金属材料やセラミックスは高分子材料に比較して学びやすい。なぜなら大学で学ぶ固体物理学あるいは材料力学の知識をそのまま用いることができるからだ。
しかし、高分子材料に関しては、大学で学んだ形式知から外れる現象に実務で遭遇する機会が多い。
それがプロセシングの影響であることに気がつくまで、かなりの経験を積む必要がある。また経験知を蓄えていても気持ちの悪い現象が起きたりする。
この原因は、高分子が紐の集合体であり、さらにその紐の長さが分布を持っており、結晶よりも非晶質部分が物性に影響するためである。
力学物性だけでなく電気電子物性までも同様で、それをうまく説明できる完璧な形式知が存在しない。
2成分以上の高分子をブレンドするときに使われるフローリー・ハギンズ理論にしても、実務ではほとんど役に立たない。
また、この形式知に固執していると、実務では間違った判断をすることもある。
例えば、退職前2005年に担当したPPSと6ナイロンブレンド系をマトリックスに用いた中間転写ベルト開発では、フローリー・ハギンズ理論では説明できない相溶系マトリックスとして設計しなおし成功している。
但し、前任者から引き継いだ配合組成を変更していない。コンパウンドを某有名一流メーカーから購入していたが、それをそのまま当方が3ケ月程度で立ち上げたコンパウンド工場で生産するようにしただけである。
配合組成は全く同じでもプロセスが変われば、まったく異なるコンパウンドに仕上がる。これが高分子材料の難しさの一例である。
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当方の学生時代の高分子分野の授業では、高分子合成に関する形式知が内容の大半を占めていた。
公害で化学の人気は無かったが、有機合成化学は化学分野の花形学問で、高分子についても新しい重合反応や新規高分子開発がその研究の中心だった。
ゴム会社に就職してびっくりしたのは、大学のカリキュラムにはほとんど入っていなかった高分子物性について、知っていることが技術者の義務だった。
高分子合成研究室なるものが研究所にはあったが、その研究所でも研究の中心は高分子のレオロジーや高分子の破壊力学だった。
入社したときに、指導社員からダッシュポットとバネを用いたレオロジーの研究は終焉すると教えられた。
その方は大学で3年間レオロジーをダッシュポットとバネを用いて研究してきたバリバリのレオロジストで、関数電卓を用いて難解な微分方程式を解くような優秀な研究者だった。
曰く、新しいレオロジーは高分子1本から積み上げる様な学問になるだろうと予見していた。
そして混練では、カオス混合が究極の混練技術として研究の中心になるかもしれないので、ロール混練りのパラダイムをよく勉強するように言われた。
しかし、合成化学しか勉強してこなかった当方にとってレオロジーは極めて難解で、すぐに理解できない内容だった。
指導社員は、そのような当方の悩みを毎朝3時間、高分子科学の形式知について易しく講義してくださった。
睡眠学習も含め3x6x25x2時間その講義(ダッシュポットとバネの話と破壊力学の話を除いた内容の書籍をこの3月に出版しました)を拝聴し、実務の問題をなんとか解けるようになった。
ただ、電卓で常微分方程式を解く能力は無かったので発売されたばかりのマイコンMZ80Kを買った。
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レオロジーを流れの科学とも言う人がいるが、流れるように学ぶには難しい形式知である。また、20世紀末にはダッシュポットとバネのモデルで構築された高分子のレオロジーに関する形式知が崩壊した。
一方レオロジーとは「おさわりの科学」で易しい、という人がいる。表現は、少しやらしいが、このように言わないととっつきにくい形式知であることを示している。
しかし、プロセスの中で高分子のレオロジーを展開してみるとレオロジーと言う学問を学びやすい。この本では、レオロジーを学びやすいように分かりやすく説明している。レオロジーを学んでみたい人にも読んでいただきたい。
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未知の問題に遭遇した時に、まず「何が問題か」を考えることの重要性はドラッカーが指摘している。
未知の問題だから「わかんない」と言って許されるのはTVに出てくるかわいいおバカタレントだけである。
会社の仕事でそのようなことを言っていたら、いくらパワハラが許されなくても上司から「馬鹿タレ」と一括される。
ところが、その結果すぐに問題を解き始めたら失敗する。まず、「何が問題か」をよく考えなければいけない。
間違った問題の正しい答えほど空しいものはない。さて、今回のコロナウィルスについて正しい問題は、「どのようにして医療崩壊を防ぎ、感染による死亡者を可能な限り少なくできるのか」だろう。
「いかに早くウィルスを絶滅させることができるか」という問題を解いていてはダメであることは、インフルエンザウィルスなど多くのウィルスの事例を考えれば明らかである。
ウィルスには絶滅できないものがあり、人類はそのようなウィルスとともに生きていくしかない。
ましてや「感染者をどのように早く見つけ隔離し、感染者を社会から無くす」という問題ではない。
一番重要な問題は、このウィルスによる死亡者数を最小にすることだろう。
未知のウィルスに対して、対策を開発するには時間がかかる。感染して病状が悪化すれば必ず死亡者が出てくる。かつて織田信長は「人間50年」と言っていたが今や寿命は延びたと言っても80歳を過ぎればウィルスに限らず死ぬ確率は高くなる。
ゆえに未知のウィルスに対して死亡者が出るのは避けられない結果である。人間に寿命がある限り、死にかけた人がたまたまウィルスを拾ってもウィルス感染による死亡となる。
だから、未知のウィルスが発生したときの正しい問題とは死亡者をどこまで最小にできるか、そしてそれはどのような方法なのか、だろう。
若い人は、今回のウィルスで死ぬ確率が低いので感染に対して深刻に考えていないかもしれないが、60を超すあたりから感染率が高くなっているので、100歳まで生きる覚悟をした当方にとって、感染経路不明者の増加は深刻な悩みである。
若い健康保菌者は、そのあたりを少し考えていただきたい。特に感染したのかどうかわからない若い人が増えているとニュースで聞くと、心配で街を歩けない。
