問題を前にしたときに技術者は何を考えるのか。科学の時代では仮説を立てるのが常識とされた。実験は仮説に基づくものだけやれ、と声高に叫んでいた管理者や研究所リーダーがいたが、科学の時代ゆえの光景である。
科学誕生以前にも人類は技術開発を行ってきたのだが、その方法は徹底した現象観察である。シートン動物記にもその片鱗を見ることができる。科学の時代であっても現象観察は重要な方法である。
ニュートンは、リンゴが落ちる現象について、頭の中で現象を再現する思考実験により、万有引力の法則を発見している。そしてこの手法をマッハ力学史を著したマッハは、非科学的と述べている。
ところが、研究所ブーム以来科学に毒されて、このどちらかと言えば泥臭い現場的な方法は、仮説設定による実験に追いやられた。
DXの進展で、現象観察の結果抽出されたデータや情報活用が容易になった。すなわち、1960年以前は数学者でなければ計算できなかった解析が、誰でもプログラムを用いれば容易にできるようになったのだ(弊社のサイトでは無料でこのプログラムを公開している)。
例えば、PPS/6ナイロン/カーボンの配合を変更せず、歩留まりをあげる方法について、仮説を立てて実験をしようにも実験計画そのものが難しい。
なぜなら、外部からコンパウンドを購入し、現状の制御因子を変更せずに実験を行え、とは、一休の頓智話に出てくる屏風に書かれたトラを捕まえろ、というようなものだ。
そこで、過去の研究開発データを統計手法で解析しなおし、パーコレーションの検討が不十分であることを見出した。これはデータサイエンスの手法である。
そして検討不足のパーコレーションについて、PPS/6ナイロン/カーボンの配合系でどのような現象となるのか、あらゆるカーボンの分散状態についてシミュレーションした。
但し、シミュレーションプログラムは、スタウファーの教科書に書かれた数値計算シミュレーションではなく、実際に粒子が分散する様子が分かるようにモデル化し、C#でプログラムしたのだ(セミナーではエンジン部分をPythonで書き直し配布している)。
そして、パーコレーションの安定領域をグラフから目視で選び出して、その時の構造モデル2種類を実験で確認しただけである。歩留まり100%を実現するまで、仮説を用いた実験など用いていない。
今技術者がリスキリングするときに考えなければいけないのは、科学で毒された仮説中心の実験方法からデータサイエンスによる現象解析の手法をどのように実験計画へ実装したらよいのか、という問題だ。
科学の方法と同様に現象観察を統計手法により科学的に進めるデータサイエンスの手法は、単なる情報処理の専門家の説明によると、従来の仮説に基づく実験との関係が見えにくい。
仮説に基づく実験方法は重要であるが、科学に拘束されず新たな機能を見出すためには、現象観察により新たな機能を見出すためのデータ処理が重要となってくる。このデータサイエンスのスキルを身に着ける方法は、弊社にご相談ください。
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15年以上前に単身赴任して半年で仕上げたトランスサイエンスの問題は、先日の電気粘性流体に類似の界面現象である。
月曜日の問題は絶縁オイルの高分子とゴムからブリードアウトした低分子との界面の問題だったが、中間転写ベルトの問題は、異なる高分子で形成される界面の問題だった。
前任者は、高分子技術では国内トップ企業と共同開発を進め、PPS/6ナイロン/カーボンの配合で、中間転写ベルトに要求される靭性と電気抵抗を両立できる技術開発に成功した(ことになっていた。)
しかし、半導体無端ベルトの押出成形の歩留まりが10%以下では、赤字になることが必至であり、このまま生産に突入したら赤字となり責任を取らされる恐怖があった。
それで当方に配合処方も外部からコンパウンドを購入するサプライチェーンもそのままで、歩留まりを100%にしてくれと言ってきた。さらに当時窓際だった小生に立場を代わってほしい、とも。
植木等に似た調子のよいこの人物の依頼内容はトランスサイエンスそのものである。6年間彼が開発してきた押出成形技術について、押出成形条件だけを検討して歩留まりを100%にしろというのである。
6年間の研究開発データをデータサイエンスの視点で見直し、パーコレーションの問題についてまったく考えられていないことを見つけた。
