ラテックスを重合するときに界面活性剤が使用されるが、その添加量はCMCから推定される、と昨日書いた。これは、界面活性剤の科学の体系を学んでいると不思議なことではなく当たり前のことである。
ところが、CMCよりもはるかに多く界面活性剤を入れなければうまくラテックスを合成できない場合が存在する。別の表現をすれば、科学の体系で決まってくる界面活性剤の量では安定にラテックスを合成できないので、技術開発をあきらめてしまう場合が存在する。
シリカゾルをミセルに用いてラテックスを重合する技術を開発したときの出来事である。この技術は20年前の新技術で写真学会から賞を頂いている。すでにこの活動報告でこの技術の誕生の背景を紹介しているが、否定証明により危うく没になりかけた技術である。
この技術はコアシェルラテックスの開発過程で合成に失敗した技術から生まれたのだが、科学を忘れるように、という指示を信じてくれた担当者の力で生み出された成果である。まさに科学よりも当方の言葉を信じた者が救われた例の一つである。
コアシェルラテックスの開発では、ライバルの多数の特許群から逃れるために、特許に書かれていない素材を中心に検討していた。すなわち明らかに科学的に構築されたライバルの技術よりも不利な条件で技術を完成しようと担当者は努力していた。
このような状況で、科学的に開発を進めていては難しくなりゴールにたどり着けない場合もでてくる。いったん科学を忘れて素直に現象を眺めることが大切である。すると科学の体系とは異なる視点で新しい機能が見えてくるものだ。これは訓練で誰でもできるようになる。そしてむしろ高等教育を受けていない方が素直にこの行動をとることが可能だ。(続く)
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科学の世界観では、一つの真理は重要なことで、真理が一つゆえに科学の論理展開による推論が意味を持ってくる。しかし、現実の自然現象では、科学で明らかにされたはずの事象でも技術開発でそこで働く機能を用いるときには科学を疑う、あるいは科学の成果を忘れたほうがよい場合が存在する。
例えば、混合や分散の技術では、科学の体系通りには成立していない、あるいは科学のそれぞれの分野で微妙に体系が異なっている事象を扱う。
水に油を分散するときに、界面活性剤を用いることは常識である。そして界面活性剤は親水基と疎水基の構造を持ち、界面活性剤を水に分散すると水の中に疎水場を形成し、この中に油を包含することで安定に油を水中に分散することが可能となる。
界面活性剤の教科書を読むとこのような説明がなされている。さらに、親水基と疎水基を持つ分子でミセルを形成したり、臨界ミセル濃度(CMC)などの説明が続く。この臨界ミセル濃度については、その説明のためにグラフが使われ、ほぼ1%前後と理解できる。
実際にラテックスを合成するときには、このCMC近辺の量で界面活性剤が添加される。また、洗濯の時にはCMC以上の界面活性剤を添加しても汚れの落ち方は変わらない、という生活の知恵も存在する。
直感的に界面活性剤の体系は理解しやすいようにできている。しかし、この体系で考えていると新しい技術アイデアを見落としたりするから大変である。以前にも述べたが科学が新技術のアイデアが生まれるのを邪魔するのである。(続く)
(注)科学の体系に忠実に従い研究され否定証明された電気粘性流体の増粘問題を試行錯誤でたった一晩で解決した事例を以前紹介しているので、今回はダイナフローという特異な界面活性剤を用いて問題解決した事例を紹介する。
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夏の風物詩の一つにお化けがある。未だお岩さんのようなお化けには遭遇したことはないが、信じられないお化けのような現象には多数出くわした経験があり、それに何度も助けられた。
高純度SiCの開発では、無機材質研究所で納入されたばかりの新品の電気炉を使える幸運で必ず成功させようと意気込んだ。ところが研究所の先生にすべて運転条件を設定していただき実験を開始したところ、突然電気炉が暴走し瞬間的に温度が1800℃を超えた。慌てて緊急停止を押し、担当の先生に電話をかけた。
