高分子は、何も添加されていない一種類の高分子を加工しても3つの構造ができるという。
すなわち結晶化しやすい凝集部分、樹脂であれば微結晶になっているかもしれない構造と、非晶質の構造、そして非晶質の構造は密度の高い構造と密度の低い構造ができる。
これは、紐を乱雑にまとめて放り投げ、床に落ちてできる模様を見れば、何となく理解できる。高分子は紐状の分子なのでこのモデルで高分子の構造イメージを学ぶと高分子物理を理解しやすい。
不規則に重なった紐の構造をよく見ると、スカスカの構造が幾つか観察できるが、これが自由体積部分と呼ばれる構造である。高分子の非晶質構造の中には、このようなスカスカな構造、自由体積部分が必ず存在する。
高分子の射出成形体の密度がばらつくのは、この構造を制御しにくいためだ。すなわち,高分子の自由体積が高分子物性のばらつきと関係している、と言っても言い過ぎではない。
例えば密度がばらつけば、弾性率や誘電率が必ずばらつく。誘電率がばらつけば、屈折率もばらつく、という具合である。
カテゴリー : 高分子
pagetop
指導社員は「複合材料」という本の中で説明されている複合則は、やがてパーコレーションで書き換えられるだろう、と教えてくださった。
しかし、今はまだ複合則が中心なので、まずその考え方を十分に理解しておく必要がある、とか、粘弾性についてもダッシュポットとバネのモデルが説明されているが、これもやがて新たな体系で説明されるだろう、しかし、今皆が使っている考え方なので覚えておくように、などと指導してくださった。
この指導社員は大学の先生よりも知識が多かった。質問すればすべて的確な回答が返ってきた。また、高分子についてフローリーの高分子が大学で教えられている点について、あれは一つの研究事例だと批判的だった。
フローリーの高分子を理解できてもゴム技術の実務の理解は難しいだろうとも言われていた。高分子材料の知識で何が一番大切かといえば、それは高分子を加工したときにできる構造だ、と教えてくれた。
さらにゴムと樹脂の違いや、高分子材料は単一成分で実用化された例は無いとか、χパラメータよりもSP値、それも溶媒に溶かして求めるSP値が重要だ、とか大学では教えてもらえない多くの実務知識をこの指導社員から学んだ。
カテゴリー : 高分子
pagetop
学生時代に化学系の学部だったので高分子の授業を幾つか受講していたが、残念ながらそれらの知識を社会で活用できなかった。高分子の重合が中心の授業だったので、実務と無関係の内容がほとんどだった。
また実務で大切となった高分子物理についてはフローリーの希薄溶液理論が中心でバルクの話は皆無だった。
今でも当時の教科書を大切に保管しているが、社会に出て一度も開いたことがない。バーローやムーアの物理化学の教科書は今でも時々必要に応じて読む。フローリーの「高分子」も上下持っているが、授業で活用して以来一度も読んでいない。
高分子についてはゴム会社に入社したときに指導社員から勧められた本が役に立った。写真会社にはいるまではそれらで事足りた。しかし、1980年頃から、高分子科学は大きく進歩したように思う。
まず、高分子導電体について。白川先生のノーベル賞受賞で学生時代に購入した「高分子半導体」という本はゴミ箱行きとなった。高価な本だったが白川先生の受賞が報じられた一夜でゴミになった。ただしこの経験は重要だった。
ゴム会社の指導社員から「複合材料」という本を薦められたときに、この本はいつまで使えますか、と質問した。指導社員は、もう時代遅れだが古典的に良い本だから一度だけ読むと良い、と知恵を授けられた。
フローリーの「高分子」も古典的に良い本だったが、一度読んだだけである。理論的に書かれており、理解しやすかった。しかし、それだけだった。目の前の樹脂補強ゴムの開発には「複合材料」に書かれていた考え方が役立った。それらはフローリーの著書には書かれていなかった内容である。
カテゴリー : 高分子
pagetop
N先生は、ゴム会社の基礎研究で業績をあげられアカデミアへ転身された経歴である。そのようなキャリアなので実務も基礎科学も高分子分野においてすべてに精通されている先生だ。また誠実で真摯でもある。その先生は、最初にある書籍を紹介してくださった。
その著書は、ウトラッキーの書かれた書籍の翻訳だった。中身はあまり良くないが、巻末の表は大変役に立つ、とN先生は言われた。早い話が、実務を進めるに当たって、高分子材料技術について調査する方法とそのまとめ方を伝授してくださったのだ。
そして、高分子物理はこれからどんどん進歩するので学会での勉強が欠かせないとのアドバイスがあった。写真会社で20年実務を担当したが、まさにそのアドバイスに従い実行して肌身でその正しさを感じ取った。
肌身で感じ取った、と言う意味は、難しくて頭で理解はできなかったが、多くの教科書が書き直されたりしなければいけないという感覚を学ぶことができた、ということだ。
これは大切な感覚で、現場で目にしたことを単純に教科書どおりに眺めていてはいけない、という意味でもある。N先生は、”自分の出した結果以外信じられない段階の技術だ”、とも表現された。N先生はアカデミアに席を置かれているのでKKDも重要とは言いにくかったのだろう。
