表題のCMが話題になっている。表現が低俗で問題だ、とTVで放映されたので確認のために見てみたが、思わせぶりの表現がいくつかあるが、当方の印象ではいやらしくはない。思わせぶりの表現をいやらしいかどうかという判断は、これを見た人が自らの経験を振り返りどこまで想像するのか、という問題だろう。
壇蜜には特に関心が無い当方はこのCMの騒がれる問題がどこにあるのか思わず考えてしまった。すると事前に特定の情報を持っていた人が見たとしたら、その特定の情報に基づく妄想を抱くかもしれないが、それは妄想を抱く人が特定の情報を持っているからであり、このCMが直接いやらしい表現をしているのではない。
TVで問題として紹介していた亀との対話でも彼に対して彼女が何かしているわけではなく、浦島太郎と同じように亀に乗って涼宮城に行きたいと言っているだけなのだ。このシーンであらぬことを考えた人は、頭の中を掃除するとともに、もっと良い方向へイメージを膨らますような習慣にした方がよい。当方はこのシーンを見て女浦島太郎のファンタジーを思い描いた。
しかし亀という言葉から他の事象を想像し、さらにそこで展開される姿を想像したならば、いやらしいのかもしれない。しかし、他の事象を描く習慣が無ければ、あるいはその情報を持ち合わせていなければ、かわいい亀とおばさんの会話である。仮に作り手の意図がいやらしい想像をしていたとしても、受け手にその想像をするための下地が無ければ伝わらない。
こうした問題は、研究開発で遭遇する現象を眺めたときに、自然が備えている階層をどこまで何を研究者が想像するのか、という問題とよく似ている。例えば先日から連載している界面活性剤の事例では、当方がホワイトボードに書いたモデル図から新技術が生まれているが、同じモデル図を8人が見ていて、ゾルをミセルに用いたラテックス重合のイメージまで展開できたのはたった一人だけであった。
もっとも当方はそのイメージを伝えたくて、ゾルをミセルに見立てた思わせぶりな、それこそ歪曲したモデル図を描いた。しかし大半の人は、科学という長年学んだ知識から軽蔑的にその図を眺めていた。たった一人、技術の視点に頭を切り替えて建設的に見てくれた人物がすぐに実験を行い、新技術を成功させた。
目の前の現象を見てそこから新しい機能を思い描くことができるかどうかは、イメージをどのように展開する習慣を身に着けているかに依存する。これは日々のOJTで訓練する必要がある。もし訓練を希望される方があれば弊社へ問い合わせていただきたい。
涼宮城で卑猥な連想をされた人は、日々の習慣を改めたほうがよい。例えば幼稚園児にこのCMを見せてもおそらくなぜ浦島太郎でないのか、という疑問と、お姉さんのキスで赤くなる銅像を笑うぐらいだろう。これは技術開発の経験のないアカデミアの研究者が現象からうまく機能を取り出せないことと似ている。
言葉は悪いが、技術者は現象から見出した妄想をもとに新技術を創り出している。壇蜜を単なるかわいいおばさんとみるか、妙な妄想で眺めるかは、その人の人格のようなものである。涼宮城を低俗とことさら騒ぐのは、妄想で機能を取り出してきた技術者の立場でいかがなものかと思う。
常に特定の自然現象からのシグナルに対してお決まりの科学的妄想を行い否定証明をするのではなく、モノづくりが出来る常に健全な妄想ができるよう訓練する必要がある。CMの放映中断を申し入れた議員団や女性市長が、あの映像から特定の妄想が描かれることを常識と考えているとしたら、日本人は皆作者同様の妄想をすると言っているようなもので国民を侮辱している。
あのCMで宮城ファンタジーを妄想できる人もいるのだ。女性市長は、むしろその方向で妄想を膨らませてほしいとか、健全な視点でCMを眺めてほしいといった談話をすべきだったと思う。誰もが皆いやらしい想像をしているわけではないので、女性市長の談話は壇蜜をいやらしく眺めることを容認した差別発言ともとれる。
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ラテックスを重合するときに界面活性剤が使用されるが、その添加量はCMCから推定される、と昨日書いた。これは、界面活性剤の科学の体系を学んでいると不思議なことではなく当たり前のことである。
