電気粘性流体の増粘問題を事例に、科学の研究プロセスで「モノ造り」をしたときの問題を指摘した。最近はものづくり論とプロセス産業論の議論が盛んに行われるようになってきたが、抽象的な議論が多い。
具体的な問題をとりあげづらいのだろう。しかし、裸の王様をそのままにしておくことが本当に良いことなのだろうか。またその事実を指摘するのは子供にしか許されないことなのだろうか。成長する正しい社会のあり方は、大人でも裸の状態を王様に申し上げることが可能な懐の深い「世間」だと思う。
科学の研究プロセスにおける問題の一つとして、仮説設定によるモデル化の過程で排除される現象の処理方法がある。これはやや婉曲な表現であるが、わかりやすく言えば、科学ではいつでも解ける問題を設定して解いているに過ぎない、ということである。
子供のころ読んだ科学雑誌に、「科学というものは複雑な自然界の絡み合った糸を紐解き一つの真理として明らかにすることである」という言葉が書かれていた。素直に感動したこの言葉だが、自然界から人類に役立つ機能を長年取り出してきた立場からすれば、絡み合った紐のままロバストの高い技術を創りださなければいけない苦労を科学者は理解してほしい、と言いたい。
高純度SiCの新合成技術を初めて学会で発表したときの屈辱感は今も忘れられない出来事だった。フェノール樹脂とエチルシリケートから合成された均一前駆体を炭化しその炭化物からSiC化の反応を行った熱分解カーブから反応速度を均一素反応として取り扱うことが可能と結論したら、前駆体の均一性が証明されていないのに、なぜそれが言えるのか、という質問が飛び出した。
覚悟していた質問だったので、フェノール樹脂とポリエチルシリケートを酸触媒存在下で混合すると透明な前駆体が得られ、それで均一と判断した、と答えたら、フローリーハギンズ理論をご存知か、となった。すなわちフェノール樹脂とポリエチルシリケートは均一に混ざらない組み合わせだからその結果はおかしい、と指摘されたのである。
透明な前駆体が得られたので均一と仮定し、まず今回の発表に至った、と当方も若かったのでまともに受けて答えてしまった。そのあとは偉い先生から発表そのものがおかしいようなコメントをされて時間切れとなった。このできごと以来高純度SiCについては招待講演以外で講演することをやめた。
技術発表ができないような学会では技術者の参加は増えない。ちなみにこの技術は30年近く事業として続いており、日本化学会技術賞も受賞している。(実はこの受賞についてもドラマがあり、機会があればそのドラマを公開したい。)
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電気粘性流体の増粘問題解決をお手伝いすることになった時に、過去の報告書や科学文献を機密書類だからという理由で見せていただけなかった。すでに世間で係長に相当する職位になっていた当方に、それはないだろう、と思ったが、貢献が働く意味なのでお手伝い業務を快く引き受けた。
当方の仕事は、オイルでブリードアウトしないゴムの開発なので電気粘性流体の情報が無くても考えられるだろう、と言われた。ただ、今から思えばこれが良かった、と思っている。業務に必要な科学的情報が全くない中で、目の前に起きている現象をそのままとらえることができたからだ。
増粘したオイルを1kgだけ欲しい、とお願いしたら、ごみとして処分される流体を全部もってけ、となった。増粘したオイルが大量にいただけたので、手当たり次第に界面活性効果のありそうな物質とそれらを組み合わせて一晩放置する試行錯誤実験を行った。
科学は時として問題解決を遅らせる。また、否定証明に走れば問題解決ができないということを科学的に証明して終わるので、問題解決そのものを科学による問題解決プロセスが問題解決そのものを不可能にする場合もある。
当方に依頼される前の一年かけたプロジェクトでは、電気粘性流体の増粘問題を増粘の原因物質の解析業務から始めていた。そして界面活性剤のHLB値が変わるとそれらの物質が電気粘性流体とどのような相互作用をおこすのか、科学的な解析と推論により解決策を探るという科学的問題解決プロセスで進められた。
その結果、すべてのHLB値で増粘を防ぐ解は存在しないという結論が膨大な解析データに支えられて、一つの真理として導き出された。そして、界面活性剤を電気粘性流体に添加しても問題解決できないという結論が「科学的に」導き出されていた。
