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2015.08/29 山形市長選と橋下大阪市長

山形市長選をめぐる維新の党内のごたごたで橋下氏が離党した。創業者が離党したわけだが流れから予想されたことで、今後大阪維新の会がどのように動いてゆくのか興味深いものがある(注)。また、橋下氏は政界からの引退を口にしたりしているので維新の党の離党はその動きの中でごたごたのタイミングが重なった結果ともとれる。
 
維新の党を離党した橋下氏が大阪市長の任期を終えればただの人に戻るわけで、そこを狙って自民党がラブコールを送っている、というニュースも飛び交っている。また、一世を風靡した維新の党は今回の橋下氏の離党で分裂するのではないか、という憶測も流れている。
 
政治の世界は技術の世界よりも複雑怪奇である。だいたい山形市長選において維新の党の幹事長が党の支援を決めていない民主党系の候補者を応援したという時点でビックリした。当方は維新の党の支援者ではないが支援者はもっとびっくりしたのではないだろうか。
 
いくら政治の世界は何でもありといっても自分の役割立場を忘れている。このごたごたで面白いのは、比較的早く結果が出てきたことである。橋下氏の決断の速さの結果であるが、技術開発でも同様である。
 
実践知を取り入れた技術開発では、時として予期せぬことが起きる。その時に整理された形式知と起きている現象の対応を迅速にできるかどうかが技術開発のスピードを決める。すなわち科学で真理として確定していることと科学でわかっていないことの分類を行う、といったほうがわかりやすいかもしれない。
 
今回の問題で維新の党の分裂がささやかれるのは、維新の党の内部に民主党支持の議員がいるからで、それで橋下市長は早期の決断をしたのだと思っている。政党というのは志が同じ人の集団でなければいけないのだが、必ずしもそのようにうまく結党できるわけではない。技術開発で扱う現象も同様で、科学で解明された事象ばかりの現象がいつも扱えるわけではないのである。
 
科学で解明されていない事象、あるいは不可思議な事象にであったなら迷わず弊社へ相談してください。問題解決の処方箋を提案させていただきます。
 
(注)大阪維新の会を国政レベルに、というニュースがお昼に流れた。すなわち現在の維新の党を分裂させる引き金が引かれた。変化が早い。おそらく維新の党の執行部は橋下氏の離党を甘く見たのかもしれない。あるいは、橋下氏の離党は現在維新の党がかかえる問題を有権者に顕在化させたかったのかもしれない。大阪都構想の挫折から今日までのニュースを見ていると、橋下氏の節操の無いような動きに見えるのかもしれないが、維新の党の動きをみれば、妥当だと当方は思う。なぜなら問題を明確化することこそ次のステップのためには重要だからだ。橋下氏は節操がないという批判をうけてでも、理想を実現するために問題を顕在化させる道を選んだのかもしれない。
技術開発でも、形式知中心で開発をされている方から見ると、実践知を取り入れた開発は節操が無く見えるときがある。しかし政治の世界では、理想を実現することが重要であり、技術の世界でも実用になるモノを完成させることがゴールとなり、それらが達成されるまでの流れは、形式知で真理を追究するような美しさはない。プロセスの美しさが重要では無く、達成されたゴールが人類へどれだけ貢献しているのかが政治でも技術でも重要だと思っている。

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2015.08/28 日本企業の目指すべき技術

20世紀末に急速な科学の進歩があり、それにより技術も急速に進歩した。また、アナログからデジタルへのイノベーションは、技術のパラダイムを大きく変えた。特に複雑なエレクトロニクス機器があたかもレゴのような組立技術で作られるようになった。そして半導体チップはどんどん集積化と小型化がすすめられ、さらに標準化により、汎用化も進んだ。
 
このような汎用化の進んだ技術をただ組み合わせただけの製品を日本で企画開発していたのでは、仮に特許を取得できたとしても、高々20年の独占しかできない。実際に基本特許の切れた液晶パネルと回路を組み合わせただけの液晶TVのシェアーを日本は大きく落としている。
 
ドラッカーは、企業の30年説をその著書の中で述べており、30年経過したら改めて事業の再定義が必要だと言っている。事業の再定義が必要と言っても資源の無い日本では、何かモノ造りをしない限り、その成長は無いので技術が必要な事業は日本に必ず残る。
 
