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2023.04/17 材料科学とデータサイエンス

マテリアルズインフォマティクスが騒がれて7,8年経った。最近は高分子と機械学習を短絡的に結びつける発想に疑問を持つ人も多くなった。


当たり前である。高分子物性の変化あるいは機能の発現は線形モデルで議論できる場合が多い。SSカーブでさえ線形モデルで扱い、タグチメソッド(TM)を行っても、最適な制御因子を選ぶことが可能だ。


また、当方は50年近く前から多変量解析を使用し、高分子材料の開発を行ってきたので、データサイエンスに関する開発事例を多数持っている。


データサイエンスを材料研究に用いることが非科学と否定されても、それが日科技連の新QC7つ道具に書かれているという理由で、迫害に近い妨害を受けても使い続けた筋金入りのデータサイエンス研究者である。


結局命が惜しくて転職しているが、材料科学にデータサイエンスを用いて問題解決することが、それほど他の研究者に嫌がられた時代があったのだ。信じられないかもしれないが、転職した当方がその証である。


データサイエンスそのものの研究は、科学でも、それを用いた材料の研究は、非科学となる。そのような時代がかつてあった。データサイエンスを用いて材料科学の問題を解くのはTM同様に技術の「メソッド」である。


このような視点で、材料科学だけでなく、食品や医療分野などすべての科学分野で用いるときに同様の観点でとらえるべきである。


また、データサイエンスを学ぶときにもそのような姿勢で学ぶべきである。それが、科学を科学として成立させるために必要である。


もっとも、科学と非科学の境界は時代とともに変化するというイムレラカトシュの言葉もあるので、TMはじめデータサイエンスによる材料科学の問題解決を科学の方法とするのも一つの考え方であるが、故田口先生は、科学の研究を行うぐらいなら基本機能の研究を行え、と言われていた。


だいたい、人類の文明がすべて科学の成果という考え方が間違っており、科学の成立していなかった時代にも科学と異なる方法による成果で文明が進歩してきた歴史に気がつくべきである。


E.S.ファーガソンは、「技術屋の心眼」の中で科学以外の方法による成果に目を向ける必要性を指摘している。科学をさらに進歩させるためには、科学以外の方法による技術開発の手法も体得すべきである。


大型コンピュータを活用し50年近く前から材料科学に応用されていたことをご存知ない方が多い。弊社は豊富な成功事例を活用したセミナーを問題解決法として展開しています。ご相談ください。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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2023.03/30 難燃剤のコロイド化

高分子の難燃剤は非水系の化合物が多いので、水を溶媒に用いる塗布液その他の用途では、水に分散したコロイド化技術が必要になる。


昔からある非水系化合物の水分散コロイド化技術としてオイル分散が知られている。これは、コロイドにしたい非水系化合物を溶解できる揮発性の油に溶解後、界面活性剤でミセルを形成している水の中に分散する方法である。


揮発性の油が塗布時に問題となるならば、オートクレーブ中で真空下、油を除去すればよい。ただし、このオイル分散法では、最初に非水性化合物を溶解した油をコロイド化した水溶液中に少し残す必要がある。


すなわち、塗布液に難燃剤を分散した少量の油が残ることになる。当方が開発した技術ではまったく油を用いないので、塗布時に油が揮発し問題となることは無い。


環境問題が厳しく問われるようになったので、新技術のニーズがあるだろうと思い、このような油を用いない非水系化合物の水分散コロイド技術を開発実用化した。


特許を弊社が所有しているのでご興味のあるかたは問い合わせていただきたい。この技術では転相技術と物質輸送の新概念が用いられている。WEB会議であればいつでも対応可能です。

カテゴリー : 一般 高分子

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2023.03/29 高分子の難燃剤

高分子を不燃化することはできないので、その難燃化技術が1970年代から盛んに研究され、リン酸エステル系難燃剤や臭素系難燃剤が1990年ごろまで多数開発された。


2000年前後までこの難燃剤開発は続けられたが、最近は新難燃剤の話題を聞かない。起業後PH01という難燃助剤に相当する材料を開発している。


ただ、難燃剤よりも高い価格なので普及していない。原料価格から大量に生産すれば価格が下がると思っている。中国のローカル企業がこの性能に興味をもってコロナ禍前にいろいろと検討してくれたが、価格がネックとなり用途が広がっていない。


