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2018.02/09 高純度SiC前駆体の発明が生まれたとき(3)

ゴム練りをやっているときに、フェノール樹脂とポリエチルシリケートのリアクティブブレンドを思いついたのだ。ただ、その時はそのようなことを言えない。ほかのことを考えながら仕事をしていたのか、と叱られるのがおちである。

 

ほかのことを考えていたわけでなく、何も考えず言われたことだけ素直に作業していた(注)ので、思いついたのである。肉体は動いていたが、頭など働いていなかった。天秤でゴムを秤量し、バンバリーを運転するぐらいは、無意識にできた。だから、便利に使われていたことも理解していた。

 

自分の仕事だけが唯一ゴム会社に貢献している、と思いあがった年上の研究者は、上司も通さず、その自分の職位のパワーで便利な当方を時々小間使いとして使っていた。ただ、そのおかげで、いくつかアイデアが生まれていたので、煩わしいと思っていても手伝っていた。

 

ゴム練りをテーマとして担当したのは3ケ月しかないが、このような小間使いをやっていたおかげで、スキルだけは上がっていった。

 

さて、リアクティブブレンドのアイデアは生まれたが、フェノール樹脂の難燃化プロジェクトの仕事として実施する時間は無かった。ゆえにプロジェクトが終了した時に、余った原材料の片付け仕事を率先して申し出た。

 

余ったフェノール樹脂や検討に用いた触媒の処理のために一日とり、ポリエチルシリケートとフェノール樹脂の反応条件を調べながら、失敗した反応物を次々とごみ袋へ廃棄していった。このような実験は気楽である。ごみ処理過程で高純度SiCの前駆体反応条件の手掛かりが見つかっている。

 

(注)転職するきっかけとなった電気粘性流体の増粘問題の仕事では、お手伝いではなく、その問題解決が主の仕事になるといわれた。高純度SiC事業立ち上げのため住友金属工業とのJVを検討し始めていた時である。さらに、電気粘性流体はゴムに封入して用いるので、ゴムに配合剤が入っていなくても耐久性のあるゴムを開発するのが当方の仕事だという。

経験知から判断して不可能と思われた仕事なので、人事が発令される前に問題解決しようと一晩で問題解決できる界面活性剤を見つけた。あとから知らされたのだが、増粘問題は界面活性剤では解決できない、というマル秘の報告書が提出されていた。一年ほど検討されたらしいがプロジェクトにとってあまりにも致命的な結果なので研究所内にその結果は知らされていなかった。

界面活性剤で問題解決できたのだが、やがて上司となる方が、界面活性剤ではまずいから第三成分と呼びなさい、と言われた。配合剤の入っていないゴム開発という非常識なテーマから解放され、第三成分による電気粘性流体の増粘問題解決がテーマとなった。一応第三成分とその後の会議では言っていた。しかし、研究所内の発表会では、過去の報告書をマル秘という理由で見せていただいていなかったため、第三成分すなわち界面活性剤で問題解決した、と丁寧に説明してしまった。

それから不可思議な事件が起き始めたが、住友金属工業との高純度SiCのJVが立ち上がり、一人で二つの難度の高い仕事をしていたので、雑事を無視して真摯に仕事に邁進していた。当時新婚ほやほや状態で、何があっても幸福感という状態だったのが良くなかったのかもしれない。

今から思えば定時退社でありながらよくあれだけの業務をこなせたと感心している。電気粘性流体の第三成分による実用化と高純度SiCのJVの二つの仕事を一人でこなしていた。また、高純度SiCの研究について役員からの指示で学位論文にまとめていた。

会議では基礎データが不足している点を指摘する人が大勢いたが、新しく上司になられた方がたった一人の部下をかわいがってくださり、会議の場ではそれらの批判をうまくかわしてくださった。