転職する直前に報告書を見せていただいたが、科学的に完璧な否定証明論文だった。だから界面活性剤ではなく別の名前で呼ばなければ科学的につじつまを合わせることができないので、問題解決できた界面活性剤を第三成分と呼ぶようにしたようだ。
科学のプロセスで否定証明の結論を導き出したのは、当時の研究所の風土では避けられないことだった。つい最近では理化学研究所でスタップ細胞が存在しない、という否定証明が行われている。科学こそすべて、という風土では否定証明が優れた成果として評価されたりする。
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界面活性剤の機能についてはHLB値が定義されている。そしてそれを用いて議論を進めるプロセスが教科書に書かれている。しかし、実用化されている界面活性剤は、教科書に書かれているような美しい単一構造の化合物ばかりではない。
構造が異なる多数の化合物が混合された状態のものもあれば、構造不詳のものも存在する。さらにひどいカタログでは界面活性剤のHLBを推定で記述しているケースもある。カタログに書かれたHLB値について営業担当は推定とは言わず、相当品という言葉を使っていたが、その値を実際に測定していない、と回答された経験もある。
研究所の報告書では、HLB値について自分たちで測定し使用していた。そして混合物については科学的に扱いにくいという理由で検討対象から外していた。これは、技術開発を科学的プロセスで進めるときに犯しやすい過ちである。
すなわち科学的な厳密性を追求するあまり、問題解決の手段を科学的に論理展開できる対象だけに絞り、その他を排除するプロセスをとってしまう。その他の現象の中には科学的に意味の無い現象であっても技術の視点で重要な現象も存在する。
例えばiPS細胞の研究では、24個全ての遺伝子を検体に放り込んで細胞の初期化を観察する実験を行っている。多数の遺伝子を同時に放り込んでも細胞内に取り込まれるかどうか不明であり、科学の厳密な視点で言えば、意味の無い実験である。
むしろ実験がうまく行かないので手持ちの遺伝子を破れかぶれになり全部放り込んだ、と誤解されるので普通は行わない。しかし、その実験で細胞の初期化が起きたのだ。科学的に意味の無い実験であったが、iPS細胞の技術開発では価値のある機能を現象として起こしたのだ(技術開発ではこのような実験は大切である)。
山中先生の本当に偉いところは、科学者でありながら学生の破れかぶれの実験結果を丁寧に評価し採用している点だ。科学こそ命、あるいは科学オタクと言ってもよいような上司の場合には、「たまたまうまくいっただけで、科学的に意味がない」と実験結果を軽く扱う場合もある。
トリュフというキノコは見つかるまでに7人の人間の股の下に置かれる、とか言う言葉を外人の科学者の講演で聞いたことがある。日本人ならば松茸を引き合いに出すかもしれない。あるいは股下という言葉から日本人でも忖度して松茸をトリュフとするかもしれないが、新発見が見つかるまでにその現象は幾人かの科学者の目に触れるが見落とされる、と言う意味だそうだ。
ところがこのiPS細胞については、未だに初期化確率を上げる研究が行われている。ノーベル賞級の研究なので特にコメントしないが、当方のあらゆる界面活性剤を集めて行った電気粘性流体の増粘問題を解決する実験や高純度SiCの前駆体を合成する方法、カオス混合技術など試行錯誤の成果でありながら極めて再現性の高い機能を一発で仕留めている。
科学的なKKDの成果と言ってもよいが、いずれの成果もまっとうな思想に基づく技術開発プロセスで行っている。最近その方法についてセミナーで公開しはじめた。
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電気粘性流体の増粘問題を界面活性剤で解決した体験を過去にこの欄で紹介している。その解決方法を一口に言えば、試行錯誤である。増粘した電気粘性流体を多数のサンプル瓶に入れ、そこへ手持ちの界面活性剤を添加し、一晩放置したところ、粘度の下がっていたサンプル瓶があったので解決できた、という話だ。
ところが電気粘性流体の増粘問題を界面活性剤では解決できない、という科学的証明を1年近くかけて研究を行っていた複数の優秀なスタッフがいた。当方がこの増粘問題のお手伝い業務を依頼されたときにはそのような話を聞かされていなかったので、業務を頼まれてたった一晩で問題解決できた、と言ってしまった。
