高分子材料の力学物性を改良するには、高分子の高次構造に関する知識が重要になってくる。しかし、当方が大学で学んだ高分子の知識は重合反応が中心で、すなわち一次構造の知識が重視され、高次構造については相分離した海島構造を学んだ程度だった。
一次構造から知識を階層化させて高分子を体系として学ぶために一次構造の知識は大切である。ただし、それは一次構造で高次構造をすべて制御できる、という前提が必要だ。ところが高分子加工では、非平衡状態で成形体を製造する場合が大半であり、一次構造で高次構造を制御し材料設計するといった手順で多くの場合に開発できない。
実務では手元にある高分子の高次構造を解析し、この高次構造と高分子成形体の物性との相関を考察し因子を探る、という作業が中心で、この高次構造を変化させる可能性のある因子の一つとして一次構造を考える、という手順である。
1970年代にはすでに用途が決まると高分子のおおよその種類が決まる、すなわち一次構造と用途の概略の関係が分かってきており、高分子材料メーカー(高分子合成メーカー)と高分子加工メーカーとが別々に事業を展開していた。就職したゴム会社では、合成部門が1970年ごろに社内に存在し合成ゴムの開発をやっていたようだが、1970年末にはその合成部門が独立して別会社になっていた。
余談だが、このゴム会社の研究所にはDNAとして基礎科学から事業を起業するという思想が就職したときにも残っており、研究所の業務の進め方は大学同様のスタイルだった。また、高純度SiCの新合成法を当方が開発したときには、このDNAのおかげですぐに2億4千万円の先行投資が決まり、当方の高純度SiCの事業を将来子会社として独立させるシナリオが大歓迎された。
もしこのシナリオどおり進んでいたなら今頃当方は子会社の社長としてパワートランジスタの開発をやっていたかもしれない。当時の鉛筆書きのプレ資料を時々眺めては若い時を思い出し気持ちを奮い立たせている。
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以下は現代ビジネス1月28日号記事からの抜粋である。
「東芝が経営層から一般社員までを対象に実施したアンケート結果が社内で大きな話題になっているという。
「昨年度に比べて会社の組織風土は改善してきたか」という問いに対して、そう思うと回答した人の割合はマネジメント層で67%だったのに対し、管理職層で51%、非管理職の役職者で38%、一般社員で30%にとどまったというのだ。
東芝は2015年に巨額の会計不正が発覚したが、経営トップが発してきた「チャレンジ」という言葉を受けて、様々な部門で利益のかさ上げが行われていた。その「組織風土」が現場に近いほど、今になっても「変わっていない」と捉えられている、ということだ。社内改革の旗を振って来た経営層と、現場との認識ギャップがあまりにも大きい事に、経営幹部の間では衝撃が走っているという。
東芝がこのタイミングでアンケートを実施したのは、「組織風土は大きく変わった」という事を対外的にアピールするためだったとみられる。会計不正によって東芝は、東京証券取引所から「特設注意(特注)市場銘柄」に指定されてきたが、1年たった2016年9月に「内部管理体制確認書」を東芝が提出、指定解除を求めていた。
ガバナンスの見直しなど「内部管理体制」を改善し、社内のムードは一変したというのが東芝の立場だった。一般社員も含め、過半の社員が「改善した」と答えたならば、それを証明する傍証になるはずだった、というわけだ。」(現代ビジネス1月28日号から転載)
企業の経営は難しい。弊社は起業し6年が経過して現在従業員は3人である。このような小さな会社でも起業時の電子出版の失敗で抱えた赤字を解消しつつ浮上するのは大変であり、ようやく光明が見えだしたところである。東芝ほどの大企業になれば、危機に陥ったときに一層その困難度は増加する。教科書通りの対策を行ってもその効果が現れなかった、それだけでなく経営陣は自画自賛をしようとしたらさらに悲劇的な結果だった、と先の記事は述べているのだ。
