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2013.07/12 科学と技術(静電気8)

昨日静電気に関わる現象を利用した機能を実現するための材料設計法について少し詳しく書いた。しかし、静電気の研究を20年以上続けてきたわけではない。ゴム会社で転職する原因となったお手伝いの仕事の成果が中途半端な形だったので心の中で悶々としていた。そのもやもやとした気持ちを退職前に運良く巡り会った仕事で解消することができ、その一部を昨日簡単にまとめた。

 

技術者にとって新たな自然現象を発見し、その自然現象を利用して機能を実現した技術が中途半端な状態になっているのは気持ちが悪い。さらにせっかく生みだした技術を転職のために埋没させてしまっては企業の社会貢献の視点から好ましくない。技術が社会に活かされるかどうかは、企業だけでなくそれを生み出した技術者にも責任がある。

 

技術者が生み出した技術について社会に役立てるまで、創造主である技術者が伝承の努力をしない限り消えてしまうのが日本の社会の現状である。半導体用高純度SiCの技術はゴム会社と住友金属工業とのJVで世の中に出た。その後ゴム会社は日本化学会賞まで受賞し技術が会社に定着していることを実感した。しかし、お手伝いで創造した3種の粉体の技術については、外部から見ていて消える運命にあった。

 

所詮消えてしまうような技術は大した技術ではない、と評論する人がいる。それも真実だろう。しかし、周囲がその良さを理解しないために消えてしまう技術も多く存在するのだ。「理解できない」のではなく「理解しようとしない」人が多い、ということも技術者は知るべきである。学会賞までも高いプレゼン能力が要求され、学会で伝承すべき優れた技術でも落選する。「話が伝わらないのは、発信者の責任」、とビジネスコミュニケーションで言われるように、理解してもらえるように技術者は努力しなければいけない。

 

技術で生み出される機能には皆関心があるが、機能を実現した技術には、技術者以外は関心を示さないのだ。「行為」を伝承することは難しいのである。特許があるではないか、という人もいる。しかし昨日の文を読みどれだけの方にご理解頂いたか不明だが、「行為」を文章だけで伝承することは難しい。

 

例えば「特公昭35-6616」(以下35特許)という古い公告特許がある。透明金属酸化物を透明導電層として世界で初めて塗布で実現した技術の特許で、出願から30年以上忘れられていた優れた技術である。

 

不思議なことにこの一件だけが透明導電薄膜の技術の歴史の中にポツンと存在する。この特許の後に続くのはITO薄膜を物理蒸着で形成する技術開発である。しかもそれらは35特許を出願した企業以外からで、35特許を出願した企業からはその後しばらく特許出願は無い。特許出願が無かっただけでなく、20年ほど前にはその存在すら社内で忘れられていた。そして技術の痕跡すら無くなっていた。

 

「写真工業と静電気」という社内発行された技術書を会社の図書室の倉庫で20年前に見つけた。埃をかぶり異臭を放っていたので読むのもつらい本であった。今から30年ほど前に書かれたその本には、35特許が出願されてから10年以上帯電防止材として金属酸化物の研究が行われ、弱発電性という新たに発見されたな機能について説明されていた。

 

この機能について科学的な概略の意味を理解して業務の中で機能の一部を再現したが、その他の内容について材料設計として発展させる行為については科学的視点からは残念ながら不明のままだ。これを非科学的な内容と切り捨てることは簡単である。

 

しかし、実際に帯電防止材として絶縁体を分散させた下引き、「恐るべき技術」を採用した商品(今は事業そのものを終了している)が実用化され市場で販売されていた実績がある。そもそも絶縁体の帯電防止材で帯電防止能を発揮していたので現像処理後も帯電防止性能を失わない永久帯電防止技術であった。

 

よく理解できていないが、弱発電性という機能が優れた帯電防止性能を発揮していた事実がある。10年ほど写真フィルムの帯電防止技術の仕事も担当し、弱発電性の理解も少しできたが、この機能を実現した技術者に敬意を表したい。

 

 

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2013.07/11 科学と技術(静電気7)

