ペンタックスから新しいデジタル一眼レフカメラが発売された。K-3Ⅱと名付けられたそのカメラには、面白い技術が使われている。リアル・レゾリューションシステムと呼ばれている技術がそれで、ベイヤ配列のイメージセンサーで泣き所と言われたモアレの発生を0にして画像を高精細化する技術である。
原理的にモアレの発生が無いイメージセンサーとしてカメラメーカーシグマが採用しているFOVEONが知られている。これは、RGBの各色のセンサーを縦に層状に形成した構造で、イメージセンサーの一つのセルでRGB各色の情報を得ることができる。ベイヤ配列の欠点を克服するために科学的に考え出された技術であることは容易に想像できる。
しかし、ペンタクスのシステムは、その方式から根性で考え出されたような技術に見えてしまう。ペンタクスの一眼レフは、K-7と名付けられた機種からイメージセンサーを磁気浮上状態で振動させる手ぶれ補正機構を採用している。K-7、K-5、K-5Ⅱ、K-3と手ぶれ補正の効果を順次改良してきた。
このメカニズムを使用して画像の水平を補正する機能までつけたりして、磁気浮上センサーを活用する方法について、とことん考えている。少なくとも製品を通してみえる技術者の頭の中には、イメージセンサーを磁気浮上で制御することだけが常にあったように想像される。
そしてセンサーを制御してベイヤ配列の各RGBの素子へ光を導くシステムを発想したのだと思う。FOVEONについては科学的な雰囲気が漂っているが、リアル・レゾリューションシステムには技術者の根性のようなモノが見え隠れするのは当方だけだろうか?
当方のカオス混合技術も科学ではなく根性のたまものだが、PPSと6ナイロンを相容させるなど科学では説明できない現象を引き起こし、ナノオーダーの混練まで可能にするびっくりするような技術ができた。但しど根性ではなく、由緒正しい再現性のあるヒューマンプロセスの根性で考案された。ちなみに高純度SiCの前駆体合成技術も、ゾルをミセルにしたラテックス重合技術、PENの巻き癖解消技術などの成功体験も同様である。
もちろん酸化スズゾルを用いた帯電防止技術や、防振ゴム、ホスファゼン変性ポリウレタンフォーム、フェノールフォーム天井材、ポリマーアロイ下引き、再生PETを用いた射出成形体など科学的に出した成果も存在する。科学的プロセスとヒューマンプロセスをうまく使うことが大切である。
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パワー半導体の市場拡大とともにSiCウェハーの需要が伸びている。パワー半導体にはシリコンウェハーに代わりSiCウェハーが使用される。しかしシリコンウェハーのような大径化が難しく、現在は昇華法で製造されている6インチが最大である。
自動車分野では現在はハイブリッド車が主要なお客さんであるが、将来は燃料電池自動車や電気自動車の普及が見込まれ、SiC半導体分野は確実に市場が大きくなると言われている。
SiC結晶成長法には、昇華法とガス成長法、溶液法の3種類が存在し、古くから行われている昇華法が現在の主流で、ガス法では、成長速度が3mm/hと高いがなかなか大径化できていない。溶液法では炭素の溶解度をあげたり金属の混入を防いだりと、まだまだ課題が多い。
成長速度が遅い昇華法には限界があり、ガス法や溶液法が将来の主流、という見込みが立てられ、現在の開発の中心はガス法や溶液法であり、特許出願の主流である。ガス法はデンソーが、溶液法は新日鉄住金がトップランナーと思われる。
不思議なことに昇華法の成長速度を上げようという開発があまり行われていない。昇華法では公開された情報が多くその技術の限界が見えてきたからだが、それは科学的な視点による評価である。技術的視点では、昇華法にまだ可能性が残っている。弊社に問い合わせていただきたい。
すべての条件で、結晶成長速度の限界を昇華法では解決できない、という完璧な科学的な証明がされているならば昇華法の技術開発をあきらめても仕方がないかもしれない。しかし、この否定証明は現在のところ困難だろう。ガス法で成長速度の速い現象が見つかっているからだ。
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セラミックスとは、熱で焼き固めたもの、という意味の言葉が由来であり、材料を高温度で加工する技術に特徴がある。ゴムや樹脂の温度レベルではない。金属やセラミックス、ゴム、樹脂など材料開発をすべて経験してみると、温度の重要性を身にしみて理解できる。
