FH理論は、無理矢理個々の高分子鎖を平面に組み込む、単純な格子理論である。このモデルを実際の現象で表現するならば、高分子がTm以上で完全に溶融し、液相を形成して混ざりあっている状態である。高分子のモノマー単位を一つの格子にそれぞれ当てはめているために、モデルの図を見る限り、ランダムに入っているように見える。
実際の溶融した高分子がこのモデルのように一つの格子に一つのモノマー構造を当てはめるようなコンフォメーションをとれるならば、このモデルを使って相溶という現象を熱力学でうまく説明することが可能である。
ところが現実の溶融した高分子は分子運動しており、様々なコンフォメーションを取るので、厳密な配置計算は明らかに実現不可能である。すなわち単純な格子モデルを用いたFH理論のような現象が起きないだけでなく、仮にそのような現象が起きたとしても一瞬にモデルとは異なる配置になると予想される。
一方で高分子融体についてレオロジーデータでやや怪しいデータに出会うことがある。自分が測定した動粘度よりも高いデータがあるのだ。注意深い研究者ならば、高分子融体が分子鎖一本一本の自由運動で構成されていないのではないかという疑問を持っているので、測定条件を変えて測定を行ったりして間違いに気がつく。
高分子の種類によっては、凝集力が強く高分子一本一本に遊離しにくい場合もある。そのような高分子の場合、高分子融体のレオロジー測定では注意が必要である。例えばPPSについて説明すると、測定器にサンプルをセットしTm以上に昇温しただけでは安定した融体の動粘度を測定することができない。サンプルセット後一定時間不連続な歪みをかけて測定器で混練し高分子鎖をほぐしてやらなければうまく測定できない。
10年以上前に推進された国研、「高分子の精密制御プロジェクト」の成果で、この10年間に高分子鎖1本のレオロジーデータも多数公開されてきている。高分子鎖一本のデータは、今ようやく得られつつある状態なのだ。あらためてFH理論について大胆なモデルで考え直す研究者が現れても良いと思う。FH理論の改良は実務上大変有益な成果をもたらす。STAP細胞と同等以上のイノベーションを引き起こす可能性がある。
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フローリー・ハギンズ理論(FH理論)は、高分子のモノマーに着目すると低分子の正則溶液に関する考え方と大差ない。だからSP値と相関してもおかしくない。しかし実際の高分子の混合では、高分子特有の「一本のヒモである」分子構造の形が影響するはずである。あるいはスター型や枝分かれした複雑な分子構造の相溶であれば単純にモノマー構造だけで考察しているFH理論とズレが生じるはずである。
そのためFH理論の拡張あるいは改良を目的とした研究も行われているが、今ひとつ決定打が無いために、相溶の説明のために一般の教科書ではFH理論が書かれている。確かにFH理論は初学者には理解しやすい考え方であるが、現象に合っていない部分が多いため、単純な考え方でうまく説明されると時として現象を見誤る場合やアイデアを生み出す障害になったりする。
例えばSTAP細胞の騒動はその例で、植物細胞ではSTAP現象が生じるが動物の細胞ではSTAP現象が生じない、というのが30年近く定説になっていた。それに対して、生物学について科学に対する意識は低いがやる気満々の研究者がSTAP現象を発見し、理研が揺れ動いている。おそらくハーバード大で実験を行った人物が優秀な研究者であったならSTAP現象を見落としていたに違いない。
学位論文の20ページ前後を平気でコピペして仕上げるちゃっかり者の研究者(注1)であったためにそのおかしさに気がつき発見に至り今回の大騒ぎになっている。知識が少ない、ということは先入観にとらわれる危険性が低いことを意味する。
当方もFH理論を疑問に感じたのは、ゴム会社に入って樹脂補強ゴムの研究を始めたばかりのかけだしで、専門知識の乏しいときである(注2)。FH理論を疑っていることについて周囲は冷淡であった。馬鹿にする人もいた。唯一指導社員だけは良き理解者で、カオス混合という概念を教えてくれた。但し、「連続生産で誰も実現できていない方法だが君ならできる」とどのように理解したら良いのか分からない激励の言葉が添えられていた。しかし、この言葉を素直に捉えてFH理論が研究開発に重要となる機会がある度にアイデアを考えてきた。
