水を溶媒に用いた塗布液について考えてみる。塗膜を形成するバインダーはラテックスあるいは水に溶解するPVAやゼラチンとなる。ここへ機能性粒子を分散し機能性薄膜にするのだが、ラテックスとゼラチンでは生成する薄膜の高次構造が大きく異なった結果となる。これは塗布技術を経験された方ならば容易に想像がつくだろう。
機能性粒子として導電性粒子を用いた場合では、導電性微粒子が形成するクラスターの構造に依存して薄膜の導電性が変化する。いわゆるパーコレーション転移である。大雑把に現象の違いを述べれば、ラテックスではパーコレーション転移の閾値が微粒子添加量で30vol%以下で生じ、ゼラチンの場合にはそれ以上になる。
しかし、ゼラチンの場合には塗布液の調整方法や塗布時の塗布液温度でこの閾値は大きく変化する。ラテックスの場合にも変化するのだが、ゼラチンの場合には閾値の変化の幅が大きいのである。ざっくりといえば、ゼラチンの場合20vol%から60vol%まで変化させた経験がある。
ラテックスでは、その変化幅はせいぜい10vol%前後であるからこの変化幅の大きさには驚いた。何も考えずゼラチン水溶液を扱うと閾値は40vol%以上となる。すなわちパーコレーション転移が起きにくい。しかし、分散方法その他を制御すると微粒子の添加量がを少なくてもパーコレーション転移が起きるようになるのだ。詳細は問い合わせて頂きたいが、これは塗布液の組成や調整条件で塗膜の高次構造が影響を受けている実例である。
転職したときに驚いたのはこのようなノウハウを担当者が知らなかったことである。ゴム会社でセラミックス材料開発を担当し、半導体用高純度SiC事業を立ち上げたが6年かかった。その6年間に様々な企画を行ったが、機能性セラミックス薄膜の企画では実際に塗布などの実験を行い、塗布工程よりも塗布液の調整方法の奥深さを学んでいた。
塗布工程はknow whoにより外部調達可能だが、塗布液の調整技術は文献にも簡単に書かれているだけである。複雑な機能性薄膜になってくると教科書通りではその実現が難しくなる。伝承された技術など無いから試行錯誤で塗布液の調整を行う事になり、我流ではあるが様々なノウハウを生み出した。写真会社に転職したときにすぐ研究開発に貢献できた背景には、セラミックス薄膜の研究開発で獲得したノウハウがあったからである。
カテゴリー : 連載 電気/電子材料 高分子
pagetop
材料の熱膨張と熱収縮を測定するとヒステリシスが必ず現れるのか、というとそうではない。例えばSiC。6HSiCは結晶系が異方性なのでa軸とc軸の線膨張率が異なる。この単結晶の線膨張率を2000℃まで計測してもそれぞれの軸にヒステリシスは観察されない。
それは、6HSiCの膨張と収縮が化学結合の膨張と収縮の結果であり、その構造からシミュレーションした値と実測値がうまく適合する。また、6HSiCから製造した焼結体の線膨張率については、結晶で計測された値の平均値として観察される。
ただし、これは、助剤としてBを0.2%、Cを2%用いたときの実験結果である。助剤がかわり粒界にガラス相が形成されると線膨張率にその影響が観察される。セラミックスでは熱膨張や熱収縮は大変分かりやすい現象である。
しかし高分子の熱膨張や熱収縮では、自由体積の影響、結晶化度の影響、アモルファス相が均一になっていない影響など複雑である。ゆえに樹脂の熱膨張や熱収縮ではわずかなヒステリシスが観察されたりする。高分子複合材料系になればもっと複雑な変化となる。
TMAはこれら複雑な変化を検出する実験装置であり、最近は熱膨張や熱収縮を実験できるだけでなく粘弾性の実験もできるように工夫した装置も発売されている。高分子材料の開発を行う場合には是非1台揃えておきたい装置である。
樹脂の熱膨張や熱収縮によるヒステリシスに時間のファクターが含まれていることは昇温速度を変えた実験を行いある程度理解することができる。この影響は熱衝撃による疲労に現れる。長時間熱衝撃の存在する環境で樹脂を使用していると変形やひび割れなどが成形体に現れる。微粒子分散系では靱性が下がるので破壊という結果になる。TMAを使い、これらの予測技術を開発することもできる。