とにかく時代は変わっても、新しいモノを作っていかななければ生きてゆけないのが日本ならば、モノづくりに必要な技術のパラダイムを見直さなければいけない。
 
高度経済成長では、科学立国日本が声高に言われ、科学技術の追求こそ日本の生き残りが約束される、とまで言い切った方がおられるが、科学のような形式知は情報化時代の現代において、やがて汎用化するのである。
 
一方技術を人類の歴史の中でとらえてみると、形式知に支配されたのは、高々300年程度であり、昔は実践知と暗黙知の伝承で技術開発が進められてきた。また日本のモノ造りの実際を眺めてみても、今でも強い企業というのは、参入障壁の高い市場で事業を行っている企業で、その参入障壁には実践知と暗黙知の光が投影されている。
 
科学にもとづく形式知は重要である。しかし、実践知や暗黙知も同様に重要であるにもかかわらず、形式知が重視されてきたのが20世紀の日本の技術開発である。実践知や暗黙知にもう少し目を向けてもよいのではないか。新しい時代の研究開発方法について弊社にご相談ください。
   

カテゴリー : 一般

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2015.08/27 技術のコモディティー化

液晶TVやDVD,太陽電池など20世紀に日本が100%近いシェアーを誇っていた電気製品が30%以下のシェアーに落ちていったのは、技術のコモディティー化が原因である、と言われている。
 
確かに20年経過して基本特許が切れ、技術がコモディティー化してどこでも誰でも製造できるようになったので韓国や中国企業の追い上げでシェアーを落としていった、というのは現象の説明としてわかりやすい。
 
ただ世の中にはローテクでどこでも製造できそうなのに参入障壁の高い技術領域があることを忘れている。例えば自動車用タイヤ。自転車やオートバイ用のタイヤは、すでに価格競争に突入し、電気製品と同様の状態になっているが、自動車用タイヤについて、トップ3がブリヂストン、ミシュラン、グッドイヤーであるのは1990年以降変化が無い。
 
また、レーザープリンターの高級な複合機分野では、キャノンとリコー、ゼロックスのシェアーに大きな動きは無い。CRXの堅実な技術経営の前に他社は食い込めない。
 
これらの分野と液晶TVとの大きな違いは、科学で解明されていない技術領域であるかどうかの違いではないか、と思っている。いわゆる世間でいうところのノウハウが無ければ製品の品質を作りこめない分野である。
 
自動車も同様で、エンジンの組み立てについては自動車会社各社必ず自前で行っているので、参入障壁が高く、トップ企業のシェアーに大きな変動はない。しかし、ここにきて電気自動車の時代になるとこのシェアーに大きな変動が起きるかもしれない、と言われるようになった。なぜなら動力源であるモーターの組み立てにはエンジンほどのノウハウは必要ないからである。
 
このように考えてくると技術のコモディティー化が起きやすい技術領域とそうではない技術領域がありそうに思われ、見方を変えると、科学の急速な進歩により、形式知を中心に進歩した技術領域はコモディティー化しやすい、となるのではないか。
   

カテゴリー : 一般

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2015.08/26 カオス混合

カオス混合は30年以上前に指導社員から教えていただいた混練技術である。彼の説明ではロール混練でそれが起きている、という。そしてその機構をバッチ式ではなく連続式で実現したら混練技術に革新をもたらす、と教えてくれた。そしてその実現が当方の宿題となった。
 
その後ポリウレタンやフェノール樹脂の難燃化というテーマからセラミックスへ仕事がかわり、カオス混合を考える機会が無くなった。しかし、カオスを混合したらどのようになるのだろうと、酒を飲みながら話のネタにはしていた。
 
以前紹介したが、退職前の単身赴任の時に偶然その技術開発を行うことになった。人生とは面白いもので、思い続けているとそれがかなうことがある。カオス混合はいつかやってみたいと思い続けてきた技術の一つだ。
 
思い続けてきたが、ストーカーのように追い続けてきたわけではない。学会で関係する発表があれば、それを聴いてみる、という程度である。印象に残っているのは、日本化学会で発表のあったラテックス粒子の自己組織化現象である。
 
ラテックスが一層流れる程度の薄いスリットの中にラテックスを流すと規則正しく粒子がならぶという報告である。溶融した高分子の粘性流体をそのような細いスリットに流すことは不可能だが、ロール混練の条件に合わせたスリットへ急速に流したらどうなるか、というアイデアが生まれた。
 
