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2018.06/15 知識(6)

カオス混合装置の開発経緯について活動報告で書いているが、一番の決め手になったのは、単身赴任前に自分で担当することになる中間転写ベルトの押出工程を見学した時の出来事である。

 

この見学の時に、半年後に生産フェーズに入るため配合処方を変えてはいけないことを事前に聞いていた。そのためPPS/6ナイロン/カーボンの単純な処方以外の改良でベルトの面内抵抗を安定にしなければいけない極めて難しい、形式知だけで考えればほとんどゴールの実現が不可能なテーマであることを理解していた。

 

当時の研究部門の管理者は、全員この仕事が失敗すると判断しており、研究所が担当していたベルトの表面処理技術開発に戦力がさかれていなかった。

 

ちょうど窓際の立場だったので時間は豊富にあり、事前に自分が持っている経験知と世間で知られていた形式知を十分に整理できていた。その結果、暗黙知も経験知にいくつかぶら下がるような形で頭の中で蠢いていた。

 

たまたま押出工程を見学していて、現場の作業が終了になり片付け作業に移った時である。工場の騒音のトーンが金属音から鈍い音に変わった。この瞬間暗黙知がいくつか経験知と結びつき、この今耳にした現象をすべて経験知で説明できる状態に知恵が機能した。

 

早い話が、PPSと6ナイロンを相溶させる方法がひらめいたのである。すぐに、生産で使っていた金型の図面を用意してもらい、金型清掃作業中にひらめいたことを具体的に確認していった。

カテゴリー : 一般 高分子

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2018.06/12 高分子材料の信頼性(2)

学生時代の高分子の授業は重合反応が中心だった。フローリーの教科書を用いた高分子物性論も2単位ほどあったが、今の時代から見ると、およそ高分子物性論と呼ぶには貧弱な内容だった。

 

大学の授業でどのような高分子の授業が今行われているのか知らないが、ゴム会社で指導社員から受けた粘弾性論を超える授業は無いだろうと思う。

 

それほど指導社員により毎朝3時間行われた形式知と経験知を織り交ぜた講義は素晴らしかったし、この講義は一日の鋭気を養うに十分な時間で、ほとんど毎日徹夜に近い働き方でさすがに日々疲労を感じていたが、この午前中の講義のおかげで精神的に異常をきたさなかった。

 

今から思い出すとマンツーマンで行われた講義で居眠りをしていた度胸と、見て見ぬふりをしていた指導社員の寛容な精神が企業風土の賜物に見えてくる。

 

睡眠学習の効果で今でも記憶として授業内容が残っており、不思議なことに目をつぶるとそれが夢のように思い出される。その名講義で忘れてはいけない項目の一つにゴムの耐久性評価がある。

 

講義と並行して指導社員が準備していた試料や日々新たに開発された樹脂補強ゴムの繰り返し引張耐久試験が進行していたが、この耐久試験で特に注意されたポイントサンプルの取り付け方である。面倒でも一個一個短い定規をあてて丁寧にチャックに取り付けなければいけない、と教えられた。

 

注意してサンプルを取り付けてもワイブル統計で整理すると初期故障に相当するサンプルが1-2個は出る。ただ1-2個は優秀だと褒められたが、耐久評価試験でサンプルの取り付け方は誤差因子となるので注意を要する。

 

この当時すでにワイブル統計を当たり前に使用していた。このような理由で、セラミックスブームの時にエンジニアリングセラミックスの信頼性についてワイブル統計を用いた議論が学会でなされたことに驚いた。長い歴史をもったセラミックスという材料が人類史上初めて工業用品に使用されるという時代の到来を感じた。

 

ところで、ゴムや樹脂についてエンジニアリングセラミックスで展開されたような議論を聞いた経験が無い。高分子のエンジニアリング分野への展開の歴史は長いが、ワイブル統計を用いた信頼性評価の歴史は、当時10年の歴史も無いと教えられた。すると高分子学会での議論は行われることなく、企業の基盤技術として普及していった可能性がある。

 

指導社員はゴムの耐久評価をワイブル統計で行わなければいけない理由について、化学変化と物理変化が合わさってゴムは劣化するため、その両者を加味して評価しなければいけないのでどうしても統計的見方が必要になると教えてくれた。

 

すなわちゴムの市場における寿命は統計的にとらえるべきで、アーレニウスあるいは時間ー温度換算則を用いた寿命評価では多くの場合に問題を捉えられないという。

 

温度環境を変えた繰り返し引張試験データをワイブル統計のグラフにすると、配合処方により耐久寿命が異なる。アーレニウスで整理するとその予測された寿命よりも長くなる。

 

