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2013.12/01 混練機構(2)

溶融した樹脂が混練で変形する時の変形の仕方、すなわち流動状態及びその時に樹脂に働く力は、剪断流動と伸張流動の2つの組み合わせで表現できるが、その結果混練機の中で2種以上の成分の混合が進行するモデルは、分配混合と分散混合の2種に分けて考えられている。これは最近の研究成果で30年以上前にはなかった考え方である。

 

分配混合は系全体にわたる各成分の均一化に相当するモデルであり、分散混合は、分散相の微細化に相当するモデルである。分配混合では、歪みの作用による各成分の引伸ばし、重ね合わせによる相対的な位置交換が重要となる。このため、各成分が濡れることができるかどうかが問題となり、その結果形成された界面へ作用する歪みの大きさとその方向が混合を進める支配因子となる。

 

昨日変形による歪み速度は、応力F/溶融状態におけるその時の粘度ηで表現されると書いたが、この関係から分かるように、樹脂の粘度で歪み速度が影響をうける。すなわち混合が進行しているときの樹脂の粘度で分配混合が影響を受けることになる。

 

このモデルで問題となるのは、樹脂の動的粘度は温度と周波数に依存して変化しているが、シミュレーションの時には適当な粘度を放り込んで計算していることである。なかなかシミュレーションと実際の樹脂の混合の様子が一致しないのは動的粘度の扱いが難しいことも影響している。混練の経験の無い人はここで勘違いをすることが多い。あるいは、このような考え方なので新しいアイデアを出せないあるいは目の前の問題解決で間違った対策をすることになる。

 

また、分散混合のモデルでは分散相の分裂と微細化の考え方が重要で、応力の作用が支配因子となる書き方が一般の教科書で書かれている。しかし、混練機の中では、壁面への衝突や熱輻射が働いており、単純に混練機のローターで働く剪断力だけでは応力の作用をモデル化できない。さらに無機のフィラーの混合では壁面で発生する摩耗の効果を考えなければならない。粘度や流動状態の影響があるのは分配混合と同じであるが、微細化過程の考え方は、多数の因子が働くので論文に書かれているような単純なモデルでは説明が難しいと思っている。

 

長い間、剪断流動により微細化は難しい、と言われてきた。10年ほど前の国研、高分子精密制御プロジェクトではナノテクノ本命技術を目指し、L/Dがとてつもなく大きい二軸混練機を製作し、伸張流動を中心にした混練が検討された。またウトラッキーにより発明された伸張流動装置も同時に検討された。それなりの成果が出て、ナノオーダーへの分散が機械装置でできることが示されたが、一方で産総研の研究結果では高速剪断流動でもナノオーダーの分散が進むことも発見された。

 

 

カテゴリー : 一般 連載 高分子

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2013.11/30 混練機構(1)

樹脂が溶融したときに力が加わると大きく変形する。その時の変形による歪み速度は、応力F/溶融状態におけるその時の粘度ηである。また変形の仕方は、剪断変形と伸長変形の2つの組み合わせで表現できる。

 

すでに過去の活動報告で説明しているように剪断変形は、流動方向と粘性抵抗により発生する力の方向を含む面に垂直な法線方向に作用する力は働かないが、伸長流動では、ちょうど餅をひっぱったような状態をイメージして頂けば分かるが、xyz3方向の力を考えなければならない。ゆえに直感で伸長粘度は剪断粘度の3倍になることがイメージできるがこれがTrouton則である。

 

ここまでの話を混練の教科書では数ページにわたり線形代数を用いて詳しく説明している。混練機の中における高分子の流動は教科書に書かれているような単純な状態ではない。しかし、モデル的に剪断流動と伸張流動の2つの組み合わせで混練が進む様式を表現できることはオープンロールでゴムを混練していて理解できた。

 