アイデアが生まれたがそれを実施するまで10年近く月日が流れた。運良くカオス混合を開発できるテーマが目の前に現れた。そして、単身赴任した開発現場には、それをモデル的に確認できる環境が整っていた。
 
カオス状態とは混沌としたものだが、問題がうまく解決されるときというのは、不思議なことにとんとん拍子に進む。人生全体はカオスのようなものかもしれないが、その一瞬一瞬というのは、努力の積み重ねた結果が現れるのではないか、と思うようになった。
 
だから苦労しているときには、なおいっそう真摯に努力に励まなければいけないのだろう。長期的視野では、努力は必ず報われると信じたくなる、そんな人生である。
    

カテゴリー : 一般 高分子

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2015.08/25 混練の知性(3)

どのような高分子でも完璧なコンパウンドにできるように、混練技術を形式知として体系化するのは困難だろうと思う。だから、実践知と暗黙知、そしてわずかな形式知の知性の境界を越えた体系化が必要になってくる。
 
混練技術者とはそれができた人を言う。おそらく30年以上前に当方を指導してくださった指導社員は、今でも通用する混練技術者だろう。彼の指導方法はあくまで実践知が中心に据えられていた。彼の形式知さえも本人は懐疑的に見ていた。
 
暗黙知を伝える方法も秀逸だった。二本のロールにゴムを巻き付け、それが混練されてゆく様子を30分眺めていた。そしてそこへ少量のカーボンを添加し、あっという間に真っ黒くなる現象を解説してくれた。言葉ではなく黒くなったゴムをロールから外し、実際に触れることでカーボンがゴムに分散された状態を教えてくれた。その説明に分散混合と分配混合は出てこなかった。
 
彼は職人ではない。ダッシュポットとバネのモデルから導いた常微分方程式を電卓で解き防振ゴムの材料設計を行う京都大大学院出身のレオロジストだった。面白いのはダッシュポットとバネを使ったレオロジーの形式知が将来は使われなくなるだろうと予測していたことだ。
 
また、研究用のサンプルを作成するときにも、小型のニーダーを使用するのではなく、現場のパイロットスケールのバンバリを使用した点である。マスターバッチを大量に製造できるので効率を考えてのことかと質問したら、ゴムはプロセスの履歴が物性に表れる、と実践知を教えてくれた。
 
そのほか彼から教えられた知識は多い。3ケ月間マンツーマンで指導され、ゴムの混練技術とその考え方は良く理解できたが、ゴム会社でその知性を活かす機会は二度と無かった。
 
しかし実践知や暗黙知は、水泳や自転車のように一度身につけると忘れない。形式知は忘れてしまう部分があるが、実践知は体で覚えている。たった3ケ月で身につけた知識(注)であるが、指導社員の熱意とともに自然と思い出す。10年前に単身赴任して、その時初めてバンバリーを操作したときも躊躇なく運転できた。
 
高分子科学は現在もアカデミアの努力で進歩している。特に高分子物理は地味ながら20年前よりも大きく進歩した。まずダッシュポットとバネのモデルでレオロジーを論じる研究者を見かけなくなったことだ。OCTAの登場で容易に高分子物理をコンピューターで学べる環境が整った。今教科書に書かれている混練の形式知はおそらく10年後は異なった内容になっている可能性が高いと思う。
 
