三菱自動車は、2016年に予定していた主力車「RVR」の開発に失敗した担当部長2人を諭旨退職とし、相川哲郎社長の役員報酬の一部自主返納や執行役員ら2人を降格する処分を11月1日付で行ったというニュースが報じられていた。「開発段階で上司への報告が不適切だった」ことを処分の理由としている。
社長はじめ役員一同も処分とされており、担当した部長が降格ではなく諭旨退職というのは、厳しいように取れるが、社内の制度や風土によっては降格よりも温情処分となる。
三菱自動車と同様の状況で、部長が降格になる会社もあるだろう。写真会社ならば、どのような処分になるか20年勤務していても想像できない。三菱自動車と同様の事例も見てきたし、膨大な赤字事業を行いながら常務までなられたという、さらに温情的なシーンも見てきた。
企業において、ミッション遂行に失敗した時に最近の日本企業では管理職や役員の処分が厳しくなり、それが稀に公開される。これは良いことだと思う。すなわち、ミッションに失敗した時に責任をとれないような経営者や経営幹部に運営されている会社では、昨今のグローバル競争が厳しい状況で生き残れない。
今回のような公開は、企業の生き残りをかけた厳しい姿勢を株主に見える化できる。このため、今回のようなケースでは株主を意識した対応と言われることもある。
ところで、諭旨退職とは、懲戒解雇よりも温情的な措置として行われる退職手続である。一般には自己都合退職に相当するのか解雇に相当するのか、その境界は不明瞭だ。
不明瞭ではあるが、部長職として必要なコミュニケーションスキルが求められた、という視点で、規則違反の理由が述べられているので、一応規則違反による処罰であり、部長職として評価したうえでの納得のゆく手続きとなっている(注)。なので、今回は退職金が支払われている可能性がある。
管理職に対し評価が厳しくなっているのが最近のサラリーマンの状況である。そのため出世しても大変だから今のままの方が良い、と言っていた上司がいたが、おそらくこの上司は出世したことを後悔していたのかもしれない。しかし給与を増やす方法が出世以外にないサラリーマンにとって厳しくても昇進に努力するのである。
(注)本人が納得するかどうか、という別の問題が存在する。他の誰が推進しても失敗したであろうテーマを自ら現場に入り短期に成功させても、部長職としての加点は得られず退職金が増えない、という逆の例も、評価としてもう少し考慮してくれても、という思いは残ものである。このとき、すべてに誠実真摯な人事評価がされておれば、納得できる風土となるだろう。人事評価の平等性は、重要なことである。
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特公昭35-6616という特許を発明した技術者はどのような人なのだろう。写真会社にはその人物をご存じの方がすでにいなかった。なぜこの特許を書いた後に他の特許出願をしなかったのだろう、という疑問があった。この特許が公開された後、日米の企業で対抗出願が多数なされているにも関わらず、この人物が所属した組織から5年間一件もこの関連の特許が出願されていない。
想像になるが、当時酸化スズゾルの科学的情報は、皆無に近かったので、自分の実験結果に自信が無かったのかもしれない。特許に書かれた実施例は、偶然できた薄膜をネタにして書かれた可能性がある。実際に30年以上経って実施された再現実験では、実施例に記載された因子以外の因子を最適化し制御しなければ、実施例のデータを再現することができなかった。タグチメソッドを知らなければ、大変な工数になる仕事である。
もし、この想像が正しいならば、何故再現性を改善する実験を行わなかったのかという新たな疑問が出てくる。ニーズが無かった訳ではない。写真フィルムに帯電防止技術は不可欠である。現像処理後も帯電防止能力が劣化しない技術は、当時は夢の技術だったはずである。
発明者に直接聞くことができないので、いろいろと想像することになるが、実際に開発を進めてみて痛感したのは、科学的情報が少ない技術開発は、企業風土によってはかなり困難な活動になる場合がある、と言うことだ。ゴム会社では、道の見えない技術開発は歓迎(注)されたが、写真会社では、どちらかと言えば、肩身の狭い仕事になった。
科学的に明確で、あとは実用化だけ、という仕事は易しいが、競合が多くなる。一方科学的に不明確で先が見えない仕事は難しく、それを推進するためには、周囲の理解が必要となる。最近は、さらにこのような仕事はやりにくくなったと聞く。
