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2013.03/08 弊社の問題解決法について<50>

合成技術グループのK1チャートを基に思考実験を組み立ててみました。

 

1.シリカゾルの粒子に高分子が吸着し、安定なミセルができる。

2.ミセル内にラテックスが取り込まれ、ラテックスの合成が行われる。

3.ラテックスの合成後も、ミセルは安定に存在し、そこへゼラチンを混合しても、シリカゾルの凝集は生じない。

4.3で出来上がった水溶液を塗布して作った単膜にはシリカゾルが均一に分散しており、ゼラチンの脆さが改善されている。

 

この思考実験を繰り返し頭の中で行いますと、ラテックスの合成経験があれば1においてシリカゾルに高分子を吸着させる条件が重要であるという勘が働きます。その理由は、シリカゾル表面で反応させながら高分子を合成した場合には、コア・シェルラテックスができるためです。新技術では、ラテックスの原料を反応させないために、シリカゾル表面へ高分子を吸着させているだけです。このように考えますと、この吸着条件は、新技術となり、特許を出願できます。

 

すなわち、コア・シェルラテックスと異なり、ラテックスは微粒子表面で反応せず、シリカゾルから独立して合成されています。この条件は従来のラテックスの合成条件と同じですので、思考実験を行わなければシリカゾルへ高分子を吸着させるプロセスを見落とすところでした。

 

このように思考実験は、前向きの推論で進めますので、アイデアが発散する方向へ展開されてゆきます。ゆえに思考実験を繰り返して行いますと見落としていたアクションや課題などに気がつくことがあります。

 

<明日へ続く>

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2013.03/07 弊社の問題解決法について<49>

ホワイトボードの半分のエリアには、1cmほどのミミズ状の絵がいっぱい描かれ、その中に2cmほどの丸が書かれています。1cmほどのミミズ状の絵は、ミセルというものを作っています。

 

筆者「図をよく見てください。同じに見えませんか?」

担当者「シリカゾルをミセルにしてラテックスを合成すればいいんですね。」

 

さっそくK0チャートとK1チャートを作成しました。あるべき姿はホワイトボードに書かれた、ゾルをミセルに用いてラテックスが合成された状態の図です。担当者は、ベテランでしたのでK0チャートは、経験から合成技術のグループと評価技術のグループがあるべき姿に向けて直列につながった図を簡単に描き、合成技術よりも評価技術がゴール達成のために重要である、と指摘しました。

 

すなわちゾルをミセルにした合成技術は世界初であり、仮にラテックスの合成に成功しても、シリカゾルが凝集する場合があるかもしれない、というのです。さらに、どこまでの凝集が許されるのか、評価技術を開発し技術の目標を決めたい、と説明がありました。

 

担当者が描いたK0チャートは直列でしたが、マンパワーを補強し、合成技術グループと評価技術グループをあるべき姿に向けて並行に進めることにしました。すなわちそれぞれのグループのK0ポイントは、あるべき姿と一致します。

<明日へ続く>

 

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2013.03/06 弊社の問題解決法について<48>

担当者の説明によりますと、ゼラチン層におけるシリカゾルとラテックスの理想的な分散状態は、それぞれがゼラチンの中でまったく凝集していない状態とのことです。ところが、ゼラチン薄膜の塗布液を製造する時に、塗布液の成分をどのような順番で添加しても、あるいは混合プロセスを工夫してもシリカゾルが凝集するのだそうです。そして、この凝集体ができる理由は科学的に説明でき、技術的にはコアシェルラテックスの技術以外では解決できない問題とのことです。

 

担当者にゼラチンの中でシリカゾルとラテックスが理想的に分散した場合の漫画を描かせてみました。ゼラチンは水溶性高分子なので水に溶けており描かれていません。ホワイトボード一面には、シリカゾルに相当する5mmほどの点とラテックスに相当する2cmほどの丸がランダムに多数描かれています。

 

筆者「この状態をプロセスで作りこむことはできませんか」

担当者「コロイド化学の教科書に書かれているように、混合した時にシリカゾルが凝集します。」

筆者「シリカゾルとラテックスを混合しないで、この状態を作れませんか。」

担当者「コア・シェルラテックスが、その状態を達成しています。」

筆者「コア・シェルラテックスは、超微粒子の周りをラテックスが覆っていますが、この図はそうではありません。この図の状態を「あるべき姿」として、混合プロセスを使わないで作る方法はないですか。」