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エジソンは、弟子のアチソンにグラファイトを高温で熱処理してダイヤモンドを製造するプロセスの開発を命じた。
この時代にダイヤモンドはグラファイトが高温度で熱変性されてできたことが科学的に証明されていた真理だった。
それをエジソンは知っていて、アチソンにグラファイトを高温で熱処理するように命じたのだ。
指示を受けたアチソンは、グラファイトを高温度で熱処理できる石英るつぼを作り、実験を行った。当時高純度環境で高温度の熱処理を可能とできる材料は高純度石英しかなかった。
アチソンは、根気よく前向きの推論で実験を続け、ダイヤモンドのように硬くて高純度の結晶を発明することに成功し、カーボランダムと名付けた。
これは、SiC単結晶であり、石英砂とカーボンからSiCを製造するプロセスは、アチソン法と今でも呼ばれている大発明だ。
彼は、グラファイトが石英るつぼと反応することなど意図していなかった。しかし、ダイヤモンドを作ってほしかったエジソンからは褒められたのだ。
当方が女性の指導社員から命じられたのは、ホスファゼン変性ポリウレタン発泡体の極限酸素指数(難燃性)を確認することだった。
しかし、発泡体を製造するプロセスは難しいと判断し、まず発泡していないポリウレタンについて、ホスファゼンの機能を示すデータを求めることにした。
すなわち開発すべきオブジェクトを「機能」にして実験を行ったのだ。こうすることで、モノを創るという行為が分析や解析と同じく科学的に前向きの推論で進めても効率的に結論を出すことができる。
研究部門では科学的に業務を進めることが求められた。そこでは、科学的ゆえにモノを創るという行為は非効率的となるのだが、オブジェクトを機能にすれば科学的な業務の進め方でもモノ創りではなく解析業務なので効率的な仕事が可能となる。
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八年ほど前に電子ブックとして高分子のツボを出版しましたが、そのリクエストの問い合わせがありました。実は混練り活用ハンドブックにはその6割ほどが盛り込まれています。すなわち高分子のツボについてプロセシング部分を膨らませたような構成です。ご一読ください。
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現代の教育は、科学を中心にして指導される。すなわち義務教育も含め、科学による問題解決法を大人になるまで学ぶ。企業の研修でも科学的問題解決法が行われたりする。
しかし、社会人で問題解決がうまくできない人が多い。長い期間をかけて基礎から学んできてもうまくいかない、というのは教育内容そのものが間違っている、あるいは不十分である、と考えてもよいのではないか。
学校で学んだことは社会では通用せず無駄だ、とよく言われた時代があった。最近は声高に言われなくなったが、これは大卒が50%近くになったこととも関係しているのかもしれない。
大卒が10%から20%の時代であれば、大学教育は役立たないから社会で実務を勉強しようという論法も社会に受け入れられたが、大半がその役立たない教育を率先して受けるようになった時代では虚しさが漂う。
ここは科学教育が無駄と考えるのではなく、社会の問題を解くのに科学以外の方法があることを悟ったほうが良い。すなわち、科学で問題を解くのか、それ以外の方法を使うのか、問題を解く前に考えるのだ。
例えば、科学で問題解決する手法をホームズ型とすると他の手法は刑事コロンボ型だ。名探偵ホームズにはワトソンという相談相手がいるが、コロンボには「ウチのカミさん」しかいない。
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サービス価格期間を過ぎましてもぽつぽつと弊社へ問い合わせがある。定価4800円に消費税と送料を加えた価格となるのだが、それでも7万円以上の本よりは安い。また、類書と異なる内容であり、高分子に興味のある方にも参考になると思っている。また高分子を知らない人にも読んでいただきたい。
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1980年に発泡ポリウレタンの難燃化研究を担当していた時に、プロジェクトの一員として熱重量分析を担当していた。
先代の管理職が熱重量分析が好きで、何台も熱重量分析装置を買っていた、と上司が批判的に言っていた。
職場には真空理工の熱重量分析装置と理学電機の熱重量分析装置があった。しかし、以前にはまだ数種類存在し、置き場所が無かったので廃棄されたという。
もったいないと思ったが、上司の説明では、機種によりデータが異なるので厄介な問題が起きたからだという。どのような厄介な問題かは、その後上司の仕事のやり方を見ていて想像がついた。
残された二台の熱重量分析装置の測定データには、機種間の差異が小さかったが、それでも丁寧な実験を行うと、その差が大きく現れることもあった。
定時後この機種の差がどのような原因で現れるのか研究してみた。詳細は理学電機に悪いので書かないが、真空理工の装置のほうが優れた設計であることを見出した。
高純度SiC合成について速度論的研究を行うときには、迷わず真空理工に熱重量分析装置の発注をしている。
購買担当からは理由を聞かれたので、この難燃化研究時代のデータを添付し、優れた機械だから、と説明している。優れた装置が市場で生き残るとは限らないので注意が必要だ。
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本書のテーマは混練ですが、高分子材料の実務に関わる方すべてに読んでいただきたい。従来の混練が分配混合と分散混合を扱って説明をしていますが、本書では異なる視点、すなわち混練される高分子材料の視点で混練を説明しています。ゆえに、既存の高分子材料の教科書で理解できなかった人にもプロセシングを通じて高分子材料を眺め、理解を進めることが可能となります。また、ポリエチレンとかナイロンとか個別の素材特有の問題については高分子を紐として扱うことにより隠蔽化し、高分子特有の現象をクリアーに描くことに努めています。
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