そこで、PPSをマトリックスにして6ナイロンのドメインとカーボン粒子についてパーコレーションの視点でシミュレーションを行った。
このようなシミュレーションは2種類の粒子についてパーコレーションを考えることになる。先月のセミナーでPythonで作成したシミュレーションプログラムを公開しているが、これであらゆる条件のパーコレションデータをグラフ化し、パコレーションが安定となる条件を探している(明日へ続く)。
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高校生の時にソニー製電卓の登場に驚いた。そしてすぐにその小型版が登場し、インテルのマイクロCPUが使われていると話題になった。
学生時代にインベーダーゲームが登場し、名古屋撃ちなる奇策が生まれた背景に乱数の問題があるのでは、と考えながら遊んでいた。
ゴム会社に就職し、「花王のパソコン革命(とか言うタイトルだったが間違っているかもしれない)」というベストセラーの影響でOA委員に任命され、上司にローンの印を押していただいてMZ80Kを購入している。
1か月分の給与よりも高かったマイコンのおかげで、プログラミング能力を鍛えることができた。IBM3033の統計パッケージに入っていた重回帰分析と主成分分析のプログラムを真似てHuBASICによりプログラムを作成している。
大学院で学んだのは無機合成だったが、ゴム会社に就職し高分子のプロセシング技術を身に着けた。毎朝3時間の座学で3か月学んだ内容を今でも思い出す。マンツーマンでも居眠りをすると皮肉を言われたが、カオス混合のプラントを15年前にたった半年で立ち上げられたのは、この時の睡眠学習の成果だ。
樹脂補強ゴムの実用化から難燃性ポリウレタンの実用化、フェノール樹脂天井材の実用化、高純度SiCの事業化などゴム会社では、有機材料から無機材料まで広い領域の技術開発にすべて成功している。
そのベースにあるのは、今アカデミアで新設ラッシュとなっているデータサイエンスだ。統計手法により、データに潜む自然現象の機能を浮かび上がらせるスキルは、どのような分野の技術開発でも重宝するはずである。
そして、数年前から取り組んでいるのは、ディープラーニングである。ゴム会社の上司が少しおかしな上司だったおかげで、当時高価なマイコンのセットをローンで購入することになったが、今から考えると、それは現在への投資となっている。
研究所のOA化を検討するために、職場に一台もなかったマイコンの購入を申し出たところ、それほど必要なら”「My コン」として自分で購入しなさい”、と命令した上司に感謝しなければいけない。
学生時代にはFortrun、社会人になってBASICからC、C++、C#ときて今はPython、40年以上鍛えてきたプログラミング能力は、どのような言語でも容易に操作できるまでになった。
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ゴムケースからブリードアウトした物質により増粘して電気粘性流体の耐久性を阻害した問題は、界面活性剤を添加しなければ解決できない、という考え方は、ゴム材料の知識があればヒューリスティックな解として出てくる。
界面活性剤では問題解決できない、という科学的に完璧な答えが出ても、界面活性剤で解決しなければいけないのだ。
この当たり前のことを優秀な人はすぐに理解できない。そこで、加硫剤も老化防止剤も何も添加されていない世界初のゴム材料開発という、常識で考えればアホと言いたくなる企画を真顔でまとめる。それを科学こそ技術開発で唯一の方法と信じているI本部長は、アホな企画で世界初に挑戦しようとするその姿勢をほめちぎる。
アメリカのタイヤ会社を買収しやがて世界トップとなるゴム会社のアカデミアよりもアカデミックな研究所で30年以上前の企画に、今ならば誰もが大笑いするだろう。
しかし、ゴム開発担当の技術者が買収後の事業立て直しに狩りだされたため、当時残された研究員の誰もが、そのおかしさに気がついていなかった。
科学の時代とはこのような時代だった。1980年代に科学論が日本でも盛んに論じられるようになり、著書も多数出版されたが、アメリカではトランスサイエンスという言葉が生まれている。
1990年代にバブルがはじけ、科学論ブームが幕を閉じるが、2007年に突然日本でトランスサイエンスというタイトルの著書が発売された。環境問題とりわけ地球温暖化の兆候を無視できなくなってきたからである。