リアクティブブレンドによる半導体用高純度SiCの前駆体高分子の開発や、ポリオレフィンとポリスチレン系TPEとの相溶実験、そしてPPSと6ナイロンの相溶を実現するプロセス開発は、知識の乏しいときに素直に疑問に思って出てきたアイデアを32年間忘れずに実験してきた成果である。素人でも真摯に努力を続け年を重ねるとそれなりの成果を出せる。
(注1)もっともそのような学位論文に対して平気で学位授与する大学は大問題だが、このような問題は昔から放置されている。ゆえに博士であっても研究開発を満足にできない人が社会に出てきている。
(注2)科学に対する大卒レベルの知識はあった。卒業論文でさえも他人の論文のコピペは悪いことだという意識から実験ノートの書き方の常識だけでなく武谷三男氏やマッハ、湯川秀樹氏の著作物なども読んでいた。
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科学では真理を明らかにすることが重要なゴールになるが、技術では機能実現の方法をさぐることがその使命になる。フローリー・ハギンズ理論から非相溶系となる高分子の組み合わせでもその相溶状態で得られる物性を機能として用いたいときには、その方法を幾つか用意しようとする行為は科学的にナンセンスでも技術的には意味のあることである。
32年間いろいろ考えてきたが、高分子の専門家が誰でも思いつくのが、相溶化剤を用いる方法で、これはすでに各種ポリマーアロイの開発に多く用いられている。相溶化剤を用いないという条件では、リアクティブブレンドが唯一の科学的にも成立する方法である。しかし、これは反応条件を選ぶことができるのかどうか、あるいは反応サイトが必要だという制約があり、汎用的ではない。
ここで相溶化剤を用いる方法があるので、それで機能実現するには十分と言われるかもしれないが、相溶化剤を使用できない場合も技術の現場には存在する。例えばもう過去の遺物となったが、ハロゲン化銀を用いる感材では、乳剤層に悪影響を与えない材料以外用いることができない。あるいは感材以外の他の領域全てに共通な例として特殊なケースとなるが、技術の分かっていない担当者が適当に考えた材料を設計段階で採用し、その仕事を製品化間際で引き継いだときなど新たな配合設計をすることができない、という状況になる。
そのほかに知財の制約、力学物性の制約、高次構造を相溶化剤を使用したときよりも小さくしたいなど相溶化剤を使用できないケースは意外に少なからず存在する。ゆえに非相溶系の高分子の組み合わせでも相溶系に近い状態で使用できる技術手段を用意しておくことは意味がある。
ラテックス状態で混合する方法は、コストがかかるが汎用的方法と言える。特に表面処理工程では有効な方法である。相溶化剤は時としてブリードアウトの原因物質になることもあるが、ラテックス状態で混合し作成された単膜のブリードアウトテストでは、せいぜい界面活性剤が出てくるくらいである。
但し、ラテックスで混合された材料を一般の混練機で混練してはいけない。高次構造が大きく成長することがあるからだ。高次構造のサイズが大きくなると材料物性に影響が出る。高次構造のサイズを小さくできる混練方法はカオス混合である。カオス混合を用いると極めてサイズの小さい高次構造を作り出すことができる。組み合わせによっては相溶状態を創り出すことも可能だ。
あとは特殊な方法だが、分子の立体構造に着目し、錠と鍵の関係になるような高分子の組み合わせを探るという面白いアイデアがあるが、時間や精神的余裕のあるとき以外では行わない方が良い。このアイデアの応用として分子のエントロピーに着目したプロセシング、カオス混合が高次構造を小さくする目的で使用でき、分子の緩和時間が長ければTg以下へ急速冷却することで相溶状態を維持した材料を創り出すことができる。
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リアクティブブレンドでは、反応条件さえ工夫すればχが大きなどのようなブレンド系でも相溶させることが可能である。また、バルキーな側鎖基を有するポリオレフィンにポリスチレン系TPEを相溶させる方法からエントロピーの寄与を確信し、そのヒントと過去の経験から新たなカオス混合装置を開発した。