科学的に未解明で訳の分からない現象というものは多い。例えばSTAP現象はそのような現象の一つで、科学的な否定証明はなされているが、なぜできないのか、という命題に対する答えはまだ知られていない。このような現象について企業で研究開発を進めるためには、経営者の理解とそれを許す組織風土が必要となる。
昭和35年頃の科学の状況は、ITO膜の発見はあったが、酸化スズ単結晶の性質については未解明であり、そのため導電機構は、科学的に未解明の状態であった。ただ、ITO膜は再現よく導電性を示したので、すぐにATO膜も発明され、酸化物半導体の科学がこの頃より発展してゆく。
ただ、非晶質体の物性については、現在でもその科学の完成ができていないように、当時はまったく手つかずに近い状態だった。ある種の物質の非晶質体の一形態であるガラスの研究はすでに行われていたが、それは、モルフォロジーに関する研究であり、電気的な研究が活発に行われるようになったのは10年後あたりからである。
(注)新入社員の研修では、二律背反の現象の問題解決はすばらしい仕事として紹介された。そして未知への挑戦は会社の風土であるとも。新規事業を起業するチャレンジも歓迎された。高純度SiCの事業提案とその推進を7年も売り上げ0で推進できたのは、このような風土だったからである。
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面白い仕事は人を育てる。特に技術の仕事は面白くする必要がある。どうしても泥臭いプロセスが仕事に入ってくるからだ。面白さが少しでもあれば、泥臭さが9割でも技術者は一生懸命仕事をやり、そして一生懸命仕事に打ち込み実践知を身につけ暗黙知を獲得してゆく。
酸化スズの帯電防止技術開発は何が面白かったのか。管理職の立場では、ライバル特許網に風穴を開ける醍醐味と、担当者の立場では、新発見ができた楽しさである。
薄膜評価では、クラックが発生して直流で正確な抵抗測定ができない障害にたびたび遭遇した。この問題については、インピーダンス法で評価する技術を開発した。
単なる薄膜のインピーダンス評価法だが、その周波数依存性とパーコレーション転移の関係、フィルム帯電の実技評価法である灰付着テストとの関係に新発見があった。
またゾルのような超微粒子を水溶性高分子に分散したときに生じるパーコレーション転移を自由に制御できる技術も技術として開発できた。これは一部日本化学会でパーコレーション転移の破壊として、技術に採用した逆の現象に置き換え発表している。これはノウハウを隠すためである。日本化学会からは若い技術者が講演賞を頂いている。
酸化スズゾルに含まれる微粒子は非晶質で科学的に大変怪しい材料である。しかし、技術としてその機能を制御することは可能で、帯電防止層として活用されてきた。
酸化スズの仕事では、日本化学会と化学工業協会から賞を頂き、さらにその技術を担当した若い技術者はその後学位をめざし無事取得している。形式知と実践知、そしてゴム会社で身につけた「技」暗黙知を駆使して、昭和35年の特許を実用化した仕事はサラリーマン生活における楽しい思い出の一つである。
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市販の酸化スズゾルに含まれていた微粒子の導電性と特公昭35-6616から推定された微粒子の導電性とは2桁程度異なっていた。そこで特許の実施例に書かれた酸化スズの合成法について、実施例に書かれていない因子を書き出し、魚の骨にまとめた。
やる気を喪失していた若い技術者がいたので、面白い大発見ができる、とおだてて、実施例に隠されていた因子について実験計画法を行い、酸化スズを合成してみた。
驚くべきことに、導電性は、1000000倍まで変動した18種の微粒子を合成することができた。最も良い条件では、実施例通りの1000Ωcmの特性が得られていた。
近くの都立科技大学(現在は都立大学)に導電性の専門家がいる、と聞いたので、その若い技術者を一年派遣して、この酸化スズの導電性の研究をやらせることにした。
本人は大変喜んで、一年後にはそれまで未発見の導電性準位があることを見つけてくれたが、大学の先生がアモルファスの同定は難しいので、と公開を辞退されたため学会発表を行っていない。
その後その技術者は自分の道を見つけてくれて、寿退社した。この酸化スズの実用化は、バトミントンに夢中になっていた技術者に引き継がれた。この仕事が面白かったのかどうか知らないが、化学工業協会から賞をいただける程度まで技術を完成させて、途中紆余曲折はあったが実用化できた。
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酸化スズゾルをシャーレに入れて、ドラフトの中に放置したところ、1ケ月弱で10%相当の重量になり、ゾルから固形分を取り出すことができた。その固形分を粉砕し、圧粉法で圧力を掛けながら導電性の変化をグラフ化し、外挿法で微粒子の導電性を求めた。
