セラミックスの成型方法はいろいろ用途に応じて使い分けられている。その泥漿を練り上げるにも今日では連続式混練機が一部で使用されている。30年ほど前にその話を初めて聞いた時には驚いた。その泥漿を練り上げる専用の混練機も存在する。
主に剪断混練が使用されていると思われるが、スクリューの摩耗が心配である。知人の技術者に聞いたところ、専用の材料が使用されているとのこと。昔は摩耗が激しかったが最近は良い材料も開発されたとも言っていた。
中間転写ベルトの開発を行っているときに、セラミックス材料の混錬で使用されている、と言われたKCKと呼ばれる、いわゆる石臼型混練機を使用する機会があった。PPSとカーボンを混練するためにそれを用いたのだが、一般の二軸混練機に比較して混練効率は悪いと感じた。
剪断混錬は効率が良いはずだが、機械の消費電力の割に生産性が悪い。同一電力に換算して比較した時に時間当たりの混練される量が6割ぐらいだった。PPSにカーボンの咬みこみが悪いからだ、と装置を貸してくれた会社の技術者は言っていたが、不思議に感じた。
面白いのは混練して得られたカーボンの分散状態で、二軸混練機のそれと異なっていた。1台購入し材料開発に使用したが、得られた混練物の性能は二軸混練機が60点とすると70点前後で100点に到達できなかった。
ただカーボンの分散状態は特徴的でもう少しその特徴が完璧に発揮されればゴールを達成できたが中途半端な状態であった。今改めて思い出してみるとセラミックス材料の分散でもこの「中途半端さは問題になるはずだがそのような情報はWEBに落ちていない。セラミックス協会誌を読んでいても出てこない。
もしセラミックス業界でKCKを使用されている方で何か疑問を持たれたらご相談していただきたい。どこまで期待に応えられるか不明だが、問題解決のヒント程度は出せるかもしれない。
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高分子の難燃性を評価する技術は、いろいろ開発されてきた。それらをすべてここで解説をしない。大切なことは、それら評価技術の細かい知識を習得するよりも、市場で要求される難燃化規格についてその知識を深める努力をした方が実務上役立つ。
ゆえにそれぞれの業務に必要な評価法を調べていただくこととして、ここではそれを活用するときのポイントを説明したい。
火災で高分子が燃える、という現象は、火源により高分子が熱せられて温度が上昇し、添加物や高分子の分解物がガス化、そしてその酸化が激しくなり、燃焼に至る。
この時酸素不足となれば、酸化が終結し火が消える。高分子の構造に二重結合を形成しやすい要因や脱水素を促進する触媒機能を示す添加剤やラジカル補足剤が存在すれば高分子は炭化する。
ここで生成する炭化物はチャーと呼ばれ、燃焼している面で発泡したチャーが形成されると、それが断熱層になり燃焼が停止する。
この燃焼の各段階すべてを一度に評価できる技術は、最初に述べたように大変難しくなる。ゆえに世の中に存在する難燃化規格では、燃焼現象の一部のプロセスを評価していることになる。
この燃焼という現象をすべてモデル化して記述できれば、実火災のシミュレ-ションが可能となり、一部それが成功しているが、材料設計にそれを活かすことができるかどうかは、別の問題がある。
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3日前に、高分子材料の難燃化と評価法についてその概略を述べたが、高分子材料の用途とその設計方針が最初に必要である。高分子材料の用途が決まると、その分野における難燃性規格が材料開発時に使用する品質評価法の一つとして決まる。設計方針とは後述するコンセプトのことであるが、難燃性規格を合格するためのコンセプトも許される。
規格を通過するためだけのコンセプトで材料開発する、というと科学的でもなくいかがわしささえ感じる読者もいるかもしれないが、難燃化規格が用途と実火災を考慮して開発されているはずなので、技術的には賢明な方法となる。
今となっては笑い話となるが、30年以上前にJIS難燃2級という建築材料向けの欠陥評価法があり、この評価法に合格するためにもちのように膨らみ変形する材料が開発された。サンプルを試験装置に取り付け試験を開始すると、炎から逃げるように高分子発泡体が膨れ、その結果、煙も出なければ燃焼による発熱も無く試験が終わる。
このような材料が市場に出た結果、耐火建築でも簡単に燃えるという事件が発生し、規格の見直しが叫ばれ、簡易耐火試験が建築基準として採用されるにいたった。筆者が技術者としてスタートした頃であり、当時の通産省建築研究所の先生方と規格の見直しのお手伝いをしたが、これは高分子の難燃化「技術」の重要性を学ぶ機会となった。
