1970年代に高分子難燃化技術について形式知の整備が進んだ。ゴム会社就職前に東北大村上先生らが翻訳された古典的名著も出版されていた。
当方は大学院でこの書を読み、ホスホリルトリアミドをPVAの反応型難燃剤として使用できるようにデザインして、PVAの難燃化に学生時代成功していた。
PVAを難燃化材料の対象に選んだのは、難燃化が難しい高分子として知られていたからだ。当時は一部の高分子について難燃化が成功していた時代で、難燃化の基準も提案され始めた。
極限酸素指数法についてJIS化が検討されており、スガ燃焼試験機が発売された。PVAは環境にやさしい水性塗料に使用されていたので、極限酸素指数法で評価した結果を色材協会誌に論文投稿している。
当時すべての有機高分子材料を不燃化する技術は現実的ではなく、難燃化すなわち燃えにくくする技術が実用的と言う考え方が普及し始めており、そのための難燃化規格が各業界で検討されていた。
難燃二級は建築用の難燃規格として登場して、炎から逃げるように変形する硬質発泡体が、高分子発泡体メーカー各社から発売されるようになった。そしてアカデミアからも炎から逃げるように変形する高分子材料は難燃性高分子材料の一つ、とまでお墨付きがでた。
その結果、極限酸素指数値(LOI)で20にも満たない発泡体で台所用天井材が開発され、1980年になって社会問題化し始めた。ちなみにLOIは1970年代に提案された難燃性高分子材料の評価技術で、1970年末から各国で難燃化規格として検討され始めた。
高分子の難燃化技術について体系的な科学的研究は、1970年頃から始まった、と捉えている。ただし、森林火災についてホスホリルトリアミドのようなりん系化合物を散布する技術は知られていたので、高分子を燃えにくくする技術は古くから存在した。
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軟質ポリウレタン発泡体製造技術及び、それを実験室で簡便に行う方法など、軟質ポリウレタン発泡体を開発するための周辺情報についてそろったが、高分子の難燃化技術については、当時各社が競っていた時代である。
また、市販されているリン酸エステル系難燃剤について現在ほど種類が多くなかった。臭素系難燃剤について開発が盛んになるのはこの5年後である。
ただ、塩素系化合物と三酸化アンチモンとの組み合わせ難燃剤については、開発が先行しており、ゴム会社でも米国のタイヤ会社から技術導入した塩ビ粉とアンチモンとの組み合わせ難燃化技術が難燃性軟質ポリウレタン発泡体に使われていた。
この系の問題は、配合された処方を半日以上放置すると塩ビ粉やアンチモン系化合物が沈降し凝集して使えなくなる現象だった。また、この系の検討過程で難燃剤成分の分散状態が難燃性に影響を与えることも知られていた。
ところで、高分子の難燃化技術について、すでに一部難燃化機構が学会で議論されており、それなりの体系が見えつつあった。
教科書には、リン酸エステル系難燃剤による燃焼時の高分子の炭化機構が図示されており、また燃焼時に塩素とアンチモンが反応して塩化アンチモンが生成して空気を遮断する機構も解説されていた。
新しい難燃化機構として、溶融型や、炎から遠ざかるように変形する技術などが提案されていた。後者は当時の硬質ポリウレタン発泡体の難燃化技術として市場で成功していたかのように見えた技術である。
実はこの難燃化研究を担当してから半年後に難燃性天井材としてすでに販売されていた製品による火災多発が社会問題となっている。
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ホスファゼン変性ポリウレタンフォームの企画は、すんなり採用された。10か月後に新入社員発表会があるのでそれまでに1回目の試作の工場実験を済ませる計画が指導社員により作成された。
この計画も,ただ言葉が躍っているだけの計画であり、実際の実験については、当方に丸投げされた。そうはいってもポリウレタン発泡体など未体験の技術だったので、指導社員に教えを乞うたところ、発泡体生産現場の技術課に情報をもらいにゆく、と説明された。
すなわち指導社員も硬質ポリウレタン発泡体の開発経験はあるが、軟質ポリウレタン発泡体の開発は初めて、ということで現場で指導してもらった。この時、企業において技術は現場に存在することを改めて復習した。
