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2013.09/27 電気粘性流体開発で技術について考えたこと

電気粘性流体用傾斜組成粒子の開発では、その分野の科学情報に一切触れること無く、当時世界最高の応答性と電気粘性効果を有する電気粘性流体用粒子を創り出すことができた。また電気粘性流体の增粘問題では科学情報だけでなく、そもそも電気粘性流体とは何かについて社外に公開される情報程度の知識以外は提供してもらえなかったにも関わらず技術で問題解決できた。

 

同じ会社の中でこのような状態で良いのか、というマネジメント上の問題はここでは議論をしない。たまたまおかしな研究開発マネジメントの状況で科学情報が無くとも技術を創ることができた貴重な体験で、当時技術について考えたことをまとめる。

 

電気粘性流体を3年以上研究開発していて何故各種問題を解決できなかったか、という疑問がでてきたが、增粘の問題を解決した後や傾斜組成の粒子を創り出したときにプロジェクトリーダーから褒められたのではなく責められたので問題解決できなかった原因を理解できた。

 

すなわちプロジェクトリーダーは電気粘性流体の研究情報を隠し持っているのではないか、という疑いをもち、傾斜組成の粉体を開発できたときにすぐに情報開示を求めてきた。電気粘性流体の論文情報など全く持っていなかったのだが、実験のお手伝いをすればどのような機能が必要なのかは技術者であれば誰でも分かる、と回答した。しかし、必要な機能が分かってもメカニズムが解明されなければ問題解決できないはずである、というのがプロジェクトリーダーから返ってきた言葉であり、これは典型的な科学の思想である。

 

機能を実現するために試行錯誤を行っただけだ、と技術の姿を答えてもその方法論を否定されるだけであった。科学と技術について哲学的議論を行いお互いの考え方の溝を埋めるべきであったが、上下関係でこのような議論は難しくなる。

 

確かに科学的にメカニズム解析に成功したならば、その機能実現のためのヒントは得られるかもしれない。だから仮説を持って科学的に仕事を進めることの重要性が20世紀に言われ続けてきた。しかしメカニズムが分からなくとも、経験を活用してモノを創り機能をテストしながらその実現を試みる、というアプローチも科学的ではないが有効な手段である。電気粘性流体の粒子よりも優れた成果であるヤマナカファクターもそのような方法で見つかっている。iPS細胞の生成機構など分からなくても消去法で4組の遺伝子を実験を担当した学生が決定しているのだ。その実験を認めている山中博士は並の科学者ではない、ノーベル賞が本当に似合う研究者だ。

 

科学では「なぜ」という問いを発し思考を深めてゆくが、技術では「どのように」という問いでそれを行う点が異なる。この問いの違いで頭に浮かぶアイデアや現象を前にしたときの取るべきアクションが変わる。科学では「なぜ」の繰り返しで真理に迫る単調な作業となるが、技術ではよりよい機能を実現できる方法を求めダイナミックに作業を展開する。ヤマナカファクター発見の時に、非常識と思われるすべての遺伝子を一つの細胞に放り込んだ行動のように、大胆な作業が技術の特徴である。

 

ヤマナカファクターに比較するとゴミのような電気粘性流体の增粘の問題では、手元にある界面活性剤類似の化合物も含めすべてについて增粘した流体と組み合わせて改善の兆候を探索した。傾斜組成の粒子では、傾斜組成以外に超微粒子分散微粒子や微小コンデンサー分散微粒子など創ってみて電気粘性効果を確認し、電気粘性流体に必要な粒子の構造解析を行っている。

 

科学的に電気粘性流体のメカニズムを解析しようとしたのではなく、電気粘性効果を機能させるために様々な複合構造の微粒子を試し、どのような構造で機能が実現されるのか探した。科学と技術では問う目的、思考の方向が異なるのである。どちらが優れている、と比較する対象ではなく、研究開発で早く製品にたどり着ける方法となると技術となり、その機能実現において活用された自然現象の真の姿を問うのが科学である。

 

技術開発を行った後、科学的研究を行えば、守るべき基盤技術が明確になり、その伝承が容易となる。科学の研究が無い場合には、行為そのものを伝承することになり、特公昭35-6616に書かれた技術のように伝承されなくなるリスクが生まれる。技術と科学は目的が異なり、研究開発では両方必要である。