一方でサンプルがもったいないから手動で運転できないか考えた。プログラムコントローラーを見ると1600℃保持に入っていたので慌ててスイッチを入れたところ、うまくプログラム通り動き出した。
翌日サンプルを取り出したら、真っ黄色の高純度SiC微粉ができていて驚いた。電気炉の暴走原因は不明で単なるPIDの問題ではないか、とも言われたが現象を再現できない。一番不思議なのは、その時の温度パターンが微粉を作るためには一番良かったことだ。これは今でも不思議な現象と思っている。
もう一つ、電気粘性流体の開発を手伝っていた時に、傾斜組成の粉体を偶然開発できた話。詳細は省略するが、できたらいいね、と同僚と話していたら一回目の実験でベストの粉体ができた。電子顕微鏡で組織観察しても傾斜組成になっている。なによりも驚いたのは、その粉体を用いたら応答性がよく効果の大きい電気粘性流体ができたことだ。
その後、FDが壊れたのだが、こちらはお化けではなく明らかに人為的な出来事だった。お化けであってほしかった事件である。お化けはこの世に未練があって出てくるものだと教えられたが、人間の物事に対する執着心は、まったくないよりもあったほうが面白い人生になると思っている。ただし執着心を恨みに変えていてはみじめで、執着心を前向きに転化する努力が重要である。
当方は高純度SiC技術に対する執着心ゆえに写真会社で同様の一発を狙ってきた。しかし、その一発は全員から祝福されるような仕事を狙っていたが、これが結構難しい。すなわち組織で仕事を行うときに組織が必ずしもイノベーションを望んでいるとは限らないからだ。
しかし単身赴任して担当したPPS転写ベルトでは、少なくとも豊川周辺の事業所に勤務していた全員がその成功を願っていた。外部からコンパウンドを買って開発を進めていた仕事を商流の形式を維持したまま成功させたのだが、これは組織の都合で内製化できない状況だったからだ。
この仕事では子会社の敷地を借りてコンパウンド工場を立ち上げ、子会社からコンパウンドを購入する商流を作り上げた。おそらくそれまでコンパウンドを納入してきた会社にとって突然現れたお化けのようなライバルに見えたかもしれない。基盤技術があったとしてもコンパウンド工場が立ち上がるまでは一年以上かかる。ちなみに国内の大型の二軸混練機は発注から納入まで一年程度かかる。それが半年以下で工場がたちあがったのだ。
この仕事では、初期にお岩さんより凄いお化けが出た。統合したカメラ会社の倉庫にあった小型二軸混練機でコンパウンドを製造し、押出成形を行ったところ、ぶつぶつがいっぱいできたベルトが出てきた。実はこのお化けのようなベルトが最初に出てきてくれたおかげでコンパウンドが押出成形に与える影響を学ぶことができた。運がよかった。
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二軸混練プロセスでカオス混合を初めて実用化したプラントを開発したときのメンバーは、朝昼晩とマイカーの中でパイプをふかす習慣がありサングラスをかけて仕事をするちょび髭の退職まじかのオヤジと転職したばかりの若者、そして当方の3人である。グループの運営その他を部下のマネージャー二人に任せて、半年間専念し、立ち上げた。
実は開発を始めた時のメンバーは、エリートに見えそうな優秀なメンバー二人だったが、一か月もしないうちにメンバーを入れ替えた。転職したばかりの若者にはかわいそうな仕事だったが、右も左も分かっていなかったので、グループリーダーの当方についてくる以外に道はなく、当方は職位のパワーを十分に発揮できた。
退職まじかのオヤジはグループ内で仕事をよくさぼっていたが、腕は確かだったので運を天に任せるつもりで引き抜いた(?)。このオヤジは案の定最初の一か月近くは、指示しなければ仕事をしないだけでなく、若者に自分の仕事をやらせていた。しかし、その様子を見ていて気がついたのは、さぼっているのではなく指導しているようにも見える。
そこである日このオヤジに若者の指導を任せるからと言って、開発メニューの全貌を説明したところ、「金もなくできるかどうかわからん仕事をよく進めますな」と言った。少しどきりとしたが、「だから土日は東京でK社と生産用混練機本体の開発を進めるが、これは予算を確保するまで秘密だ」と説明したところ、「よし、倉地さんを信じましょ」と言ってくれた。翌日からオヤジのサングラスの下の表情が変わった。