科学的には界面活性剤では問題を解けない、科学に問いこのような結果が出たとしても問題を解かなければまじかに迫った、それをテストする自動車会社の試験走行に間に合わない。
当方は界面活性剤について主成分分析を行い、HLB値と相関の高かった第一主成分の軸から離れた群に存在していた界面活性剤をヘドロのように増粘した電気粘性流体に添加したところ、それは初期の特性にすぐに回復した。
科学に問い、科学が出した答えと、データから統計的に出された答えが異なっていた。ただし、データサイエンスは、科学で解明されていない分野について存在する機能を示したに過ぎない。
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詳細は不明だが、研究不正が明らかとなりながら、関係者の処分が曖昧な報告書が発表された。数億円という国民の税金が使われたのである。責任者にはそれなりのペナルティーを課し公開すべきである。
あの小保方氏には未熟な研究者として学位まで剥奪し、研究者としての将来も閉ざされたのに、今回は曖昧な処分となったら常識的に不公平である。
ところで、その研究テーマだが「科学的妥当性も確認されていない状態で研究が開始され(JAXA報告書より)」と言われている。
「科学的妥当性を確認するための研究」という発想は無かったのか、と言いたくなる。実は、科学の研究では、「研究のための研究」が許される。「芸術のための芸術」と同じで、純粋な科学研究という方法も存在する。
当方は高純度SiCの新合成法において、反応速度論を使い反応の均一性を純粋な科学研究としてまとめ中部大学で正しくご評価いただき学位を取得している(注)。
ただし、この研究は高純度SiCの製造技術が完成してから行っている。技術の完成は、この研究が無くても技術の機能として反応の均一性を証明していたのだが、その科学的妥当性について科学的に証明されていなかった。
アカデミアよりもアカデミックな研究所ではその点が問題とされ、2000万円かけて2000℃まで1分未満で到達できる超高速昇温熱重量天秤を手作りして研究を完成している。
当方が転職後この熱天秤は邪魔物として廃棄されたそうだが、もったいないことである。品質管理用に使えたはずだが、目視でも均一であることを確認できたので不要と判断されたらしい。
この均一素反応で進行することを証明する研究では、技術が完成してから遂行されているが、技術の妥当性を科学的に証明したものである。このような研究企画をできないJAXAの研究者のレベルが捏造以上に問題である。国民の税金から人件費が支払われているのだ。
(注)この研究では、旧7帝大の一つの某大学の先生から、学会発表した時に学位を取得できるように指導するから詳細な速度論のデータを見せてほしいと言われた。詳細データについては学会でも発表していなかったので、当方が書いた社内報告書すべての社外発表許可及び学位取得のための許可を会社で頂き、データを先生に見せたところ勝手に論文を出されてしまった(国際的に日本のアカデミアのポテンシャルが落ちてきたことが指摘されているが、バブル崩壊前からこのような先生がいたのだ。今更である)。研究企画から学会発表まで面識がなかっただけでなく、実験にも携わっていない。しかし大学の先生は、小生に許可もなくご自分をファーストネームにし、小生をラストネームとしている。この図々しさには腹が立ったが学位取得のために我慢した。しかしその後転職したところ、写真会社からも奨学金を出してくださいと言われたので、この大学で学位審査を受けることを辞退している。中部大学では、学位審査料だけで学位試験から2年の論文作成指導までフルコースのサービスだった。勝手に論文を出してくれてこれに表紙をつければ完成と言われた先生の行為に思わず感謝したくなるぐらいに大変だったが、日本語の表現も含め誠実真摯にご指導くださった中部大学の先生方は高純度SiCの研究だけでなく、ゴム会社から公開許可を受けた研究すべてをまとめたいと申し出た小生の願いをかなえるために、ご迷惑をおかけしたと反省している。ゴム会社と中部大学の先生のはからいで、データサイエンスによる高分子の難燃化研究も学位論文に記載することができた。当方のセミナーは学位論文や学会、学会賞の審査会など外部で公開されたデータで構成されている。ただし、一部科学的では無いという理由で賞の審査に落ちた、15年以上安定生産が続いているトランスサイエンスの技術(技術レポートとして在職中に一部公開ずみ)もある。