昨日つい一言を書いたために質問が来た。マトリックス樹脂の設計を行うことと高抵抗領域の話が見えない、という内容である。熱心な読者が増えてきた。

 

今後、高分子の相溶についても書く予定にしており、その時に書く話題として考えていた。昨日までマトリックスを構成する高分子材料の凝集粒子へ与える影響について触れてこなかったが、凝集粒子の制御に高分子の相溶と相分離という現象を活用している。

 

カーボンと絶縁体である樹脂を用いて、高抵抗でも放電しやすく、帯電しやすい材料に設計し、それを自由自在に制御するためには、カーボンの凝集状態とその分散状態が制御できなければならない。

 

この制御のためには、マトリックスが単相では不可能でカーボンが分散しやすい樹脂と分散しにくい樹脂を組み合わせて複合材料で設計して機能を実現する。もう少し詳しく書けば性質の異なる樹脂を相溶させてわずかに生じるスピノーダル分解を制御して凝集粒子の凝集状態を制御する。分散状態はスピノ-ダル分解速度が組み合わせる高分子で異なることを利用する。

 

これも科学的な証明はできていないが、このように考えてベルトを作ったら妄想通りにできた。「妄想」と表現したのは周囲が「妄想からできた技術」と評価したからだ。妄想だから気兼ねをしないでもう少し書くと、フローリーハギンズ理論は間違っていないかもしれないが鵜呑みにするな、ということだ。あの理論は高分子材料設計の自由な発想を阻害する場合がある。ただ、できあがった内容について科学の香をつけて説明するときには便利な理論である。

 

どんな高分子でも条件が整えば相溶する可能性がある(注1)。ただその状態は安定ではないのでいつか相分離する。そしてその相分離はスピノーダル分解で進行する。これを無限に遅くするには、それぞれの高分子のTg以下に急冷すれば良い。技術の世界では高分子の相溶と相分離は混練技術や成形技術、冷却プロセスなどで制御できると考えた方が機能実現のための手段が広がる(注2)。

 

複写機のベルトは高抵抗であればあるほど網点再現性が良くなる、と学会報告で聞いたことがあり、また実験データもそのような傾向があった(注3)。しかし、高抵抗のベルトでは放電が難しくなる。このあたりの材料設計の考え方は昨日書いたとおりだが、その実現方法を本日説明した。

 

 

(注1)この考え方には異論があるかもしれないが、この20年間に出会った現象はこの仮説を支持していた。技術の立場ではこの考え方で発想の自由度が広がる。例えば水と油を界面活性剤を添加しないで高速撹拌すると一瞬色が薄くなる現象がある。この実験では、教科書に書かれていない、いろいろな知見が得られる。転職により新しい知識を勉強しなければならない状況になり、教科書を読みながらつまらないことでも疑問に思ったことを実験し確認する作業を誠実真摯に行っていった。その結果、教科書は自然現象を科学という一側面からしか見ていないことを理解できた。科学では見えていないが面白い現象が身近な世界にまだ多数存在する。夏場だからお化けの話では無い。繰り返し再現性も有りロバストの改善も可能な現象である。技術開発の可能性が広い、ということを感じると同時に「科学は自然を理解する為の哲学である」と言われている意味を理解できた。これに対して技術は「自然現象やその法則を利用して人類に役立つ機能を実現する行為」である。新技術は特許により文書化されるが、その伝承方法は現代の課題である。

 

(注2)この先は問い合わせて頂ければ個別に対応する。文章は1行だが、内容はかなり濃厚な技術である。弊社のコンサルティングにおける差別化ポイントである。弊社では弊社独自の問題解決法で科学的成果を踏まえ新しい技術を生み出せるようにコンサルティングを行う独自のスタイルです。新しい技術について科学的研究が必要な場合でも高分子からセラミックス材料まで対応いたします。技術の最適化はタグチメソッドを使用します。

 

(注3)

電子写真システムにおいて網点再現性は各種因子に左右される、と言われている。技術開発の現場ではタグチメソッドを使い最適化するわけだが、このとき制御因子として常識的に見えている因子が選ばれる。TRIZやUSITを使って考えても、あたりまえの因子が選ばれる。

 

