タグチメソッドで有名な田口先生は個性的な先生だった。写真会社がタグチメソッドを導入するに当たり、田口先生をコンサルタントに招き、田口先生から直接学ぶ体制が取られた。当方も帯電防止技術やフィルム表面処理技術をテーマに直接御指導していただいた。
田口先生は基本機能の研究は認めたが、それ以外の研究について認めなかった。また、「タグチメソッド」を「田口メソッド」と書いていると、この書類は大きな間違いをしている、と指摘された。タグチメソッドはアメリカからの輸入品なのでカタカナで書く必要があった。
田口先生は、システムと基本機能を明確にせよ、とよく言われた。そして基本機能のロバストを上げることが技術開発であると。感度よりもSN比を重視するのがお約束であり、感度を最大にするような条件を選択すると叱られた。技術開発ではロバストが一番大切である、とSN比重視の技術開発と設計段階からSN比を評価することの重要性が田口先生の口癖であった。
帯電防止技術では、パーコレーション転移を田口先生にご理解頂くのが難しかった。ロバストの話をすれば良かったのだが、シミュレーション結果で話をしたので雷が落ちた。田口哲学を十分理解していないときだったので、議論は平行線になった。議論の過程で科学的現象ではなく、技術の話に絞れば良いことに気がつき、基本機能として低周波数領域におけるインピーダンスの絶対値を提案したところ褒めて頂いた。
基本機能としてインピーダンスの絶対値のロバストを高めれば帯電防止層の接着力も同時に改善されているはずだ、と言われた。最初は力学現象と電気的な現象が同時に解決つくのか不安であったが、接着力の評価法を工夫し、インピーダンスの絶対値を基本機能にしてもその値に反映できるようにした。すなわち力学特性も電気特性も同時に計測できるようにしたのである。
科学的に開発を進めているときにこのような物性評価の考察を行わない。あくまでも科学的な情報がどこまで精密に得られるのか考える。技術では機能のロバストを評価するために評価技術が重要なのだ。
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昨日まで表題の討論会に参加していた。表題の討論会は、昭和30年代後半高分子の物性加工で分からないことが多かった時代に、学会が主催する講演会では時間が少ないのでゆっくり討論できる時間を取るためと官学交流の場として企画されたそうだ。
当方はゴム会社から写真会社に転職した20年前に東大N先生に紹介されて参加している。参加のきっかけは、ゴム会社で半導体用高純度SiCの冶工具事業を立ち上げ、FDを壊されるという事件で転職したばかりの頃、転職先の高分子技術のレベルが低く、当方が研究管理だけやっていたのではだめな状況だったから。
自らが技術を引っ張りあげなければレベルが上がらない、と考え、N先生にご相談した。N先生はゴム会社の先輩に当たり、当方のキャリアがセラミックスであったこと、そして学位を取得したばかりだったことなど考慮してくださり、この討論会を紹介された。
今回の討論会もそうだったが、学会の講演会と異なり、研究としてまとまっていない話題が多い。だから問題点が明確になる。面白い討論会である。また学会発表であれば聞きに行かないであろうテーマの講演もホテルに夜9時まで拘束されるので聞くことになる。
勉強の場として初めて参加したときにレベルの高さについて行けなかったが、門前の小僧習わぬお経を読む、のごとく、2回程参加したところ高分子の先端の話題を理解できるようになった(注)。門外漢には便利な討論会である。
ただ20年近く参加してきて感じていることは、アカデミアから新しい話題が無くなってきたことである。AFMの見直しや高分子の管モデルからの脱却、粗視化の工夫など温故知新的な取り組みには、期待できそうな香りがあったが。
環状高分子の精密合成のようなそれを研究して何に役立つのか分からないようなテーマと思われる講演もあった。ところが、20年近く聞いてきたので感動もしないと思われた環動高分子の基礎と応用で、環動高分子を微量添加したときの物性変化の話題が、このテーマと頭の中で結びつき、疑問に思っていたことが氷解し感動した。
科学の真理の中には、社会に役立つどのような機能に結びつくのか分からないものもある。だから基礎研究はもう不要というのは乱暴で、このテーマのように真理が確定したことで、それを活かすアイデアが生まれる場合がある。科学の研究にムダはない、といった物理学者がいたが、自然界の真理を確定する成果が出る限りにおいて恐らくそれは正しいのだろう。じっくり聞ける講演会の長所である。