また、伸長粘度が剪断粘度よりも高いことは、バンバリーを用いること無くオープンロールで最初のプロセスからカーボンをゴムに分散するときに、剪断流動が頻繁に観察されることで容易に想像がつく。換言すれば、カーボンをとにかく分散したいときには、剪断流動を積極的に活用した方が効率良く進むということだ。

 

ゴムへカーボンを分散するときのように2種以上の成分を混合する場合の混合様式には分配混合と分散混合というものがあるが、これは明日説明する。その前に、難しいレオロジーによる理解よりも実際にオープンロールで混練を行い、分散が進む様子を眺め直感を鍛えることがいかに大切かを理解して頂きたい。

 

ゴム会社の新入社員時代に1週間ほど試行錯誤でゴムの混練をオープンロールで行い、悪戦苦闘していたときに、周囲は指導社員による「いじめ」といっていたが、ゴムの混練を理解する為に自分で観察工夫することの重要性を教えてくれた指導社員に今でも感謝している。

 

指導社員は、当時先端のレオロジーを研究していた京都大学大学院卒の物理屋で大変優秀な人であった。おそらく学問を理解しているゆえにゴムをレオロジーで記述することの難しさも良く理解しており、体で物性を理解することの重要性をご存じだったのだろう。

 

第三者から見るといじめに見えていたようだが、技術の伝承方法として優れていた。たった3ケ月間指導を受けただけだが、濃厚な日々で学生時代形式微分程度の理解であった常微分方程式も解けるようになった。マンツーマンの厳しい指導の成果である。しかし当時学んだダッシュポットとバネの高分子モデルは指導社員が言っていたように学問として時代遅れになっていた。

 

カテゴリー : 一般 高分子

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2013.11/29 混練のシミュレーション

二軸混練機でスクリューセグメントの設計を行うときに、通常はシミュレーションソフトを用いる。ところが混練の機構さえ把握しておればシミュレーションソフトを用いなくとも山勘でもできる。それぞれのスクリューセグメントの役割さえ分かっていれば、そこそこのレベルまでゆく。

 

乱暴に聞こえるかもしれないが、次のような実績がある。外部メーカーのコンパウンドを購入して開発を行う方針だったあるテーマで、外部メーカーに頼っていては製品ができないと判断し、テーマの決められた納期3ケ月前に中古機を導入した。その時、混練を行うスクリューセグメントを山勘で決めた。それにもかかわらず、外部の一流コンパウンドメーカーよりも性能の優れたコンパウンドを混練できた。

 

もう少し具体的に表現すれば、外部のコンパウンドメーカーのコンパウンドでは押出成形で合格品を製造するにはかなりの調整が必要なため歩留まりが30%以下で、ひどいときには製品の電気抵抗の偏差が2桁以上あり、品質を満たした製品を製造できないこともあった。ところが山勘で決めた混練システムで最初に得られた成果は歩留まり70%以上で抵抗偏差は0.2桁というすばらしい値であった。

 

山勘で二軸混練機のシステムを立ち上げたのだが、最適化はタグチメソッドで行っている。しかし、その時スクリューセグメントを因子に入れていない。但し、回転数と材料の投入量を因子に入れている。内製化であり、コンパウンドの生産量は押出成形のタクトタイムに合わせれば良いので、最初からコンパウンドの生産性を犠牲にする覚悟を決めていた。しかし、幸運なことにタグチメソッドで余裕のある条件が見つかった。幸運と表現したが、二軸混練機の押出量について十分な装置を準備した(注1)ので当たり前なのかもしれない。

 

このテーマでは外部のコンパウンドメーカーの技術サービスに混練条件の見直しをお願いしても埒があかなかった。スクリューセグメントの設計にはシミュレーション始め高度の技術が必要とかエンプラの難しい材料なので混練り条件を決めるのに1年以上かかり大変だったとかいわれたが、3ケ月でできた事実を彼らはどのように説明するのか。所詮混練技術とはこのような側面を持っているのである。

 