当たり前の因子で最適化すれば商品は完成するが、いまやどこの会社でもタグチメソッドやTRIZを使用している。そこで、技術で差別化したり、自分たちの技術にイノベーションを起こすためには、弊社の問題解決法が有効です。

 

「妄想」でもそれが実現し、商品ができれば、そこに新しい科学のネタが生まれています。「開発をやってから研究せよ」これは、マネージャー時代に部下を指導していた時のポリシーです。半導体用高純度SiCの開発では、パイロットプラントを作ってから反応速度論の解析を行い学位を取得いたしました。

 

「妄想」で見えていた均一素反応を実現する異形横型プッシャー炉という発明を最初に特許出願し、それを用いたプラントを作り、「妄想」が現実となったので研究を行った。正しい仮説設定がなされ予備実験でその正しさが確認されれば「妄想」は「科学の仮説」となる。そこで研究を開始するのは研究者で、科学の仮説で機能を実現するのが技術者である。

 

「勘」と「経験」と「度胸」は技術者に必要な素養といった人がいるが、ヤマカンはダメである。クソドキョウもダメである。正しい科学的知識に裏付けられた「勘」と、科学的知識に対して確かな自信に裏付けられた「度胸」が必要で、技術者と職人ではKKDの中身に違いがある。

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2013.07/10 科学と技術(静電気6)

昨日、カラー複写機に用いられている中間転写ベルト(以下ベルト)の開発に過去の帯電防止技術や電気粘性流体開発の知見を動員した、と書いた。この中間転写ベルトについては公開されているテクニカルレポートで報告している。ポリイミドの溶融成膜で得られるベルトと同等以上の性能のベルトが押出成形で得られた。

 

このベルト用のコンパウンドは特許で公開しているように特殊な混練で得られた材料であるが、カーボンの凝集粒子が絶縁体樹脂の中に制御されて分散している。断面写真を見ると、凝集粒子の分散がパーコレーション転移を起こす手前である。しかし、インピーダンスの低周波数領域は大きくジャンプしている。これは凝集粒子を構成しているカーボンのクラスターが影響している。

 

この考察は単なる現象を記述しただけで、科学的にどうのこうのと説明をしていない。ただ面白いのは、外部から購入したコンパウンドで成形したベルトと比較すると電子顕微鏡で樹脂の断面写真が同じように見えてもインピーダンスの変化は大きく異なる。細かく観察するとベルトの断面写真が細部で異なっていることに気がつく。しかし、それは凝集粒子の形状観察を注意深く行わないと気がつかないレベルである。

 

すべての凝集粒子一個一個を確認したわけではないが、恐らく特殊な混練を行った粒子では凝集粒子の大きさが揃って密になっているので、凝集粒子1個の中でパーコレーション転移を完結し、全ての凝集粒子の導電性がかなり高い状態になっているのではないか、と想像している。それがインピーダンスの低周波数領域に影響を与えている、と妄想している。

 

それ以上の実験を行っていないのでこれは科学的な考察ではない。しかしこの考察をもとに現象を数値解析するとうまく合うのだ。さらにマトリックス樹脂の設計を行ってやるとかなりの高抵抗領域でもインピーダンスをうまく制御でき、高い性能のベルトができる。科学的考察はできていないが、技術的な機能実現の見通しは間違っていない。タグチメソッドの制御因子もこの見通しを指示する結果になっていた。

 

このベルトでは、凝集粒子1個1個のパーコレーション転移を制御しつつ、凝集粒子についてもパーコレーション転移を制御しているWパーコレーション転移制御材料と呼べる複合材料ができている。その結果キャスト成膜で得られたベルトと同等以上の機能を発揮し、トナーのきれいな網点再現性が得られた、と想像している。

 

中間転写ベルトはカラー複写機の重要なキーパーツの一つで、帯電と放電を迅速にできる材料物性が要求される。このニーズは電気粘性流体に使用される粉末と同様である。しかし、帯電と放電は二律背反の現象で、これを均一な一組成の物質で達成することは難しい。

 

