昨日の続きで、フェノール樹脂天井材の開発について。
フェノール樹脂天井材の開発は、難燃性評価用の炎から逃げるように膨らみ合格した可燃の硬質ポリウレタン発泡体に置き換わる商品として企画された。国内で多発した火災の反省から評価法が見直され、難燃性の規格レベルも高くなり、ポリウレタンではゴール達成が難しいので、フェノール樹脂が選ばれた。しかし、フェノール樹脂でも発泡体になると難燃性能が著しく低下するので新しい技術が要求され、無機高分子で変性する技術を提案した。
最初に検討したのは、ケイ酸ソーダから抽出したケイ酸ポリマーの変性効果である。これは当時発表されたばかりの研究成果があり、形式知により良い結果が出ることが見えていた。すなわち、可燃性の有機成分の一部を無機成分で置換すれば、単位重量当たりの発熱量は必ず少なくなる。発熱量が抑制された結果、不完全燃焼となり炭化促進されるという仮説があった。また、無機成分として用いるケイ酸ポリマーの抽出方法もセメントの分析技術として公開されていた。
この実験結果は仮説通りになり、無機成分が多いほど難燃効果が高かった。また、フェノール樹脂そのものが炭化しやすい樹脂だったので、ケイ酸ポリマーを増加すれば燃焼後も構造材としても使用可能なレベルの材料ができた。しかし、問題となったのはTHFやジオキサンを使用してケイ酸ソーダからケイ酸ポリマーを抽出するプロセスである。
作業環境に悪い有機溶媒を使用するだけでなく、抽出過程も考慮すると、かなりのコストアップになりそうだった。そこで当時半導体用途で市場に出回り始めたポリエチルシリケートに着目した。この化合物は、テトラエチルシリケートを加水分解し、重合させた液状のケイ酸ポリマーの重合体である。タンクローリーで購入すればkgあたり800円という難燃剤として捉えると安価な価格であった。
しかし、実験を始めてすぐに挫折した。フェノール樹脂と混合するとすぐに二相に分離するのである。また、混合攪拌し二相に分離する前にフェノール樹脂を硬化させようと酸触媒を増加させると、ポリエチルシリケートが加水分解し、シリカとして沈殿し、その形態でフェノール樹脂に分散して狙った効果が得られないのだ。
仮説から期待された実験結果は得られなかったが、この時思わぬ発見をした。超微粒子が分散したフェノール樹脂の脆性が著しく向上するという複合材料の形式知どおりの材料が得られただけでなく、燃焼試験後の炭化したサンプルの靱性も向上しており、難燃効果は小さかったが、燃焼前と燃焼後の力学物性改良技術として使える成果だった。
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現在でもゴム会社で続いている異色の半導体事業の心臓部の技術である高純度SiCの合成技術は、形式知よりも実践知や暗黙知の占める割合の高い技術だ。会社を創業してから外国からの問い合わせがあったり、最近は国内のメーカーからこの技術に関係した特許出願があったりと少しブームの兆しがあるように思われる。
高純度SiCの注目されている本命のマーケットはパワートランジスタの領域で、ハイブリッド車や電気自動車に必要なインバーターの重要部品である。すでに市場が立ち上がり始め、川上では6インチウェハーの生産が開始され、川下では高級オーディオアンプにも普及し始めた。
オーディオアンプへの普及は、高純度SiCの開発に成功した時に一番最初に思いついた分野である。1980年初めにすでに高級オーディオ市場ができつつあり、パワートランジスタのニーズが見えていたので期待した。
また、ゴム会社の基盤技術として音や振動分野を制御する技術開発が活発に行われていた時代であり、音の見える化技術やその評価技術を用いた新幹線の騒音対策壁デルタの発明などオーディオ市場につながりそうな気運が社内にあった。また、その技術の担当者の一人は定年退職後オーディオ専門店を始めている。
パワートランジスタへの夢を育てる環境はあったが、実際にその夢を会社へ提案するきっかけは、既にこの活動報告に書いたように、社名からタイヤを取り除くCIの導入時に行われた創業50周年記念論文の募集である。
この記念論文に応募する時、フェノール樹脂天井材の開発を担当していて、フェノール樹脂へ水ガラスから抽出したケイ酸ポリマーを相溶させたり、その技術の発展形としてポリエチルシリケートの相溶を検討したりしていた。この時は、科学的方法こそ技術開発の王道という時代で、形式知100%のアプローチだった。
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高分子に微粒子を分散するために、その表面を修飾する方法はよく用いられる。カップリング剤や低分子配位子が使用される場合が多い。しかし困るのはその副作用である。