それは新入社員時代に難しい樹脂補強ゴムの混練を行った経験から学んだ。指導社員から標準試料とその配合処方を手渡され、標準試料と同一物性のゴムを混練できるまで実験を始めるな、と言われた。事前にロール混練の原理や取り扱いについて一通り指導を受けたが、標準試料の混練手順については教えて頂けなかった。

 

指導社員がバンバリーで混練したマスターバッチがあり、それをロール混練で仕上げるだけの作業で、指導されたときの手順でロール混練して標準試料と同等のゴムを作ればよい、とだけ言われた。当方も初めての経験でありその程度の作業と思っていたら甘かった。

 

標準試料と同等の物性が得られるまで1週間かかったのだ。それもまわりの諸先輩の指導を受けながら悪戦苦闘して、である。理論派の指導社員が教えてくれたロール混練の原理など役にたたなかった。恐らく指導社員は混練が理論で伝わる技術ではないことを教えたかったのだと思う。諸先輩は「いじめ」だと言っていたが、標準試料の混練の難しさだけでなくロール混練にも流派があること、そしてある時間ロール作業を行って呼吸をするぐらい自然にゴムを扱えなければ良い混練ができない、という悟り(注2)のような世界を実体験し文章に表現できない多くの技術を学んだ。

 

(注1)中古機だったので選択の余地が無かったのは、やはり幸運かもしれない。ここは幸運なのか経験による成果なのか、読者に判断して頂きたい。

 

(注2)科学と技術の一番の相違点であろう。職人が身につけていてそれを文章でうまく表現できない技術もある。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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2013.11/28 混練技術の考え方

合成された高分子をそのまま使用するケースは少ない。ほとんどの応用分野では添加剤も含め何らかの化合物と混合して用いる。高分子と添加剤、あるいは他の高分子との混合では、合成時に添加したり合成後でも均一混合が可能な場合、例えばラテックス以外では混練機を用いる場合が多い。

 

混練技術についてアカデミアの研究者が少ないため実技経験者の知恵に頼らなければいけない分野である。このような技術で困るのは、混練した材料の経験が異なると考え方が異なる場合だ。例えば樹脂技術者とゴム技術者では水と油ぐらいに考え方が異なっている部分もある。退職5年間のわずかな経験でこのようなことを書くと叱られるかもしれないが、一流樹脂企業の技術サービスと激論した経験(注)からこの結論に至った。

 

混練時に働く力で重要なのは伸張流動と剪断流動であり、このあたりまでは意見の相違が無いが、ガラス繊維補強樹脂を混練した技術者はじめフィラーを分散した技術者と動的加硫や特殊な分散を行っている技術者、そしてゴム材料技術者ではプロセス設計の考え方になると様々な見解が出てくる。聞いていると、それぞれの材料がうまくいったときの経験を話しているに過ぎない。

 

ゴムや樹脂、あるいは射出成形用セラミックス前駆体を混練した経験から、ゴム材料技術者の考え方に軍配を上げたくなる。他の混練技術者が間違ったことを言っているわけではない。根底に混練がうまくいっていないときに配合を検討しても無駄であるという認識があるのかどうか、ということである。換言すれば樹脂の混練を行っている人で、混練に疑いを持っている人は少ない。しかし、ゴムの材料技術者はロール混練条件に不安を感じている人が多い。話していて分かるのである。

 

退職後の2年前たまたま学会でT社の樹脂技術者と話す機会があった。カオス混合を研究しているという。混練技術を検討するとこの技術にたどり着くのではないかと、初めて意見が一致した。写真会社に勤務しているときに出会っておれば、無理をして混練プラントを作ることもなかった、と悔しい思いをした。

 

話して気がついたことだが樹脂技術者の間で混練技術が見直されている気配を感じた。起業後しばらくは電池やミドリムシに注力しようとしたが、うまくゆかなかった。急遽混練技術に力を入れ始めたが、小さな仕事がいくつか舞い込むようになった。樹脂材料のプロセシングで困っている方は弊社へ相談されますとすっきりします。

 

