高分子の構造と物性との相関を考えるときにセラミックスと比較して難しい点は、非晶質相の物性への影響である。セラミックスでは、これが単純だ。例えばガラスならば非晶質の均一固体である。
ペロブスカイトの焼き物であれば、非晶質相が粒界に存在するがその影響は力学物性に効くかもしれないが、ペロブスカイトの結晶で現れる機能性に対して大きな影響は無いので結晶構造と機能性との関係を論じればよい。
SiC焼結体の熱膨張を40年近く前に研究したが、α-SiCでは結晶軸方向で線膨張率が異なっていたが、焼結体の線膨張ではちょうどその平均が観察され、大変理解しやすかった。
しかし、高分子材料における構造と物性との相関はセラミックスほど単純ではない。単純ではないが、経験知があれば、強相関ソフトマテリアルとみなした材料設計が可能となる。
このコンセプトで写真会社退職間際の半年間に難燃剤を使用せず、PETが80%以上含まれている樹脂でUL94-V2合格レベルの構造体として使用可能な靭性の高い樹脂を開発した。
この開発では事前にOCTAであたりをつけた素材が選ばれ、PET以外の5種類のそれぞれ機能が異なる高分子が検討された。強相関ソフトマテリアルというコンセプトで材料開発を行ったのだが、3ケ月ほどで目標の材料組成を見出すことができた。
この技術開発は、一応OCTAで材料設計してあたりをつけた処方の成功事例と言えるかもしれないが、残念ながらOCTAを使わなくても退職後この仕事を見直して考案した弊社が提唱する簡便法でも同様の結果が得られることが分かった。
シミュレーションのおかげでできたかどうかよりも、この材料の面白い点は、カオス混合を行うと射出成型性も良好な樹脂となるが、通常の二軸混練機だけの混練では射出成型性が不良の材料となることだ。
すなわち混練プロセス依存性の高い材料となった。このような材料は、その技術をブラックボックス化しやすい。また、プロセス発明でありながら、特許に抵触しているかどうかの検出も容易である。
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難燃性ポリウレタン発泡体や、フェノール樹脂断熱天井材、そして高純度SiCの前駆体高分子までリアクティブブレンドを用いて開発して、高剪断と高速回転による分散が分子レベルまでの混合を可能にすることを学んだ。
このリアクティブブレンドで何がどのように変化し均一になってゆくのかは、用いた原材料の配合から推定できた。ポリウレタン発泡体やフェノール樹脂断熱天井材では均一なセルを実現するために界面活性剤が必要だった。
しかし、高純度SiCの前駆体高分子では、反応を進行させるための触媒だけを添加すればよく、非相溶系の組み合わせでリアクティブブレンドにおける分子レベルの混合を検討するには適したモデルだった。
フェノール樹脂とポリエチルシリケートのχは大きいので、そのまま攪拌しても均一にならない。酸触媒が存在すると反応が進行し、攪拌している溶液が透明になってくる。しかし、どのような酸触媒でも分子レベルの均一化を実現できるのかというとそうではない。
また、その他の条件も同様で、混合条件だけでなく、組み合わせるフェノール樹脂や酸触媒により、リアクティブブレンドで得られる物質の均一性は影響を受けた。
これは、無機微粒子の混合と比較した時に高分子の混合における特徴を示している。また、低分子の溶媒を用いた分散ではSP値が用いられ、その値で推定されるおおよその分散状態と実際は大きな差異は生じない。しかし、高分子のブレンドではSP値から期待される均一性は、経験では50%程度しか再現されない。
また、高分子ではSP値よりもχを用いたほうがよいとされるが、このχについてフローリーハギンズ式から推定される結果とスピノーダル分解速度とは相関しない。このような状況なので、実際の混合プロセスにおける現象は、それを実施してみないとわからないというのが現実である。
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愛知県特産の八丁味噌を作る岡崎市の『まるや八丁味噌』と『カクキュー』ブランドを展開する『八丁味噌』の老舗2社の製品が、国の保護登録からはずれたことを受け、2社は14日、国に不服を申し立てている。
