正しく粘弾性特性を評価すると、Tg以下で処理した場合とTg以上の熱処理では、全く異なる機構で非晶部分が変化するらしいことが推定された。ライバル会社の技術は一応学会でも発表されそれ相応の評価を受けていたが、科学的に不十分なところが存在したのだ。
ちなみにTg以上では、拘束されていた分子鎖の運動性が解放されるので、結晶のパッキングが進む。だからTg以上の温度で長時間放置するとフィルムがしわしわになる。
しかし、運動性が解放されたからといって、すぐにパッキングが進むわけでは無く、大変微小なタイムラグが存在し、そこをうまく過ぎれば、しわしわにならない。
文章で書くと簡単だが、これを技術で実現しようとすると大変なことであると同時に、短時間アニールが本当に短時間勝負の技術であることが工場実験の成果として示された。
基本機能をクリープでとっていてはうまくいかないこともこの結晶のパッキング機構から理解できた。工場実験では容積が大変大きなところの実験になったので物性は大きく変化した。その結果、様々な物性のPENフィルムが得られた。
ばらつきが最少となる条件、すなわちSN比が最大になる条件がゴールだったが、このゴールを達成していないサンプルにも貴重な情報が隠されていた。それらの情報を丁寧に集め整理していった。この作業で目に見えない高分子鎖のTg付近の動きがあたかも見えるように思えてきた。
実験は仮説を立てて行え、と一般に言われる。またアカデミアでも学生の指導にこのフレーズを使われる先生も多いと思うが、落ちこぼれ学生のたてた仮説から得られるはずれた実験データについて真摯な指導を行う先生は少ない、と聞いている。
しかし実験データには科学で未解明の現象が隠されていることに気がついて頂きたい。時折実験の失敗から大成功が生まれるのはこのためである。これは凡才が科学で活躍するためのコツでもある。www.miragiken.com に登場する落ちこぼれの文子嬢もそのうちびっくりする発明をすることになる。
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予備実験では容積が小さいので簡単にできたが、企画が通ってからは大変だった。試作プラントでその再現実験を行うためにタグチメソッドを行ったのだが、最適条件で得られたフィルムの巻き癖は予備実験で得られたフィルムの性能よりも低く目標未達となった。
基本機能にクリープを用いて実験を行っていたので、科学的視点からはもう少しまともな結果になっても良いとクビをかしげつつ、この技術を実用化するときに、テストプラントの結果を用いていては工場で再現できない可能性がある、と直感的に感じた。
タグチメソッドは、設計段階における小スケールの実験結果が生産段階で再現する、というのがセールスポイントである。しかし故田口先生との議論や品質工学学会誌の初期に掲載されたタケトンボの事例を読んでいたので、すぐに工場を使ってタグチメソッドを行う決断ができた。
すなわち実験室で最適化データを揃える努力をしないで工場試作を行う仕事の進め方である。さすがにこの決断の結果で社内調整するには時間がかかった。
まず工場長から社内の品質規格を無視していると、簡単に馬鹿にされ相手にされなかった。次にセンター長からも実験室でもっと頭を使え、とも言われた。
センター長に、実験室でいくらやっても時間がかかり、さらにそこで得られた結果を工場で再現する自信が無いが、工場実験で実用化の条件を探ればそのまま実用化でき開発コストを下げられる、というプレゼンテーションを行って、ようやく前に進むことができた。
2日間行った工場実験では元巻き二本を使い、最適条件を見つけることができた。工場で最適条件を決めたので得られた条件はすぐに実用化できるレベルだった。
驚いたのは、巻き癖は解消されたが、粘弾性特性が企画段階で得られたデータと少し異なり、Tg以下の処理で得られるフィルムの特性と大きく異なる値を示したことである。
他社の特許に抵触しない技術ができあがったと喜びたかったが、科学的な裏付けが欲しいと思った。特許出願後、外部の有識者にデータを見てもらい議論したところ、ライバル会社の特許に書かれた粘弾性特性の評価方法が、実は科学的実験として正しくない条件であることが分かった。
