フェノール樹脂とポリエチルシリケートとを混合すると均一に混ざらず、混合をやめればすぐに相分離する。40年ほど前に初めて実験を行ったとき、うまくいかないと思っていても、どの程度難しいのか確認するために何度もチャレンジした。その時、酸もしくはアルカリ触媒を添加すると均一になりそうな感触をつかんだ。
しかし、そのときは、反応条件について予測を建てることが出来なくて両者の反応バランスをとることは難しく、均一で透明な前駆体を得られなかった。ポリエチルシリケートが酸触媒やアルカリ触媒で加水分解する反応速度について、すでに論文が出ていたが、フェノール樹脂との反応については全く情報が無い未知の領域だったからである。
このような場合の問題解決には、試行錯誤が重要になる。理論物理の分野と異なり、化学という学問の源は錬金術である。また、試行錯誤のよいところは、多少の頭の良し悪しはその実施において関係なく、運あるいは根性があれば、ゴールが必ず存在する問題では、何とかゴールにたどり着けることだ。
フェノール樹脂とポリエチルシリケートの反応について根気よく実験しようと思い立ったのは、この試行錯誤の特徴を知っていたからだ。また、フェノール樹脂のゲル化に関する反応速度について不完全ではあるが、すでに論文が出ていた。
その論文を読めば両者の反応バランスをとれそうなことは、頭が少し良い人ならばすぐに予想でき、これが試行錯誤を少し行えば解決できそうな問題であることに気がついたはずである。
ところが、この組み合わせについて実験する人が当時まったくいなかったのは、フローリー・ハギンズ理論の存在である。この理論からこの両者を混合すると不均一になるか、あるいは全く混合できないのかどちらかであることが、少し高分子を勉強した人ならば予想でき、仮に反応速度のバランスをとれば問題解決できそうだと予想されても、失敗した状態が優先的に見えてくるためだ。
すなわち、勉強がずば抜けて出来たり頭がよければ、実験の結果について科学的に想像できて、ますますこの組み合わせの検討などする意欲は無くなる。たとえ高純度SiCの前駆体として経済的に最良の技術と分かっていてもチャレンジなどしなくなる。
実際に当時の特許には、ポリエチルシリケートとカーボンの組み合わせや、フェノール樹脂とシリカの組み合わせに関する発明がいくつか特許として出願されていたが、ポリエチルシリケートとフェノール樹脂の組み合わせ特許は一件も無かった。
すでに出願されていた特許の中には、フェノール樹脂とポリエチルシリケートとをうまく混合できないからどちらかを微粒子にしなければいけない、と明確に書いてある特許も存在した。すなわち、フェノール樹脂とポリエチルシリケートの分子レベルで均一混合された前駆体は、発明そのものが科学の視点で実施不可能な対象だった。
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高分子の自由体積部分では、そこに存在する高分子の主鎖の一部、あるいは側鎖基、その一部分は、活発に運動している。
回転運動や屈伸運動様々な動きが観察される。このことは教科書に書かれているが、もう一つレプテーション的な運動は、今書店で販売されている教科書のどこにも書かれていない。
レプテーションとは、高分子の主鎖の方向の運動で、OCTA開発で有名な土井先生が発案されたモデルである。すなわち、ウナギを50匹ぐらいバケツに入れた状態を夢想していただきたい。その時観察されるウナギの動きがレプテーション的運動となる。
このレプテーション的運動は、Tg以下においても大変ゆっくりとした速度で自由体積部分でなくても行われている(と思われる)。だから、球晶の成長や射出成形体の変形、樹脂消しゴムがPS製ケースと接着する現象なども起きるのだ。
10年以上前にPPSと6ナイロンをカオス混合装置で相溶させて透明なストランドを作った。記念に退職後も持っていたが、ある日それを見て驚いた。白濁していたのだ。
そして透明感のある白濁から真っ白へ変わっていった。およそ10年かけてスピノーダル分解を起こし、相分離してしまったのだ。室温でこのようなことが起きるかもしれないと思っていても、実際に起きてみるとびっくりする。
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光学用ポリオレフィン樹脂を射出成型すると、非晶質の成形体が得られる。無機ガラスならば全体は密度が均一なガラス状態である。
ところが高分子のガラスでは、自由体積と呼ばれる、分子運動が可能な空間が存在する。
すなわち、高分子のガラス相には、分子運動が凍結されている構造部分と、室温でもぴくぴくあるいはぶんぶんと、分子の一部が動ける自由体積部分との二つが存在する。
20世紀に高分子結晶に関する科学が著しく進歩し(注)、球晶の中にも非晶質部分の存在することが分かってきた。無機の結晶子に相当するのはラメラであるが、このラメラの生成の様子もわかってきた。