 

技術では科学よりも再現性のロバストが厳しく問われる。これは再現性のロバストが製品のコストに関わるからである。再現性のロバストが低い技術は実用性が無いものとして棄却される場合が多い。同じ機能を実現する技術が複数存在していた場合に技術の難易度よりもロバストの高さが重視されたりするケースもある。反応条件における論理的規則性が不明で消去法や試行錯誤で決めなければならない場合でも決まった反応条件でロバストが高ければそれは立派な技術である。iPS細胞を実現した力は科学ではなく技術であった。技術が先行し科学的に研究された一例である。

 

消去法で見出したり試行錯誤で創られた技術を軽蔑する科学者もいるが、消去法や試行錯誤は立派な機能実現のための一つの方法で、弊社ではそれを効率よく行うプログラムを提供している。消去法や試行錯誤も効率良く行えば、科学的な問題解決法に迫る方法になる。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料

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2013.09/25 電気粘性流体用傾斜組成粒子

電気粘性流体は絶縁オイルに半導体粒子を分散したデバイスである。この半導体粒子は、帯電しやすく放電しやすい物質であり、さらに電流を流さないぐらいの高抵抗であることが望ましい。雑用係として外部から調達された粉体を評価しながらその必要な機能を想像した。

 

このような物性は均一で単相の物質では実現できない。電流を流さないくらいの高抵抗で表面を設計しなければいけないが、そうすると誘電体となり放電が困難となる。粒子の内部は10000Ωcmくらいの体積固有抵抗で電荷移動が容易な材料でなければ電荷の急速な拡散が難しい。この両者を満たすのは、表面を10の12乗Ωcm程度の絶縁体で設計し、内部は10000Ωcmとするが、粒子内部に抵抗の傾斜をつけると二律背反の電気特性を実現できるのではないか、と想像した。

 

傾斜組成の機能をどのように実現するのか。これは導電性物資へ絶縁体を拡散させ、表面に絶縁体の濃度を高め内部に向けて絶縁体の濃度を傾斜組成にすると実現できる。金属へアルミナなどの酸化物を拡散させるのは難しいが、有機物に金属アルコキシドの形態で拡散させることは容易である。そこでフェノール樹脂球にTEOS(テトラエチルシリケート)を拡散させてそれを炭化することにした。TEOSは熱分解するとシリカになる。

 

フェノール樹脂は難黒鉛化カーボンとなるが高温度で炭化すれば10000Ωcm程度の抵抗になることが知られていた。そこで直径1μm程度のフェノール樹脂球を購入しTEOSを1日含浸させその後酸触媒で処理し表面に薄いシリカ薄膜ができるようにした。それを1000℃以上で炭化させたところ、表面から0.2μmまでシリカが傾斜組成で分散した炭素球を製造することができた。

 

この傾斜組成の炭素球を絶縁オイルに分散させて電気粘性流体を製造し、その特性を評価したところ応答性が優れ、低電圧でも高い電気粘性効果の得られることが分かった。耐久性も良好で当時世界一の性能であった(恐らく今も世界一かもしれない)。

 

この発明に電気粘性流体に関する先端の科学情報は活用されていない。外部から調達された材料を用いた性能が低い電気粘性流体の計測を行った経験だけである。その経験において機能を実現する方法を過去の経験から学んだ二律背反の材料設計手法(ゴム会社の内部で流行語でもあった)で練り上げた。すなわち科学情報が無くても経験でモノを創り出すことができるのである。

 

たまたま重要文献が機密扱いとなっており社内の他部署の担当者には先端の科学情報を見せてもらえない状況で、経験だけでモノを創る体験すなわち純粋の技術で機能を実現した。有機化学から無機化学分野まで幅広く実験を行ってきた豊富な経験で身についた技術は科学情報が無くても新しい「モノ」を創り出せるまでになっていた。

 

