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2016.07/01 配合設計(たとえば難燃性樹脂)(11)

 「高分子の難燃化技術とは」という問題を科学的に考えると、燃えにくくすることや耐熱性をあげることなどいろいろなことを考えなければ行けないが、「着火しても火が消えやすい材料に変性する技術」は一つの解答であり、これは難燃性材料開発方針になる。
 
 高分子材料に着火した火を消えやすくする手法には、着火した時に溶融し、その吸熱反応で火を消す方法(溶融型難燃化システム)と、燃焼時に炭化を促進して燃焼している面にチャーと呼ばれる断熱層の形成を促進する方法(炭化促進型難燃化システム)が知られている。
 
溶融型難燃化システムの事例についてはR-PETを活用した難燃性ポリマーアロイを以前紹介したので、これから炭化促進型難燃化システムについて軟質ポリウレタンフォームを開発事例として難燃化とその評価技術について述べる。
 
 難燃剤としてジアミノテトラフェノキシホスファゼン(DAPP)と反応型リン酸エステル系難燃剤(Fyrol-6)、添加型リン酸エステル系難燃剤(TCPP)の3種を用いてその性能を比較した。

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2016.06/30 配合設計(たとえば難燃性樹脂)(10)

1983年に米国で開発されたコーンカロリメータ(8)は、実火災に近い現象を再現できるように、評価装置へ固定された試験片の表面に疑似火災環境を作り出し、燃焼の挙動をモニターして材料の難燃性を評価しようという狙いである。そのため、この装置を用いると燃焼現象に関する多くの情報を収集することができる。
 
測定原理は、有機材料の燃焼時における発熱量が酸素消費量1kgあたり13.1MJであるという1917年に発見されたThorton(米国人)の原理を用いている。この原理は実践知であり、厳密な意味で科学的とはいえないが、建築基準法の不燃材料等の評価にこの方法による発熱性試験の項目が含まれている。
 
 コーンカロリメータほど多くの情報が得られない規格でも、燃焼速度や一定の大きさのサンプルの燃焼時間が難燃性の評価基準として採用されているケースは多い。しかし、材料の燃焼速度や火が消えるまでの燃焼時間は、実火災における材料の燃焼において一部の評価尺度にすぎないことはLOIと同様である。
 
燃焼時の材料挙動に関し多数の情報が得られる評価装置だけでなく、煙量だけを簡便に計測できるようにした装置もある。例えば、難燃性ポリウレタンホスファゼンコポリマー発泡体と一般のリン酸エステル系難燃剤を添加したポリウレタン発泡体について燃焼時に発生する煙量を濾紙に付着した煤で比較する装置である。
 
この比較で、ホスファゼン系難燃システムでは大幅に発煙が抑えられていることがわかった。このような燃焼過程の一部分だけを取り出した評価技術は、高分子の難燃化機構を絞りこんで考察する時に便利である。
 
ちなみに、ホスファゼン系難燃剤で煤の発生が少なくなるのは、燃焼時に揮発しないためである。リン酸エステル系難燃剤では、燃焼時の熱で難燃剤が分解し、沸点が240℃のオルソリン酸となり、揮発するため、煤が多くなる。ハロゲンを含めばなお一層煤は多くなる傾向がある。

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2016.06/28 配合設計(たとえば難燃性樹脂)(9)

高分子材料の難燃化とその評価法について、LOIとUL94-V試験を事例に、難燃性評価試験の概略を説明してきた。ポリマーアロイの用途が決まると、その分野における難燃規格が材料の品質項目の一つとなるので、難燃性ポリマーアロイの技術開発では、用途に応じた材料設計方針が重要となってくる。
 
これは、「難燃規格を通過するための材料開発」を意味しているが、それでは、科学的な香りがせず、いかがわしささえ感じる読者がいるかもしれない。しかし、難燃規格が材料の用途において実火災を考慮し制定されている点に着目すると、これは賢明な考え方である。
 
 30年以上前にJIS難燃2級という建築材料向けの欠陥評価法があった。そして、この評価法に合格するように膨らみ変形する発泡体が台所の断熱天井材用途に開発された。評価装置に取り付けて試験を開始すると、点火された試験炎から逃げるように高分子発泡体が膨れるため着火することはない。その結果、煙も出なければ燃焼による発熱も無く、あたかもセラミックスボードを評価しているようなデータが得られて試験が終わる。
 