当時の上司は、材料が炎から逃げるように設計しているので、溶融型と同様の難燃材料の設計方法の一つ、と自慢していたが、溶融型では、溶融するときの吸熱効果で火を消す機能を発揮しているのである。
材料に足が生えていて逃げ出すのならともかく、燃焼試験装置の炎を避けるように変形するだけでは難燃建築材料ととして不適格であると同時に、そのような材料を合格とする評価試験法にも建築基準としての欠陥があった。
また、技術では、自然現象から生活に必要な「機能」を取り出し、それをロバスト高く再現できることが求められる。餅のようにふくれ、特定の炎だけを避ける機能では、材料に火がついたときの問題を解決できないので、建築用難燃材料の機能として不十分である。
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高分子材料の難燃化と評価法についてその概略を昨日まで述べたが、高分子材料の用途とその設計方針が最初に必要である。
高分子材料の用途が決まると、その分野における難燃性規格が材料開発時に使用する品質評価法の一つとして決まる。設計方針とは後述するコンセプトのことであるが、難燃性規格を合格するためのコンセプトも許される。
規格を通過するためだけのコンセプトで材料開発する、というと科学的でもなくいかがわしささえ感じる人もいるかもしれないが、難燃化規格が用途と実火災を考慮して開発されているはずなので、技術的には賢明な方法となる。
今となっては笑い話となるが、30年以上前にJIS難燃2級という建築材料向けの欠陥評価法があり、この評価法に合格するためにもちのように膨らみ変形する材料が開発された。
サンプルを試験装置に取り付け試験を開始すると、炎から逃げるように高分子発泡体が膨れ、その結果、煙も出なければ燃焼による発熱も無く試験が終わる。
このような材料が市場に出た結果、耐火建築でも簡単に燃えるという事件が発生し、規格の見直しが叫ばれ、簡易耐火試験が建築基準として採用されるにいたった。
当方が技術者としてスタートした頃であり、当時の通産省建築研究所の先生方と規格の見直しのお手伝いをしたが、これは高分子の難燃化「技術」の重要性を学ぶ機会となった。
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UL94-V2試験では、サンプルを垂直に保持する点でLOIと同じだが、着火は下から行う。ゆえに溶融物は下に落ちて火が消える。
ただし、高温で溶融しやすい材料がすべてこのような結果になるわけではない。UL94-V2試験に合格するように「巧みに」材料設計された場合だけである。
高温で溶融しやすい材料でもUL94-V2試験に不合格となる材料は存在し、このLOIが仮に20.5であったとしても、UL試験を行うと廃PETボトルを80%含む樹脂よりも燃えやすい材料との判定になる。
UL試験は、アメリカの民間会社の評価試験法だが、材料の用途における実火災との対応についてよく考えられた試験法として、多くの分野で規格として採用されている。
燃焼時にチャーと呼ばれる炭化層を積極的に生成する炭化促進型難燃化手法で材料を設計しようとする場合に、LOIは他の難燃性試験法よりも実験室で重宝する。
例えば、UL94-V0以上という高い難燃性を実現する材料を設計したい時に、溶融型で高分子の難燃化設計はできない。そのためLOIで21以上となる配合を探索しなければならない。
この段階で難燃化という機能について、材料設計コンセプトからチェックしなければいけない高分子の高次構造因子があれば適宜汎用の分析評価を行う。
燃焼では高分子の熱特性が重要になるので、熱重量分析(TGA)や熱機械分析(TMA)、熱走査時差熱分析(DSC)が主に用いられる。難燃剤の分散状態を知りたければ電子顕微鏡もその手段の一つとして加える。難燃剤の計量を簡便に行う方法として赤外分光法(IR)がある。
ノウハウになるが、先に説明した廃PETボトルを80%含む樹脂では、粘弾性評価装置も難燃性の設計に使用している。
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30年以上前にJIS化されたLOIは、酸素と窒素の混合気体の雰囲気の中に長い板状のサンプルを立て、その上方から着火して燃焼状態を観察し、継続して燃焼するのに必要な最低限の酸素濃度で高分子の燃えにくさを数値化する試験法である。
測定法の定義から一見理にかなった燃焼試験に思えるが、経済性の視点で高分子の用途を眺めた時に、実火災においてこの尺度で決められた序列が適切ではない場合もある。