カテゴリー : 連載 電気/電子材料 高分子
pagetop
樹脂の微粒子分散系における熱膨張あるいは熱収縮では、微粒子の形成するクラスターの安定性がヒステリシスに影響を与える。樹脂中で微粒子が安定に分散していないときには、Tg以下でも微粒子のクラスターは変化する。ゆえにこの場合のヒステリシスには再現性が乏しい場合がある。
すなわちヒステリシスが射出成型条件などによりばらつくだけでなく、成形品の熱履歴によってもヒステリシスが変化する。そしてその変化が非可逆だったりする。このような場合にアニールを行うとヒステリシスは小さくなり安定化する。アニールには、Tg以下で処理する場合とTg以上で処理する場合がある。
通常の教科書にはTg以下の処理が書かれているが、Tg以上でもアニール処理は可能である。但しTg以上のアニールでは成形品の変形が生じない条件を選択する必要がある。すなわち高温短時間処理となる。Tgが90℃前後までの樹脂の場合には、95℃程度のお湯に短時間つけるだけでTg以下長時間アニールと同等の効果が得られる。
お湯を使用する理由は成形体へ均一に温度をかけるためである。成形体に温度が不均一にかかるとすぐに変形する。温度は強度因子であることを忘れてはいけない。
このアニール処理では高分子が緩和するために歪みがとれるわけであるが、高分子の種類によっては、Tg以下のアニールとTg以上のアニールでマトリックスの高次構造が異なる場合がある。すなわち高次構造を検出可能であれば、どのような温度でアニールを行ったのかおおよその検出が可能である。
アニール以外に微粒子の分散を安定化させるには、コンパウンド段階で微粒子の分散安定化を試みることは重要で、L/Dの可能な限り長い二軸混練機で20分以上混練する必要がある。高分子により30分以上必要になるかもしれない。実際には、このような長い時間二軸混練機の中に樹脂を滞留させることは不可能なので弊社で開発されたカオス混合装置を用いるとよい。500kg/h前後まで対応可能な装置を開発中である。
このカオス混合装置は二軸混練機の先に取り付けるだけでよく、ウトラッキーの開発した伸張流動装置に似ているが、ウトラッキーの装置のように吐出量を多くすると実用性のない大きさになる欠点を解決した。また5年前開発された装置ともデザインが異なる新作である。
カテゴリー : 電気/電子材料 高分子
pagetop
樹脂の熱膨張あるいは熱収縮は、熱機械分析装置(TMA)で求める。Tgまでの熱膨張と熱収縮であればヒステリシス(注)は、現れないはずであるが、大きなヒステリシスが観察されることがある。昨日例示したポリオレフィン樹脂ではその大きさが射出成型条件に依存する。
樹脂に微粒子を分散した場合にも大きなヒステリシスが観察されることがある。この場合に、樹脂単体のヒステリシスと微粒子を分散した場合のヒステリシスを比較すると、微粒子の添加量によってもその大きさが変化する様子を観察することが可能である。
この樹脂のヒステリシスの大きさが問題になるのは、物性の異なる材料とマクロ複合化して製品を組み立てる場合である。この時昇温時の線膨張率を基に設計すると失敗する。ヒステリシスを考慮していないために熱収縮歪みが大きくなったときに材料は破壊する。
ヒートサイクルが繰り返される用途にこのような材料を用いるときにTMAデータは不可欠である。ある装置メーカーにTMAの売り上げが落ちていることを聞いた。TGAやDSCに比較してTMAはその重要性が分からないと導入されないらしい。
しかし材料開発を行うときに線膨張率は重要な因子の一つで、その測定は欠かせないはずである。また、Tgについては、DSC測定でうまく現れないときにTMAでは必ず観察されるのでDSCとTMAの両者のTg評価は必要になる。また両者のTgの違いを考察することも重要である。
高分子のTgについては、まだ解明されていない部分が残っている。熱膨張と熱収縮の測定目的だけで無く、DSCで計測されたTgと比較する目的でもTMAは重要である。
(注)ある状態が現在加えられている力だけでなく、過去に加えられた力に依存して変化する事。履歴効果。
カテゴリー : 連載 電気/電子材料 高分子
pagetop
