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2015.01/08 混練プロセス(4)

1970年代に二軸混練機メーカーは大小多数存在し、それぞれ特徴があった。そのいくつかは倒産し、今日本には大手メーカーが残っているだけである。KOBELCO以外にも大和の砲身を製造したメーカーはじめ優れたメーカーがあってもKOBELCOを昨日推薦したのはサービスが良いからである。

 

実は中間転写ベルト用コンパウンドはKOBELCOの二軸混練機の技術だけで混練できなかった。少々改良する必要があった。中古の機械を改良したのだが、またその改良を担当したのは根津にある中小企業であっても神戸製鋼の技術者は協力的であった。おかげで短期間に理想とした混練機が完成した。

 

この時の経験で面白かったのはスクリューセグメントの設計では分散混合と分配混合の言葉がその説明で使用されたことだ。KOBELCOの混練機で優れているのはロータの設計技術とシリンダーの設計である。

 

1970年代の二軸混練機ではロータが使用されていない。この頃のスクリューには技術者の思いこみで考案された面白い形状のスクリューも存在する。神戸製鋼ではいち早くロータの研究開発に取り組んだと聞いている。

 

ロータについてはその効果の説明が教科書により異なっている。ひどい教科書になるとロータはモーターに過大な負荷をかけるので好ましくない、という説明もあったりする。この説明では材料よりもハードウェア―が大切に扱われている。

 

材料を混練するために適切な装置を選択する、というのが本筋である。混練する材料を機械に合わせるという考え方は本末転倒である。

カテゴリー : 高分子

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2015.01/07 混練プロセス(3)

分配混合と分散混合の説明で不十分なのは高分子のレオロジーを考慮していない点である。むしろ伸長流動と剪断流動で混錬が進むと表現したほうが良い。

 

混練機にはバンバリーやロール混錬のようなバッチプロセスもあれば押出機から進化した連続式プロセスの混練機も存在する。二軸混練機は生産性が高いと信じられてこの70年進歩してきた装置である。

 

二軸混練機はどれも同じと思っている人が多い。どの二軸混練機を買えばよいか尋ねられたなら迷わずKOBELCOブランドをお勧めする。少し高価だがこのブランドの混練機でうまく混練できないならば他の二軸混練機ではさらに悪い結果となる。但し、正規のルートで購入し技術サービスをしっかりと受けるという前提である。

 

神戸製鋼から特別にPRを依頼されているわけではない。これまでKOBELCO含め10種類の二軸混練機を扱ってみての感想である。もしKOBELCOの混練機を使ってもうまくゆかない場合は弊社へご相談ください。

 

中間転写ベルトのコンパウンドの混錬では、KOBELCOブランドの中古品を小平製作所で改良し、成果を出すことができた。KOBELCO製品の良いところは各部品の信頼性が高いことである。中古品でも中国のローカル企業の製品よりも性能が高い。

 

但しKOBELCO製品を使用しても、スクリューセグメントの設計が悪ければうまく混練できない。どのような材料を混錬したいのか相談すれば最適に近い設計を神戸製鋼がしてくれる。こうしたサービスも含めた価格と思えばKOBELCO製品は高くはない。

カテゴリー : 高分子

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2015.01/06 混練プロセス(2)

混錬の教科書を開くと分配混合と分散混合という言葉が出てくる。二軸混練機のスクリューセグメントの考え方でもこの言葉が使われ、両者の理解がその教科書を読み解くポイントになっている。

 

混練技術を現場で指導された時に、混錬とは混ぜる機能と練る機能の両者をバランスよく実現することであり、分配混合と分散混合の考え方では説明がつかない、と習った。そしてカオス混合という究極の混練技術の存在を教えられた。

 

カオス混合では混合と言う言葉が使用されているが、カオス混練と表現したほうが良い、とも習った。但しその実現方法は当方の宿題にされて30年間考えることになったが、指導社員の説明から混練技術が未だ科学として完成していないことを充分に理解できた。

 

しかし混錬の教科書を読むと、分配混合と分散混合の理論的扱いに終始した説明がなされ、あたかも混練プロセスは科学で説明がつくような錯覚になる。

 