すなわち、光学用ポリオレフィン樹脂に限らず高分子の構造では、室温ですべての運動が凍結されているのではなく、自由体積部分のように分子運動が活発に行われている部分が存在する。
(注)当方が学生の頃、新規高分子合成が研究の花形であったが、高分子結晶に関する研究は盛んにになりつつあった。ゆえに授業では、シシカバブが出てきても球晶の詳細については講師から説明が無かった。また講師がシシカバブの名前の由来を御存じなかった時代でもある。ゆえに社会人になって学会に出かけその進歩の様子を見ていてアカデミアの活躍に圧倒された。もっとも企業ではおいそれと研究発表の許可が出なかっただけかもしれない。
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高分子量のポリオレフィン樹脂の一分子が、室温で空気中に浮いていることは無く、樹脂として何かの形になっている。例えばポリエチレン袋やアペルやゼオネックスの様なポリオレフィン樹脂レンズである。
ここで面白いのはポリエチレンは結晶性樹脂として知られているが、アペルやゼオネックスは非晶性樹脂と言われている。後者は嘘である。15年以上前にゼオネックスやアペルを結晶化させた経験があるからだ。
すなわちアペルやゼオネックスは結晶性樹脂である。これらは、側鎖基に嵩高い分子構造の基をくっつけて結晶化しにくくしているだけである。それがわかると結晶化させることが可能となる。
カタログには結晶性樹脂と本当は記載すべきであるが、射出成形では結晶化しにくいので問題になっていない。呼び名は問題になっていないが、この樹脂が非晶性樹脂と信じていると、レンズの射出成型で問題が起きたときに原因がわからなくなる。
さて、レンズ用ポリオレフィン樹脂では、全体が非晶質となっていることを信じ、高分子鎖1本がどのようになっているのか夢想してみよう。
高分子の非晶質体はすべてTgを有するのでガラスである。面白いのは無機ガラスと異なり、全体を細かく区切って部分部分の密度を比較すると、大変大きな密度差が観察される。
この時最も低密度の部分は自由体積と呼ばれ、その部分には、ガラス状態でも分子運動が行われている。すなわち、成形体全体はガラス化され運動が凍結されているが、自由体積と呼ばれるところでは、高分子の一部がそこに存在すると運動できる空間があるおかげで、分子運動が可能となる。
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原子では一個の玉を想定して、室温において高速で飛び回っている運動だけを考えればよい。球が自転していたりする運動をここでは無視しているが、それは飛び回ることで衝突したりして費やされるエネルギーの方が大きいだろうから、誤差として扱うこともできる。
ところが分子では、飛び回っている運動と分子を構成する原子の回転運動を原子のように扱えない場合も出てくる。これは、分子がいくつの原子でできているのか、分子の形はどうなのか、原子がどのような結合でつながり分子となっているかなどいろいろ考えなければいけないからである。
これは人間でも同じで、独身であれば一人の世界で何かしていても問題とならないが、夫婦という関係ができたとたんに一人の世界が壊滅状態になる夫婦生活もあれば、ある程度の一人の世界が許容される夫婦関係もある。子供ができればこの関係も変わる。
夫婦の片方が大変活性な運動をしている場合もある。夫婦の関係では不倫となるが、相手が独身の立場では訴えられない限り問題は起きない。原子と分子の夢想をこのように行うと話が進みづらくなるが、似ているところもある。
化学反応など一定のルールの中での結合形成である。科学的ではない反応が起きた場合など化学だけでなく物理も動員して考えなければ新たなルールを生み出せない。LGBTの問題は少し似たようなところがある。
さて、高分子は炭素原子が大量につながった構造をしている。1本の手、σ結合だけでつながっている高分子をポリオレフィンと呼んでいるが、このポリオレフィンにおいて炭素原子は、室温に相当するエネルギーでくるくる回転している。
その回転に合わせてσ結合が振り回されるから、もしポリオレフィン分子1本が空気中に浮いていたならば、ものすごい状態で動いている様子を観察できるだろう。但しこれは少し不気味で気持ち悪いかもしれない。粗視化モデルで温度を下げると異なる世界が見えてくる。
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あらゆる原子や分子は、その原子や分子のすぐ近くで測定された温度に相当する熱エネルギーで運動をしている。すなわち熱エネルギーを受けてそれを運動エネルギーに変えている、あるいは原子や分子は絶対零度であれば安心して寝ていることができる、というのが分子運動論の考え方である。