その検討過程でPPSの結晶化抑制剤としての機能が発見され、その実用化が進んだが、使用量が少なく価格を下げるまでに至っていない。


難燃剤の話に戻るが、昔難燃剤は安いものなら200円/kg程度のリン安があったが、その添加剤としての機能から用途が限られた。ホスファゼンは2000円/kgであり10倍の価格にもかかわらず、万能だったので盛んに検討された。


しかし、その価格がネックとなり電子部品分野以外の用途に広がっていない。汎用樹脂の難燃剤は、高いものでも1000円/kg未満の材料が選ばれている。


素材分野ではコストパフォーマンスで用途が決まるので、多数の難燃剤がこの50年間に開発されたにも関わらず淘汰が始まっている。商品として残しておいてほしい化合物がいくつかあり、市場原理に悩んでいる。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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2023.03/20 高分子の寿命予測

高分子の劣化について未だ科学で満足な成果が出ていない。分子一本の酸化劣化やUV劣化についてはアカデミアから研究報告がなされているが、実際の製品に組み込まれた時の高分子材料の寿命をうまく説明できていない。


そもそも高分子材料の破壊現象さえも科学で説明できていないので仕方がないことであるが、このような問題を実務でどのように取り扱ったらよいのか、難しい問題である。


来週技術情報協会主催でセミナーが企画されており、そこで詳細を説明するが、当方の購入したフィルムカメラF100が防湿庫の中に保管していただけで壊れた事例も説明する。


クレームとして持ち込んでも保証期間を過ぎていたので有償修理となる、と言われた。デジタルカメラの時代となっていたので修理を見送っている。


しかし、保管状態も良好であったのに何故壊れるのか、と不思議に思い破面観察などを行っている。そしてフラクトグラフィーによりその原因を理解できた。詳細は技術情報協会のセミナーで説明したい。


ご興味のあるかたは弊社へお問い合わせください。

カテゴリー : 一般 高分子

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2023.02/25 高純度SiCの前駆体

ポリエチルシリケートとフェノール樹脂とのリアクティブブレンドで製造される高純度SiCの前駆体は、昨日のポリウレタンの合成と同様に、ゲル化速度の制御が重要である。


ゲル化が均一に進行すれば問題は起きないが、不均一に進行するとシリカのドメインが大きくなった部分ができ、シリカとカーボンを不均一に混合した状態と同様の前駆体となる。


その結果、SiC化の反応が不均一に進行し、固相だけでなく気相の反応も生じてウィスカーが生成しやすくなる。


また、ゲル化速度が遅いと相分離が起きたりする。攪拌に成功し、反応の均一な進行に成功しても透明なポリエチルシリケートとフェノール樹脂が混合した液体が得られることがある。


そのまま放置しておくと、やはりシリカのドメインが大きくなった前駆体となることから、この反応条件のリアクティブブレンドでもゲル化速度が分子状のシリカ分散に重要であることが見えてくる。


前駆体中のSiOC結合をNMRで探ったが、検出できるほどの濃度ではなかった。前駆体を炭化してからフッ酸で処理してシリカを除去した後電子顕微鏡観察すると、シリカ2層分の厚みの運河のような模様ができているので、ほぼ分子レベルで均一にSiC化の反応が進行する条件が存在すると思われる。


高純度SiC製造用に最適な前駆体の反応条件について、フェノール樹脂の廃棄作業を行いながら調べた体験を紹介している。


その時データサイエンスにより、均一で半透明なゲルを短時間で見出しているが、廃棄すべきフェノール樹脂の量が多く、結局夕方まで楽しみながら実験を行っている。この楽しさは人生最後まで忘れられないほどの思い出となった。

カテゴリー : 高分子

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2023.02/24 ホスファゼン変性ポリウレタン(4)

ポリウレタン発泡体を製造するために、発泡反応と重合反応のバランスは重要である。この反応条件を見出すには、経験知が必要となる。


しかし、経験知があっても試行錯誤では実験工数が多くなる。例えば、反応途中のゲル強度がマトリックスを構成するポリエーテルポリオールの種類により変化するからである。


このゲル強度を調べるために重量のそろった真球の鉄球を落下させてプロファイルを調べる方法が外国の論文から見つかったので、それを追実験しようということになった。


ところが重量のそろった鉄球の値段が高すぎる、と課長が言い出した。パチンコ玉なら一個3円弱だと冗談で提案したら、今すぐパチンコ玉をとってこいと驚くような指示が出た。