(注)写真会社に在職中、ケミカルアタックが原因ではなく混練プロセスに問題がある、という指摘をケミカルアタックによる破壊ではない証拠とスの入ったペレットとともに示しても、D社の技術サービスはケミカルアタック説を主張し続けた。議論が平行線になったので、中国までD社の現場を見に行った。

 

案の定混練プロセスは管理されておらず、混練機の制御盤の温度が設定値を20℃以上はずれていても生産を行っていた。ペレットのスの原因は混練時の温度が高すぎたためと推定されそれをD社に説明したが、20℃程度は大丈夫、と混練の問題を認めない。そもそもペレットにスが入っていたりDSCに一部分解が進んでいるような兆候が見られても混練温度に疑問を持たないというのはおかしいと思うのだが。

 

カテゴリー : 一般 高分子

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2013.11/27 ゴム技術と樹脂技術

32年間の材料開発で、セラミックスや金属、高分子材料まで担当し、金属以外の2つの材料分野で日本化学会や写真学会、化学工業協会、印刷学会などから賞を頂ける技術を研究開発成果として出すことができた。学位論文にはセラミックスと高分子材料のプロセシングがまとめられており、審査してくださる大学を探すのに苦労した。その過程で学位取得の裏側事情も知ることになり、学位というものが世間で評価されない理由も理解できた。

 

30歳を過ぎるまで物事の裏側事情など考えずに純粋に生きてきたが、学位取得の苦労で学問というものにも裏があるという現実に愕然とした。今は年を重ね、世間の多少のことには驚かなくなったが、当時はその裏側事情に接する度に驚きが新鮮な興味に変わっていった。

 

高分子材料技術にも裏側事情があり、例えば成形技術とコンパウンド技術の関係は面白い。前者の学会に参加し、その技術分野の最終ゴールを質問すると「どのようなコンパウンドでも成形できる技術」という回答が返ってくる。もの凄い理想であると同時にこの学問は永遠に完成しない、だから研究者は食いはぐれは無いだろう。学問として正しいゴールかどうかは知らないが、研究テーマに困らないゴールである。

 

後者は担当している材料により研究者の答は様々で、新材料を追求するというミッションを答える研究者が多い。高分子には多数の種類があるので組み合わせは無限に近く、こちらもテーマに困ることなく永遠に研究開発を継続できる分野である。

 

ところでタイヤのような高性能なゴム製品のプロセシングには未だに生産性の悪いバンバリーとロールが混練プロセスで用いられている。しかし、樹脂材料やTPEでは生産性の高い二軸混練機が用いられる。高性能ゴムに生産性の悪い混練プロセスが用いられているのは、そのプロセシングを用いなければ性能を出せないからである。すなわち、この事実は混練プロセスがコンパウンドの性能に大きく関わっている、ということを示している。

 

退職前の5年間外部の樹脂メーカーと性能の悪い樹脂について何度も議論したが、混練技術に問題は無い、と最初に必ず回答が返ってくる。すなわち樹脂の性能品質がお客様のニーズに合わない原因として混練技術は最初に除外事項とされてしまうのである。純粋な若僧であれば樹脂メーカーの技術者をうっかり信じてしまうが、成形技術を担当した時はその様な年齢ではなかった。

 

納期が目前に迫っていたあるテーマで、混練プロセスの中古機を買いそろえ3ケ月で生産立ち上げを行う、という離れ業をした。その時には同じ材料メーカーの原料を用いながら混練プロセスを変更しただけで、それまで樹脂メーカーが実現できていなかった性能を簡単に実現できた。

 

混練プロセスの変更に伴うコンパウンドの価格は、内製化のため原料の価格と設備の固定費で決まる。この時、樹脂メーカ-が混練プロセスを変更したくなかったのはコストへの影響のためだが、わずかなコスト上昇を躊躇したために、お客様の内製化という決断を引き出し市場を失うという結果になった。

 