国は去年12月、農林水産物や食品を地域ブランドとして守るGI=地理的表示保護制度に、愛知県内の味噌業者で作る『愛知県味噌溜醤油工業協同組合』の製品を『八丁味噌』として登録している。
しかし、この組合に所属していない岡崎市の2社の製品は、登録から外れた。これに対し2社は、「味噌溜醤油工業協同組合の製品は、歴史、製造方法、品質において我々と大きな違いがある」と国に登録の見直しを求めた。
お客様混乱させるものであり、極めて不当。今回このような判断をした理由は、長年お客様に受け入れられてきた八丁味噌を守りたいためだ、と八丁味噌協同組合・早川久右衛門理事長は怒っている。
この不服申し立てに対して国は、岡崎市の老舗2社の製法を変えることなく、そのまま追加のGI申請をしてもらえば、我々で審査して登録もありうる、と農水省・尾崎道調査官が語っているが、まさにこれはお役所仕事である。
まるやにカクキューは、八丁味噌ブランドとして愛知県民であれば知らない人はいない超有名な老舗ブランドである。今回の国の対応は、わかりやすく言えば、野球保護のために野球チームを国で登録・保護しようとしたときに、巨人と阪神を登録せずに仕事を完了しました、というものだ。
本来ならば国の担当者は、まるややカクキューに頭を下げてでも登録してくださいとお願いしてもいいような立場なのだ。我々で審査して登録もありうる、とは、担当者は何様のつもりでいるのだろう。
これは、みそとくその違いを食べてみないとわからない、と言っているようなものだ。あるいは、このお役人は、みそとくそを食べ比べてもわからない人かもしれない。今回の森友問題で書類の改竄があったが、赤味噌問題もお役人の傲慢さ、無神経さが現れた仕事の事例かもしれない。
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9日、佐川宣寿国税庁長官が辞任した。森友問題に関連した国会対応に丁寧さを欠き審議の混乱を招いた点や、行政文書の管理状況について様々な指摘、さらには今回取りざたされている文書の提出時の担当局長だったことの3つの責任を感じて辞職を申し出たという。
さて、この問題は、森友側へ破格の安値で土地売却を行ったことから始まっている。その後「忖度の連鎖」で、最後はこの改ざんという不正、担当者の自殺まで起きた。
現在のところ、まだわからないことが多いが、ドラッカーの組織論の観点で、これまでニュースで報じられた事実をもとに、財務省という組織を眺めると、腐った組織と言わざるを得ない。
まず、「組織の優劣は、平凡な人間をして非凡なことをなさしめるか否かにある」、とドラッカーは述べている。
しかし、財務省には高偏差値の優秀な人材が集まっているにもかかわらず、森友問題では、「安倍」を「安部」と書類に書いていたりする凡ミスをはじめとして、常識では考えられない業務状況である。
また、「組織の目的は、均衡と調和ではなく、人のエネルギーの解放と動員にある」とドラッカーの著書には書かれているが、エネルギーの解放どころか、「忖度」という束縛が働く内向きの高エネルギー状態で、とても国民のために成果の出る仕事をしているとは思えない。
はたして、財務省は現在のままの組織でよいのだろうか。そのマネジメントも含め、国民は森友問題の推移を見ながら検証しなければいけないと思う。
佐川長官の辞任がやや早すぎるのではないか。もし彼が本当に責任を感じているならば、自らの処遇を国民にゆだねるべきだろう。公務員のリーダーとはそのような覚悟があってこそ高給が保証されているのだ。
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非相溶系の高分子の組み合わせを相溶させる方法はリアクティブブレンドしかない、すごい研究だと当方の学会発表を聞かれて称賛されたのはT大のO先生である。T大で学位を授与するから熱分析のデータを見せてくれ、といわれたので、U本部長に承認を得たのち生データを渡したら勝手に学術論文として発表されてしまった。
