高分子の力学物性は、高分子の高次構造に影響を受ける。ここで高分子の構造について簡単に説明すると、高分子が一本の紐で表現できるとしたときに、その一本の紐の構造を一次構造と呼ぶ。
DNAは二本の紐状の分子の絡み合いでできているので、これを二次構造と呼ぶ場合もあるが、一般的ではない。一次構造の上はすぐに高次構造となる。だから高分子の高次構造といった場合にそのスケール範囲は広い。
10年以上前に分子一本の粘弾性測定が成功し、バルクで測定された結果と同様だった、とされているが、このそっくり具合は、双子のそれとは異なり、日本人のそっくりさんをアメリカ人の中から探し出して見つけた人程度のそっくり具合だと思う。
かつてゴム会社の指導社員は、高分子の力学物性は、高次構造の影響を受けばらつくからよくその構造に注意するように、と指導してくれた。例えば引張強度は、ある一定のサイズの欠陥が存在すると低い値となる。弾性率が密度に影響を受けるので自由体積の量によっても影響を受ける。だから、高次構造の影響を引張強度は受けることになる。
ところで引張強度は、経験的に靱性と弾性率の関数として表現できる、と教えられた。複合材料の教科書にもそのようなことが書かれていた。しかし、最近の高分子の教科書を本屋で立ち読みしてもそのようなことを書いた本が見当たらない。
引張強度が靱性と弾性率の関数になるという経験則は大切である。弾性率が高い高分子でも引張強度が低い樹脂が存在したり、弾性率が低い高分子で引張強度が大きなゴムが存在する理由をうまく説明できる。
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高分子のガラス転移点で困るのは、熱分析の方法で1℃から多いときには10℃ぐらいまで異なる値になることだ。例えばDSCで求めたTgと粘弾性装置で求めたTgとは5℃以上異なる。
だからガラス転移点が問題になるときには、どのような方法で測定したガラス転移点なのか確認する必要がある。このような測定装置による違い以外に高分子の配合組成によっても影響を受ける。
例えば、二種類の高分子をブレンドするとガラス転移点(Tg)は二つ現れるが、この二種類の組み合わせで相溶が起きたときには、Tgが一つになる。またTgが一つになった時に二種類の高分子は相溶している、と判定したりする。
このことから相溶という現象が非晶質相で起きている現象であることが想像できる。実際にいまだかつて二種類の高分子が相溶したまま結晶化した例は報告されていない。
Tgは、高分子の履歴やその状態、緩和現象の情報など様々な情報を持っているが、その測定結果から情報の意味を知る方法について大系だった知識としてまとめた論文が見当たらないのは残念である。もしご存じの方がいたら教えて頂きたい。
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非晶質でガラス転移点を有する物質をガラスという、というのがガラスの定義だが、これを知らない材料関係の学者もいる。「**教授」という名刺を頂いた先生で5人の方がご存じなかった。
300名以上アカデミアの先生から名刺を頂いているので割合から言えばごく少数だが、ガラスの定義を知らずに高分子ガラスをどのように授業で講義しているのか心配になった記憶がある。
ガラスという物質の状態の呼称は、無機材料分野から高分子材料分野へそのまま適用された呼び名である。高分子材料のガラスは、無機のガラスと少し様子が異なるが先に述べた定義を満たす。
無機材料では非晶質状態にはなるがガラスにならない物質も多い。しかし、高分子材料の非晶質は一応皆ガラス状態を有する。だから高分子のDSC(熱分析法の一つ)を初めて測定したときにTgが現れなかった衝撃は大きかった。但しこれはSTAP細胞のような大発見ではない。時々起きるので会社で大騒ぎすると恥をかく。
DSCでTgが出にくい場合には、Tg付近で温度変化にブレーキをかけるテクニックを使う。このテクニックを使うと必ずTgが描かれたチャートが得られる。捏造と言われそうだが、あるべきTgの描かれていないDSCチャートをそのまま学会発表で使用すると質問が飛んできて右往左往することになる。
これは捏造ではなく、高分子のガラス状態を無機のガラスと同じという認識を維持するための生活の知恵のようなものである。Tgがうまく出ないときに直前にSTOPキーを5分ほど押し、その後計測を再開すればきれいなTg曲線が現れる。
但しTgがなぜ現れないことがあるのかは科学の問題だが、実務ではあまり深く考えなくても良いと思っている。昔の夫婦漫才では地下鉄をどこで埋めたのか問題にしていたが実務でこのTgの現象を問題にするとこの漫才同様に結論を出せない。