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温度とエネルギーの関係の重要性をしみじみと味わったのは、半導体用高純度SiCの合成に初めて成功したときである。その実験では、炭素ルツボに少量仕込み、炭素ルツボの温度を計測しながらプログラムコントローラーで温度制御を行っていた。
ところが突然温度コントローラーが暴走し、慌てた当方は実験装置の非常停止ボタンを押した。当たり前の事だがその結果温度が下がり始めたので、実験を中断するのか手動で運転して実験を継続するのか悩んだ末、どうしてもその実験で結果を出さなければならない事情があって実験を継続することにした。
その結果驚くべきことに超微粉で粒度の揃った黄色に輝く高純度SiCが得られた。高分子前駆体を用いたこととエネルギーが均一に与えられた結果が目の前に現れたのだ。
その後温度を一定に保つ実験を行い、実験の再現を狙ったが、この時ほど粒度の揃ったSiC超微粉は得られなかった。すなわち高分子前駆体を用いても吸熱反応で進むシリカ還元法では反応エネルギーが均一に保たれなかった場合には粒度分布が悪くなることを学んだ。同時に急激な温度上昇で、吸熱反応にエネルギ-を加えることの有効性を知った。
ただ、この急激に温度を上げてある温度で平衡状態にあるエネルギーを加えるというテクニックは、科学的ではない。高純度SiCの合成条件でたまたまその様になっただけである。
しかし、吸熱反応の場合には系の容積がわかればエネルギーを瞬時に加えるテクニックとして使えるかもしれない、と想像した。
PENの巻き癖解消企画で用意したサンプル作成にはこの時の経験が生かされた。すなわちTg以上の高温度環境にPENフィルムを一瞬さらし冷却する、という方法でサンプルを作成した。
驚くべきことにPENフィルムはしわしわにならず、巻き癖だけが解消された。さらに驚くべきことにはできあがったPENフィルムの粘弾性特性がTg以下で処理したPENフィルムのそれと同じにならなかったのだ。
科学で考えていては思いつかなかった驚くべきことが重なりこの技術について特許出願までできた。同時にライバル会社の特許に抵触しないPENフィルムを製造できる技術の可能性が示された。
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フィルムの高温短時間処理プロセスでは、急激な温度上昇とその後の制御された温度下降制御がうまくできるかどうかが勝負である。
すでに説明したように温度は強度因子であり、測定された値がフィルムに供給されるエネルギーとの相関は保証されていない。
難しい技術に見えるが、フィルムはオーブンの中を一定速度で動いているので、オーブンを細かく区切り、各ゾーンの温度制御を行う事で技術的に簡単に実現できる。
難しいのは、非平衡状態で実験を進めるので温度とエネルギーは無関係と考えるため試行錯誤実験となる点である。
科学的ではない実験方法だが得られた結果には再現性があるので技術として使える。
STAP細胞のように再現できないとその機能を技術で実現することは難しいが、この高温短時間処理プロセスはロバストの高い技術である。
ロバストが高い理由は、非晶部分の変化が意外と温度に対し鈍感なためではなかろうかと思う。温度に対して鈍感なので、Tg以下の熱処理では時間がかかるが、高温短時間処理では、条件を見つけてしまえばロバストの高さとしてその現象を技術として利用できる。
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高温短時間処理プロセスはTg以下のアニールよりも難しいが、Tg以下のアニールよりも短時間で非晶部分の均一化が進む。おそらく高温短時間処理では非晶部分は均一になっているのではないだろうか、と思ったりもする。
材料科学分野で結晶の科学は20世紀著しい進歩をした。当方も高分子前駆体を用いた半導体用高純度SiCの合成研究でSiC微結晶生成の反応速度論を研究し、貢献している。しかし、非晶質については科学の進歩はほとんど無かった。
非晶質の定義すらできていない。結晶以外は皆非晶質体である。非晶質体の中にガラスと呼ばれる状態があることはわかっているが、ガラス状態をとらない非晶質物質が存在し、そのような物質からガラス状態を作る方法が分かったのは20世紀末である。それでも全てのガラス状態を持たない非晶質物質に適用できる方法では無い。
