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2022.11/24 リスキリング

DXの進展により、技術者はこれまでの仕事のやり方も含め見直しが迫られている。さらにその専門性さえも変更しなければいけない技術者も勤務している企業によってはいるだろう。


例えば、材料メーカーの技術者ならば、勤務している企業がサービス産業へ転換した時に人文科学系の知識を要求される場面もあるかもしれない。


極端なことを書いているが、決してそうではない。デジタルトランスフォーメーションは企業内にカオス状態を創り出している、と言っても良いような社会変革を起こしている。


この活動報告でデータサイエンスに関して連日書いているのは、どのようなリスキリングにおいても共通に要求される新たな知がデータサイエンスだからである。


今技術者向けに、データサイエンスとトランスサイエンスについて連載を書いているが、もう少し一般的なリスキリングとデータサイエンスについても連載を予定している。


ただし、リスキリングがAIを学ぶことと誤解してはいけない。実験のやり方がDXの進展で変わってきたのだ。そのトランスフォーメーションにおいて、AIも含めたデータサイエンスのスキルを早急に身に着ける必要がある。


弊社にはそのコンテンツが揃っているので問い合わせていただきたい。今科学と非科学の境界も変化し始めており、このような変化を研究している組織は弊社ぐらいではないか。

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2022.11/22 データサイエンスとトランスサイエンス(5)

当方に全く高分子材料の知識がない、という理由で、毎朝3時間のレオロジーを中心とした講義が展開された。そこでは、ゴムの世界では形式知がほとんど通用しない話や、KKDを研究所では馬鹿にするが、最後はKKDで決断しなくてはいけない、ばらつきの問題など、多数のノウハウを説明してくれた。


仮説を立てて実験を行う問題も出てきた。研究所では学会発表のためにわざわざきれいにデータを揃えようとする問題がある、と指摘していた。すなわち捏造では問題となるが、ゴムの大きなばらつきを活用し、希望するデータが出るとそれを採用し、その他の変動した数値に言及しない作法があるという。


実はゴムのばらつきデータを解析してゆくと気がついていなかった因子や新しい機能が潜んでいたりする。この樹脂補強ゴムサンプルもそうだ、と言って見せてくれた。


そのサンプルは、当方の新入社員研究テーマのゴールだという。しかし、研究所内ではまだできていないことになっているから、誰にも言うな、と口止めされた。


そのできていないことになっている樹脂補強ゴムは、混練条件により、樹脂の海相が形成されたり、樹脂の島相が形成されたりするという。χが0ではない組み合わせであるが、相溶している可能性があるが、このような変化はまだ知られていない、という。


指導社員は偶然得られた、樹脂が海相を形成しているサンプルの粘弾性データを見て驚いたという。ダッシュポットとバネのモデルでシミュレーションした結果と同じになったという。その粘弾性データを防振ゴム開発担当者に見せて、研究企画となった、という。


最初に当方が行う仕事は、ロール混練の練習であり、この樹脂補強ゴムと同じ粘弾性データが得られるまで練習してほしい、と言われた。


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2022.11/21 データサイエンスとトランスサイエンス(4)

ゴム会社に入社した時、いわゆる技術者としての専門は、無機材料化学と合成技術者だった。合成技術者としては、天然物合成の論文をアメリカ化学会誌に掲載されただけでなく、ポリホスフォリルトリアミドの反応解析をアメリカの無機材料化学専門誌に掲載されたので、恐らく当時世界に一人の有機無機合成技術者だった。


入社した年に高分子学会内に無機高分子研究会が設立されているので、世界に一人のという形容は大げさではないと思う。また指導して下さった大学の先生がそのように称して社会へ送り出してくださった。


しかし、その就職先がゴム会社では専門能力をどのように発揮してよいのか、とまどった。新入社員のこの戸惑いを年配の指導社員は十分に配慮してくださった。驚いたのはその年齢で、世間の係長職に昇進したばかりだという。そして小生が初めての部下だった。


指導を受けてすぐに理解できたのだが、高いレオロジーの専門性と穏やかな人格の技術者で昇進がここまで遅れるような研究所の人事評価に震撼した。ゴム会社の厳しさを学ぶことができた指導社員だった。


研究所の人事の厳しさのためなのか、いろいろと研究所で生きてゆくための知恵を教えられた。企画は必ず文書として残し、上司に見せるまでは他の人に見せない方が良いとか、社内における機密の扱いには厳しかった。