この装置を用いると混合時のエントロピーをプロセスの中で下げることにより相溶を進行させることが可能と推定しており、緩和速度が遅い高分子の系ではTg以下に急速に冷却してやると室温で相溶状態を維持できる。
それでは非相溶系を均一に相溶させる方法は他に無いのか、とラテックスで検討してみた。モノマー構造でSP値が離れている組み合わせでコポリマーのラテックスを合成すると一応リアクティブプロセシングなので均一な構造のポリマーが得られる。条件によってはコアシェルのようなラテックスもできたりする。
それぞれのホモポリマーでラテックスを合成してそれを混合したらどうなるか。この実験ではコロイド化学の知識が少し要求されるが、安定な塗布液が得られたとして話を進める。この混合溶液で単膜を作成し強度測定を行うと、コポリマーの場合と同様に弾性率の高い方のラテックスが増加すると単膜の弾性率も上昇する。
5wt%前後ではコポリマーのほうが弾性率が高いが、10wt%程度ではほぼ同じ弾性率になる。但し、コポリマーに比較するとややヘイズが高い。得られた単膜の高次構造を調べてみると50nm前後の二種類の球を分散してできたような高次構造が観察される。この高次構造からコポリマーに比較してややヘイズが高いのもうなずける。
一応力学物性については、混練で得られる場合に比較し、相溶状態に近い物性となっている。また、光学物性についても10枚重ねで測定されたヘイズ値に差が見られる程度なので分野によっては使用可能な材料と推定した。完全な相溶系ではないが、二種類のポリマーが相溶したときに期待される物性を技術的に得る方法としてラテックスによる混合は一つの手段と思われる。
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1980年代に樹脂補強ゴムからポリウレタンやフェノール樹脂の難燃化、そして高純度SiCの事業立ち上げ、電気粘性流体の開発、超伝導セラミックスの開発など多種多様な研究開発を手がけたが、フローリー・ハギンズ理論(FH理論)に必ずどこかでお世話になった。
実務では低分子溶媒を用いてSP値を測定していたが、高分子を混合したときの状態予測では、教科書に書かれた高分子のスピノ-ダル分解のマンガを見ながら頭に状況を思い描いていた。もしOCTAのSUSHIがあったなら毎回利用していただろう。
有機高分子と無機高分子はそのモノマー単位が有機と無機なのでχは大きな値となる。すなわち絶対に相分離して均一に混ざらない組み合わせである。実例を示せばポリエチルシリケートとレゾール型の液状のフェノール樹脂を混合しようとしてもすぐに相分離する。
コロイドを撹拌する専用の混合装置を用いても撹拌しているときにも白濁し決して透明にならず、撹拌を止めるとすぐに二相に分離してくる。フェノール樹脂が重いので沈殿するのだ。とても分子レベルで均一になると思えない組み合わせである。しかしここへ両者の反応に共通して用いることが可能な酸触媒を添加すると様子が一変する。
撹拌中に相分離していてもその界面で反応が開始し、透明度が上がってくるのだ。ただしこれは最適な触媒が選択されたときだけで、不適切な触媒、例えば片方の反応速度を著しく早め、両者の反応速度差を大きくするような触媒を添加すると、片方のポリマーだけが反応してゲルになり沈殿してくる。
例えば硫酸を用いるとポリエチルシリケートの反応速度が速まりシリカが撹拌中に沈殿してくる。トルエンスルフォン酸であれば量を最適化しない場合にはフェノール樹脂のゲル化が進行し、撹拌中にフェノール樹脂のゲルとシリカとポリエチルシリケートに分離し悲しい状態になる。
適切な酸触媒を選択してやると、ポリエチルシリケートとフェノール樹脂の界面で反応が進行し、相分離することなく均一のゲルが生成し、このゲルの炭化物を用いてSiC化の反応を行うと均一素反応の取り扱いが可能となりSiC化の反応エネルギーを求めることまでできる(注)。
すなわち、リアクティブブレンドは、1980年代にFH理論で相分離すると推定される高分子の組み合わせでも均一に相溶した状態を作ることが可能な唯一の方法であった。これが21世紀になるとリアクティブブレンドでなくても均一に相溶した状態を作ることが可能になり、PPSと6ナイロンが相溶したフィルムを製造できるようになった。材料技術の進歩である。