開発は半年しかない短期決戦で、さらに基盤技術も無い混練プラントを格安の価格にするためすべて手作りに近い立ち上げ作業だった。メンバー二人の頼りにしていたのは、当方がゴム会社で12年勤務したキャリアだった。当方はその大半をセラミックス技術開発の仕事をし、高分子の知識は写真会社で独学で身に着けただけだが、それを隠した。一流のゴム会社の看板の凄さを体感した開発だった。仕事は順調に進み、一億円もかけずに無事プラントは立ち上がった。
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高分子材料では教科書を読んでみてもよくわからない現象に頻繁に遭遇する。面白いのは、よくわからない現象なのにわかっているように話す人がいることだ。否定証明についてこの欄で以前紹介しているが、否定証明を得意としている人も同様である。どうして簡単にできないと否定できるのか不思議に思うことがある。
確かに目の前の現象を見ている限り出来そうもないことはよくある。諦めて他の手段に移ったほうがよい時には、当方でも潔く他の手段を検討する。しかし現象は出来そうもないように見えるが、他の現象との比較でできてもよさそうな時には、暇を見つけては再度チャレンジすることが時々ある。
昔熊本大学上出先生とこのようなお話をして意気投合したことがある。上出先生によればTACの良溶媒はアセトンであるが皆この話を信じないという。実際にTACをアセトンで溶解しようとしてもうまく溶けない。しかし圧力をかけてやると簡単に溶ける。そして一度溶解すると安定である。
これを実際に体験すると確かに上出先生の言われていることは正しいと納得できる。しかし、普通にただアセトンに分散し攪拌しただけでは全然溶解しない。
話は変わるが、同じPSでも一般のPSとSPSでは接着性が全く異なる。PSに簡単に接着したラテックス薄膜をSPSにくっつけようとしてもうまくゆかない。これを体験すると結晶化度の高い高分子は接着が難しいという経験知が身につく。
PPSの中間転写ベルトを担当した時に、端部にガイドテープを接着する話題が出た。PIベルトに用いていた接着剤ではうまくくっつかないという。そこでいろいろ試してきたがよいものがみつからないという。しかし、当方が開発したPPSベルトは6ナイロンが相溶したPPSなのでアモルファス相が多いはずで、接着しやすいと思われた。当方が過去に検討された接着剤を塗ってみたところ、うまく接着した。
そこで、当方の開発したPPSでは非晶質相が多いので接着には有利だ、と担当者に説明し再挑戦を促したところ、やはりくっつかない、という。当方が試みた接着剤と同じである。ただ異なるのは接着剤の塗布の方法だ。ここはノウハウになるので詳しく書けないが、当方がやった方法を伝授したところ、やはりうまく接着した。高分子材料ではこのような話がよくある。大抵はノウハウになっているので書きにくい。
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カオス混合によりPPSと6ナイロンを相溶させて中間転写ベルトを実用化することができた。このベルトの凄いところは、靭性の指標であるMIT値が2万を超えたことである。二軸混練機だけで混錬した材料では3000なので大幅な改善である。
脆いPPSが6ナイロンを相溶したことで、しなやかな材料に変わったのだ。さらに、その高次構造はカーボンの凝集体が均一に分散した構造になっており、これがベルトの面内の抵抗を均一にできた理由である。
6ナイロンをPPSに相溶しやすいMXD6というナイロンに変更して同様のベルトを製造したところ、カーボンの凝集体の大きさは小さくなり、その凝集体の個数が増加した。高次構造が少し変化したのだ。
すなわちマトリックスのΧによりカーボンの凝集体の大きさが変化している可能性がある。ベルトの開発が完了してから、ナイロンの種類を増やして同様のデータを取り、一か月間この周辺の研究を行ってみたところ、スピノーダル分解速度により凝集体の大きさが変化していることが分かってきた。