指導社員から科学では説明がつかないロール混練の楽しさを教えられた。ただ二本の丸棒が回転しその間隙で混錬が進むのであるが、そこではカオス混合も起きている可能性があると説明を受け、毎日どの部分がカオスなのか観察をしながら仕事をした。同期の友人からは、訳の分からない説明をまともに信じて仕事を行う姿こそカオスだと笑われたが。

 

 

カテゴリー : 高分子

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2015.01/05 混練プロセス(1)

ゴム会社で3ケ月間防振ゴムの開発を担当した。新入社員のテーマとして一年間担当する予定のテーマだったが、サービス残業を行い3ケ月間で処方を仕上げた。指導社員が極めて熱意のある優秀な技術者で毎日最低2時間は混練技術の指導を現場でしてくださった。

 

物理が専門の技術者で一年間に得られるであろう重要なデータをすべてシミュレーションで示し、その内容を1週間かけて講義してくださった。研究の進め方について大学と企業の違いを知り、カルチャーショックのような衝撃を受け、駄馬の先走り状態になった。

 

この頃を思い出してみると技術者として最も充実していた。高純度SiCの仕事もそれなりに充実していたが、それは事業家としての充実感であり、技術者としては満たされない毎日だった。吸収した知識をすぐに実戦に生かす技術者としての醍醐味は防振ゴム開発の仕事ほどではなかった。

 

STAP細胞の騒動では未熟な研究者が指導者に恵まれなかった発言をしていたが、技術の伝承において優れた指導者は必須である。科学の知識は書物から学ぶことができるが、技術は書物だけで学ぶのは難しい。混練プロセスのような科学で解明が遅れている分野ではなおさらである。

 

指導社員はゴム会社であまり大切に処遇されていなかったが、実務者としての力量と技術の伝承者としての力量はずば抜けていた人である。部下の立場で評価すれば100点であったが、その上司の立場から見た時に高い評価を受けていなかった、と思われる。

 

サラリーマン人生を振り返ると、この指導社員より優秀な技術者には出会っていない。この指導社員の実務スタイルが、3ケ月の業務を終えた時に当方の目標になっていた。

 

たった3ケ月間混練プロセスを担当しただけであるが、優れた指導者のおかげで得意な技術分野の一つになった。35年前短期間に獲得した知識と技術で9年前中間転写ベルト用コンパウンド工場をやはり短期間に立ち上げることができた。

カテゴリー : 一般 高分子

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2015.01/04 FMステレオチューナーが壊れた

今やネット配信で音楽を聴く時代である。またオーディオという言葉も死語となりつつある。しかし、我が家では昔ながらのオーディオ機器で音楽を楽しんでいる。アンプやCDは単身赴任中に同僚から紹介されたROTEL製品に買い替えたが、チューナーは、40年前購入した製品である。

 

そのチューナーが突然壊れた。AMは受信できるので、FM受信機が壊れたようだ。各部にさびが少し出ている。古い装置なので集積化が進んでおらず、眺めていても楽しい。恐らくコンデンサーが壊れたのだろう。液漏れを起こしている。まだ漏れたばかりのようなので光の変化で輝く。

 

ディスクリート構成のアナログ回路は専門家に頼めば修理が可能かもしれないが、40年前ではさすがに修理して使う意欲もわかない。ところが驚いた。メーカーのサイトを覗いてもFMチューナーという単品商品が無いのだ。

 

今時FMチューナーなど売れないのだろう。ようやく一つ商品を見つけたが安い!40年前は10万円以上したデジタルシンセサイザーチューナーと同等のスペックの商品が3万円で購入できる!

 

物価上昇を考えても電化製品の性能と価格の関係は異常である。改めて技術の進歩のすさまじさを身に染みた。

 

ところでFMチューナーで何を聞いていたのかというと、土曜日夕方放送されているラジオマンジャックである。土曜日の夕食当番を務めながら、聞き流していた番組だが面白かった。FMチューナーが壊れたのをきっかけに我が家もネットオーディオへ移行しようと思う。

カテゴリー : 一般

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2015.01/03 技術の伝承とヒューマンプロセス

技術の伝承の重要性は、社会人になってから幾度となく聞かされた。しかし、その重要性が叫ばれながらもなかなかうまくゆかないようだ。写真会社で出願された特公昭35-6616特許(注)を掘り起し、パーコレーション転移の制御技術とその評価技術を20数年前開発した。

 