指導社員から教えられたのは、例えば50年後の物性を予測するために化学変化ならばアーレニウスで、物理変化ならば時間温度換算則で予想することは良いが、それで耐久性があると誤解してはいけない、耐久性は信頼性予測で行うものだ、と教えられた。

 

ところで今週15日金曜日に下記会場で混練のセミナーをゴムタイムズ社(http://www.gomutimes.co.jp/?seminar=%e3%82%88%e3%81%8f%e3%82%8f%e3%81%8b%e3%82%8b%e3%82%b4%e3%83%a0%e3%83%bb%e3%83%97%e3%83%a9%e3%82%b9%e3%83%81%e3%83%83%e3%82%af%e6%b7%b7%e7%b7%b4%e6%8a%80%e8%a1%93%e3%81%ae%e5%9f%ba%e7%a4%8e%e3%81%8b)主催で行います。ご興味のある方はご参加ください。

会場:亀戸文化センター 6F 第2会議室
https://www.kcf.or.jp/kameido/access/
時間:10:30~16:30

カテゴリー : 一般 高分子

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2018.06/07 品質データ改竄その後

「大手鉄鋼メーカー 神戸製鋼所が製品の検査データの改ざんを繰り返していた問題で、東京地検特捜部と警視庁は、不正競争防止法違反の疑いで神戸製鋼の東京の本社などを捜索し、強制捜査に乗り出しました。

 

会社側の調査で改ざんされた製品の出荷先は600社以上に上っていて、特捜部と警視庁は組織的に不正が繰り返されていたと見て実態の解明を進めることにしています。」

 

昨日のTVニュースでもこのWEBニュースの記事を報じていた。東レ、日産、三菱自動車、スバル、三菱マテリアルとデータ改竄はじめ品質管理に関する不正があいついだ。

 

スバルでは最初に発覚してから半年以上が経過しても不正が見つかったのでCEOが辞任する事態に至っている。最初に不正問題が報じられたときに、この欄では科学の問題(形式知の問題)を指摘している。

 

すなわち、科学的に考えて品質規格からこれだけ外れても大丈夫、という判断で不正が行われている、と推定したが、案の定神戸製鋼所では代々の不正データの蓄積が受け継がれていた。

 

恐らくこれは技術継承のつもりでなされた可能性がある。川下企業とすり合わせて設定した品質規格に対して、川上企業で自分たちの品質規格を作り上げようとしていたのだ。

 

なぜ川上企業でこのような行動をとるのかは、コストダウンが目的であるが、それ以外の事情もある。これについては後日触れるが、この行動が形式知と経験知を混同していることは明確である。

 

形式知と経験知は区別して技術開発に適用されなければいけないが、最近はこのあたりが日本でうまく伝承されていない。

 

両者を混同して運用していった結果、法に触れるような事態に至った、というのが昨今の品質データ改ざんの実態と捉えている。

 

すなわちこれはSTAP細胞の騒動と問題が似ている。STAP細胞の騒動では未熟な科学者が問題となったが、品質データの不正では未熟な技術者集団により問題が起きている。

 

これは技術の伝承や技術者育成がバブル崩壊後軽視されてきたからではないかと推測している。また、団塊の世代の大量退職とも関係している可能性を否定できない。

 

当方はこのような現状を憂い弊社を起業しているが、なかなか事業が立ち上がらず苦戦しており、最近は外部のセミナー会社のお世話になっている。

 

今月は15日に混練技術に関するセミナーを都内で予定しているが、品質問題の対策として10月にはゴム・樹脂の信頼性についてのセミナーを企画している。

 

また、上海では今月末に材料をデザインに生かす講演会が企画された。台湾ではシリコーンポリマーに関するセミナーが行われるがご興味のある方はお問い合わせください。

カテゴリー : 一般 高分子

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2018.06/01 高分子材料の信頼性(1)

以前この欄で、防湿庫に保管していたニコンF100の裏ブタのフックが破損した話を紹介した。裏ブタのフックが壊れると裏ブタを閉めることができなくなりフィルムが感光するので、フィルムカメラにとってこのフックはキーパーツのはずである。

 

フラクトグラフィーを用いて、このフックの破壊について解析すると、典型的なクリープ破壊で進行していたことがわかった。このキーパーツの設計において、設計時の寿命予測として仮に10年程度を考えていたとしたならば、初期故障と分類してもよいような短命で、破壊の仕方もそのように推定されたので、うまく品質管理ができていない可能性を疑った。

 