ところが、CMCよりもはるかに多く界面活性剤を入れなければうまくラテックスを合成できない場合が存在する。別の表現をすれば、科学の体系で決まってくる界面活性剤の量では安定にラテックスを合成できないので、技術開発をあきらめてしまう場合が存在する。
シリカゾルをミセルに用いてラテックスを重合する技術を開発したときの出来事である。この技術は20年前の新技術で写真学会から賞を頂いている。すでにこの活動報告でこの技術の誕生の背景を紹介しているが、否定証明により危うく没になりかけた技術である。
この技術はコアシェルラテックスの開発過程で合成に失敗した技術から生まれたのだが、科学を忘れるように、という指示を信じてくれた担当者の力で生み出された成果である。まさに科学よりも当方の言葉を信じた者が救われた例の一つである。
コアシェルラテックスの開発では、ライバルの多数の特許群から逃れるために、特許に書かれていない素材を中心に検討していた。すなわち明らかに科学的に構築されたライバルの技術よりも不利な条件で技術を完成しようと担当者は努力していた。
このような状況で、科学的に開発を進めていては難しくなりゴールにたどり着けない場合もでてくる。いったん科学を忘れて素直に現象を眺めることが大切である。すると科学の体系とは異なる視点で新しい機能が見えてくるものだ。これは訓練で誰でもできるようになる。そしてむしろ高等教育を受けていない方が素直にこの行動をとることが可能だ。(続く)
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科学の世界観では、一つの真理は重要なことで、真理が一つゆえに科学の論理展開による推論が意味を持ってくる。しかし、現実の自然現象では、科学で明らかにされたはずの事象でも技術開発でそこで働く機能を用いるときには科学を疑う、あるいは科学の成果を忘れたほうがよい場合が存在する。
例えば、混合や分散の技術では、科学の体系通りには成立していない、あるいは科学のそれぞれの分野で微妙に体系が異なっている事象を扱う。
水に油を分散するときに、界面活性剤を用いることは常識である。そして界面活性剤は親水基と疎水基の構造を持ち、界面活性剤を水に分散すると水の中に疎水場を形成し、この中に油を包含することで安定に油を水中に分散することが可能となる。
界面活性剤の教科書を読むとこのような説明がなされている。さらに、親水基と疎水基を持つ分子でミセルを形成したり、臨界ミセル濃度(CMC)などの説明が続く。この臨界ミセル濃度については、その説明のためにグラフが使われ、ほぼ1%前後と理解できる。
実際にラテックスを合成するときには、このCMC近辺の量で界面活性剤が添加される。また、洗濯の時にはCMC以上の界面活性剤を添加しても汚れの落ち方は変わらない、という生活の知恵も存在する。
直感的に界面活性剤の体系は理解しやすいようにできている。しかし、この体系で考えていると新しい技術アイデアを見落としたりするから大変である。以前にも述べたが科学が新技術のアイデアが生まれるのを邪魔するのである。(続く)
(注)科学の体系に忠実に従い研究され否定証明された電気粘性流体の増粘問題を試行錯誤でたった一晩で解決した事例を以前紹介しているので、今回はダイナフローという特異な界面活性剤を用いて問題解決した事例を紹介する。
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昨日のレンズのように、趣味の世界あるいは人間の感性でその評価が決まる商品では、科学の真理が必ずしも正解とはならない。すなわち人間の営みとしての技術により正解を求めなければならない世界だ。
いまやレンズ設計はコンピューターシミュレーションで光学性能を造りこむことが可能と言われている。ゆえにタムロンやシグマ、トキナーなどのサードパーティーから安価で性能の優れた互換レンズが出てきている。