驚くべきことに、酸化スズゾルに含まれる微粒子は、10000Ωcm未満の半導体であることが分かった。しかし、過去の研究レポートでは、酸化スズゾルから生成した薄膜は絶縁体と評価されていた。研究レポートに従い、薄膜を製造しその評価をしたところ、確かに導電性は無かった。
不思議に思い、顕微鏡観察を行ったところ、薄膜には微細なクラックが観察された。すなわち微細なクラックが大きな接触抵抗をうみだし、絶縁性を示していたのだ。
薄膜に生成している微細なクラックは目視観察では気がつかない。薄膜に導電性がないことを疑って初めて見つかる現象であった。科学者はときおりこのようなミスを行う。STAP細胞では、何らかのミスが重なり、あのような大騒ぎになったのだろう。
技術者は、自然現象から機能を取り出そうと努力をするので、愚直な実験方法を選ぶ。バカな方法でも、それが必要であれば、実行するのが技術者である。あくまでも現物にこだわり、その現物を用いたあらゆる条件の実験で仮説が否定されて初めて技術者は、一つの仮説を断念する。そして新たな仮説に基づき機能の取り出しを試みる。
あらゆる条件の実験をどのようにデザインするのかは、技術者の力量に依存する。科学的知識が豊かでも、技術者としての力量が低いために簡単な実験で早急に結論を出す人がいる。一方科学分野の知識が乏しくても心眼を使い、身の回りの設備を用いた可能な限りの実験を愚直に行い技術を創り上げる人もいる。ゴム会社と写真会社それぞれの会社で、後者のタイプの技術者に出会ったが、ゴム会社では評価されていたが写真会社では評価されていなかった。当方は後者の人を技術者として力量が高いと評価した。
面白いのは、科学的に実験を進めて非科学的な技術が出来上がったりする。話はそれるが、カオス混合装置を用いた中間転写ベルト用のコンパウンドは、科学的には相溶しないと言われている高分子の組み合わせで相溶現象を起こし、わずかに生じるスピノーダル分解を活用し凝集したカーボンの接触抵抗をコントロールしている非科学的成果である。PPSと各種ナイロンの組み合わせでコンパウンドを製造し、カーボンの凝集状態を観察しながら技術開発を進めた。これは酸化スズゾルのパーコレーション転移制御技術を担当してから15年後の成果である。
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1990年頃市販されていた酸化スズゾルが絶縁体である、という社内レポートは、科学的にレベルの高い否定証明の報告書だった。当時複合材料で一般に用いられていた複合則を用いて超微粒子の導電性まで推定していた。
このレポートを書いた技術者は、それなりの能力の技術者と思われたが、企業風土が悪かった。技術を追求する風土ではなかったのだ。日本の企業では、自然科学の優秀な研究者を採用している。
そして、やがてメンバーの一員として管理職に、さらには経営陣へ成長してゆくことが人材に求められている。このような風土では、技術者としての自己実現など目標にうっかり努力すればラインから外されてしまう。
日本の多くの企業では、技術者の将来として技術者のままでいることを期待していない。しかし、今の時代は技術者のジョブも高度化しているのでジョブ中心の採用と育成が求められている。
もし技術者が本当に酸化スズゾルの機能を実用化したいと考えたならば、酸化スズゾルの微粒子を取り出し、その導電性を直接評価する、という泥臭い方法を行わなければいけない。すなわち現物の機能を現物で評価する、という技術者の鉄則に従い業務を遂行する。
確かに10wt%程度の濃度のゾルから超粒子を取り出すのは大変で、それなりの「技」がいる。濾過して超微粒子を取り出すことなどできないからだ。
これをスプレードライ法で取り出す、というアイデアがひらめいた技術者はそれなりの実践知を持っているが、スプレードライでは加熱プロセスを避けて通れないので、「加熱により物質が変化する」という形式知に邪魔され、その採用ができない。
愚直に自然乾燥で取り出す、という方法があるが、意外にもこの方法を馬鹿にする技術者は多い。実際にある担当者にお願いしたら、「どうぞ暇に任せてご自分でやってください」と、言われた。シャーレに分取し、紙をかぶせてドラフトに放置するだけの15分もかからない作業であるが、絶縁体として結論が出ている材料ではmotivationそのものが沸いてこない。