放電を直流抵抗の機能だけで達成しようとすると抵抗を充分に下げなければならない。一方帯電では絶縁領域の誘電体でなければその機能を発揮できないので、抵抗を下げることができない。これが単一物質で材料設計が困難な理由である。

 

もし材料の直流抵抗が低くてもインピーダンスが大きいときに静電気はどうなるか。インピーダンスは、交流の抵抗として機能するので帯電しやすいであろう。このとき直流抵抗が低いので放電もしやすい物質になっている。すなわち二律背反と思われていた帯電と放電の両方に有利に機能する材料は交流の世界で考えると可能になるのだ。

 

問題は直流抵抗を低くインピーダンスを大きくする材料設計が可能かどうかだ。これは、抵抗とコンデンサーのネットワーク回路と同等の材料を設計し、静電容量を小さくしてゆけば、低周波数領域のインピーダンスを大きくできる。低い抵抗のまわりに大変小さい容量のコンデンサーが分散しているような回路であると低周波数領域のインピーダンスは大変大きくなる。抵抗とコンデンサーの組み合わせの一素子では達成できないがネットワーク回路ならばこの設計が可能となることが数値シミュレーションで容易に確認できる。

 

すなわち単一材料ではこのような材料設計は不可能だが、カーボンを分散し、そのクラスターを絶縁体の中で生成すれば直流抵抗成分とコンデンサーのネットワーク回路を実現できる。ただし、このネットワーク回路でコンデンサーの容量を小さくするにはカーボンのクラスターを制御する、すなわちパーコレーションという現象を制御しなければいけない。複写機のベルトも電気粘性流体の粉末もこのような材料設計の考え方で行った。

 

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2013.07/09 科学と技術(静電気5)

昨日、抵抗(R)成分のクラスターが増加すると低周波数領域におけるインピーダンスの絶対値が増加する現象について数値シミュレーションを行ったことを書いた。この現象とその理解は、帯電現象を機能として活用している電気粘性流体用の粉体や、レーザープリンターや複写機部材の材料設計技術に転用できる。

 

91年にゴム会社から写真会社へ転職したときに最初に帯電防止技術を担当したのは幸運であった。実は、転職直前ゴム会社で半導体用高純度SiC技術についてS社とJVを立ち上げの傍ら電気粘性流体用の粉末開発を手伝っていたからである。

 

電気粘性流体用粉末の開発テーマでは、技術者の心眼で発想した3種類の機能性粉末を開発したが、実際のところ電気粘性流体の科学的な意味を当時充分に理解していなかった。また、特許情報も含め重要文献をお手伝い担当者には見せて頂けなかったことも幸いした。

 

過去の重要文献等見せて頂けなかったおかげで自由な発想ができ、1.コンデンサー分散型粉末、2.傾斜組成機能粉末、3.超微粒子分散型複合微粒子という3種の独自の粉末を開発することができた。おそらく開発メンバーはこれを期待していたのだろうと今はこの時のことを楽しい思い出としている。

 

この電気粘性流体の3種の粉末をどのように発明したのか。それは、弊社の問題解決法を用いたのである。弊社の問題解決法では、現象として起こりうる場合と起きない場合の2つの事象を必ず考える。すなわち全ての事象を考える容易な方法は、Aという命題とその命題対して全否定のAを考える方法である。それにより、2と3の粉末の設計が自然と浮かび上がる。1については3においてコンデンサーが分散したら面白い、という発想から出てきた。

 

言葉遊びのような形で発想した技術であるが、実際に粉末を合成してみたら、当時存在したどのような粉体よりも性能の良い電気粘性流体ができたのである。科学的で無くとも機能を追究した言葉遊びで技術というものを創り出すことができるのである。

 

人生とはまことに奇妙で、定年退職前の5年間にカラーMFP用中間転写ベルトを担当する機会が巡ってきた。このベルトは半導体ベルトで、トナーを静電気力により感光体から引き取る役目をする。このベルトの材料設計では、電気粘性流体の開発経験やインピーダンスの評価技術など帯電防止の材料設計技術をすべて動員したが、できあがったベルトは凝集粒子分散型材料で、この凝集粒子の凝集状態をプロセスの中で制御する、少し難易度の高い混練技術と成形技術を使用している。