またマトリックスのΧにより凝集体の数が影響を受け、一個の凝集体に含まれるカーボンの個数が少なくなるという現象も凝集体の大きさに影響を与える可能性があるが、その寄与は小さいことも分かった。これは面白い現象である。高次構造を観察したところ6ナイロンのドメインは見つからないが、わずかなスピノーダル分解が起きており、カーボンの凝集構造を制御している。
このあたりの研究は深く進めると面白いがその結果得られる科学の真理が新しい技術を考えるときに重要かどうか問われると難しい問題である。現象をモルフォロジーで捉え公知の情報で推測された内容だけで技術開発のためには十分である。真理として確定していない情報でも技術開発で用いることができ特許出願が可能である。とりあえず特許を出願し退職した。
新しい科学の真理を前にしてそれを確定する仕事を進めるかどうかは経営資源との相談となる。最低でも人材育成効果を期待できるが、人材側から拒否される問題も存在する。企業で自然科学の研究を進めにくい時代になってきた。
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ゴムや樹脂、あるいはセラミックスなどの材料は、一種類の素材だけで使用されることは稀である。大抵は複数の素材を配合して使用される。セラミックスフィーバーでセラミックスの配合設計に関する考え方は大きく進歩した。高分子材料については2000年前後の高分子精密制御プロジェクトやOCTA開発の土井プロジェクトの成果で階層構造で設計する考え方が普及した。
このような科学のイノベーションが行われる以前には、各社各様の方法が行われてきた。面白いのはゴム会社で統一した考え方はなく技術者により独自の配合設計法が語り継がれていた。しかし、転職した写真会社では配合設計という考え方は特になく、転職後しばらくしてから設計表という概念が標準として用いられるようになった。その後タグチメソッドが登場し、基本機能を中心とした設計法に代わっていった。
今でも記憶に残っているのは樹脂補強ゴムを開発していた時に指導社員から教えられた考え方だ。高分子材料はプロセスの履歴が必ず物性に現れる。特にゴム材料は顕著で、配合設計ではプロセス設計をまず行え、と言われた。加硫ゴムでは、バンバリーとロール混練がプロセスの基本となるが、この組み合わせが配合設計にも影響を与えるという。
ところが、技術者の中には、配合を決めてからプロセス設計を行う主義の方もおられた。そのような方は、ニーダーだけで加硫ゴム配合を練り上げて実験していた。新入社員の当方にはこのやり方が合理的に見えた。
指導社員曰く、ニーダーだけで練り上げたゴム配合で最良の配合が見つかったとしても、バンバリーとロール混練のプロセスでその配合を実用化できない場合もあったという。すなわち合理的に見えた方法では実用化できないリスクがあるので、最初にプロセス設計を行うのだそうだ。
ゴム会社ではゴムを練り上げるのに複数のプロセスが行われていた。それら複数のプロセスでどのようなゴムを混練するのかは経験知が存在した。すなわち指導社員の言われたプロセス設計とは、開発成果の受け入れ先が行っているプロセスを基準にして考えろ、という意味だった。
プロセスが決まるとその制約から使用できない材料も出てきたりする。そもそもゴムの混練はバッチプロセスなので制約は少ないが、それでも時々プロセス適性が無い材料が出てくるそうだ。
このようなプロセス適性の無い材料を検討に入れないのは不安になるが、指導社員はまずそれらを除外して配合設計を行った方が実用化のスピードが速いと教えられた。
それではプロセスの変革は必要ないのか、という質問をしたところ、カオス混合のような材料に著しい効果の現れるプロセスが考案されたときには迷わずそれを採用する、と質問者としてどのように理解したらよいのか分からない回答が返ってきた。
その後いろいろ尋ねたところ、ゴムの混練プロセスは保守的であり突然イノベーションが起きることはないと言われた。大切なのはゴムの混練プロセスが変わると同一配合でもその物性が大きく変動するという問題がある状態で、どのように開発手順を考えたらよいのかということだそうだ。すなわち、配合設計を行うときにプロセスを変動させて行うと問題が難しくなる。
