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2025.09/28 高分子材料の破壊(1)

セラミックスや金属では非破壊検査可能だが、高分子材料ではそれが難しい。このことをよくご存じない方が多い。これは、高分子の専門家でなくても知識として持っていてほしい。


トンネルや橋の検査を木槌で叩きながら行っている光景がTVで放映されたり、あるいは高速道路のトンネルで見かけたりする。あれはコンクリートの劣化を確認しているのだが、高分子材料ではそれができないのだ。


すなわち、金属やセラミックスでは可能な疲労破壊の予測を高分子材料では「できない」ことをまず理解していただきたい。その理由は科学の形式知が完成していないからである。


破壊力学と言う学問があるが、金属学科では授業が行われるのに、化学系では特別授業さえない。そのため高分子の破壊について大学で勉強する機会は、化学系の学生に乏しい。


自分で勉強すれば、大学なのでその機会はある。しかし、問題意識が無ければ学ばない。当方も破壊力学を学んだのは、ゴム会社であり、ゴム会社勤務経験に感謝している理由の一つである。

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2025.09/27 AIと材料技術者(10)

生成系AIは、人間の英知から生まれた多数の論文(データ)を読み込むことで動作している。そのからくりの詳細を知らなくても、データ駆動プログラムで動作しているだけ、と理解できれば少し安心できないか。


人類の希求である、知を機械で処理する具体的姿が現れた今、それに合わせて知のマネジメントを行えばよいのである。技術者が知を活用して新しい機能を生み出すという役割が変わったわけではなく、実用的なAIの登場は、そこに新しい道具が加わった程度のDXである。


 突然新規技術の製品が現れると、技術者はリバースエンジニアリングを試みたくなるかもしれない。しかし、DXで出現する多くの新規技術はソフトウェア主体であり、実体が見えないので戸惑うどころか不気味に感じたりする。


科学の体系が完成していない樹脂やゴムのフラクトグラフィーで回答を出してくるAIを恐れていても、AIは今後もさらに進化してゆくのである。


今は使いこなしのコツが必要なレベルではあるが、友達のように接して実務に活用する習慣を身につけておけば、情報の爆発で人知では難しくなってきた知のマネジメントに寄与してくれるのではないか。本記事で紹介したコツで、まず生成系AIを実務で使ってみることをお勧めする。


 情報化の時代では、公開された様々な知の断片がインターネット上に散らばっている。そこには、科学の形式知以外に経験知の断片も含まれている。技術の進歩でコンピューターは、広大なメモリ空間とそこにアクセスし情報を整理できる能力を獲得した。


人知では到底扱うことのできない量のビッグデータをいとも簡単に処理できるのは、コンピューターの道具としての優れた機能である。


知の断片を深層学習により関係づける能力について、その活用方法は技術者一人一人の英知にかかっている。今のところ、暗黙知による創造は、人間にしかできない知の活動なので、膨大な形式知を記憶する努力をコンピューターに肩代わりしてもらうぐらいの気持ちで生成系AIを使ってみてはどうだろうか。


これができるようになると、知の体系に目を向けたくなる。ドラッカーは半世紀以上前にその重要性を指摘していた。知識労働者の時代にあって、知のマネジメントの対象の一つとして、ようやくコンピューターが実用的になったのである。

 

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2025.09/26 AIと材料技術者(9)

生成系AIに簡単な質問をして、ハルシネーションの問題が起きるのは、人間のように言葉を理解して考え、回答を導きだしているわけではないからである。


また、回答の生成に乱数を使用しているので同じ問いでも異なる回答をしてくるケースもある。その他AIの本命と言われている生成系AIであるが、実務で活用するときには、一工夫が必要である。


一時期AI活用技術としてプロンプトエンジニアリングが話題になったが、今のChatGPT(注3)では、ハルシネーションの起きる頻度は下がり、先に述べたテクニック以外に以下に記載した程度のコツを身につけるだけでよい。

  • 見出しは「#」を用いたマークダウン形式で質問を記載する。
  • タスクは具体的に、手順ごとに明示する。
  • 略語や専門用語は具体的に明記する。
  • 回答の形式を指定する。
  • 必要なら参照先を記載するように命じ、検証できるようにする。

 こうしたコツが有効なのは、AIがプログラムされたアルゴリズムで動作しているからである。


生成系AIで上手に回答を得たいのであれば、そのアルゴリズムに適合させるように質問をデータとして入力する必要がある。


情報工学では、プログラムはアルゴリズムとデータからなる、と説明されるが、AIへの質問は、アルゴリズムで動作しているAIにとってデータなのだ。生成系AIは、質問者のデータで駆動されて回答を出すプログラムである。

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2025.09/25 AIと材料技術者(8)

推論については、第一次AIブームで大きな進歩があり、逆向きの推論により特定の問題にコンピューターを使って解を提示できることが示された。


例えば、E.J.Coreyは、1970年ごろ逆合成のアルゴリズムを提唱し、第二次AIブームの時に有機化合物をデザインするためのエキスパートシステムを発表している。