 

*弊社の技術アイデアを生み出す問題解決法に関心のある方はお問い合わせください。

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2013.07/08 科学と技術(静電気4)

高分子材料の力学物性についてはゴム会社で勉強した。半導体用高純度SiCを開発したときに、ヒーターの開発なども行ったので電気物性について力学物性と同様勉強していた。しかし、それは無機材料の電気物性である。無機材料では科学的に見えた電気物性の論文と同じような論理で書かれた論文が、高分子材料を対象とした内容であるとなぜか科学的に怪しく見える。

 

フィルムの誘電率について低周波数領域で異常分散が現れる現象は、すでに報告されていた。高分子の一次構造や不純物により生成するエレクトレットとの関係で論じられていた。どれも仮説としては正しいが、科学的に厳密な説明の成された論文は少ない。

 

中には抵抗とコンデンサーの組み合わせモデルで説明している論文もある。データをマクロ的に把握するには良いだろうが科学的ではない。これらの研究の中には、科学的な厳密さにこだわって、実験の切り口を工夫した優れた論文もあった。科学的だろうが非科学的だろうが、技術開発を行うときにどれも参考になる。

 

しかし、フィルムで発生した静電気と、ゴミの付着し始める距離について、交流を用いた評価結果との関係で論じた論文は存在しなかった。「驚くべき結果」が得られたので、特許出願を行ったが、同じ時期にドイツで同様の発明が成されていたことに驚いた。

 

インピーダンスの絶対値とゴミの付着距離との高い相関関係を科学的に厳密に説明することは難しい。しかし、この現象を技術の発明に生かすために、モデル実験を行った。

 

仮説は、抵抗(R)の性質を示す成分が増加するとインピーダンスに影響が出る、すなわちRの成分のクラスターが増加すると低周波数領域におけるインピーダンスの絶対値が増加する、という内容である。この仮説をn個のRと(n-k)個のコンデンサーの接続モデルを用いて数値シミュレーション(注)を行うと、計測結果と同様の低周波数領域で異常分散を示す結果が得られる。

 

酸化スズゾルを分散した薄膜をPETやTAC、PENに塗布して実験を行ったところ、数値シミュレーションと同様の結果が得られただけでなく、パーコレーション転移の検出にインピーダンスの絶対値を用いると検出力の高い評価方法ができることが分かった。

 

低周波数領域におけるインピーダンスの絶対値がR成分のクラスターのでき方に大きく影響を受けること、そしてそれがパーコレーション転移の検出方法に使用できることなどは、科学的論理で説明がつくが、それが静電気の現象とどのようにつながるのかは、技術者の心眼に見えても科学的に不明のままだ。

 

(注)本件は福井大学客員教授時代に青木幸一教授と共同で行った研究で、カナダで開催された国際写真学会で報告した。

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2013.07/07 科学と技術(静電気3)

「健康のために吸い過ぎに注意しましょう」と箱の横に小さく書かれている。本来タバコは吸わない方が良い。科学的にはよく分からないが、何故かフィルムの低周波数領域におけるインピーダンスの絶対値とタバコの灰付着距離との高い相関が確認されたので、タバコの灰付着テストを廃止した。

 
同じ時期にAGFAから、発振回路を用いたフィルムの抵抗測定法とその方法で評価した写真感材に関するパラメータ特許が公開された。発振回路のRに相当する部分にフィルムをセットし、静電容量を変化させながら共振点を探す測定法である。共振点における静電容量とRを求め、そのRをフィルムの体積固有抵抗とする巧みな方法だ。

 

この測定法で得られるRの値は、フィルムのインピーダンスを測定したときにコンデンサーと抵抗でつくるモデルを工夫してやると同じ値が得られる。AGFAの特許はセンサー部分も特殊な形状に設計した治具を使用していたが、市販電極で簡単に得られるパラメーターをわざわざ難しく見せている、と感じた。

 

ドイツ人のマニアックな発明と言ってしまえばそれまでだが、APSフィルムの五社連合(EK,F、ニコン、キャノン、ミノルタ)から仲間はずれにされたフィルム会社で、似たような発想によりフィルムの新しい帯電防止評価技術を開発していた点を指摘した人がいた。AGFAの特許もAPSで使用されるだろうPENフィルムをうまく権利範囲に含めていた。