新入社員研修の工場実習で技術と現場の関係について散々教育されたから、「復習」である。すなわち、現業の技術は現場が維持改善する使命を担っていた。
ホスファゼン変性軟質ポリウレタン発泡体は、ゴム会社では新技術であり、また実用化されれば、ポリウレタンでは世界で初めての技術となる。
ホスファゼンの構造については、いろいろなデザイン案が考えられたが、イソシアネートとの反応を考慮して、ジアミノホスファゼンを検討することにした。
もちろん当時ホスファゼンなど市販されていなかったので、自分でこの化合物を合成する必要があった。
しかし入社前の実験でジアミノホスファゼンについては、4種類合成しており、論文の原稿が出来上がっていた。ゆえにこの作業は経験をそのまま生かせるので朝飯前だった。
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ゴム会社に入社して10月に研究所へ配属されたかと思ったら、たった3か月で研究所内の異動により、ポリウレタンの難燃化技術を担当することになった。
当時大八化学が、各種リン酸エステル系難燃剤を開発し伸びていたころである。異動先のグループでは、硬質ポリウレタン発泡体天井材を上市した時であり、研究所内で勢いがあった。
課長(主任研究員)が、新たな企画を説明してくれたが、そこには「最先端の難燃化技術開発」とか、「不可能だった難燃性と物性の両立」など、華々しい言葉が躍っていたが、具体的な技術手段は何も書かれていなかった。
当時はこのような言葉遊びの企画でも経営陣がありがたがった時代である。具体的に何をすればよいのですか、と質問したら、課長は、若い頭で考えだしてくれたまえ、と言うだけだった。40年前は、これで優れたマネジメントができていると言われていたグループだった。
新しい指導社員と企画の具体化作業に入った時に、ホスファゼン変性ポリウレタン発泡体を提案している。当時ホスファゼンを用いた高分子の難燃化技術は、論文が出始めたばかりだった。
1970年代にアメリカのオールコック、日本では梶原鳴雪先生らが基礎研究を進め、アメリカのジェミニ計画では、ファイアストーン社で開発されたホスファゼンゴムが採用されている。
大学院の2年間無機材料の講座でホスホリルトリアミドの縮重合を梶原先生にご指導いただき、ファイアーストーン社のニュースと日本のゴム会社がサンプル取り寄せを行い研究している、という情報を調査して知っていたので就職先としてゴム会社を選んでいた。
大学院を修了し、ゴム会社入社式までの3週間弱の春休み期間に梶原先生のお手伝いをしてホスファゼンの研究を行っている。当方にとって趣味は研究であり、卒業旅行よりも楽しかった。
この3週間弱の自由な研究で、ホスファゼンのジアミノ体についてショートコミュニケーションと新規環鎖状型ホスファゼンポリマーに関する論文を書くための実験データを得ていた。
梶原先生から度重なる催促の手紙を頂いたので、ゴム会社に入社後研修中に論文を作成し投稿している。そのような経緯があり、ポリウレタン発泡体の合成において、反応型難燃剤としてホスファゼンジアミノ体を使用するアイデアを無理なく提案できた。
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機能を取り出すための実験をどのように行うのか、それこそ技術者は七転八倒しながら考える。実は技術者にとって、この考える作業が最も難しく、技術者の力量に差が出る作業である。
故田口先生が、基本機能を考えるのは技術者の責任と言っていたのは正しく、それにより、この大先生はありとあらゆる分野でコンサルティングができたのだ。
しかし、この大先生は、タグチメソッドのご指導をしてくださったが、基本機能をどのように考えたらよいのかまでは指導してくださらなかった。
この大先生のコンサルティングを3年間直接ご指導いただいた経験に基づき、タグチメソッドだけでなく、基本機能をどのように考えるのか、そもそも新しい機能を取り出すためにどのように考えなければいけないのか、といった相談まで受け付けています。ご相談ください。