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30年以上前だが、電気粘性流体の耐久性問題は典型的なトランスサイエンスだった。高偏差値の大学卒工学博士など数名で1年間取り組み、「あらゆるHLB値の界面活性剤を用いても解決できない」という否定証明の結論を導いている。
そして、電気粘性流体を封入するゴムとして、加硫剤も何も添加されていないゴム開発というテーマを設定して、住友金属工業と高純度SiCの半導体治工具事業をたった一人で立ち上げ忙しい当方に担当するよう命じてきた。
当時実務肌のU本部長から学者そのもののI本部長に代わり、当方の身の回りでは不思議な事件が起きるようになった。このゴム会社でありながら、絶対に実現できないテーマが当方に割り当てられたのもその一つである。
当方は1週間だけ時間が欲しい、と願い出て、データサイエンスを用いて電気粘性流体の耐久性問題をたった一晩で解決した。
MZ80KとPC9801の二台が当方の書斎で稼働しており、この二台はパラレルインターフェースでつながれていた。MZ80Kで走らせた主成分分析のプログラムから出力されたデータはPC9801へ送られた。
PC9801ではLOTUS123が動作し、そのデータをグラフ化する。こうして界面活性剤の物性値を主成分分析にかけたデータはグラフ化された。第一主成分と第二主成分の平面には界面活性剤が数種類のグループに分類された様子が描き出された。
もっとも大きいのはHLB値の寄与が80%以上の第一主成分の軸の周りに集まったグループである。面白いのは、そのグループから大きく離れた位置に存在したグループである。粘度の寄与が大きい第二主成分に並行に存在していた。
このグループの界面活性剤を耐久試験で増粘した電気粘性流体に添加したところ、増粘が解消され、初期の特性に回復した。興味深いのは界面活性剤の粘度は高いにも関わらず1%しか添加しないのでその影響が観察されなかったことだ。
この結果は特許として出願され実用化されたが、トランスサイエンスの問題をデータサイエンスで解いたところ、ますます住友金属工業とのJVを推進しずらくなった。
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当方が社会人になる時には、学際思考とπ型人間がキーワードだった。すなわち専門が一つだけでは生きてゆけない時代の到来が叫ばれていた。それより10年前にドラッカーは強みを磨け、と書いている。
半世紀前を思い出すと、リスキリングは不易流行、「学び」の重要性を言っているに過ぎないが、背景にDXの進展にボーっとしていたらどうにもならなくなった日本人の姿がある。
バブルがはじけて30年、なかなかGDPが上がらず日本だけが先進国の中で沈み続けている。少し前に田中角栄がもてはやされたが、確かに国家のリーダーの責任が大きい。田中角栄は当時の通産省の役人を集めて日本の未来像を考えさせたという。それがもとになって日本列島改造論が生まれている。
未来のシナリオを描いてくれるリーダーがいなければ、国民の一人一人がそれを描く努力をしなければ日本は良くならない、との精神で起業したが、電子出版で出だしを誤った。日本でニーズが無ければ中国で、と方針転換して売り上げを伸ばしてきた。
指導した会社が中国で成長し、日本企業の中国市場を奪ってゆく様を見て悩み始めたら、コロナ禍ですべての売り上げを喪失した。日本企業の弱さを見てこの3年近く日本人向けセミナーに力を入れてきた。
その時、政府の音頭取りでリスキリングのニーズが生まれた。当方の経験から何か一つスキルを磨くとすれば、技術者だろうが事務屋だろうがPythonによるプログラミングスキルを身に着けるべきだと提案しておく。
Pythonで劇的に仕事が効率アップする。当方は自動処理をしたいときに、かつてはAutoexec.batというバッチファイルを活用し、必要ならばCでコマンドを作ってきた。そして10年前までそれがC#となっていたが今はPythonである。
当方はプログラマーではないが、パソコンで仕事をする以上はコンピューターに仕事を命じられるスキルを身に着けるべきとの考え方でプログラミングスキルを情報工学の無い時代から磨いてきた。その当方が今リスキリングをするならPython、と言っているのだ。間違いない!