また、研究をやりたいなら開発をやり終えてから研究をした方が良い、というアジャイル開発とよべる考え方も指導してくださった。ただし、一番役立ったのは、物性データからどのように高分子材料を考察するのか、というレオロジー専門家としての高い形式知と経験知からの学びである。


毎日9時から12時までの3時間、高分子の知識が乏しかった当方にレオロジーを基礎とした高分子材料科学の座学を3か月熱心に指導してくださった。


指導社員がシミュレーションされたデータとゴム配合の関係や、その実際のゴムの粘弾性データとの関係の説明は圧巻だった。今のMIにもつながる側面もあり、大学よりも実践的でありながらアカデミックな色彩もはなつ、当方が受講した講義の中で人生最高の講義だった。

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2022.11/20 データサイエンスとトランスサイエンス(3)

当時のゴム会社の研究所は40年先を走っていた。定時になると皆帰宅する、ワークライフバランスを先取りした職場だった。タイヤ開発部隊も同じ8階建てのビルで研究開発を行っていたが、夕方の6時には6階以上の研究所事務所の電気は消えていた。


同期からは羨ましがられたが、当方は勉強のために時間があれば実験をしていた。ゆえに当方が配属された10月から夜中12時近くまで6階以上のどこかの部屋の明かりがついていることが少し話題となった。


指導社員は、毎朝9時から12時まで3時間の座学で高分子の基礎から最先端のレオロジーまで指導してくれた。理論的に混練技術の学習ができた。伝説のカオス混合についても教えてくれて、当方ならばどのように実現するのかと宿題を出されている(注)。


また、午後は自由にテーマを推進していいが、データについては誰にも言うな、と言われた。研究所内では他人の成果を奪っても平気な輩が多かったからである。


気がかりとなったのは、指導社員は学生時代から理学部でレオロジーを学んだ技術者だったが、ダッシュポットとバネのモデルによるレオロジー研究は20世紀で終わりになるから、新たなレオロジーの姿をデータから研究するように、と指導社員の教えてくださっている知識を否定する難しいことを要求されたことだ。


さらに、ダッシュポットとバネのモデルを教えているが、データベースで考えろ、とも言われた。すなわち、ダッシュポットとバネのモデルで仮説を設定できるが、あくまでもデータ中心に考えろ、と。


この考え方は、その後の当方の技術者としての成長にとって重要なアドバイスとなった。科学者は仮説を基に実験を進める。そして、仮説に従った実験データが得られれば満足するが、仮説を否定するようなデータが出ると、否定証明に走る場合がある。


当時タイヤ開発を担当していた役員から、科学ではモノができない、と新入社員研修の発表会で多変量解析による成果を批判された。新QC7つ道具に多変量解析が取り上げられていても、である。


(注)約30年後にこの宿題を完成させることができた。PPS/6ナイロン/カーボンの配合の中間転写ベルトの歩留まりをあげるために必要な技術だった。

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2022.11/19 データサイエンスとトランスサイエンス(2)

子供のころから化学が好きで、高校生の時に名古屋大学平田教授のフグ毒の新聞記事に感動した。大学では、その先生の特別講義を拝聴でき、卒業研究は有機金属合成の講座で1年間シクラメンの香りの全合成経路について研究した。


アメリカ化学会誌にショートコミュニケーションとして紹介されたが、教授の退官とともに講座が閉鎖されるというので、大学院はSiCウィスカーを研究していた無機材料の講座で2年間ホスホリルトリアミドの研究をして論文を4報ほど書いた。


だから、専門は無機材料化学となるのだが、2度のオイルショックで就職氷河期だった。当時最先端材料として注目を集めていたホスファゼンについてファイアーストーン社は人工衛星ジェミニ用の特殊ゴムを提供していた。


そのファイアーストーン社の研究所へ訪問した企業の非公開リストをたまたま某先生が持っておられて、そこに載っていた日本のブリヂストンタイヤに興味を持った。


運よく先輩社員がリクルーターとして来校されたときに入社意思を示したら、79年にはその社員となっていた。入社までの経緯においてもいろいろあったが省略する。とにかくゴムについて形式知の乏しいまま、研究所へ配属されたことから話を書く。


79年10月1日にアカデミアよりもアカデミックな研究所へ配属されたのだが、大学院2年間の生活よりもアカデミックだった。ただし、アカデミックな点は学部の卒研の時の講座と同様だったが、厳しさは無かった(注)。


アカデミックでありながら厳しさの無い状態とはどのような状態か、想像していただきたい。入社4年後に無機材質研究所へ留学し高純度SiCの新合成法を実証するのだが、この時に研究所を管轄する本部長がYからUに交代した。