基礎データなどとる時間は無かったが、実用化に向けて毎日着実に進歩し、さらに電気粘性流体用難燃性油や高性能電気粘性流体用粉体3種の構造理論と実際、などという怪しいテーマ提案をしていた。どこが怪しいのかというと、突然変異的に、それまで存在しなかった高い性能で機能するすぐに実用化できそうな電気粘性流体が会議の席で提示されたのである。

これは電気粘性流体実用化プロジェクトの会議でありながらその基礎研究に重点が置かれ、なかなか実用に耐えうるモノが見えていなかったので、会議の方向を変えるため当方が頭に思い描いた構造の物質を作って見せたのだ。2億4千万円の先行投資でスタートした高純度SiCの技術は、当時先端素材をすぐに作り出せるレベルまで上がっていた。

実際に出来上がったモノ(製品)を示していたので、基礎データが無い点を指摘する人はしだいに減っていった。

実際にモノを示していたので、一部の科学者が行うようなデータねつ造など不要であった。技術では実際に再現よく機能するモノが必要なのだ。美しい理論ではない。

カテゴリー : 一般 連載 電気/電子材料 高分子

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2018.02/08 高純度SiC前駆体の発明が生まれたとき(2)

昨日の続きだが、ポリエチルシリケートとフェノール樹脂とのポリマーアロイについて合成条件を探索する仕事は、サラリーマンを続けるためにあきらめなければいけない妄想だった。無機高分子でフェノール樹脂を変性するアイデアは、当時特許も公開されていない画期的アイデアだったが、フェノール樹脂発泡体の開発は、このポリマーアロイの検討を計画からはずし、常識的な手段で実用化している。

 

この仕事を担当していたある日、終日他の人の仕事のお手伝いをすることになった。企業の若手研究者は、ときどきこのように小間使いとして使われる。ここで嫌な顔をしていてはサラリーマンとして失格だ。

 

他の人の仕事の手伝いなので何も考えなくてよいメリットがある、ぐらいの気持ちは許されると考えた。ここで、つまらない仕事を手伝わされている、自分だったらもう少し気の利いた方法でやるぞ、などと考えるようではいけない。ひたすら頭を空っぽにして手伝っておれば、依頼した側は、それで満足している。

 

学生時代ならば、このような依頼に対して一言二言言っていたが、社会に出て半年もすればそのような言動は、例え有益なアドバイスであっても嫌われることを自然に学ぶ。いわゆる忖度などということよりも、せっかく良いアイデアが浮かび、相手にとってメリットのある一言であったとしても、その後自分が傷つくむなしさを味わいたくないだけである。

 

年を重ねた今、当方のアドバイスでうまくいったかもしれない仕事が幾つか思い出され、どうせお手伝いだからと黙って失敗する仕事を手伝っていたのは少し不誠実だった、と反省したりする。

 

その現象が起きるメカニズムを理解すれば、用途が限定されるつまらないデバイスと思っていた電気粘性流体の増粘問題が起きたときに、高純度SiCの事業化を進めていた当方にお手伝い仕事が回ってきた。この時は早く仕事を片付けたかったので、お手伝いを頼まれてすぐに問題解決した結果、FDを壊されたような経験をしてもこのような気持ちになれるのは、ドラッカーが著書で述べている「貢献」の意味を本当に理解できたからかもしれない。

 

しかし、当時は社会で身についたわずかに素直さの欠けたこのような態度が、頭を空っぽにする機会を作りアイデアを生み出すのに役だっていたのかもしれない。一言二言言いたくなる自分を押し殺すために何も考えず、ただひたすら他人の仕事を手伝う時間は、当方にとって脳の休息時間だったのだろう。

 

バンバリーでゴムを練っていた時に、危険作業という理由でその作業に注意を払っていたが、それは職人のように身についた自然な行動であり、頭の中は全くの空っぽになっていた。すなわち、ほかのことを考えていては危険なので、作業以外のことを考えていなかったが、その作業は定常作業だったので脳を働かせる必要はなかった。

 