日本化学工業協会から賞を頂いたこの技術は、技術の伝承がまったくできていなかった典型的な例だ。コンピューターによるシミュレーションと帯電現象の科学的解明に努力し古い特許を見直したところ、重要な技術を発見できた。

 

科学の問題解決プロセスは真理を追究しそれを明らかにするのがゴールであるが、技術の問題解決プロセスは自然現象を活用できるように、それをいかにうまく機能させるか、がゴールになる。すべての自然現象が科学で解明されているわけではないので、技術ではしばしばその機能実現方法がブラックボックスになってしまう場合がある。

 

これを科学の力でリヴェールする技術開発をリバースエンジニアリングというが、企業の技術開発で採用されているその過程で科学の力不足をしばしば感じてきた。その分野の有識者に尋ねても不明だったので明らかに科学の力不足である。

 

科学で解明できない技術では巧みなヒューマンプロセスの成果によるものが多い。ノーベール賞を受賞したiPS細胞を作りだすヤマナカファクターは、テレビ放映されるまでその発見方法がブラックボックス化されていた。

 

テレビで放映されたその方法は、科学の常識から外れた24個の遺伝子を細胞に取り込ませようとした大胆な実験とあみだくじと同様の消去法によるヒューマンプロセスだった。

 

科学は知の体系であり、誰でも利用できる公開された権威ある情報も豊富だ。しかし技術については特許と製品、リタイアした技術者からその情報を得る以外に合法的な方法は無い。中には職人により生み出された技術もあり、このような属人的要素が強い技術ではその開発した本人が技術そのものとなる。

 

科学で実現された技術では厳密なロジックで真理に到達でき自然現象の活用方法をリベールできるが、ヒューマンプロセスによる技術では先端の科学的成果を集めてもうまくゆかない。そこで技術の伝承が重要になってくる。

 

(注)絶縁体である酸化第二錫を写真フィルムの帯電防止層として活用した技術。酸化第二錫にインジウムをドープすると高い導電性を持つようになる。これは透明導電膜ITOとして有名で、この特許が出願された頃から研究が始まっている。特許では酸化第二錫ゾルとして塗布液を作成しているが、これはナノオーダーの超微粒子が金魚のウンコのようにつながった繊維状の物質が分散したコロイド溶液で、この溶液に高分子を分散してPETフィルムに塗布すると光学的に無色透明な薄膜になる。しかしパーコレーション転移が起きにくく40vol%以上添加しても導電性が出ないのでインチキ特許とみられていた。ゴム会社から写真会社に転職した時にライバル特許を過去にさかのぼり整理しこの特許を見つけたが、ライバル会社の最初の特許ではこの特許を否定し結晶性酸化スズが良いというひどい特許が出願されていた。実は1980年代のセラミックスフィーバーで結晶性酸化スズは絶縁体であることが証明され、その酸素欠陥が増えてきて非晶質になると半導体になる科学的実験結果が報告されている。インジウムをドープすると正孔が増えるので導電性になる。特公昭35-6616の実施例に書かれた酸化スズゾルを科学的に分析すると、わずかに構造水を含んだ非晶質酸化スズが生成しており、1000Ω程度の導電性物質であることが都立大との産学連携研究でわかった。この程度の導電性があれば、パーコレーション転移シミュレーションで10の8乗Ω程度の薄膜を製造できることが示され、分散しやすいために転移が起きにくいゾルをいかに転移させるかと言う問題になる。転移を制御する因子を探すためにわずかなクラスター生成を評価できる評価技術が必要と考え福井大学客員教授時代に青木幸一教授と開発し、その評価技術を用いてコンビナトリアルケミストリーの手法で18vol%程度で転移を生じる条件を見出した。

カテゴリー : 一般

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2015.01/02 KKD

昨日高純度SiCの合成に初めて成功した時の不思議な体験を書いた。STAP細胞はその再現が困難であったが、このSiCの合成はロバストの高い技術として完成し、現在もゴム会社で事業として継続されている。

 

無機高分子と有機高分子の均一混合について、高分子科学をご存じの方はSTAP細胞と同様の違和感を感じられるかもしれない。さらに、それから合成された炭化物前駆体の特殊な熱処理プロファイルが見つかったプロセスが神がかり的だったことは、実験に成功した本人もびっくりしているくらい科学から逸脱している。