担当者「無理です。」

筆者「ラテックスはどのように重合しますか。」

担当者「界面活性剤でミセルを作り、その中でラテックスを合成します。」

筆者「ホワイトボードの半分を消して、その様子を描いてみてください。」

担当者「こうなります。」

 

<明日へ続く>

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2013.03/05 弊社の問題解決法について<47>

コア・シェルラテックスの技術は先端技術であり、ライバル会社は基本特許も含め10数件まとめて出願してきました。当時公開された特許以外にも組み合わせ特許がその後公開される、ということも予想されていました。

 

すぐに担当者を集めヒアリングを行いましたが、出てくるアイデアは、ライバル会社と同じコア・シェルラテックスに関する技術ばかりで、自社と他社の製品との組み合わせ出願を行い、ライバル会社とクロスライセンスに持ち込むという、お決まりの戦略しか聞かれませんでした。ただ、銀塩写真フィルムという複雑な商品ゆえに、その戦略はライバルの特許網に穴があった場合にはきわめて有効な手法です。しかし、ライバル会社の特許網の穴を期待する技術開発は運を天に任せるようなものです。このような場合には、ライバル会社以上のイノベーションを起こす独自の技術開発を目指すべきです。

 

担当者にコア・シェルラテックスを凌ぐ新技術の開発を提案しましたら、不可能との回答でした。シリカゾルとラテックスを併用してバランスをとる技術において、シリカゾルの凝集を防ぐには、シリカゾルの周りをラテックスで覆うのが一番理にかなっている、と言うのです。

 

<明日へ続く>

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2013.03/04 弊社の問題解決法について<46>

1991年にライバル会社から、シリカゾル一粒の粒子の周りをラテックスで包んだ複合構造の微粒子技術に関する特許が公開されました。その微粒子技術を用いた銀塩写真フィルムは30秒という短い時間で現像処理できます。

 

従来は、シリカゾルという硬い超微粒子とラテックスとをゼラチン水溶液に添加し、それをフィルムに塗布して感光層を作っていました。ライバル会社の技術は、シリカゾルという硬い超微粒子をコア(核)としてその周囲をラテックスで包む(殻、シェル)という複合粒子の形態でゼラチン水溶液に添加していました。

 

そのゼラチン水溶液で薄層を形成しますと、柔らかいゴムで包まれた硬い粒子の複合構造による効果で、ゼラチンに硬さとしなやかさを持たせることができました。その結果、現像処理時間を短くしても、擦り傷がつきにくく乾燥時のひび割れも起きにくくなりました。

 

ライバル会社の用いた複合粒子は、ラテックスがシェル(殻)のように粒子を覆っているのでコア・シェルラテックスと呼ばれていました。この製造技術は、当時のラテックス合成技術の中でも難易度が高く、合成例が学会で活発に議論されていた先端技術です。また有機無機ハイブリッド材料として業界紙でも多数取り上げられていました。

 

コア・シェルラテックスを分散したゼラチンは、それまでのシリカゾルとラテックスを分散したゼラチンに比較し脆さを大幅に改善できましたが、その効果が発揮されるメカニズムは、超微粒子の周りをゴムのラテックスが覆っているので、シリカゾルの凝集体ができないためである、と言われております。すなわちシリカゾルとラテックスを別々にゼラチンへ分散した時に、シリカゾルの一部で凝集が起き、そこが起点となってひび割れが起きるため、従来の技術では脆さを改善する技術に限界がありました。それをライバル会社は複合構造の微粒子でイノベーションを起こしたのです。

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2013.03/03 弊社の問題解決法について<45>

以前説明しました問題解決法は、部下のコーチングに応用しますと、逆向きの推論から得られる適切な質問で部下の能力を引き出すことができます。イノベーションを起こすという意志を持って設定した「あるべき姿」の提示は仕事のゴールを明確にし、「あるべき姿」から逆向きの推論で行う適切な質問は、部下の発想力を刺激します。勘と経験から生まれたアイデアでゴールに到達できると確信した部下は、責任感と集中力でゴールを目指します。

 

以下の事例は1992年の実話で、2000年に他の研究者から同一技術について学術雑誌へ世界初の研究として投稿がありました。2004年度写真学会ゼラチン賞を受賞しております。

 

デジタルカメラの普及で写真フィルムを身近に見ることが少なくなりましたが、写真フィルムの画像を記録する部分には、光に反応して画像を形成する銀塩の結晶を分散したゼラチンが使用されており、銀塩写真フィルムとも言われています。この画像を記録する層(感光層)を保護するための保護層が表面に塗布されており、この層もゼラチンで作られています。すなわち銀塩写真フィルムは、0.1mm前後の厚みのプラスチックフィルムにゼラチンでできた薄膜が何層も積層された構造をしております。

