昨日は移動時間の都合で昼食として池袋でざるそばを食べたのだが、その店のそばが絡まりすぎていて、一箸の塊が大きくなり、つるつるとリズミカルに食べることができなかった。
この蕎麦屋で、出張の際に昼食を時折食べているが、一箸の塊サイズが安定していない現象について以前より気になっていた。昨日電車の時間に余裕があり特に急いでいたわけではないが、それでもつまんだ時の大きな塊に少し焦った。
この現象は、蕎麦が乱雑に絡まっているためとわかっていたので、時間に余裕があるのを幸いに蕎麦一本を箸でつまんで遊んでみた。すると大きな塊が摘まみ上がってくることを期待したにも拘らず、きれいに一本だけするすると引っ張り上げることができたので感動した。
どこに感動したのかというと、摘まみ上げた一本の蕎麦のレプテーション的運動を観察できたからだ。高分子のレオロジーにおける現象モデルとして、土井先生が提案されたレプテーションモデルが有名だが、これは高分子が分子鎖方向に運動するモデルのことで、クリープをうまく説明できる。
試しに、うまく抜けそうなものを探し、もう一本摘まみ上げてみたところ同じようにレプテーション的運動でほどけて抜けてきた。三本ほど丁寧に繰り返したところ、蕎麦がうまくざるの上に広がった。複雑に絡み合っているかのように見えたのだが、そうではなかった。
このように複数摘まみ上げて引き抜いたところ、大きな塊とならず、うまくつるつると口の中に入ってくるようにざる蕎麦が変性された。これだけでも蕎麦の味が変わるから面白い。まるで高分子が混練プロセスで変性される様子を味で確認しているようなものだ。
混練による高分子の変性はともかくとして、たった2-3本の絡み合いが複雑になっているだけで大きな塊になる現象から、樹脂のMFR測定におけるばらつきや樹脂のレオロジーの温度分散測定、ゴムが配合が同じにも拘らずロール混練条件で異なる物性を示す現象などについて思いをめぐらした。
20年以上昔の教科書では高分子の絡み合いについてほとんど触れていない。昔ゴムの架橋モデルについて古川先生が展開されたケモレオロジーは、ご都合主義だ、と指導社員が厳しい批判をされていたが、それは土井先生のレプテーションモデルが提案される前だったので妥当な批判だった。
すなわち、ゴムの架橋はゴム分子の絡み合い構造があって、その絡み合い構造で架橋反応が進行しているモデルを考えなければいけないのだが古川先生のモデルでは絡み合い構造を無視していた。
ゴム会社のある部長が部下に命じて古川先生のモデルについて妥当性のあることを証明するための実験をしていた時代でもある。指導社員は、これを批判したわけだが、この点について機会があったら詳細をここで書きたい。
蕎麦を食べていたら40年ほど昔の記憶がよみがえった。よく噛んで食べることは認知症の予防になる、と以前TVのある番組で言っていたが、このことだろう。この腰のある絡み合った蕎麦を食べなければ思い出さないような記憶を思い出したのである。認知症予防のためには確かに食事を大切にしなければいけない。
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電池というデバイスはシステム商品である。だからその信頼性予測にはワイブル分布を用いるのが好ましい。これを理解されている方はどれだけいらっしゃるのか分からないが、Li二次電池に関わるトラブルが多い。10年ほど前に購入したMACの二次電池は、何度交換しても3年ほどで膨れてくる。
10年も同じPCを使う時代ではないかもしれないが、普段の仕事ではWindowsの走るPCを使っており、MACは、プログラムのテスト用である。MACはユニックス系のOSなので、プログラム言語やツールを無償で入手できる便利さがある。
PCでシステム(プログラム)開発をしようと思ったらMACやLINUXは大変低コストでできる。Windows環境におけるコストの高さが目立つが、今日は電池のシステムについて書く。
ボーイング社のLi二次電池の事故は記憶に新しいが、あれはアクシデントではなくインシデントだという。航空機業界に詳しい友人が指摘してくれたが、航空機業界ではアクシデントとインシデントを厳密に分けるのだそうだ。
Li二次電池のインシデントについては、当時たくさんあったという。ただインシデントだったので表に出ていないものもあるという。怖い話である。航空機の電池については、多数の予備バッテリーが積載されているので、一フライトで電池の二つや三つに異常があっても問題ないという。
航空機業界では電池というものが信頼性の低いデバイスであるという認識が定着しているようだ。たしか10年以上前は、Li二次電池を3個程度カバンに入れていても問題とならなかったが、今はLi二次電池だけ複数カバンに入れていると荷物検査に引っかかる。それだけLi二次電池の信頼性が低く見られているわけだ。