混練プロセスの変更は利益を圧迫するので対策として採用したくない、というのが裏事情である。お客は混練プロセスなど知らないから問題ないとごまかせば、それで済む、と安直に考えたのか、その樹脂メーカーの技術レベルが低かったのか知らないが、どんなことがあっても混練プロセスを変更したくない、という裏事情が樹脂技術にはあるようだ。

 

混練プロセスの変更は多くの場合コスト上昇となるが、この時の内製化技術ではコストへの影響を最小限とする方法で対応した。退職した会社から特許がすでに公開されているが、二軸混練機の先に弁当箱のような装置をつけただけである。ゆえに生産性への影響はほとんど無くコスト上昇は弁当箱の固定費分程度である。この弁当箱のような装置にはゴム技術で学んだ知識が詰められている。この弁当箱に興味のある方は問い合わせください。

 

 

カテゴリー : 一般 高分子

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2013.11/26 中国のお客様の品質感覚

昨日まで中国の華南にある某会社に依頼されコンサルティングをしてきた。日本企業とは取引が無く中国国内の市場で成功している樹脂会社だが、そこで生産されている製品品質は日本の100円ショップのそれよりも劣っていた。しかし、それでも中国国内の市場で成功しているので中国のお客様の品質基準を満たしていることになる。

 

市場で成功していても経営者はそれなりの問題意識を持ち依頼してきたわけだから、向上心は旺盛である。恐らくこのような企業は指導すれば、1年程度でそこそこの品質を作れる会社になる可能性がある。

 

問題は、中国市場のお客様の品質感覚である。上海のデパートの樹脂製品は、海外製品が多いので品質がそれなりに見えた。しかし華南の市街にある雑貨店に並ぶ樹脂製品の品質は日本の100円ショップよりも明らかに劣っている。それでいて日本の100円ショップよりも値段の高い製品が存在する。このような市場へ同価格で高品質の製品を投入すれば確実に目立ち、さらに売り上げを伸ばすだろうと思った。

 

しかし、朝早く帰路の空港の喫茶店でサンドウィッチを頼んだら、待たされたあげくとんでもない見栄えのサンドウィッチが出てきた。食パンの端部(みみ)が使われているのだ。さらに目玉焼きとハムがはさまれているのだが、それが焦げている。炭にまでなっていないが黒焦げだ。店員にクレームをつけたかったが、複雑な中国語を話せない。

 

100円ショップの樹脂成型品よりも品質の劣る製品が売れる国である。焦げた目玉焼きやハムなど平気なのだろう。さらに食パンのストックが無かったから昨日の残りのみみでサンドウィッチを作ったのは良いアイデアとでも思ったのかもしれない。毎晩接待されたレストランは日本以上のサービスもあり高品質であった。品質のばらつきの大きな国である。このような国で売れていても自社の品質に問題意識を持った社長は優れた経営者だろう。

 

 

カテゴリー : 一般 高分子

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2013.11/23 樹脂材料技術

東京モーターショー2013で樹脂製ボールベアリングを見つけた。すでにハンドルの部品として実用化され、軽量化とコストダウンに寄与しているそうである。エンジニアリングプラスチックスの用途として過酷な使用環境である。実用化するためには、それなりの信頼性試験が要求されたと思われる。

 

 

樹脂は軽量化とコストダウンを実現する手段として自動車部品に使用されていることは知っていたが、金属部品しか使用できそうもない、と思っていたところにも樹脂が入ってきている。かつてセラミックスフィーバーの時に、自動車部品にセラミックスが普及したが、その置き換わったセラミックス部品の幾つかは、また耐熱合金に市場を奪われている。ファッション機能だけで普及した部品はコストダウンの波に勝てないのである。自動車部品の樹脂化は軽量化とコストダウンの2つの目的でどんどん進んでいるようだ。

 

 

国内の汎用樹脂事業は、統合に次ぐ統合で苦戦が続き、エンプラ分野も一部はコモディティー化が進み、コスト競争に移ってきている。素材会社は大変だが、部品メーカーは技術力があればそれなりの商売ができているのかもしれない。