非晶質に関する研究は21世紀の課題の一つで、高分子自由体積に関する研究は毎年高分子学会の研究報告で必ずある。このような状況だから高温短時間処理で科学的にどのようなことが起きているのか説明はできない。しかし、妄想のシナリオを書くことは可能である。
妄想のシナリオに基づき思考実験を行い、実際の実験条件を決め、実行して結果を出す。当然実験は試行錯誤になるが、それでも工夫次第では効率を上げることができ、工場を使って2日ほどで実現できる技術を創り上げた。
そのプロセスでできたフィルムを解析し、Tg以下のアニールでできたフィルムと高次構造が異なるらしいことと、それをサポートする粘弾性データが得られ、特許を出願した。特許は科学論文ではなく技術の権利書であり、科学的に不確かなことでも権利化可能である
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昨日の話をフィルムについてもう少し細かく書く。フィルムの表面温度が雰囲気温度と同じになってもフィルムの中心部分は低いままだ。
表面から少しづつ熱としてエネルギーがフィルムの中心部分へ送られてゆき、やがてフィルム全体が雰囲気からもらったエネルギーの均一な状態になったとする。ただし、これはフィルムでエネルギー消費がまったく行われない場合である。
実際のフィルムでは、エネルギーが加えられるとまず自由体積部分がそのエネルギーに応じた変化をする。このとき、雰囲気がTg以下の場合には、非晶部分の大半が凍結されているので動くことができず、自由体積部分で側鎖基がぴくぴくと振動しながら凍結されていく。すなわちもらったエネルギーに相当する安定な密度へと変化してゆく。
このようにTg以下のアニール処理では、高分子の自由体積部分のパッキングが進むだけである。
これがTg以上のアニールになると、少し複雑なことが起きてくる。雰囲気からもらったエネルギーで凍結されていた非晶部分の内、そのエネルギーで解凍される部分も自由体積部分と同様にぴくぴくと動き出すのである。
ここでエネルギーが大変大きい場合には、凍結されていた非晶部分の大半が動き、その結果フィルムはしわしわになる。結晶部分も溶解しうるエネルギーが与えられたなら、フィルムはしわしわを通り過ぎてドロドロになる。
Tg以上でほどよいエネルギーが与えられると、凍結されていた非晶部分の一部と自由体積部分の分子運動を可能とし、パッキングが急速に進行する。ただし全ての非晶部分が解凍されるわけではないのでフィルムの形状は変化せずしわしわにならない。
これらの物理変化はすべて吸熱反応なので、フィルムの表面部分も含めフィルム全体のエネルギー分布は不均一になる。この状態で温度計測を行うと、表面部分と内部とは100ミクロンのフィルムで1℃前後の違いを生じる。実際はもっと温度分布があるだろうが、現在の技術ではその温度計測を実務の中で行うには膨大な費用が発生する。
ここで科学的に厳密に計測しろ、という管理者が稀にいるのが今の日本の状態である。転職した会社ではこのような類似の状況をしばしば見てきた。
ゴム会社では12年間で2人の管理者という極めて少ない人数だった。科学的厳密さにこだわる、ある意味科学のパラノイアがゴム会社で少なかったことに未来の光を見たが、これは企業により状況が異なるだろう。
科学的厳密性にこだわる管理者から指示を受けた担当者は、少ない予算の中で適当な回答を実験で出し説明することになる。100ミクロンで1℃という値は、上司から指示を受け、サラリーマンとしてしかたなく部下へ適当な実験方法を指導して出した値である。
技術ではロバストの高い機能を実現するのが目標であり、科学的厳密性が目標ではないが、これを理解していない研究職が本来人間の自由な活動で行えるはずのダイナミックな技術開発をだめにしている。
一時はやったコーチングが人気を失ったのも単なる一つの哲学にしかすぎない科学にとらわれすぎたことも一つの理由と思う。ヒューマンプロセスを取り入れるようにしておれば、コーチングも円滑に行われ技術の伝承もうまく行われると思う。
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昨日の話を言い換えると、フィルムを熱処理するときに、熱処理のための雰囲気温度をどこで測定するのか、という問題となる。
