4月1日から新しい法律が施行され、高分子材料のリサイクルが促進される。そのため、高分子材料は混ぜ物ではなく単一組成が好ましい、と言われ始めた。
当方は反対に多成分高分子のポリマーアロイ技術を開発すべきと考えている。理由は、高分子はただ混ぜ合わせただけでは物性が低下するためである。
リサイクルシステムの中で単一組成の高分子を維持できれば良いが、単一組成の高分子だけで提供されている電気製品は少ない。大抵は2種以上の高分子が使用されている。
そうすると余ってくる組成が出てくる心配がある。それらはサーマルリサイクルすればよい、と言う考え方もあるが、脱二酸化炭素の観点から好ましくない。資源再利用の観点から多成分高分子のポリマーアロイ技術を開発すべきと考えている。
2成分以上のポリマーアロイで実用化されているABSあるいはPC/ABSは、組成が変化すると力学物性が大きく変化することが知られている。PC/ABSではPC含有率を80%以上にするとABSの組成が変化しても物性への影響が小さくなる。
多成分ポリマーアロイに関しては研究事例が少ないが、特許にはそのような視点の発明を見出すことができる。アカデミアの研究者がチャレンジすると面白いかもしれない。
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PETの射出成形が悪いこと、そしてそれを改良する手段があることを連続して述べてきたが、この射出成型性について、樹脂が早く固化することと勘違いしている技術者がいる。
射出成形に限らず、他の成型方法でも重要となるのは、樹脂の融体のレオロジー制御である。とりわけ温度依存性あるいは周波数依存性が重要になってくる。
PETの粘弾性について温度依存性を測定してやるとTc付近で一気に動的弾性率が高くなる。すなわち樹脂が硬化する。ゆえに硬化速度が遅いわけではない。
このような場合に何をもって遅いとするのか早いとするのか明確にしないと科学的ではないが、少なくとも実技において、成形性向上のために制御すべきはレオロジー特性の温度依存性の最適化である。
それゆえ多成分のポリマーアロイとしてレオロジーの温度依存性を制御するとともに、結晶化速度も制御している。さらに結晶化速度だけでなく多成分のポリマーアロイとしたことで結晶子サイズの制御まで行っているのだ。
このようなアイデアは教科書に書いてない非科学的アイデアだが、出来上がったコンパウンドはここに書いたような特性と機能を発揮している。非科学的アイデアだが、アイデアの根拠となる現象を多数経験している。
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結晶化速度が遅いだけならばPCのように十分に遅いと良好な射出成形体となるが、PETのそれは中途半端なのだ。ゆえに、ただ結晶化速度を制御したPETを用いて注意深く射出成形しても外観不良が起きたりする。
安定な射出成型性を得るためにはそれなりの工夫が必要である。その工夫の一つは特許出願されており、多成分ポリマーを添加してレオロジーを制御する方法である。
この方法で退職前にPET80%含む樹脂ペレットで良好な射出成形体を得ることに成功した。PETも結晶化しているが、ナノ結晶である。
しかし、このコンパウンドでもオペレーションウィンドウが狭いということで伝家の宝刀カオス混合装置を用いてコンパウンド化を行ったところ、一気にオペレーションウィンドウが20℃ほど広がった。
さらに面白いことには、成形体の様々な部分を分析しても結晶化が完了しており、さらに分析データにばらつきがみられなかった。
これまで混練のセミナーで技術の一部を公開しているが、ご興味のあるかたは問い合わせていただきたい。科学で考えていても見えてこないアイデアであり、弊社の問題解決法が必要となります。
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PETは結晶化速度が遅く、射出成形に不向きなためフィルムやブロー成型、インフレーション成形用に使用されてきた。
フィルム用途では一軸延伸や二軸延伸により結晶化を行い、それなりの腰のあるフィルムを提供できるので、印刷用写真フィルムやレントゲン写真用フィルムとして使われてきた。
最近PETを射出成形に使用したいという希望が増えている。PETは射出成形しにくいが、結晶化速度を速める添加剤を添加すれば、狭いオペレーションウィンドウながらそれなりの射出成形体が得られる。
10年ほど前に結晶化速度を速める添加剤を用いずに良好な射出成形体を得ることに成功し、電子写真用部品として実用化された。
PETボトルのリサイクル材を用いた技術で、退職後に社長賞を受賞した、と言うことで記念品のPETボトルを1ダース送られてきたのでびっくりするとともに当方のことに気遣ってくれたメンバーに感謝した。
高純度SiCの事業化ではこのような良い思い出は無いが、写真会社の早期退職では、退職日が2011年3月11日であった不運が引っ掛かる思い出だが、FDを壊されるという人為的な災害ではないのでPETボトル1ダースを受け取った時には涙が出てきた。