30年近く前に誕生したPythonが、何故今もてはやされるのか。詳しくは弊社に問い合わせていただきたい。
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DXの進展により、技術者はこれまでの仕事のやり方も含め見直しが迫られている。さらにその専門性さえも変更しなければいけない技術者も勤務している企業によってはいるだろう。
例えば、材料メーカーの技術者ならば、勤務している企業がサービス産業へ転換した時に人文科学系の知識を要求される場面もあるかもしれない。
極端なことを書いているが、決してそうではない。デジタルトランスフォーメーションは企業内にカオス状態を創り出している、と言っても良いような社会変革を起こしている。
この活動報告でデータサイエンスに関して連日書いているのは、どのようなリスキリングにおいても共通に要求される新たな知がデータサイエンスだからである。
今技術者向けに、データサイエンスとトランスサイエンスについて連載を書いているが、もう少し一般的なリスキリングとデータサイエンスについても連載を予定している。
ただし、リスキリングがAIを学ぶことと誤解してはいけない。実験のやり方がDXの進展で変わってきたのだ。そのトランスフォーメーションにおいて、AIも含めたデータサイエンスのスキルを早急に身に着ける必要がある。
弊社にはそのコンテンツが揃っているので問い合わせていただきたい。今科学と非科学の境界も変化し始めており、このような変化を研究している組織は弊社ぐらいではないか。
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科学で問うことができるが、科学で答えられない問題をトランスサイエンスと言い、1980年代に科学論が議論された時、アメリカで生まれている。しかし、バブルがはじけた時期と重なり、日本では普及しなかった。
日本では環境問題が騒がれ始めた2007年に「トランスサイエンスの時代」が出版され話題になった言葉だが、高分子の相溶に関わる問題にトランスサイエンス現象と呼んでも良い事例がある。
PPS/6ナイロン/カーボンの配合組成で設計された中間転写ベルト(半導体無端ベルトの押出成形で製造されている)は、6ナイロンがPPSに相溶して初めて開発に成功した複写機のキーパーツである。
昨日の樹脂補強ゴムもこの中間転写ベルトもトランスサイエンス現象の成果である。科学ではうまく説明できないが、データでは現象の存在を説明できるので面白い。
中間転写ベルトのコンパウンド開発では、安定化指数という独自のパラメーターを設定し、品質管理し工程立ち上げに成功している。このパラメータは相溶の程度を検出でき、コンパウンドの品質管理に利用できた。
プラントが立ち上がり、タグチメソッドの再現を確認した。その時に、コンパウンドに関わる様々なデータを測定し、ベルトの表面比抵抗のばらつきを目的変数として、重回帰分析を行い標準偏回帰係数からヒントを見出している。
このとき説明変数をそのまま眺めていたのではなく、それぞれの説明変数の寄与率について考察を進め、新たなパラメータを設定し、そのパラメータと表面比抵抗のばらつきとの相関を再度単相関で吟味している。
多変量の回帰分析をAIで行おうとするマテリアルインフォマティクスの研究がこの数年盛んだが、すなおに重回帰分析で考察を進めたほうが、アイデアが出やすい。
重回帰分析では、説明変数の二次以降は誤差項に含まれるので、残渣分析も活用し、アイデアを練ることが可能である。
重回帰式を単に未知の値の推定式という活用だけでなく、複数の説明変数がどのように絡み合って目的変数と相関しているのか考察すると、単相関では見えていなかったパラメーターが見えてくる。
弊社のサイトでは無料で重回帰分析ができる。エクセルの表にデータをまとめ、それを張り付けるだけで計算できるので、わざわざAIのアルゴリズムを考える必要はない。
計算して出てきた数値の考察を進めることが重要である。重回帰分析のコツは一回計算して終わりとするのではなく、説明変数を加工したり、残渣分析を行い、データの中に潜む未知の知を探し出す努力を惜しまないことである。
科学的では無いが、技術として意味のある相関を見出すとそれがもとになり、新たなアイデアやコンセプトを練ることが可能となる。
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当方に全く高分子材料の知識がない、という理由で、毎朝3時間のレオロジーを中心とした講義が展開された。そこでは、ゴムの世界では形式知がほとんど通用しない話や、KKDを研究所では馬鹿にするが、最後はKKDで決断しなくてはいけない、ばらつきの問題など、多数のノウハウを説明してくれた。
仮説を立てて実験を行う問題も出てきた。研究所では学会発表のためにわざわざきれいにデータを揃えようとする問題がある、と指摘していた。すなわち捏造では問題となるが、ゴムの大きなばらつきを活用し、希望するデータが出るとそれを採用し、その他の変動した数値に言及しない作法があるという。
実はゴムのばらつきデータを解析してゆくと気がついていなかった因子や新しい機能が潜んでいたりする。この樹脂補強ゴムサンプルもそうだ、と言って見せてくれた。
そのサンプルは、当方の新入社員研究テーマのゴールだという。しかし、研究所内ではまだできていないことになっているから、誰にも言うな、と口止めされた。
そのできていないことになっている樹脂補強ゴムは、混練条件により、樹脂の海相が形成されたり、樹脂の島相が形成されたりするという。χが0ではない組み合わせであるが、相溶している可能性があるが、このような変化はまだ知られていない、という。
指導社員は偶然得られた、樹脂が海相を形成しているサンプルの粘弾性データを見て驚いたという。ダッシュポットとバネのモデルでシミュレーションした結果と同じになったという。その粘弾性データを防振ゴム開発担当者に見せて、研究企画となった、という。
最初に当方が行う仕事は、ロール混練の練習であり、この樹脂補強ゴムと同じ粘弾性データが得られるまで練習してほしい、と言われた。
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