この現象以外に現代の高分子科学で説明しにくい状況をたくさん見てきたので、アカデミアの先生が説明しにくい問題を実務で深く考えるな、とアドバイスしたい。それよりも先日書いた疲労破壊のような失敗をしないように実技を重視した品質管理を十分に行った方が良い。
F100のフックが壊れた問題は、例えば品質評価試験において裏蓋のスプリング強度を強くした耐久試験を注意深くしていたなら防げた問題である。高価なデータパックが防湿庫に10年ほど静置されていただけで壊れたショックは、それがニコン製という理由で大きい。フィルムカメラの裏蓋は静置状態で絶対に開いてはいけないはずだ。高分子材料を常に負荷がかかっている部位に使用するときには細心の注意が必要だ。
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高分子材料が紐状の分子の塊であるために非晶質相でも密度の違いが生じる。自由体積部分は密度が低く、そこでは温度に依存した分子運動が行われている。すなわち、目の前にある樹脂もナノオーダーの一部の領域では、ぴくぴく動いている部分が存在する生き物のような材料なのだ。
自由体積部分以外の非晶質部分は、凍結し分子運動ができない状態である。これをガラス状態と呼んでいる。教科書によっては自由体積部分を区別せず、それを含む非晶質部分全体を高分子ガラスとして説明しているものもある。
教科書に区別されていなくても非晶質部分を分子運動が凍結された構造とわずかな分子運動が行われている自由体積部分とを分けて高分子材料を眺めることは大切である。先日書いたように高分子物性がばらつくという要因以外に、熱物性を測定したときに高分子材料の過去の履歴を想像することができるからだ。
歴史家は遺跡の発掘により古代の人の生活を想像するが、高分子材料技術者は熱物性から高分子材料の履歴を想像できなくてはいけない。そこには歴史家が体験できるロマンは無いが、生産現場の異常を発見することができる。
10年ほど前に一流企業のコンパウンドを使用した複写機の外装材がボス割れという品質問題を起こした。早速コンパウンドの熱物性を測定し、製造工程の異常をその企業に連絡したところ、何も異常が無いという。
すぐにその会社の現場を見せてもらったら、混練プロセスの制御盤にたくさんついていた温度計の一つが異常値を示していた。現場では特に問題としてとらえておらず、温度計が壊れているから、と淡々と説明していた。熱物性の測定結果では高温度に晒された履歴が観察されたので、そこで生産されていたペレットを抜き取り観察したところ、一部に巣が入っていた。
以上の現場観察結果から、会社に納入されたコンパウンドをすべて開封し検査したところ各袋に巣が入っているペレットが見つかった。一流企業のコンパウンドといっても現場管理が不十分であると、このような問題が起きているので注意する必要がある。
そしてコンパウンドの問題というのはその責任の所在を明確にすることが難しい。問題が発生した時にはコンパウンドメーカーの良心に従う以外に解決の道は無いのだが。
その日本の一流某コンパウンドメーカーには誠意がなく、コンパウンドの品質問題を最後まで否定していた。但し巣が入ったコンパウンドの存在だけは、実際にそのメーカーから納入された袋から大量に出てきたので問題として認めた。
明らかに異常を示したペレットが存在していても「原因不明です」の繰り返しだった。もし本欄を読まれている成形メーカーが同様の体験をされたならば気をつけていただきたい。日本の一流コンパウンドメーカーの中にはこのような企業も存在するのだ。
いくら高品質の成形体生産を目指してもコンパウンドメーカーが不十分な品質管理をしていたなら、そのゴール達成が難しくなる。ペレットの巣の問題をきっかけにコンパウンドメーカーを当時指導していた外国の某メーカーに変更したら品質問題が解決したことも書き加えておく。それは日本のメーカーではないがQCを厳しく指導したことにより品質が向上した発展途上国のローカルメーカーだ。
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ニコンF100は、同社のデジカメD2Hを使用し始めた頃から防湿庫に静置したままだった。ただ最近防湿庫もいっぱいになってきたので、昨年暮れに使用しないカメラを下取りに出そうと整理をはじめた。その時裏蓋のフックが壊れているのを見つけた。
10年以上防湿庫に入れたままで使っていないのに破壊するのは明らかに設計ミスである。しかし、このような設計ミスをしている製品は世の中に多い。但し、品質保証期間は1年なので、10年以上経って壊れる現象はメーカーの責任ではない、と一応言うことはできる。
ところが、ニコンのカメラは10年以上経っても壊れないのが常識と思っているユーザーも多いのではないか。**のカメラならば10年経過して壊れていても仕方がないとあきらめることができるが、ニコンは大丈夫、という神話が存在する。だから高くてもニコンカメラを買うのである。