 

しかし、特許のクレームを読むだけではそれがよく見えない。PENは、カラーフィルムに使用されていたTACよりも誘電率が高いので、フィルムのインピーダンスを評価すると少し高めになる。そこに気がつけば特許の本当の出願目的が見えてくる。当方も類似の発明を出願していたので、成立がどうなるか心配だったが、AGFAも当方の特許も成立した。

 

面白いことに異議申し立ては一件も無かった。特許は権利書である、とよく言われるが、科学と技術の違いを良く心得ていないと発明の真の目的が見えにくい事例である。
<明日に続く>

 

*本稿のインピーダンス法についてご興味を持たれた方はご相談ください。

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2013.07/06 科学と技術(静電気2)

フィルムが帯電した後、帯電電荷はどのようになるのか。帯電したフィルムの電荷が減少する様子は、電荷減衰を評価すればおおよそ理解できる。この電荷減衰の測定法では、単位電荷をフィルムの表面に与え、それが減少してゆく様子を電位の変化でモニターする。この評価法もその回路からわかるように直流的な評価法である。

 

約20年前帯電防止技術に用いられている評価法を調べてみると、実技評価以外は直流法と分類できる評価法だけだった。帯電現象の可視化技術の評価結果をみると電荷は振動しながら減少している。この結果を見るとフィルムの抵抗を交流で計測したくなる。既製品としてフィルムの誘電率を計測するための電極があったので、周波数を掃引しながらインピーダンスを計ってみた。驚くべき事に、フィルムの帯電防止処理方法により、低周波数領域で大きな変化が現れたのだ。

 

電気の専門家に相談したところ、その変化と測定法の問題とどちらが大きいのか、と言われた。すなわち100Hz以下の領域には測定ノイズが乗りやすいのだそうだ。その専門家に検出器のシールドの方法の指南をうけ、出前に使う“おかもち”のような金属箱を作った。厳密な測定環境を整え低周波数領域のデータを収集したところ、直流法の評価技術では見えなかったところが見えてきた。

 

しかし、見えてきた、といっても心眼で見えただけで科学的な説明ができる状態では無い。見えてきた方向でデータを整理してみると、これまでの評価法のどれよりも実技データとの相関が高いのだ。特にJIS法にもある「タバコの灰付着テスト」では、静電気で灰が付着し始める距離とインピーダンスの絶対値とが相関係数1で極めて高い相関を示したのだ。

 

それまでの直流を用いた評価技術では、実技テストと相関しない場合があったので、必ず何か一つ実技テストを開発初期段階でも行っていた。タバコの灰付着テストは、すいたてのタバコの灰が必要なので、嫌煙ムードの広がる中、実験をやりにくい状況になっていた。会社の消耗品費でタバコを買って実験を行っていたのだが、この実験をたった一人の愛煙家が喜んでいる状況だった。フィルム会社の実験なので大量のタバコの灰が必要だった。

<明日へ続く>

 

*インピーダンスを用いた帯電防止評価技術についてご興味がございましたら、弊社へお問い合わせください。

 

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2013.07/05 科学と技術(静電気1)

静電気の科学は、進んでいるのか遅れているのかよく分からない分野である。例えば帯電現象が科学的に解明され、その機構も実験結果とともに理論的に説明されているのは金属で生じている現象だけである。このように書くと直感的に不思議に思われるかもしれないが、金属でも帯電するのである。

 

20年ほど前、武蔵野工業大学で帯電現象の可視化技術が開発された。ピエゾ素子を用いた装置で微小電荷の動きを検出し、コンピューターでその時間変化を記録し可視化しているのだが、残念なのは実験結果を厳密に説明できる場合ばかりではないのだ。評価法は恐らく間違っていないのだろう。しかし測定された現象について全てをうまく説明できない。

 