それで久米川駅近くのパチンコ店で2時間ほどパチンコを行い、4箱積み上げることができた。それを店外に持ち出そうとしたら、店員に引き留められた。パチンコ玉は貸与品なので持ち出せないという。


それで店長と交渉し、廃棄予定のパチンコ玉をバケツ1杯と正規に取得した4箱分のパチンコ玉と交換してもらった。この廃棄予定のパチンコ玉を見て驚いたのは、皆その店の刻印と異なるパチンコ玉だったことである。


店長の話では、このような問題があるので、取得したパチンコ玉の店外持ち出しを禁止している、と説明してくれた。その他パチンコ玉を頂くためになんやかやとあったが、とにかく100円でバケツ一杯大きさと重量のそろった鉄球を手に入れることができた。


しかし、100円の領収書を請求してももらえなかったので、ゴム会社に寄付することになった。当方が課長ならば、仕事で使用する鉄球を100円で調達してきた功績に対し金一封として自腹で払ったかもしれない(ただし当方ならばこのような指示を部下に出さない。高くても正しく発注する。この件に限らず、新入社員でも心配となる何かとおかしな判断と指示を出す上司だった。)。


そのまえに、パチンコ屋の店長の説明にあったが、パチンコ玉は業界以外に販売できないルールだそうで、パチンコ玉をとってこいと、おかしな指示は、今ならばコンプライアンス違反だ。


ところで驚いたのは、店名が異なっているパチンコ玉でもその重量の偏差は0.2%未満だったことだ。錆びた玉を除去すれば0.1%未満だった。


ホスファゼン変性ポリウレタンフォームの工場試作に成功して、課長から始末書を書くように言われたが、その理由の中にこのパチンコ玉事件は入っていない。


市販されていない試薬を用いて工場試作を成功させたことだけが始末書の理由だった。パチンコ玉のほうが、業務中の課長命令ではあったが納得できたのかもしれない。これは業務中のパチンコ遊戯という少し罪悪感のある思い出である。


しかし、パチンコ玉のおかげで反応途中のゲル強度プロファイルデータを迅速に収集することができた。大量に使用できたので洗浄する手間も省け、効率的に実験を行うことができた。学生時代に身に着けた「ムダ技」が活きた思い出である。

カテゴリー : 一般 高分子

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2023.02/08 ホスファゼン変性ポリウレタン(3)

ポリエーテル系軟質ポリウレタンフォームは、重合反応と発泡反応のバランスをとりながら製造される。例えば重合反応はイソシアネートと水酸基の反応であり、発泡反応はイソシアネート基と水との反応である。


イソシアネート基と水との反応でゲル化が進行するので、それを気泡とするために界面活性剤が必要となる。すなわち、ポリエーテル系軟質ポリウレタンフォームの合成はポリウレタンの合成よりも技術的難易度が高い。


科学的に要素技術を解明できたとしてもゲル化と発泡反応のバランスをとる技術開発は試行錯誤となる。当時はタグチメソッドが無かったので、一因子実験の組み合わせでバランスをとるための反応条件を探っていた。


効率的に進める方法として実験計画法があったが、タグチメソッドよりも効率が悪かった。ラテン方格を用いる点では似ているが、タグチメソッドでは誤差要因を外側因子に割り振る。


このあたりの統計処理の意味が理解できていないとタグチメソッドと実験計画法の違いを理解できない。後日、気が向いたら数式使わずにこのあたりの説明を書いてみたい。


高純度SiC合成に用いる前駆体の合成条件についても同様の説明となる。しかし、高純度SiC前駆体の場合には、透明になる条件を追及すればよいので、発泡反応と重合条件の反応バランスをとるよりも易しい。

カテゴリー : 一般 連載 高分子

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2023.02/06 ホスファゼン変性ポリウレタン(2)

ポリウレタンはイソシアネート化合物とポリオール化合物あるいはポリカルボン酸化合物類と反応させて合成されるTPEである。TPEは当時の新素材であり、その難燃化も重要な社会テーマだった。