学位を早く取りたいといわれたので書いた、というのがO先生の言い分だが、企画から実験まで全然携わっていないのに、ご自分を第一著者として論文を書いてしまう厚かましさに呆れた。
高純度SiCの前駆体が均一にできているということは画期的であり、ノーベル賞級とおだてられても腹の虫がおさまらないほど腹が立ったが、学位を出すから、と言われたのでいわゆる大人の対応として我慢した。
その後写真会社へ転職したら、同じくT大のH先生が今回学位の審査をO先生と担当するから写真会社からも奨学寄付金を入れてください、と言われた。ゴム会社では本部長決済でそれなりの金額の奨学寄付金を納めていたはずだが、これまた厚かましい申し出である。
自分の企画した研究を勝手に論文発表されたうえに奨学寄附金の請求もあったりで、気分は真っ暗なブラックホールというよりも、何か悲しく自己実現のゴールがこのような状態となり惨めな気持ちも生まれカオス状態となった。
当方の貯金を奨学寄付金として支払い学位を取得するのがよいか、このようなアカデミアの対応に三行半をたたきつけて学位をあきらめるのか迷ったが、学位の意味やその人生における価値を再度沈思熟考し、結局後者を選んだ。
その後日本化学会の懇親会でK先生から当方の学位取得を問われ、一部始終顛末をお話したら後日中部大学W先生をご紹介くださった。W先生はSiCのご専門ではなかったので、学位論文のまとめ方を変えて内容が審査できる状態ならば審査しましょう、ということになった。
それで、修士の時に発表した3件の学術論文と業界紙や学会研究会の雑誌に掲載された論文などかき集め、まさにカオス状態のこまごました研究テーマを混ぜ合わせた学位論文としてまとめ上げた。
新入社員時代の指導社員から「混合」というプロセシングはすべての分野で問題となるので、これをよく勉強するのは重要と教えられたが、まさか学位論文をまとめ上げるのにも役立つとは思わなかった。
プロトン導電体から高分子の難燃化技術、さらにはセラミックスとまさに様々な分野の研究成果をカオス混合して当方の学位論文は出来上がった(注)。
学位論文の表題の手直しや、一部構成の手直し、その他細々とした体裁など懇切丁寧にご指導いただき、審査料8万円ポッキリで中部大学から学位を頂いた。この金額と比較するとT大に支払われた奨学寄付金の額はボッタクリバーよりも悪徳なレベルである。しかも学位論文のまとめ方について満足な指導も無かった。
その内容を読むと研究する価値があるのかどうか不明な、乱雑で手書きされた、およそ手本となりそうもない審査の完了した学位論文を見本として、O先生は貸してくださっただけであり、あたかもこの程度でも学位が取れる、と言いたげだった。
まとめ始めていた学位論文の主要部分を扱っている研究論文が第二著者となった論文で大丈夫かと質問して不安になっていた小生を安心させるためだったのかもしれない。どの世界でもネオンの様なきらびやかな看板には誠実さではなく偽りがあるということだろう。
スタップ細胞の騒動では、これまたきらびやかな看板のW大におけるコピペの学位論文審査が問題となったが、当方の経験からすれば、審査の先生はもちろん問題だが学位論文の著者にも責任があるように見える。
コピペだからという理由で学位を授与後取り消しても問題解決とはならない。一番の問題は、大学の学位審査がどのような指導あるいは運営で行われて来たのか、という点である。その指導が不誠実であれば、教え子も不誠実を学ぶことになる。いつの時代でも師の偉大さはその弟子を見よと言われている。
中部大学では、20年以上前から英文で書かかれた論文をすべて日本文で書き直す(当方は、すでに英文で発表した論文をそのまま使用できるので英文の方が便利だったが、日本語に訳すのは英語論文のコピペ防止策と言われた)ような厳しい指導と語学試験など、審査料が赤字になるような懇切丁寧な指導がフルコースで行われていた。
だからT大のような、仮に研究論文にそれなりの価値があったとしても、お金を持ってくればすぐに出します、というユルイ審査の姿勢には疑問を持ってしまう。
アカデミアの先生には、聖人君主のような方から他人の研究は何でも自分の成果と誤解しているようなとんでもない先生までさまざまである。
