PPSと4,6ナイロンの相溶を証明したのは東工大扇沢研究室である。PPSへ4,6ナイロンが配合された混合物を二枚の反対方向に回転するガラス円盤に挟んでその場観察する実験を行っている。
この実験でコンパウンドは300℃になると周辺部が透明になる。円盤の周辺部は、中心部よりも剪断速度が速いので、この観察結果は、剪断速度があがるとPPSと4,6ナイロンが相溶することを示している。
PPS/6ナイロン/カーボンの配合によるコンパウンドで中間転写ベルトの押出成形を担当することになった15年以上前にこの論文を読んだ。
そして、半年後に当時の歩留まり10%未満だったベルトの生産をカオス混合によるコンパウンドで100%にできる確信をしている。
フローリー・ハギンズ理論によれば、2種のポリマーブレンドが相溶する条件はχが0にならなくてはいけないので、この確信は自信というよりも東工大の研究結果を信じて教科書を否定するぐらいの度胸が必要だった。
カオス混合によるPPSと6ナイロンのブレンドではχが0でなくても相溶し透明になってくれたのだが、予備実験も研究も何も行わず生産ラインでこの現象をいきなり確認しようとしたのは無謀といってもよい。
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金属やセラミックスの劣化機構とその予測に関して、科学でほぼ説明できるレベルにあり、御巣鷹山の飛行機事故についてはフラクトグラフィーを用いた解析で、圧力隔壁の修理不適切な部分からの疲労破壊が原因だったことも裁判の判例として残っている。
同様のことが高分子材料で起きていたらおそらく判例のようにうまくまとまらなかったのではないか。例えば、10年以上前に複写機外装材のボス割れについて明らかにコンパウンド起因と技術的に解析できたが、科学的証明が困難だった。
コンパウンドメーカーと議論しても平行線となって結論が出ず、現場監査となって混練機の温度管理が不適切でスの入ったペレットを生産していた現場を動かぬ証拠とした。しかしそれでもコンパウンドメーカーは科学的な証明ができていない、と主張していた。
この問題は、科学的になかなか結論が出せず、結局混練プロセス管理の徹底によりスの無いペレットを納入することとして幕引きとなった。
その後ボス割れが発生していないことから、技術的に予想されたスの入ったペレットが原因だったことの証拠と思われたが、それでもコンパウンドメーカーは非を認めなかった。
高分子成形体の劣化の場合に、コンパウンド起因と科学的に説明が難しい理由は、高分子材料について科学的に完璧な記述が難しいことによる。
溶融状態の高分子科学についても未解明な現象がまだある。それが成形体となってもその成形体物性を科学的に完璧に説明できない。これに時間の要素が加わった高分子の劣化問題について、科学の研究は易しいが実務における現象を説明することは難しいトランスサイエンスである。
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二軸混練機を用いて高性能ポリマーアロイのコンパウンディングを行う時に、その条件を決めるためにタグチメソッド(TM)は大変便利だ。カオス混合機を取り付けた二軸混練機のスケールを大きくしてもその再現性は高い。ただし、カオス混合機が取り付けられていないと苦労する。
二軸混練機については、反応器であるにもかかわらず、化学工学的に相似形として扱えないことを現場の技術者はよく知っている。すなわち時間当たり10kgの処理能力の二軸混練機で吐出量が1時間当たり300kgスケールを予測することができない。
これはバンバリーとロール混練を組み合わせて用いる場合でも同様であるが、二軸混練機の場合には全く予測できない場合が多い。バンバリーとロール混練を組み合わせた場合には、ロール混練時間を多少伸ばす程度で大スケールで小スケール時の検討結果を再現できる。
しかし、二軸混練機では小スケールのコンパウンド性能を全く再現できないことすらある。結局小スケールの再現ができるレベルまで生産量を落とし量産に入る場合が多いのではないか。あるいは、大スケールで妥協ができる程度に改めて条件の変更を行う場合もある。
これはTMを用いても同様である。TMを用いた場合に大スケール化した時にうまく再現できる場合もあるが、複雑なコンパウンドの場合に大スケール化により機能を実現できない場合がある。
これは、二軸混練機が大きくなると混練性能がスケールとともに劣化するからである。1時間当たりの吐出量を100kgから300kg、すなわち3倍程度のスケールアップでもうまく再現できない場合がある。
しかし、カオス混合機をつけてTMを行うと、そのような場合でも再現できた経験が多い。全く手におえないという経験は現在のところ無い。
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高分子の難燃化技術が急速に進歩したのは1970年以降である。1970年代中ごろには高分子の難燃化手法に関する書籍も販売されている。そして1980年代には各種リン酸エステル系難燃剤が上市され、1990年代には臭素系難燃剤のブームとなった。
修士2年間の研究で当方はPVAの難燃化技術の論文を1報書いている。当時珍しいLOIの装置を近所の女子大被服科で研究している、と指導教官から教えられて、装置を借りてLOIの評価を行っている。
PVAは接着剤や塗膜として用いられているがその難燃化が難しいということでどこかの企業が研究を持ち込んできた。それを担当する学生がいないということで小生が引き受けた次第。