セラミックスを高純度化したいときにどうするのか。高純度の原料を使用すればよい、という解答になる。原料がセラミックスの場合にはどうする?というように、実はセラミックスの高純度化技術というのは難易度の高い技術なのである。また必要とされる純度により、技術手段も変化する。一般的な話をするのも難しくなる。
例えばSiCという地球上に存在しないセラミックスを例に高純度化技術を説明すると、昇華法か、原材料の高純度化法という二つに大別される。昇華法はSiCウェハーにも利用されているが、2000℃以上の高温度で行われるプロセスでエネルギーコストがかかる方法である。
原材料の高純度化では、ケイ素源と炭素源の材料を高純度化することになるが、この時ケイ素源は比較的安価に高純度材料が手に入る。炭素源で高純度原料というと有機物を使うことになる。有機物から炭素がどれだけ得られるのかその割合によりコストは大きく左右される。
SiCの高純度粉体(例えば99.9999%程度の純度)を得ようとしたときに、安価なSiCインゴットから高純度化を行った方が良いのか、原料に有機物を使用した方が良いのかは難しい問題で、使用量が少量ですでに工程が存在するならば、前者が経済的であるが、新たに量産工程を作るのであれば、後者が容易で経済的に有利である。このプロセスで30年近く事業が続いており、実績のある方法だ。
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パーコレーション転移という現象が顕著に品質へ影響するケースでは、混練工程でパーコレーション転移が安定になるまで混練されていないと、成形工程で痛い目に遭うだけでなく、成形工程だけで品質問題の解決を行うことは難しい。コンパウンド段階でパーコレーション転移の問題を解決しておくのが技術的に正しい方法と思っている。そのためのプロセシング技術を心がけてきた。
特に押出成形は、ゴム押出工程の現場で「行ってこいの世界」と表現されているように、混練された材料の性質がそのまま成形体に現れる。押出成形で材料の性質を変える、あるいは成形体に発生した材料起因の問題を解決することは不可能である。
樹脂に導電性のカーボンを分散し、半導体ベルトを製造するときに熱可塑性樹脂を用いたい場合には、押出成形が使用されるが、ベルトの周方向における抵抗の安定化という問題が必ず起きる。金型で解決できる場合もあるがその対策にも限度がある。キャスト成膜で製造されるベルト以上に精度を上げることができない。キャスト成膜でも乾燥工程で均一に保つことが難しく、どうしても周方向の抵抗偏差が現れる。
実はコンパウンドさえうまく製造できれば、押出成形のほうがキャスト成膜よりも精度の高いベルトを容易に製造可能である。コンパウンドに配合された導電性微粒子の分散状態が成形温度まで安定になっているように、すなわちパーコレーション転移が完結した状態になっているように混練を進めておけばそれを達成できる。
導電性微粒子の分散が樹脂の溶融温度を過ぎても変化しないコンパウンドを製造するためには、混練で材料が平衡状態に達するまで時間を掛ける必要があるが、経済的な制約のため不可能である。混練効率を上げる以外に方法はない。ご興味のあるかたは問い合わせていただきたい。
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高純度SiCの応用分野としてダミーウェハーやるつぼ、ヒーターなどの半導体冶工具がある。さらにハイブリッド車に採用されているインバーター用のパワートランジスタとして最近用途が広がってきたSiCウェハーがある。
SiCウェハーを製造するには、シリコンウェハーと同様に大口径の単結晶が必要である。最近はレーリー法(昇華再結晶法)で6インチの口径の単結晶が作られているが、この技術が開発されたのは1980年前後であり、現在に至るまで30年以上かかっている。
最近レーリー法以外にSiCの液相から育成する方法やメタンガスとシランガスを用いる方法が登場し、検討が進められている。特にガスを用いる方法は結晶成長速度が速く生産性が高いので有望視されている。
現在SiCウェハーに必要な単結晶を製造する方法は3種類が注目され検討が進められているが、この3種類とも高温度で製造する点において大同小異である。これを大同小異と表現したのはイノベーションの観点からである。