 

iPS細胞の誕生もこの高純度SiCの成功に近いところがある。しかし両者共通しているのは、勘や運だけで成功しているのではなく、その実験に至る過程には綿密な戦略があり戦術遂行過程で遭遇した現象を大胆に受け入れている点である。

 

ゴム会社に入社した時先輩社員から、この会社は科学的なプロセスを踏まず勘(K)と経験(K)と度胸(D)で開発が進められる、と自嘲気味に教えられた。

 

ところで、科学が成立する前の時代に行われていた技術開発では、科学が存在しなかったので経験(K)の積み重ねが重要であったと「マッハ力学史」に書かれている。

 

だから経験を重視した技術開発は人間本来の営みだから自嘲気味になる必要は無い。経験が積み重ねられたある日にひらめきがあり実行したらうまくいった、この経験の積み重ねが科学成立以前の技術開発の方法、と同書に説明されているので、勘と度胸もマッハに認められた技術開発を成功させる重要な因子である。

 

ただ大切なことは、マッハ力学史に書かれた順番は、経験が先にあり経験の積み重ねられた結果ひらめき(勘)が生まれ、思い切って実行(度胸)して新技術を生み出しているという流れだ。

 

経験が次の世代に伝承されれば、経験の組み合わせを見直す動きも出てくるだろう。すなわち戦略を立ててKKDを実行した人物もいたはずである。ガリレオガリレイなどはその代表者かもしれないが、マッハ力学史にはここまで書かれていない。

 

勘が先行するKKDはいただけないが、経験を重視し、科学的に立案された戦略に基づくKKDの技術開発は、新しい科学のシーズを見つけるためのヒューマンプロセスである。

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2015.01/01 神様

まだ喪が明けないので我が家の正月は初詣も無し。しかし新年を迎えたことで神様だけでもお迎えしたいと思ってみたが、最近はその神様、七福神も見かけない。

 

子供の頃、お正月に七福神の装束をまとった人たちが各家を周り、2-3分舞をして出てゆくという光景が見られた。そのうち七福神が5人になり、大学に入った時には一人になっていた。

 

東京に来てからは一度も見かけていない。実家は西本願寺の檀家だったが当方は特にどこかの宗派に属しているわけでもないのでこの七福神が好きだった。神様と言えばイエスキリストではなく七福神をまず思い浮かべる。

 

高純度SiCの初めての合成実験は無機材質研究所に納入された新品の電気炉で行われたが、電気炉の加熱開始から神様に実験がうまくゆくように祈っていた。頭に浮かんだのは大黒様である。突然プログラムコントローラーで制御されていた電気炉が暴走し、ぐんぐんと温度が上がり始めた。

 

1600℃で30分保持するプログラムが組まれていたのに、1800℃まで急速に温度が上がったのでびっくりして非常停止ボタンを押した。今度は温度が下がり始めたので、どうしようか、と慌てて担当のT先生に電話した。

 

せっかくの実験だからスイッチを入れて待っててください、と言われたのでスイッチを入れたら、なぜかプログラムコントローラーの制御は非常停止でスイッチが切れておらず、ヒーターの制御をはじめて程よい温度カーブを描きながら電気炉の温度を制御し始めた。

 

T先生がこられて状況を見てどこが異常なのか尋ねられた。アナログデータの記録が残されていたのでお見せしたら、確かに暴走していた、と納得してくださった。

 

ところが翌日電気炉の中をあけてびっくりした。ま黄色のSiCが合成されていたのだ。その後いろいろ実験で調べてみても、この時の温度条件が理想条件であるという結果が得られたが、電気炉の暴走原因を明らかにすることができなかった。

 

神様を信じるかどうかは科学の時代にナンセンスな議論かもしれないが、高純度SiCの特殊な加熱条件は、神様がいなければ見つからなかった、と思っている。新入社員の時の役員からのアドバイスと、この時の体験もあり、科学と、人間本来の営みの一つである技術開発の関係について考えるようになった。

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2014.12/31 学ぶ(3)

歌手の森進一氏が紅白出場50回定年説を提案し、歌手仲間の間で物議を醸しだしている。AKBなどのグループではピンで活躍するようになると卒業と称してグループから外れる。

 