ところで東芝の一番の問題は現在の経営陣も含めた不誠実さであって、それを従業員も理解し経営陣の刷新を願っている(注)。さらに会社が現在の状況になっていても管理職の51%が風土の改善効果があったと答えている情けなさ。非管理職の役職者が一般社員と同じような回答をしているにもかかわらず、管理職は経営層の顔を伺い黒を白と言おうとしている様子が垣間見えるどうしようもないアンケート結果だ。
思い出されるのはゴム会社入社3年目の出来事。ゴム会社では年に1回、部下の書いた一年の振り返りと今後についてのアンケートを基に上司と部下の面接が行われていた。その面接で上司から、当方以外の全員がこの課を出たいと書いているが扇動者は誰かとの質問があった。小生は留学をまじかに控えていたので留学の夢を今後の欄に書いていた。「来月から留学でなかったら私も同様の意見を書いていたと思います。」と正直に上司に答えた。上司は上位職者に評判は良かったが、全員が異動希望を出したとしても不自然ではないような管理職だった。このようなはっきりと意見の言える風土がゴム会社の長所だった。
(注)ドラッカーは経営者の資質として誠実で真摯であれ、と述べている。そうでなければ、何をやってもうまくいかないという。また、自己の強みを問うことの重要性を繰り返しのべている。東芝の強みは何か?強みのある事業以外はとりあえず売却して整理すべきだろう。ゴム会社で高純度SiCの事業が立ち上がり始めたのは、米国のタイヤ会社を買収し買収額以上の資金が必要になったことがわかり大変な時だった。リストラが進められ見通しのない事業テーマはどんどん整理されていた。その中で住友金属工業とのJVを社長が承認をくださったことに感謝している。
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ゾルをミセルに用いてラテックスを重合し有機-無機複合ラテックスができた。この有機-無機複合ラテックスとゼラチンを複合化したバインダーは、ゼラチンよりも高硬度であるにもかかわらず、靱性がゼラチン単体よりも改善されていた。
すなわち硬くなたったにも関わらず割れにくいゼラチンバインダーが開発されたのだ。特許の追試で得られたコアシェルラテックスでも靱性を改善できるが、このバインダーほど高い硬度にならない。
理由は、コアシェルラテックスではシリカの周りを柔らかいラテックスが覆っているためで、開発されたバインダーではシリカが直接ゼラチンを補強しさらに架橋点としても働いているので高い硬度となる。
無機フィラーで樹脂を補強するとき、超微粒子でうまく補強すると高硬度高靱性の材料になることはすでに知られていたが、まさにそのような材料ができていたのだ。この成果は写真学会から評価されゼラチン賞を受賞した。
靭性という物性は線形破壊力学でよく研究されたが、引っ張り強度がこの靭性と弾性率の関数になるとらえ方は未だに経験論の範囲である。しかし新たなゼラチンバインダーは改善された靭性の寄与で引っ張り強度も増加した。後日PPS中間転写ベルトを事例にこの経験論について再度とりあげる。
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コアシェルラテックスの合成に失敗したコロイド溶液の中には、シリカゾルの分散状態に影響を与えずラテックスの重合だけがうまく進んだ有機-無機複合ラテックスと呼べるコロイド溶液が偶然できていた。
その合成条件の再現性は大変よくて、さらにスケールアップしたときの重合安定性も優れていた。ゾルをミセルに用いたラテックス重合というコンセプトでこのプロセスの各ステップを分析したところ、心眼で描いたとおりの微粒子に高分子活性剤が巻き付いた物質ができていた。
また、このような構造のミセルができていたので、有機-無機複合ラテックスにゼラチンを投入しても、あるいはゼラチン水溶液にこのラテックスを投入してもゼータ電位の乱れは起きなかった。その結果、コアシェルラテックスを用いなくても、シリカが全く凝集しないゼラチンバインダーを開発することができた。
数日にわたり同じようなことを書いているが、この有機-無機複合ラテックスの仕事は全く自分で実験を行わずコーチングだけで成功した事例の一つであり、思い出深い成功体験だからである。コーチングだけで技術開発がうまくいった経験をしたのは40歳を過ぎてからで、それまでは結局自分で実験を行わなければ成功できなかった。