大抵はフィルム近傍にセットされた熱電対(温度測定用のセンサー)の温度を雰囲気温度とし、それをフィルムの温度とする。これが間違いの始まりである。雰囲気温度が、仮に平衡状態で計測された値を示しているとしても、フィルムが平衡状態にあるかどうかは保証されていない。
説明を簡単にするために雰囲気は必ず平衡状態を維持しようと制御していると仮定する。そこへ温度が低いフィルムが入ってくると、雰囲気のエネルギーは温度の高い方から低い方へ流れるので、雰囲気はこの瞬間非平衡状態となり、フィルムへ与えたために失われたエネルギ-がどこからか供給されて、また平衡状態に戻るまで少し時間がかかる。
しかし、熱電対が示す温度はフィルムへ与えたエネルギーが小さいならば、熱電対自身が持っている比熱のため常に同じ温度を示し続ける。
一方フィルムでは、雰囲気からもらったエネルギーはまず表面の温度を上げることに使われるが、フィルム内部にその残りのエネルギーが伝わるまで表面状態と内部の状態が一致せず、エネルギー分布が不均一な非平衡状態となっており、仮に表面温度が雰囲気と同じになったとしてもフィルム内部の温度は低いままとなっている。
やがてフィルムは平衡状態になり、その中心部も雰囲気温度と同じになるためには、雰囲気が失ったエネルギーを取り戻し、同じ温度になる時間よりも長くかかる。すなわちフィルムが平衡状態になるのは時間がかかり、その時間は雰囲気温度の影響を受けるという複雑な問題となる。
この問題を科学的に解くことも可能だろうが、思考実験でこの様子を観察すれば一瞬に答えが出る。ヒューマンプロセスは科学的プロセスよりも効率が良いのである。ただ非科学的という理由でこのような効率の良い方法を使用しないのはもったいない。
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短時間アニールのPENフィルムは簡単にできたが、なぜライバル各社は実験をしなかったのか。理由は簡単である。単純にTg以上で熱処理してもフィルムがしわしわになるからである。
ここで物理化学の基礎事項を説明する。物理のパラメーターには容量因子と強度因子という分類方法がある。容量因子とは、容積とかエネルギーのように形が変化しても測定された値は一定となるパラメーターを意味し、強度因子とは力のように測定点が変わると変化する可能性があるパラメーターである。
温度というパラメーターは強度因子であり、系が平衡状態に無いときには、測定点が変わると測定された値が変化する。実験を行うときに系のエネルギーを知るために温度測定を行うが、その計測された温度からエネルギーを推定する方法はあくまでも系が平衡状態にあることが前提になる。
温度というパラメーターについてこの基礎事項を忘れて実験を行う人が多い。理系の人ならば大学の教養課程で必ず学ぶ内容である。物理あるいは化学の教科書の最初に必ず一言触れてある。
企業の実験では意識して実験条件を管理しない限り、系が非平衡の状態で計測が行われるケースがほとんどである。その時計測されている温度は、必ずしもエネルギーを推定するために適切な値とはならない、換言すれば温度を計測しエネルギーを精度高く推定するためには系の平衡状態の確認を厳密に行わなければならない。
もし系のエネルギーを推定するために温度計測が必要な場合には、必ず系が平衡状態になっていることを確認するのか、あるいは温度計測を2点以上行い精度を高める努力をしなければいけない。
このような基礎的なことを案外忘れている。忘れていながら科学的なことにこだわり、非科学的ヒューマンプロセスを排除するのは技術の問題解決の姿勢として好ましくない。現象を捉えるときに科学的側面以外に非科学的側面からの考察方法があることを知れば、高温短時間アニールのアイデアに気がつくはずである。
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昨日は、工場で作られる食品の品質問題が車のリコールに比較し少ない状況を説明できる事件が起きたので、連載を中断した。本件は自己の体験から「安全、安心」ではない日本の状況を懸念していたところへ実体を示す事例が発生したので「非科学的問題解決事例」を中断した。
