半年後に中間転写ベルトの生産歩留まりを100%にしなければいけない状況で、コンパウンド工場を基盤技術0の状態から立ち上げるには個人の力だけでは不可能だ。
生産用の二軸混練機を導入するだけでも新品であれば発注から半年以上かかる。発注するための社内手続きでも最低1か月以上かかる。高額であれば役員会の承認も得る必要があって常識的判断をしたならば諦めることになる。
この時のセンター長は腹の座った人で、単身赴任したての小生が、早期退職の覚悟でこの仕事を引き受けたこと、コンパウンドの開発から行わない限り半年後も歩留まりは今のまま、と説明したら、8000万円で何とかしろ、と決断している。
8000万円では新品の二軸混練機も購入できないので中古機で量産ラインを立ち上げることが決まり、サプライチェーンの問題からQMSに登録されていない子会社を間借りする方針までその日にすぐに決まっている。あとは成功させるだけである。
中途採用の若者といかにも頭のキレがよさそうな職人二人をメンバーとしたプロジェクトでカオス混合のプラント立ち上げを始めたのだが楽しかった。
3か月ほどでラインが完成したので、まずPPSと6ナイロンだけのコンパウンドを混練している。カオス混合装置の吐出口から透明な樹脂液が出てきたときに、中途採用の若者は腰を抜かした。彼は高分子科学をよく理解していたので採用したのだが、期待通りだった。
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PPSと4,6ナイロンの相溶を証明したのは東工大扇沢研究室である。PPSへ4,6ナイロンが配合された混合物を二枚の反対方向に回転するガラス円盤に挟んでその場観察する実験を行っている。
この実験でコンパウンドは300℃になると周辺部が透明になる。円盤の周辺部は、中心部よりも剪断速度が速いので、この観察結果は、剪断速度があがるとPPSと4,6ナイロンが相溶することを示している。
PPS/6ナイロン/カーボンの配合によるコンパウンドで中間転写ベルトの押出成形を担当することになった15年以上前にこの論文を読んだ。
そして、半年後に当時の歩留まり10%未満だったベルトの生産をカオス混合によるコンパウンドで100%にできる確信をしている。
フローリー・ハギンズ理論によれば、2種のポリマーブレンドが相溶する条件はχが0にならなくてはいけないので、この確信は自信というよりも東工大の研究結果を信じて教科書を否定するぐらいの度胸が必要だった。
カオス混合によるPPSと6ナイロンのブレンドではχが0でなくても相溶し透明になってくれたのだが、予備実験も研究も何も行わず生産ラインでこの現象をいきなり確認しようとしたのは無謀といってもよい。
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金属やセラミックスの劣化機構とその予測に関して、科学でほぼ説明できるレベルにあり、御巣鷹山の飛行機事故についてはフラクトグラフィーを用いた解析で、圧力隔壁の修理不適切な部分からの疲労破壊が原因だったことも裁判の判例として残っている。
同様のことが高分子材料で起きていたらおそらく判例のようにうまくまとまらなかったのではないか。例えば、10年以上前に複写機外装材のボス割れについて明らかにコンパウンド起因と技術的に解析できたが、科学的証明が困難だった。
コンパウンドメーカーと議論しても平行線となって結論が出ず、現場監査となって混練機の温度管理が不適切でスの入ったペレットを生産していた現場を動かぬ証拠とした。しかしそれでもコンパウンドメーカーは科学的な証明ができていない、と主張していた。
この問題は、科学的になかなか結論が出せず、結局混練プロセス管理の徹底によりスの無いペレットを納入することとして幕引きとなった。
その後ボス割れが発生していないことから、技術的に予想されたスの入ったペレットが原因だったことの証拠と思われたが、それでもコンパウンドメーカーは非を認めなかった。
高分子成形体の劣化の場合に、コンパウンド起因と科学的に説明が難しい理由は、高分子材料について科学的に完璧な記述が難しいことによる。
溶融状態の高分子科学についても未解明な現象がまだある。それが成形体となってもその成形体物性を科学的に完璧に説明できない。これに時間の要素が加わった高分子の劣化問題について、科学の研究は易しいが実務における現象を説明することは難しいトランスサイエンスである。