詳細を省略するが、レーリー法の結晶成長速度がガス法よりも遅い科学的理由があるが、これを技術で改善するのもイノベーションの一つである(注)。また、ガス法や液相法を改善して今すぐにレーリー法同等の単結晶を製造するのもイノベーションである。あるいは単結晶を育成する第4の方法、それも低温度で生産性の高い方法を開発するのイノベーションである。
SiCウェハー分野にはこのように多くのイノベーションの機会があり、さらに不連続な破壊的創造を行う方法も複数存在する。ここでどのようなイノベーションを狙うのか?新たな第4の方法を狙うのは研究者ならば興味深いターゲットであるが、技術者ならばレーリー法の結晶成長速度をガス法並みに高めるイノベーションを狙いたい。マネベーションで容易にできそうだからだ。
イノベーションは困難な課題に立ち向かうことが要求されているのではない。破壊的創造を行う課程で困難な課題に遭遇する”場合もある”のだ。ドラッカーはイノベーションは単純でなければならない、と述べている。
最も単純で成果が得られそうだからといって価値が低いのではない。イノベーションを起こすことができたときに高い付加価値が生まれるのである。すなわち実現できそうな易しい課題でイノベーションを起こすことができれば効率よく付加価値を高めることが可能である。
高純度SiCの技術開発から約20年離れていたが、某国立大学で取得予定だった学位の問題もあり勉強を続けてきた。途中ですばらしい機会があり無事学位を取得できたが、内容の半分はSiCの反応速度論である。
(注)科学では真理が一つであるが、技術では機能を実現する方法がいくつもある。この意味が不明であればwww.miragiken.comをご覧ください。
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セラミックスの成型方法はいろいろ用途に応じて使い分けられている。その泥漿を練り上げるにも今日では連続式混練機が一部で使用されている。30年ほど前にその話を初めて聞いた時には驚いた。その泥漿を練り上げる専用の混練機も存在する。
主に剪断混練が使用されていると思われるが、スクリューの摩耗が心配である。知人の技術者に聞いたところ、専用の材料が使用されているとのこと。昔は摩耗が激しかったが最近は良い材料も開発されたとも言っていた。
中間転写ベルトの開発を行っているときに、セラミックス材料の混錬で使用されている、と言われたKCKと呼ばれる、いわゆる石臼型混練機を使用する機会があった。PPSとカーボンを混練するためにそれを用いたのだが、一般の二軸混練機に比較して混練効率は悪いと感じた。
剪断混錬は効率が良いはずだが、機械の消費電力の割に生産性が悪い。同一電力に換算して比較した時に時間当たりの混練される量が6割ぐらいだった。PPSにカーボンの咬みこみが悪いからだ、と装置を貸してくれた会社の技術者は言っていたが、不思議に感じた。
面白いのは混練して得られたカーボンの分散状態で、二軸混練機のそれと異なっていた。1台購入し材料開発に使用したが、得られた混練物の性能は二軸混練機が60点とすると70点前後で100点に到達できなかった。
ただカーボンの分散状態は特徴的でもう少しその特徴が完璧に発揮されればゴールを達成できたが中途半端な状態であった。今改めて思い出してみるとセラミックス材料の分散でもこの「中途半端さは問題になるはずだがそのような情報はWEBに落ちていない。セラミックス協会誌を読んでいても出てこない。
もしセラミックス業界でKCKを使用されている方で何か疑問を持たれたらご相談していただきたい。どこまで期待に応えられるか不明だが、問題解決のヒント程度は出せるかもしれない。
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特公昭35-6616(以下特公昭35)を軸に特許戦略を立案し、実験計画を立てた。タイミング良くパーコレーション転移のシミュレーションソフトウェアーも完成した。産学連携で進めた研究結果では、特公昭35の実施例に記載された酸化スズゾルの体積固有抵抗は、20年近く前ライバル会社から出願された特許に書かれていたような絶縁体に近い物性ではなく、10の3乗Ωcmという導電体レベルの導電性で電子伝導性の材料だった。
それでは、なぜライバル会社や転職した写真会社でこの材料の導電性が悪いとされたのか?学術論文では高純度酸化スズの導電性は絶縁体と結論されていた。しかしこれは「結晶性」高純度酸化スズの場合である。