筆者は、この時初めてAIの研究に接し、彼の論文に従い逆合成を行って、シントンとなるジケテンからシクラメンの香りの成分であるゲラニオールの全合成に成功している。


ここで、シクラメンの香りを選んだのは、布施明の「シクラメンの香り」がヒットしていたからにすぎず、合成ターゲットは何でもよかった。


第一次AIブームで成果が出た「推論と探索の方法」について、実際に活用したかっただけである。専門外の難解なAI技術であるが、その成果をブラックボックスとして活用するだけであれば、難しくない。「使い方の手順」を理解するだけで良いのだ。


ちなみに、推論には、科学で使われる前向きの推論と第一次AIブームで検討された逆向きの推論があり、逆向きの推論では、ゴールとなる結論を満たすケースだけ考えればよい。


この逆向きの推論によるアルゴリズムの効率の良さは、1960年代の受験参考書にも「結論からお迎え」と標語化されており、実務から大学入試まで使える範囲は広い。難解なAIであるが、成果を使うだけであれば、その敷居は低い。まず、使ってみることが重要となってくる。 

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2025.09/24 AIと材料技術者(7)

第三次AIブームで登場したデータ駆動による生成系AIについて、先にその動作概略を説明したが、過去のAIブームについて図1により改めて説明したい。


「コンピューターを使って問題を解く」という視点では、細々であるがTRIZの研究は進められている、と述べた。また、知の研究成果が注目されて生まれた過去二度のAIブームでは、エージェント指向という新しいパラダイムが生まれて現在でも研究されている。


これは、1999年に派手なワイヤーアクションが注目された映画「マトリックス」にその世界観が表現されていた。多数のエージェントが自ら情報を探し出し、その情報から状況を判断して各エージェントが振る舞いを決めるアルゴリズムを主人公との戦いの場で表現していたのだが、データ駆動よりも高度なソフトウェア技術が必要であり、未だ実現されていない。


ところで、第三次AIブームは、従来のオブジェクト指向で作り上げた深層学習のソフトウェア、生成系AIの成功で始まっている。


そもそも機械学習という手法はAIの研究において一分野に過ぎない。また、このパラダイムにおいて、知識は単なるデータにすぎず、パターン認識で動作しているソフトウェアという見方もできる。


A.M.Turing1950年に提起した「機械は人間のように論理的に考えることができるか」という問いで始まったAI研究であるが、一つの解となる期待から生成系AIブームとなっている。


社会実装も始まったが、材料技術者が、これからAIに関する学問を学ぼうとしても難解な数学と対峙することになる。また、ソフトウェア工学の視点からアプローチしても数学以上に難解だけでなく膨大なプログラムコードと格闘することになる。


しかし、基本となるパラダイムは、知識を表現するための「知識表現」と、知識を利用するための「推論」であり、この大枠の中で、これまでのAIブームが起きていることに着目するとその理解が容易となる。

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2025.09/23 AIと材料技術者(6)

過去の2度のAIブームでは、例えば創薬のデザインなどの特定の専門分野に関するエキスパートシステムを提供できたが、今回のAIブームで登場した生成系AIでは、知を学習データに表現できる限り人間のように柔軟に答えを出してくれるので、一過性のブームではなく、AIの本命と期待されている。


但し、データとなる知識を明文化しなければいけないので、形式知と経験知しか扱えない。それでも生成系AIに接していると、あたかも人間と話しているような錯覚になる。


しかし、人間のヒューリスティックな回答の動作とそれが本質的に同じかどうか不明である。現在のAI(大規模言語モデルLLM)は、推論型モデルを含めて、本質的に暗黙知を獲得することはない。


しかし、ChatGPTに搭載されているメモリ機能やRAG(検索強化生成)を活用することで、過去の情報を参照し、あたかも暗黙知から経験知を創り出しているかのような振る舞いを見せることはある。


ただし、これは人間の暗黙知による活動とは異なる。つまり、AIが暗黙知を持っているように見えても、その動作は外部情報の言語連鎖を活用した疑似的連想であり、技術や芸術の創造を促す人間の暗黙知とは異なる。


AIの本命と言われている生成系AIではあるが、人間が暗黙知から芸術や技術を生み出すような動作は、まだ確認されていない。

 

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2025.09/22 AIと材料技術者(5)

今注目されている生成系AIのアルゴリズムは、大量の知識データを用いて知識をパターン認識し推論ルールを決めてゆく自由度の高いアルゴリズムである。ゆえに、人間に代わり自由な発想で問題解決できそうな期待を抱かせる。


2006年に発表された深層学習(ディープラーニング)の手法にベーズ統計を組み合わせたアルゴリズムで動作している。TRIZのようにあらかじめ用意された、あるいは既知のパターンとの比較参照で推論を進めるアルゴリズムではなく、大量のデータを学習して、その学習結果により判断ルールが決まり推論が行われる。


すなわち、第三次AIブームで生まれた生成系AIは、過去のAIのようにアルゴリズムで知の表現や推論が決められている動作ではなく、大量のデータを学習して動作が決まる、データ駆動と呼ばれるアルゴリズムで作られている。