傾斜組成の粒子開発に成功したので、傾斜組成と異なり均一に絶縁体超微粒子が表面に出るように半導体相に分散した微粒子を実験したところ、傾斜組成の粒子よりも性能は低かったが、外部より購入している粒子を用いた電気粘性流体よりも性能は高かった。この結果を受けコンデンサーが分散した微粒子は恐らく超微粒子分散粒子よりも性能が高いだろうと想像した。近くで見ていた、かつて高純度SiCを一緒に開発していた若手技術者が自分が創ってみたい、と言ったので指導した。結果は傾斜組成の粒子の場合と同様で、期待通り超微粒子分散粒子よりも性能は高かった。

 

このように技術による開発は、同じ経験を共有している人には容易に伝承できる。科学ではまず思想の理解から始まり、科学的論理による議論となる。議論に納得したところで技術が伝わる。しかし、経験の無い人に経験の成果を伝承できる便利さが存在する。ただし非科学的な現象を扱った技術を伝承することが難しい。経験からアイデアを生み出し技術とする手法や非科学的な現象まで含んだ技術の伝承は弊社の研究開発必勝法プログラムで効率良く学べます。

 

カテゴリー : 一般 電気/電子材料

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2013.09/24 電気粘性流体用3種の粉体が生まれた状況

電気粘性流体は、半導体微粒子を絶縁オイルに分散させて製造する。電場をかけると半導体微粒子が帯電して電極間に並び、そのため懸濁オイルが流動性を失ってあたかも固体のように振る舞う。電場を取り除くと粒子の帯電が無くなり、もとの流動状態に戻る。電場でその粘性を制御できる流体である。70年ほど前にウィンズローにより発見されウィンズロー効果として知られていた。

 

しかし単純な半導体微粒子では電気が流れたり、高抵抗であれば微粒子が帯電したままになり流体の機能を失ったりする。すなわち電気粘性流体をデバイスとして活用するためには絶縁オイルに分散する微粒子の設計が重要になる。

 

このテーマはゴム会社に勤務して10年目に携わるようになった。電気粘性流体の重要な機能を発現する微粒子を社外から調達し開発していたために、テーマがうまく進捗せず、さらにゴムからの抽出物で增粘する問題を抱えプロジェクトがひっくり返りそうになっていた。不幸にもそのお手伝いをすることになった。不幸の理由は特に書かないが、お手伝いメンバーには重要な科学文献を見せていただけないなど開発に協力するうえでの制限があった。プロジェクトのメンバーは、頭ではなく労働力だけを求めていた。

 

しかしプロジェクトの状態を見ると、科学的に運営が進められていたが、機能粒子を外部から調達するなどの体制になっており重要な基幹技術の担当者が欠損していた。いわゆる常識的な、科学で電気粘性流体を解明し材料設計するという方針でプロジェクトが運営されていた。これは表現を変えれば技術が無いので科学的に技術を創りだそうとしている運営である。ところが電気粘性流体の增粘の問題では增粘メカニズムの科学的解析ができたが、プロジェクトに技術が無いため(注)に界面活性剤では対策できないという結論を出していた。

 

試行錯誤で增粘の問題を解決したら、それ以上はプロジェクトメンバーで行うから、ということになり雑務が回ってきた。成果が見えてくると功労者を排除し生え抜きを大切にしようとするマネジメントである。お言葉に甘えて雑務を行いながら、見いだされた界面活性剤の位置づけを知るためにカタログの多変量解析を行い情報提供したり、傾斜組成の粒子や、超微粒子分散粒子、コンデンサー分散粒子といった電気粘性流体用3種の粒子を雑務を終えた定時後創ってみた。

 

重要な科学論文を見せていただけないので、科学的ではなく見よう見まねで電気粘性流体の機能を実現できる3種類の粒子設計を行った。雑用という立場で多くの電気粘性流体を扱うことができたので経験の蓄積を行う事ができた。つまらないと思われる仕事でも誠実に真摯に行う意味がここにある。

 

 