しかし、科学的には不明の部分が多いので科学の進歩ではない。このような場合世間では怪しい技術と捉えるが、STAP細胞と異なり再現性が高い、すなわちロバストの高い技術である。この技術については、退職後の研究成果をもとに来月6日に行われる高分子学会主催のポリマーフロンティア21で報告する。招待講演者として選ばれており1時間お話しさせて頂く。
(注)学位論文の一部である。当時2000℃まで計測可能なTGAが無かったので、真空理工(株)のご協力をえて、自ら心臓部分を手作りした。このTGAについては特許を出願したが30年前のことで、楽しい科学者人生最後の頃である。
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すでに指摘したように教科書に書かれているフローリー・ハギンズ理論(FH理論)は、二次元平面の中に二種類の高分子を仮想的に混合状態にして押し込んだときの自由エネルギー変化を議論している。そして、このモデルではそれぞれの高分子のモノマー構造が重要な意味を持っている。換言すればモノマー構造だけで判断しているに過ぎない。
だからSMALLの方法というSP値の計算結果とχパラメーターはうまく相関する。実際の高分子を混合したときには、このモノマー構造以外に鎖状の高分子が取る立体構造にも自由エネルギー変化は影響を受けるはずである。
このような仮説で、側鎖基にバルキーな基を持ったポリオレフィン樹脂にポリスチレン系TPEを相溶させる実験を行った。どのようなポリステレン系TPEでも相容するわけではない。ちょうどポリオレフィンの錠に対してカギの関係になるような立体構造のTPEだけが相溶し、透明な状態になる。
10年以上前にD社お願いし、様々なポリスチレン系TPEを合成してもらい、この錠と鍵の関係を探す実験を行ったら、うまく16番目に合成されたTPEで透明なポリマーアロイを合成することができた。この実験結果は、モノマー構造だけでなく高分子の立体構造も高分子の相溶に効果があることを示している。
余談だがこのポリマーアロイでフィルムを製造すると偏光フィルムとなり、クロスニコルの位置にすると暗くなる。ベンゼン環が複屈折を持つためだが、この詳細の特許出願は成されていない。当時の開発目標とは異なる性質で特許出願ができなかったためである。もしご興味のあるかたは問い合わせて頂きたい。
この実験に成功すると、二種類の高分子が混合された状態で圧縮を受けるとどうなるかが興味を持たれる。メカニカルな力で強引に高分子を接触させるぐらいの状態にして、緩和時間以内に両者の高分子のTg以下に冷却すれば相溶した状態を保持できるはずである。
このような仮説で実験したのが先日書いたPPSと6ナイロンの相溶化である。これは運良く開発ステージが製品化直前で、PPS/6ナイロン/カーボンの処方を変更してはいけない、という状態でテーマを引き継いだので大手を振って実験ができた。ポリオレフィンとポリスチレン系TPEの時のようにこそこそ実験を行う必要が無かった。
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テルマエロマエ2を観た。前回同様にばかばかしいお話しで無条件に面白かった。現代の温泉からアイデアを拝借し古代ローマの風呂を発明する、という方法は技術における発明の一つのやり方である。毎回平たい顔の部族として日本人が紹介されるが、古代ローマ人を演じているのも日本人の俳優である。同じ日本人でもその顔は立体的に大きく異なるのである。
フローリー・ハギンズ理論では、立体的に大きく異なる2種の高分子を、二次元平面の格子の中に押し込んでその自由エネルギー変化を論じている。高分子が平たい形態をとって挙動しているならば、この二次元平面における考察でうまく説明できる。しかし、高分子はその長さ方向にも様々な形をとり、これをコンフォメーションと呼ぶが、そのエントロピー変化はこの理論において無視されている。