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二軸混練機を用いて高性能ポリマーアロイのコンパウンディングを行う時に、その条件を決めるためにタグチメソッド(TM)は大変便利だ。カオス混合機を取り付けた二軸混練機のスケールを大きくしてもその再現性は高い。ただし、カオス混合機が取り付けられていないと苦労する。
二軸混練機については、反応器であるにもかかわらず、化学工学的に相似形として扱えないことを現場の技術者はよく知っている。すなわち時間当たり10kgの処理能力の二軸混練機で吐出量が1時間当たり300kgスケールを予測することができない。
これはバンバリーとロール混練を組み合わせて用いる場合でも同様であるが、二軸混練機の場合には全く予測できない場合が多い。バンバリーとロール混練を組み合わせた場合には、ロール混練時間を多少伸ばす程度で大スケールで小スケール時の検討結果を再現できる。
しかし、二軸混練機では小スケールのコンパウンド性能を全く再現できないことすらある。結局小スケールの再現ができるレベルまで生産量を落とし量産に入る場合が多いのではないか。あるいは、大スケールで妥協ができる程度に改めて条件の変更を行う場合もある。
これはTMを用いても同様である。TMを用いた場合に大スケール化した時にうまく再現できる場合もあるが、複雑なコンパウンドの場合に大スケール化により機能を実現できない場合がある。
これは、二軸混練機が大きくなると混練性能がスケールとともに劣化するからである。1時間当たりの吐出量を100kgから300kg、すなわち3倍程度のスケールアップでもうまく再現できない場合がある。
しかし、カオス混合機をつけてTMを行うと、そのような場合でも再現できた経験が多い。全く手におえないという経験は現在のところ無い。
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高分子の難燃化技術が急速に進歩したのは1970年以降である。1970年代中ごろには高分子の難燃化手法に関する書籍も販売されている。そして1980年代には各種リン酸エステル系難燃剤が上市され、1990年代には臭素系難燃剤のブームとなった。
修士2年間の研究で当方はPVAの難燃化技術の論文を1報書いている。当時珍しいLOIの装置を近所の女子大被服科で研究している、と指導教官から教えられて、装置を借りてLOIの評価を行っている。
PVAは接着剤や塗膜として用いられているがその難燃化が難しいということでどこかの企業が研究を持ち込んできた。それを担当する学生がいないということで小生が引き受けた次第。
ホスフォリルトリアミドの重合研究を行っていたので、そのホルマリン付加体を新規に合成しPVAの反応型難燃剤として用いたのだが、1か月もかからず研究をまとめることができた。
この時無機高分子で耐熱性高分子を合成しようと研究していたのだが、耐熱性高分子よりも難燃化技術の方が社会的に貢献度が高いと予感した。
ホスファゼンのジアミノ体の調査をはじめ、修士課程を修了後、4月1日にゴム会社へ入社する前の3週間ほどで、ショートコミュニケーションやホスファゼンの環鎖状型重合に関する論文をまとめている。
残念ながら400℃を越える耐熱性高分子を製造することはできなかったが、この時の高分子難燃化技術に関する調査研究がゴム会社入社後にポリウレタンの難燃化技術で活かされている。
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高分子材料が実用化されるためには、用途に応じた最適化が検討される。合成高分子が無かった時代には、飯粒は重要な接着剤だった。紙の接着であれば飯粒が十分な接着剤の役目を果たした。
小学一年か二年生だった時、ボール紙で夏休みの工作として作品を作ることになり市販のノリではなく飯粒で接着した思い出がある。市販のノリを使わなかった理由は、飯粒の接着性に興味があったからである。
今から思えば馬鹿な行為であるが、また、親にもその作業性の悪さを指摘されたりしているが、子供心に飯粒が接着剤として機能することに面白さを感じていたのだろう。
この思い出は悲惨な結果だったので今でも記憶しているのだが、接着部分にカビが生えたのだ。カビを取り除いてもそれが生えていたところは変色していた。