例えば、空気の酸素濃度は21%程度なのでLOIが22以上となるように難燃剤を添加して寝具が材料設計されていたならば、寝タバコの火が寝具に着火した時に空気中で燃焼を継続することができず、自然に火が消えて燃焼は広がらない。
しかし、LOIが21以下でも燃焼が広がらない材料がある。それは熱で簡単に溶融し消火するように設計された材料である。
このような材料では、たばこの火の程度であれば、溶融時の吸熱効果で火が消える。
この考え方で、高価な難燃剤を用いずPETボトルの廃材を80wt%含有する射出成形可能な難燃性樹脂を四年前に開発した。この樹脂の20wt%の他の組成は、射出成型が難しいPETを易射出成形性にするための成分と靱性を改良する成分、溶融型で難燃性を向上する成分とからなる。
すなわちこれは強相関ソフトマテリアルの概念で設計されコンビナトリアルケミストリーの手法で開発された材料である。
この材料は難燃材を添加していないPETが主成分の樹脂なのでLOIは19以下であるが、UL94-V2試験を行うと自己消火性を示し合格する。
LOIが19前後、すなわち空気中で燃焼し続けると評価された材料でも自己消火性を示すことについて不思議に思われるかもしれない。これは、サンプルを垂直に立て上から着火するというLOIの試験方法にも少し原因がある。
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燃焼とは急激な酸化反応で進む現象なので、どのような火災の状況でも絶対に燃えない有機高分子は存在しない。
ゆえに火災時の燃焼対策としてとられる高分子の高機能化について、高分子の不燃化とは言わず、難燃化という表現が用いられている。
燃える物質と燃えない物質という境界が明確な材料群ならば、その評価技術を一義的に決めることができそうだが、「難燃性」とか「燃えにくさ」という曖昧な尺度に対して、唯一の客観的評価技術を開発することは、直感的に難しい作業になると想像できる。
もしそれをイメージできないならば、具体的な火災を思い浮かべればよい。
火事の現場検証では最も黒焦げになっているところが注目される。そこは酸素不足で高温度に曝された可能性が高く、そのような現象が起きるのは火元と考えられるからだ。
本当に火元だったかどうかは、その他の状況証拠との組み合わせで決められるそうだが、火災の現場を観察すると、高分子の燃え方が一様ではないことに気がつく。
このような状態を実験室で再現しなければならない評価法とは、高分子材料そのものの燃えにくさの数値化以外に様々な因子の絡みあいを盛り込まなければならず複雑になるであろう。
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正しく粘弾性特性を評価すると、Tg以下で処理した場合とTg以上の熱処理では、全く異なる機構で非晶部分が変化するらしいことが推定された。ライバル会社の技術は一応学会でも発表されそれ相応の評価を受けていたが、科学的に不十分なところが存在したのだ。
ちなみにTg以上では、拘束されていた分子鎖の運動性が解放されるので、結晶のパッキングが進む。だからTg以上の温度で長時間放置するとフィルムがしわしわになる。
しかし、運動性が解放されたからといって、すぐにパッキングが進むわけでは無く、大変微小なタイムラグが存在し、そこをうまく過ぎれば、しわしわにならない。
文章で書くと簡単だが、これを技術で実現しようとすると大変なことであると同時に、短時間アニールが本当に短時間勝負の技術であることが工場実験の成果として示された。
基本機能をクリープでとっていてはうまくいかないこともこの結晶のパッキング機構から理解できた。工場実験では容積が大変大きなところの実験になったので物性は大きく変化した。その結果、様々な物性のPENフィルムが得られた。
ばらつきが最少となる条件、すなわちSN比が最大になる条件がゴールだったが、このゴールを達成していないサンプルにも貴重な情報が隠されていた。それらの情報を丁寧に集め整理していった。この作業で目に見えない高分子鎖のTg付近の動きがあたかも見えるように思えてきた。
実験は仮説を立てて行え、と一般に言われる。またアカデミアでも学生の指導にこのフレーズを使われる先生も多いと思うが、落ちこぼれ学生のたてた仮説から得られるはずれた実験データについて真摯な指導を行う先生は少ない、と聞いている。
しかし実験データには科学で未解明の現象が隠されていることに気がついて頂きたい。時折実験の失敗から大成功が生まれるのはこのためである。これは凡才が科学で活躍するためのコツでもある。www.miragiken.com に登場する落ちこぼれの文子嬢もそのうちびっくりする発明をすることになる。