 

 

ここで技術力とは評価技術である。すなわち自動車分野では軽量化とコストダウンの目的のため、金属から樹脂に置き換える動きは今後も続くが、その時に金属なみの信頼性を樹脂で確保できるかどうかが鍵になり、そのためには信頼性試験をうまくできなければならない。金属材料と同じ評価試験を行うのは当然だが、樹脂の弱点が信頼性に影響を与えていないかどうかを見るための評価技術が重要となる。

 

 

この評価技術は樹脂の問題点をよく理解していなければ構築できない。高分子科学についてはアカデミア以上の経験が要求される難しい分野である。評価技術で悩んだら弊社へご相談ください。自動車部品メーカーと精密機器メーカーで高分子材料の開発から評価技術開発まで多くの実績があります。

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2013.11/22 東京モーターショー2013(2)

モーターショーの一角で「Smart Mobility City 2013」を開催している。未来の自動車社会の提案コーナーだが、新聞等のニュースに登場した事柄以外に目新しい展示物は無い。車が都市と市民を結ぶ、というのがテーマのようだがすでに描いた夢の焼き直しを見ているようだ。

 

年をとったせいかもしれないが、わくわく感の少ないショーである。車の自動運転が全面に出てきて今後開発されるであろう技術を見せるような展示を期待していたが、特許の問題もあるのか、自動運転に関しては話題の中心になっていない。

 

自動車好きにはモーターショーは重要な催し物であるが、自動車も巻き込む大きなイノベーションが社会で起きているときには、それがメインテーマになり、各社そのテーマにちなんだ展示があったが、昨日も書いたように今年はそれがよく見えない。車の自動運転は大きなイノベーションのように思うのだが。

 

その中で燃料電池車の説明に小便小僧を用いて、排出されるのは水だけ、とこの先は説明の必要がないアクションを見せられたのには驚いた。やや***である。かわいい小便小僧ならばまだ良いが、スクリーンも兼ねているので3m以上もある巨大な「小便怪物」である。それが水を排出する前に不気味に目を光らせる。この展示の評価については意見が分かれるかもしれない。

 

自動車にあまり興味が無い当方にとっては、感動が少ないモーターショーだが、部品メーカーの展示に面白い提案が幾つかあった。例えば西館のデンソーのブースである(注)。電気自動車が普及したときの街の様子を展示し、非接触による給電方式などすでに公開された技術以外に全てが電気自動車となったときに生じる問題のソリューションを提案していた。

 

詳細は足を運んで見て頂きたいが、車のエネルギー源をガソリンから電気に置き換えたときに充電時間の問題以外に、様々な問題があり、その解決に幾つか細かいインフラが必要になる。それを模型でうまく説明していた。地味な内容だが、この展示を見に行くだけでも勉強になる。さすが自動車部品大手のデンソーである。社会的使命を心得ている。

 

車好きならスバルのブースが面白い。新車レヴォーグのデザインとそのスペックを見るとすぐに買いたくなるかもしれない。また、エクシーガはクロスオーバーSUVとして置き換わる。そのデザインが運転したくなるかっこよさだ。昔スバルのデザインや内装は今ひとつだったが、最近のスバルは別会社のようだ。

 

(注)デンソーは東館にもブースを構えている。

 

カテゴリー : 一般 学会講習会情報

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2013.11/21 東京モーターショー2013(1)

弊社は電子出版社として東京モーターショーのプレス発表に参加した。プレス発表初日は布をかぶっている新車も多い。それぞれプレス発表の時間になるまで隠されているのだ。

 

かつてセラミックスフィーバーの時には、あらゆるメーカーがこぞってセラミックス部品を展示し先進性をアピールしていた。いすゞ自動車は、セラミックスエンジンを搭載し公道を世界で初めて走行したセラミックスアスカを展示していた。環境問題が話題になったときには、環境対応が各社の目玉になっていた。

