ瞬間に言葉の概念の拡張が行われることになる。
奥野先生の教科書に書かれた内容だけを多変量解析と呼ぶべきか、それともタグチメソッドも多変量解析の一つとしてとらえるのか、これを誰かが明確に決めなければ、データサイエンスの学問も混乱する。
ディープラーニングのひどい教科書によると統計手法を用いない機械学習をディープラーニングと呼ぶ、としているものもある。しかし、得られた結果の妥当性を議論するときに、何らかの統計手法を用いることになるので、この概念には無理がある。
さらに驚くのは、1ページにわたる説明を理解すると、重回帰分析には統計手法を用いる場合と用いない場合があり、後者は機械学習の一つ、などという説明になっているものもある。
この説明が間違っていることは明らかであり、重回帰分析を用いるときに回帰の精度を上げるために変数をたくさん取り込んで行くと、変数間の相関に高い組み合わせが現れることになる。
これをどのように処理するのかは重回帰分析の重要なスキルとノウハウの一つであり、ただ回帰の結果をあげることが正しい処理とは限らないのだ。
データサイエンスという学問の説明について一度整理する必要があると思っている。当方が社会に出たときにアカデミアで情報工学設置のブームがあった。5年ほど前からデータサイエンスの学科設置がブームであるが、看板の説明が怪しければ情報工学同様におかしな学問になる。当方は昔からデータサイエンスという言葉を使ってきたがーー
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