ただ、いつの時代も社会はアカデミアの知に期待していることを忘れないで欲しい。学位の社会的価値が下がってきているが、当方は中部大学から授与された学位が、自己実現の一つのゴールとして人生の支えになっている。
中部大学の先生方の審査料を顧みない誠実真摯な指導と、自分の書いた英文を訳しながら自己嫌悪になったり、ドイツ語の試験も行うといわれてくじけそうになっただけに、苦労して取得した学位の価値は身に染みている。
(注)学位論文のタイトルは、「ホウ素、リン、ケイ素化合物によるケミカルプロセシングとその評価」であり、材料創成のプロセシングに視点を置き、まとめている。この作業で電子材料から構造材料までのプロセシングについて考え直す機会となった。これが現在の飯のタネになっているからSiCを中心にまとめ、安直に仕上げた英文の学位論文でかまわないといわれたT大の学位審査を辞退したのは良い判断だったのだろう。亡父から人生に迷ったら苦しい道を選べと教えられたが、これまでの人生では、この言葉に従いすべて良い方に転がっている。例えば、学位論文を読まれた方から、「機能材料」への投稿を勧められ、当方の学位論文の要約が2号にわたり掲載された。ゴム会社ではゴムの混練からセラミックスの焼結まで担当させていただいたが、材料を形にして機能を出すまでの過程にもそれなりの哲学が必要である。本来は科学の対象として研究されるべき分野のはずだが、アカデミアでは研究分野として成功していない。かつて化学工学という講座があったが機械工学との相違が明確でなかった。おそらく経験知や暗黙知の占める割合が多い分野なのでアカデミアで扱いにくいのかもしれないが、それゆえに形式知として研究する必要があると思っている。もしプロセス分野についてそれなりの形式知が出来上がっていたなら、STAP細胞の騒動ももう少しまともな方向に収束していたのではないか。STAP細胞はプロセスがその機能を決めているように夢想している。
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SiCは、エジソンの弟子アチソンによりシリカを炭素で還元することにより世界で初めて合成された。しかし、セラミックスフィーバーの起きた1980年代でさえ、その反応機構について様々な提案がなされていた。
原因は、シリカが高温でSiOガスを生成し、それがカーボンと反応する気相の反応が固相反応と同時に進行するためで、シリカとカーボンが固相で均一に生じる反応だけを取り扱うことが難しかったからである。
ゆえにSiCのシリカとカーボンとの反応機構は、気相反応を組み合わせた様々な機構が報告されていたが、シリカとカーボンが気相を介さず純粋にその反応だけが進行する均一固相反応の取り扱いには誰一人成功していなかった。
ポリエチルシリケートとフェノール樹脂のリアクティブブレンドで得られた前駆体では、それを1000℃まで不活性雰囲気で加熱するとシリカと炭素が分子レベルで均一に混合されたシリカとカーボンの固体が得られる。
工業的には、リアクティブブレンドにより得られたこの固体が均一であるかどうか品質管理する方法が問題になる。科学の立場では、この固体を用いて均一固相反応の解析が可能ではないか、という仮説が生まれる。
ゆえに、2000万円を投じて2000℃まで1分以下で昇温できる熱天秤を開発し、品質管理と基礎研究に使用した。
レーザーと赤外線イメージ炉を熱源とした、ほとんど手作りに近いこの熱天秤で均一固相反応の速度論的研究を企画から実験まで当方一人で行っている。
この解析結果が得られたことにより、リアクティブブレンドで得られた前駆体の品質管理が目論見通り可能になっただけでなく、それまで知られていなかった固相反応だけで進行するSiCの生成機構も明らかにすることができた。
これらの技術開発と研究は、1983年にゴム会社で行われ、熱分析の結果はゴム会社の発表許可を得た当方により日本化学会年会で口頭発表されているが、その数年後発表された研究論文では第一著者は研究にはかかわっていなかった外部の人物となり、苦労して熱天秤を開発し解析した当方は第二著者となっている。これは、アカデミアでさえ誠実さを軽視していた時代のできごとである。
カテゴリー : 電気/電子材料 高分子