 

今年は、統一テーマになるような話題がなく、メーカーによりアピールポイントが異なるが、自動車に移動手段以外の付加価値をつけたことや、日本車ではターボチャージャーによる燃費改善や、気筒数を減らして燃費改善を行ったりした欧州車と同じような燃費改善技術の発表があった。ハイブリッド車一色のトヨタのレクサスにもターボ車が登場した。自動走行の話題を期待して参加したのだが自動走行については、大きなテーマにはなっていない。

 

恐らく未来も自動車は移動手段の道具として活用され、無くなることはないだろう。だから移動手段以外の付加価値の提案、というのは納得できるが、各社アイデアが陳腐である。思わず吹き出しそうになったのは、トヨタ自動車の運転者と自動車が対話をしている映像。助手席には誰も乗っていない。

 

確かに独身者が増えているので、一人で車を運転する人が増えるだろう。しかしその寂しさを解消するために車との対話というのはあまりにも悲しい未来のような気がする。お友達のような車というのは人口減少や高齢化、独身の増加という社会現象を考えたときに時代の流れに沿った提案であるが、何か寂しくそして笑える複雑な提案だ。

 

10年以上前には家族の時代、というメッセージを発信していたメーカーがあり、家族のために車を中心に楽しさを提案していた。これにはほほえましさがあったが、一人で運転し、車と対話を行っている映像には、未来に対する夢というよりも暗さがある。助手席にパートナーを乗せて欲しかった。

 

 

カテゴリー : 一般 電子出版

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2013.11/18 ホスファゼン導電体

ポリアセチレンが発見されるまで、有機半導体の研究は、どこまで導電性が上がるのかが興味の関心だった。「有機半導体」という教科書を購入して間もなくポリアセチレン発見のニュースを聞き、高価な教科書がゴミになった悲しい思い出がある。

 

ホスファゼン導電体の研究は、プロトン導電体として企画された。大学院の修了式を終えた後、残務整理として10日ほどでまとめた。導電体以外に数種類新規のホスファゼン誘導体を合成して楽しんだ。大学の研究生活が楽しくて上京するまで実験していた。

 

ポリアセチレンが発見された後だったので、研究の価値はほとんど無かったが、これが電気粘性流体用絶縁オイルの設計やLiイオン電池の電解質用難燃剤へのアイデアにつながってゆく。この経験から研究というものが時代の流れで大きな価値を失ったとしても納得のゆくまでまとめる必要がある、と学んだ。指導してくださった先生に感謝している。

 

会社を退職して満足な研究環境ではないが、会社で十分にやりきれなかったことについて見直しを進めている。セラミックスから有機高分子まで、タイヤや防振ゴムからSiC半導体や感光体、電子情報機器まで様々な材料や商品の開発を経験した。大学では体験できないことである。企業の研究開発の面白さでもある。

 

ホスファゼン導電体同様に今では研究開発テーマとして価値の無いものもあるが、少しずつまとめてみると、面白いことにそこから未来が見えてくるのである。これは経験者で無ければ理解できないことかもしれないが、一生懸命開発していたときには気がつかなかった技術の新しい応用方法が見えてくるのである。温故知新という言葉が好きだが不易流行という言葉が合っているのかもしれない。

 

技術の営みには不易のものがあり、それが新しい技術を生み出す原動力になるのであろう。ホスファゼン導電体を導電体として見ている限りでは、不易はわからない。しかし、PN環の特殊性は不易のものである。その特殊性は時代のニーズの流れの中で新しい発見も加わりいつの時代にも新素材として生まれ変わる原動力になっている。技術も製品化ではそれが具体化された姿しか見えないが、それを概念として眺めなおすと新しい機能を生み出す手段に見えてくる。

 

本欄ではサラリーマン生活32年間の研究開発生活を中心に書いているが、見えてきた未来について別途HPを立ち上げ未来技術をまとめる企画を検討中。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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