ホスフォリルトリアミドの重合研究を行っていたので、そのホルマリン付加体を新規に合成しPVAの反応型難燃剤として用いたのだが、1か月もかからず研究をまとめることができた。
この時無機高分子で耐熱性高分子を合成しようと研究していたのだが、耐熱性高分子よりも難燃化技術の方が社会的に貢献度が高いと予感した。
ホスファゼンのジアミノ体の調査をはじめ、修士課程を修了後、4月1日にゴム会社へ入社する前の3週間ほどで、ショートコミュニケーションやホスファゼンの環鎖状型重合に関する論文をまとめている。
残念ながら400℃を越える耐熱性高分子を製造することはできなかったが、この時の高分子難燃化技術に関する調査研究がゴム会社入社後にポリウレタンの難燃化技術で活かされている。
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100円ショップを初めて見たときにその製品品質に驚いた。商品の中には文房具専門店の半分以下の価格で十分実用的な商品があった。
しかし、100円ショップの商品を使ってみてその耐久性の無さに愕然とした。例えば樹脂製ファイルでは1年経過したところで表紙の靭性が低くなっていたのだ。
しかし、最近の製品ではそのようなことはなく、十分に実用に耐えうる商品が増えてきたと思ったら、300円や500円の商品が100円ショップに並ぶようになった。
100円ショップの製品の大半は中国製だが、中国でも人件費が高騰し、昔のような値付けが難しくなったのだろう。
100円ショップの商品が安かろう悪かろうは過去の話で最近は、100円以上の価格がつけられて品質もそれなりに向上している。
最近は本屋も事務商品を扱うようになったので、昔ながらの文房具屋はライバルが増えて大変である。100円ショップは100円でもできそうな事務用品だけ販売していた時代から、事務用品メーカーが販売チャネルの一つとして利用している。
この影響もあって、事務用品関係の樹脂製品の品質が向上したのかもしれない。100円ショップが登場した時よりもその品質が著しく上がり、コストパフォーマンスを他の店と比較できるまでになった。
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原材料の価格には、用途に応じて相場がある。社会人になった時にこの相場の価格を知る重要性を学んだ。ホスファゼン変性ポリウレタンの工場試作に成功し、始末書を書いたためである。
世界初でこれまで世の中に無かったような技術を提案してほしい、と上司から指示を受けてホスファゼン変性技術の提案をして半年で工場試作まで実現したのだが、ゴールを達成しても始末書である。
その始末書で提案したのが、燃焼時のエネルギーでガラスを生成して難燃化する技術である。既存の1kgが1000円未満の安いリン酸エステル系難燃剤を使用してもホスファゼン並みの難燃効果が得られた技術は、大変コストパフォーマンスが優れていた。
この技術はすぐに実用化されたのだが、ホウ酸の環境負荷が指摘されその後廃版となった。難燃剤システムの価格としてみると1kg300円以下であり、大変安い技術だった。
高分子材料の価格は、原料とプロセスが決まれば、おおよその価格が見えてくる。そして市場ニーズとの関係でその価格が決まるのだが、セラミックスのようなブラックボックスではない。
セラミックスの中には、運送費が大半を占めている材料も存在する。その成形体にとんでもない価格がつく場合もあり、高分子材料やその製品に比較し、原材料の相場が見えにくい。
セラミックスの調査を始めたときに苦労したのは、この相場勘を身に着けていなかっただけでなく、公開された価格からテーマの事業性の判断が難しかったからである。それに比較して高分子材料は分かり易い。
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高分子材料が実用化されるためには、用途に応じた最適化が検討される。合成高分子が無かった時代には、飯粒は重要な接着剤だった。紙の接着であれば飯粒が十分な接着剤の役目を果たした。
小学一年か二年生だった時、ボール紙で夏休みの工作として作品を作ることになり市販のノリではなく飯粒で接着した思い出がある。市販のノリを使わなかった理由は、飯粒の接着性に興味があったからである。
今から思えば馬鹿な行為であるが、また、親にもその作業性の悪さを指摘されたりしているが、子供心に飯粒が接着剤として機能することに面白さを感じていたのだろう。
この思い出は悲惨な結果だったので今でも記憶しているのだが、接着部分にカビが生えたのだ。カビを取り除いてもそれが生えていたところは変色していた。
このとき、工作用ノリには防腐剤が添加されていることを学んだのだが、情けないのは大泣きをしたことである。大泣きをした思い出は今でも記憶しているが、その後夏休みの工作がどうなったのか記憶が無い。
そもそも飯粒で紙工作をしようとした発想は、親か兄弟からノリはご飯粒から出来ている、とかいう中途半端な知識を教えられたためで、その時防腐剤が添加されていることを聞かなかった。
そのような経験があり、怪しい新しい知識を百科事典で調べるようになった。当時インターネットなど無く家庭用百科事典ブームであり、子供のいる多くの家庭には1セット百科事典があった。
当方の家庭にあった百科事典には、料理について食材を混ぜる方法の説明はあったが、ノリに防腐剤をどのように混ぜているのか記述されていなかった記憶がある。