韓国製サムヤンは新参のレンズメーカーでそこそこの高性能であるが、最近の日本のサードパーティーメーカー製レンズのボケ味に特徴を持たせてきているレンズに比較すると明らかに商品性能は劣る。そしてカメラ関係の雑誌ではこのあたりの新製品に関する商品テストが格好の記事ネタになっている。
あこがれのカールツアイスレンズは、コシナーで製造されているので、日本はレンズ大国である。そしてこのカールツアイスレンズさえも科学の正解を採用していないいわゆる味のあるレンズと雑誌記事にある。
写真が二次元に描かれた絵に過ぎないのに立体的に見え、その絵に表現をもたらせるのに必要なレンズ性能の一つはボケであるが、これは科学的に正解を導き出すことができない、と言われている。
レンズは焦点が合ったときの性能で設計されるからだ。よく知られているように光の波長によりガラスの屈折は異なり、すべての色を一点で合焦させることは難しい。非球面レンズなどの技術が開発されている理由だが、この合焦させたときの性能でレンズを自由に設計することは、科学的にほぼ可能だ。
それにもかかわらず、カールツアイスも含めた日本のレンズメーカーの商品は合焦時の性能は最高であると同時に各社差別化され、個性豊かなレンズが販売されている。
焦点がぴったり合っていると思わせるカリカリの写りのためプロの報道カメラマンに好まれるニコン(注)が必ずしも科学的に正解のレンズを販売しているのではなく、ましてや世界最高のレンズと枕詞がつけられたりするカールツアイスレンズが価格通りの性能のレンズではないのだ。
カールツアイスレンズが高いのはあの値段でも購入する人がいるからだ。ペンタックスは昔からそのレンズ性能に特徴があり、ポートレートを撮影すると独特の写真が撮れる。気に入ればカールツアイスレンズなどばかばかしくて買えない。レンズは科学だけで正解を導き出せない世界の一例である。
(注)最近ニコンは独自コンセプトの技術でボケ味をふわふわトロトロで何とも言えない味わいのレンズを2本出してきた。その写りは、雑誌で作例を比較してもわかる個性である。ただしカールツアイス並みの値段でうんざりしている。
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若いころの愛用のカメラはペンタックスMEとMEスーパーである。後者は10年近く使い続けた。ゴム会社に入社し結婚するまで使い続けたわけだが、結婚を機会にペンタックスSF-Xに買い替えた。ペンタックス初のボディー内自動焦点カメラだが重かった。
ペンタックスを使い続けた理由は、交換レンズの価格が安かったからである。また、安いだけでなく、写りも立体的でそこそこ性能が高かった。写真は三次元を二次元画像として記録するので、レンズにより立体感が決定される。
最近ボケ描写が注目され、各社からボケを特に美しくしたレンズの新製品が出てきたが、ペンタックスのレンズは昔からボケに特徴があった。今のような美しいボケというよりも階調の細かくなだらかなボケで、ややにじみもあった。これにより画像が立体的に見える。
ニコンのレンズのように、レンズ特性の数値がずば抜けてよいわけではなかったが、銀塩写真の時代には、十分な性能だった。ニコンとペンタックスの一眼レフカメラを使うようになって、このレンズの個性に興味を持つようになった。
ペンタックスの古いレンズには、とんでもないレンズが存在し、このレンズで撮影するとフィルターを付けなくてもなぜか光芒がきれいに映る。ただし、このレンズは絞り開放で用いるとやたらうるさいボケになり、明るいレンズであるにもかかわらず、絞り開放では使い物にならないレンズだ。
しかし3段ほど絞り、接近して撮影されたポートレート写真には、他のレンズでは味わえない独特の味が出てくる。さらに絞ると、あたかもニコンレンズのようなカリカリの描写になる。
どうしてこのようなレンズが開発されたのか知らないが、一応当時の高級レンズの一つスターレンズである。おそらく今のレンズ評価の視点ではできそこないの評価になるのかもしれないが、デジタル一眼レフにも取り付け、時々その画像を楽しんでいる。