(注)ゴム会社には基盤技術として界面活性剤の技術が存在した。社内の公開されたプレゼンテーションを聞けば毎年1-2件はその関係の技術を含んでいる発表があり、他部署のプレゼンテーションを聞けば技術の共有化が可能であった。ただ、多くの会社で同じような状況と思われるが、他人のプレゼンテーションを技術の共有化の機会として動機づけされていないためにここで紹介したようなことが起きる。また、科学的に基盤技術を構築し、とよく言われるが、すでに書いてきたようにおかしな考え方である。もし科学的にプロジェクトを推進しなければならないなら、最低1名技術者をメンバーに入れるべきである。企業において科学的訓練を受けた研究者だけで開発を行うと「モノ」はできない。企業のプロジェクトでは早い段階から企業内で育成された技術者を入れるべきである。学位を持った技術者であれば科学と技術の両方を推進できるので便利である。「なぜ」を追究する分析的研究者では「モノ」を創り出すことはできない。科学的に当たり前の結論を出すだけである。うまくいかないときにはうまくいかないことまでも科学的に説明するおかしな状況も生まれる。しかしそのおかしな状況に気がつかない研究部門の経営者も何人か見てきた。科学という思想は重要である。ただし「ものづくり」の行為を尊重しない思想重視の考え方には問題がある。ものづくりの行為にうまく科学を取り入れる手法が弊社の研究開発必勝法プログラムである。

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2013.09/23 電気粘性流体とゴム6

電気粘性流体の增粘の問題はHLB値の異なる界面活性剤を検討し、良い結果が得られなかったので、界面活性剤では解決できない問題である、と結論が出されたらしい。らしい、と書いたのは実際の実験方法等を見ていないからだ。O/WあるいはW/Oタイプすべて検討されたと当時説明を聞いたが、添加するだけで確認できる実験なので、再度技術的に検討することにした。

 

理由は、科学的に説明されても、機能を実現しようという試みあるいは気迫を感じられなかったから。説明に必要なデータはきれいにグラフ化され、論理的に効果の無かった説明が展開されている。しかし、それはHLB値を中心に議論されているだけで、それ以外の科学的に不確かな要因について仮説は記載されていなかった。

 

技術とは機能を実現しようとする行為であり、科学的に完璧に否定された結論に対してはその結論を尊重しなければならないが、完璧でないならば新しい発見を求めて、その結論に技術で挑戦する価値がある。

 

電気粘性流体の增粘の問題は、HLB値という指標だけでは解決できないことが分かった。しかし、このHLB値は低分子あるいはオリゴマー程度の分子の長さであれば、教科書に書いてあるようなきれいなミセルを形成し、科学的な効果を期待できるであろう。しかし高分子量になったときにミセルの形態をどのように考えれば良いのだろうか。

 

科学的解説からある程度の推定は可能だが、教科書には書かれていない。また、その結果を図示しても様々な分散状態を描くことが可能である。今目の前で起きている現象は、SP値の異なる様々なゴムの添加剤がオイルの中に分散しその結果增粘しているのである。もし、そこへ新たな成分を添加したときに、ゴムからの抽出物が粒子との相互作用を起こさないように新たな相を形成する、という想像あるいは妄想は、科学の世界で論じられた他の現象から推論すると起こりうる可能性が高い。

 

技術とは機能を実現する行為であり、機能を実現できる可能性があればそれを試みるのは大切な使命である。すなわち技術的開発姿勢とは、機能を実現できそうな行為を全て試みようとする姿勢である。科学で完璧に否定された現象については可能性が無い、と考えるのは現代の約束事であるが、完璧でなければその結論に挑戦したときに新しい発見がある。

 

この電気粘性流体の問題解決で得られた新たな技術は、その後写真会社でゾルをミセルとして活用し、ラテックスを合成する技術につながっている。外国の研究者によるゾルをミセルとして活用した科学的論文の発表は2000年に入ってからであるが、写真会社の特許は1995年頃に出願されている。科学よりも先行している技術が存在するのである。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料

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2013.09/22 電気粘性流体とゴム5

電気粘性流体の增粘の問題は、第三者から見たらいい加減な実験で解決策が得られたことになる。さらにすでに市販の界面活性剤を検討し、結論を出した後だったので立腹された人もいたようだ。問題は解決されたのだが後味の悪い結末だった。何でも科学的に問題解決できる、と信じているとこのような状況でパニックになる人もいるようだ。

 

科学は真理を追究するのがその使命であり、機能を実現することを使命とする技術とは異なる。科学は哲学であり、ある一つの思想に過ぎない。19世紀以降科学の発展により技術開発のスピードは飛躍的に向上したが、17世紀以前にも技術は存在した。道具を使い始めた段階に技術は生まれたのである。科学は技術開発のスピードを早める役目を果たしたが、「ものづくり」は人間の営みの一部、技術が行ってきたことである。技術とは機能を実現しようとする行為そのものである。