会社で忖度の無い発言は敵を作る。しかし、電気粘性流体の実用化は研究所内の重要テーマで後工程へのお客さんに完成品を渡す納期が迫っていた。そこで界面活性剤を第三成分と名前を変えて、「界面活性剤では問題解決できなかったが、第三成分で解決できた」として当方の成果は報告され、このアイデアが問題解決法として採用された。
研究所の報告では第三成分と表現されているが界面活性剤のことである。なぜ第三成分と表現しなければいけないのか上司に尋ねたら、界面活性剤に関する報告書の存在を知らされた。歪んだ報告であったが、当時は採用されるとのことで了解した。
ただ、この時に組織の問題に気がつくべきだった。写真会社へ転職しても前任者の間違いを正さない組織活動における悪い慣習を見てきたが、オリンパスや東芝の例もあるので、そろそろこのような組織のあり方を反省すべき時ではないか。
増粘した電気粘性流体へ思いつくすべての種類の界面活性剤を添加する実験を実施しておれば簡単に解決できたのに、なぜ優秀なスタッフが1年もかけて問題解決できなかったのか。理由は単純で、当方の様な試行錯誤ではなく科学的に問題解決を進めたからである。
教科書を読むと、界面活性剤はHLB値でその性質を科学的に記述できる、と書いてある。これは間違いではない。しかし、世の中には同じHLB値でも界面活性効果が微妙に異なる界面活性剤が存在する。すなわち界面活性効果とHLB値は1:1対応の関数関係ではない。
優秀なスタッフは、HLB値の異なる界面活性剤20種類前後を徹底的に研究したらしい。そしてあらゆるHLB値の界面活性剤を使用しても電気粘性流体の増粘問題を解決できない、という結論を出したようだ。
仮説を設定し、仮説を確認するための実験だけを行い、科学的に結論を出していた学術論文のような報告書を読み、技術開発を進めるときの科学の問題を改めて認識した。等しいHLB値でも界面活性効果の異なる界面活性剤が存在することが科学的に解明されていない以上、科学のプロセスで作成された報告書を科学的に間違いという結論を出せない。
しかし、技術開発は自然界で安定に機能するオブジェクトを創造して初めて完結するのである。科学的な正しさという問題ではなく、「人類に役立つ機能」が重要である。
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ギターという商品はすでに確立された技術を真似ている職人技の商品と思われがちであるが、現在生き残っているギターメーカーのギターを見ると、材木の管理技術や接着剤、塗料、力木の配置などに細かい技術の改良成果を読み取ることができる。
ヤマハギターは、他のギターメーカーよりも2-3割高い値段でギターを販売しており、それでも売れている。これは差別化がうまくいっている事例だろう。昔家具メーカーがギターを作り始めた、と揶揄されたその他大勢の一社モーリスギターは、デザインと独自の力木配置や材木管理技術などで成果を出して1970年代よりも高い一定の評価を得ている。
その他の生き残っているメーカーも同様で探せば1970年代よりも優れた技術を店頭に並んでいる商品から見つけることが可能である。音の品質が商品性を左右するギターであっても見た目は大切でありデザインの工夫はすぐに価値向上アイデアとして思い浮かぶが、デザインを変更すればアコースティックギターの音は激変する。
デザインに合わせて材料の調節や力木の工夫、塗装材料やその厚みの工夫など必要になり、手工ギター製作家に尋ねるとそれは試行錯誤で決めて行くという。ギターブームが下火になったときにとにかく売れる商品を作るために努力したという。カスガ楽器や木曽スズキはじめ倒産したギターメーカーは多数あるが、現在日本に生き残っているギターメーカーは職人技術者が技術開発を進めたメーカーのようだ。
このギターと類似ではないか、と最近感じているのは、オーディオのスピーカーである。最近のスピーカーには様々なデザインの商品が存在し、昔ながらのツイーターとスコーカー、30cm以上のウーハーの3点盛りのブックシェルフタイプは、オンキョーとJBLの一部の商品しかない。
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クラシックギターが昔ながらの構造と形をそのままにして作られているのに対し、スチール弦ギターは今も改良が行われ、新作が登場している。例えば主要なフォークギターいわゆるアコースティックギターの構造は、どのメーカーから販売されているギターも同じような材料で同じような作りになっているが、40年前ドレッドノートタイプが大半だったデザインは多種多様になってきた。