(注)今ならばブラック企業という騒ぎになるような勤務状態だった。ほとんど毎日自主的な夜勤と休日出勤だったが、楽しかった。会社の管理も緩い時代だったので、実験を思う存分にできた。指導社員からはバネとダッシュポットのモデルから計算された粘弾性のグラフを渡されており、当方はひたすらそのグラフに合った材料を見いだすのが仕事だった。樹脂とエラストマーのポリマーブレンドがすべて計算通りの粘弾性特性になるわけではなかった。
50種類ぐらい検討を進めたところ、樹脂の結晶化度が影響していそうな傾向が見えてきた。さらにその傾向は2種類の群に分かれ、コポリマーが良さそうに思われた。試作サンプルが100を超えたところで多変量解析を行って整理をしてみた。昼間は指導社員の指導を受け、夜は自分の思うように仕事ができたサラリーマンで一番楽しかったときかもしれない。高純度SiCの事業化は今思い出すと楽しかった時代になるが、この防止ゴム開発の3ヶ月間は明確なゴールとチェックポイントが示され、あたかも宝探しのような楽しさが毎日の仕事にあった。材料開発では、形式知ですべて解決できるわけではなく、試行錯誤の作業が必要になる場合がある。凡才にとって、形式知で解決できないテーマは、実践知を磨くチャンスとなる。指導社員はシミュレーションは完成したが、具体的な材料が分かっているわけではない、と正直に教えてくださった。そしてシミュレーションがはずれた材料一つ一つについて、ダッシュポットとバネのモデルで解説してくださった。最初は本当に材料の配合が見つかるのか不安だったが、指導社員が必ずできる、と励ましてくださったので、がむしゃらに混練を続けたら、最初の1ケ月でゴールに近い材料が見つかり、一週間後にはシミュレーションのグラフとずばり適合する処方が見つかった。その後はさらに探索を進める作業と、見つかった系について耐久試験を進める作業と忙しくなった。テーマを開始して3ヶ月後には新しいコンセプトに基づく防止ゴムの実用配合と、その理論の報告書が完成していた。
まったく新しいコンセプトの材料は、試行錯誤のプロセスを経てできあがる場合が多いのではないか?

カテゴリー : 一般 高分子

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2015.08/24 混練の知性(2)

樹脂を二軸混練機で混練するときに、分散混合と分配混合という考え方でスクリューセグメントの設計を考えるようだ。ようだ、と書いたのは、当方はこの考え方でスクリューセグメントの設計を行わないからだ。
 
「未だ科学は発展途上」で、一流のコンパウンド会社から素人扱いされ、混練のアイデアを受け入れていただけなかった体験を紹介した。そこの技術者は、分散混合と分配混合、弱練りと強練りという言葉などあたかも形式知のように使っていた。
 
しかし、その一流コンパウンドメーカーの形式知をもってしても解決できなかった問題を素人が30年前の実践知で解決したのである。一流と言われたコンパウンダーの混練の形式知とは何か調べてみたところ、某書籍に書いてあり、やはり完成された知識の体系としてまとめられていた。しかし、実際の現象には使えない形式知だと感じた。
 
分散混合と分配混合については、液体モデルに何か分散させたいときの考え方であり、様々な樹脂の混練でこの考え方が当てはまるわけではない。混練では伸張流動と剪断流動が発生し、その力で混練が進む、という形式知程度しか分かっていない、ととらえた方が良い。
 
そのほかに二軸混練機を購入するならば、KOBELCO以外はどこの混練機を購入しても同じ、と以前から感じていたが、この10年の経験からこれは正しいかもしれないと思うようになった。
 
理由は10年前に購入した同社製の中古機が未だトラブルなしで量産に使用されているのと、中古機に対するアフターサービスの良さ、そしてすでに20年以上経っているのに安定に使用できる耐久性などから、made in JAPANのブランドの信頼性の高さが裏付けられたからである。
 
二軸混練機と言えばKOBELCOというのは実践知ではなく形式知になるのかもしれない。そのくらいすばらしい装置である。中国で数社の混練機を実際に使用してみたが、KOBELCOの足下にも及ばないものばかりだった。KOBELCOの唯一の欠点は値段が高いことである。
 
もし二軸混練機の勉強をしたいならばKOBELCOのカタログをダウロードして読んでみると良い。スクリューセグメントの考え方も簡単ではあるが丁寧に記載されている。そして購入したくなったら電話をかけ相談すると、スクリューセグメントの設計まで親切に行ってくれる。依頼すればそのシミュレーション結果もサービスとして送ってくれる。ちなみに弊社は同社と無関係の中立の立場である。
 

カテゴリー : 一般 高分子

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2015.08/23 混練の知性(1)

混練を形式知で記述しようとするときに、装置と混練される材料との関係が問題となる。すなわち高分子材料は、その種類により一次構造が異なればレオロジー特性も異なる。しかし、溶融状態のレオロジーについてはいまだ学会で議論されているレベルである。
 
材料側の物性変化が一義的に定まらない状態で装置と材料の関係を議論するとなると、科学的にどのように論理展開すればよいのか。そこで材料モデルを考案し、近似解を得られるように問題を解くわけだが、ここで怪しいことが起きる。
 