 このような材料が市場に出まわった結果、耐火建築でも実火災で簡単に燃えるという事件が発生し社会問題になった。そこで規格の見直しが行われ、実際の天井材に近い大きさの試験片を用いる簡易耐火試験が、プラスチック天井材の建築基準として採用されるにいたった。
 
これは、当方が技術者としてスタートした頃の出来事であり、問題を起こしたJIS難燃2級という規格が科学的に研究されて制定された評価法だったので、難燃性高分子を開発するには、評価「技術」が重要であるという認識を持つようになった。
 
 高分子の難燃性を評価する技術は、いろいろ開発されてきた。紙面の都合でそれらをすべて解説できないが、これら評価技術の細かい知識を習得するよりも、開発のターゲットとしている市場で要求される難燃規格についてその知識を深める努力をした方が実務上役に立つ。
 
 火災で高分子が燃える、という現象では、火源により高分子が熱せられて温度が上昇し、添加物や高分子の分解物がガス化、そしてその酸化が激しくなり、燃焼に至る。この時酸素不足となれば、酸化が終結し火が消える。高分子の構造に二重結合を形成しやすい要因や、脱水素を促進する触媒機能を示す添加剤あるいはラジカル補足剤が存在すれば高分子は炭化する。ここで生成する炭化物はチャーと呼ばれ、燃焼している面で発泡したチャーが形成されると、それが耐熱断熱層になり燃焼が停止する。
 
 この燃焼の各段階すべてを同時に評価できる技術の開発は大変難しい。ゆえにすでに提案されている難燃規格は、燃焼の一部のプロセスについて製品の用いられる環境で発生する現象を考察し制定されている。

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2016.06/27 配合設計(たとえば難燃性樹脂)(8)

UL94-V0以上という高い難燃性の材料を設計したい時に、溶融型の難燃化システムでは材料設計ができない。
 
このような場合、燃焼時にチャーと呼ばれる炭化層を積極的に生成する炭化促進型難燃化システムで材料を設計する。この時、LOIは他の難燃性試験法よりも重宝する。
 
ここで難燃化の機能と相関する高分子の一次構造因子や高次構造因子があるならば、化学分析を行いその量を計測しておくとよい。また、燃焼試験結果を考察するために高分子の熱特性の情報は有用である。
 
一般に用いられている熱重量分析(TGA)や熱機械分析(TMA)、熱走査時差熱分析(DSC)を測定すると、火災時の熱分解や膨張変化について材料科学の視点で理解が深まる。
 
難燃剤の分散状態を知りたければ分析用のSEMやTEM、XMAなどはその手段の候補となる。ある環境対応難燃性ポリマーアロイPC/ABSのSEM観察結果について紹介する。
 
EDAXによるリン原子Pのマッピングを拡大した写真では、リン原子の存在しない領域が分布している様子が観察された。難燃剤のシステムによりこの分布は変化するが、ABS相の分布とうまく一致している。
 
また難燃剤の計量を簡便に行いたいならば赤外分光法(IR)が役立つ。ノウハウになるが、先に説明したR-PETを80%含むポリマーアロイでは、粘弾性評価も材料設計に使用している。

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2016.06/26 配合設計(たとえば難燃性樹脂)(7)

UL94-V2試験では、サンプルを垂直に保持する点でLOIと同じだが、着火は下から行う。ゆえに溶融物は下に落ちて火が消える。
 
ただし、高温で溶融しやすい材料がすべてこのような結果になるわけではない。UL94-V2試験に合格するように「巧みに」材料設計された場合だけである。
 
高温で溶融しやすい材料でもUL94-V2試験に不合格となる材料は存在し、この材料のLOIが仮に20.5と測定されたとしても、UL試験では、昨日紹介したR-PETを80%含むポリマーアロイよりも燃えやすい材料との判定になる。
 
ところで、UL94-V2試験に合格した材料は、電気器具の内部で発火し、もらい火をするような状況の時でも自己消火性を示し延焼しない。
 
UL試験は、アメリカの民間会社で開発された評価試験法だが、材料が応用される分野において実火災との対応がよく考えられた難燃性評価法であり、多くの分野で標準規格として採用されている。

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2016.06/24 配合設計(たとえば難燃性樹脂)(6)