このとき、工作用ノリには防腐剤が添加されていることを学んだのだが、情けないのは大泣きをしたことである。大泣きをした思い出は今でも記憶しているが、その後夏休みの工作がどうなったのか記憶が無い。
そもそも飯粒で紙工作をしようとした発想は、親か兄弟からノリはご飯粒から出来ている、とかいう中途半端な知識を教えられたためで、その時防腐剤が添加されていることを聞かなかった。
そのような経験があり、怪しい新しい知識を百科事典で調べるようになった。当時インターネットなど無く家庭用百科事典ブームであり、子供のいる多くの家庭には1セット百科事典があった。
当方の家庭にあった百科事典には、料理について食材を混ぜる方法の説明はあったが、ノリに防腐剤をどのように混ぜているのか記述されていなかった記憶がある。
母親から大量に混ぜるので機械を使っているとの説明を受けたが、どのような機械なのかは企業秘密だ、と教えられた。当時母親の答えには企業秘密が多く、世の中は秘密ばかりと不思議に思っていた。
しかし、添加剤を高分子に混ぜる技術には今でも企業秘密にすべき内容がある。このような技術に遭遇された方は弊社にご相談ください。高分子に添加剤を混ぜる方法について、今でも技術の差が生まれる分野である。同一配合でも機能に大きな差が現れる不思議な現象は、この混ぜる技術が関係している。
カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子
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高分子の高機能化には一次構造の設計と複合化による設計の2種あり、開発の容易性において後者の方が経済的な視点から優位である。
一次構造の設計では重合条件が障害となる。すなわち机上で理想的な一次構造を設計できたとしても重合できなければ、あるいは側鎖の化学修飾にしても合成できなければその機能性を確認できない。
それに対して複合化による材料設計は、混練機が手元にあればおおよその検討をつける実験を容易にできる。但し、それが量産で再現できるかどうかは別の問題だが、とりあえず機能の確認をするためのモノを作ることができる。
複合化で高機能化が期待できる結果が得られたならば、タグチメソッド(TM)を行うとロバストの高い高機能性高分子ができる。
高分子の重合特許よりもコンパウンディングに関する特許の方が圧倒的に出願件数が多いのはこのような容易性からも説明ができる。
高分子の高機能化において工業的にはコンパウンディング技術が重要になってくるが、実はこの技術に関する形式知は少ない。論文を読んでもそこに書かれた結果を手元の混練機で再現できない場合も存在する。
また混練プロセスにおいて、バンバリーとロールの組み合わせによるバッチプロセスは、連続プロセスよりも高性能のコンパウンディングが可能である。しかし、この経験知はあまり知られていない。また樹脂をロールで混錬すると説明した時に笑う技術者もいるから面白い。
カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子
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20年近く前、すなわち早期退職前に担当した中間転写ベルトの開発は、データサイエンスを積極的に取り込んだモデルベース開発の集大成となった。
数理モデルにより、開発ターゲットのふるまいを企画段階に考察する手法は、研究開発を成功させる有効な方法である。数理モデルとしてどのようなものを考えるかは、技術者の力量によるが、力量が高ければ、アジャイル開発も可能となる。
タグチメソッドや多変量解析による考察は数理モデルで設計する一手法である。中間転写ベルトでは、6年近く前任者が国内トップメーカーと共同開発を続けたデータが存在したので、当初これらのデータを多変量解析で処理している。
その結果、コンパウンドに問題があるとの結論に至り、カオス混合をコンパウンドメーカーへお願いすることになるのだが、QMSの仕組みもあり、量産まで半年という状態で頭を抱えた思い出がある。
そこでパコレーションシミュレーションをみなおし、6ナイロン相にカーボンを分散させ、それをPPSに分散させたベルトを押出成形してモデルベースデザインを実証するのだが、必死だった。