約10年にわたり、樹脂の混練技術に携わってきた。そして新しいカオス混合装置を開発し、そこから創りだされる新たな材料の特許出願もできた。この装置は日本と中国でそれぞれ稼働している。日本で量産に使用されている装置を第1世代とすれば、中国のそれは思想の進歩した第2世代である。
 
第1世代を開発したときに、社内のデザインレビュー(DR)と呼ばれる、ステージゲート法のゲートに似た仕組みを突破するためにシミュレーション技術を駆使した。そのときはDRを通したい都合で、あたかも形式知がそこにあるかのような説明をしてきた。
 
混練のシミュレーションなど普通に計算するとうまく適合した結果など出ないのだが、シミュレーションそのものを実際に合うようにパラメーターを設定して結果を出してきた。すなわち通常粘弾性の測定データを入れるところを、現実にあうパラメータの値を入力し、結果とあわせこんで計算したのだ。
 
実際にあわせて計算しているので、何のためのシミュレーションだ、というつっこみは起きるかもしれないが、実際に計算しているので捏造には当たらない。データを説明しやすいようにシミュレーションで得られるきれいなグラフィックを利用したかっただけである。
 
そのようなシミュレーションのやり方で分かったことはいくつかあるが、スクリューセグメントを設計するために行う混練機の温度シミュレーションは、実践知によく適合すると感じた。もっとも実践知が蓄積されるとシミュレーションを行わなくてもスクリューセグメントの配置から概略温度変化は予想がつくようになりシミュレーションなど不要だが、実践知が無いときには、シミュレーションされた温度データは頼りになるはずだ。
   

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2015.08/22 混練

身の回りにある高分子材料には必ず何か添加剤が入っている。高分子合成段階に添加剤も一緒に混合する方法もあるが、多くは混練機で添加剤を高分子に混練する。
 
二種以上の高分子を混ぜるときには必ず混練プロセスが必要になるが、この混練技術について誤解が多い。例えば、未だ科学で完全に解明された混練プロセスは存在しない、という事実でさえも否定する人がいる。
 
これはゴム会社を定年で退職した同期の技術者に聞いた話だが、ようやくロール混練について80%ほど科学的に解明できたところだ、とのこと。バンバリ-については未だ藪の中だそうだ(注1)。
 
だから混練について書かれた書籍は、非科学的内容と受け止めながら読む必要があるが、科学的に断定して書かれている論文に遭遇すると誤解が生まれるのも仕方がないとため息がでてしまう。
 
混練について書かれた論文を読むときにはこのような考え方もある、というぐらいの心構えが必要である。それでは、混練技術を理解するための基礎は何か、と問われるとレオロジーという抽象的な回答になる。
 
混練プロセスでは、伸張流動と剪断流動が起きており、この組み合わせで混練が進む、というのが一般的な考え方だ。そして少し古い論文には、剪断流動では細かく分散できる粒径に限界があり、ナノオーダーまで分散するには伸張流動が有利である、と書かれている。
 
しかし、2000年頃に行われた高分子精密制御プロジェクトで、高速剪断流動でナノオーダーまで高分子が分散されることも示された(注2)。すなわち過去に書かれていた剪断流動の話は混練プロセスにおけるスクリューの回転速度の範囲では、という条件付きで読む必要がある。
 
(注1)昔は闇の中、と言われたので少しは進歩した。
(注2)あの技術は分子量低下が起きているからだめな研究だ、と批判していた人がいたが、分子量低下が起きていてもナノオーダーまで分散している、という見方が実践知による見方である。なぜ500回転前後の二軸混練機で剪断流動を中心とした混練でナノオーダーまでゆかないのか、と疑問を持つことは重要である。そして1000回転以上でナノオーダーまで混練が剪断流動で進むという実践知が生まれている。ここで問題になるのは、せっかく有用な知が生まれても、実験結果に科学的な厳密性が欠けている部分をみつけ、知の全てを非科学的と否定することである。混練では少しの条件変動で興味深い結果が生まれたりすることがある。それらをどのように扱うかで技術の蓄積量が変わる。

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2015.08/21 Tg

高分子のガラス転移点(Tg)は、溶融して液状となった高分子を冷却する過程で高分子が流動できなくなり、固体となった時に現れる変曲点である。無機ガラスのTgよりも高分子のTgは面白い。
 