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昨年6月に公告となった高分子材料の環境問題に対する日本政府の回答が施行される。環境省のホームページにはRenewableと4つ目のRが示されている。
2015年に海洋ゴミの問題が世界で認識され、その30%前後が日本製だったため、日本に対する風当たりが強くなるとともに、「脱高分子」が叫ばれるようになった。
それまで、3Rが環境問題解決のキーワードとされたが、そこに新たな「R」、Refuseが加えられた。日本では、ポリエチレン製買い物袋が有料化あるいは廃止されたため、買い物袋の携帯が必須となった。
それだけではない。プラ製トレイは紙製になるなど、高分子材料排除の動きが世界の潮流となった。しかし、これが経済的にも技術的にも環境問題解決に最適な解となっていないことは明らかで、Refuseに代わる新たなRの提案を当方は環境と高分子のセミナーで訴えてきた。
今回の法律ではRenewableが4つ目のRの提案となっており、これから海洋ゴミ削減の国際ルール作りが始まるので、日本の提案がどこまで国際的に評価されるのか注目される。
実は15年以上前に名古屋市は、プラごみに関して細かい分別回収を行い、日本政府に各自治体も見習うように提案したところ、環境省からそこまでやらなくてよい、という回答が返されたので、時の河村市長が噛みついた歴史がある。
最近は金メダルに嚙みついて有名になった河村市長だが、今回の法律についても是非噛みついて頂きたい。なぜなら今回の法律では河村市長が目指された目標が単なる努力目標にされているのだ。
河村市長は軽い人物と誤解されているが、実は広い視野で先進的な思考ができる数少ない政治家である。15年以上前に明日からの法律に適合する取り組みができたのもその表れであり、河村市長の環境省への突っ込みに期待したい。
恐らく、Renewableに関しては、これまでの実績から河村市長が自治体の首長の中で最も造詣が深いと思っている。弊社に一声かけていただければ、いつでもご協力いたします。
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高分子の成形体を製造するにあたり、高分子には何らかの添加剤が混合される、と以前この欄で書いている。その時、重要となるのは混練技術である、と説明している。
混練技術とは、混ぜることと練ることの両方で高分子を変性し機能を向上する技術なのだが、その説明が難しい。難しい理由は、形式知よりも経験知の占める割合が大きいからだ。
この経験知が占める割合が大きい、ということさえ、理解していない技術者も多いので困る。原因は適当な混練機で一応コンパウンドができてしまうからである。
高機能を要求しなければ、そのように製造された適当なコンパウンドでも成形体を製造可能なので、混練技術をあまく適当に捉えることになる。
謙虚に現象を眺めれば、高機能を要求されないコンパウンドでも、十分な混練ができていないことを物性の計測から知ることができるのだが、物事を甘く考える技術者には成形体物性の評価もいい加減である。
カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子
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専門の話になるが、高分子材料は成形されて機能が発揮されるが、その時必ず成形前に添加剤が混合される。高分子合成時に必要な添加剤を加える方法もあるが多くは合成後の高分子に必要な添加剤が混合されている。
ラテックスのような低粘度の材料の処理プロセスでは溶融せずに高速攪拌可能だが、多くは高温度で一度高分子を溶融させて添加剤と混合する。
この時、練りも同時に行うと高分子の物性は改良される。練りとは、高分子1本1本の絡み合いを進めるプロセスである。加硫ゴムではこの1本1本の高分子の絡み合いが十分に行われない場合に、力学物性が極端に悪くなるので、ゴム材料を扱う技術者は練りの重要性を理解している。
しかし、圧力をかけて固める射出成形では、この練りの効果は表れにくい。練りの効果が全く現れないのではなく、樹脂材料技術者が気がつかないケースが多い。
ある射出成形技術を研究されているアカデミアの先生に研究の目標を尋ねたところ、どのようなコンパウンドでも良好な射出成形体を得る技術を確立すること、と答えられた。
しかし射出成形技術においてもコンパウンドの性能が極端に低ければどうにもならないケースは存在する。
高性能加硫ゴム材料を扱っている技術者は皆コンパウンドの混練プロセスの重要性を理解している。加硫ゴムの押出成形では、コンパウンド性能が成形体にそのまま表れるそうだ。これは樹脂の押出成形も同様である。
15年以上前になるが、半導体無端ベルトの押出成形を担当することになって自力でコンパウンド工場を半年で立ち上げた経験があることをこの欄で以前書いたが、睡眠時間を4時間以下に削って過重労働をしなければいけなかったのは、コンパウンド供給会社の技術者が混練プロセスの重要性を知らなかったからだ。