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予備実験では容積が小さいので簡単にできたが、企画が通ってからは大変だった。試作プラントでその再現実験を行うためにタグチメソッドを行ったのだが、最適条件で得られたフィルムの巻き癖は予備実験で得られたフィルムの性能よりも低く目標未達となった。
基本機能にクリープを用いて実験を行っていたので、科学的視点からはもう少しまともな結果になっても良いとクビをかしげつつ、この技術を実用化するときに、テストプラントの結果を用いていては工場で再現できない可能性がある、と直感的に感じた。
タグチメソッドは、設計段階における小スケールの実験結果が生産段階で再現する、というのがセールスポイントである。しかし故田口先生との議論や品質工学学会誌の初期に掲載されたタケトンボの事例を読んでいたので、すぐに工場を使ってタグチメソッドを行う決断ができた。
すなわち実験室で最適化データを揃える努力をしないで工場試作を行う仕事の進め方である。さすがにこの決断の結果で社内調整するには時間がかかった。
まず工場長から社内の品質規格を無視していると、簡単に馬鹿にされ相手にされなかった。次にセンター長からも実験室でもっと頭を使え、とも言われた。
センター長に、実験室でいくらやっても時間がかかり、さらにそこで得られた結果を工場で再現する自信が無いが、工場実験で実用化の条件を探ればそのまま実用化でき開発コストを下げられる、というプレゼンテーションを行って、ようやく前に進むことができた。
2日間行った工場実験では元巻き二本を使い、最適条件を見つけることができた。工場で最適条件を決めたので得られた条件はすぐに実用化できるレベルだった。
驚いたのは、巻き癖は解消されたが、粘弾性特性が企画段階で得られたデータと少し異なり、Tg以下の処理で得られるフィルムの特性と大きく異なる値を示したことである。
他社の特許に抵触しない技術ができあがったと喜びたかったが、科学的な裏付けが欲しいと思った。特許出願後、外部の有識者にデータを見てもらい議論したところ、ライバル会社の特許に書かれた粘弾性特性の評価方法が、実は科学的実験として正しくない条件であることが分かった。
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温度とエネルギーの関係の重要性をしみじみと味わったのは、半導体用高純度SiCの合成に初めて成功したときである。その実験では、炭素ルツボに少量仕込み、炭素ルツボの温度を計測しながらプログラムコントローラーで温度制御を行っていた。
ところが突然温度コントローラーが暴走し、慌てた当方は実験装置の非常停止ボタンを押した。当たり前の事だがその結果温度が下がり始めたので、実験を中断するのか手動で運転して実験を継続するのか悩んだ末、どうしてもその実験で結果を出さなければならない事情があって実験を継続することにした。
その結果驚くべきことに超微粉で粒度の揃った黄色に輝く高純度SiCが得られた。高分子前駆体を用いたこととエネルギーが均一に与えられた結果が目の前に現れたのだ。
その後温度を一定に保つ実験を行い、実験の再現を狙ったが、この時ほど粒度の揃ったSiC超微粉は得られなかった。すなわち高分子前駆体を用いても吸熱反応で進むシリカ還元法では反応エネルギーが均一に保たれなかった場合には粒度分布が悪くなることを学んだ。同時に急激な温度上昇で、吸熱反応にエネルギ-を加えることの有効性を知った。
ただ、この急激に温度を上げてある温度で平衡状態にあるエネルギーを加えるというテクニックは、科学的ではない。高純度SiCの合成条件でたまたまその様になっただけである。
しかし、吸熱反応の場合には系の容積がわかればエネルギーを瞬時に加えるテクニックとして使えるかもしれない、と想像した。
PENの巻き癖解消企画で用意したサンプル作成にはこの時の経験が生かされた。すなわちTg以上の高温度環境にPENフィルムを一瞬さらし冷却する、という方法でサンプルを作成した。
驚くべきことにPENフィルムはしわしわにならず、巻き癖だけが解消された。さらに驚くべきことにはできあがったPENフィルムの粘弾性特性がTg以下で処理したPENフィルムのそれと同じにならなかったのだ。
科学で考えていては思いつかなかった驚くべきことが重なりこの技術について特許出願までできた。同時にライバル会社の特許に抵触しないPENフィルムを製造できる技術の可能性が示された。
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