中古の下取りもニコンカメラは高い、と思っていたらF100は1万円以下の価格だそうだ。フックが壊れたF100はジャンク扱いになり値段が付かない。仕方がないので、オプションをつけたときに外した裏蓋を取り付け、また防湿庫にしまった。
ただし、最初についていた裏蓋もフック部分は樹脂製なので、裏蓋のフックをかけないまま保管している。裏蓋のスプリングでフックがクリープするのを防ぐためである。結局防湿庫から出すことができたのは、ペンタックスのフィルムカメラ2台だけだった。
高分子のクリープ(注)をシミュレーションするのは難しい。昔のダッシュポットとバネによる粘弾性理論が破綻したのもこのクリープという現象のためである。高分子のクリープは、メーカーの神話を破壊しただけでなく科学の一分野も使えない理論として葬り去った。
(注)クリープ現象は、その成形体にかけていた応力が次第に緩和する現象として観察され、金属やセラミックス、高分子などあらゆる材料で起きる。金属のクリープは原子を玉と考えることで比較的モデル通りの考察が可能だが、高分子のクリープは複雑である。絡み合っていた紐が次第に緩んで抜けて行くモデルでシミュレーションできそうだが、この紐の絡み方がプロセシングの影響を受けるので、実験データを示すのが難しい。また、今では土井先生のレピュテーションモデルなど進化した成果が存在するが、30年以上前は粘弾性をダッシュポットとバネでシミュレーションしていた時代である。当時ゴム会社で聞いた伝説として、ゴム会社からM大学へ転身されたT部長の部下の実験の様子がある。T部長は理論家で粘弾性モデルでシミュレーションされたデータと一致する実験データを部下に求めた。クリープや粘弾性データでそのような実験データを得ることは至難の技だ。シミュレーションの値に近いデータが出るまで何度もその部下は実験をやらされたそうだが、クリープの実験では時間がかかるので、ある日部下は捏造データをグラフに示したという。そのデータを見たT部長は、このようなデータが得られるはずがない、と言って部下を叱ったという。T部長はクリープのシミュレーション結果と一致しないデータを求めていたのだ。上司と部下の巡り合わせは運だが、この伝説を話してくれたのは理論屋で上司だった。当方は運が良かった。
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材料のクリープという現象は、一定の力を材料に加えたときに材料がわずかに変形するが、その変形量が時間とともに大きくなる現象、あるいは時間とともに力が緩和する現象である。
セラミックスのような硬い物質でもクリープは起き、例えばSiCが拡散クリープにより高温下で変形することが知られている。高分子では、紐状の分子がじわじわと抜けてゆくような機構でクリープが生じる。
身近では靴下や下着のゴムが長年使用していると緩んでいることに気がつくが、これがクリープである。若いときには下着のクリープなど気がつかなかったが、中年になり、腰回りが標準以上になっていると、このクリープ速度の速さを痛感することになる。
そのほか樹脂製のフックに耐荷重以内の荷物をぶら下げていたのに、気がついたらフックが破壊し、荷物が下に落ちていた、と言う現象もクリープから疲労破壊が生じた現象である。
昨日のニコンF100のフックが疲労破壊した事例も同様で、裏蓋のフックにはボタンを押すと開くように常にバネで力がかかっていた。その結果、クリープにより疲労破壊に至ったのだ。
このような問題では材料のクリープ速度を計測し、使用実態に合う材料を選択する。例えばFRPであればクリープ速度は樹脂単体よりも遅くできるので、10年でフックが壊れる、という失敗を防ぐことができたかもしれない。
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昨日、高分子材料の物性は自由体積と呼ばれる構造の存在故にばらつく話を書いた。この自由体積の量は、高分子の混練プロセスの工夫で少し制御可能であるがこのあたりについては弊社企画のセミナーでデータを用いて解説している。
とりあえず、昨日の重要なポイントは、高分子材料が紐状の分子の塊である点だ。このイメージが頭にあると、クリープという現象についてもその怖さを理解できる。
昨年末、カメラを整理していたらニコンF100の裏蓋のフックが壊れていることに気がついた。裏蓋はオプションのデータパックという5万円前後の高価な商品だったが、樹脂製のフックが疲労破壊していたのだ。
おそらくニコンの材料技術者は高分子の疲労破壊にクリープが関係していること、そしてそのクリープは高分子が紐状の分子の塊であることから避けられない物性であることを理解していなかったようだ。