化学修飾された微粒子と高分子の組み合わせによっては、混練プロセスで微粒子から化学修飾した分子がはずれる問題がある。高分子と微粒子だけを混練してストランドを押し出したときには何も起きなかったが、化学修飾された微粒子を用いたときにダイスウェル効果を起こす場合は、微粒子表面の分子が発泡現象を引き起こしている。
低分子カルボン酸や低分子アミンで酸化物微粒子を化学修飾した場合などとナイロン系の樹脂と混練するとダイスウェル効果を起こすことが多い。ポリエステル系の樹脂でも起きる場合がある。教科書には、このような副作用について述べられていない。実体験して分かる実践知である。
それでは、このような場合の微粒子の表面処理はどのように行ったら良いのか。カップリング剤は一つの答えであるが、カップリング剤でも現象が起きた経験を持っている。おそらく一番無難なのは高分子の吸着機能を利用した微粒子の表面処理だ。
この技術については、特許出願を20年近く前に行っているが、あまりPRしていない。重要な実践知であり、暗黙知でもあるから、という理由ではない。写真学会からゼラチン賞を頂いているが、高分子学会技術賞は受賞できなかった。もし受賞できていたら公開していたかもしれないが、落選したので公開する機会が無くなった。
しかし、中国で混練技術の指導をしているときにこの方法をいろいろ試してみると、副作用の無い大変良い技術手段であることが分かってきた。過去に超微粒子シリカを分散したゼラチンの改質技術だけしか実績が無かったが、超微粒子の分散など高分子の吸着現象をつかった表面処理方法は現在のところ失敗は無い。日本の某企業で技術を公開したが、残念ながら採用していただけなかった。しかし、中国では砂漠に水をまくが如く何でも素直に吸収してくれる。
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高分子の混練の難しさは、混練されている高分子の状態をそのまま観察することが難しいためと思っている。オープンロールの混練でさえ、すべての状態を観察することが不可能である。ましてやバンバリーや二軸混練機ではオープンロールに比較し見えない部分が圧倒的に多い。
10年近く前、上海の某大学で混練の専門家と称する大学教授の怪しい研究室を見学した。自己紹介ついでに行われたプレゼンテーションはどこかで見たような資料だったが、説明が中国語になっていたのでコピペではなかった。
最も怪しかったのは、二軸混練機の動作を可視化し研究を進めている、という話だった。実験装置を見せていただいたら、混練機のシリンダーの一部がガラスになっており、実際に高分子が混練されて流動している状態が見えるようになっている。
そして目の前で、紅白のペレットをその二軸混練機で混練して見せ、一様のピンクになったストランドを示しながら、高分子の流動がよくわかるでしょう、と言っていた。確かに紅白のまだらになった状態からピンクに変色する過程を見ることができたが、それで何がわかるのか。
質問をしたら、混練されてゆく状態を見ることができる、という回答以上のご返事を頂くことができなかった。可視化できるようになっている装置ではあったが、温度計以外のセンサーがついておらず、目で見て楽しむ以外目的の不明な装置だった。
さらに怪しかったのは、ポリエチレンにナノカーボンを分散する技術について、この装置で研究していると言っていたことだ。そしてカーボンナノチューブの分散した真っ黒で薄く引き延ばされたポリエチレンシートを見せてくれて、太陽光にかざして見ると光が見える、と誇らしげに語っていた。当たり前の現象にドヤ顔されても返す言葉が無い。
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今年もまもなく紅白歌合戦を視聴することになる年の瀬である。何とか会社は5周年を迎えようとしている。今年はなぜか高分子の混練に関する質問が多かった。ゆえに来年1月末に混練の講演を&Techの主催で行うことにした。
高分子の混練は、形式知だけではどうにもならない分野である。しかし、「形式知でどうにもならない」ということを理解している人が少ないので指導するときに大変苦労する。2005年には、コンパウンドを購入していた某メーカーの技術サービスから「素人はだまっとれ」と言われた。仕方が無いので、黙ってコンパウンド工場を短期間で立ち上げ、コンパウンドを内製することにした。
この時の生産ラインでは世界で初めてカオス混合の連続装置が無事稼働した。手作りに近い装置だったが、未だにトラブルが無いので、この装置とコンセプトは異なるが動作がよく似ている、4年間開発を続けてきた新しいタイプを弊社から販売することにした。