このような状態で、ポリエチルシリケートとフェノール樹脂をリアクティブブレンドするアイデアが突然ひらめいた。アイデアと無関係な他人の仕事を手伝っていて、失敗もしていないのに突然「あっ!」と叫んだものだから、手伝いの依頼をした人はびっくりしていた。実験室では大きな声を出してはいけない。

カテゴリー : 一般 連載 電気/電子材料 高分子

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2017.12/30 技術開発のやり方(3)

見た目の悪いペレットの高次構造に対して、R社担当者から形式知でいろいろと説明してもらったが、へりくつにしか聞こえなかった。ただ、へりくつにしか聞こえない説明でもゴムの混練と樹脂の混練という技術について、その考え方が大きく異なることが見えてきた。

 

経験知によれば、ゴムの混練では、「高分子を練り上げる」である。しかし、へりくつから見えてきた樹脂の混練では、「高分子をうまく混ぜる」作業だ。すなわち、樹脂では高分子が練れている必要はない、ということだ。

 

同じ高分子というカテゴリーの材料のプロセシングでも樹脂とゴムの混練に対する考え方の違いは、面白かった。しかし、混練の形式知をまとめた教科書には、このあたりについて詳しく書かれていない。

 

ゴムの経験知から、樹脂の経験知不足を不安に感じ、徹底的に調査した。その結果分かってきたのは、混練について高分子材料の視点から見て当方の知的欲望を満たしてくれる教科書が無い、と言うことだ。高価な混練に関する教科書を3冊ほど買い込んだが、どれも欲求不満となる内容だった。もちろんそれらの教科書には、当方の発明したカオス混合装置のことなど触れていない。

 

技術開発では、形式知と経験知の整理ができていることは大切である。技術開発の過程で様々な現象に遭遇することになる。それらの現象の中には、科学で解明されていない現象も多く存在する。

 

科学で解明されていない現象に遭遇したときに、形式知ではなく経験知で処理をすることになる。この時、うまく行くかどうか保証されていない。さらには、目の前で起きている現象が、過去の経験知と異なる経験知を要求してくる場合がある。

 

形式知は、教科書で簡単に補うことが可能だが、迅速に経験知不足を補うことは難しい。ゆえに技術開発を行うときに、この経験知不足の問題をどのように克服するのか、いつも考えておかなければいけない。経験知でも短時間で補う方法があるのだ。これは技術開発のノウハウだ。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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2017.12/28 技術開発のやり方(2)

中間転写ベルトの処方は、PPSと6ナイロン、カーボン2種の単純な構成だった。これを、外部のR社が二軸混練機で混練してペレット形状で写真会社へ納入していた。

 

形式知に反せず、PPSと6ナイロンは相分離しており、その島相が巨大化しないように6ナイロンの添加量は設計されていた。また、カーボンを2種類使用していたのは、抵抗安定化のため、という説明だった。

 

業務を引き継ぐときには、この処方がすでに確定した処方であり、製品化に向けて処方変更は不可能なところまで開発ステージは進んでいた。

 

さらに、パーコレーション転移の制御を行なわなければいけないのに、6ナイロンの島相が活かされていないところが気にいらなかった。また、カーボンを2種類使用しているところは、当方の経験知から意味不明だった。

 

コンパウンド設計の視点で、当時のペレットの高次構造は、「適当な処方をただ混ぜてできた構造」であり、そこに工夫の痕跡は無かった。しかし、外部のコンパウンダーは、いろいろ工夫した結果だという。

 

形式知の観点からいろいろと説明してくれたが、ペレットの高次構造の見た目が悪ければ、設計されていないのと同じである。今、お見合いはあまり歓迎されていないが、いくら肩書きがよくても見てくれが悪ければ、その段階で躊躇するはずだ。

 

技術開発も同様で、形式知の観点からいくら妥当性があったとしても、高次構造の見た目が悪ければ、まず疑問を持たなければいけない。これは樹脂補強ゴムを開発したときの経験知である。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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2017.12/19 高分子の難燃化技術(5)