非晶性酸化スズの場合はどうか。学術論文が発表されていない。そもそもまともな研究論文は見当たらず特許程度に記載された情報だけである。産学連携で進めた実験結果が学術としては世界で初めての実験結果であった。この実験結果は日本化学会で発表されたが、非晶性材料における導電機構が問題にされた。
学術では導電機構が重要であるが、技術では電子伝導性で10の3乗Ωcmという導電体レベルの材料である、という結果、すなわち機能の存在を示す結果が重要である。幸いなことに世間は学術と技術の違いを認識していない、ということも分かってきた。
産学連携で見つかった導電体の機能がどうして特許や転職した写真会社では否定されているのか。それはパーコレーション転移という現象が存在するためだ。公開された技術情報や転職した会社の実験結果では、塗布膜の電気物性を評価している。バインダーに酸化スズゾルを分散し塗布するとパーコレーション転移が生じる。
また添加率を上げてゆくとひび割れしやすくなる。クラックは異方性が大きいので電気抵抗を高める方向に機能し、これもパーコレーション転移を生じる。すなわち導電性粒子のパーコレーション転移とバインダーの微小クラックが原因で導電性が低くなっていたのに酸化スズゾルに導電性機能が無いと結論していたのだ。
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高分子の難燃化技術から半導体にも用いることが可能な高純度SiCを合成できる技術シーズが生まれた話は、、ゴム会社の50周年記念論文への投稿がきっかけである。
この50周年記念論文の募集は、高分子の難燃化技術のテーマを遂行していた時の行事である。担当業務との関係から記念論文に書く内容は、ゴム会社の売り上げの3割弱しかなかった化工品事業と決めていた。
また社長方針にはファインセラミックス事業を起業する、という内容が含まれていたので、半導体用高純度SiCの事業は社長方針にも沿っており、50周年記念論文のテーマとして適切である、と思った。
しかし、審査員は社外の大学の先生だったので、同期の友人が指摘したとおり社長方針とは無関係の視点で記念論文は選ばれ、高純度SiCの論文はボツになった。記念論文がボツになっただけでなく、無機材質研究所留学中に行われた昇進試験でも、新規事業について述べよ、という作文テーマでも0点がつけられた。
この作文テーマでは、翌年同じ内容で100点となるのだが、このあたりの事情についてゴム会社の昇進試験の内容に関わるので詳しくかけないが、とにかく高純度SiCの研究テーマは、一度会社からダメだしを頂いていた状況である。
しかし、高分子難燃化技術の企画で始末書を経験していた当方にとって、大した事では無かった。また、技術内容については無機材質研究所のお墨付きもあった。STAP細胞のようなできるかどうか分からないような研究ではなく、誰がやっても再現可能な世界初の有機高分子と無機高分子の均一混合という画期的な技術という自信があった。
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高分子プリカーサー法による半導体用高純度SiCの合成技術では、科学的に説明できない電気炉の暴走という現象が起きたため、たった一回の実験でベストのプロセスが見つかった。真摯に努力してきた結果神様が幸運を届けてくれた、と素直に信じている。
ドラッカーの言葉であるが、知識労働者が誠実で真摯に努力することの重要性を示す体験に、高分子分野でも遭遇した。それは定年退職前の5年間単身赴任して担当した中間転写ベルトの開発の時である。
PPSと6ナイロン、カーボンの3成分を混練したコンパウンドを外部のコンパウンドメーカーから購入し、押出成形で半導体ベルトを製造する技術を開発していたテーマを途中から引き継いだ。10の9乗Ωcmという高抵抗を導電性の高いカーボンで実現するという難易度の高い技術である。
パーコレーション転移という現象をどのように制御するのか、という大きな問題である。6ナイロンが邪魔であったが、処方はすでに決まっていたので、変更することができない。全体の方針も処方も決まっており、専門家の誰がみてもほとんどうまくいかないと思われるテーマを途中で引き継ぐ意味をサラリーマンならご理解頂けると思うが、その様な状況でも真摯に努力した。
その結果PPSと6ナイロンの相容を実現できるプロセシングを開発することができた。このプロセスで起きている現象は、フローリー・ハギンズ理論では説明できない。しかし、真摯に開発の努力をした結果、技術で実現できた。