(注)OCTAの世界を勉強できたのもこの講演会のおかげである。写真会社の後半の仕事に勉強の成果を活かすことができた。前半の仕事は、酸化スズゾルのパーコレーション転移制御のように「高分子」が無くても出せた成果が多い。
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カオス混合(12)の前に、科学的に未解明の現象が多い状態で科学的真理を導こうとしたときに生じる問題について、STAP細胞を例に考えてみたい。
つい先日、山梨大若山教授から否定証明により、ネイチャー誌に投稿された論文で使われたSTAP細胞が彼から提供されたマウス由来ではないことと、ES細胞だったことを示す科学的なデータが公開された。この結果は科学的に正しい結果だろう。しかも第三者機関が出したデータなので客観性もある。注意しなければいけないのはこのプロセスが否定証明である点だ。
気の早いメディアでは、この結果からSTAP細胞は存在しないという結論を掲載しているところもある。否定証明は、ある命題を否定しただけであって、全てを否定しているわけではない。仮に否定しようとした命題が間違っていたならば、否定証明で得られた結論も正しくないケースも出てくる。今回科学的な真実として示されたのは、現代の科学で証明された事実から導かれた、未熟な研究者が用いた細胞は若山教授が提供したマウス由来ではなかった、という一点である。
未熟な研究者は若山教授のマウスの細胞からSTAP細胞を作った、と主張しているので、現代の科学を元に判断すると、未熟な研究者は論文捏造だけでなくウソまで言っていることになる。もし、ここで理研からSTAP細胞作成成功という実験結果が出てきたら、単にSTAP細胞が存在する、という真実が示されるだけでなく、若山教授の真実まで疑わなければいけない状況、すなわち現在得られている科学の真実を再度見直さなければいけない状況まで生まれることになる。
これは、かつてゴッドハンドを持つ男と言われた考古学者が考古学の発見を捏造したためにそれまでの成果についてすべて見直しを行わなければいけなくなった事件と似た状況である。STAP細胞の論文捏造事件では、誰かがウソをついているのか、あるいは科学に誤りがあるのかどちらかとなる。
科学的に怪しい世界では、科学を厳しく見つめる技術者が必要になる。もし現在の科学の状況でSTAP細胞を作りたいならば、科学的アプローチではなく技術的アプローチを取るべきで、STAP細胞を作りだす機能をまず捜すべきである。そしてそのロバストを高める研究を行い、改めて科学的研究に入るのが正しい問題解決の方法である。
STAP細胞では細いスリットを通過させるプロセスが重要といわれており、このプロセスについては山形大学から最近発表された真理を知らないとその機能が見えてこない。すなわち生化学とレオロジーのクロスした地点がSTAP細胞の重要な機能になっている可能性がある。そしてこの機能が明らかになったときに、細胞刺激におけるレオロジーのような新たな学問分野が生まれるのかもしれない。将来必要となる科学についても(www.miragiken.com)で扱ってみたい。
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本日カオス混合の(9)をとりやめ、STAP細胞に関して報じられた新たなニュースで科学と技術について分かりやすい事例があったので取り上げる。詳細については、昨日のWEBニュースや新聞で取り上げられているので省略するが、本日とりあげるのは山梨大学若山教授の会見である。若山教授は、すべての責任を押しつけられるのではないかという恐怖感があった、とそこで語っており、その恐怖感から真実解明を急いだと言われている。
若山教授が恐怖感を感じたお気持ちを理解できる。当方もゴム会社でFDのデータを壊されたときに日常の流れから同様の恐怖感を味わった経験があるからだ。そしてその恐怖感は社長室乱入腹切り事件として現実になってしまった。STAP細胞の事件も、関係者の発言を聞いていると、当事者である未熟な研究者が真実を語らず、副センター長も責任が直接指導した若山先生にあるかのような発言をしている。
若山先生の立場では、性善説と理研の組織体制の中で精一杯の努力をされた方で、罪があるとしたならば、科学の世界では危険な存在の未熟な研究者の正体に早めに気がつき対処しなかった点であろう。しかし、関係者の中で一番早く自分の責任に気がつかれたので、その後のとるべき行動を会見でのべた恐怖感もあり迅速に結果を出せたと思われる。