40年近く前にJIS化されたLOIは、酸素と窒素の混合気体の雰囲気の中に細長い板状のサンプルを立て、その上端に着火して燃焼状態を観察する試験法である。
 
この試験法では、継続して燃焼するために必要となる最低限の酸素濃度を指数化して、材料の難燃性を評価する。
 
測定手順から理にかなった燃焼試験法に思われるが、実火災において、この尺度で求められた難燃性の評価が不適切な場合もある。
 
例えば、空気の酸素濃度は約21%なので、LOIが21以下となるように寝具を材料設計していたならば、寝タバコの火が寝具に着火して火災につながる危険性がある。
 
しかし、LOIが21以下でも燃焼が広がらない安全な材料を設計する方法がある。それは熱で簡単に溶融し自己消火する材料設計手法である。このように設計された材料では、寝たばこ程度で着火しても、溶融時の吸熱効果で火が消える。この難燃化手法は溶融型難燃化システムあるいは溶融ドリップ型難燃化システムと呼ばれている。
 
この考え方で、PETボトルのリサイクル材(以下R-PET)を80wt%含有し、射出成形可能な難燃性ポリマーアロイを高価な難燃剤を用いないで開発した。
 
この樹脂の配合において20wt%に相当する組成は、射出成型が難しいPET樹脂を容易に射出成形できるようにするための成分や、靱性向上のため添加され混練プロセスで動的架橋されたゴム成分、弾性率を向上できる成分、溶融型で難燃性機能を付与する成分などである。
 
すなわち、このポリマーアロイは強相関ソフトマテリアルの概念で設計されており、それ専用の手法で開発された材料である。
 
この材料は、R-PETが80wt%含まれるポリマーアロイなのでLOIは18程度となるが、UL94-V2試験ではドリップ効果により自己消火性となり合格する。
 
LOIによる難燃性評価では空気中で燃焼し続けると判定された材料でも、自己消火性と判定される試験法に疑問を持たれるかもしれない。これは、それぞれの試験法においてサンプルへ着火する方法が異なる点に原因がある。

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2016.06/23 配合設計(たとえば難燃性樹脂)(5)

 計算機化学の有効性が言われてから40年近くになるが、実際の現場でシミュレーションを用いた処方設計の事例は多くない。
 
 40年近く前、粘弾性論に基づく数値解析により防振ゴムを設計した経験がある。また、パーコレーションをシミュレートできるプログラムを開発して、フィルムの帯電防止層やカラー複写機用中間転写ベルトを開発した経験もあるが、プログラム開発時間を含めなければ、大変効率の良い方法である。
 
 パーコレーションについては、1960年代に数学の世界でその理論がほぼ完成し、1990年代に材料開発へ応用されるようになった。真球の導電体を絶縁体に分散したときに、クラスターを生成しやすい条件と、クラスターが生成しにくい条件とを比較したシミュレーションを行うと、体積分率で0.3から0.6の領域で導電性がばらつき、それが確率に支配されていることを理解できる。
 
 詳細は省略するが、酸化スズゾルをポリマーバインダーに分散したときに生じるパーコレーションの様子をこのプログラムで計算し、20vol%未満でもパーコレーション転移が生じることがわかり、酸化スズの添加量が18vol%という低い値で帯電防止層を設計し実用化している。
 
電顕写真で帯電防止層の断面写真を観察すると、ポリマーアロイバインダーにネットワークを形成して酸化スズゾルが分散している様子を観察することができる。
 
 この技術は50年以上前に発明され、その後シミュレーションを行わず検討していたときには、帯電防止層に使えない材料という結論が出されていた技術だった。
 
再度開発を行う時に、シミュレーションで現象を見直し、新たにバインダーやプロセシングを改良して開発に成功した。
 
 ところで、高分子のシミュレーターとしてOCTAが有名であるが、こちらは2040年頃になれば処方設計にも使えるようになると一部で言われている。しかし、高分子物理がまだ発展途上なので、現在のところOCTAも開発途上という位置づけになる。ただし、無料ソフトウェアーが配布され、それを利用できる環境は整っている。
 
 OCTAの普及とともにバネとダッシュポットのモデルを使用する旧来の粘弾性論は、高分子分野では形式知の遺物になると思われる。

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2016.06/22 配合設計(たとえば難燃性樹脂)(4)

 タグチメソッドが日本で普及してきた。この手法で多数の制御因子を解析するときには、制御因子をラテン方格に割りつけ、基本機能のSN比でこれを評価する。うまく実験計画を組めば、二律背反に陥る心配は無いので便利な手法である。
 
 タグチメソッドと似ているが、統計手法である実験計画法でも同一の実験環境で多数の処方因子を評価できる。しかし、これは単相関の実験を効率的に行う方法であり、単相関で解析する時と同様に二律背反に陥ることがある。
 