母親から大量に混ぜるので機械を使っているとの説明を受けたが、どのような機械なのかは企業秘密だ、と教えられた。当時母親の答えには企業秘密が多く、世の中は秘密ばかりと不思議に思っていた。
しかし、添加剤を高分子に混ぜる技術には今でも企業秘密にすべき内容がある。このような技術に遭遇された方は弊社にご相談ください。高分子に添加剤を混ぜる方法について、今でも技術の差が生まれる分野である。同一配合でも機能に大きな差が現れる不思議な現象は、この混ぜる技術が関係している。
カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子
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高分子の高機能化には一次構造の設計と複合化による設計の2種あり、開発の容易性において後者の方が経済的な視点から優位である。
一次構造の設計では重合条件が障害となる。すなわち机上で理想的な一次構造を設計できたとしても重合できなければ、あるいは側鎖の化学修飾にしても合成できなければその機能性を確認できない。
それに対して複合化による材料設計は、混練機が手元にあればおおよその検討をつける実験を容易にできる。但し、それが量産で再現できるかどうかは別の問題だが、とりあえず機能の確認をするためのモノを作ることができる。
複合化で高機能化が期待できる結果が得られたならば、タグチメソッド(TM)を行うとロバストの高い高機能性高分子ができる。
高分子の重合特許よりもコンパウンディングに関する特許の方が圧倒的に出願件数が多いのはこのような容易性からも説明ができる。
高分子の高機能化において工業的にはコンパウンディング技術が重要になってくるが、実はこの技術に関する形式知は少ない。論文を読んでもそこに書かれた結果を手元の混練機で再現できない場合も存在する。
また混練プロセスにおいて、バンバリーとロールの組み合わせによるバッチプロセスは、連続プロセスよりも高性能のコンパウンディングが可能である。しかし、この経験知はあまり知られていない。また樹脂をロールで混錬すると説明した時に笑う技術者もいるから面白い。
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Pythonを使い始めて変化したのは、エクセルを使用する頻度が激減したことだ。Pythonのエディターを立ち上げておくと電卓も不要である。
昔エクセルをワープロとして使用していた人がいた。議事録などブック機能を利用して整理しておくと便利だからだそうだ。
これは一つのアイデアかもしれないが、エクスプローラを使いこなせばその方法が便利かどうか不明である。エクセルをワープロとして使用するには不便なところがある。
コンピューターのソフトウェアをその主たる目的以外の使い方に気づき、ユーザーが新たな用途を見つける事例はかつてパソコン雑誌の格好の話題だった。ワープロを表計算に利用する、というものもあった。
MS製品はVBAが使えたので、転用はアイデア次第自由にできた。しかし、各ソフトウェアーの機能が充実するようになるとそのような転用は話題とならなくなったように思う。
やはり、ソフトウェアーはその主たる目的のために設計されているからだが、Pythonはどのような目的でもプログラム次第である。
ビジュアル・システム・コード(VSC)は、ジュピターノートブックの機能がついているので大変便利だ。例えばタグチメソッドを行う時にPythonのプログラムにデータを登録しておけば、エクセルファイルに自由にデータを成形して落とすことができる。
これは何を意味するのかというと、かつてエクセルを使ってデータを整理していた人は、Pythonのプログラムファイルでデータ管理すると便利であることを示している。どのような使い方があるのか、希望者があればセミナーを企画する。
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BASICは初心者用言語としてパソコン黎明期に広く普及した。マイクロソフト社の開発したこの言語が多くのパソコンに搭載されたからだ。8ビットマイコンの狭いメモリー空間でもプログラミング言語に必須の機能をすべて備えており、多変量解析のプログラムも動作した。
当時のBASICは、機械語とのリンクもサポートされていたのでスピードが遅いルーチンをアセンブラーでプログラミングしてリンクすることにより、複雑なプログラムも作成可能だった。
また、FDOSをサポートしていた某社のBASICはコンパイラーも存在した。しかしコンパイル後のコードは肥大化し、インタープリターよりも扱えるデータ量の制限を受けた。
今流行しているPythonはハードウェアーの進歩に助けられ、インタープリターであっても十分に実用的なプログラムを作成可能である。機械学習で1000件程度のデータを扱う場合でも一晩で答えが出る。
昔MZ80Kで5日間演算に時間が必要だったプログラムを動作させていた時、3日目あたりで暴走しているのではと不安になり、演算途中でリセットした記憶がある。
そしてプログラムの途中に時間を表示させるルーチンをいれたのだが、この時間表示が割り込み処理を使っていたのでプログラム動作が遅くなり1週間もかかってプログラムが終了した時、なぜか当方も疲労感を感じた記憶がある。
オブジェクト指向はコンピューターに擬人化を持ち込んだと言われているが、昔の8ビットコンピューターはその動作の遅さで十分人間的味わいがあったように思い出される。
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