 

すなわち試行錯誤は人類が昔から行ってきた技術の歴史に裏付けられた由緒正しき技術的方法である。試行錯誤でも頭を使う。この方法で大切なことは体中を動員し、汗をかいたときにすばらしい結果が得られることが多いことだ。セレンディピティーとして特殊な能力のように表現されているが、誰でもコツを体得すればできることなのだ。17世紀以前に人類が行ってきた実績がそれを裏付けている。科学は、それを効率良くできるようにする思想を示したに過ぎない。

 

ゆえに科学的に解明されていない、あるいは科学的に解明しようとすると膨大な時間がかかる場合には、いさぎよく試行錯誤で技術を創り、結果を出し、結果に対して科学的考察を与えた方が効率的だ。科学を否定しているわけではない。科学は思想に過ぎないのでその活用が重要でモノを創るのは技術である。社会生活でも一つの思想にこだわっていると問題解決できなくなるように科学的という思想にこだわると問題解決できないケースがあるのだ。「やってしまった方が早い」というKKD信奉者が胸をはるシーンも多い。

 

有名な事例としてヤマナカファクターの発見がある。ノーベル賞級の大発見は非科学的方法で生まれている。大量の遺伝子を一つの細胞に組み込んだり、その遺伝子から宝くじよろしく消去法的に4つのヤマナカファクターを見いだしているのである。ヤマナカファクター発見では一瞬科学的思考を捨てた点をよく学ぶべきである。繰り返すが科学を否定しているわけではない。科学的ということにこだわると解決できない、あるいは解決スピードが遅くなる問題があることを指摘している。

 

17世紀以前の技術は技術者も職人も区別なく技術を創り出してきた。現代はヤマナカファクター発見のように科学を活用しながらスピードアップしながら創造する行為を行う技術者が技術開発の中心である。タグチメソッドが技術開発のツールの一つとして普及したが、これは職人も含め誰でも技術開発ができるようになるからである。弊社の問題解決法も機能実現を容易にできるように独自ツールとメソッドを提供している。

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2013.09/21 電気粘性流体とゴム4

電気粘性流体のオイルでゴムに配合されている添加物が抽出されて增粘する問題は界面活性剤の添加で解決された。このような問題は界面活性剤で解決する以外に方法を思いつかないのだが、担当者は、あらゆるHLB値の界面活性剤で失敗したのでそれ以外の科学的な方法を探索していた。

 

目の前で起きている現象は、様々なSP値の物質が微粒子とオイルで構成された流体に微量抽出されて增粘しているのである。電気粘性流体というデバイスではオイルは必須成分であり、この問題の解決手段によっては用途が限定されることになる。すなわち汎用的な技術手段で解決する必要もあった。

 

界面活性剤は、様々な物質が開発されている。また洗剤のビルダーに見られるようにその技術手段にはノウハウも存在する。しかし、教科書にはHLB値程度の説明しかされていない。すなわち界面活性剤の活用を科学的に考えるときHLB値が一つの指標になる。しかし、目の前では様々なSP値の物質が微量オイルの中に抽出され增粘しているのである。

 

幸運なことに耐久試験が終わった段階でゴムに配合された添加剤全てがオイルに抽出されているわけではなく、抽出されている量が微量であったことだ。様々なSP値の微量の成分のために增粘という現象が引き起こされていたので、問題解決は容易だと感じた。すなわちオイルと粒子と微量成分の集団の3種が独立で運動できるようにすれば良いのである。オイルの中で微粒子と抽出された微量成分の粒子が相互作用無く分散しておれば、增粘をわずかにできる。これが技術的なあるべき姿となる。

 

增粘したオイルを10ccずつ試薬瓶に入れ、そこへ1%程度界面活性剤を添加したものを50種類用意した。高純度SiCの前駆体合成条件を検討したときの1/6の実験数であるが、3種類ほど界面活性剤を添加しただけで粘度が下がった試薬瓶があり、観察された状態が頭で思い描いていたようになっていたので成功を確信した。

 