コーチングという手法の難しさのためだが、研究開発部門では担当者の報告を聞くだけの管理者は不要だろう。日々コーチングスキルを磨き、担当者に成功体験をさせる管理者が理想である。もし実験スキルが不足している担当者の場合にはコーチングだけではだめで、自ら現場でやって見せるかコンサルタントの活用が時には必要になる。
退職前の5年間に担当した業務では、転職したばかりの担当者一名を直接指導しカオス混合技術を開発したが、コーチングが難しい場面では「やって見せる」指導が技術者育成に大切となる。
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粒子に界面活性剤を吸着させてミセルとする方法は、ゴム会社で実験した時にうまくゆかなかった。しかし、転職してコアシェルラテックスの合成条件を見ていたら、実験で失敗した条件の中には、それがうまくいっている反応もあるかもしれないという期待感が高まった。
ゴム会社で検討していたときに使用していた界面活性剤は、すべて低分子かあるいはオリゴマー程度で、高分子活性剤の検討を数種類しかしていなかった。
また、ちょうど良いタイミングで三重大学川口先生の高分子吸着に関するレオロジー研究を拝聴し考え直すことができた。過去の経験と学会の講演、そして目の前に積み上げられた失敗のレポートがうまく調和し、ゾルをミセルにする方法として、コロイド溶液に分散している微粒子それぞれに、高分子活性剤をうまく巻き付ければ良いというアイデアが浮かんだ。
自分で実験してうまく巻き付けられるかどうかは自信が無かったが、シリカゾルを用いたコアシェルラテックスの合成で失敗した実験群の中には、そのような物質ができている、と仮定すると失敗をうまく説明できる事例が多かった。
すなわち、コアシェルラテックスだけを目標に考えているとその姿は見えないが、ゾルをミセルに用いたラテックス重合というコンセプトで心眼を働かせると、粒子一個一個に高分子活性剤が巻き付いていく姿が見えてきた、ということだ。
コーチングでは心眼で見えている状態を担当者に思い浮かべてもらうために、いくつか質問を投げかけた。担当者の中には馬鹿にする人もいたが、真剣に考えてくれた担当者が一人いて、会議室から飛び出し、数分後には、シリカゾルの中でうまくラテックスを重合できたフラスコを持って飛び込んできた。それは、コアシェルラテックスの重合に失敗した実験の一つだった。
高分子材料の開発では、教科書どおりに眺めていては問題解決できない場合がある。それは科学という制約の中で考えているからで、この制約を取り除いて高分子を紐と考えたモデルで素直に現象を眺めてみると解決できる事例が技術者人生で多かった。
また、思いついたアイデアで仮に実験がうまくゆかなかったとしてもあきらめてはいけない。そのような場合には、頭の隅にでも寝かせておくことが大切である。ひらめいたアイデアをすぐに捨ててしまう習慣の人は、このアイデアを寝かせる方法を実行すると新たなアイデア創出法を体得できる。詳細は弊社へ問い合わせてください。
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ゼラチンとシリカゾル、ラテックスの3種のコロイドを混合するときに、それぞれのコロイド溶液に分散している微粒子表面のゼータ電位が乱れる現象を避けることができない。このような多成分が分散しているコロイド溶液を調製するために一成分づつのコロイド溶液を用いたときには(成分数-1)の回数で混合することになるので、あらかじめ複数の成分が安定に分散しているコロイド溶液を一度に作成して、混合回数を減らす戦略が効果的である。
ゼラチンとシリカゾル、ラテックスの三成分のコロイド溶液を混合する場合、ゼラチンラテックスとシリカという組み合わせ、あるいはシリカゾルとラテックスがあらかじめ均一に分散しているコロイド溶液にゼラチンを組み合わせる方法、ゼラチンとシリカゾルが安定に分散しているコロイド溶液へラテックスを加える方法などがある。