カテゴリー : 一般 高分子
pagetop
何を学ぶかは大切だが、世の中には学ぶべき事柄は多く、おそらくそれらすべてを一生かかって学び上げることは不可能だろう。現代は情報がほぼ無限といえるぐらい存在し、社会に知識が溢れている時代である。
この溢れる知識を一つづつ学ぶ作業について論じることは大量の論文を書く作業と等しいが、その学び方であれば、共通点が存在し、そこに焦点をしぼり手短に論じることができると思う。
写真会社に転職し担当したフィルム成形とその表面加工技術には「高分子材料技術」の知識が不可欠だった。そしてその知識の大半はゴム材料技術の知識とは遠い関係にあった。
セラミックスについては、高純度SiCの合成法を開発したときに専門家としてやっていけるだけの知識を身につけていた。どのようなセラミックス材料でもあるいはどのようなプロセシングでも開発できる自信があった。
それらの知識獲得に社会で公開されていた教科書は役に立たなかった。無機材質研究所で専門家から直接教育された知識だけが当時のセラミックスフィーバーの時代に唯一役に立つ知識、という経験をした。
この経験故に転職直後には迷わず東大の赤門をくぐり、高分子の一流の専門家に知識の伝授をお願いする行動をとった。技術について基礎知識を得たいならば、学歴とは無関係にまずアカデミアの門を叩く、という行動は大切である。
アカデミアの敷居が高いならば弊社のような会社にまず相談する、という行動は知識を獲得するために良い方法である。弊社ではセラミックスから高分子技術まで材料すべてについてご相談頂いた内容に対して適切な回答を出すことが可能です。
カテゴリー : 一般 高分子
pagetop
ロール混練機で常用できるのは、せいぜい250℃までだ。200℃が限界というロール混練機も存在する。ロール混練機については小平製作所に問い合わせていただきたいが、単純な二本のロールで混練が可能なこの装置について仕様を決めるにも高分子のことが理解されていないと使い物にならない場合が希にある。
また、温度仕様により、値段が大きく変わる場合がある。ロールの駆動部分に使われるシール材が変わるからであり、単純な構造であるにもかかわらず、混練温度という因子に対して、見かけ以上にやっかいな装置である。小平製作所がロール混練で事業を開始した、という話もこのようなことが分かっていないと、単なる根津の中小企業と誤解してしまう。
二軸混練機などの多軸混練機は、その目的が樹脂の混練で考案されたので、300℃前後まで加温できる設備が一般的である。たいていは350℃が最高温度のようだが、400℃まで使用できる二軸混練機も存在する。
ところで高分子の混練温度は溶融温度以上だと考えている研究者や技術者が多い。特に樹脂を扱っている技術者は、高分子の溶融温度以下で混練する、というと混練技術を知らない、と決めつけてくる。
このような技術者はゴムの混練が溶融温度以下でも行われている、という常識が無く、樹脂だけの経験ですべての混練技術に精通している、という井の中の蛙状態だ。このため樹脂を溶融温度以下で混練する剪断混練技術についてはあまり知られていない。詳細は弊社に問い合わせていただきたい。
当方は中国ローカル企業を指導するときに、この剪断混練の技を教えている。過去に日本で笑われた経験があるので、日本ではお客様の顔色をうかがいながらこの技を説明するかどうか決めている。溶融温度以下で樹脂を混練可能であることを知らない技術者もいる。
(注)オープンロールの設計において300℃以上にロールを加熱する技術は存在する。しかし、300℃以上に加熱できるロールが普及していないのは、オープンロールによる混練を300℃で行った時に高分子や添加剤が酸化される問題がある。すなわちロール混練に提供されるロールが300℃以上に加熱可能な仕様になっていないのは、ロール作業が空気雰囲気で行われ高分子の酸化という問題があるためと思われる。
カテゴリー : 高分子
pagetop
会社は休みにしたが、この欄は休みなく書き続けます。今日は混練の話題を思いつきましたので混練温度について書いてみます。
ポリマーブレンドを製造するときに混練機を用いる。混練機にはバッチ式と連続式があり、バッチ式にはロール混練機やバンバリーミキサー、ニーダーミキサーが、連続式には一軸混練機や二軸混練機などがある。
混練機がどのような機能を発揮するのかは、料理の経験があれば実物をみると容易に想像がつく。しかし想像された内容だけでは使いこなすことができず、教科書を探すことになるが、良い教科書がない。
困るのは装置メーカーも操作方法を教えてくれるが、それは基本操作だけであり、応用操作を教えてくれない。実は混練機の使い方にも進歩があり、掟破りと言ってもよいような使われ方もしている。
例えばロール混練機は一般にゴムの混練機として知られており、設備を扱っている業者もその目的で販売している。しかし、樹脂もロール混練機で混練できるのだ。ただロール混練機は高温度にできる機種が無いのでゴムの混練機として使われているだけだ。