カオス混合装置を手作りし、それでPPSと6ナイロンが相溶し、わずかにスピノーダル分解が起きる機能で形成されたカーボンのクラスターがドメインをつくり分散した理想的なコンパウンドを創造した。
センター長に予算交渉し、コンパウンド開発のために中途採用1名と職人1名、当方含めて3名でコンパウンド工場立ち上げプロジェクトグループを立ち上げた。
その後は以前書いているので省略するが、モデルベース開発は、研究開発を著しく加速する。企画から量産立ち上げまで半年で、コンパウンドだけでも数億円の利益の出る技術が完成できるのだ。
数理モデルで現象を考察するコツは、ただ、ひたすら黙って現象を観察すればよい。会議で「素人は黙っとれ」とコンパウンドメーカー部長に言われたのだが、その結果当方を黙らせるために工場見学の機会ができた。
ところが、二軸混練機のラインが稼働しているだけの何の工夫もない工場だったので、これでは歩留まりをあげるコンパウンドを生産するまでに時間がかかると納得している。今タイヤ工場の見学が難しくなったが、ゴム工場のコンパウンドラインは技術を感じることができるラインである。
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導電性微粒子を絶縁体高分子に分散し半導体高分子を設計するときに、導電性微粒子の導電性が銅と同じくらい高いと10の9乗Ωcmの材料を安定に製造することが難しくなる。
これを昨日書いたようなシミュレーターで考察すると、半導体高分子を安定に製造するためのアイデアが容易に見えてくる。数式でシミュレーションしていたのでは直感的にアイデアへつながらない。
すなわち、非科学的なシミュレーターであっても良いアイデアが出てくるのだ。むしろ数式で考えるよりも良いのかもしれないと思っている。科学的にこだわっていてもアイデアが出なければ仕方がない。
詳しくはこのホームページで募集してるセミナーを受講していただきたいが、希望者がいれば土日に開講することも可能である。土日であれば一人でも特別サービスで1万円で講義を行っている。
平日が3万円なのに土日が1万円であることを不思議に思われるかもしれないが、平日は企業の方の受講を想定し、土日は個人のスキルアップを目標に受講されるのではないかと期待している。
当方は企業を退職するまで土日に勉強していたが、このようなセミナーがあれば便利だと思っていた。自分が受講したいと思っていたので、今それを実現している。土日はストレス解消に弊社のセミナーを受講してみてはいかがでしょうか。是非お問い合わせください。
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高純度酸化スズゾルを用いた透明導電薄膜の技術が科学的に否定された背景には、パーコレーションという現象が1990年頃材料技術者に知られていなかった問題がある。
パーコレションという現象は数学者により1950年代から議論されてきたが、それが材料の混合技術において分散現象と関わる重要な議論と広く材料技術者に知られるようになったのは、1990年以降である。
その原因は、材料の混合分散について混合則(あるいは複合則)で議論されてきたからである。また、スタウファーにより体系化された浸透理論をそのまま材料技術者が理解するには難しすぎた。
また、数式により表現されてもそれをそのまま現象理解に結び付けられるかどうかは、データサイエンスで材料技術のアイデアを練る手法理解で要求される「苦痛」を我慢できるかどうか、という問題と似ているところがあった。
ここで「苦痛」と表現したのは、科学の方法こそ技術開発で許される唯一の方法と信じている人には、データサイエンスで示された答えを受け入れるだけでも耐えがたい感覚になる人がいるからである。
当方はそのような人が引き起こした事件のために新事業をゴム会社で起業しながらも転職しなければいけない状態に追い込まれている。
データサイエンスの研究は科学であっても、それを材料技術に応用する、あるいは問題解決法として利用するときに非科学的という感覚になる人がいる。
また、タグチメソッドは1990年代に普及が始まったが、30年以上経った今でもその手法をご存知ない方が多い。これは、指導側の問題もあると思い、弊社ではデータサイエンスの視点で学びやすくした教材を用意している。
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