測定法の問題では無く高分子材料というサンプルに問題があるのだが、そのような問題があるためかT先生は評価「技術」として説明されていた。科学的に厳密に説明できなくとも、この評価技術のおかげでフィルムの帯電現象を眺める技術者の心眼に自信ができた。そしてそれまで直流を用いて評価されていたフィルムの帯電防止に関する評価技術を見直すきっかけになった。

 

絶縁性の樹脂フィルムの帯電現象は複雑である。いろいろと現象を眺めていると教科書に書かれているような理想的な電荷の偏りにはなっていないと思われる。その可視化技術の評価結果によれば、帯電した一部の電荷はフィルム内部の中央あたりに長い間いつまでも滞留している。また、表面の単位電荷の拡散は、帯電防止処理がされていても、その拡散速度は意外に遅い。これはフィルムの表面比抵抗の測定で、経験的に一定時間放置してからデータを読まなければならないことと対応している。精度の高い電流計を用いれば電場をかけてから電流が安定するまでの様子を見ることができる。

 

フィルムの帯電防止処理方法あるいはフィルムの体積固有抵抗が異なればこの測定状況は変化する。そのためフィルムの表面比抵抗は、ISOの規格に従い測定しなければならないが、規格通り測定しているから帯電現象を説明できる評価がうまくできているのか、というとそうではない。科学的には、材料の一特性として規格通り測定されたデータに過ぎないのだ。フィルムの帯電防止に関するこのスペックを用途に応じて変えなければならない原因にもなっている。

(明日に続く)

 

*フィルムの帯電防止処理に関し、ご相談事項がございましたらお問い合わせください。

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2013.07/03 科学と技術(混練16)

光学用ポリオレフィン樹脂と無秩序性を目指した重合条件のポリスチレンとが混練で相溶し透明になった、という実験事実は、フローリー・ハギンズの理論で説明がつかない。しかし高分子の相溶に高分子の立体構造が関係していることを示す重要な実験事実である。

 

この実験事実を技術者の心眼で眺めてみると、新しい混練技術の可能性が見えてくる。実験事実は、ポリスチレン樹脂の立体構造をいろいろ変えて重合したら、提灯のような大きな側鎖を持つ光学用ポリオレフィン樹脂に相溶した、という内容である。これを頭の中でイメージしてやると光学用ポリオレフィン樹脂の分子の隙間にポリスチレン樹脂が、スポッと収まっている様子が見えてくる。

 

この状態と同じ事を混練で実現すれば、光学用ポリオレフィン樹脂と特殊な立体構造のポリスチレン樹脂が相溶したような状況を作り出すことができる。すなわち、異なる構造の高分子をうまくすりあわせて重ね合わせることができれば、相溶できることになる。

 

もちろんそのような条件で混練してできたポリマーアロイは不安定であるが、樹脂のTgは室温よりも高いので、急冷すれば相溶状態を保持できる。すなわちフローリー・ハギンズ理論のχが大きな樹脂でも混練で相溶させることができ、急冷すればその状態の樹脂を室温で得られるプロセスが設計可能と心眼で見えてくる。ただし、このようにして得られた樹脂は室温でも自由体積部分は運動しているので、混練直後は透明でもやがて失透してゆくだろう。

 

相溶していた透明な高分子がゆっくりと時間をかけ相分離し失透してゆく、という光景を光学用ポリオレフィン樹脂とポリスチレン樹脂とが相溶した樹脂で観察することができた。光学用ポリオレフィン樹脂とポリスチレン樹脂が相溶した樹脂をポリスチレンのTg近辺で温めたら、ゆっくりと失透したのである。ちょうど樹脂がゲートから流れたスジがゆっくりと現れ、その模様が広がり真っ白になったのである。

 

面白いのはこの真っ白になった樹脂を光学用ポリオレフィン樹脂のTgで温めてやると、また透明になったのである。さらにこれを室温まで急冷したら、透明のままであった。21世紀初めの珍事であった。

 

 

*光学用樹脂につきましてご相談事項がございましたらお問い合わせください。

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2013.07/02 科学と技術(混練15)

昨日まで紹介した光学用ポリオレフィン樹脂と特別な重合条件で合成したポリスチレン樹脂との相溶実験は、実験用の小型バンバリー(300cc)を用いて5分程度の混練で実現した結果である。恐らく一般の生産で使用されている二軸混練機でも再現できるだろう。