とにかく若山先生の責任感と恐怖感のおかげで、論文取り下げから「論文に取り上げられたSTAP細胞」の正体まで理研のメンバーよりもいち早く結論が出された。この作業に科学と技術を正しく理解することが重要であることを示す事例が生まれた。それはイムレラカトシュも指摘している、「科学では、容易で確実にできるのは否定証明である」ということを示した事例である。若山先生は第三者機関の助けも借りて、STAP細胞騒動の真相を否定証明で迅速に科学的に証明した。
恐らく若山先生は迅速に結論を出し、自分の責任の所在を明確にされたかったのだろうと思う。否定証明で出てきた結果は、若山先生が未熟な研究者に騙されていた事を示している。「簡単に騙された」責任は残るが、そもそも科学では性善説で運営されているので悪意のある研究者がいた場合にはその責任は軽減されるか無くなるはずだ。
さて、この若山先生の行動はSTAP細胞の存在を証明しようとしている理研の立場からはどのように見えるのか。おそらく迷惑な仕事に見えているに違いない。若山先生の出された否定証明について「STAP細胞の存在を否定するものではない」という、「当たり前な」見解を発表している。理研の立場では、正しくは若山先生の結果の重要性を指摘した上で、STAP細胞を作る技術は、再生医療に革命を起こすので、その存在証明を行うために技術開発を急ぐと回答すべきであった。
すなわち若山先生は恐怖感から迅速に結果を出したかったので、科学的に間違いなく正しい結果を出せる否定証明を行ってそれに成功したが、理研は再生医療の技術を開発するためにSTAP細胞の存在を証明する研究を推進しているのである。科学的に容易である否定証明ではなく、科学的には極めて困難であるが技術として重要なSTAP細胞を作る機能の明確化とその存在証明を行おうとしている。
ただし理研の担当者はここでずるいことを考えており、存在証明ができたならば論文問題の騒動をうやむやにできるのではないか、という意図が見え隠れしている。科学と技術を混在化させて研究を推進しているだけでなく不純な動機が報道関係者への発言から漏れてくる。
STAP細胞の技術を生み出す努力は重要である。しかし、今回の騒動について正しい原因の究明と再発防止は、国の研究機関として「今」最も重要なはずである。若山先生が示された否定証明による真実は、未熟な研究者が若山先生のマウス以外の細胞を使い、さらにES細胞を用いてSTAP細胞を作った事実を明らかにしている。まずこの事実に基づきSTAP細胞の責任を明確にすべきである。
但し、この否定証明が為されたからと言って、STAP細胞が存在しないことが証明されたわけでないことは理研の主張どおりである。科学の否定証明で示された真実は、その事実をひっくり返す技術の出現で容易にひっくり返される「弱さ」がある。歴史の荒波に耐えた科学の真実が未来も残ってゆくだけなのだ。
科学は自然現象を眺める哲学に過ぎない。技術はよりよい生活環境を得ようとする人間の営みでもある。人間の強い思いが新たな技術を生み出し、科学を鍛えた事例はいくつもある。理研が純粋な気持ちで技術を追究したならばSTAP細胞は現実に生まれるかもしれない。
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昨日のビッグニュースと同時にSTAP騒動に対して理研の改革委員会から発生・再生科学総合研究センター解体の提言が出された。カオス混合(7)は明日書くことにしてSTAP騒動の発生以来これまで関係者の発言を聞いていて釈然としない自己責任の重要性を述べてみたい。自己責任についてはドラッカーもリーダーの重要な資質である誠実で真摯な姿勢の表れとして著書でよく論じていた。
昨日の報道によると、改革委員会から、騒動の中心人物である研究ユニットリーダーのリケジョはじめ論文に関わった重要人物の責任が明確に出された。その結果としてセンター解体まで言及している。センターまで解体すべきかどうかはともかく、改革委員会が指摘した責任問題は国民の納得ゆく内容である。STAP細胞に用いたマウスが、そのDNAの解析からまったくインチキだったことまで明らかになりリケジョがどのような実験をしてどのようなことを企んでいたのか明らかになってきた。
本人も分かっているはずなので「生き別れの息子捜す」などと発言できる立場ではない。マスコミに向けられたこれまでの発言内容を聞く限りリケジョには自己責任の四文字が全く意識されていないように思われる。副センター長やセンター長も同じで、本来改革委員会から提言が出る前に自己責任の四文字がわかるような誠実な対応をしておればセンター解体までの表現が改革委員会から出されなかったはずである。