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貴乃花親方が9日、部屋の担当弁護士を通じて内閣府に対して告発状を提出した、とニュースで報じられた。これまでの一連の成り行きから、ほぼ予想された行動である。貴乃花親方を批判しているのではなく、日本女子レスリング協会でも起きていることだからとりあげた。
やや異なるカテゴリーに思われるかもしれないが、昨年報じられた燃費計測における不正や材料の品質データ改ざんが明るみに出た問題も同じような時代背景があるととらえている。すなわち、一昔前ならばいずれの問題においても、大人の対応なり、長いものに巻かれろ的発想が重宝され、何か問題が発生した時に事を荒立てないことが良しとされた。
あるいは、裸の王様のごとく真実を指摘すると子ども扱いにしたり、その場あるいはその組織から摘まみだされたりした。それは社会全体が誠実さを大切にしながらも誠実さでは現実を生きてゆけない、とあたかも誠実さを時には忘れることが大人の社会では大切という誤解をしていた時代だから許された。
しかし、振る舞いも含めた組織の価値が重視されるようになり意識は変わりつつある。企業はコンプライアンスを重視し、組織活動そのものがドラッカーが指摘したように誠実さを求められる時代になった。
また、情報化時代になり、過去には躊躇された匿名の告発が容易になった。その結果、大人の対応を求めていたのでは組織の不誠実さを社会にさらけ出すことになり、企業価値を損ねるリスクが大きくなった。
燃費のごまかしや、品質データの改ざんでは、インターネットの世界に内部告発の情報が出るや否や経営者による謝罪の記者会見が迅速に開かれるようになった。そして1社だけでなく組織内にその疑いのある会社は競って謝罪会見を開くという、不謹慎かもしれないがやや滑稽な光景がTVに映し出された。
相撲協会は、隠ぺい工作をしていたことが社会に明らかにされていてもそれを無かったことのように解決をはかる大きなミスを犯した。さらに第三者機関が間の抜けた対応をした結果今日の事態に至っている。
レスリング協会にしても被害者は伊調選手であるにもかかわらず、その事情聴取も行わないで、告発されるや否やそのような事実は無い、と否定するミスをした。パワハラなどの問題では、従来の対応では誠実さを欠くので誤解を招くことを知るべきである。
誠実さが無ければ解決できないセクハラやパワハラなどの撲滅が社会で真剣に取り組まれている時代である。組織で何か問題が起きたときに、昔の様な対応をしていたのでは、社会から組織そのものが罰せられる。
カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子
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ロール混練を行っていると、あたかも高分子の混練の進行が目に見えるような錯覚に陥る。オープンロールはその名の通り、丸裸の状態でゴムを混練しているのだが、微妙なしわの入り方や表面の光沢感でそのような錯覚を起こすのだ。
この錯覚が生々しく脳裏に残っている状態で、リアクティブブレンドによるポリウレタン発泡体の開発を担当できたのは幸運だった。すなわち高分子を混ぜるという高分子のプロセシング技術で重要な経験知を整理することができた。
経験知は、乱雑に身に着けていても「思いつき」という形で役立つかもしれないが、形式知と経験知とを関係づけ、さらに形式知で明らかにされていないところをモザイクの消去を行うような感覚で経験知で埋める作業を行うと、見えていないところが見えてくるから不思議だ。
とかく見えないところをリベールする作業は怪しい作業に見られがちだが、このような自然現象のリベールは、十分な好奇心を満たしても他人に後ろ指をさされることはない。ただ、その結果を形式知のように話してしまうと軽蔑される。
高純度SiCの前駆体合成をリアクティブブレンドで行うアイデアは、単なる思いつきではなく、フローリーハギンズ理論で相溶が否定される材料を安定に相溶させる手段がそれしかないこと、と頭の中に整理されていた結果生まれているが、最初に研究所の先輩社員にアイデアを話したらバカにされた。