材料における配合設計とプロセス設計の問題は、高分子材料でもセラミックス材料でも難しい。プロセスを決めておいて配合設計を行う、という指導社員の考え方は一つの考え方であり、当方は目標とする材料構造を決めてからプロセス設計と配合設計を同時に進める考え方である。この考え方で高純度SiCの新合成法やカオス混合技術などを発明した
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カオス混合装置は、2005年に瞬間芸のごとく開発されたが、そのアイデアの種は1979年に蒔かれている。指導社員からロール操作の指導を受けているときに、カオス混合の話題が出た。
日本の餅つきやパイ生地の練り方だそうで、これを連続生産装置として実現できたら天才だ、と言われた。指導社員は少し個性的な方で時々新入社員の当方の興味や能力を試すような冗談とも言えない話題を唐突に出してきた。
悪くとれば揶揄われていたのかもしれないが、当方は真摯に対応した。その結果カオス混合の話題は時折出た。しかし連続生産可能なその具体的姿については闇の中だった。それから3年後には高純度SiCの構想を立てていたので忘れていた。
その後N先生からポリマーアロイの話の中でウトラッキーの名前を聞き、注目していたら、EFMの特許を見つけた。そしてそこに書かれた図を見て指導社員から聞いたカオス混合を思い出した。
その後京都大学で行われた偏芯二円筒を用いたカオス混合シミュレーションの論文を読む機会がおとづれた。頭の中でアイデアを展開する機会は偶然重なった。
頭の中に寝かしてあった概念が少しずつ具体的に見えてきた。しかし、混練実験を行うテーマは写真会社になかった。ところが、写真会社とカメラ会社が統合し、豊川へ単身赴任することになり、コンパウンドメーカーから素人は黙っとれ、と言われた幸運に恵まれた。
そのおかげで、PPSコンパウンドの混練プロセスを堂々と内製化する口実が生まれた。そこで30年近く寝かしてきたアイデアを実行することになったのだが、それまでの間に連続プロセスのアイデアを練るだけでなく、ポリマーアロイについて実験を繰り返し、加工で高分子がどのように変性されるのか勉強してきた。
商品化の納期が迫っていた状況も幸いした。あれこれ迷う時間などなく、寝かせて練り続けたアイデアを用いる以外に道が無く、意思決定は簡単だった。それで瞬間芸的にカオス混合装置を作ることができた。
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コンパウンドの品質管理はどのように行われているのか。退職前の5年間に電子写真用樹脂材料を担当し、多くの樹脂メーカーの方と打ち合わせる機会がありびっくりした。各社各様の考え方で共通していたのはコスト重視だった点だ。中間転写ベルトのコンパウンドでさえ高い費用を支払い購入していてもコストの問題でこれ以上品質管理項目を増やすことができない、と平気で答えて来た。
この場合には、品質管理項目が増えた場合に、どのような価格になるのか提示すべきと期待していたが、簡単に期待が裏切られただけでなく、コンパウンド業界を知らない、とまで言われた。このとき懸念したのはコンパウンド業界はお客に顔を向けて商売をしていない、という現実だった。驚くべきことに多くのコンパウンドメーカーが大なり小なりこのような調子で、お客に対して誠実真摯に対応してくださったのは2社程度しかなかった。
国内のこのような状況をうけて、自分でコンパウンド工場を立ち上げたり、中国ローカル企業を指導し始めたりしたのだが、国内のコンパウンドメーカーのこのような高飛車の態度がどこから出てくるのか不思議だった。ただ、成形加工メーカーを見学して気がついたことがある。それは成形加工メーカーの高分子材料技術に関するスキルが著しく低いのだ。高分子材料技術に関する担当者がコンパウンディングに関して工場見学をした経験はあっても、その実務を御存じない。