分子レベルでは運動性を失っていないので、分子を眺めることができたならば微小領域の隙間を観察すると、犬のしっぽのように高分子の端がぴくんぴくんと動いている様子を見ることができる。
 
この部分は、高分子の自由体積(部分)と呼ばれる。すなわち高分子を溶融状態から急冷すると非晶質となるが、この状態で、完全に分子運動が凍結された部分と自由体積部分の二つの構造ができる。
 
結晶性高分子では、さらに非晶質状態の中で規則性が高い構造もできるので、高分子の急冷プロセスでは3種類の高次構造ができることになる。これらは構造の特性が異なるので、急冷した高分子を熱分析、例えばDSCをTg温度を超えるあたりまで測定したときには3種類の変曲点が現れても良さそうだが、DSCの感度はそこまで高くなく、Tgが一つ観察されるだけである。(ただし、結晶性高分子では結晶化温度Tcで鋭いピークを示すので、2つ現れることになるが)
 
二種以上のコポリマーでは二つ以上Tgが観察されるが、ここでは話を簡単にするために1種類の高分子で考える。さて、DSCで観察されるTgは、結晶化温度を示すTcのピークのように鋭く現れない。明らかなピークとして現れず、時にはわかりにくい情報となるが、高分子のプロセシングの履歴をそこに観測することができる。
 
教科書を読むとTgはTcのような相転移ではないのでDSCでは、熱エネルギーの解放あるいは吸収を示すピークとして観察されない、とある。そしてただ比熱が変化するのでベースラインの変化が観察されるだけ、とそっけない説明である。
 
昔そのベースラインの変化量は高分子の自由体積の量を示している、と習った。そして、DSCでTgを計測してそのような単純なグラフとして現れた時にはうまく測定できた、と思っていたが、Tgが現れなかったり(注)、ピークとして現れたりするデータと遭遇するようになり、その意味の奥深さを味わっている。いまだ実践知と暗黙知の残っている世界である。
 
(注)DSC測定において、Tgが観察されない場合の隠し技がある。Tgが観察されないからTgが無い、という結論は正しくなく、そのような材料でもTMAを用いるときちんとTgが現れる。隠し技を用いるとDSCでも本来のTgが現れるようになる。
  

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2015.08/20 コーリーの逆合成

プロスタグランジンの全合成で有名なコーリーは、天然物の骨格合成手法の開祖と習った。彼は、それまで職人芸的であった天然物の人工的合成ルート探索手法をコンピューターでもできるようにした、有機合成のイノベーターでもある。
 
彼の合成ルート探索手法のキモは、ターゲットの化合物をスタートにして逆に合成ルートをたどりながら考える手法「逆合成」である。人工知能分野のエージェント指向という考え方もこの手法をとっていることで知られているが、これは有機合成分野において1970年代にコーリーが初めて成功した合成ルート探索手法であると学生時代に習った。
 
学生時代に、合格率が20%以下という有機合成化学の試験で毎年この問題が出ていたが、知らないかあるいは手法を身につけていない人は追試を受けなければならなかったので、化学系学生には有名な手法である。
 
ところで、この逆合成手法の「問題を逆から考える」、あるいは「問題を結論から考える」、という問題解決の手法を提唱したのは、コーリーが初めてではない。受験参考書で有名な数件出版社のチャート式数学には、チャートとして「文章題では、結論からお迎え」という標語が1970年以前から掲載されていたからだ。
 
このように問題を結論から考えると解決策がわかりやすい、という実践知は、かなり昔から知られていた可能性がある。例えばニュートンも万有引力の法則を逆から論理展開して導いている。この意味でニュートンの方法を非科学的という人もおり、科学の存在そのものが怪しい時代で、言うまでもないがチャート式数学など無かった。
 
科学的な推論は仮説から始まり、順方向に問題を解いてゆくことなので、逆からの推論は非科学的となるのだが、受験参考書にも書かれているように、問題の解決の見通しを選るのにこれほど良い手法は他に無い(注)。
 
今や目標管理が企業のマネジメントの中心になり、社長方針から各部門各組織へそのブレークダウンを行っているように、仕事の問題も逆から考える習慣になりつつある。問題を逆から考えると解きやすい、と言うことが分かっていても、実務に普及するのに少なくとも40年以上の年月がかかっている。
 
(注)弊社の運営するサイト「未来技術研究所(www.miragiken.com)」をご覧ください。

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