高分子の混練の実践知は、ゴム会社で新入社員の研修と3ケ月間ではあるが電卓でマクスウェルモデルの計算を行っていた大変優秀な指導社員から教えていただいた。理論派であったが、混練の形式知は当てにならない、と明確に否定し、実践知を科学的に観察を中心にご指導してくださった。
残業代も無く、深夜まで業務を行うという、今ならばブラック企業と呼ばれるような指導環境ではあったが、ゴム配合の考え方やロール混練の暗黙知に至るまで丁寧にご指導いただいた。濃厚な教育環境は、今から振り返るとバラ色に輝いており、ロールで混練されていたゴムだけがブラックだった。
高分子の混練だけは、現場の指導がどうしても必要と感じている。言葉で技術がどこまで伝わるのか、当方はあまり自信は無い。講演会でもそのようにお話しする予定である。40年近く前の指導社員も同様の発言をしていたが、実践知や暗黙知の伝承の難しさだろう。
ちなみに指導社員は、一連のゴム開発プロセスを説明後、ご自分が加硫したゴムサンプルをくださり、このサンプルと同じ物性のゴムができるようになったら、次のステップに進みます、と言われた。そのゴールを達成するのに1週間ほどかかったが、よく短期間で達成できたね、と褒めてくださった。この時は1週間会社に泊まりながら混練の練習をしていた。
複雑な配合処方になるとプロセシングの影響がその物性に大きく現れるようになる。単純な配合であったPPSとナイロン、カーボンの三成分系でさえ、混練条件でその電気電子物性は大きく変動し、カオス混合を用いなければ到達しない世界が存在した。カオス混合技術は、新入社員時代のロール混錬の技術から生まれた成果であるが、関心のある方はお問い合わせください。
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年末は伝統となった紅白歌合戦を筆頭に長時間の歌番組が多い。しかし、今年のヒット曲は何か、と尋ねられても、ちんぷんかんぷんである。これは今年に限らず、すでに20年前からで、若い感性が萎んでしまい、逆にお腹が膨らみ始めたころからだ。ところが、最近はこのような年齢からくる宿命だけでなく、世の中全体でヒット曲が分からなくなっているらしい。
新聞を読むと、今年の紅白歌合戦では原点に戻り楽曲を選んだ、と解説されている。また、CDの売り上げの落ち込みだけでなく、CDの売り上げからヒット曲が見えなくなってきているそうだ。ちなみに今CDの売り上げランキング上位はAKBとその関連グループが占めている。
NHKの朝ドラのテーマソングの楽譜が品切れになった、と以前ニュースになっていたのでAKBはすごい、と思ってCDのランキングをみると、知らない曲ばかりだ。これも新聞のニュースから知ったことだが、昨今のCDには、握手券などのおまけがつけられて販売されているという。すなわち、CDの売り上げランキングがAKBばかりになっているのは、握手券目当てに一人で10枚以上も買う人がいるからだそうだ。
CDの売り上げ減少は、インターネット原因説が主流で、今は楽曲を個人がダウンロードするよりもストリーミング配信で楽しむ割合が多いという。楽曲のダウンロードの時代は高々数年で、ストリーミング配信が一気に広がったようだ。
ストリーミング配信と言えば、古くはFM放送がある。今オーディオ店に行くと単体のFMチューナーを見つけることは難しい。10年以上前からFMチューナーを販売するメーカーが少なくなり、今単品コンポとしてFMチューナーを販売しているのは、ヤマハぐらいである。
我が家には40年近く前に購入した、当時最先端のチューナーが今でも良い音で鳴っている。年を取るにつれ高域のノイズが気にならなくなったのはチューナーの劣化ではなく耳の劣化だろう。ストリーミング配信をパソコンのスピーカーから聴く音よりも良い音がしている。またこの数年はラジオマンジャックというお気に入りのFM番組もできた。昔は、FMチューナーをプログラミングし、流しっぱなしで無差別に番組を聴いていたが、転職してから勤務先が遠くなり、FM放送をいつの間にか聴かなくなった。事業を始めてから、またFMを聴くようになりはじめた。
さて、今はストリーミング配信からヒット曲が生まれている、としたならば、ライブ感の溢れた楽曲がヒットしているのでは、という仮説を立てることができる。なぜなら音だけでなく画像も楽しめる時代だからだ。そのような視点で昨年と今年の紅白歌合戦で選ばれた楽曲を眺めてみると、共通点は仮説を支持している。今年落選したキャリーパミュパミュなどの例外もあるが、ライブ感あふれるスターが選ばれている。今は音楽を目で楽しむ時代になったようだ。