知識の獲得ができていないだけでなく、知識に対する関心もない担当者もいた。すなわちコンパウンドについては、コンパウンドメーカーの言いなりになっている状態だった。さらには、出来の悪いコンパウンドでも成形できるのが成形技術と豪語する担当者もいた。すなわち業界の構図がコンパウンドメーカーにコストだけを考えるような仕組みになっていたのだ。
出来の悪いコンパウンドでは、必要な物性を満たす成形体ができないことを中間転写ベルトの事例で示した。このとき出来の悪いコンパウンドとして2種類あり、まったく材料設計ができていないコンパウンドと正しい材料設計はできているがその設計を維持するための品質管理ができていないコンパウンドである。
成形加工メーカーは、出来の悪いコンパウンドとして、後者だけを考えているように思われる。すなわち性善説的な考え方だ。ところが中間転写ベルトのコンパウンドを供給していたような性悪説で考えなければいけないコンパウンドメーカーも存在するのだ。成形加工メーカーは、コンパウンドメーカの品質管理技術を指導できるぐらいのスキルを身につけなくてはいけない。
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高分子材料は合成された高分子をそのまま活用するケースは稀である。多くの場合に他の材料を配合して用いる。例えば、樹脂やゴムの成形体は、混練プロセスで配合物を均一に混合してコンパウンドと呼ばれる形態にしたものを成形加工して製造する。
混練プロセスは、コンパウンドに要求される性能に応じて設計されるべきだが、これまで出会った樹脂技術者はゴム技術者よりもその感覚が乏しい。樹脂技術者の中にも混練機に様々な工夫をして高性能なコンパウンドを製造できるよう努力している人もいるが、ゴムの混練プロセスにおけるそれには及んでいない。
樹脂の混練プロセスでは二軸混練機が一般に用いられるが、タイヤなどに使用されている高性能なゴムの混練プロセスは、バッチ式のバンバリーとロールの組み合わせプロセスである。ゴム会社の工場見学に行くと、バンバリーで混錬後ロール混練を行っている工程を見せられる。ところが実際のゴムの混練はそのような単純なプロセスではない。
ゴム種によってはこのような単純なプロセスで混錬されるコンパウンドも存在するが、ロール混練を行ってからバンバリーにそれを投入し、その後またロール混練する場合や、ロール混練を繰り返し用いる場合も存在する。すなわちコンパウンドの要求される性能に応じてプロセスも変更されているのだ。
ゴム材料の値段とその重量から乗用車用タイヤは一本2000円前後で販売されてもよいはずだが、プロセスコストがそれなりにかかるので単純に原材料価格からその値段を推定することは難しい。
これが樹脂のコンパウンドでは、自動化された二軸混練機からストランドが押し出され、ペレタイザーでペレットにされて出来上がる。原材料からコンパウンドに至る時間はせいぜい10分以下である。1台の二軸混練機で一時間あたり1t以上生産されているコンパウンドも存在する。
このようにゴムと樹脂のコンパウンドの生産プロセスは大きく異なるので、それぞれの技術者のコンパウンドに関する考え方も大差がある。ゴム技術者はコンパウンドに性能を創りこむ感覚で混練プロセスを眺めているが、樹脂技術者は、どのように生産効率をあげるのかを考え、性能は二の次である。
実際に射出成型用コンパウンドに問題があり、某会社の混練プロセスを監査に言ったところ、二軸混練機のシリンダー温度を計測する温度計が2本壊れていても平気で生産していた。現場でそれを指摘したところ、異常が無いから大丈夫だという。当方はコンパウンドを分析し、射出成形体で品質問題が起きた原因をコンパウンドの品質ばらつきにあるとにらんで監査に来ていると伝えても、問題にしない。
ペレタイザーから出てきたコンパウンドを手で取り眺めたところ、スが入っていた。ところがそれを見せても問題ない、という。結局このコンパウンドメーカーとの取引をやめるようにレポートを書いたが、もし射出成型メーカーの方でコンパウンドに疑問が生じたら弊社にご相談ください。大手のコンパウンドメーカーでもその現場管理が十分にできていない事例をいくつか見てきたので対策の仕方を御指導いたします。
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