STAP騒動のような事件が起きたときに他人から言われる前にリーダーは自己責任から状況にあった行動を取るべきである。リーダーがそのような行動を取った時に本当に大切なものが守られるのである。
高純度SiCの事業化を住友金属工業とのJVとして立ち上げた時にFDを壊され研究開発の妨害をされる事件が起きた。騒がなければ良かったのだが静かにしていたらいかにも犯人の意思表示と思われる壊され方をされたので上司に告発したが、ゴム会社では事件を隠蔽するほうに動いた。
責任を取って自分のライフワークとまで考えていた仕事から身を引いた。タイヤ会社でうまく育つかどうかわからない出たばかりの事業の芽を守るためである。その結果30年以上その事業は続いている。自分が0から立ち上げた自負があっても誠実に対応しなければいけない状況では、組織人としての判断を優先すべきである。
ゴム会社の高純度SiCの事業には無機材質研究所の関係者やプロジェクトをスタートしたときの会社幹部の方々のご尽力や期待があり、個人のテーマ(注)ではなくなっていたのである。STAP細胞の騒動も同様で、このテーマはもうリケジョ一人の息子では無いのである。リケジョに限らず関係者は自己責任の四文字をよく考えた決断をして頂きたい。
(注)このテーマはゴム会社でCIが導入されたときにファインセラミックスと電池、メカトリニクスの3本の柱が新事業の方向という方針が出され、創業50周年記念論文に投稿するために企画されたテーマである。
(続編)
理研特別顧問が提言を受けて辞任するという。自己責任の観点から妥当な判断だが、その理由が「留まる理由は無い」とか「リケジョの採用過程は臨機応変に行った結果」とか言い訳がましい。後者は半分理解でき、同情する部分もあるが、本来一連の試験を行った上でリケジョを特別枠で採用すべきであった。
一連の試験をスキップして採用した結果、リケジョがどのような人物なのか不明のまま、その危険性に気がつかずに現職に就かせて今回の騒動が起きたことにまだ気がつかれていない。企業の研究管理をされた経験のある方ならば、今回のようなリケジョの扱いには慎重になる。
当方も経験があるが、頭は良いが重要な仕事を任せられない人がいる。訓練しても理解はできるが、その部分については全く欠如して責任感が身につかない人がいる。その様な人には本人にその旨を気付かせて問題が起きないような仕事の与え方をしなければいけない。そして本人が組織に貢献できる仕事を正しく選べるように指導しなければいけない。これは管理者として難しい仕事であるが責任をもってその人材を指導してゆくのが職責である。特別顧問はそれを怠ったのである。月10万円という報酬からの責任ではない。職務の責任である。報酬が高いか安いかはこの場合無関係である。税金で運営されている組織であることも考えて頂きたい。
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本日カオス混合(7)を書くつもりでいたら、昨日次のようなビッグニュースが飛び込んできた。
http://scienceportal.jp/news/newsflash_review/newsflash/2014/06/20140611_03.html
ちょうど今弊社のサイト www.miragiken.com でも燃料電池を取り上げたところだけでなく、このニュースで取り上げている白金触媒に置き換わる金属二核錯体酵素の存在を4月24日の本欄で書いたばかりである。
4月24日の活動報告では、東工大S先生の退官記念最終講義に出席した話題を書いた。アカデミアの最終講義だから居眠りをしたという話ではないが、読みようによってはその様にとられてしまう「技術の妄想」の話である。
自然現象を前にして、科学は真理を追究するが、技術は機能を考える。これは弊社の科学と技術に対する考え方で、研究開発必勝法プログラムの思想でもある。S先生の最終講義は、まさに酵素を模した金属二核錯体合成の「真理」を追究した話であり、その道半ばで退官するので後進はこの分野を完成して欲しい、と締めくくっていた。
S先生は学生時代の先輩で酒の飲みっぷりは良いが頭の回転の速い人だった。しかし講義終了後のパーティーで先生のお仕事は燃料電池の電極になる、というお話をしたところ、僕はその分野はわからんので、という言葉が返ってきた。若い頃はそのような返事をされない先輩だった。