1980年前後に高分子の難燃化に関する形式知の方向がほぼ整理されてきた。すなわち、燃焼という現象の前に高分子を不燃化する技術、というのは経済的にナンセンスであるという考え方に基づき、1.燃焼時に高分子を溶融させて火を消すアイデア、や2.燃焼時に空気を遮断し火を消すアイデア、3.火炎から逃げるように高分子を変形させ、初期火災の燃焼を防ぐアイデアなどである。

 

また、これらのアイデアを実現するための研究が加速し始めたのもこの時代である。同時に評価技術も業界における火災の状況に応じて制定された。燃焼に必要な最低限の酸素濃度を指数にした極限酸素指数値(LOI)は1980年代にJIS化されている。

 

この時代に登場した難燃化手法で今ではその考え方が否定されている3のアイデアや評価技術などが存在していた事実は、難燃化技術を科学で取り扱うときの難しさを示している。

 

建築の難燃化基準だったJIS難燃2級という試験法では、変形して炎から逃げるような材料でも合格とする試験法だった。その結果、燃焼時の熱で餅のように膨らみ変形して燃焼試験の炎から逃げるプラスチック天井材が難燃基準合格品として市場に普及していった。

 

また、アカデミアの先生もこのような材料がよいアイデア、と発言したこともあって各社が燃えやすい材料で変形して炎から逃げる天井材が開発されたので、防火基準に沿って建設された新しい建築で火事が多発し社会問題になっている。

 

社会問題化する前に当方は社内にあった天井材のLOIを測定し、その低い値に驚き、フェノール樹脂発泡体の開発を企画している。誤った形式知が正された時代という見方もできるが、高分子の難燃化技術は科学で取り扱いにくい(科学ではなく技術としてとらえるべき)と捉えたほうがよい。

 

ちなみに当時問題となった硬質ポリウレタン発泡体天井材料は、建築研究所で天井材の難燃基準が見直され、新しい準不燃規格が制定されたので規格外となり、市場から消えた。そして、フェノール樹脂発泡体天井材が新しいプラ天井材として採用されていった。このフェノール樹脂発泡体の研究過程で半導体用高純度SiC前駆体技術が誕生している。

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2017.12/18 高分子の難燃化技術(4)

前回まで当時の様子を書いてきたが、高分子の難燃化技術について誰かに指導を受けたとか、テーマ担当前に特に勉強をしたとかいう機会はなく、いきなり実戦で戦った状態である。

 

樹脂補強ゴムについては、技術の神様のような指導社員のおかげで、毎朝座学で午後実験という大変恵まれた日々だったが、難燃性軟質ポリウレタンフォームの開発では、美人の上司に仕え、ただ一生懸命頑張る以外に道はなかった。

 

当時なぜ当方が始末書を書かなければいけないのか疑問にも思ったが、それでやる気を無くすと言うよりも上司の「頼りにしてる」という一言で次の目標を提案するぐらい前向きで活性が高くなる日々だった。

 

この上司のもとで高純度SiCの最初の企画「高分子から高純度セラミックス」を立案しているが、多くの新しいアイデアがわき出てきたのは、若さゆえに職場環境の影響を受けて活性化された能力のおかげである。

 

そして、特に誰かに指導されるというわけでもなく、「デキル男」を目指し、マラソンの川内選手のように、ただひたすらがむしゃらな努力で開発を進めてゆく過程で高分子の難燃化技術の極意を自然に体得した。

 

美人の上司は、溶融型の難燃化システムによる軟質ポリウレタンの開発が主担当業務だったが、これをお手伝いできた影響も大きい。

 

高分子の燃焼とは急激な酸化反応だが、これをモデル実験で定量化することは困難である。しかし、溶融型では、溶融エンタルピーを見積もることができ、溶融による吸熱を考察することでその難燃化現象を見える化できた。