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当方の子供の頃はモノクロ写真が中心で、記念写真がカラー写真になったのは、中学生のころからである。いわゆるオリンピックをカラーで見ましょう、とTVのカラー化が進むとともに、銀塩写真もカラーフィルムが普及し始めた。
写真が趣味の父親が当方を被写体に写真をよくとっていたが、カラーフィルムは値段が高いために、カラーが普及しはじめても、小学生の頃の写真はすべてモノクロである。
カラーが中心になったのはコニカ一眼レフカメラが我が家のメインカメラになってからである。当時は、壁掛けテレビが夢のテレビとして語られることがあってもカラーフィルムが使われなくなることなど考えもしなかった。ゴム会社から転職したときもデジタル化が始まった時代であるが、カラーフィルムの情報量をみると、これが使われなくなる時代など退職後と思っていた。
しかし、あっけなくフィルムカメラの時代は終わり、いまやデジタルカメラの時代である。そのデジタルカメラも性能向上が著しく、一眼レフもミラーレスカメラに置き換わりそうな勢いである。コンデジのミッドレンジクラスまではカメラ付き携帯にとって代わられ、カメラ業界は大変な戦国時代となった。
いつかはニコン、と思いつつも、ニコンカメラは高かったので、学生時代に買ったカメラはペンタックスME。以来ずっとペンタックスを愛用してきたが、デジタルカメラの時代になり、最初に購入したデジイチはニコンD2H。ペンタックスのデジイチの完成度が低かったので思い切ってニコンへシステムを入れ替えるつもりだった。
しかし、ニコン独特のカリッとした写りに戸惑った。フィルムカメラのF100も同時に使用してみたが、フィルムもやはりカリッとした描写である。ポートレートはペンタックスレンズの描写を気に入っていたので、結局ペンタックスD10、D20、D7と買い続けることになり、技術革新の波の中で出費が嵩んだ。
今ソニーのミラーレス一眼が注目を集めている。ソニーのカメラ技術の半分は、旧ミノルタの技術陣である。旧ミノルタは自動焦点一眼レフのパイオニアである。また、その昔木陰で水着に着替えるCMがヒットしたように、ポートレート描写には、いわゆるボケ描写には定評のあるレンズの会社である。一眼レフカメラの首位が入れ替わるかもしれない。
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夏の風物詩の一つにお化けがある。未だお岩さんのようなお化けには遭遇したことはないが、信じられないお化けのような現象には多数出くわした経験があり、それに何度も助けられた。
高純度SiCの開発では、無機材質研究所で納入されたばかりの新品の電気炉を使える幸運で必ず成功させようと意気込んだ。ところが研究所の先生にすべて運転条件を設定していただき実験を開始したところ、突然電気炉が暴走し瞬間的に温度が1800℃を超えた。慌てて緊急停止を押し、担当の先生に電話をかけた。
一方でサンプルがもったいないから手動で運転できないか考えた。プログラムコントローラーを見ると1600℃保持に入っていたので慌ててスイッチを入れたところ、うまくプログラム通り動き出した。
翌日サンプルを取り出したら、真っ黄色の高純度SiC微粉ができていて驚いた。電気炉の暴走原因は不明で単なるPIDの問題ではないか、とも言われたが現象を再現できない。一番不思議なのは、その時の温度パターンが微粉を作るためには一番良かったことだ。これは今でも不思議な現象と思っている。
もう一つ、電気粘性流体の開発を手伝っていた時に、傾斜組成の粉体を偶然開発できた話。詳細は省略するが、できたらいいね、と同僚と話していたら一回目の実験でベストの粉体ができた。電子顕微鏡で組織観察しても傾斜組成になっている。なによりも驚いたのは、その粉体を用いたら応答性がよく効果の大きい電気粘性流体ができたことだ。