ところが某中古店でヒアリングしたところ、このF100のフックについて展示していただけで壊れるケースが多いという。中古店情報なので破壊寿命やその様子は不明だが、最近はフィルムカメラの需要も少なくなったので、長期間裏ブタの開閉をしないカメラF100も多い。

 

いろいろ考察を進め、この裏ブタのフックについて、設計段階でどのような寿命予測試験を行ったのか疑問を持つに至った。もう10年以上過去の話なので時効と思われるが、写真会社に転職してこのようなゴム・樹脂部品についてアーレニウス型の寿命予測が多く用いられていることにびっくりした。

 

ゴム会社では40年以上前からワイブル統計で寿命予測を行うのが一般的だったので、設計者になぜアーレニウスだけで行っているのか尋ねたところ、いままでこの方法で行ってきて問題がなっかった、という。ところが、当方が豊川へ単身赴任したところとんでもない品質問題が発生した。

 

詳細は省略するが、1980年代のセラミックスフィーバではセラミックスの品質管理にワイブル統計を導入する検討が学会で真剣に議論されていたが、高分子学会でそのような議論がなされた様子をこの30年間見ていない。ゴム会社で40年前に導入されていたのでワイブル解析は常識と思っていたが、某樹脂会社の人からワイブル統計を御存じないと言われたのでセミナーを企画することにし、3年ほど前から行っている。

カテゴリー : 一般 高分子

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2018.05/26 カオス混合装置の発明(9)

20日の(8)でカオス混合装置の仕組みを説明したが、このような簡単な仕組みならば特許にならないだろうと思ったら、公知ではなかった。

 

もっとも当方も指導社員の宿題を30年以上考えて思いついたのだから、特許が出ていなくても不思議ではない。

 

当方がどのようにして思いついたのかは30日のセミナーでお話しするが、偶然の出来事である。誰でも注意しておれば気がつくような単純な内容だが、やはりアイデアというものは、どこか頭の隅に種(暗黙知)が無いと思いつかないものである。

 

指導社員に教えられ、いろいろ実験を行い、沈思熟考を繰り返し、そしてある時偶然思いつく。良いアイデアとは努力の積み重ねから生まれる。

 

アイデアマンというと気楽な呼称に聞こえるが、実はアイデアを出すための日々の仕込みが重要である。よく何でも興味を持って眺めるように、という人がいるが、今時そのような行動を街中でとると職務質問されたりする。

 

実際におまわりさんの職質を受けてみると落ち込む。怪しい人間ではないつもりでもお巡りさんから怪しく見えたのだからその行動を反省しなくてはいけない。

 

それからというもの、秋葉原以外ではきょろきょろしないことにしている。秋葉原では、挙動不審以外に風貌の怪しい人などいっぱいいるから安心である。

 

年をとっても不思議なことにこのような仕込みで頭に入れた記憶は失われない。昨日妻に頼まれた買い物はまれに忘れる話を書いたが自分の興味のある内容については忘れるどころか情報がどんどん取り込まれそれが自然に整理され、取り込んだ情報よりも多くなって蓄積されることもある。

 

一を聞いて10を知るとはこのことかもしれないが、情報が知識に加工される過程をこの言葉は表現したのかもしれない。若い時にもこのような瞬間を味わった経験があるが、年を取ってからはそれが多くなったような気がする。おそらく暗黙知が外部刺激により経験知に代わっているのだろう。

 

大学4年の時に故石井先生の博学ぶりにびっくりしたことがあるが、それは年のなせる業かもしれない。また先生の言われた知識が形式知と思っていたら教科書には書かれておらず、改めて相談して経験知であることを教えられアカデミアの先生でも経験知を大切にされていることを知った。

 

この先生のもとで技官をやっておられた福井先生から石井先生の40過ぎに自ら留学を決意された話を伺い、40にして惑わず、と言った孔子より凄いと感じた。本来なら劣っていると感じるところかもしれないが、知というものを追求するのに年の上限は無い、とその話を理解したためだろう。

 

亡父も死の間際まで勉強をしていた。今認知の問題が話題になっている。年を取れば老化があるから認知の衰えも仕方のないことかもしれない。しかし亡父は無くなるまで当方を叱り続けていた。亡父の指摘は時には誤解も多かったが転職してからありがたいと感じるようになった。その当方の年は孔子が惑わなくなった年齢である。

 

40にして惑わず、とは、孔子が学を大成した年齢とされるが、当方の人生観からするとこれは間違っているような気がしている。当方の存じ上げている多数のアカデミアの先生は皆老人になられているが、とても「惑わず」とは思われない先生も多数いらっしゃる。また情報化時代の今日にあって40で惑わない状態は時代についていけない状態となることを意味する。

 