 

代表的な高分子の難燃化システムである炭化促進型システムと溶融型システムの実際について同時に評価し研究を進めることができた。さらに新製品の開発と高分子の難燃化研究がコンカレントに進行したので、大変に勉強になった。

 

新入社員故に残業代無しで、あいかわらずの過重労働という大変な毎日ではあったが、この苦労のおかげで両方のシステムの特徴を十分に理解することができた。高分子の難燃化技術の獲得は、まさにOJTの賜である。

 

 

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2017.12/17 プログラミング(5)

女子フィギュアスケート選手権の大会でグレーシーゴールドを見ることができなくなり、多くの男性諸氏はがっかりしているのではないか。演技をしていなくても美しく、演技をすればさらに美しく、見ているだけでうっとりする機能を感じさせるオブジェクトだった。

 

ここでオブジェクト指向とは、プログラムを作成するときに、コンピューターを動かすために必要な機能ではなく、プログラムそのものを電子部品のような「モノ」とか「実体」としてとらえ、設計する考え方だ。

 

叱られるかもしれないが、フィギュアスケート選手には、グレーシーゴールドのような選手もおれば、演技を始めたときだけ輝き美しくなる選手もいる。そしてグレーシーゴールドがいつも金メダルを取れるわけでなく、演技を始めると輝き美しくなる選手が金メダルをとって、グレーシーゴールドは表彰台に上がれないことがある。

 

これはオブジェクトであるスケーターの演技、振るまいが異なるからだ。そしてその振るまいは、各スケーターのあらかじめ組まれていた演技構成で決まり、それが採点という具体的な数値となって、オブジェクトの評価が決まる。

 

オブジェクトであるスケーターがどれだけ苦しい練習をしたのか、あるいは才能を引き出せるような指導を受けたのかは、カプセル化されて見えないが、これらが機能して振る舞いに現れ、オブジェクトの評価が左右される。

 

このような考え方で、プログラム設計を行うのがオブジェクト指向なのだ。すなわち、コンピューターにどのような仕事をさせるのか考えるときに、従来の構造化プログラミング手法でおこなわれていたようなプログラムの機能ではなく、動作に必要な部品であるオブジェクトを評価し設計してから、そのオブジェクトの中身に必要な機能を詰め込んで行くようなプログラミング手法がオブジェクト指向だ。

 

すなわち、競技スケートでは美を表現できるように動く手足と胴体が揃っていればよい。顔がついた頭は、表情を伝える機能があればよい。動作する前の形状はどうでもよく、ただ演技前でも美しくしたいならばグレーシーゴールドのような部品を、汎用化した競技スケーターのプログラムに付け加えて作り出すことができる。

 

この場合、オブジェクト指向では、競技スケーターという部品を一つで設計してもよく、あるいは胴体部品、手部品、足部品と設計し、全体をさらにまとめるような部品を加えるような設計方針でもかまわない。この時、コンピューターへの命令を考えているのではなく、美をうまく表現し高得点を得ることを考えて設計している。

 

オブジェクト指向の言葉を使うと、クラスをどのように設計するのか、という説明になる。そして競技スケーターのクラスができたときに、グレーシーゴールドのクラスは、競技スケーターのクラスを「継承」して作り出すことができる。わざわざグレーシーゴールドのクラスを新しく設計する必要はない。すなわち、競技スケーターという一つのクラスを作ればよい。

 

このように、従来はコンピューターへの命令を中心にプログラミングを設計してきた手法を問題の解法に必要な部品を中心に考えてゆく手法がオブジェクト指向であり、あたかもプログラムを擬人化しているようなパラダイムである。AIで採用されているエージェント指向もオブジェクト指向の発展形パラダイムと言われているので、オブジェクト指向パラダイムは情報工学でものすごいイノベーションを起こしたことになる。

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2017.12/15 高分子の難燃化技術(3)