昨日Tg以上の温度領域でTMAの曲線がグニャグニャ曲がる樹脂について書いた。この樹脂は単一組成にもかかわらず射出成形条件が異なると様々な高次構造を形成した成形体が得られる。すなわち、Tg以上でTMA曲線がグニャグニャ曲がるのは、収縮する構造がその中に存在するためである。この仮説はTg以上で収縮するだけの成形体も稀にできることからも支持された。
収縮する構造と膨張する構造が存在すると両者の差分がTMA曲線に現れる。グニャグニャ曲がる曲線になるのは、膨張した構造の一部が収縮する構造に変わったり、収縮していた構造が膨張する構造に変わるためと推定される。そして後者の可能性は少ないことも他の実験で分かってきた。
TMAの奇妙な挙動を解析するために、様々な熱分析を試みた。主に粘弾性装置を用いて実験をしたのだが、何と非晶性樹脂とカタログに書かれていたのに結晶化することも発見した。この非晶性樹脂の結晶化については、3通りの実験で確認した。2つは熱分析だが他の一つは溶媒に溶解し1ケ月以上ドラフトの中に放置して乾燥した樹脂を用いてX線回折実験を行い、結晶相の生成を確認した。
樹脂メーカーに情報を流しても材料の改良はして頂けなかった。すでに開発テーマではなく事業テーマだから、というのがその理由である。要するに現在の樹脂に不満のあるお客は買わなくても良い、という姿勢だ。
光学用樹脂の市場ではポリオレフィン樹脂が主流だが、お客にとって必ずしも満足な設計が成されているわけではない。代替え可能な他の樹脂が無いために使用されているのだ。ポリオレフィン樹脂の特徴は吸湿性が低い点で、湿度に対して光学性能が安定している。
ポリアクリロニトリルには吸湿性が、ポリカーボネートには結晶性の問題や複屈折の欠点があり、ポリオレフィン樹脂より劣っている位置づけにされている。ミドリムシプラスチックは、セルロース系に近い物性が期待でき、射出成形も可能なので新しい光学樹脂としての期待がある。
カテゴリー : 電気/電子材料 高分子
pagetop
単一組成のポリオレフィン樹脂で経験した事例。その物性ゆえに品質問題が関係するのでメーカー名を記載しないが、いやな思い出のある材料である。すなわち物性に問題有りとしてメーカーに苦情を言っても改善されなかったためである。
その樹脂はTgを高めるためにバルキーな側鎖基を有しており、光学用樹脂として販売されている。単一組成であるにもかかわらず射出成型条件により様々な高次構造が現れる。このことから単一組成というスペックが怪しくなるが、カタログに書かれていたので、とりあえず単一組成として信じてみた。
このTMAを測定すると、Tg近辺までは通常の樹脂と同じ曲線を描くが、Tgを越えた温度領域でグニャグニャ変化した複雑な曲線を描く。そしてその曲線の形状が射出成型条件で大きく変化するのだ。極端に変化した場合には見かけのTgが上がった、あるいは下がったような曲線になる。カタログに記載されたTgは、温度が高い領域のTgが記載されている。
曲線の形状はともかくも、このTgが射出成型条件により変動する点が気持ち悪い樹脂である。13*℃という温度が記載されているが、低い場合もある。これは材料の耐熱性の品質に影響する。すなわち130℃近辺まで大丈夫な材料として設計すると、射出成型条件が変化したときに低いTgの材料ができ、耐熱性が低下する問題を引き起こす。
実際の開発体験では、ある波長の光をあてて耐久性を計測していたときに問題が起きた。まったく耐久性がないのである。光であたかも樹脂が緩和しているような現象が観察された。しかし、メーカーはその問題を認めない。認めないからその樹脂を用いた開発を失敗することになったのだが、別の部署に異動したときに、またその樹脂に出会った。
ここでは書きにくい品質問題が起きていたのだが、技術の観点で原因は同じであった。しかし、単一組成であるにもかかわらず、射出成型条件で様々な高次構造が現れる問題は現代の高分子科学の世界ではうまく説明することができない。しかし技術としてこの現象を捉えることができる。