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科学者は、形式知に精通しておれば、職業として成立するが、技術者は、形式知と実践知、そして暗黙知まで身につけていることが要求される職業である。そして、この3つの知識のバランスが技術者の知識労働者としての価値を決める。
例えば、暗黙知と実践知に偏りがある技術者は、昔の職人に近い技術者である。一方、形式知に偏りのある技術者は、科学者に近い。今学校教育では科学教育が行われているので、この形式知に偏りのある技術者が多くなっている。
形式知に偏りがあるからと言っても、科学者ほど知識が深くないので、企業で漫然と実務をこなしていると中途半端な実力の技術者となる。そのような技術者は、酸化スズのような材料を技術として活用しようとする時に、否定証明に走る傾向がある。
本来技術者という職業は自然界から機能を取り出し、人類に有益な価値を提供することが仕事のはずなのだが、科学者のような仕事のやり方を行い、せっかく目の前にある機能を実用化する術を持たないために、チャンスが訪れてもそれを活かすことができない。
パーコレーション転移がポピュラーでなかった1980年代に、この形式知を知っているかどうかは、技術者の自己実現努力に左右される。材料系の学会においてその現象が複合則で議論されている状況でも、形式知としてそれがどのような意味なのかを体系づけて取り込む努力を怠らなければ、それが実践知に分類すべき知識であることに気づき、形式知としてパーコレーション転移を勉強するようになる(注)。
科学者の問題は、実践知をあたかも形式知の如く扱う人が稀にいる点である。STAP細胞もiPS細胞もそうである。後者については実用化研究が花盛りであるが、未だ「何故ヤマナカファクターで細胞を初期化できるのか、初期化できるのはヤマナカファクターだけなのか」という科学的な解明がなされていない。
この解明が進めばSTAP細胞が何故できないのか(あるいはできる条件があるかもしれないが)も明らかになるのかもしれない。iPS細胞の研究は、今科学ではなく技術として進められているのが現状である。世界中で技術開発競争が繰り広げられている科学分野では、形式知と実践知の混乱が起きる。STAP細胞の騒動はそのような事件だ。
特公昭35-6616を見つけたとき、慎重に企画の準備を進めた。ラッキーだったのは知財部門に優秀な人がいて知財戦略をアドバイスしてくださったことだ。転職した最初の一年は一生懸命特許を書いていた。また、都立科技大(現在の都立大)に留学生を送り、酸化スズゾルの導電性を研究しようとした。そしてパーコレーション転移シミュレーションソフトウェアーも開発した。この頃久しぶりに研究色の高い仕事をした思い出がある。
(注)この分野で有名なスタウファーの教科書は、1990年前後に登場するが、1980年前後には科学雑誌にパーコレーションの話題が取り上げられている。また、79年にゴム会社へ入社したときに指導社員はパーコレーション転移をご存じで、混合則で議論する問題を指摘されていた。
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高分子に導電性物質を分散したときに観察されるパーコレーション転移は、1980年代の材料科学の分野ではポピュラーな考え方ではなく、そのかわりに電気抵抗の並列接続と直列接続をモデルにした複合則が一般に用いられていた。
パーコレーション転移は数学の分野で発展した考え方であり、この20年前にボンド問題とサイト問題という有名な議論が展開され、パーコレーション転移の科学的理解は進み、当時は山火事などのシミュレーションに用いられていた。
パーコレーション転移は、形式知なので誰でも論文を理解すれば獲得できる(注)。一方材料科学分野では、パーコレーション転移で生じる現象を経験則から導かれた複合則(あるいは混合則と呼ばれていた)を用いた議論が行われていた。
化学という学問は科学の一分野でありながら、このように経験則を科学的議論に持ち込むようなことがよく行われるので注意が必要だ。例えばかつて高分子のレオロジーを論じるモデルとして、ダッシュポットとバネのモデルがあった。このモデルを用いてマックスウェルの方程式を解きながら現象理解を進めるという方法も実践知から生まれた形式知である。
ダッシュポットとバネのモデルではクリープ現象をうまく説明できなかったので、1990年代にこの考え方は消えていったが、防振ゴムや制震材を設計するときに用いると、材料設計を容易にできる、という便利さがあった。また、粘弾性測定の結果もこのモデルで理解すると、材料の高次構造理解に役だった。故に形式知としては廃れたが、実践知として今でも使用しているゴム技術者は多い。