繰り返しの説明になるが、あらかじめ大量の論文を学習アルゴリズムでプログラムされた学習機械に読みこませ、知識のパターンである言葉のつながりを学習させる。


学習が終了してから質問を行うと、連想ゲームのようにコンピューターが動作して回答を出す。すなわち、大量の論文データで学んだ単語のつながり、関係の強さなど知識のパターンを基に動的に決められた判断ルールにより推論して答えを出している動作が、生成系AIの「考える動作」である。


この動作は、過去の2度のAIブームで開発された、専門分野の知識をあらかじめアルゴリズムで組み立て、そのプログラムで推論させる方法とは明らかに異なる。


このビッグデータを用いた知識のパターン認識により、コンピューターの推論動作を構築する手法、データ駆動の仕組みゆえに、動作が広範囲の分野の単語に柔軟に対応でき、あたかも人間のような動作に見えるのである。

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2025.09/21 AIと材料技術者(4)

このAIブームの成果と1946年にロシアで生まれたTRIZでは、知の活動である問題解決をコンピューターで行う。そして、これらは日本で1970年代に設立ブームのあった情報工学分野の技術、データサイエンスで扱われる。


ここで着目していただきたいのは、コンピューターを用いて問題解決を行うためには、何らかのアルゴリズムで作られたプログラム、ソフトウェアとデータが必要という制約である。


そして、その制約の中で、人間が問題解決を行う時の推論をどのようにアルゴリズムでコンピューターに実装するのかはAIを設計する時に問題となる


例えば、TRIZであれば、図2の概略で示したように、モデル化された知識のデータベースを比較参照しながら問題解決を進める。モデル化された知識とは、知識のパターン表現であり、このパターンとの比較参照がTRIZにおける推論のアルゴリズムとなる。


また、モデル化ができるためには、形式知もしくは形式知に準ずる経験知に限られる。1998年に開催されたTRIZ国際会議ではUSITが発表されているが、どこか第二次AIブームのさなかに生まれたオブジェクト指向に似ているところが面白い。


問題分析でパターンを生成し、その後推論のプロセスとなっている。残念なのは、この手法で導き出される答えは、その仕組みから明らかなように「科学的に当たり前の答え」であり、科学教育を受けた人であれば、容易にかつ迅速にこの手法を用いなくても同じ答えを出すことができる。ゆえに、あまり注目されなくなったが、研究者は活動している。

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2025.09/20 AIと材料技術者(3)

哲学書によれば、人間の知には、形式知と経験知、暗黙知があるという。科学の時代であれば、形式知は科学の成果からなる体系となる。経験知は、その知を明文化できるが、非科学の知である。暗黙知は明文化できない知である。すなわち、暗黙知以外の知識は、文字のような記号で表現できて可読性が生まれ、その共有、蓄積、管理ができるだけでなく、


表現された知識には特定のパターンが備わることになる。また、知識を活用して問題を解くために推論を行うが、そこには論理学から定まるルールが存在し、推論を展開する時には知識に依存する判断ルールを用いる。


ちなみに、コンピューターで知識を扱う時には、この知識表現、例えば知識のパターンと推論を展開する時に必要となる判断ルールをどのようにコンピュータへ実装するのかが課題となる。


人類は、産業革命以前より、その知を用いて科学が無くても時間はかかったが技術開発を進めることができた。産業革命が始まった直後、論理学が完成し科学が生まれている。


科学により形式知が大量に生み出され、それが継承され新たな形式知を生み出し、その活動を繰り返しながら産業革命は加速し、3度のAIブームが起きている。3度目の20年近く続くAIブームを産業革命の総仕上げと呼ぶのは至言である。

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2025.09/19 AIと材料技術者(2)

最近中国からも生成系AIが登場し、この分野の日本の技術の遅れが指摘されたりするが、ハードウェアの社会実装と異なり、ソフトウェアの社会実装は垣根無く広がる。文化面における日本の先進性に目を向けていただきたい。


生成系AIだけを取りあげれば、それを突然変異的に現れた技術と錯覚し、ただ驚くことになる。しかし、1649年にパスカルが歯車式加減算機を、1674年にはライプニッツが歯車式乗除算機を提案して以来、人類は機械に知の活動をゆだねる技術を考え続け、18世紀末に産業革命が始まるや否や1820年トーマスによりライプニッツの考案した計算機の実用化に成功する。


その後改良が続けられ、第二次世界大戦では暗号解読機として計算機は活用された。戦後ノイマン式電子計算機が実用化され、これが現在のコンピューター技術の始まりである。


これまでの歴史からすれば、産業革命以降に技術開発の遅れていた分野が、ようやく人類の文化へ影響を及ぼすレベルに到達したと捉えることもでき、現在進んでいるDXによる変革を「産業革命の総仕上げ」と表現している日本人もいる。


ともすれば、生成系AIの登場でその技術に遅れまいと慌てて走り出したくなるが、今話題のAIは三度目の正直で生まれた技術と泰然自若に構え、これまで開発されたAIとの比較や、人間の知について少し考えてみたい。

 

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