プロトタイプの難燃性軟質ポリウレタンフォームは簡単にできたが、商品として評価したときに幾つか問題があった。新人発表までにそれら問題解決することが主要な仕事になった。

 

しかし、反応性など量産化に制約を受ける問題は軽微であり、新人発表までに工場試作を成功させている。これが大問題を引き起こした。

 

すなわち工場試作に成功したので原材料の調達方法をまとめなければいけなくなり、原料のホスファゼンをどのように購入したら良いのか分からなかった。

 

国内で数社事業を開始しようとしているところはあったが、ホスファゼンのジアミノ体を販売している会社はおろか、原料のホスファゼンを販売している会社も無かった。

 

このことが原因で大問題となり、その責任が新入社員の小生に回ってきた。責任を取ると言っても、まだ会社を辞めるところまで考えなくても良いとか、いろいろ言われ結局始末書を書くことになった。

 

このあたりは以前この欄で書いているので詳細を省略するが、始末書で新たな難燃化技術提案をしている。始末書で提案したことで是が非でも成功させなければいけない状態になり、好むと好まざるとにかかわらず、毎日が残業代の無い過重労働の日々となった。しかし、楽しかった。

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2017.12/13 高分子の難燃化技術(2)

ポリウレタンの変性剤となるホスファゼンの分子設計は、アルバイトで大量合成を行っていたときに、学会へ投稿する論文としてまとめていた新規化合物のジアミノ体を用いることにした。

 

新規物質であったが論文にまとめるために各種特性値の評価も終わっていたので当方にとって扱いやすかった。またジアミノ体であり、イソシアネート化合物とのプレポリマー化も容易だった。

 

実際に軟質ポリウレタンの原料として汎用的に用いられるTDI-80との反応性を評価してみると、ジアミノホスファゼンが4官能であるにもかかわらず、2官能化合物として振る舞ったので軟質ポリウレタンフォームの変性剤として適していた。

 

1kgのホスファゼンは、大学院修了後の上京するまでのおよそ30日間を遊ばずに大学の研究室のために無料奉仕したご褒美を頂いたような気持ちだった。プレポリマー化から軟質ポリウレタン発泡体合成に成功するまでに1ケ月もかからなかった。

 

軟質ポリウレタンフォームの企画ができると同時にプロトタイプの難燃性発泡体も合成できた。ゆえに美人の上司も安心してこの企画を課長である主任研究員に説明したので、新人発表テーマとして登録された。

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2017.12/03 高分子の難燃化技術(1)

高分子の難燃化技術について少し連載として書いてみたい。本技術開発を初めて担当したのはゴム会社に入社して1年も満たない入社翌年の1月である。

 

前年度の10月1日に配属された部署で、1年間の担当予定だったテーマ「樹脂補強ゴムによる防振ゴム設計」を3ケ月で仕上げてしまったからだ。所属部署の上長から人事異動時にそのような説明を受けた。

 

異動先である高分子合成研究室は、ダンフレームBという防火性硬質ポリウレタンフォームの商品化に成功して勢いのある状態で、軟質ポリウレタンフォームの難燃化研究をスタートするために人員補強した、と説明を受けた。

 

それではその期待に応えようと、異動翌日ホスファゼン変性ポリウレタンフォームの企画アイデアを新しい指導社員である美人の女性上司(30歳)に話した。「簡単にできるの?」と質問されて、思わず「半年で何とかなります」、と答えたように記憶している。

 

チームリーダーに相当する方が無理をしなくて良いと言われたが、新入社員発表会に間に合うなら面白いのでは、という女性上司の一言で詳しい企画を作成することになった。

 

原料のホスファゼンは、先端材料で市販されていなかったが、大学院修了後就職するまでの1ケ月間に無料奉仕で大量合成した材料をアルバイト代として先生から1kgほどもらった記念品を使うことにした。これが間違いの始まりだったが、社会人1年目でやる気に燃えていた当方は前に進むこと以外考えていなかった。

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