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B&Wというスピーカーメーカーで今年の上期モデルチェンジが行われた。商品のシリーズはそのままで、低価格帯のスピーカーの性能が向上したのだ。高価格帯のスピーカーは従来通りの音を奏でているが、低価格帯のスピーカ-で高価格帯並みの音がする製品がある。
このスピーカーメーカーの特徴はツイーターにあり、高価格帯のスピーカーにはダイヤモンドが使用されている。ダイヤモンドが使用されているから高価格というわけではなく、高い弾性率で内部損失の大きい素材ということでダイヤモンドが選ばれているのだ。
しかし、パンフレットを読むとダイヤモンドはCVDで形成されたダイヤモンドで、この程度の物性であれば、無垢の金属材料でも実現できそうである。実際に新製品の低価格帯のスピーカーでダイヤモンド並の音を出すスピーカーのツイーターには、アルミニウム振動板が使用されている。
当方の耳には、20万円台のスピーカーと60万円台のスピーカーは同じ音色に聞こえる。大変コストパフォーマンスの良い耳だ。しかし、この20万円台のスピーカーと同じ価格帯にある他社のスピーカーとは明らかに解像感が異なる。
現在販売されているスピーカーの動作原理は40年前の技術と変わっていない。しかし、スピーカーの性能には形式知で語れない要素があるという。我が家では、ボーズのスピーカーとオンキョーのスピーカーとを組み合わせ4台で音楽を聴いているが、80万円台のスピーカー並みの音がしている(ような気分でいる)。ただし少し音像が大きい不満は残っているがコストパフォーマンスは高い。
4台を同時に駆動するのでアンプにはそれなりの負荷がかかる。しかしローテルの20万円台のアンプは十分にその能力を備えていた。オーディオ装置は価格ではないのである。自分の満足する環境を整えるのにずいぶん時間がかかった(注)。しかし、それほどのお金はかけていない。レコードやCD代にはるかにお金がかかった。
オーディオマニアではないが、マニアの気持ちはそれなりにわかるような気がする。CDやレコードに記録された音をそのまま聞きたいという願望である。形式知では数値化できない世界がそこには存在する。
オーディオ市場はかつてほど大きくはないが現在もそれなりに存在し、生き残っているメーカーの商品には、各社の音の哲学が盛り込まれている印象を受ける。それらは実践知や暗黙知の世界である。
(注)おそらく耳の劣化が満足のゴールを引き寄せたのだろう。
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音が再生装置でそれほど変わるのか、という体験は、オーディオを多数扱っている店でスピーカーを聞き比べてみるとわかる。すなわち、スピーカー以外の装置をすべて同一にしてスピーカーだけ交換し聞き比べるのである。オーディオ店として看板を掲げている店では交換視聴の設備を必ず備えていて容易に比較試聴が可能である。
2台で10万円程度のスピーカーであればDALI社のスピーカーをレファレンスに入れて聞き比べると、各社の違いを聞き分けることが可能である。面白いのはこのクラスでは多少の差こそあれ、DALI社以外の差は小さく、コモディティー化が進んでいるような印象を受ける。
次に2台で60-80万円程度のスピーカーを聴いて欲しい。このクラスになると日本メーカーを置いている店は少ないし、日本メーカーでこのクラスを販売しているのは、2社程度である。驚くことに欧米のスピーカーメーカーの独壇場である。
「なんクリ」で有名になったJBLもこのクラスに力を入れているメーカーだが、昔懐かしいサウンドにあこがれる人以外はこのメーカーを今選ばないだろう。音の解像感が他社に比べると劣っているように聞こえるのだ。
当方はJBLの音は嫌いではないが、この値段を出さなくても他社の安価なスピーカーで雰囲気を味わうことが可能、という意味でコストパフォーマンスが悪いスピーカーだと思っている。20畳以上の広い部屋ならばJBLのスピーカーが必要だが、狭い部屋ならばオンキョーの超ロングセラーであるブックシェルフ型スピーカーで十分である。価格も安い。
このクラスでは、中高音域用のスピーカーの技術の差、用いている材料の差を音として感じることが可能で、技術革新の激しい時代において未だにコモディティー化が進んでいない世界を垣間見ることができる。
恐らくオーディオの技術開発において計測器では計れない感性の領域があるためと思われる。すなわちその商品を開発するために必要な技術を形式知で語り尽くせない、実践知と暗黙知が大きな比重を占める世界と思われる。