食品の異常は、真っ先に保健所へ知らせ、食品会社の「お客様相談センター」は、保健所へ連絡したことを伝えるのが正しい手順である。証拠品は保健所へ提出すべきである。
さて、PENの短時間アニール技術といっても特許を回避するためにはTg以上の熱処理以外に技術手段は無い。成膜や表面処理の工程においてTg以上で熱処理すればフィルムがしわしわになることは常識として知られていた。さらにアニールにより処理されたフィルムの物性値をクレームにした特許が出願されていたので、技術が完成しても全ての特許を回避できる可能性は少なかった。
科学の視点ではナンセンスな企画で、そのまま提案すればつぶされることは分かっていた。だから企画提案の時に実際に実験室において短時間アニールで製造されたPENフィルムもそえて提案している。
科学的に説明しにくい現象を利用した技術では、現物を示すことが周囲を説得するのに一番良い方法である。短時間アニール技術のPENフィルムは、実験室で簡単に作ることができた。そして驚いたことにできあがったフィルムの粘弾性的性質は、Tg以下のプロセスで製造される長時間アニールのフィルムのそれと少し異なっていたのだ。
未だにこの現象をうまく説明できる論文に出会っていないが、高分子の自由体積の科学的に未解明な現象であることは確かである。Tg以上の短時間アニールでも、Tg以下の長時間アニールでも高分子の自由体積は減少し巻き癖は解消される。しかしその減少過程が異なるために起きている、と想像がつく。
そしてこの想像は、その後ポリオレフィンの混練り効果やポリオレフィンとポリスチレンの相容を研究する動機につながってゆく。いずれも科学的研究の無い分野であるが、高分子の自由体積が関係している。
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アドバンスドフォトシステム(APS)という新システムがカラー銀塩フィルムの最後のシステムとしてイースタマンコダックから提案された。このAPSに使われたPENフィルムで問題になったのは巻き癖である。
PENフィルムをパトローネに巻き取り放置すると、巻き癖がつく。現像処理で巻き癖はジャムなどの問題を引き起こすので実用化に際して巻き癖がつきにくいPENフィルムの開発が求められた。
巻き癖は高分子のクリープ現象が品質問題として現れていることが分かっていた。だから科学的にはクリープが起きにくくなるように高分子の高次構造を設計すれば良い。ここまでは当時科学的な論文にも結論されていたことである。
どのような高分子でも結晶化すれば、その結晶部分はクリープが起きにくくなることは想像できる。高分子の高次構造が結晶部分と非晶部分でできているとすると非晶部分がクリープを起こしやすいであろう事は想像でき、さらに非晶部分でも密度の低い自由体積部分は他の非晶部分よりもクリープを起こしやすいであろうことも想像がつく。
そのため巻き癖を着きにくくするためには、自由体積部分を少なくできれば良い、という仮説が立つ。ただ高分子の自由体積部分に関しては今でも研究課題となる話題を事欠かない科学的に未解明な事柄が多い。だからこの仮説については、それを科学的に厳密に証明しようとすると自由体積の測定方法そのものを研究する必要が出てくる。
ところで、高分子の自由体積を少なくする方法として、高分子のTg近くで熱処理すれば良いらしいということが科学的に知られていたようだ。但しTg以上の熱処理ではフィルムがごわごわになるのでアニールはTg以下で行うことが常識として分かっていた。
ゆえにこの科学的に推定される技術が特許としてライバル会社から出ていた。ところが科学的に当たり前であるが、Tg以下の温度で24時間もフィルムを一定温度で放置しなければならないという問題があった。ただフィルムを成膜後巻き取ったまま室に放置すれば良いので問題ではない、という言い訳がどこかに書かれていた。
しかし、技術としてスマートではない。できれば成膜プロセスあるいは表面処理プロセスの途中で巻き癖解消の機能を付与できてこそ優れた技術である。APSが普及したときに備え、科学と常識からは発想しにくいPENの短時間アニール技術開発を企画した。
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