Yは大学教授にしたなら最も大学教授らしい人だったが、Uは実務家で研究所の風土改革を目指していた。このUの忘れられない迷言に「女学生より甘い」という言葉がある。今なら世間から批判される言葉だが、これが企画会議で管理職に向けられた言葉なのでパワハラにもあたるかもしれない。


しかし、アカデミアよりアカデミックで厳しさがない当時の研究所の姿を形容した言葉でもある。当方は学部の卒研の1年間にアカデミックな研究とは自己を厳しく律しない限り堕落に走る、と躾けられ、1年研究したら1報論文を書けるぐらいになれ、と学部の4年生にアカハラ以上の圧力をかけられて成長できた。


今でも思い出すが、明日が締め切りという日に卒論を提出したところ、大量の英語の論文の山を渡され、これを読んで明日までに書き直してこい、と言われたときには、頭が真っ白になった。


しかし、今の君にはそれだけの実力がある、と言われ、豚もおだてられれば木に登るわけでもないが、徹夜で大量の論文をまとめて、数10ページの緒言とした。


大学院まで6年間勉強して語学と数学には自信がついたが、化学については人様に誇れる専門分野は無かった。ゆえに社会に出たときに混練の神様と言ってよいような指導社員に出会ったことは幸運だった。


(注)会社の経営には、石橋イズムといっていいような厳しさがあった。この欄で始末書体験を書いているが経営上の問題があると管理職は厳しく注意を受ける。そして、始末書となるのだが、ホスファゼン変性ポリウレタンフォームの基本配合を半年で仕上げ、課長に命じられて工場試作まで成功させた新入社員は本来褒められるべきだ、と思っている。市販されていないホスファゼンを使ったことを課長である主任研究員は始末書の理由として当方に説明し、その責任が当方にあると責めている。しかし、課内で当方が企画説明をしたときに、この課長は世間に存在しない世界初のホスファゼン変性高分子を合成しようという新入社員は今までいなかった、と褒めてくれたのである。おそらく、課長が書くべき始末書を新入社員に書かせたので、その甘い考え方に人事部長も目が点になっていたかもしれない。世間に存在しなければ、市販されていないことは自明である。

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2022.11/18 データサイエンスとトランスサイエンス(1)

科学で問うことができても、科学で答えることができない問題が増えてきたが、トランスサイエンスという言葉は、科学論が活発に論じられた1980年代末にアメリカで生まれている。


日本ではバブル崩壊とともに科学論も立ち消えになったが、1970年前後からの企業の研究所ブームもバブル崩壊とともに見直しが起きている。


1979年にゴム会社へ入社し、当時最先端材料だった樹脂補強ゴムの開発を3か月で仕上げた後、ポリウレタン発泡体の難燃化技術を担当した。


その時、世界初の難燃化技術を開発せよと命じられたので、ホスファゼン変性軟質ポリウレタンフォームを企画し、半年で工場試作まで仕上げている。


ところが、始末書を書かされた話を以前この欄で紹介しているが、未だにこの時の始末書の意味が不明である。命じられたゴールを実現し、特許や論文にもまとめ名実ともに世界初の難燃化技術だった。


上司は、特許の発明者は自分を筆頭にしろと言われたので筆頭にしているが、工場試作の成功の責任は当方が負うことになり、始末書を書かされたのだ。工場試作を命じたのも上司であり、急な予定変更で、工場試作の準備のために過重労働をさせられている。


工場試作を突然行うことになったのは、ホスファゼン変性ポリウレタンフォームの難燃化レベルが高ったからである。半年間の開発業務において、その難燃化機構についても解析している。


燃焼という現象は急激な酸化反応であり、非平衡で進行するので、典型的なトランスサイエンス現象である。しかし、それを科学的に解明せよ、と言われたので、燃焼時のオルソリン酸の揮発量はじめ、様々なデータを収集している。


科学的に解明が難しい現象については、仮説設定よりもとにかくデータを集めることが先決である。現象から科学的手法で得られるデータを絞り出し、科学で証明が難しい現象について多数のデータから考える方法が効率的だ。


これを科学的にとらわれて仮説設定しデータを集めてみても、非平衡で進行している反応を完璧に証明できず、否定証明の報告書を乱発することになる。


トランスサイエンス現象については、科学的に測定可能なデータをとにかく集め、科学的に確からしい多数のデータから何が起きているのか解析的に想像を進める以外に方法は無い(ユークリッドはこのようにして図形の問題を解いていたのかもしれない。そして、経験的に一本の線を引くヒントを身に着けたのだろう。科学誕生以前にユークリッド幾何学は生まれている。)。