同様に、高分子に導電性物質を分散したときに現れる現象について、科学的に論じるときに複合則を用いる人はもういなくなったが、かつては複合材料の教科書に書かれていた複合則を用いて、それを用いて計算される微粒子の導電性を議論していた。写真会社へ転職したときは、実践知と形式知をごちゃ混ぜにして誤った結論を導いてもそれが科学的論理で展開されていたなら正しい、と信じられていた時代である。今でもそのような光景が見られるので、弊社は新たな問題解決法を提案し、科学的間違いに早く気がつくツールを提供している。
(注)パーコレーション転移が形式知としてまとまってから、材料科学分野へ普及するのに20年以上かかっている。1979年にゴム会社へ入社したときに、指導社員はパーコレーション転移をご存じでカオス混合などのマカ不思議な言葉と同じように教えてくださった。大学で合成化学を専攻してきたので、数学物理系の指導社員に巡り会ったのは技術者として幸運だった。
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転職した当時に、新素材として酸化スズゾルという商品が多木化学から販売されていた。それは、四塩化スズの加水分解で製造された酸化スズをアンモニアに分散したゾルの水溶液で、特公昭35-6616の実施例に書かれた酸化スズゾルと同等の材料だった。
この材料については、ライバル特許に抵触しない可能性のある材料という理由で、十分な検討が社内でなされ、科学的な研究レポートが数報書かれていた。そしてそれらの最終レポートでは、この商品の酸化スズは絶縁体に近い、と結論されていた。
特公昭35-6616の実施例が正しいと信じて、この実施例の結果をシミュレーションしたところ、酸化スズゾルは帯電防止剤として十分な性能がある、と推定された。ところが、高分子にこの材料を分散した時に、パーコレーション転移が起きない場合には、十分な導電性が発現しないことがわかった。
すなわちシミュレーションの結果から、酸化スズに導電性が無いのではなく、適切な実験条件が選択されない場合には、パーコレーション転移が起きないので、あたかも絶縁体のような振る舞いになる。ただし、これは計算機上の結果であり、これを実証できる現物がなければ、この技術を用いた新たな商品化企画を周囲は受け入れない。
なぜなら、酸化スズを用いる帯電防止層は、すでに社内で検討済みという結論が出ている仕事なので、実際に現物で再現できることを示さない限り、周囲の同意が得られないだけでなく、提案の仕方を間違えると反発を招く可能性がある。
これは、ゴム会社で電気粘性流体の耐久性問題を解決した状況と類似で、進め方を間違えてFDを壊される(注)ようなひどい目にあった経験をマネジメントに活かすことができた。さらに、何もドープされていない酸化スズが本当に導電性を持つのか、という科学的疑問も個人的にあった。
個人的な興味という理由は、無機材質研究所から、高純度酸化スズ単結晶は絶縁体である、という論文がすでに公開されていたから非晶質でどうなるのか興味があったからである。ただ非晶質でも絶縁体であるかどうかは、科学的に証明されていない性質であった。
(注)ゴムから溶出する物質で電気粘性流体が増粘するという問題を一年かけて検討した結果、界面活性剤では問題解決できない、という科学的な証明が他の研究者から出されていたが、たった3日でその方法を用いて技術により問題を解決した。「できる」という実験結果が、「できない」という多くの実験結果で否定されたSTAP細胞の騒動では、一流の研究者が自殺するというショッキングな事件(注2)や、ES細胞の盗難疑惑を明らかにしようと警察へ刑事事件として告発する動きまで現れている。研究者で構成された社会では、時として信じられない事件が起きるケースがあるので、細心の注意のマネジメントが要求される。理研の環境やあの時の状況が特別なのではなく、一般企業の研究所でも、マネジメントに配慮しなければ、いじめなどの子供社会で起きるような事件が発生する可能性がある。被害者は事件が放置されると孤立感が進み恐怖感に変わってゆくものであり、マネジメントではメンタル面のケアが重要になるが、管理職にその知識が欠如している場合が多い。弊社では、研究所の健全な風土醸成のノウハウ提供も行っています。
(注2)STAP細胞の存在は未だに科学的にその存在が証明されていない。特定の条件で作ることができない、と科学的に証明されただけである。なぜSTAP現象が人間の細胞で起きないのか、という問いに対して科学的な解が出されない限り、できる可能性が残っている。この分野の素人でも理解できる状況で、一流の研究者は、否定証明の嵐の中で板挟みになったのだろう。誰かが他の組織を示してあげる必要があった。管理者は孤独なものだが、知識労働者は管理職でなくても孤独にさらされる。上位職者の役割は、孤立している当事者を改めて組織で機能できるように道筋を示してやることである。研究者は組織を失えば自己実現も貢献もできなくなる大変脆弱な職業である。組織(コミュニティー)が無くなれば、その職業をやめなければならない。