テルマエロマエでは、時空を越えた古代と現代の往来の表現をオペラの歌声とともに高速の流れとして表している。今回はその流れの表現として水洗便所まで飛び出した。そして太った関取が時空の流れの中で変形せず、詰まってしまう。詰まってしまったのに次のシーンではうまくワープしているのである。ばかばかしい。
2種類の混合された高分子の融体を細いスリットに高速で通したらどうなるか。恐らく大きな剪断応力が発生し、分子は長く引き延ばされる。1mm前後の厚みで幅2cmのスリットへPPSと6ナイロンを混合し押し込んだら相溶し透明な樹脂が流れ出してきた。GPCで分子量分布を測定しても特に低分子が増えたというわけではないので、大きな剪断応力がかかっても分子の断裂は起きていない。
本来非相溶系の組み合わせがとんでもない領域にワープしたのである。そのままPPSのTg以下へ急冷すれば6ナイロンが相溶した材料ができる。その材料で作られたフィルムはPPS単独の場合に比較し、もの凄く靱性が向上していた。
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ポリマーアロイを設計する際によりどころとなるのは、高分子の相溶を扱うフローリー・ハギンズ理論(FH理論)であるが、この理論のモデルは極めて単純で実際のブレンドされた高分子を議論するには不十分である。
この理論ではχパラメーターが定義されているが、高分子の立体的な構造の寄与、すなわちスター型とリニア型の差異を議論することができない。また、低分子の混合から導かれるSP値と相関するがこれも高分子の分子量のことを考えると気持ち悪い。
実務では、低分子溶媒に高分子を溶解しSP値を求めているので、χパラメーターで議論するよりはSP値で議論していることになる。またFH理論は単純な格子理論から導かれたものであり、高分子のモノマー単位(構成単位)をそれぞれの格子に隙間無く当てはめて考えているので、そのモデルで扱える高分子は限られる。
実務で用いている方法に近い研究から高分子のSP値を求める計算方法(Smallの方法)が導かれている。官能基の引力定数表をもとにモノマー構造からSP値を計算するのだが、経験的には60%前後の精度で当てはまるように思われる。
かつてラテックスの分子設計ではSmallの方法を用いていたが、40%前後ははずれたために手直しが必要だった。具体的にはPETとゼラチンとの接着層の設計で使用していた。PETのSP値に合うようにラテックスを設計するが、実際に接着力を計測すると、40%前後はほとんど接着しなかった。そのためラテックスのモノマー構成を見直し、再度合成するのだが2-3回の試行でうまく接着できるラテックスが見つかった。
これをOCTAのSUSHIを使って検証してみても同じような確率である。SUSHIにしても相溶の判定はSP値を用いているからだが、面白いのは界面幅というパラメーターだ。このパラメーターは、おおよその相溶性のズレを予測する時に使えそうである。
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高分子のプロセシングに慣れた1980年代には、セラミックスフィーバーの嵐が吹き荒れ、セラミックスの高純度化が話題になっていた。高温度で安定なファインセラミックスを合成後高純度化するには再結晶化以外に手法が無くプロセスコストが問題となっていた。
例えば、半導体用SiCであればアチソン法でインゴットを大量に生産できるが、その純度が低いため昇華再結晶プロセスが必要となり、プロセスコストが嵩み当時1kgあたり10万円以上の価格で取引されていた。ジメチルポリシランを用いる高純度化プロセスも提案されていたが、前駆体となる高分子の価格が高いという問題があった。
カーボン源としてフェノール樹脂(当時350円/kg)、Si源としてポリエチルシリケート(当時750円/kg)を用いることができれば、低コストで高純度SiCの前駆体高分子を合成可能となる。しかし、χが大きなこの二種の高分子を均一に混ぜて高温度まで均一なポリマーアロイを合成することは困難に思われていた。
ここでワンショット法の知識が役立ち、酸触媒を用いて安定な前駆体を合成することに成功した。この方法で合成された前駆体がどのくらい均一であったかは、前駆体を炭化した電子顕微鏡の写真と反応速度論の解析結果から推定された。