しかし、サンプル数が多かったので、振盪機を使うのをやめとりあえず各サンプル瓶を1日に10回ほど手で振り、80℃のオイルバスに放り込んで帰宅した。翌朝サンプル瓶を回収し観察したところ5種類ほど粘度が下がっており、そのうち2種類はほとんど粘度上昇が解決された状態になっていた。いい加減な実験であったが、技術的に確かな解決策を見いだすことができた。

 

ちなみに見いだされた2種類の界面活性剤は、界面活性剤として市販されている試薬ではなく、親水性基と疎水性基でできたブロックコポリマーであった。親水性基といっても水にわずかに溶解する程度の構造であり、一般の界面活性剤において分子設計するときに用いられる基ではない。界面活性剤として販売されていない化合物であったが、分子構造が界面活性剤と呼べる構造だったので検討に用いた。

 

試行錯誤の実験では、考えられること全てを実施することが重要である。それで解決できなければ、「今」問題解決できる技術手段は無い、という結論になる。もし界面活性剤で解決できなければ、ゴムの表面コーティングであらゆる手段を試す予定であった。表面コーティングの実験は時間がかかる。今回の実験は、たった1日で結論が得られる実権であった。

 

科学的に否定された実験であったが、1日でできる実験なので気楽にあらゆる材料を試すことができた。科学的に考えれば、表面コーティングの手段が可能性が高く、期待されていた実験でもあった。一方界面活性剤の技術手段で解決ができた場合に報告をしにくい雰囲気があった。

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2013.09/20 電気粘性流体とゴム3

電気粘性流体のオイルでゴムに配合されている添加物が抽出されて增粘する問題は界面活性剤の添加で解決された。このような問題は界面活性剤で解決する以外に方法を思いつかないのだが、担当者は界面活性剤で失敗したのでそれ以外の科学的な方法を探索していたようだ。例えば配合剤無添加のゴムを試したり、ゴム表面をガソリン用ゴムホースと同様に表面コーティングしたりして耐久試験を行っていた。

 

配合剤無添加のゴムでも加硫剤は添加しなければならないのでやはり電気粘性流体の增粘は生じた。この場合も加硫剤を何種も検討したらしいがいずれも効果が無かったようだ。表面コーティングも增粘するまでの時間をのばすことはできたが目標の耐久時間を達成することができなかった。絶縁オイルの種類を変える検討も同様の結果であった。わずかな抽出物で增粘していた。また抽出物の中にはゴムの低分子成分も含まれていたケースもあった。

 

界面活性剤を検討してだめだったので科学的に考えられることを全て試してみたそうだ。技術の問題を解決するときに試行錯誤というセレンディピティーを活用する方法を忘れているようだ。すなわちゴムからの抽出物で增粘しているので、このような問題は界面の問題であり、それを解決できるのは界面活性剤が最も良い手段である。そのほかの手段はたとえ科学的な手段といえどもゴムの表面コーティング以外は何らかの大きな副作用が存在する。

 

問題解決にあたり解決手段が限られる場合には、その限定された手段で汗を流す以外に解決の道は無い。このとき他の手段を有識者に聞き試すことは構わないが、その時の手段は技術的に実現可能性のある場合だけ解決手段として採用すべきである。例えば配合剤無添加のゴムという手段はゴムの役割を考慮すれば、たとえ科学的に正しくとも技術的な対応策とならないからである。

 

配合剤無添加のゴムを検討したおかげで、低分子成分のゴムの抽出物も增粘に関与しているらしいことも分かってきたからムダでは無い、と説明していたが、それは考え方の問題で、機能実現のために効率の良い開発を進める視点に立てば、無駄な実験である。すなわち抽出物の解析から、早い段階に様々なSP値の物質が電気粘性流体のオイルで抽出されていたのである。オイル用ゴムホースよりもさらに過酷な条件でゴムとオイルが直接接触しているデバイスで発生している問題だ。

 

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2013.09/19 電気粘性流体とゴム2

ゴムからの抽出物で電気粘性流体の增粘する問題について昨日からの続き。

 

開発グループの書棚に市販されている界面活性剤のカタログは、すべて取りそろえてあった。そのカタログ数値の幾つかをピックアップしてデータベースを作成し、多変量解析を行った。主成分分析で界面活性剤の分類も行ってみた。第Ⅰ主成分はHLB値と思われる値になったので、科学的に妥当な分類になっていると推定した。