年をとって人間が円くなったとか、謙虚な先生だという話をするつもりは無い。優れた科学者のご返事である。当方は、S先生の科学の講義を聴きながら、機能を思いつき燃料電池がひらめいた。そして講義の最中に燃料電池が機能して発電していた。それだけS先生の講義はすばらしく「科学的」世界であった。すなわち普遍性の真理が新しい機能の妄想を生みだし、もし目の前に実験室があれば、すぐにでも燃料電池ができそうな雰囲気になったのだ。講義は面白かったし、先生はその講義を科学者として締めくくられたのだ。ゆえに先ほどのご返事になったのである。
もしS先生の最終講義(注)にご興味のある方はお問い合わせください。後日この話題は、www.miragiken.com でも取り上げます。ただこのサイトの記事は書きためてあるので、そこへ割り込ませる関係上1ケ月以上後になります。(未来技術研究部では、昨日高分子同友会で勉強してきました藻類を使ったバイオディーゼルの話題が先に出てきます。)
(注)アカデミアの最終講義は通常参加費無料で開催されている。このような儲け話もあるので時間があれば出席するようにしている。
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住友金属工業とのJVが、半導体用高純度SiC事業の発展のきっかけとなった。一人で開発の死の谷を歩いているときに、気分転換で外部の顧客探し、マーケティングを行っていた。セラミックスフィーバーはエンジニアリングセラミックスが中心だったが、SiCに関しては半導体用途に対する関心が高まりつつあった。
半導体冶工具もエンジニアリングセラミックスのカテゴリーであり、半導体分野の市場を持っていたメーカーで研究開発が進められ、SiC半導体冶工具分野は1990年にそこそこのマーケットが形成されつつあった。しかし、低コストSiCを製造できるアチソン法やそれよりも少し高純度化可能なシリカ還元法のSiCでは、高純度化のためにコストがかかり、高純度粉体は1kgあたり10万円以上で取引されていた。
また、ゴム会社のSiCは、シックスナイン以上の高純度であったが、既存の方法のSiCは、それよりも純度が低く、半導体用冶工具はSiへの汚染を防ぐためにCVDによる表面処理が必須であった。ある日自宅に住友金属工業の小嶋荘一さん(注)と言う方からお電話があった。無機材質研究所のT先生から自宅に電話するように言われたからだそうだ。T先生は当方が社内で辛い立場で一人で開発を進めていることをご存じであった。
当時の上司に相談したところ、話を進めて良いとの指示を頂いたので、会社に来て頂いた。話はとんとん拍子に進み、まずサンプル提供による共同開発から始めた。最初のサンプルは100g程度で良かったが、次第に量が増え、1ロット1kg要求された。6年間休眠していた高純度SiC量産プラントを稼働させる必要が出てきた。
JV立ち上げ後10kgの生産を行うのだが、休眠していたプラントを立ち上げるのは大変であった。上司から一人で仕事を進めるように指示されていたからである。誰も手伝ってくれる人はいなかった。当方の設計した高純度SiC生産用の横型異形プッシャー炉は、最低2人で運転する装置であった。自動化装置も組み込んでいたが、最適化しないままプロジェクトが縮小し装置が休眠状態となっていた。(続く)
(注)ゴム会社の高純度SiCが学会賞(日本化学会化学技術賞)を受賞するに当たり、開発の歴史を捏造した推薦書のために一度落選し、二度目に産学連携の成果であるとの修正が書き加えられた形で受賞している。この方の名前も入れて頂きたかったがT先生一人を入れるのが精一杯であった。
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ゴム会社の50周年記念論文投稿でボツになった夢が無機材質研究所で花開いた。それも昇進試験で同様の内容を書いて否定されたことがきっかけとなってのことである。真っ黄色の結晶粉体が得られたときに無機材研では大騒ぎになったが、ゴム会社ではしばらくその意味がわからず、社員の発明を国の発明として認めてしまう。当然その社員も発明者として影の薄い存在として扱われるのだが、結果としてそれが良かった。
ゴム会社の社長の前で半導体用高純度SiCの事業についてプレゼンテーションを行い、2億4千万円の先行投資が決定され、新たな研究棟も建設が決まった。1年前には、3年間留学していて良い、と邪魔者扱いだった社員に対して早く会社へ戻って会社で研究するように、と催促が来るようになった。結局1年半で留学を切り上げ、ゴム会社に戻り開発体制を整備する仕事から始めた。