その後、FDが壊れたのだが、こちらはお化けではなく明らかに人為的な出来事だった。お化けであってほしかった事件である。お化けはこの世に未練があって出てくるものだと教えられたが、人間の物事に対する執着心は、まったくないよりもあったほうが面白い人生になると思っている。ただし執着心を恨みに変えていてはみじめで、執着心を前向きに転化する努力が重要である。
当方は高純度SiC技術に対する執着心ゆえに写真会社で同様の一発を狙ってきた。しかし、その一発は全員から祝福されるような仕事を狙っていたが、これが結構難しい。すなわち組織で仕事を行うときに組織が必ずしもイノベーションを望んでいるとは限らないからだ。
しかし単身赴任して担当したPPS転写ベルトでは、少なくとも豊川周辺の事業所に勤務していた全員がその成功を願っていた。外部からコンパウンドを買って開発を進めていた仕事を商流の形式を維持したまま成功させたのだが、これは組織の都合で内製化できない状況だったからだ。
この仕事では子会社の敷地を借りてコンパウンド工場を立ち上げ、子会社からコンパウンドを購入する商流を作り上げた。おそらくそれまでコンパウンドを納入してきた会社にとって突然現れたお化けのようなライバルに見えたかもしれない。基盤技術があったとしてもコンパウンド工場が立ち上がるまでは一年以上かかる。ちなみに国内の大型の二軸混練機は発注から納入まで一年程度かかる。それが半年以下で工場がたちあがったのだ。
この仕事では、初期にお岩さんより凄いお化けが出た。統合したカメラ会社の倉庫にあった小型二軸混練機でコンパウンドを製造し、押出成形を行ったところ、ぶつぶつがいっぱいできたベルトが出てきた。実はこのお化けのようなベルトが最初に出てきてくれたおかげでコンパウンドが押出成形に与える影響を学ぶことができた。運がよかった。
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二軸混練プロセスでカオス混合を初めて実用化したプラントを開発したときのメンバーは、朝昼晩とマイカーの中でパイプをふかす習慣がありサングラスをかけて仕事をするちょび髭の退職まじかのオヤジと転職したばかりの若者、そして当方の3人である。グループの運営その他を部下のマネージャー二人に任せて、半年間専念し、立ち上げた。
実は開発を始めた時のメンバーは、エリートに見えそうな優秀なメンバー二人だったが、一か月もしないうちにメンバーを入れ替えた。転職したばかりの若者にはかわいそうな仕事だったが、右も左も分かっていなかったので、グループリーダーの当方についてくる以外に道はなく、当方は職位のパワーを十分に発揮できた。
退職まじかのオヤジはグループ内で仕事をよくさぼっていたが、腕は確かだったので運を天に任せるつもりで引き抜いた(?)。このオヤジは案の定最初の一か月近くは、指示しなければ仕事をしないだけでなく、若者に自分の仕事をやらせていた。しかし、その様子を見ていて気がついたのは、さぼっているのではなく指導しているようにも見える。
そこである日このオヤジに若者の指導を任せるからと言って、開発メニューの全貌を説明したところ、「金もなくできるかどうかわからん仕事をよく進めますな」と言った。少しどきりとしたが、「だから土日は東京でK社と生産用混練機本体の開発を進めるが、これは予算を確保するまで秘密だ」と説明したところ、「よし、倉地さんを信じましょ」と言ってくれた。翌日からオヤジのサングラスの下の表情が変わった。
開発は半年しかない短期決戦で、さらに基盤技術も無い混練プラントを格安の価格にするためすべて手作りに近い立ち上げ作業だった。メンバー二人の頼りにしていたのは、当方がゴム会社で12年勤務したキャリアだった。当方はその大半をセラミックス技術開発の仕事をし、高分子の知識は写真会社で独学で身に着けただけだが、それを隠した。一流のゴム会社の看板の凄さを体感した開発だった。仕事は順調に進み、一億円もかけずに無事プラントは立ち上がった。
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高分子材料では教科書を読んでみてもよくわからない現象に頻繁に遭遇する。面白いのは、よくわからない現象なのにわかっているように話す人がいることだ。否定証明についてこの欄で以前紹介しているが、否定証明を得意としている人も同様である。どうして簡単にできないと否定できるのか不思議に思うことがある。