 

また、ゼラチンはゼリーとして食用にも使用されていますが、柔らかくて脆い材料です。銀塩写真フィルムの技術で厄介なのは、ゼラチンは感光層に必須の材料でありますが、乾燥すると簡単にひび割れたり、現像処理過程で傷がつきやすいという問題を抱えていることです。銀塩写真フィルム開発の歴史は、画像形成技術以外にゼラチンの脆さとの戦いの歴史でもありました。

 

この柔らかくて脆いゼラチンを硬くするために、ゼラチンへシリカゾルという硬い超微粒子を分散する技術が開発されました。シリカゾルを分散したゼラチンは硬くなりましたが、さらに脆くなりました。そこで脆さを改善するためにラテックスと呼ばれる柔らかいゴムの超微粒子をシリカゾルと一緒にゼラチンに分散する技術が新たに開発されました。

 

このようにしてゼラチンの柔らかさと脆さを改善するための技術開発が続けられ、シリカゾルとラテックスの組み合わせで製品の品質を維持する技術が1990年頃まで使用されてきました。

 

しかし銀塩写真フィルムの現像処理時間が短くなるにつれ、銀塩写真フィルムを搬送するスピードが速くなり、それまでの技術では擦り傷が目立つようになりました。また、乾燥速度も速くなりひび割れしやすくなりました。すなわち、単純にシリカゾルとラテックスを組み合わせてゼラチンに分散するという技術では、現像処理の時間を1分以下にすることができません。

 

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2013.03/02 弊社の問題解決法について<44>

逆向きの推論は、結論から推論を展開する方法ですが、この考え方を研究開発に応用しますと、開発中の技術を市場でテストしながらアイデアを練る、という少し乱暴とも思える開発スタイルも考えられます。すなわち市場という結論に相当する場に未完成の技術を投入し、そこから研究室で開発すべき課題を推論する、という方法です。

 

最先端の事例を紹介すれば、ロボットの人間らしさを研究している大阪大学石黒浩教授は演出家平田オリザ氏とコラボレーションし、1台のロボットを役者として演劇に参加させ、観客の反応を探る取り組みをしています。近い将来アンドロイドが人間の生活の中に入ってくるのは予想されます。そのような未来に備え、前向きの推論を積み重ね人間の生活へ指向するのではなく、研究の初期から、ロボットを人間社会に投入し、試行錯誤を繰り返し作り上げてゆく取り組みです。

 

人間社会におけるロボットの動作に関し仮説を設定し、前向きの推論を展開して人間社会におけるロボットのあり方について研究してゆくのではなく、いきなりロボットと人間が共存する場で研究をスタートするのは大胆でありますが成果を得るスピードは速くなります。なぜならば、アンドロイドのゴールが人間社会なので、人間社会のモデルである演劇の舞台から得られるデータは、ゴールに直結したデータとなります。

 

テクノロジーだけで人間の繊細さを表現できない段階において、このような取り組みを行うのは、研究者と演出家にとりましてリスクが大きいですが、人間の表情や動作などで表現される繊細さをロボットで再現するために要求される動作の制御に必要な精度のレベルがわかった、と石黒教授は話されています。

 

このようなデータは実験室で前向きの推論を積み重ねる研究でも得られるでしょうが、1回の上演で成果が得られるスピードに追い付けません。この例のように不確実性の時代には、リスクよりも解決策の得られるスピードを重視した、ゴールに直結したアクション戦術が今後増えてゆくかもしれません。

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2013.03/01 弊社の問題解決方について<43>

高分子材料以外にも、遺伝子分野も同様の状況のようで、山中博士は躊躇することなく、答を先に決める方法や逆向きの推論、さらには宝くじ的消去法などKKDを発揮しながら成功を収めています。

 

興味深いのは、二十四個の遺伝子を細胞にすべて入れた時に遺伝子がどのようになるのかが科学的に不明の状態でも学生の提案による実験を許可していることです。そしてその実験に成功した学生は宝くじ的消去法を提案し、ヤマナカファクターを確定しているのです。

 

この著書に書かれた内容から、学生は工学部出身で生化学の研究については素人でしたが1年未満でも山中博士のKKDの一部が伝承されたことを伺い知ることができます。

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TRIZやUSITはじめこれまで提案されてきた科学的な問題解決法で各種問題を解決できイノベーションを起こす力があるならば、「あるべき姿」を最初に決める問題解決法や、KKDを見直す必要は無いでしょう。しかし、言葉では表現しにくいKKDやその他のヒューマンプロセスも動員してイノベーションを起こす覚悟をしなければ3.11以降激変した環境を乗り越えることは難しいように思っています。