ここで温度は強度因子であり、エネルギーは容量因子なので、単純に測定温度からエネルギー量を決めることができない。測定温度からその空間のエネルギー量を決めることができるのは、平衡になっているときだけである。すなわち、25℃と計測されたときに、平衡状態となっていない酸素分子は必ずしも25℃ではないのだ。
26℃の酸素もおれば、20℃の酸素もいる。この温度とエネルギーの関係について専門家でも勘違いされている方がいるので気を付けたい。ここを正しく理解しておかないと、Tg以下でもスピノーダル分解が起きたり、クリープが起きたりする現象を理解できない。
さて、高分子はこの熱エネルギーによる運動をどのように行っているのか。これを夢想すると少し笑える。思い描く世界によっては艶美な風景となったり、エッチ恋(レン)だったりする。ここでは、それぞれの趣味で高分子を頭に浮かべてほしい。
まず、教科書には、溶融温度(Tm)以上で高分子は流動性を示す、と書いてあったりするが、ガラス転移点(Tg)以上でも以下でも夢想世界では時間軸を変えて高分子の流動性を描くことができる。すると教科書の記述はこれでよいのか、という疑問が出てきたりする。
大した話ではないが、難解な高分子物理の論文と格闘するよりも、物理化学の教科書の最初のページに出てくる形式知だけでも頭の中で楽しめるので、明日もこの奇妙な話を書く。
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9月は台湾ITRIからの依頼で講演会がありましたが、国内の参加者はいらっしゃらないと思い、案内を掲載しませんでした。10月には下記3件の講演会が開催されますのでご案内いたします。参加ご希望の方はお問い合わせください。また、弊社にて特別価格で行うセミナーもございますのでお問い合わせください。例えば高分子の専門外の方が高分子について学ぶ特別少人数セミナーを弊社事務所で休日の午後を利用して安価(15000円/1名、基礎の基礎編は時間が短く10000円です。)に開催しておりますのでお問い合わせください。このほかの技術セミナー(料金は内容により異なります)についても随時受け付けておりますのでお問い合わせください。
1.テーマ:リチウムイオン電池の信頼性向上・難燃化技術
開催日時:2018年10月9日(火)10:30~16:30
会 場:ちよだプラットフォームスクウェア 5F 503
(終了しました。来年1月ころにもセミナーが企画されています)
2.テーマ:プラスチック/ゴムの劣化・破壊メカニズムとその事例および寿命予測法
開催日時:2018年10月19日(火)10:30~17:30
会 場:日本テクノセンター研修室
参 加 費:48,600円(税込) ※ 資料代含
3.KRIワークショップ’18
2018年10月24日京都リサーチパークで開催されますが詳細は直接KRIへお尋ねください。本件につきましては弊社で受付できません。
以上
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昨日は移動時間の都合で昼食として池袋でざるそばを食べたのだが、その店のそばが絡まりすぎていて、一箸の塊が大きくなり、つるつるとリズミカルに食べることができなかった。
この蕎麦屋で、出張の際に昼食を時折食べているが、一箸の塊サイズが安定していない現象について以前より気になっていた。昨日電車の時間に余裕があり特に急いでいたわけではないが、それでもつまんだ時の大きな塊に少し焦った。
この現象は、蕎麦が乱雑に絡まっているためとわかっていたので、時間に余裕があるのを幸いに蕎麦一本を箸でつまんで遊んでみた。すると大きな塊が摘まみ上がってくることを期待したにも拘らず、きれいに一本だけするすると引っ張り上げることができたので感動した。
どこに感動したのかというと、摘まみ上げた一本の蕎麦のレプテーション的運動を観察できたからだ。高分子のレオロジーにおける現象モデルとして、土井先生が提案されたレプテーションモデルが有名だが、これは高分子が分子鎖方向に運動するモデルのことで、クリープをうまく説明できる。
試しに、うまく抜けそうなものを探し、もう一本摘まみ上げてみたところ同じようにレプテーション的運動でほどけて抜けてきた。三本ほど丁寧に繰り返したところ、蕎麦がうまくざるの上に広がった。複雑に絡み合っているかのように見えたのだが、そうではなかった。
このように複数摘まみ上げて引き抜いたところ、大きな塊とならず、うまくつるつると口の中に入ってくるようにざる蕎麦が変性された。これだけでも蕎麦の味が変わるから面白い。まるで高分子が混練プロセスで変性される様子を味で確認しているようなものだ。
混練による高分子の変性はともかくとして、たった2-3本の絡み合いが複雑になっているだけで大きな塊になる現象から、樹脂のMFR測定におけるばらつきや樹脂のレオロジーの温度分散測定、ゴムが配合が同じにも拘らずロール混練条件で異なる物性を示す現象などについて思いをめぐらした。