新しい上司の下で10名前後のグループを想定し、テーマ企画も含めシナリオの作成を始めた。ところがこの上司は新しい研究棟の竣工式の日に病気で他界された。5月6日の竣工式が終わるやいなや翌日は葬式という忙しさであった。この上司の墓前には転職するまで毎年参拝していた。米国のゴム会社買収を推進するためリストラが行われ、一人で開発を続けるようになってからは、墓参りがモラールアップのきっかけとなっていた。
半導体冶工具について住友金属工業とのJVが決まったときにも真っ先に墓前へご報告にいった。だから、事業が立ち上がったので創業者はいらない、と仏様が判断されたのだろうとも思ったりもした。騒動が泥沼化したときに不思議にも写真会社から管理職としての転職の話が舞い込んだ。将来会社の幹部候補としての条件で年収も150万円程度上昇するという。当時の資料を見ると典型的な異業種のヘッドハンティングだった。
ただ写真会社で20年勤め、途中他の会社との統合もあり、転職時の約束など全て吹っ飛んだので、仏様の思し召しで無かったことに気がついた。サラリーマンの流動化が言われて久しいが、やはり日本では最初に勤めた会社で最後まで勤め上げた方が良い。甘言につられて転職し、約束が守られなかった時に惨めだ。当時問題が泥沼化して誠実に判断して自分がやりたい仕事を犠牲にした道を選んだだけに心は複雑である。
ただ、このことも含め高純度SiCについて考え始めてから幾つかの偶然が重なる事が多く、不思議に思っている。この時もセラミックスが仕事ではなく、高分子材料の技術開発を担当する話であり、ゴム会社が転職を拒む理由は無かった。ゆえに被害者ではあったが自己責任として真摯に対応することができた。
STAP細胞の騒動を見ていると渦中の若い研究者の将来が心配になる。もう少し自己責任の気持ちを持った方が良い、と思われるが、それを誰も指導していない。ここは理研を去る決断しかないように思われる。早く新しい環境で貢献と自己実現の活動を再開できるように努力した方が良い人生になるような気がする。
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昇進試験に落ちた連絡を受けた日の無機材研の話に戻る。昇進試験のショックに落ち込んでいたのは数分だった。I先生やT先生の激励でリベンジを決意した。無機材研でアイデアを検証することについて会社とも十分な調整をした。特許が無機材研から出願されることになる、というのに会社では誰も反対しなかった。検証結果に期待していなかったのである。
ゴム会社で、朝9時から高純度SiC合成のために用いる前駆体高分子の合成実験を始めたが、結局終了した夜9時まで食事抜きとなるハードワークとなった。それでも完全に透明になる条件が見つかり、その条件で炭素含有率が異なる10水準のサンプルを合成することができた。
この10水準のサンプルを用いて、炭化とSiC化の反応を行うのだが、許された時間は5日である。ゆえに4水準ピックアップして、SiC化の反応では、同時にこの4水準を処理することにした。その時電気炉の暴走が発生し最適条件となった話はすでにこの活動報告で書いた。運も味方したのである。
与えられた1週間の時間の中で1日残し、超高純度のSiCを安価に合成できるプロセスが完成したのだが、技術特許をどこが出願するのか改めて問題になった。I先生から基本的には無機材質研究所から出願して頂きたいが、会社とも再度調整するように、とも言われた。
当方は実験開始前に会社と調整が済んでいたのでどちらでも良かったが、ゴム会社に電話して驚いた。実験結果が出た後も、研究所のどなたも反対されなかったのである。結局この技術の基本特許はすんなりと無機材質研究所で出願することになった。
その後この特許を基に国のプロジェクトの準備が進められるのだが、ささやかな新聞発表もあったのでゴム会社が大慌てになった。結局ゴム会社が無機材質研究所と調整し、国のプロジェクトではなく、ゴム会社で国から斡旋を受けて開発を進める企画になった。試験に落ちてからたった一週間の成果で状況が改善されたことにびっくりした。
数ヶ月前のSTAP細胞発表の騒動と当時の無機材研のマネジメントを比較すると面白い。セラミックスフィーバーが吹き荒れていた時に当方の発明はSTAP細胞同様の扱いになってもおかしくない成果であった。30年経過した現在でも某セメント会社からこの技術を利用した類似の特許が出願されているような基本技術である。またゴム会社では現在でもこの技術で事業が展開されている。このような大きな影響力の予想された技術であったため、極めて慎重に研究テーマはマネジメントされた。