確かに目の前の現象を見ている限り出来そうもないことはよくある。諦めて他の手段に移ったほうがよい時には、当方でも潔く他の手段を検討する。しかし現象は出来そうもないように見えるが、他の現象との比較でできてもよさそうな時には、暇を見つけては再度チャレンジすることが時々ある。
昔熊本大学上出先生とこのようなお話をして意気投合したことがある。上出先生によればTACの良溶媒はアセトンであるが皆この話を信じないという。実際にTACをアセトンで溶解しようとしてもうまく溶けない。しかし圧力をかけてやると簡単に溶ける。そして一度溶解すると安定である。
これを実際に体験すると確かに上出先生の言われていることは正しいと納得できる。しかし、普通にただアセトンに分散し攪拌しただけでは全然溶解しない。
話は変わるが、同じPSでも一般のPSとSPSでは接着性が全く異なる。PSに簡単に接着したラテックス薄膜をSPSにくっつけようとしてもうまくゆかない。これを体験すると結晶化度の高い高分子は接着が難しいという経験知が身につく。
PPSの中間転写ベルトを担当した時に、端部にガイドテープを接着する話題が出た。PIベルトに用いていた接着剤ではうまくくっつかないという。そこでいろいろ試してきたがよいものがみつからないという。しかし、当方が開発したPPSベルトは6ナイロンが相溶したPPSなのでアモルファス相が多いはずで、接着しやすいと思われた。当方が過去に検討された接着剤を塗ってみたところ、うまく接着した。
そこで、当方の開発したPPSでは非晶質相が多いので接着には有利だ、と担当者に説明し再挑戦を促したところ、やはりくっつかない、という。当方が試みた接着剤と同じである。ただ異なるのは接着剤の塗布の方法だ。ここはノウハウになるので詳しく書けないが、当方がやった方法を伝授したところ、やはりうまく接着した。高分子材料ではこのような話がよくある。大抵はノウハウになっているので書きにくい。
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自動車の未来について、二年前のモーターショーでは水素を燃料とする燃料電池車が本命のように展示されていた。しかし昨今の状況を見ていると燃料電池車が必ずしも本命ではなさそうだ。ただ電池というキーワードだけは確実で、すでにEUでは30年後にガソリンエンジン車を禁止すると言い出した国も現れている。
昨日未来を予測するのが難しいようなことを書いたが、電池というキーワードが確定しているので電池を動力のエネルギーとして用いるときに必ず必要な周辺機器に着目すればかなり確度の高い未来予測をすることができる。
自動車の安全運転とAIとの関係においてもやはり未来予測は易しいだろう。さらにレシプロエンジンが無くなれば車のデザインも大きく変わる。また動力がモーターになるので車の設計も変わる。
このように考えていくと、自動車の未来技術の概要を描くことができ、それをもとに今研究開発に力を入れなければいけない分野が見えてくる。そしてドラッカーが言っていたように今起きている変化を整理すれば具体的なテーマが見えてくる。
例えば高分子材料分野では、PPSというエンジニアリングプラスチックの市場が急成長している。例えば東レは韓国工場を稼働させ、中国のローカル企業のリニアタイプPPS合成工場も立ち上がった。
ところがこのPPSという材料は、結晶性樹脂で脆い材料だ。おまけに射出成型をすれば、ウェルドの問題が出やすい。また表面状態が悪い成形体になるなど問題が多い。このPPSの問題を解決でき、PPSの物性を損なわない添加剤は開発テーマになり、いくつかは特許が公開されているが、満足な添加剤が無い。最近弊社では従来にない画期的な添加剤を開発し、特許出願を行った。もしご興味のある方は問い合わせていただきたい。
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