アコースティックギターは、弦がスチール、ボディーの振動する板はスプルースなどの松や杉の仲間の材料を薄くしその裏に力木を配置した複合構造でできている。またボディーを頑丈に作るために振動板以外はローズウッドやハカランダなどの堅い木が使われ、ネックはマホガニー材とほぼ決まっている。
この材料構成の基になったのはアメリカのマーティンギターで、1970年代のフォークギターでよく売れていたのはデザインまで真似たフルコピー版である。だからどこのメーカーのフォークギターも同じような音の傾向だったが、振動する表板が合板であるか単板であるかの違いにより響き方、音色が少し異なっていた。
そのなかでマーティンギターに最も近くマーティンギターよりも美しい響きがする、と話題になったのはS-ヤイリギターで、全ての商品が手工で表板には単板のスプルースが使用されていた。当時安価なギターならば1万円程度で購入できたが、このS-ヤイリギターは4万円以上の商品しか供給していなかった。
また、マホガニーのネックにアジャスターロッドが使われていなかったことも話題になっていた。すなわち材料の管理が優れているのでアジャスターロッドが無くてもネックが永久に変形しないなど、とにかくS-ヤイリは多数あったフォークギターメーカーの中で別格の扱いを受けていた。
このマーティンギターのフルコピーが主流を占めていた時代に差別化を行ったその他のメーカーはヤマハとアリアで、ヤマハは科学的に音の解析を行い独自のボディー形状と力木の構造のLシリーズというギターをヒットさせた。それに対しアリアはクラシックギターの名工松岡良治にフォークギター製作を依頼し、アリアブランドを高めていった。
松岡良治氏によるフォークギターも形状こそマーティン社のコピーだったが、ヘッドが一枚板ではなくクラシックギターと同様に2枚重ねの削りだしだったり、外から見えない力木の仕上げとその構造が美しかったり、サウンドホールの飾りが木の寄せ木造りで工夫されていたりと細かい技術がマーティンギターと異なり、その結果S-ヤイリ同様に音の響きが大変美しいギターとして評判になった。
ただし形状こそマーティンドレッドノートを真似ていたが、そのフルコピーではなかったので、あのマーティンギター独特な腹に響くような低音が出なかった。1970年代のギター雑誌には、デザインや使われている材料が同じでドングリの背比べ状態だった多くのギターメーカーの中でヤマハとアリア、S-ヤイリの話題がよく取り上げられていた。
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科学的方法で完璧に論理展開できるのは否定証明だけ、といったのは哲学者イムレラカトシュである。科学的方法で新しいモノを創ったという裏側の多くは、先日までの樹脂補強ゴム体験事例で書いたような状況だろう。
例えばiPS細胞発見につながった山中博士の最初のご研究もKKDの賜物と言ってもよい(ちょっと失礼か?)、と捉えている。
山中博士はノーベル賞受賞後にどのようにヤマナカファクターを見出したのか語っておられるが、最初の論文を発表するときにエディターからそれを求められても特許の内容にかかわることだから、と「ごまかしていた」そうだ。
分析や解析には科学的方法が最適であるが、モノを創り出すときに科学的方法だけではうまくいかないケースが多い。先日書いた防振ゴムの事例では、科学的に進められた事例として無理矢理説明するならば、「KKDで創りだしたサンプルを解析的に研究した仕事の進め方」ともいえる。
この開発において、もし樹脂が島でゴムが海の材料しか得られていなかったならば、樹脂とゴムの組み合わせでは防振ゴムに適した配合設計ができないという結論になっていたかもしれない。この流れは否定証明である。
モノができないことの科学的証明は易しい。どうしてできないのかを示し、できない証拠である実験結果を示せばよいだけである。ゴム会社を去る原因となった電気粘性流体の増粘問題では、会社を去る間際にこの否定証明として優れた論文を読む機会に恵まれた。
科学的プロセスこそ新技術開発の王道と信じている人には、当方の問題解決プロセスを許せないのかもしれない。しかし、科学はあくまでも哲学の一種で、技術開発の道具としてうまく使うべきである。
科学に忠実なプロセスは一つの真理を約束してくれるかもしれないが、ロバストの高い機能を実現する方法は、科学的方法が全てではなく「何でもあり」と柔軟に捉えると効率のよい技術開発を進めることが可能となる。