30年近い研究開発経験から、技術で実現できるかもしれない、という予感はしていた。最初は外部のコンパウンドメーカーにお願いしてその技術を開発して頂くつもりでいたが、技術サービスの方に素人は黙っとれ、と言われた。仕方がないので、休日一人で実験し、可能性を探った。
成功する感触を得たので中古の二軸混練機を購入し、プラントを立ち上げた。この時定年間際の職人と、転職してきたばかりの若い研究者の協力が得られ、短期間にプロセスを立ち上げることができた。科学では否定される現象を扱った技術であったが、実現できる自信があれば、真摯な努力を続けると成功できる。技術とはそういうものだ。
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多くの犠牲者を出した御嶽山の噴火は予知できなかったという。今どき信じられない話だが、地球物理学の進歩がその程度なのだろう。一方今回の噴火については、なぜ休日に起きなければいけなかったのか、という疑問が残る。確率として2/7という低率である。
かつて無機材質研究所(現在の物質材料研究機構)へ留学中に不思議な出来事があった。ゴム会社から留学して半年後に昇進試験があった。昇進試験は論文形式であり、新規事業について答える問題だった。
社長方針として、メカトロニクスと電池、ファインセラミックスを新事業の三本の柱として育てる戦略が出されていたので、半導体用高純度SiCの事業について、独自の新規製造方法を開発し、市場参入したいという解答を書いた。答案は0点だったそうだ(しかし、当時始めた事業は今でも続いている)。
当時留学先の上司にあたる総合研究官I先生がその結果を心配されて、1週間だけ無機材質研究所で自由に研究して良い、と許可をくださった。会社から推薦されて留学してきたエリートが昇進試験に落ちたのである。大変心配してくださったことに感謝し落ち込んでいた気分も少し晴れ、留学を終えたら研究しようと思っていた高分子プリカーサー法による高純度SiCの新合成法を1週間で完成させることにした。
この新合成法は、高分子プリカーサーの出来不出来により、生成するSiCの純度が変化する、と予想されていた。しかし、その後の研究でSiC化の条件の寄与も30%程度あることが分かったが、当時はそのような情報は、特許にも論文にも書かれておらず公知では無かった。
1週間という短い研究期間ではSiC化の条件まで検討する時間は無く、論文に書かれた典型的な条件で電気炉の温調器のプログラムを組んで運転した。実験中は、電気炉の前で八百万の神にお祈りをしていたら、突然電気炉が暴走した。あわてて安全スイッチを切ったところ温度が下がり始めたので、あわててメインスイッチを入れたがまた少し設定温度よりも上がったため切断し、実験を終えた。
独特な温度パターンでプリカーサーがSiC化されたわけだが、翌日電気炉の中を見て驚いた。真黄色のSiCが得られていたのである。慌ててI先生をお呼びしたところI先生も一発で高純度SiCができたことを驚かれ、プリカーサー法の威力に感心された。
プリカーサーには、化学量論比でシリカと炭素が含まれていたが、その後SiC化の反応条件を検討したところ、この時の条件がベストであった。この時得られた高純度SiCの粉末を社長にお見せし、2億4千万円の先行投資を頂いたのだが、何故電気炉が暴走したのか、科学的に説明できていない。
20世紀に科学は著しく進歩した。しかし、未だに科学では説明できない現象が存在する。その中で人類は生活している、という謙虚さを忘れてはいけないのだろう。かつて民主党時代にいつ起きるのか分からないことにお金を使うより、という発言(注)があったらしい。
しかし、その様な状態だからお金をかけて研究しなければいけない、という発想にはならないのだろうか。原子力発電の再開の方向でもあるので地球物理学の研究に力をいれても良いように思う。この問題は、www.miragiken.com でも取り上げてみたい。
(注)火山の観測に使われた予算が減らされたことについて、民主党時代の仕分けが話題になっている。発言の趣旨は異なる、という言い訳もされているようだが、有名な「二番ではダメですか」という科学技術行政に対する無知な発言もあったので、疑われても仕方がないだろう。政治家は官僚よりも勉強できる立場にあるのだから、科学についてもよく勉強して欲しい。
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