 

見つけた界面活性剤について、第Ⅰ主成分と第Ⅱ主成分の軸で整理されたチャートへプロットしたら、ある群と重なった。相談に来た担当者にその群の界面活性剤の検討を行ったかどうか尋ねてみたら、1種類検討したが効果が無かった、という回答。

 

その群について他のパラメーターも入れて主成分分析を行ったところ、二つに分かれた(相談に来た担当者は運が悪かったのと汗をかきたくなかっただけである)。また第Ⅰ主成分は新たに導入したパラメーターとHLB値の積のような関係であった。この新たに導入したパラメーターは分子量で、高分子界面活性剤の特定のHLB値が問題の解決策を示すパラメーターとして浮かび上がった。

 

電気粘性流体の增粘の問題は、このように多変量解析を用いて問題解決を行ったが、必ずしも科学的な方法とは言えない。また多変量解析を行う前に、手当たり次第手元にあった試薬を增粘した電気粘性流体に添加して変化を観察している。方法は試行錯誤であり、まったく科学的とは言えない。手元に揃えてあった界面活性剤のキットの中に解があったので、むしろ運が良かったといえる。世間ではこのようにして解決策を得られる人をセレンディピティーがある、というがこんなことは誰でもできる。しかし、徹底してそれを最初から実行する人は少ない。

 

科学万能の時代では、まず科学的に考えようとする。科学的に考えて解決できそうな問題であれば科学的なアプローチは有効であるが、科学的な解決の糸口を見いだせない場合には、まず実験をやってみる、という姿勢が重要である。知恵のある人は知恵を出し、知恵の無い人は汗をだせ、という名言があるが、汗を出せば何か見つかる。何か見つかったら、その科学的意味を考える。

 

このような手順では、仮説設定など無い。可能性がありそうな(電気粘性流体の界面活性剤を見つけられなかった人のように、わけの分からないときに仮説で絞り込むと失敗する)手段や方法を「すべて」試してみる。これで兆候が見いだされなければ、「今」自分たちで問題解決できないのである。解決できる問題であれば必ず何か兆候がある。このあたりはヤマナカファクターの発見プロセスが参考になる。何が何でも問題解決したいときには、機能達成手段を無制限に広げ、可能性のある方法からすべて試みる以外に道は無い。コンサルタントや大学教授などの外部の有識者を活用するのも良い方法である。

 

但し、何か兆候が見つかったときに科学的意味を考えるかどうかは、技術を確立する時間に影響する。科学的意味が解明され、仮説設定できるようになると開発スピードはアップする。科学的に問題解決できるときには仮説設定して問題解決に当たった方が効率が良い。さすがに最初から最後までセレンディピティーでは、時間がかかる。一生運の良い人も稀にいるが、研究開発だけで運を使いたくない。最初に科学的に問題を考察し科学的に解決可能な問題であれば科学的に問題解決して大切な運を次の機会までとっておくこと。

 

*本日の内容をマジメにそのまま実行しようとすると天文学的時間となることもある。それを効率良くするために弊社の研究開発必勝法がある。ご活用ください。

 

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2013.09/04 科学と技術(43:アイデアを出すコツ1)

現代科学の観点からすれば、設計は取るに足らないものだが、工学の観点からは設計が全てである。設計とは、あらかじめ想定された目的を達成するために、各種の手段を意図的に適合させることであり、まさに工学の本質である、とは、エドウィン・T・レイトン・ジュニアの言葉である。

 

この工学の定義については、1828年イギリスの土木学会の憲章に「工学とは、自然界の動力源を人間の利用と利便のために支配する技である」と書かれている。また日本の特許法第二条第一項には「発明とは自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう」とある。これらの定義に科学的に証明されている、あるいは科学的に支持されているという要件が書かれていないことに注意すべきである。

 

すなわち技術は科学的に支持されていようがいまいが、自然法則を利用し機能を実現でき、人間の利用と利便のためそれらを制御できれば、それが技術なのである。科学的アイデアも非科学から誕生しているケースが多いにもかかわらず、この技術について科学的ではない方法や非科学的プロセスで実現された技術を認めない風潮があるのは残念である。

 