先端材料の発泡化技術は、特許を読んでみてもうまくできるものではない。それなりの技術ノウハウが必要だった。しかし、ゴム会社にはすでにその材料の製品を生産していた部署があり、その現場にはノウハウが蓄積されていた。


アメリカ企業から導入された技術でポリウレタン発泡体が生産されていたので、この技術の習得をしている。技術習得しながら、ポリウレタンを変性するためのホスファゼン誘導体を設計し合成していた。


原材料の合成と技術習得を同時並行で進めたが、これは上司から命じられていたわけではない。工場の現場で技術を見学したときにやるべきことがすぐに理解できたからである。


この現場で技術をすぐに理解できる能力は、誰でも備えているわけではないことを当時理解していなかった。大学院までの3年間で育成された能力だった。それは、写真会社へ転職し、ゴム会社における12年間の反省をしていて気づいたことである。


生産現場では様々なノウハウが機能している様子を観察できる。この機能に着目し観察できるという能力は、実験をすることにより鍛えられる。ただし、何も考えずに実験していては能力を鍛えることができない。仮説の検証と機能の動作観察という二つの視点で実験を観察して能力を鍛えなければいけない。

カテゴリー : 一般 高分子

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2023.02/05 ホスファゼン変性ポリウレタン(1)

ポリウレタンに限らず有機高分子の主鎖にホスファゼンを導入する技術は、当時未開拓の領域だった。ゆえにホスファゼン変性ポリウレタン合成は、世界初の技術であり、また情報が無いので難易度も高い。


さらに原料となるホスファゼンは新素材として注目され始めた時代であり市販されていなかった。この理由から、技術の難易度よりもホスファゼンをどのように調達するのか企画検討会で問題にされた。


大学院修了後就職するまでの1か月間、ご指導いただいた先生のお手伝いを無償でしている。その先生と新年度の学生が使用予定のホスファゼンを大量合成し数kg精製した。


その仕事を終えても2週間ほど時間があったので、実験を行い新規のホスファゼン誘導体を4種と、そのうち1種の誘導体を使って新たな環鎖状型ホスファゼンの重合に成功した。これらはその後論文2報にまとめられたが、その御褒美として2kgほどホスファゼンを頂いた。


企画検討会でその話をしたところ課長からそれを使って研究するように命じられた。そして足らなくなったら大学からもらうように指示された。


しかし、ホスファゼン変性ポリウレタンの合成は、新入社員という立場で残業手当がつかない当方の毎日の努力により、大学から追加分をもらうことなく6か月後に工場試作まで成功することができた。そして始末書、となった話は以前この欄で紹介している。

カテゴリー : 一般 高分子

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2023.02/04 ホスファゼン変性ポリウレタン発泡体

ゴム会社に入社して9カ月が経過した時に職場異動となった。10月1日に研究所へ配属されて担当していた1年間で実施予定だった新入社員テーマ樹脂補強ゴムを3か月で終了したからである。


1980年1月からのテーマを企画してほしいと新しく上司となった主任研究員(課長)から命じられた。高分子材料科学の分野では、耐熱高分子の研究の流れから1970年代高分子の難燃化研究が生まれている。


大学院の2年間は無機の講座に在籍していたので無機化合物が難燃剤として応用されていることを知っていた。また、単に情報として知っていただけでなく、研究も少し行っている。

塗料として用いられているPVAの難燃化が難しい、といわれていたのでホスフォリルトリアミドのホルマリン付加体を合成し、難燃性のPVAに変性する研究を行い色材協会誌に発表している。


ゆえに課長の期待に応えることは朝飯前であった。新たに配属された部署の看板は高分子合成研究室であり、世界初の難燃性軟質ポリウレタンフォームを合成してほしい、と具体的なテーマを命じられた。


世界初の技術であることが重要だ、と念を押された。リン酸エステル系難燃剤の開発競争が始まっていたので、新たなリン系難燃剤のコンセプトが生まれたらすごい、と指導社員から言われた。

新入社員のモラールアップのためのリップサービスと最初はとらえたが、ホスファゼン変性ポリウレタンフォームの企画を提出したら、大変感謝された。高分子合成研究室という看板だったが、新入社員のアイデアをそのまま受け入れるレベルだった。

カテゴリー : 一般 高分子

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