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オーディオもギターも抽象的な「音の印象」がその商品の価値を決める。それがだめならば消費者に見向きもされないが、その音については科学的な評価技術やシミュレーション技術はほぼ確立されている。
それでもなお科学的に商品の序列をつけることが難しい分野で、価格があたかもその商品の価値を決めているかのようなところがある。また、そのブームの時代に著名になった評論家(60を遙かに超えている)が怪しげな評論をし、それで商品価値の上がっている商品もある。
(価格の高いオーディオ製品が必ずしも良いとは限らない。その逆に価格が安いから価値が低いというわけでもない。10数年使ってきた寝室のアンプが壊れたので、オークションでオンキョーのCDレシーバーを2万円で落札した。デジタルアンプであるがSN比が高く良い音がする。雑誌の評論では高域がきついようなことが書いてあったが、60過ぎの耳には気にならない。3万円のアンプと100万円のアンプの比較というレポートがWEBにあったが、3万円より安くても十分である。ちなみに落札したCDレシーバーにはチューナーはもちろんUSBからの読み込みも可能でiPHONEもつなぐことができる。信じられない多機能である。しかもこれだけついてコンパクトな形状である。一気に寝室のオーディオシステムの断捨離ができた。)
ところでギターは大別するとクラシックギターとフォークギター(今はアコースティックギターと呼ばれたりする)、エレキギターがある。
過去においてクラシックギターはその商品に製作者の名前がつけられているものが好まれると言われていた。例えばアリアクラシックギターであれば、40年以上前製作者名の無いアリアギターと製作者名のつけられた松岡良治ギターの2種が販売されていたが、後者の松岡良治ギターがよく売れたと言われている。また、製作者である松岡良治氏は自身の工房でもギター販売を行っていた。
(松岡良治氏の工房は名古屋に、ヤイリブランドの工場は岐阜に、キャッツアイギターは浜松に、と東海地区は昔ギターの名産地だった。モノ作りの現場であるギター工房の散策は楽しかった)
フォークギターの世界は、井上陽水が使用したことで有名になったS-ヤイリギターが1970年代の日本で本格派ギターブランドと言われた。ドレッドノート本家のマーティンギターよりも日本では人気が高かった。1ドル360円の時代で輸入品よりも国産品の値段が安いことも影響したかもしれない。
しかし、他の日本のギターメーカーがマーチンギターに近い音色であったが、S-ヤイリギターの澄んだ音色は本家のドレッドノートの音色よりも甘美と評判になり松岡良治氏製作のアリアギターと人気を二分した。
これは矢入貞夫氏の手工ギターだが、彼には兄弟がいて弟の矢入和夫氏はK-ヤイリブランドを販売していた。こちらは主に輸出されていた。K-ヤイリが日本でメジャーなブランドになったのはバブル崩壊後である。
また、この兄弟はすでに亡くなり、現在販売されているS-ヤイリギターには昔の音色が無いと言われているが、当方は最近このギターを見かけたことが無い。K-ヤイリギターは弟子が奮闘しブランドの価値を維持している。
楽器店でこの手工品を見かけると材木の質感をうまく活用したデザインで独特のオーラが出ており、いかにもK-ヤイリという存在感を価格とともに放っている。
エレキギターは、ギブソンやフェンダーなど海外勢が強かったがアリアプロⅡがヒットすると国内メーカーのエレキギターもプロギタリストに使われるようになった。
フォークギターもエレキギターも様々なボディーや天神の形が存在するが、いずれも海外商品のフルコピーから開発がスタートしている。すなわち「真似る技術」で発展した典型的な商品である。
そしてシンセサイザーギターを除き、海外で確立された技術が現在もそのまま踏襲されている。ただし、アコースティックギターの世界では目立たない部分に50年間の技術進歩があり、現在生き残っているギターメーカーは独自技術とデザインに特色がある。
そしてmade in JAPANブランドとして世界でも評価されているらしい。ただしそれらの技術の大半は、音のシミュレーションが可能であるにもかかわらず、試行錯誤の成果であると某ギターメーカーの製作家に教えて頂いた。