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21世紀に入り、デジタルアンプの新製品が秋葉原の電気街を賑わしたが、ブームにはならなかった。低価格帯のアナログアンプでは達成できない高いSN比と高出力をデジタルアンプは低価格で実現したが、アナログアンプを駆逐するまでには至らなかった。
映像の世界ではビット化により飛躍的にSN比が向上し、それが一般の視聴者ユーザーに受け入れられてブラウン管は消えていったが、オーディオに関しては、信号の最後の出口は未だにアナログスピーカーである。音の最後の出口をデジタル化できていない。
しかし、これだけではない。秋葉原で100万円以上の高額なオーディオセットは、プレーヤー以外はアナログ機器である。音楽を聴いてみると、例えそれがCDからの信号であってもアナログアンプとデジタルアンプを交換するとその差がわかるのである。
「100万円のアンプと数万円のアンプの違いを聞くレポート」なるものをネットで見つけることができるが、そのレポートでは、値段によるアンプの違いは分からないことになっているにもかかわらず、すべてデジタル機器で再生した場合とアナログアンプを途中に用いた場合では、少し耳の良い人であれば聞き分けることが可能と思っている。
CDが登場し40年前後になるが、それでもレコード盤に対するあこがれが語られるのは単なる懐古趣味だけではないだろう。我が家では、グローバーワシントンJr.の「ワインライト」をCDとレコードで比較視聴できるが、サックスの生音に近いと感じられるのはレコード盤からの音である。
技術革新でレコードはCDとなり、塩ビはPCにその市場を奪われた。形式知による見込みでは、すべての音源がデジタル化されレコード盤などもはや無くなるはずであったが、その再生装置の新製品が登場する今の現象をどのように捉えれば良いのだろうか。
オーディオブームの中で、アナログアンプの技術は飛躍的な進歩を遂げ、コモディティー化しサンスイなど著名なメーカーが消えていった。今市場に出ているアナログアンプは20世紀の技術で製造されているが、それでも形式知の成果であるデジタルアンプに勝負できる地位にいる。
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高度経済成長から始まり、バブルがはじける直前には成熟化したオーディオ(A)ブームは、いわゆるコモディティー化したように見えたのだが、その後登場した液晶ディスプレー(V)のコモディティー化による低価格化、そしてメーカーの苦境という流れと比較すると少し様子が異なる。オーディオ業界の今を考察すると、形式知と実践知、暗黙知の存在及びその働きが見えてくる。
オーディオの技術は、ビジュアル機器の技術革新とそのブームの陰に隠れながらAVとして発展し、アナログからデジタルへの変換が進んだ。そして、デジタル化したビジュアル機器のコモディティー化の流れの中でAVメーカーの再編もあり、この30年間に激動の変化をした。
その中で、昔のオーディオファンは、オタクとして生きた化石のようにそのまま残っている。そして、今ささやかなオーディオブームのようなものが起きつつある。レコードが見直され、そのレコードを聴くためのプレーヤーの新製品も登場した。書店にはアナログという、そのままのタイトルの雑誌まで登場した。
デジタル技術全盛の中でオーディファンの正統派は、未だにアナログなのである。1ビットデジタルアンプがもてはやされたこともあったが、真空管をシミュレーションするアンプが登場したりして、アナログ回帰現象がデジタル技術の進化とともに一つの流れになった。
例えば、ギターアンプを始めとして楽器の音を増幅するアンプは真空管式のマーシャルブランドが今でも強いと聞く。コンサートに行くと「Marshall」の文字を舞台で見つけることができる。一方で真空管製造メーカーの撤退で、真空管そのものを秋葉原で探すのも大変な作業となる時代である。
マーシャル以外のアンプメーカーでは、真空管式の旧式アンプをモデリングしたトランジスターアンプが売れているという。これをデジタルとアナログの融合の成果として進歩と見るのか、デジタル化の流れの中で部品調達が難しくなった真空管をデジタル技術で補っている苦肉の策、と見るのかは難しい。
一ついえることは、形式知でアナログからデジタルへの変換を行ったが、人間の感性という暗黙知まで科学技術で満足させられなかったということだ。そのため、オーディオの世界ではアナログが今の時代に見直され、ささやかなブームとなっている。
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