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高分子の混練は、混練したいゴムや樹脂が発生する剪断流動と伸長流動により進行する。ところがゴム業界と樹脂業界で混練に対する考え方が異なっていることを知らない技術者は多い。当方はゴム業界の考え方が妥当と思っているが、樹脂業界の技術者は自分たちの考え方が正しい、と信じている人もいるから問題が発生したときの議論が難しい。
まず、ゴムがTg以上Tm以下の領域で混練されていることを樹脂技術者は知らない。ゴムはバンバリーとロールで混練されるが、その混練時間もまちまちで、30分近くゴムのコンパウンドをロール混練することもある。樹脂よりも丁寧に混練している。
以前、パルプとポリエチレンとを混練したが、二軸押出機で混練した場合とロール混練した場合ではその物性が大きく異なった。ロール混練した場合にはポリスチレン並みの樹脂になったが、二軸混練機で混練した場合にはポリエチレンよりも物性が悪く臭かった。
ロール混練では異臭の問題を解決できたが二軸混練機を使った場合には臭くて臭くて改良する気も無くなった。へは5分もすれば匂いが無くなるが、この時の匂いは、なかなか取れないだけでなく、体にも匂いがついた。
痴漢として疑われるのも迷惑だが、異臭のため電車の中でじろじろと見られたのは嫌だった。この時ほどはやくテーマを辞めたいと思ったことは無い。だから二軸混練機にはあまり良い印象を持っていない。
だから、二軸混練機についてどうしても批判的な視点で見てしまう。ただこの偏見のおかげで13年前にカオス混合機を発明することができた。二軸混練機だけでは問題解決できない、とテーマを担当した時にすぐ決断できたからである。
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混練は剪断流動と伸長流動で進行する。これは混練を考えるときの基本である。このとき教科書の説明で信じてはいけないのが、剪断流動では分散粒径に限界があるので、伸長流動を用いなければナノオーダーまでの分散ができないとするキャピラリー数を用いた実験結果である。
2000年に推進された精密制御高分子プロジェクトでもこの点に果敢に挑戦した研究者がいる。産総研の研究者は、1000rpm以上で高分子を混練可能な混練機を設計開発した。その装置で実験を行ったところ、剪断流動でもナノオーダーまで混練できたのだ。
残念ながらその混練機は量産機に展開できない構造で、あくまで実験機だったが、剪断流動に分散粒径の限界が存在するとした従来の説を否定できたのは評価すべきである。
もっとも何も考えず二軸混練機を使っていると教科書に書かれた内容に納得できる結果しか得られない。山形大学の研究者による剪断力を高める混練方法が特許として公開されているが、この特許に注目すると、剪断流動の可能性を広げることができる。
当方はこの技術を剪断混練と呼んでいるが、高分子学会賞の審査会では分子の断裂が起きてダメだ、と笑われた。混練技術を実務として経験していなくて耳学問だけと思われた審査員の発言だが、その指摘を受けてから高分子を剪断混練したときに分子量分布を測定してみたが、決して分子量低下はしていなかった。
世の中にはステレオタイプ的な思考で新しい考え方や教科書に反した考え方をすぐに否定する人がいる。このような人は今回の本庶先生の受賞時の言葉をどのように批判するのだろうか。
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シリコーンゴムにはミラブルタイプとLIMSの2種類のゴムが存在する。ミラブルタイプは、通常のゴムと同じように高分子量のゴム分子を架橋して得られる。
LIMSによるゴムは、低分子量のシリコーンを重合しながら同時に架橋を進めて製造される。ゆえにLIMSのメーカーが異なるとできあがるゴムの構造は一次構造が大きく異なっている。
すなわちLIMSでは液状のシリコーンを用いるのでフィラーを添加しても高粘度とならず、注型による成形が可能となる。
しかしミラブルタイプは高分子量のゴムを用いるので、一般の架橋ゴムと同様に金型に入れてプレス成形を用いて製品となる。
このプロセシングの違いが生産性に影響する。ゴムの物性を問わなければ、一般にLIMS成形品のほうが低価格となる。
ところで困るのはLIMSについてシリコーンメーカーによりその設計思想が異なる点である。信越化学は、二官能のシリコーンと架橋剤でゴムとなるように設計している。
しかし他の2社は、三官能のシリコーンを用いて架橋もそれにゆだねている。教科書に即して考えると信越化学の設計に軍配があがるが、製造時の品質安定性という指標でみると他の2社に軍配があがる。
信越化学の製品が劣っているのかというとそうではなく、用途により最適なLIMSメーカーが存在する、という書き方で本日はお茶を濁す。LIMSの成形技術で困っている方はご相談ください。