ゼラチンを保護コロイドとしてラテックスを重合して製造されるゼラチンラテックスでは、シリカゾルをここへ加えるだけなので混合回数を1回に減らすことができたが、シリカゾルの凝集を防げなかった。ゆえにシリカゾルとラテックスが均一に分散している状態へゼラチンを投入した時にどのようになるのか期待されたが、シリカゾルとラテックスが均一に分散している状態を作り出す手段が問題となった。
この解決策としてシリカゾルでミセルを形成させてラテックスを重合する戦略が有効である。ただ、当時このアイデアで成功した人は世界で誰もいなかった。しかし、ゴム会社でゾルゲル法を検討していたときにこのアイデアが浮かび少し手掛かりが得られていた。その手掛かりとは粒子に界面活性剤を吸着させてミセルを形成する方法である。
ただゴム会社で実験したときには増粘したので、あまり筋の良いアイデアではないと思っていた。また、ゾルへ高分子を吸着させたときのレオロジーに関する川口先生の御研究を学会で拝聴したときにもこのアイデアの可能性はありそうだが、講演内容から推定するとゾル粒子と高分子の組み合わせを探索するのに時間がかかるだけでなく、試行錯誤で探索した場合に無限ループになるような予感がした。
しかし、写真会社へ転職し、ライバル会社の技術に抵触しない重合条件の探索実験を見ていて、あわよくばという気持ちが湧いてきた。それが先日この欄で紹介したホワイトボードを用いたコーチングの背景である。
科学は論理的ゆえに単なる思いつきのアイデアに対して、それを否定する時に強力な説得力をもつ。川口先生のご発表をうかがったときには自分のアイデアを一旦は否定的にとらえた。しかしあきらめかけたアイデアであったが、大事に頭の隅に寝かしておいた。頭の中に寝かしている間に熟成されて、コーチングで役立った。ホワイトボードの前で行ったコーチングでは、当方の発言に対して、否定証明の嵐が吹いたからである。
ただし自分でも一度は否定していた内容なので、嵐に立ち向かうことは容易だった。ある仮説なりアイデアについて科学的に否定証明を行うことは容易である。これゆえゴム会社では科学でモノを造ることはできない、と言われたりした。また、それゆえにできることについては、すなわち肯定的に物事を進めようとするときには、科学的ではなく直観に訴えるやり方が推奨された。いわゆるKKDによるモノづくりである。
開発現場で隘路に入ったときには、科学の制約を取り除くコーチングの進め方が大切である。科学は真理を導き出すには有効な方法だが、現象から機能を取り出さなければいけない技術開発では、現象をどのようにとらえるかが重要で、科学にとらわれない自由な発想で現象をとらえることができたときに新しい技術が生み出される。このことがよくわかっていない人が多い。科学にとらわれない自由な発想で現象をとらえるやりかた(問題解決法)について詳しくは弊社へ問い合わせていただきたい。アイデアを寝かせるという方法は一つの良い手段である。
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ゼラチンとシリカゾル、ラテックスの3種のコロイドを混合するときに、それぞれのコロイド溶液に分散している微粒子表面のゼータ電位が乱れる現象を避けることができない。
すなわち何らかの複数のコロイド溶液を混合するときに、この粒子表面のゼータ電位の乱れから偶然クラスターが生成する可能性が高くなる。ひどい時には沈殿が生じたりする場合もある。
だからコロイド溶液を複数混合するときに、混合順序が問題になったりする。混合したときに沈殿が生じない条件を科学的に求める方法もないわけではないが、このような場合には試行錯誤で肉体頼りに体育会系的実験を行ったほうが早く問題解決できる。
そしてうまくいった条件についてゼータ電位測定などを行い、理論を後付けで行ういわゆる「せこい方法」が効率的である。世の中には「せこい方法」を毛嫌いする人もいるが、これでノーベル賞をとった人もいるので侮らないほうが良い。
特に高分子材料の開発では、清く正しく科学的に開発を進めるという人は、なかなか成果を出せないと思ったほうが良い。企業の研究開発では、科学を重視しすぎると組織の足を引っ張る場合もある。
適当に実験を行い成果を出してから、その成果の考察を科学的に行い、全体を科学的に見せるような開発手法が効率的である。写真会社ではこのような手法で開発を進め、学会発表にも力を割くことができた。