すなわち前駆体高分子から得られた炭化物はSiO2とCが分子オーダーで均一になっており、その炭化物を用いてSiC化の反応を行うと均一素反応の取り扱いが可能であった。この方法で合成されたSiCは半導体分野の製品に用いるには十分な純度であり、現在でもピュアベータという商品名で事業が継続されている。
高純度SiCの反応機構は、均一素反応の取り扱いで解析できたので分子レベルの均一性を達成していると推定され、これはχが大きな高分子の組み合わせを「反応させて」均一にする手法の効果である。このようにリアクティブブレンドは、ラテックスで二種類の高分子を混合するよりも高いレベルで高分子を均一にできる。
構造の異なる高分子を二種以上混合するプロセスが必要となるケースは多い。そのとき用いられる考え方は、フローリー・ハギンズ理論である。この理論によれば樹脂補強ゴムの相分離や、それがプロセスの影響を受けロバストの低い条件が存在するのも理解できる。また、χの大きな高分子を組み合わせて均一に混合された材料を設計したい場合には、ラテックスで混合する手法よりもリアクティブブレンドが有効であるが分子構造に制約が多い。
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発明の方法には、科学的成果を科学的に展開し発明に至る方法以外に、蓄積された経験を基に、要求される機能を実現する方法を探り、逆向きの推論を活用して技術を構築する方法もある(www.miragiken.com)。
PPSと6ナイロン、カーボンの処方をコンパウディングしてできる構造は、PPSと6ナイロンが非相溶系なので、バンバリーを使用したときにできる特許の図(特2010-195957)に示したような、PPSに島として分散している6ナイロン相にカーボンが分散した高次構造、あるいは二軸混練機を使用したときにできるPPS相にカーボンと6ナイロンの島相がばらばらに分散した高次構造となる。
カーボンのクラスターの状態で抵抗が大きく変動するパーコレーション転移をうまく制御するためには、カーボンを島相に閉じ込めた前者の構造が好ましいが、この構造では6ナイロン相の弾性率が上がり、材料全体の靱性を劣化させてしまう問題がある。後者では材料の靱性について柔らかい6ナイロンが分散した効果でPPS単一組成のマトリックスよりも改善されるが、カーボンのクラター制御が難しく、押出成形した時にベルトの面内抵抗分布が大きくばらつく。
すなわち、抵抗制御の観点からは前者が好ましく、ベルトの力学物性の観点からは後者が好ましい高次構造である。これらの実験結果から最も望ましいと期待される構造は、非科学的ではあるが、6ナイロンがPPSに相溶しカーボンが弱い凝集力で島相となっている高次構造である。この考えに至ると、6ナイロンをPPSに相溶させるプロセシングを実現する技術が必須となることが見えてくる。
非相溶系であるPPSと6ナイロンを相溶させるプロセシングは、フローリーハギンズ理論を信じる限りリアクティブブレンドだけとなる。この点については後日述べるが、もし二軸混練機のような連続式混練機で実現できたならば、マトリックスのTg以下の温度で相溶状態のまま急冷すれば、複写機の使用環境でその相溶状態が保持された材料になることは、高純度SiCの前駆体高分子を合成した経験から容易に思いつく。
このプロセシングは、二軸混練機からストランドを急冷して引き取れるようにすば実現できるので一般に行われている方法で容易である。残るのは、二軸混練機あるいは類似の連続式混練機で相溶状態を創りこめるかどうかという問題である。
この問題解決に向けて、二軸混練機以外に剪断力の大きいKCKと呼ばれる石臼式混練機で複数回混練したり、二軸混練機とKCKを組み合わせたりしてPPSと6ナイロンが相容するかどうか実験したが相溶しなかった。そこで、ゴム会社時代からの経験を総動員してカオス混合装置を試行錯誤で工夫し考案した。非科学的で怪しいかもしれないが、STAP細胞と異なり、現在も生産で使われているのでこれは本物の技術である。但しそこで起きている現象は現代の科学のレベルでは非科学的現象として扱われる。
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