ゴム会社の研究所には、これを頭が悪いから、と笑っていた人がいるが、その人が今マテリアルインフォマティクスへ真剣に取り組んでいる研究者を見たら、大笑いするかもしれない。


科学と非科学を厳密に分けていた時代があった。そのような時代に新QC7つ道具と出会い、データサイエンスの可能性について研究するのは大変だった。


しかし、ホウ酸エステル変性ポリウレタンフォームや高純度SiCの事業化、電気粘性流体の耐久性問題解決など科学的に取り組んでいたら出せなかった多数の成果を出すことができている。

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2022.11/17 高純度SiCとデータサイエンス(6)

有機酸触媒存在下でフェノール樹脂とポリエチルシリケートを混合し、高純度SiCを製造する技術では、フェノール樹脂とポリエチルシリケートが均一に相容していることが求められる。


これが不均一のまま固化した前駆体を焼成してもSiCを製造することができるが、そのSiCは、フェノール樹脂とシリカとを混合して固化した前駆体や、ポリエチルシリケートとカーボン粉を混ぜて固化した前駆体を用いた場合にできるSiCと何ら変わらない。


当方が、フェノール樹脂とポリエチルシリケートとの相容のアイデアを思い付いたときにすでにその類の特許が出ており、当方の特許は、フェノール樹脂とポリエチルシリケート、触媒用の酸の3成分の組み合わせが新規となった発明として成立している。


進歩性は、副生成物となるウィスカーや残炭素の除去が不要となりシリカの混入が無い高純度SiCが得られること、均一な超微粒子のSiCが得られることなどである。


ゆえに前駆体の製造技術は進歩性を得るための重要なノウハウとなる。多少前駆体の製造条件が悪くても副生成物ができるのを防ぐことはできるが、均一な超微粒子を得るためには、ノウハウが重要となる。


このような技術を仮説による実験で発明しようとすると時間が大量に必要となる。むしろラテン方格を用いて、何も考えず制御条件をすなおに発見するための実験を行った方が効率が良い。

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2022.11/16 高純度SiCとデータサイエンス(5)

ラテン方格をあらゆる実験条件の一部実施するためのツールという見方ができると、あらゆる組み合わせを行わなければ予想がつかない現象解析が可能となる。


科学の立場では、仮説を用いて実験を行うことが基本である。ところが、技術の立場では、機能のロバストが安定に動作すればよいので、その条件が仮説により導かれようとも、試行錯誤で導かれようとも、はたまた、エイ、ヤと気合一発で見つかっても「そんなの関係ない」。


STAP細胞のように発見はされたが、ロバストの低い現象では、タグチメソッドを用いてロバストを高めることが求められる。小保方氏が、あるいは理化学研究所がタグチメソッドを導入していたなら、あの日の事件は起きなかった。


仮説に基づく実験で偶然できてそれを喜んでも、そのロバストが低ければ技術として活用できない。技術では科学の研究と異なり機能は当たり前で、そのロバストが保障されなければ実用化が難しいという時代になった。


仮説に基づく実験で偶然「あたり」を引いても科学者は論文を書けるが、「**あります」と叫んでみても、技術としての実用化は難しい。技術者は科学者よりも厳しい現実といつも向き合っている。


技術者は機能のロバストを高めるために、その機能の制御因子について、あらゆる条件の組み合わせの中でロバストの高い条件を見出す必要がある。それゆえ、タグチメソッドではラテン方格を使って実験を行うのである。

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2022.11/15 高純度SiCとデータサイエンス(4)

ホウ酸エステルとリン酸エステル併用系の難燃性ポリウレタン発泡体の研究開発では、次の様な実験計画法も行っている。


すなわち、ラテン方格の外側に配置する数値として、LOIを用いるのではなく、難燃剤の添加量を変化させたときのLOI変化で計算される相関係数を配置して実験を行っている。


ここで、誤差因子を調合して配置すれば、タグチメソッドを感度で行っているような実験となる。これは故田口先生の解説である。当時先生のことを存じ上げなかったが、写真会社へ転職してタグチメソッドの推進委員を担当した時に3年間先生から直接ご指導を頂いた。