また、当方が企画から検証まですべて行ったにも関わらず、特許等の書類では末尾に名前が書かれるとか、あるいは全く当方の名前が無い書類もあった。単なるビジター研究員だったので当然であるが、全てについてI先生は当方への配慮として説明してくださった。
I先生の人柄を信じていたので、実質の発明者として扱われていない状況に不満を述べないだけで無く、すべてお任せした。その結果、何も騒動は起きず、その後ゴム会社で当方が研究開発できる体制ができ、少なくともある問題が起きるまでは、無難に研究開発を進める体制ができていった。
32年経過して思い返してみると、もしこの時STAP細胞発表のような騒動を起こしていたなら学位を取ることもできなかったろう、と胸をなで下ろしている。よい問題にしろ悪い問題にしろ、組織の中で発生した問題について中心人物は静かにしているのが一番である。その結果良くない方向に動いたならば、後日それなりの対応をとっても遅くは無い。これは組織人としての知恵でSTAP細胞の騒動で弁護士まで表に登場したのでは、無難に収集するのが難しくなる。
研究開発者にとって一番大切なことは、穏やかに研究開発できる環境である。そのために技術マネジメントが重要である。割烹着が登場した時点で少し胡散臭さを感じたがW大学の学位審査のずさんさまで明るみに出るパンドラの箱をあけたような騒動になっている。
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人事部長との面接は2時間以上の長丁場だった。人事部長も当方のガス抜きは大変だろうと時間を取ってくださっていたのだ。この時の人事部長はその後子会社の社長として栄転されるのだが、企業人としてお手本になる人だった。難解な技術の話でも熱心に傾聴してくださり、的確な仕事の進め方や対応のアドバイスをしてくださった。
32年間のサラリーマン生活で何があっても腐らず貢献と自己実現を実践できたのはこの時の面談が大きく影響している。サラリーマンとしての一大事に親身になって状況へ真摯に向き合いアドバイスしてくださったのだ。悔しさや腹立たしさが、自分の未熟さの反省に変わる気づきを与えてくれた。
翌年の昇進試験では、会社の先行投資も決まった後であり合格することはわかっていた。試験官はリクエストどおり前年度と同じ方だと伝えられた。同じ内容の答案に今度は100点という最高点がついていたという。その試験官とは直属の部下になって仕事をしたことは無かったが、その心意気が気に入った。会社では昇進試験だけの接点であったが、良い印象を持っている。
この時の会社の風土は、CIを導入していた時期であり、前向きで建設的な動きが感じられた。ゆえに昇進試験の問題のような解決方法がなされたのだろう。しかし、7年後研究の妨害のためが起きたときは、全く異なる風土になっていた。世界5位の会社が3位の会社を買収し、世界1位を目指そうと血みどろの戦いをしているときであった。
バブルがはじける前に激しいリストラの嵐が吹き荒れていた。どの部門の管理職も血眼になって仕事をしている様子が担当者にも伝わっていた。そのような風土に変化していてもマイペースで他社とジョイントベンチャーにより半導体冶工具の事業を立ち上げた姿が周囲から反感をかってもおかしくない状況であった。この劣悪な風土は、新聞や週刊紙で大きく報じられたあの騒動まで続いたそうだ。
何か社内で問題が起きたときに、会社に裁判所は無いのである。その会社の組織風土がその問題を裁くことになる。会社には規則や規程はあるがその運用は経営者にゆだねられている。ゆえに会社内で問題に遭遇した場合には、決して自分で動いてはいけない。第三者も巻き込み、信頼できる管理者に動いてもらい問題を解決するのが良い。誰も動かなかったのなら、何もしない解決というのがサラリーマンの知恵である。問題解決に動けば動くほど誠実で真摯に対応したいのであれば、問題を明確にして会社を辞める以外に道は無い状態になっていった。
しかし、昇進の問題では当方が無鉄砲な動きをしても会社に留まれるような環境が次々と作られていった。社長の前でプレゼンテーションしてその場で2億4千万円の先行投資が決まったり、社長との飲食や、ファインセラミックスのための特別な研究棟が建設されたり、と会社の動きは速かった。その結果、3年でも留学していいよ、と言われた状態から今すぐ研究所に戻ってこいという状態まで当方の周囲の環境整備が進められた(続く)。
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