カテゴリー : 高分子
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ワイブル統計は、最弱リングモデルで導かれている。最弱リングモデルとは、製品品質の最も壊れやすいところで品質劣化が起きれば、製品の機能の寿命であるという考え方だ。
大変わかりやすいモデルで、製品の故障解析手法として普及している。また、このモデルの統計的扱いと式の導出方法は、高校の数学の知識があれば理解できるので、統計手法として易しい部類である。
ただ、セミナーを通じて感じることは、品質管理部門に比較して研究開発部門で普及していない不思議さである。そこで、弊社はこのホームページにワイブル統計のプログラムを無料公開して普及に努めている。
製品品質のデータ処理だけでなく、引張強度データについても処理を行うと、強度データのばらつき構造を整理できる。
例えば高分子材料の引張強度は、弾性率と靭性が影響するが、それ以外にサンプルの取り扱いプロセスも大きく影響する。
ワイブル統計でデータ処理を行い、傾きの大きな1本のグラフが得られれば良いが、複合型のグラフが得られたならば、弊社へご相談ください。
カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子
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昨日は成形体の電気特性がコンパウンドの電気特性に影響を受ける話を書いた。力学特性も同様である。ただし力学特性は、電気特性に比較して物性評価時におけるばらつきが大きいのでコンパウンドの影響を議論しにくい問題がある。
引張強度の測定を事例に物性評価のばらつきについて説明する。まず、物性評価時にサンプルを評価装置へ取り付けるときのばらつきが存在する。これは5人ほどに同じサンプルについて引張強度測定を実施してもらうと明らかに有意差として観察される。
測定時の注意点を細かく指導し、測定時に監視しながら実施するとそれが小さくなるか無くなるので、こうした物性評価に不向きな人がいることにも配慮する必要がある。
高偏差値の大学を出ていても精度の良い力学特性評価をできない人がいることも知っておいた方が良い。力学特性評価は、個人のスキルが出やすい項目である。
次にサンプルの形状の影響である。射出成型時の歪が形状に現れることもあれば、サンプル保管時に形状ばらつきが生じることもある。新入社員の時に当時最先端の樹脂補強ゴムを開発していた。
その時、引張強度サンプルについては測定本数よりも1本多く作成することを指導された。さらに、シートサンプルから切り出した後2日ほど静置して評価サンプルを選び出すように、とも指導された。
たいていの場合に予備の1本は無駄だったが、まれに変形していることがあった。このような場合に1本だけでなく2-3本ダメになることもあったので、予備の本数を増やした記憶が残っている。
力学特性について電気特性よりも測定技術上の問題の影響を受けることが意外と知られていない。測定技術上の問題を解決してから成形体の不均一性を評価すると成形ロットや位置の影響などを検出できる場合がある。
カテゴリー : 一般 連載 高分子
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成形体の均一性にペレットの均一性が影響を及ぼすことが意外と知られていない。高分子の混練技術の目的に成形体の均一性を実現できるコンパウンドの提供という項目があることをご存知ないコンパウンドメーカーも存在する。
これは絶縁体である高分子にカーボンなどの導電体をブレンドし半導体シートあるいは半導体ベルトを製造して平面の表面比抵抗を数点計測して確認できる。
コンパウンド段階で電気特性が均一であると、押出成形あるいはインフレーション成形を行ったときにシートなりベルトの面内の電気特性が均一となる場合が多い。
ここで、コンパウンドの電気特性が均一ならば確実に成形体で均一になるとは限らないことに注意する必要がある。パーコレーション転移という現象が起きるためだ。
すなわち、コンパウンドの電気特性を均一にしただけでは不十分で、パーコレーションが安定化されていることも要求される。
パーコレーション転移については後日説明するが、混練技術の重要性を示す現象の一つが半導体高分子の成形プロセスで起きる。半導体シートや半導体ベルトを製造するときに、コンパウンドの電気特性が不均一であると電気特性を均一化できないことを知っておいてほしい。
ただし、コンパウンドの電気特性についてどこまで均一性とパーコレーションの安定性を実現すべきかは、求められる成形体の電気特性により変化する。
コンパウンド段階で10%程度のばらつきがあっても成形体で5%程度のばらつきに抑えることも可能である。このあたりはコンパウンドの配合設計にも依存する難しい問題である。ただ、成形体の均一性に混練技術が影響することを知っておいてほしい。
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