カメラ会社としては一流であってもそこに勤務している材料技術者の力量が低かったために、看板商品であったF100を10年程度で自然に壊れる商品として設計した。
もしニコンの材料技術者が昨日書いた内容程度の知識を持っており、高分子のクリープの機構を理解しておれば、裏蓋のフックの設計を変更していたに違いない。
すなわち昨日書いた内容を少し深く理解しているだけで、このような失敗を防ぐことができる。しかし、昨日のようなことは昔の高分子材料の教科書には書かれていない。また、大学の先生の説明では難解な説明となる。
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高分子は、何も添加されていない一種類の高分子を加工しても3つの構造ができるという。
すなわち結晶化しやすい凝集部分、樹脂であれば微結晶になっているかもしれない構造と、非晶質の構造、そして非晶質の構造は密度の高い構造と密度の低い構造ができる。
これは、紐を乱雑にまとめて放り投げ、床に落ちてできる模様を見れば、何となく理解できる。高分子は紐状の分子なのでこのモデルで高分子の構造イメージを学ぶと高分子物理を理解しやすい。
不規則に重なった紐の構造をよく見ると、スカスカの構造が幾つか観察できるが、これが自由体積部分と呼ばれる構造である。高分子の非晶質構造の中には、このようなスカスカな構造、自由体積部分が必ず存在する。
高分子の射出成形体の密度がばらつくのは、この構造を制御しにくいためだ。すなわち,高分子の自由体積が高分子物性のばらつきと関係している、と言っても言い過ぎではない。
例えば密度がばらつけば、弾性率や誘電率が必ずばらつく。誘電率がばらつけば、屈折率もばらつく、という具合である。
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指導社員は「複合材料」という本の中で説明されている複合則は、やがてパーコレーションで書き換えられるだろう、と教えてくださった。
しかし、今はまだ複合則が中心なので、まずその考え方を十分に理解しておく必要がある、とか、粘弾性についてもダッシュポットとバネのモデルが説明されているが、これもやがて新たな体系で説明されるだろう、しかし、今皆が使っている考え方なので覚えておくように、などと指導してくださった。
この指導社員は大学の先生よりも知識が多かった。質問すればすべて的確な回答が返ってきた。また、高分子についてフローリーの高分子が大学で教えられている点について、あれは一つの研究事例だと批判的だった。
フローリーの高分子を理解できてもゴム技術の実務の理解は難しいだろうとも言われていた。高分子材料の知識で何が一番大切かといえば、それは高分子を加工したときにできる構造だ、と教えてくれた。
さらにゴムと樹脂の違いや、高分子材料は単一成分で実用化された例は無いとか、χパラメータよりもSP値、それも溶媒に溶かして求めるSP値が重要だ、とか大学では教えてもらえない多くの実務知識をこの指導社員から学んだ。
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学生時代に化学系の学部だったので高分子の授業を幾つか受講していたが、残念ながらそれらの知識を社会で活用できなかった。高分子の重合が中心の授業だったので、実務と無関係の内容がほとんどだった。
また実務で大切となった高分子物理についてはフローリーの希薄溶液理論が中心でバルクの話は皆無だった。
今でも当時の教科書を大切に保管しているが、社会に出て一度も開いたことがない。バーローやムーアの物理化学の教科書は今でも時々必要に応じて読む。フローリーの「高分子」も上下持っているが、授業で活用して以来一度も読んでいない。
高分子についてはゴム会社に入社したときに指導社員から勧められた本が役に立った。写真会社にはいるまではそれらで事足りた。しかし、1980年頃から、高分子科学は大きく進歩したように思う。
まず、高分子導電体について。白川先生のノーベル賞受賞で学生時代に購入した「高分子半導体」という本はゴミ箱行きとなった。高価な本だったが白川先生の受賞が報じられた一夜でゴミになった。ただしこの経験は重要だった。
ゴム会社の指導社員から「複合材料」という本を薦められたときに、この本はいつまで使えますか、と質問した。指導社員は、もう時代遅れだが古典的に良い本だから一度だけ読むと良い、と知恵を授けられた。
フローリーの「高分子」も古典的に良い本だったが、一度読んだだけである。理論的に書かれており、理解しやすかった。しかし、それだけだった。目の前の樹脂補強ゴムの開発には「複合材料」に書かれていた考え方が役立った。それらはフローリーの著書には書かれていなかった内容である。
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