シリカゾルをミセルとして用い、ラテックスを重合する手法は、昨日まで書いたようにホワイトボードに書いた漫画がきっかけで誕生している。そして技術が出来上がってから三重大学川口先生のご指導を仰ぎながら科学的に新発明の手法について解析を行っている。解析結果でもシリカゾルがミセルとして機能しているという結果が出たので、改めて驚いた。
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硬いシリカゾルをコアに柔らかいラテックスでその周囲を覆った、写真バインダー用コアシェルラテックスは、ゼラチンの高靱性化と高弾性率化を狙って開発された材料である。コアシェルラテックスの合成技術そのものは優れた発明だが、それでもゼラチンの力学物性を十分に改善できていなかった。特許の追試を行ったところ現像処理で硬度がまだ不十分なため高速な現像処理プロセスで使用すると擦り傷がつきやすかった。
ところで、ゼラチンにシリカとラテックスを混合する従来のプロセスでは、シリカの凝集が生じ、それが1μmまで大きなクラスターとなっている問題があった。これは、コアシェルラテックスとの比較で電子顕微鏡写真を「そのつもりで」撮影したことにより見つかった。
余談になるが、写真が真実を写しているかどうかは巷の議論の種となり、TVのCMにも使われたりした。例えば、「美しい人はより美しく、そうでない人はそれなりに撮れます」という、写真フィルムの性能の高さを訴えたCMが20年ほど前にあった。
感光体の粒状性が著しく進歩し、アナログのカラー写真が現在のデジタル写真に匹敵するぐらいの美しさになった時代である。すなわち写真で描かれている画像情報は、撮影者の技量だけでなく感材の性能やその他にも影響を受ける。
他の研究者が撮影した高分子材料の高次構造写真を見るときに気をつけなければいけないのは、研究者がその写真を撮影した目的である。例えばラテックスで形成された薄膜について、そのままSEM写真をとれば、平滑な表面の写真が得られる。しかし、ラテックスに染色されやすい官能基が存在しているならばOs染色などの技法でラテックス粒子がくっつきあっている写真を撮影することが可能である。
また、混練で得られたコンパウンドの高次構造写真についても同様で、海島構造になっているはずの写真で島が見えない場合がある。このような時に、期待した高次構造となるよう染色操作も含め写真撮影の工夫をする。
すなわち、教科書などに掲載されている写真の多くは、研究者が期待した構造となるように処理を行い写真撮影をしている。これは高次構造について仮説を立て操作を行うのでねつ造とは異なるが写真を見るときに注意する必要がある。
話を戻すが、コアシェルラテックスの追試実験で得られた薄膜では、きれいにシリカのナノ粒子が分散している写真が得られた。この写真を基準に従来技術で作成されたゼラチンバインダーの写真を眺めてみると、ゼラチンバインダーの中でシリカのクラスターが生成しているように見えた。そこで、バインダーの断面について多数の視野を撮影し、それらをその気で観察したところ1μm規模のクラスターができている、と考えてもよいとの結論に至った。
その気で写真を眺めた考察から、高い靭性のバインダーを製造するには、ゼラチン中でラテックスやシリカが絶対にクラスターを形成しない条件や状態を創りだすプロセスを探せばよいというヒントが得られた。
見合い写真ではアバタも笑窪に見えるような気持で見なければだめだ、とよく説教されたが、高分子の高次構造写真も同様で、問題解決の答えが必ずそこにあると信じて眺め続けると不思議にも悩んでいる問題の答えが浮き上がって見えてくることがある。写真が真実を写しているかどうかという議論は大切だが、その気で気合を入れて写真を見るという姿勢は、高分子の高次構造と物性を考察するときにもっと大切である。
例えそれが偏見で仮説から期待される構造に見えたとしても、見えている事実が存在する。技術者ならばその見えている事実を大切にして機能を設計し創り上げる努力をしなければいけない。このような努力を続けた時に新しい技術が誕生する。高靭性バインダー以外にも酸化スズゾルを用いた帯電防止技術や発がん性の懸念がある物質を使用しない接着技術、中間転写ベルトの開発などは電子顕微鏡写真からアイデアが生まれている。