 

高分子を相溶させると、異なる物性の材料が得られる。二軸混練機は反応装置の視点で扱われていないが、この視点でプロセシングを開発すれば、新たなプロセシング技術を開発できる可能性がある。

 

反応という概念は共有結合が生成する場合に用いる、といわれているが、イオン反応でイオン結合の生成や、錯体化学では配位結合の生成の場合にも反応という言葉が使用されている。二種の異なる高分子の相溶では結合生成こそしないが、単なる「混ぜ物」ではない。技術的視点から「反応して合成された」高分子という見方もできる。

 

このようなポリオレフィン樹脂とポリスチレン樹脂のように1次構造を工夫し混練して全く別物が生成する現象を見ると、混練で相溶させるプロセスを「合成」という機能で捉えることで新たな技術が生まれる可能性を感じる。E.S.ファーガソンの言葉を借りれば、「心眼」で現象を眺めると新たな技術が生まれる、と表現される。

 

あるいは、昨今コンセプトの重要性がさけばれているが、2種の高分子を混練するプロセスをどのようなコンセプトで開発するのか、と考えることで新たな技術を生み出すことが可能となるので、まさに「コンセプト」という言葉の力が生きる視点である。

 

樹脂補強ゴムは、バンバリーとロールを用いたバッチプロセスで生産されていた。不思議なことにゴム業界ではバンバリーとロールを単なる混ぜる機械とみていない。ゴム(高分子)を変性させる装置=合成装置という見方をしている。歴史的にゴムの混練プロセス開発は一種の合成という見方で行われてきた可能性がある。これは混練プロセスだけで工程は完結せず後工程の加硫反応で成形するプロセスまで含めて考えなければゴム業界で材料開発をできなかったためだろう。

 

樹脂業界では、樹脂を混練するメーカーと成形するメーカーが別々に存在する。ゴムのように混練から成形まで一気通貫で行うメーカーは少ない。しかし、二軸混練機の世界にも合成あるいは反応というコンセプトで最近面白い技術が生まれている。

 

1990年代に樹脂補強ゴムとは異なるコンセプトで、高靱性の樹脂や、射出成形でゴム弾性を持つ成形体が得られる動的加硫技術が発展した。樹脂補強ゴムでは、加硫反応を行わなければ成形体ができないが、動的加硫技術による樹脂では、混練中にゴムの加硫を完了しており、成形プロセスで加硫反応を行う必要が無い。この樹脂を用いて射出成形でゴム状の成形体が簡単に得られる。

 

この技術は、1970年末に登場した熱可塑性エラストマー(TPE)と同様の用途に使用されている。すなわちTPEのコストダウン技術として動的加硫ゴムは生まれた。TPEはゴムと樹脂を反応させて製造する、文字通り昔ながらの「反応」や「合成」プロセスによる材料である。そしてTPEを用いて射出成形により簡単にゴムの成形体を製造することができる。加硫反応がいらない便利な材料である。

 

このTPEと同様の用途の材料を二軸混練機で「合成」できるようにしたのが動的加硫技術である。ゆえに2種の高分子を混練して、変性された材料ができる過程を広義の「合成プロセス」ととらえる事により、新たな材料技術が生まれる可能性がある。たとえ科学的に正しい言葉の用い方ではない、と否定されても機能を追求する立場の技術では、そのような概念の拡張は重要である。

 

また、ゴム量を10%程度にして1μm以下のサイズで分散すれば高靱性の樹脂が得られる。3年前再生PET樹脂を用いて環境対応樹脂を開発した時に動的加硫技術を使ったが、加硫剤の選択と混練温度が重要な因子だった。加硫剤としてフェノール樹脂を使用し射出成形可能で難燃剤を用いなくても(可塑剤としてリン系化合物が3%程度入っているが)UL-94V2に合格する射出成形可能なPET樹脂ができた。

 

 

*新しい混練技術を開発いたしました。関心のある方は、弊社へお問い合わせください。

カテゴリー : 一般 高分子

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