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機能が明確になっているときには、設計を行い、機能の動作確認の実験を行うこととなるが、機能が不明確の時、あるいは、新しい機能が必要なときには、設計ができない。
おもしろいのは、ここのところが良くわかっていない人がいる。いつでも何かモノの設計ができると勘違いしている人である。
新製品のためにいきなり設計できるケースでは、新製品の機能が既存の商品よりも大差ない場合である。新しい機能を導入した新製品では、機能の動作確認だけでなく、機能を設計するために必ず実験が必要になる。
ここで実験せずにいきなり設計を行うので、クレームの山となるのだ。アジャイル開発では、クレームは了解事項と考え対策しているので、それほどの経済的負担とならない。
しかし、通常のステージゲートで着実に開発してきた場合には、大きな経済的負担となるケースがある。
ゆえに設計段階で、必ず機能の動作確認のための実験をおこなうことを勧める。機能の動作確認以外に、新しい機能が必要となり、機能を取り出すための実験も技術で考えるときには重要である。
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故田口玄一先生は、基本機能の研究を行え、と盛んに言われていた。すなわちこの先生によれば、研究とは基本機能を見出すこととその制御因子を設計する作業となる。
これは技術の研究の一つの意味だろう。それでは科学の研究の意味とは何かと言えば、「何か新しいことを見出すこと」だと思っている。
この言葉を初めて見たのは、大学4年の時に指導教官から渡された大阪大学小竹教授の最終講義録である。そこには、アカデミアの研究者にその意味が分かっていない人が多い、という嘆きが書かれていた。
何か新しいことを見出すために科学では実験を行う、と書かれていたのだが、一方で科学では仮説検証のために実験を行う、と言われている。
この二つの表現の整合性については、科学を正しく理解していると自明である。仮説検証のための実験により新しい真理が証明されるからだ。
「何か新しいことを見出すこと」という研究の意味は、科学の実験の目的も含んだ意味となっている。
また、技術において現象から新しい機能を見出すことが研究の目的であるので、「何か新しいことを見出すこと」とは、科学と技術の両者に共通する研究の意味である。
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マテリアルインフォマティクスだけではない。iPS細胞のヤマナカファクターも科学なのか技術なのか不明確な成果である。
ヤマナカファクター発見に至る過程で現代の科学の視点では禁じ手とみなされるような方法が使われている。しかし、技術的な視点からは、大正解、優等生の実験手順が実施された。
すなわち、ヤマナカファクターを見出すために、仮説の検証ではなく機能の動作確認のための実験が行われている。
ゆえに科学では禁じ手となるあみだくじ方式も許される。面白いのは、もし、この研究を科学的に行っていたなら、天文学的な数の実験を行う必要があった、ということだ。
iPS細胞に必要なヤマナカファクターが、4個の遺伝子からなることは公知ではなかった。また、科学の形式知にもそのことが存在しない状況で、4個がiPS細胞作製に必要であると科学的に示すためには、仮説の真偽確認のための膨大な実験が必要になる。
それを山中先生は技術的発想で、短期間に少ない実験数にもかかわらずヤマナカファクターを見出している。
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科学的に考えると否定証明をやりたくなるが、すなわち科学的に考えるとできない、と思われる機能でも、技術的思考法で考えると動作できる機能がある。
昨日例示した電気粘性流体の耐久性問題では、まさにそのような機能を含んだ問題だった。ただし、界面活性剤が機能して耐久性問題を解決できているのだが、どのような機構で機能しているのか、今でも「科学的」にはブラックボックスである。
心眼では、界面活性剤によりオイル中で形成されたミセルがゴムからブリードアウトしてきた添加剤をその中に閉じ込めているような光景が見えるが、HLB値の観点から科学的な説明はできない。