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プレミア12の日韓戦は後味の悪い試合だった。好投していた大谷選手を球数も問題なかったのに、なぜ交代したのか。おそらく監督は本当の理由を言わないだろうが、その後の選手の起用を見て、おおよそその心中を推し量ることができた。
しかし、日本中のファンが期待していた勝てそうな試合だったのである。長いシーズン中の1試合ではないのである。勝ちにこだわることこそ大切なことだった。あの場面では、チームとしての勝利にこだわってこそ、真のリーダーである。昨日コールド勝ちできるような実力がありながら、また、今年優勝できるチャンスは十分あったのに、と思いながら悔しさのあまり同じようなことを書き始めてしまった。
ビジネスにおける類似の状況を昨日紹介したが、会社により人材の育て方は異なる。故ドラッカーは人材育成について、誠実で真摯な人材を選ぶことの重要性を述べている。ゆえに人材評価がうまく運営されるかどうかについては、誠実で真摯な評価者が多数いるかどうかできまる。
人事評価のシーンで時折おかしな状況を体験したり評価者の立場で見たりしてきた。例えばAさんが貢献して出した成果であるにもかかわらず、組織の都合でBさんを昇進させたいという理由でその成果をBさんの成果として評価しているケースがある。
これは、ゴム会社で担当者の立場で明らかに歪んだ評価を付けられた事例。3人で1チームとなり、ある商品を開発していたが、一人が長期休暇した。その間に二人は、計画を見直し、その一人がいなくても納期を守れるように仕事を遂行し成果を出した。その後長期休暇していた人物が出社した。この人物は、テーマの企画をしたわけでもなければ、休みに入るときの引き継ぎもやらず、2人に尻拭いのような仕事を残していたりと、まったく組織貢献していなかった。
ところがボーナス査定を見て驚いた。当方の給与明細書の数字は、査定がついていないどころかマイナス査定だったのである(注1)。一緒に苦労した他の一人も同様だった。さすがにおかしいと言うことで、同じ職場の課長補佐に相当する方に相談(注2)したら、おかしな評価であるが、長期休んでいた人を昇進させるために課長はその人に高い査定を付けたかったのだろう、と解説してくれた。
すなわち課の原資は決まっていたので、特定のメンバーに高い査定を付けるときにはマイナス査定を誰かに付けなくてはいけない仕組みになっていた。長期休暇をしていた人の貢献を明確にするために、サービス残業までしてがんばった二人を犠牲にしたのである。
このゴム会社の担当者の立場で経験した人事評価は、その後のサラリーマン生活に大きく影響した。すなわち職務評価に振り回されることなく、自己実現に努め成果を必ず出すことにこだわる仕事の進め方になったのだ。その後ゴム会社の某人事部長から研修中の酒の席で、「君は人間リトマス試験紙だ」と言われた。当方の評価で上司である管理職を評価できたからだそうだ。
(注1)成果給の意味があるボーナスの配分表を公開している企業は多い。そしてその配分表から自己の評価を知ることができる仕組みになっている。すなわち、仕事の評価を会社が伝達することにより、その努力に報いたことを伝えるためだ。このようなシステムでは、誠実な評価をしない場合には逆効果となる。また社員どおし給与情報などをこっそり見せ合うことも行われる場合もあるので、評価者は誠実さが重要になる。
(注2)仕事の評価に不服な場合に評価者に直接相談してもダメである。第三者で状況を理解している人に客観的な理由を聞いて納得すること。客観的な説明が例え不条理であっても知識労働者は納得しなければいけないのである。知識労働者が成果を出すためには組織が必要であり、納得しない、ということは、その組織を認めないことにつながる。被害者の立場で転職してみて、組織と知識労働者の関係について、まさに故ドラッカーが指摘していたとおり、と痛感した。組織が変われば、新たな知識を獲得しない限り、知識労働者は成果を出せなくなるのだ。貢献と自己実現のために必要な組織はその目的のために大切にしなければいけない。しかし、誠実さと真摯さがないがしろにされるような組織あるいは組織風土ならば改善する必要があり、難しい問題が生じる。
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