今AIが話題で、人間の仕事が奪われる暗い未来が描かれたりするが、暗黙知をAIに搭載することは難しいし、AIが暗黙知を持つようになるとは思えない。なぜならもしこれをAIに搭載することに成功したとしても暗黙知の制御技術を搭載することなどできないから、AIの暴走を恐れ実用化しないだろうと考えられる。ターミネーターを容易に作ろうと考えてしまう未来など想像したくない。

カテゴリー : 高分子

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2018.05/20 カオス混合装置の発明(8)

カオス混合装置については、新入社員時代の指導社員から教えられた、と過去に書いたが、指導社員の出身校である京大から偏芯二重円筒を使ったカオス混合のシミュレーションが20世紀末に発表された。

 

この偏芯二重円筒は、シミュレーションに用いることができるが、実際の樹脂の混練では汎用化が難しい。同じころにウトラッキーのEFMという伸長流動装置が発表されている。

 

EFMの問題は鋭利のスリットへ何段も樹脂を流さなければならず、生産性が悪いのであまり使われていない。

 

このEFMは伸長流動だけ考えているためにこのような設計になったが、カオス混合の急激な伸長と折り曲げの機構を実現するにはEFMのような構造ではなく、細いスリットと広い空間の組み合わせ構造のTダイを用いればよい。

 

細いスリットを通り広い空間へ流れ出た樹脂は、自然と折れ曲がる性質がある。水の様なサラサラな流体では、広がって流れるが、粘度の高い樹脂では広がることができずに折れ曲がる。

 

すなわち、並行あるいは非並行の平面に囲まれた細い長いスリットと広い空間の組み合わせでカオス混合を簡単に実現できることになる。この成果について今月末に講演するので、参加ご希望の方は弊社へお問い合わせください。

カテゴリー : 高分子

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2018.04/23 講演会情報

この3ケ月間に下記講演会が予定されております。弊社主催ではございませんが、割引価格でご提供できますのでお問い合わせください。

 

1.高分子材料の難燃化技術と配合設計・プロセシング

(1) 日時:2018年5月18日(金)10:30~16:30

(開催場所、料金等後日掲載)

2.伸張流動に関する講演会

(1)日時:2018年5月30日(水)10:00-17:00

(2)場所:<東京・五反田>技術情報協会セミナー

(3)主催:技術情報協会

(4)参加費:弊社へお申し込みの場合には56,000円

(5)4人の講師による講演会です。当方はカオス混合について講演いたします。

3.その他

(1)ゴム樹脂の混練技術に関する講演会

日時:2018年6月15日(金)10:30~16:30

(2)デザインに配慮した樹脂設計

場所:中国上海

日時:2018年6月29日

(3)シリコーンポリマーに関する講演会

場所:台湾

日時:2018年9月11日

カテゴリー : 一般 学会講習会情報 高分子

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2018.04/22 混練における前処理

昨日、赤だし味噌について書くつもりは無かった。混練を考えていたら、ブレンドとなり、米味噌と豆味噌のブレンドが頭に浮かび赤だし味噌について書き始めた。

 

ただ赤だし味噌について書いてみてアイデアの整理ができた。機能性コンパウンドの設計においてプロセスをどのように設計するのかは重要であるが、混練プロセスに入る前に各種添加剤をプレミックスしなければいけないときに、その手順の違いで成形体物性に影響が出る。

 

このことが意外に知られていない。影響が小さいときには良いが、これが大きい時には、プレミックスの手順も材料設計の重要な因子となる。混練するのでプレミックスの影響に気がついていないと射出成型でその影響が出たときに問題解決が難しくなる。

 

タグチメソッドを組むときにプレミックス手順も制御因子に入れればよいが、制御因子が多い時などは省略しがちである。これを防ぐには、予備実験でプレミックスの影響だけを取り出してその影響をみておくとよい。

 

混練機としての二軸混練機についてはせいぜい50年前後の歴史しかない。押出機としての歴史は長いが、高分子を混練する、という視点での発展は1990年代からではないだろうか。

 

このことがあまり知られておらず、二軸混練機の性能を過信されている人もいる。バンバリーとロールを用いたゴムの混練が、効率の悪さがあってもいまだに使い続けられている背景を理解できると二軸混練機のいい加減な性能を改良してみようという動機になる。

カテゴリー : 学会講習会情報 高分子

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2018.04/15 PPS中間転写ベルトの開発事例

あまり生々しく書くと問題になるといけないので、公開された事実だけで話をする。写真会社ではコンパウンドの基盤技術などなかったので、R社からコンパウンドを購入し、押出成形して半導体ベルトを開発していた。

 