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高分子の混練をなぜ行うのか真剣に考えてみた。混合目的でなくても一組成の高分子を混練しても意味があるのか、とまず考えて、光学用ポリオレフィン樹脂だけを混練してみた。
写真会社で、倉庫だった場所を改造した部屋が居室になった時である。丁寧に両袖机が窓際に置かれた。何をやっていてもよいと言われたので、ゴム会社の新入社員時代に学んだ混練の技術についてまとめてみようと思った。
フィルム技術は、写真会社に技術者や職人が余っている状態なので誰かがまとめるだろう。しかし、混練技術は、基盤技術も無ければ知っている人は当方しかいない。
ゴム会社ではセラミックスを担当していたので高分子材料技術の担当となる会社を転職先として選んだ。そのような気配りのためゴム会社の元役員にご相談したら、20年以上前の技術なので転職先で扱っても問題にならない、と言われた。確かに20年とは二昔であり、ゴム会社の混練技術も相当進んでいるはずだ。
そのときカモがネギしょって部屋に訪ねてきた、と言っては失礼になるかもしれないが、まさにそのようなタイミングよく相談の内容も至れり尽くせりの訪問だった。詳細な内容は少し差し支えるので省略するが、光学用樹脂の改良を相談されたのである。
写真会社には混練装置が無いので、試験用混練装置でよいから一式そろえてくれたらテーマを担当してもよい、と答えたら鍋から調味料まで一式用意してくれた。
この試験用混練装置で光学用樹脂だけを混錬したら驚くべき結果となった。これは当時学会でも発表しているのでここに書くが、部分自由体積の量が混練時間とともに減少するのだ。
そしてもっと驚かなければいけないのは、それが減少し安定化するのに30分程度かかるのである。一般のL/Dが40や50程度の二軸混練機では材料を投入してから出てくるまで3-5分程度である。
バンバリーでゴムを練る時なんかは3分程度である。すなわち部分自由体積の量が安定化するまで一般の混練プロセスでは、高分子を混練していないことになる。指導社員がロール混練を重視していた意味をよく理解できた。
この実験結果が頭にあったので、中間転写ベルトを開発していた時に、ペレットの一粒一粒の密度ばらつきを計測してみたら、大きくばらついていた。
この結果にはカーボンの添加量のばらつきも含まれているので、熱重量分析でカーボン量のばらつきを求めてみたらそれよりも大きくばらついていたのだ。
50歳前後のサラリーマンが窓際の席になり、時間を持て余す話はよくあるが、その後、この時ボーっと考えてみようと思っていた問題で忙しくなった。そして退職までの仕事は、それを特に希望していたわけではないが、混練が中心の仕事になっていった。
しかも、考える時間など無くなり、樹脂補強ゴムを開発していた時の様な本能的な仕事の進め方で肉体作業の連続のまま退職を迎えた。退職後は中国ナノポリスで窓際で考えたシナリオに基づき研究を進めた。中国で研究しなければいけなかったのは、日本で政府の補助金事業に応募しても何度も落ちたからである。
当方は重要だと思っているが混練など日本では必要のない技術と思われているのだろう。自信は無いが、この退職後6年間得られた成果から見ると、このような見識は間違っているのかもしれない。
しかし、自信のないことを積極的に提案するつもりは、もうないのでせめてセミナーや講演会だけでも活用して日本に貢献しようと努力している。来年には混練技術に関する書籍を出版する。
何も考えず肉体労働で仕事をやっていて少しある種の恐怖感を覚えたのは、新入社員時代の指導社員との会話で出てきたカオス混合を指導社員の期待通りに試行錯誤で実現できたことである。
30年前に現在の自分の姿を予測していたかのような感覚になると同時に、30年前の何もわからず指導社員に言われたまま活動していた時の記憶が鮮明に甦ったかのようだった。
また、当方がゴム会社でたった3ケ月しか担当しなかった混練技術について、もし、まとめようとしなかったなら、中間転写ベルトや環境対応樹脂など迅速に市場へ出せなかったかもしれないので、今から思い出しても不思議な体験である。
また、単身赴任中はよく徹夜をして過重労働を自らかして仕事をしていたので、正真正銘夢の中で仕事をしていたような気分である。
人生とは常に前向きに、そして腐ることなくチャレンジしてゆく姿勢が大切だと思った。また、どうしたら良いかわからなくなったなら、過去の成功体験を思い出してみるとよいかもしれない。すなわち温故知新である。
何か役に立つヒントをそこで見つけるはずで、若いときの厭世的な白日夢と異なり年寄りのそれは生きるための活力を求めるという意味で建設的である。