高純度SiCの前駆体合成技術は、高純度SiCの新生産プロセスを開発できただけでなく、カオス混合でどのような結果が得られるのかを検証した成果でもある。この成功で高分子を相溶させるには、フローリーハギンズの理論よりも、高分子を「混ぜて」(ΔSの変化)「安定化」(ΔGの減少)させるイメージが重要であることに気がついた。
このイメージを実践し成功したのが、光学用ポリオレフィン樹脂にポリスチレンを相溶させた実験である。この実験では、錠と鍵の関係(ΔSの偶然による制御とΔGの減少)にあるようなイメージを持ってバンバリーで高剪断をかけながら混錬したところ、アペルと新たに合成したPSとが相溶し、透明になった。
これは高剪断と分子の一次構造の組み合わせ効果で相溶に至った事例である。この成功で高分子を相溶させる方法がリアクティブブレンドだけでなくプロセスを工夫すれば可能であることが見えてきた。そしてカオス混合における伸長流動は高分子の引き伸ばしにより相溶を促進するかもしれない、という妄想を持つに至った。
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ロール混練ほど不思議な混練装置は無いだろう。二本のロールが回っているだけで混練が進行してゆく。ロールの表面はつるつるであり、ロールの回転速度差とロール間隙により、混練で必要な剪断流動と伸長流動が制御されている。
もし二軸混練で不満があれば一度ロール混練で材料を処理してみることをお勧めする。55%もパルプを含有した樹脂パルプ複合材料を開発した時には、ロール混練でPS並みの射出成型性を有した材料を開発している。
ロール混練は生産性は悪いが、二軸混練機などの連続式混練機では得られない混練レベルのコンパウンドを製造可能である。ゆえに指導社員はカオス混合の発明は混練の世界に革新をもたらす、と説明されたのだった。
指導社員は、ロール混練について形式知の観点から指導してくださったが、技能指導をしてくださった年配の方は経験知をいろいろと教えてくださった。二人の指導内容を比較すると科学の知識が無ければ技術が出来上がらない、という考え方が誤解であることに気がつく。
科学的ではない思考方法でも技術が創りだされ、技術によって生み出された人工物に含まれる知識は科学がもたらした物である、というのは科学の時代の俗説というファーガソンの言葉を理解できる。
当方の発明したカオス混合装置はロール混練の機能をそのまま実現しただけの非科学的装置だが、中間転写ベルトの開発や樹脂の難燃化技術などで十分な成果を生み出した。
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結晶が焼き固められたセラミックスでは、結晶構造でその機能性が決まり、結晶のサイズや欠陥で力学物性が支配されている。結晶の機能性に着目し、強相関物質と呼ばれたりしている。
しかし、高分子の構造と物性との相関はセラミックスほど強くはない。ただし、経験知として整理してみると、セラミックス同様にその構造と物性との間には相関がみられ、このことから高分子を強相関ソフトマテリアルと呼ぶ研究者もいる。
この材料の構造と物性との相関が形式知として整理されると材料設計が容易になる。しかし、高分子材料技術はまだそのレベルに到達していない。ゆえに、この分野の有力なソフトウェアーであるOCTAで材料設計ができるわけではない。
ところがOCTAが無用の長物であるかというと、そうではない。現在の段階では使いこなすのにそれなりの知恵が必要である。
これが分かってくると日常OCTAをつかいたいシーンも登場する。すなわちOCATであたりを決めて材料設計する、ということがもうすでに一部の分野で可能になった。
OCTAを使ってみてわかったことがある。しかし、ここでは書かない。時折当方のセミナーで気が向いたときにその成果をお話しすることがある。
気が向かなければこんなこともできます程度の話で終わるが、無料のOCTAが普及するには少々高い敷居を越える根性が要求される。
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