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高分子材料の力学物性を改良するときに、その高次構造を漫画で表現してみるとアイデアを出しやすい。この時、500から800nm以上のサイズは靱性に影響を与える因子になる。
逆に100nm未満の構造は靱性に影響を与えない。界面がうまくデザインされれば、靱性向上効果が現れることもある。また、クラスターが形成されたときも同様に考えるとよい。クラスターのサイズがどのくらいまで大きくなるのかということに注意する。大きくなればやはり靱性に影響を与える。
ゼラチンの改良では、この漫画がきっかけとなり開発が一気に進んだ。すなわち、シリカのナノ粒子とラテックスが凝集することなく分散している様子をホワイトボードに書いたところ、一人の担当者が、コアシェルラテックスの合成実験で失敗した時の材料が同じような状態になっているかもしれない、と発言したからだ。
この発言に対して、当方は、それが正解だ、すぐにその材料で研究開発を進めろ、と指示した。すると、一週間ほどでホワイトボードに描いた漫画と同じゼラチンバインダーができた。驚くべきことにこのバインダーは、何も添加されていないゼラチンバインダーよりも靱性が高かった。
コアシェルラテックス開発過程の失敗した実験がきっかけとなり、新たな技術が生まれたのだが、これはコーチングの成果であり、当方がコーチングをしなければ絶対に誕生しなかった技術だ。写真会社で感材用高分子技術開発を指導していた時に、このような当方がそこにいなければ生まれなかった発明で多くの成果を出している。
面白いのは当方が所属した部門は高分子技術開発を担当していた部門で、メンバーの大半は当方よりも高分子技術に詳しかった。しかし、皆教科書どおりの考え方で仕事を進めていた。当時は高分子物理が発展途上であり、教科書よりも学会で生のデータに接することの方が重要な時代だった。
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昨日行われた「卓球・全日本選手権」(22日、東京体育館)で女子シングルス決勝が行われ、前回準優勝の平野美宇(16)=エリートアカデミー=は、3連覇中の石川佳純(23)=全農=を4-2で破り初優勝した。16歳9カ月での優勝は、史上最年少記録となった。
試合後のインタビューで、平野選手は感激の涙によりしばらく声にならず、「リオ(五輪)に出られなくてすごく悔しかったので、絶対優勝しようと思っていた。優勝できてうれしいです」と絞り出すように喜びを語っている。
さらに「昨年は決勝で敗れてすごく悔しかったので、優勝したかった。石川さんは何連覇もしてずっと倒されてなかった。その選手に勝ったことは意味がある」と涙を流した。この大会の優勝で世界選手権(5~6月、デュッセルドルフ)の代表切符もつかみ、「中国人を倒して優勝したい」との力強い言葉も聞かれた。
平野選手には同年代に伊藤美誠選手というライバルがいて、そのライバルがリオに参加したときに平野選手は補欠だった。オリンピックに出られなかった悔しさが昨日の結果に結びついたと本人の言葉にもあったが、これは悔しさなり挫折をバネに成長した典型的な例だろう。
誰の人生にも悔しい経験や挫折はある。努力を一生懸命している人であればなおさらである。しかし悔しさや挫折を成功のエネルギーに向け、すぐに実現することも難しいので七転び八起などということわざもある。
平野選手のように短期に結果を出すためには、ゴール設定とそれを達成するための計画が大切である。もっとも悔しさや挫折のエネルギーの大きさは、それを体験したときにどこまでのゴールを設定していたかに依存する。
また、成長にはゴール設定すなわち具体的な目標が必要で、それがより具体的であれば失敗のあとに成功のための反省や努力の工夫をしやすい。平野選手はこの点について、「攻めの卓球に徹する練習を続けた」と述べている。16歳の選手から自己実現努力のコツをあらためて学んだような感動があった。
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