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本庶先生に触発されたわけではないが、教科書を疑うことの必要を少し連載で述べてみたい。まず、高分子の混練技術について良い本が無い、というのが正直な感想である。設備屋により書かれた書物には二軸混練の実務で誤りを犯す危険のある書籍も存在する。また、間違いと言ってもよいようなことまで書いてある。
すなわちこれは実務に使えない教科書だ。そのような教科書の内容で頭がいっぱいになった技術者と議論し、らちが明かないので結局自分で混練のあるべき姿を追求し、数か月で二軸混練のプラントを稼働させて、中間転写ベルトの押出成形技術を開発した話を以前書いている。
この時二軸混練機を使うのは初体験のことであり、スクリューのセグメントを自由に取り換えることができることを知り感動している。なぜなら前任者から引き継いだ押出機ではスクリューは一本の金属棒からの削り出しで作られていたからだ。
前任者は長年押出成形だけを開発しており、スクリューの構造については自信を持っておられた。この前任者のすすめてきた開発方針をすべて見直し、中間転写ベルトの押出成形を成功させたい、それを実現するためには自分のできることだけでなくあらゆる可能性も含め何をやらなければいけないかを真摯に考えた。
その結果世の中のコンパウンド技術が教科書通りに発展しているので、それでは技術開発の成功は無いと判断し、外部のコンパウンダーに技術コンセプトの変更をお願いしたら「素人は黙っとれ」と言われた。
そこで、コンパウンドを外部から購入し、成形技術だけを開発していたスタイルをやめて、コンパウンド開発から成形技術開発まですべて行うスタイルに変更したのだ。
開発期間が1年もない中で、これは勇気のいることだが、ゴム会社の指導社員から指導された哲学、「混練はこのようにすべき」、という強い思いがあったからできたことだ。
これは自信ではない。ゴム会社の指導社員の哲学とその知識を信じての決断である。相撲道を追及して相撲協会を飛び出した貴乃花親方には及ばないが、ゴム会社の指導社員が目指していた混練道を少しこの欄で書いてみたい。
そもそも現在の二軸混練機は、豚肉や牛肉の加工機を元に発展してきた装置であることを知っておいてほしい。すなわち高分子のあるべき姿を追求して考え出された装置ではないということだ。
高分子に添加剤を混ぜるのによい機械が無いかと探したら、ミンチを大量生産している良い機械があったのでそれを改良して作り出されたのが二軸混練機である。
ハンバーガー程度であれば多少の混練機の違いで味が変わることは無いが、高分子のブレンドは、スクリューセグメントも同じで同じ型番の二軸混練機を用いても、レオロジー特性を評価すると異なる場合が出てくる微妙な技術である。
繊細な感覚の持ち主でなければわからない、というものではなく、射出成形体のばらつきとなって現れるから、誰でも気が着くはずだ。誤った内容が書かれた教科書で頭が満たされた技術者には、頭の中の知識でその感覚を阻害されたりする。頭の中が空っぽだった当方は混練技術者との議論の内容のおかしさにすぐ反応できた。
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ポリフェニレンサルファイド(PPS)は、本格的な普及が始まった材料でkg単価1500円という価格も見えてきた。10年前には2000円以上で販売されていたのでこれは驚くべきことである。
PPSにはリニアタイプと架橋タイプがあり、最初に登場したのはシェブロンフィリップスの開発した架橋タイプのPPSである。ただし架橋タイプのPPSは分子量が低いのでガラス繊維などと複合化して射出成形体に用いられた。
安価なガラス繊維と複合化するので、kg単価は希釈効果で700円前後まで下がった射出成型用PPSというものも存在する。
架橋タイプは射出成型用以外に用いることができないので押出成形も可能なリニアタイプと呼ばれる高分子量のPPSも遅れて開発された。2005年に押出成形で中間転写ベルトを開発しているが、この時用いたのはリニアタイプのPPSである。
メーカーの技術者からも架橋タイプでは押出成形や繊維を作ることはできない、と言われたのでそれを信じていたが、驚くべきことに当方が開発した二つの技術を合わせると架橋タイプのPPSでも繊維化ができたのだ。
架橋タイプのPPSは分子量が低いために繊維化が難しいはずだが、どうもコンパウンディングの段階で**になっているようだ。**にご興味のある方は問い合わせていただきたいが、この現象以外に驚くべきことがいくつかこの7年間にPPSという材料で見つかった。
面白いのは国内のあるPPSメーカーで実験したところそれがうまく再現できないのだ。しかし、当方が指導している中国のローカルメーカではそれが生産レベルにあり、あるローカル射出成型メーカーの商品に採用されている。