しかし、主成分分析(注)を行うと、同一HLB値でも異なる界面活性効果を持った界面活性剤が存在することを示す結果が得られる。すなわち、形式知で界面活性剤の機能をすべて記述できていないだけなのだ。
このようなことがほかにもあるかもしれない、と言うことでマテリアルインフォマティックスという研究テーマがアカデミアで推進されている。これは、一見科学的に見えるが、技術的思考の学問分野である。
イムレラカトシュは、科学と技術の境界は時代により変わる、と指摘しているが、まさにアカデミア側から技術側へ境界を移動させようという動きが今起きている。
(注)主成分分析のプログラムで注意しなければいけないのは、固有値を求める演算プロセスを適当に扱っているソフトウェアーがあることだ。すなわち、公開された主成分分析のプログラムで同じデータ群を処理した時に異なる結果が得られる時がある。これは固有値の計算結果が異なっている場合が多い。もし希望者があれば弊社で開発した主成分分析のプログラムを公開したい。主成分分析の代わりにマハラビノスのタグチメソッドを使用する方法があるが、考える作業には、すなおに主成分分析を行った方が、感覚としてとらえやすい。SN比に慣れていると、そんなことはない、と異を唱える人がいるかもしれないが、得られた結果をプレゼンテーションするときのグラフとしては、主成分分析で素直にグラフ化したほうが分かりやすい。このあたりのノウハウについても希望者があれば、無料セミナーとして企画しても良いので問い合わせていただきたい。
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加硫ゴムのケースへ電気粘性流体が封入された時に、ゴムの添加剤が電気粘性流体にブリードアウトして増粘する耐久性問題では、科学者は否定証明を行い、電気粘性流体側で解決できないと結論をだして、添加剤の入っていないゴム開発という信じられない企画を立案している。
I研究開発本部長以下誰もその企画に異を唱えなかった。しかもこれがタイヤでトップを走る研究所で起きた実話なので少し笑えない。しかし、この実話についてゴム会社のために弁解をしておくと、このゴム会社において研究所は雲の上の組織とされており、ゴム会社の技術レベルとは無関係であった。ゴム会社の実務を担当している技術者ならばこのような荒唐無稽ともいえる企画など笑い飛ばす常識を持っている。しかし科学で頭が固まっていると、それが分からない。
当方は、この研究所に所属していたが、毎日居心地の悪い状態だった。当方の考え方が研究所の風土に合わないだけでなく、そのアカデミアよりもアカデミックな雰囲気や考え方を技術者として受け入れることができなかった。
一方で、学会活動のためには、その風土ゆえに活動しやすく、また、難燃剤技術のセミナー講師などをこのころから引き受けていた。
この電気粘性流体の耐久性問題について、当方へ添加剤の入っていないゴムを開発してほしい、と依頼されたときに、おかしな企画だから1週間だけ待ってほしい、1週間で耐久性問題の解決をする、と提案している。
1年以上研究をしてきて、否定証明迄完成させた担当者からは、当方の発言は馬鹿に見えたかもしれない。しかし、当方は真面目に技術で問題をとらえていた。
すなわち、界面活性剤の機能を確認したかったのだ。そこで、研究所に存在していた界面活性剤の類を300種類ぐらい集めてきて、増粘した電気粘性流体に添加して、一晩静置後、300個近いサンプルについて観察(機能の動作確認)を行っている。
すると、増粘が解消され、電気粘性流体の機能が回復したサンプルが見つかった。そこで、その界面活性剤も含め、すべての界面活性剤のスペックについて主成分分析を行い(判定と検定)、電気粘性流体の増粘を回復した界面活性剤の機能について、改善点含めてさらなる改良手段があるのかどうか考えた。
このように技術の「考える」という作業では、機能の動作確認が実験の主たる目標になるので、試行錯誤となる場合が多い。試行錯誤を統計的に効率よく行うためには、ラテン方格を用いる。
タグチメソッドでラテン方格を使うのは、実験計画法をやるためではない。試行錯誤を科学的に行うためにラテン方格を用いているのだ。
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