さらに実験計画法では、タグチメソッドのように再現性の良い実験結果が得られない場合もある。実験計画法もタグチメソッドもラテン方格を用いるので同じものだと誤解している人が多いが、これらはまったくその実験思想が異なっている。
 
 多数の処方因子を評価解析する手法として多変量解析も用いられる。ただし注意しなければいけないのは、重回帰分析を行うときには各変数の一次独立性を吟味しなければいけない点である。
 
 各変数の間に従属関係があると、重回帰分析で相関係数の高い式が得られても使えない。このような場合には、段階式重回帰分析や各変数を一度主成分分析で一次独立に変換してから重回帰分析する手法が使われる。

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2016.06/20 配合設計(たとえば難燃性樹脂)(3)

 ゴムや樹脂の新しい配合を開発するとき、主成分となるポリマーを100部とし、この値を基準にして、必要な各種添加剤の部数を計算する。
 
そして、各種添加剤の部数を数点変量して処方された材料の成形体について諸物性を評価して表にまとめ、目的とする品質を実現出来る配合を探索する。
 
同時に、添加剤を横軸にし測定された物性を縦軸にしたグラフで配合部数の変化に対する物性変化を読み取り、最適な配合量を探ったりする。
 
 ポリマーそのものの分子設計を行う場合には、基準配合を用いて、様々な条件で合成されたポリマーをその基準配合で処方し、成形体を作成して物性評価を行う。
 
 これらの場合に、単相関の解析で材料設計を進める手法はよく行われるが、この方法で困るのは、二律背反の物性が観察されたときである。
 
二律背反とは、配合因子がお互いに交絡しており、ある物性を改善しようとその物性を制御できる因子を最適化した時に他の物性が悪くなってしまう現象である。因子をすり合わせて、適当な物性で品質を満たせるように解決できればよいが、大半は失敗する。

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2016.06/14 配合設計(たとえば難燃性樹脂)(2)

機能性材料の構造と機能の相関性について技術開発経験を重ねると、多機能の高分子材料を処方設計する時、最初に製品品質を創り込める構造を設計し、それを実現できるプロセシングを選択する、という手順で行うようになる。
 
 さらに達人になれば、ソフトウェアー開発に採用されているアジャイル開発と同様に、いきなり多機能高分子材料を組み立て、市場に投入する荒技を使う。
 
 アジャイル開発とは、市場の中で製品を創り上げてゆく開発手法である。機能性高分子材料については、20世紀に多くの特許が出願されており、機能を創出する手段や方法の情報が多数公開されている。
 
 すなわち、機能性高分子について、その機能実現の手段や方法が多数の情報のおかげで分かっているので、特許に抵触しないようにシステムを設計し、材料の処方をいくつか組立て、とりあえず造った材料をユーザーに評価してもらい、ニーズに最も近い材料を選択する、という手段を採ることが可能となる。
 
 そして、選択された材料についてタグチメソッドで最適化、という手順で開発すれば、新材料を容易にかつ迅速に創出できる。このような開発手法がアジャイル開発である。
 
 中国の某ローカル企業をこの手法で指導したところ、UL94-V0に合格する新規の熱伝導性ポリマーアロイを3ケ月で実用化できた。さらに同時に開発を進めた光散乱樹脂では、半月の工数というスピードでお客様に採用されている。
 
 この二種類の新材料開発において、UL94-V0の認証取得までの期間が最も長かった。光散乱樹脂の開発では、あらかじめ熱伝導性ポリマーアロイの開発スタート時に、この材料と一緒に、ほぼ本命となる仮配合でUL申請を行い、熱伝導性ポリマーアロイの開発を終了してから、光散乱樹脂の開発を始めている。その結果、光散乱樹脂の開発が完了した時に、熱伝導性ポリマーアロイと光散乱樹脂のUL認証を同時に受けることができた。
 
 この途中段階では、光を散乱するために添加しているシリコーンビーズの大きさや量の最適化をお客様に協力していただき、開発速度を速めている。
 
 ここで重要となってくるのは評価技術で、市場投入時に大きな問題が起きないことを開発初期に実験室で確認できるレベルが要求される。
 
 アジャイル開発を行う場合でも旧来の手順で開発する場合でも、処方設計技術と同様に物性評価技術は重要である。19日から難燃性評価技術を取り上げ、その処方設計手法と評価技術について説明する。

カテゴリー : 高分子

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