その時にこの話をして先生から褒めていただいた時のコメントである。このような実験を行った背景は、ラテン方格で決められた水準のLOIをそのまま用いる教科書通りの実験計画法を行っていた時に、最適条件の外れることがあったからだ。


相関係数をラテン方格の外側に配置したところ、制御因子の結果がうまく合うようになった。そもそもタグチメソッドではラテン方格を実験の計画立案のためだけに利用しており、それでSN比の変動を計算するためではないのだ。


すなわち、すべての実験について一部実施を確率的に均等とするためにラテン方格を使用している。統計手法の教科書に記載された実験計画法でラテン方格を使用する時には、ラテン方格の繰り返し効果が実験の誤差を計算するために利用されている。


当方は、ラテン方格を「ただ、実験計画を立てるためだけに利用する方法は無いのか」という問題意識から、ラテン方格の外側に相関係数を用いる手法を発明した。


すなわち、タグチメソッドでラテン方格を用いるのは、すべての制御因子の条件の組み合わせから、均等に一部抽出するためである。誤差変動に相当するSN比は、ラテン方格の外側に配置した誤差因子と信号因子から求めている。

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2022.11/14 高純度SiCとデータサイエンス(3)

ホウ酸エステルとリン酸エステルを併用し、ポリウレタン発泡体に添加しておくと、それが燃焼時に反応してガラスを生成しポリマーを難燃化する。データサイエンスによりその現象を把握することができる。


極限酸素指数(LOI)を目的変数として、ホウ酸エステルだけ添加したポリウレタン発泡体で採取された実験データを単回帰分析するとホウ素の含有率変化に対してほとんど増加しない。すなわち、ホウ素原子単独では、LOIを増加させる機能が無いことを示している。


ところが、リン酸エステルとホウ酸エステルを併用するとホウ素原子の難燃化機能がリン原子の効果に近づく。これが段階式重回帰分析で示された。


段階式重回帰分析とは、説明変数を逐次1変数づつ取り上げながら重回帰式を組み上げてゆく方法で、説明変数間に相関関係があると目的変数への寄与が高い説明変数だけが重回帰式に組み込まれる。


この手法で組み立てられた重回帰式には、必ずしも期待する説明変数が取り込まれない場合も出てくる。ゆえに、当時は期待される説明変数が取り込まれるように、重回帰式の結果を見ながら実験データを取り直すこともしていた。


このような試行錯誤の実験で、重回帰分析の数学的な意味だけでなく、サンプルデータ群の特徴が回帰式にどのように影響するのか、ということも学んでいる。


例えば、塩素原子や窒素原子、芳香環などは、条件が整うと難燃性に寄与する単位である。三酸化アンチモンが存在すれば、燃焼時に塩化アンチモン蒸気が生成して空気の遮断をすることが知られている。


これは、段階式重回帰分析を行うと塩素原子とアンチモン原子が説明変数として取り込まれることからも理解できるが、リン酸エステルには塩素原子を含んでいる化合物も存在するので、リン原子と塩素原子の間に偶然の相関が出てきて、どちらかの原子が取り込まれないことが起きる。


アンチモン原子が存在すると、塩素原子が取り込まれて、リン原子が棄却される。燃焼時のリン酸単位が炭化促進の触媒作用を示すことは形式知なので、これはおかしい。


塩素原子を含んでいないリン酸エステルを用いた実験データを追加してやり、リン原子と塩素原子との単相関係数が例えば0.7未満になると、説明変数としてリン原子と塩素原子の両方が取り込まれるようになり、リン原子と塩素原子、アンチモンとの効果比較が可能となる。


ホウ酸エステル変性ポリウレタン発泡体の難燃化システムの場合にも、難燃剤の組み合わせ等を工夫し、ホウ素原子とリン原子、塩素原子、窒素原子、芳香環それぞれの単相関係数が0.7未満となるようにしてやると、ホウ素原子とリン原子、塩素原子が説明変数として取り込まれた重回帰式ができる。


この重回帰式の説明変数の標準偏回帰係数を比較してやると、それぞれの原子のLOIに対する寄与を知ることができる。驚くべきことに塩素原子が0.1程度に対し、ホウ素原子は0.4程度までになっている。


一番高いのはリン原子で0.6である。この総和が1になっていないのは誤差を含んでいるためであるが、LOIに対するホウ素原子の標準単回帰係数がほぼ0に近いにもかかわらず、塩素原子の4倍の寄与率を示したのは、リン原子との相乗作用の結果であり、燃焼時の熱でホウ酸とリン酸が反応してボロンホスフェートの生成した結果と一致している。

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