PPSと6ナイロンが相溶した材料を電子写真機に実用化した成果で、退職前学会の技術賞に推薦されたが、χが大きな組み合わせで相溶するわけがない、と言われ落選した。相溶しない組み合わせでも相溶させることが可能なプロセシングが存在し、そこに新しい科学の種が存在するにも関わらずアカデミアの支持が得られなかった。

 

落選はしたが、脆いPPSに6ナイロンを相溶した材料は、しなやかさという機能が付与され市場で5年以上トラブル無く活用されている。また、自宅の書斎のカラープリンターにもそのキーパーツは使用されており、普通紙でインクジェットよりも美しく絶好調のフルカラー印刷を実現している。「マジ、このカラー!」と言いたくなるほどである。技術の詳細を発表する機会を失い残念であるが、技術として成功している。

 

この新しい材料は、電子写真機のキーパーツとして設計し、また実用化した技術であり、技術を実現するための多数のアイデアも含め、科学的に研究して導かれた成果ではない。学会の技術賞とはこのような技術の成果についても受け入れ新しい科学の種を拾い上げる活動の一環であるはずである。

 

技術とは何か、という問いには多くの答があるかもしれない。しかし、科学的に明らかな現象を利用した技術であれば、特許としての新規性はやや低くなり、その内容によっては成立性まで無くなる場合がある。科学で説明できない「驚くべき」技術こそ新規性が最も高い。そんな技術開発を可能にするのが弊社の問題解決法であり、アイデアを出すコツも指導している。

 

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2013.09/02 科学と技術(41)

複雑な現象を科学で説明するときにモデル化がよく使われる。その現象の最も支配的な因子に焦点をあて、モデルを組み立て、論理的に現象を説明する方法である。モデルと現象がほぼ同じであれば科学的な実証モデルとして認められる。

 

現象とモデルが一致しないときに新たなモデルを考え直すのか、誤差として認めそこで妥協するのか、あるいは全く別のアプローチで現象を説明するのか多くの場合悩む。フローリーハギンズ理論ではχの導入により、一致しない現象をすべて誤差としているように思われる。そして誤差の支配因子を探索する研究が今も行われている。フローリーハギンズ理論で合わない例も多いので、新たなモデルを考えた方が良いようにも思われるが、多数の科学者が正しいモデルと認めている状態へ新たなモデルを提案するのには勇気がいる。

 

科学の世界では真理を探究することが使命となるので厳しい議論に耐えなければならない。しかし技術の世界では機能を実現できれば勝利者である。真理かどうかよりもロバストの高さが重要となる。再現よくロバストの高い技術ができたなら、仮に間違ったモデルであっても、正しく機能しておれば大きな問題とみなされない。ただし機能の再現性やロバストの高さについては、市場に出す前に厳しく問われる。科学と技術では厳しく問われる観点が異なるのだ。

 

弊社の問題解決法のK1チャートは現象や機能を実現するモデルという見方もできる。複雑な因子の絡み合いが存在し、やってみなければ分からないところはループになる。しかしそのループについて無限ループになるのか有限ループなのかは科学的知識と経験から判断できる。有限ループと判断されたならただひたすら実験を行い、安定に機能を実現できる条件を絞り込む。こうしてできあがった技術は、ブラックボックス化しやすい。

 

安定に機能を実現できる条件が求まると、その条件を逆にたどることで科学的な考察を容易にできる場合が多い。半導体分野で使用されているプリカーサー法による高純度SiCの製造条件については、このような方法で技術を完成している。プリカーサーについては、フローリーハギンズ理論では説明ができない組み合わせとχの値であるにもかかわらず有機高分子と無機高分子が安定に均一化する、科学では説明できない現象である。また、SiC化の反応条件を探索する実験では不思議なことが発生し、1回の実験でベストな条件が求まった。

 

科学では説明できない世界であるが、新たな発見があればそれを頼りに新たな技術を開発できる。例えばプリカーサーの密度を制御すると新たな機能が生まれることを発見したならば、科学的推論を展開することにより、できあがったプリカーサーの密度も自由にコントロールできるようになる。

 

一つ条件が見つかるとその条件について科学的考察を加える。すると新たな機能を実現できる技術のアイデアが浮かぶ。技術開発における科学の使い方の一つである。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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