すなわちこの樹脂を用いた製品で発生する品質問題である。品質問題を解決するためにピンポイントの条件で、TMA測定時にTg経過後グニャグニャ変化した曲線にならない成形体を作成し、耐久性なり、耐熱性を評価すると少し良好な結果になる。ただ、これは実用的には困難な作業で、現場では品質問題となる。そしてその問題の現象は多成分多組成の材料と考えなければ解決できない問題である。
異動後に他の用途で同じ樹脂に出会ったが、触らぬ神にたたり無し、という考え方でテーマとして扱うことをやめた。問題に遭遇し、解決できない問題と分かっているときには、何もしない、という判断も時には重要である。ただ樹脂供給メーカーにはその問題を解決する責任があり、それができないのは誠実さに欠ける、と言われても仕方がない。外から見る限りは立派な会社だが---・。
やや抽象的な話となったが、これは退職して3年で、まだ具体的に書けない部分が多いためである。
カテゴリー : 電気/電子材料 高分子
pagetop
材料の熱膨張あるいは熱収縮は、熱機械分析装置(TMA)で試験を行う。セラミックスやガラス、金属については昔から低熱膨張材料というのは重要な研究テーマであった。理由はこれらの材料が800℃以上の高温度で加工され、室温の環境条件で使用するケースがあり熱歪みが力学物性に大きく影響を与えるためである。
また無機材料ではガラスを除き結晶が分散した構造となり、結晶が異方性の場合にはその界面に大きな熱歪みを抱え靱性が低下する。原料の微細化やその管理技術が進んでもお茶碗などの陶器が割れやすいのはそのためである。
さて、高分子材料の場合には加工温度と使用環境との温度差はせいぜい300℃未満であるのでこのような熱歪みの影響は小さくなるが、概して線膨張率が大きいのでその影響は存在する。さらに微粒子分散系であればクラスター形成がその影響を大きくする。
一般に熱歪みを除去するためにアニールが行われる。50年前瀬戸物は割れやすいから一度100℃のお湯で一日処理して使用すると良い(注)、と母から教えられたが、これもアニール処理である。高分子ではTgから5-10℃低い温度でアニールを行うと効果的である、と言われている。
高温度短時間処理、という裏技もあるが、この裏技とTg以下のアニールでは、アニール後の高分子の高次構造に違いが出る。以下はすべてTg以下のアニールを前提に話を進める。
樹脂のアニールで成形時の熱歪みは緩和されるが、微粒子分散系では十分にアニール効果が現れないことが多い。理由はクラスターの形成状態による歪みまで除去できないからだ。このクラスターの形成状態は、コンパウンドの製造方法と成型加工プロセスの影響を受ける。
樹脂のコンパウンディングでは二軸混練機が使用される場合が多く、微粒子分散系は不完全な分散状態でコンパウンドとして提供されている。どの程度不完全かは、3時間以上混練したコンパウンドと比較すれば理解できる。(続く)
(注)昔は各家庭に火鉢や練炭のコンロがあり、そこで終日加熱する作業ができた。今ではエネルギーコストがお茶碗の値段よりも高いのであまり行われなくなったが。
カテゴリー : 電気/電子材料 高分子
pagetop
以前この欄で導電性微粒子を分散した高分子材料のインピーダンス変化について説明したが、フィルムのインピーダンス変化はパーコレーション転移と関係している。すなわち、パーコレーション転移の閾値近辺でインピーダンスは大きな変化を示す。この性質を利用して、パーコレーション転移の閾値推定を行う事ができる。
凝集粒子が分散した場合でも、凝集粒子の状態が変化しなければ、凝集粒子でパーコレーション転移が生じればインピーダンスは大きな変化を示す。面白いのは、凝集粒子の形態でパーコレーション転移を生じていないときに、凝集粒子の密度を上げるとインピーダンスに変化が現れる。
すなわちフィルムのインピーダンスを測定すると導電性粒子の凝集状態までも知ることが可能となる。一般的に凝集状態の密度は体積分率で0.6前後で有り、凝集状態の内部ではパーコレーション転移が生じている。これをうまく制御して、凝集状態の内部の密度を下げて体積分率で0.2未満にすると凝集状態でパーコレーション転移が起きていないから、面白い現象を観察することが出来る。