なぜロール混練機では混練温度を高めることができないのかは、オープンロールという構造で開放空間で混練を行うからだ。また、一般にオイル循環させてロール温度を均一に保っているので、最高温度が加温するために使用しているオイルで制限される。
例えば二軸混練機では容易に実現出来る300℃という温度の混練は、一般のロール混練機を用いて実現出来ない。教科書にはこのようなことも書かれていないが、混練装置を考えるときにこれは重要なことだ。
同じ高分子を様々な混練機で混練した経験を持つ当方は、依頼があれば研究用の面白い混練機を試作したいと思っている。
カテゴリー : 高分子
pagetop
微粒子が分散している溶液の物性測定は難しい。すなわち微粒子がその溶液全体に均一に分散しているかどうかが保証されていない時には溶液物性がばらつくからである。
1lほどのメスシリンダーに10%酸化スズゾル水溶液(アンモニア水)を入れて放置すると、上部からサンプリングした溶液と底部の溶液で粘度の周波数依存性が大きく異なる。
しかし、このような状態になっても、微粒子濃度は、熱分析装置で測定した残渣から計算される値で、大きな偏差は生じない。アンモニアの揮発量が上部と底部で大きく異なっていないからだ。
レオロジー特性は異なっていても微粒子濃度に変化がないという現象に接した時に最初は驚いた。また、pHも試験紙で観察した限りでは変化がない。ただしpH計では差が現れる。これには困った。
pH系の結果は電離の状態が異なるために差が大きく出たのだが、微粒子分散溶液を生産に使用するときにこの偏差をどのように管理するのかが問題になる。
ここから先はノウハウになるが、このような管理の厄介な微粒子分散溶液では、工程で生じうる現象をすべて書き上げて対策を行うFMEAが有効である。
科学的に対応しようとすると痛い目に合う。泥臭く書き上げた項目について机上の検証と必要に応じて実験を組み合わせ対策をとらなければいけない。
カテゴリー : 高分子
pagetop
一般の微粒子は、粒度分布があり、そのサイズにより扱いやすさが異なる。ここで問題となるのは、粒度分布の測定方法で、多くの方法では、適当な溶媒に微粒子を分散させて粒度分布計で測定する。
多くは水に界面活性剤を添加した溶媒を用いる。すなわち粒度分布の測定では、溶媒の中で微粒子が一粒ずつ分離し、分散していることを仮定している。これを忘れている人が多い。
細かい問題を問わなければ、多少凝集粒子が存在したとしても、その統計的分布は大きな影響を受けないので得られたデータをそのまま活用できる。
しかし、粒度分布には、これ以外に測定装置の影響も無視できない場合がある。測定装置の影響は粒度分布測定装置の営業マンも売込みトークとして用いる場合もあるのでご存知の方も多いと思うが、測定時に溶媒の中で微粒子が単離しているかどうかは、どの測定装置でも存在する。
ゆえに微粒子の粒径測定において、必ず電子顕微鏡観察との併用が重要になってくる。この時の観察では、少なくとも3視野以上みておく必要がある。
もし電子顕微鏡写真で求めた粒径分布と粒度分布系で求めた分布とが異なった結果であれば、粒度分布測定時に溶媒中で粒子がクラスターを形成している可能性がある。ただし、電子顕微鏡では狭い視野の範囲における粒度分布である点を忘れてはいけない。ゆえに少なくとも3視野以上観察する必要がある。
カテゴリー : 高分子
pagetop
燃焼時の熱でボロンホスフェートを合成し、基材の高分子を難燃化するアイデアは、当時として画期的であった。しかし、貯蔵安定性にすぐれたホウ酸エステルの分子設計が問題となった。すなわち、簡単な構造のジオールとホウ酸から合成されるホウ酸エステルでは耐水性が無いので、工場で使用できない。
しかし、この問題はたまたま実験室にジエタノールアミンがあったので、簡単に解決できた。もっともポリウレタンの研究開発を行う部門だったので、ジオール類は一通りそろっていた、という好条件が幸いした。運が良かったのだ。
ホウ酸とジエタノールアミンとの反応は簡単だった。両者を混合し、100℃で1時間程度攪拌するだけで合成された。水が副生するが、軟質ポリウレタンフォームでは発泡剤として水を使用するので脱水する必要は無かった。
面白いのは、脱水しなくてもホウ酸エステルの構造で安定に存在している現象だった。マススペクトルで、6ケ月経過後のホウ酸エステルを評価しても合成直後と変わらなかった。また、ポリウレタンの反応にもジエタノールアミンの効果を考慮すれば、影響がないと結論できた。
ホウ酸エステルとリン酸エステルを併用して軟質ポリウレタンに添加したところ、期待通りの高い難燃効果が得られ、燃焼後の残渣には材料設計通りボロンホスフェートが残っていた。
指導社員の指示で、市販の主だったリン酸エステルとの組み合わせについて実験を行った。50配合程度評価したので、その燃焼結果を多変量解析した。その結果、統計学的にもホウ素とリンとの交互効果が確認された。リン酸エステルについて主成分分析を行い、化合物の分類をしてはいたが、残渣分析の結果からは、リン酸エステルの構造の影響はほとんど無かった。
カテゴリー : 一般 高分子
pagetop