 

不確実性の時代とか、誰も見たことの無い未来とか言われておりますが、自分達の未来ですから「あるべき姿」を描き、そこから逆向きの推論を行って、現在やらなければならないことをスタートしなければなりません。

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2013.02/28 弊社の問題解決法について<42>

「勘(K)と経験(K)と度胸(D)の研究開発」は、新入社員の時に先輩社員から教えられた企業の研究開発精神です。KKDは、日本企業の共通精神と思っていましたら間違いであり、ゴム会社特有の精神でした。

 

ゴム材料については、現在も高分子科学で解明されていない技術が多く存在し、それがタイヤ業界の参入障壁にもなっています。特にプロセシングで材料物性が大きく影響を受ける現象は、現場を経験した技術者でなければ理解できない世界です。

 

しかし、そのような世界でもKKDプロセスで科学的成果は生まれています。KKDを大切にする企業では、技術の伝承に力を入れております。すなわちヒューマンプロセスによる技術は、人から人への伝承以外に正確に伝える手段がないからです。

 

入社後担当したゴム材料の開発では、バンバリーやロール混練作業の練習が日課でした。手動式の不便な道具をわざわざ使用して指導社員からプロセスとゴム物性の関係を教えていただきましたが、驚いたのは30年経過して樹脂開発を担当した時に、その時の勘と経験を問題解決に活かせたことです。

 

勘と経験は、「考える技術」としてどのように役立つのでしょうか。刑事コロンボは、「刑事は年に100回殺人事件を見てるんだ。しかし真犯人はたった1回の経験だから必ずどこかにミスがあるはずだ」と名言を述べています。すなわち、繰り返しの現場観察による積み重ねられた情報とその情報により支援を受けた逆向きの推論で過去の事件における犯人の行動とが結び付けられ、真犯人を推理しているのです。刑事コロンボのドラマには、死体から逆向きの推論を行うシーンがこの他の作品にも何作も存在します。

 

科学分析技術が進歩し、刑事コロンボに限らず多方面において現場観察により得られる情報量は大変多くなりました。高分子材料につきましても、製品の分析を行えば、分子レベルの考察が可能になっています。しかし、その製品が作られたプロセス内の挙動に関しては、現在の科学分析技術を駆使しても解明することはできません。刑事コロンボが、犯人しか知りえない情報をKKDを頼りに逆向きの推論を展開しているのと同様に、高分子材料ではプロセス開発で発揮されるKKDの占める割合は大きいと思っています。

 

<明日へ続く>

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2013.02/27 弊社の問題解決法について<41>

 テレビ放送で紹介された山中博士の問題解決プロセスは、非科学的でしたが科学的大成果をあげました。そしてその大成果をもし科学的に行うとしたら天文学的数値になるほどの実験回数を行わなければなりません。

 

日本の理科教育では、科学的なものの見方や考え方の重要性を教え、算数や数学で論理の緻密さを指導します。そして企業に入れば、ロジカルなビジネスプロセスを学び、TRIZやUSITに代表されるように製品開発では科学的なプロセスが重視されます。また、ホワイトカラーの業務手順については標準化がこの10年進められ、業務品質の向上が図られました。

 

 科学的な思考やプロセス、業務の標準化は大切ですが、それを重視するあまり、効率を悪くしたり、新しい発想を阻害したりしているように感じられます。山中博士が進めたようなヒューマンプロセスでノーベル賞を受賞できること、そして短期間に目標を達成できる、その効率に注目し、非科学的プロセスも推奨すべきと思っています。すなわち、科学的成果は重要ですが、その成果を出すプロセスに関しては科学的というよりも効率を重視すべきと思います。この効率を重視した時にあるべき姿から逆向きの推論で得られるアクションは、最も重要なアクションになります。

 

ところで科学的方法論がこれまで尊重されてきましたが、この科学的方法論についてイムレ・ラカトシュという哲学者によれば、「科学的方法で完璧にできるのは否定証明だけ」(「方法の擁護」)だそうですから、完璧に問題を解こうとした時にほとんどのモノづくりの問題は科学的方法で解けないことになります。ヤマナカファクターは、科学的成果は重要だが問題解決は科学的プロセスに拘る必要は無い、というメッセージに見えてきます。

              <明日へ続く>

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