あと半年で製品化の目途をつけなければいけない、というときにこの仕事を担当することになった。仕事のゴールは明確で、ベルトの周方向の抵抗が均一であり、柔軟な転写ベルトを製造することだった。

 

R社は一流のコンパウンドメーカーということで誰もコンパウンドの出来の悪いことなど疑わず、数年開発を続けていた。しかし周方向の抵抗が不均一で、歩留まりは一向に上がらず、とても生産できる状況ではなかった。

 

高分子材料の成形体は、プロセスの履歴をすべて取り込んだ物性に出来上がることは高分子技術者ならば誰でも経験知として持っている。長年開発を担当してきた人たちの誰もがコンパウンドには問題がないという。そこで、実用性は無いが、バンバリーを使って当方が理想としたコンパウンド、すなわちベルトの構造とコンパウンドの構造とが変わらないコンパウンドを製造し、ベルトを作らせてみた。

 

当時歩留まりに最も影響を与えていた電気的特性だけ評価すれば、一気に歩留まりがあがり、100%に近い状態まで到達した。ただ、靭性が低いので製品には搭載できない。しかし、長年電気特性の品質均一化に担当者は苦労していたので、この結果を見れば誰でもコンパウンドの問題に目がゆく、と期待した。

 

しかし、R社の技術者は前向きの推論を展開し妙なことを言い出し、写真会社の担当者もそれに同調した。せっかくゴールに肉薄するヒントが目の前にあっても、もう少しこれまでやってきた手順で続けたい、となった。優秀な連中の議論では、改めて材料設計を見直し、もう一度従来の方法で進めるという結論になった。

 

当方は仕方がないので、若い人を外部から採用し、職人を一人従え、カオス混合によるコンパウンド開発を進めることになるのだが、このときばかりは、科学的思考が時として仕事に悪い影響を与えることを苦々しく思った。仕事というものは、いつもゴールから考えて進めるのが正しい。

 

科学で慣れ親しんだ前向きの推論というのは、いつでもゴールにたどり着けるとは限らないのだ。ゴールから逆向きの推論を行い、そこから導かれたオペレーションを実行して初めてゴールにたどり着けるのだ。

 

(注)押出成形の経験知として、「いってこいの世界」というのがある。すなわち、コンパウンド段階で成形体と同じ構造になっていないときにはどうなるかわからない、という意味だ。ただしこれは経験知であって、科学的に証明された真理ではない。これに対し、コンパウンドの構造が金型内の流動で変化するのは当然であり、という意見は、コンパウンドの構造と金型内で観察された処理途中の材料の構造や、出来上がった製品の構造との科学的な比較議論から導かれた真理であった。このような真理を覆そうとして、コンパウンド状態から製品になるまでその構造が変化しないようなコンパウンドをわざわざ設計し実験したのだが、この結果を、金型内の流動でこの構造になるようにコンパウンドの処方を設計すればよい、と妙な屁理屈をつけられて説明された。この屁理屈はもっともらしく聞こえるが、金型内の流動で構造が変化するという意味が、コンパウンドの構造が安定ではない、ということをしめしていることに気がついていないし、それを指摘しても、前向きの推論を何段階か展開し、ゴールに近づけるような意見を言ってきた。ゴールに直結していない仮説や推定は怪しい、と疑う習慣を身に着けたい。

 

 

カテゴリー : 一般 高分子

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2018.04/09 講演会情報

この3ケ月間に下記講演会が予定されております。弊社主催ではございませんが、割引価格でご提供できますのでお問い合わせください。

「ゴム・プラスチックの劣化・破壊メカニズムと寿命予測および不具合対策」につきましては、弊社へ参加申し込みをしていただければ、すぐに請求書を発行させていただき、振込確認後参加証を送付させていただきます。

 

1.ゴム・プラスチックの劣化・破壊メカニズムと寿命予測および不具合対策

(1)日時:2018年04月17日(火)10:30~16:30

(2)場所:江東区産業会館 第1会議室

(3)主催:R&D支援センター

(4)参加費:弊社へお申し込みの場合には45,000円

 

2.高分子材料の難燃化技術と配合設計・プロセシング

(1) 日時:2018年5月18日(金)10:30~16:30

(開催場所、料金等後日掲載)

3.伸張流動に関する講演会

(1)日時:2018年5月30日(水)10:00-17:00

(2)場所:<東京・五反田>技術情報協会セミナー

(3)主催:技術情報協会

(4)参加費:弊社へお申し込みの場合には56,000円

(5)4人の講師による講演会です。当方はカオス混合について講演いたします。

4.ゴム樹脂の混練技術に関する講演会

カテゴリー : 高分子

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