日本のメーカーでうまくいっていない理由は、当方の指導を受けていないためだが、それだけではない。自分たちの技術を過信している可能性がある。
PPSに限らず他の樹脂でも教科書に書かれていない現象が見つかっており、技術に対する認識の違いが材料の新たな現象発見の力になっているようにも見える。技術の過信は禁物である。
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イノベーションを起こそうとするときに、どのような概念で目の前の事象を整理するのかは重要である。すなわち新しい概念を考案すれば、それにより対峙している事象を変革できる新たなアイデアが自然とにじみ出てくる。
例えば、SiCをセラミックスという概念ではなく、高分子という概念で捉えれば、自然にシリコーンと有機高分子とのコポリマーというアイデアが生まれ、フェノール樹脂とエチルシリケートのリアクティブブレンド技術でイノベーションを起こしたくなる。
この概念を展開した作文をゴム会社で募集された創立50周年記念論文に投稿したところ佳作にも選ばれなかった(注)。面白いのは審査員は当時タレント教授として著名だったW大学の教授だが、この教授に全く受けなかったことになる。
もっともこのタレント教授は、豚と牛を掛け合わせてトンギューなる生物を生み出し、豚の繁殖力と牛肉の旨味を持った肉の生産事業を一席に選ぶような眼力を持った人物だった(この教授の選んだ一席を一席として発表したゴム会社もすごい。)。ベタコピーの学位論文を通過させたり、その修正版を落第させたりする教授もW大学だからW大学とはそのような大学かもしれない。
これは歴史におけるアカデミアの活動結果からアカデミアなるものがどのようなものなのか、という概念が具現化されてきた様子かもしれないが、日本の大学が世界ランク上位からどんどん落ちてきている事象では、日本の大学について概念を変えない限りその歯止めがかからないような気がする。
概念はコンセプトと英訳されたりするが、「生み出す」とか「妊娠」から派生した単語であるとの説明がカッパブックス「英単語の語源」に書かれている。この説明によれば、イノベーションで新たなものを生み出すために概念が重要なのは昔から分かっていたのかもしれない。
(注)佳作にも選ばれなかったが、この時論文に書いたエチルシリケートとフェノール樹脂から合成されたSiCの事業は、現在も続いている。夢は一時認められなくてもあきらめないことである。審査の対象レベルより評価者の能力が低い場合もある、ぐらいに考えて機会を探し再チャレンジすればよい。反省は大切だが、反省により意欲を失わないようにしなければいけない。腐るのは論外である。
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高分子の分類について学生時代にはその重合様式で分類する方法が授業で採用されていた。すなわち高分子には合成高分子と天然高分子があり、合成高分子はこのような反応でできる結合で分類される、という説明がなされていた。
大学院に進学し、ホライデー著「Ionic Polymer」を読んで衝撃を受けた。高分子は有機高分子と合成無機高分子、無機網目化合物に分かれるとしたその分類方法は大雑把であるが、主鎖を構成する原子の特徴に着目した分類であり、高分子の特徴をよく表している。
この分類を発展させれば、球晶を形成する高分子と形成しない高分子がその下位のカテゴリーになるのかもしれないが、残念ながら1970年代は、まだそこまで高分子結晶について学問が進んでいなかった。
同様の時期に、「工業化学」という雑誌にガラス転移点(Tg)に着目した高分子の分類が載っていた。すなわち、室温以下のTgを示すものがゴムであり、室温以上のTgを示す高分子は樹脂である、という分類である。
この分類に従うとポリエチレンはゴムに分類されるが、シリコーンレジンの大半もゴムとなる。分類上はゴムなのに樹脂と呼ばれるのは何故だ、という突っ込みたくなる分類であるが、実務上はわかりやすい分類である。
ちなみにこの分類で、TPEはゴムと樹脂のコポリマーと説明され、両者を含む形で中間を占めていた。ご存知のようにTPEは当時すでに樹脂補強ゴムやPUが登場しており、ゴムと樹脂のコポリマーだけではなかった。
だから、ここまで説明されると、この分類もボロが出てくる。ホライデーがざっくりと3分類でやめた事情とはいささか異なり、この分類を考えた人は高分子を理解しているのか、という疑問を持ちたくなる。
2000年ごろ、高分子精密制御プロジェクトという国研が推進されたときに、スケールから整理した高分子の分類が示されていた。やや複雑であったが、高分子をうまく分類整理できていた。
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