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ダッシュポットとバネを工夫して組み合わせたモデルの方程式を解くことにより防振ゴムの理想的な粘弾性のグラフを描くことができ、防振ゴムのシミュレーションが可能となる。ただしそれが可能になっても、どのような樹脂とゴムを組み合わせればよいのか、というところまではわからない。
ここで同時にシミュレーション結果に近いゴムの配合処方が見つかれば、それを解析することでどのような分子構造の組み合わせで最適な高次構造となるのか、経験(K)のある技術者ならば勘(K)でそれを予想できるようになる。
さらにシミュレーション結果と、えいや!とばかりに度胸(D)で創りだした実際のゴム処方とを考察することにより、見出された結果を一般化できる。そして一般化した内容で防振ゴムについて配合理論を組み立てることになる。
ここで注意しなければいけないのは、防振ゴム材料に関する科学が完成するためには、その理論を正しいと証明できる材料が存在していなければならない点である。この材料が存在しない場合には、自分でその材料を創り出さなければいけない。理論をサポートできる材料が存在しなければ、理論は予言もしくは単なる仮説や予測にすぎない。ここに科学的方法の限界が現れる。
指導社員はKKDでその材料を見出し、その材料のデータを基にして防振ゴムの理論をくみ上げていた。ただしKKDで材料を見出したことは周囲に秘密にしていた。
そして理論がこうなっているので、それを確認し実証する作業を新入社員にやらせる、と研究所内で説明していた。また、理論の精度を上げるために幅広く樹脂を集め検討する、とも説明していた。これは科学的プロセスの説明で研究所の風土に適合したプレゼンである。
しかし、彼の実際の狙いは、シミュレーションに適合する素材の配合とシミュレーションから外れる素材の配合にどのような違いがあるのか探ることに興味があった。
実験を行ったところ、指導社員の狙い以外の予期せぬ高分子構造の材料まで得られたので大成功だった。さらに実用化可能な配合処方が得られていたので大変評価の高い報告書が出来上がった。
ところでその報告書は、粘弾性理論で材料が設計されたような書き方になっていた。研究所の報告書は科学的に書く必要があり、だからKKDで行った実際の業務の進め方をそのまま描いたのではゴールに到達できない。
しかし、裏事情を何も知らない人が読めば粘弾性理論で防振ゴムの配合設計が可能だ、という誤解を与える報告書である。粘弾性理論は防振ゴムのあるべき特性を導いただけにすぎず、そのあるべき姿を実現する方法までは示していなかった。その解を求めるために科学的に進めたなら膨大な時間が必要となる作業であるが、KKDを使ったので短期間であるべき姿が実現された。
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一年間の予定だった防振ゴム用樹脂補強ゴムの開発はたった3ケ月で終わった。しかし、この時のむちゃくちゃな業務の進め方とそれをうまく仕事の中に組み込んだ指導社員の見事なマネジメントで、科学的方法の問題を学ぶことができた。
防振ゴム用樹脂補強ゴムの報告書は、粘弾性論を展開した考察の報告書と配合設計に関する報告書の二報が3ケ月という短期間でまとめられた。いずれも科学的に論理が進められ導かれた結論に相当するサンプルの高次構造写真や分析データが載せられていた。
それらはあたかも計画的にその研究が進められたかのような書き方がされていた。しかし、その裏側は、KKDあり、実験の手抜きによる効率アップなど科学的というにはお粗末な業務の進め方だった。
しかし、指導社員の理論的考察と先行して得られていたサンプルの的確な考察と新たに見つかった設計因子がうまく整合していたので学術論文と言ってもよいレベルに仕上がっていた。
但し、報告書において捏造は指導社員からもきつく言われていたのでやらなかった。技術開発で捏造を行うとどこかで自分の首を絞めることになると教えられた。
もし理論的に導かれたグラフに合わないデータが得られたら、グラフにのるようなデータが得られるまで実験をするか、合わないデータとして処理をするのかどちらかにするように言われた。
この時指導社員は、グラフからデータが外れていても我慢できる人とそうでない人がいるので、という妙なアドバイスもしてくださった。この詳細はここで書きにくいが、これは科学で捏造が生まれる原因でもあり、技術開発における科学的方法の誤った使い方でもある。
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