20年以上昔の教科書では高分子の絡み合いについてほとんど触れていない。昔ゴムの架橋モデルについて古川先生が展開されたケモレオロジーは、ご都合主義だ、と指導社員が厳しい批判をされていたが、それは土井先生のレプテーションモデルが提案される前だったので妥当な批判だった。
すなわち、ゴムの架橋はゴム分子の絡み合い構造があって、その絡み合い構造で架橋反応が進行しているモデルを考えなければいけないのだが古川先生のモデルでは絡み合い構造を無視していた。
ゴム会社のある部長が部下に命じて古川先生のモデルについて妥当性のあることを証明するための実験をしていた時代でもある。指導社員は、これを批判したわけだが、この点について機会があったら詳細をここで書きたい。
蕎麦を食べていたら40年ほど昔の記憶がよみがえった。よく噛んで食べることは認知症の予防になる、と以前TVのある番組で言っていたが、このことだろう。この腰のある絡み合った蕎麦を食べなければ思い出さないような記憶を思い出したのである。認知症予防のためには確かに食事を大切にしなければいけない。
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電池というデバイスはシステム商品である。だからその信頼性予測にはワイブル分布を用いるのが好ましい。これを理解されている方はどれだけいらっしゃるのか分からないが、Li二次電池に関わるトラブルが多い。10年ほど前に購入したMACの二次電池は、何度交換しても3年ほどで膨れてくる。
10年も同じPCを使う時代ではないかもしれないが、普段の仕事ではWindowsの走るPCを使っており、MACは、プログラムのテスト用である。MACはユニックス系のOSなので、プログラム言語やツールを無償で入手できる便利さがある。
PCでシステム(プログラム)開発をしようと思ったらMACやLINUXは大変低コストでできる。Windows環境におけるコストの高さが目立つが、今日は電池のシステムについて書く。
ボーイング社のLi二次電池の事故は記憶に新しいが、あれはアクシデントではなくインシデントだという。航空機業界に詳しい友人が指摘してくれたが、航空機業界ではアクシデントとインシデントを厳密に分けるのだそうだ。
Li二次電池のインシデントについては、当時たくさんあったという。ただインシデントだったので表に出ていないものもあるという。怖い話である。航空機の電池については、多数の予備バッテリーが積載されているので、一フライトで電池の二つや三つに異常があっても問題ないという。
航空機業界では電池というものが信頼性の低いデバイスであるという認識が定着しているようだ。たしか10年以上前は、Li二次電池を3個程度カバンに入れていても問題とならなかったが、今はLi二次電池だけ複数カバンに入れていると荷物検査に引っかかる。それだけLi二次電池の信頼性が低く見られているわけだ。
カテゴリー : 電気/電子材料 高分子
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高分子の混練は、混練したいゴムや樹脂が発生する剪断流動と伸長流動により進行する。ところがゴム業界と樹脂業界で混練に対する考え方が異なっていることを知らない技術者は多い。当方はゴム業界の考え方が妥当と思っているが、樹脂業界の技術者は自分たちの考え方が正しい、と信じている人もいるから問題が発生したときの議論が難しい。
まず、ゴムがTg以上Tm以下の領域で混練されていることを樹脂技術者は知らない。ゴムはバンバリーとロールで混練されるが、その混練時間もまちまちで、30分近くゴムのコンパウンドをロール混練することもある。樹脂よりも丁寧に混練している。
以前、パルプとポリエチレンとを混練したが、二軸押出機で混練した場合とロール混練した場合ではその物性が大きく異なった。ロール混練した場合にはポリスチレン並みの樹脂になったが、二軸混練機で混練した場合にはポリエチレンよりも物性が悪く臭かった。
ロール混練では異臭の問題を解決できたが二軸混練機を使った場合には臭くて臭くて改良する気も無くなった。へは5分もすれば匂いが無くなるが、この時の匂いは、なかなか取れないだけでなく、体にも匂いがついた。
痴漢として疑われるのも迷惑だが、異臭のため電車の中でじろじろと見られたのは嫌だった。この時ほどはやくテーマを辞めたいと思ったことは無い。だから二軸混練機にはあまり良い印象を持っていない。
だから、二軸混練機についてどうしても批判的な視点で見てしまう。ただこの偏見のおかげで13年前にカオス混合機を発明することができた。二軸混練機だけでは問題解決できない、とテーマを担当した時にすぐ決断できたからである。
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