導電性粒子を増やしたり、外力を加えたりして凝集粒子の内部でパーコレーション転移を起こさせ、さらに凝集粒子のパ-コレーション転移まで起こさせるWパーコレーション転移を発生させるのだ。直流抵抗ではこの場合の現象をうまくモニターできないがインピーダンスではうまくモニターでき、面白い変化となって現れる。
面白い、といっても、ただ導電性粒子の添加量に対するインピーダンス変化が二段の変化になるだけだが、初めて測定したときには感動した。なぜか感動した。
カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子
pagetop
高分子にカーボンが分散されたときに、カーボンは一次粒子まで分散されることは稀で、大抵は凝集粒子の状態で分散する。凝集粒子の抵抗は、凝集体の密度で変化する。この凝集粒子内では、ホッピング伝導で電子が流れるので、凝集粒子も電子伝導性の粒子として扱うことが可能である。
しかし、カーボンを分散した高分子のインピーダンスを計測すると、凝集粒子中の伝導現象でイオン導電性を仮定しなければいけない現象に遭遇する。その現象が観察されたからどのような問題が生じるかは、材料の応用分野により様々である。
電気抵抗の線形性が崩れたり、VI特性にヒステリシスが現れたり、誘電緩和の緩和時間が長くなったりといった現象が観察されるが、これらの現象が品質に悪影響を与えなければ凝集粒子中の導電性が電子伝導であろうがなかろうが問題にならない。
しかし個別の品質特性で予期せぬ電気特性の問題が生じたら、この凝集粒子の導電性の問題について考えてみると良い。悪いことばかりではない。凝集粒子の接触抵抗により導電性が大きく変化する、という現象は、押出成形でフィルムを製造するときにうまく活用すると、フィルムの電気特性を引取速度で制御する技術となる。
このあたりの詳細は相談して欲しいが。とかくカーボンを分散して半導体フィルムを製造する技術では、電気抵抗の不均一さ、ばらつきで悩まされる。製造プロセス因子でその悩みを少しでも解消できるとしたらありがたい。
カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子
pagetop
難燃剤は赤燐で、加水分解されなければ絶縁体、と安心しきっていたそうだ。しかし、赤燐は加水分解されればリン酸を生成する。表面が加水分解された赤燐は、10の3-4乗Ωcm程度の導電性を示す。
パーコレーション転移を起こせば10の6乗Ωcm程度まで絶縁性高分子の電気特性を変化させる。このように高分子マトリックスに絶縁性フィラーを分散する時には、その表面抵抗がどのような性質を持っているのか調べなくてはいけない。さらにパーコレーション転移という現象がどのような現象なのかも理解しておかなければならない。
面白いのは、高い絶縁性の2種の高分子をブレンドした時に、高分子に不純物が含まれており、相分離して界面にその不純物が偏積する現象が起きたときである。10の10乗Ωcmレベルまで抵抗は下がる。すなわち100倍程度導電性が上がるのだ。このことは以外と知られていない。また学術的に確認することも難しい(できないことは無い)。ただ、これまでの経験から、推定している現象である。
PPSにナイロンとカーボンを分散したときには、単純にカーボンのパーコレーション転移だけで抵抗変化を説明できない。ナイロンの状態によりマトリックスの抵抗が1000倍近く変化するためだ。インピーダンスなどを測定するとそのあたりの現象は見えてくる。もし興味のある方は実験してみて欲しい。
この系では、分散しているカーボンの凝集状態でも全体の抵抗は変化する。すなわち、カーボンの抵抗は1-10Ωcm程度の導電体であるが、凝集体になると接触抵抗の影響により10の4-6乗Ωcm程度まで導電性は変化する。高分子中でカーボンが分散しているときに一次粒子まで分散している例は珍しい。大抵は凝集粒子として分散している。その結果、パーコレーションの扱いも、1Ωcm程度の粒子のパーコレーションを考えていてはだめで、凝集粒子1個の導電性を問題にしなくてはいけない。
カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子
pagetop