後者は何となく理解できるが、紅白歌合戦は主催者であるNHKが不要と判断すれば出られない行事であり、必要と言われても歌手から断る自由のある行事である。このような行事に年齢や出場回数制限をつける意味があるのかどうかである。

 

確かに森進一氏の声では、ラジオで聞いている人に、その健康を心配させる可能性があり、それを気遣って引退したいというのは理解できる。しかしファン心理と言うのはそれでもその歌声を聴きたいのである。ファンが聴きたいのに歌手から定年を言い出すのはいかがなものか。

 

そもそも企業で定年を設けているのは、年功序列賃金のためである。弊社は定年のない会社を目指し給与制度もそのようにしている。紅白歌合戦のギャラが年功序列になっているとは思えないので定年制とする意図が見えない。若い人に機会を譲りたい、といっても芸人のそれを決めるのはファンと神様である。

 

生物学的に見て一律に定年を決める無意味さは、定年の延長の議論でも出ているのではないか。制度を維持するためにしかたなく定年というものを設けているはずである。紅白歌合戦では、定年が必要になる事件がまだ起きていない。細川たかし氏が倒れるまで歌いたいと言っていたが、本当に歌っている最中に舞台で倒れるようなことになったら、その時定年を議論する必要があるかもしれないが。

 

学ぶことも同様で学ぶために定年が無いことは衆知のことである。父は入浴中に亡くなったが、その直前まで読書をしていた。当方が若い時に学びについて議論をしかけたことがあるが、生きていくのに学びが必要と言う価値観の前には無意味であった。

 

人間が他の動物と異なるのはこの学びの姿勢と思っていたら、カラスがクルミの殻を割るのに学習していたことを知り、学びは生物の生きてゆくための自然な行為であることを知った。鳥の歌声に定年が無いように歌手にも定年など不要である。学び歌い生命を楽しんで来年も生きてゆこう!花冠大学(http://www.miragiken.com)もよろしく!良いお年をお迎えください。

 

 

 

学ぶ

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2014.12/30 学ぶ(2)

高純度SiCの発明や、カーボンだけでSiCを焼結する技術以外に、教科書に書かれていない、いわゆる定説からはずれた現象を大小幾つも経験をした。その中で大きなものと思っているのは、PPSと6ナイロンの相溶現象であり、某大学の先生から推薦された学会賞の審査の席で本当か、と言われた。

 

推薦してくださった先生にはご迷惑をおかけし退職直前で学会賞を取り損ねたが、製品が市場に出てすでに6年以上になる。学会賞は落ちても生産量は増加している。PPSと6ナイロンの相溶はフローリーハギンズの理論に反する現象であるが、技術として完成しカラー複写機の中間転写ベルトとして機能を発揮している。

 

この技術は左遷された5年間に温めていたアイデアを実行して完成させたものである。サラリーマンの左遷は暗い出来事として捉えがちであるが、学ぶための自由な時間ができる大切な時期でもある。定年を前にじたばたしても仕方がないし、早期退職を決意すれば怖いものは何もない。

 

腹をくくれば、人生の中で最も幸せに学べる機会となる。少なくとも退職までは給料ももらえるのである。給料をもらい学べる時間を多くとれる機会は、選抜された留学のチャンスか左遷され閑職となった時ぐらいしかない。

 

周囲から期待されず会社に貢献する大きな成果を出すと、様々な人間模様を観察でき楽しいものである。高純度SiCの成果もきっかけは、ゴム会社設立50周年記念で募集のあった論文コンテストで落選したことだ。論文にはゴム会社の基盤技術である高分子を前駆体として用いてセラミックス事業に進出することを書いた。

 

社長の全社方針としてファインセラミックスと電池、メカトロニクスが掲げられながら、その方針に最も忠実で実現可能性の高かった作品が落選したことを祝ってくれた友人が当方の気持ちを最も よく理解してくれていた。

 

その友人はコンテスト投稿前に当方の論文を一読し、この内容ではこのゴム会社で絶対に受けないし今回佳作にもならない、自分が見本を書いてやる、といって投稿し最優秀賞を受賞した友人である。

 

落選したことは悔しかったが、これがきっかけとなりセラミックスを学ぶ意欲は高くなった。この悔しさ以外にも様々な悔しさが重なり、それらがエネルギーとなって高純度SiCの技術を開発できた。挫折はそれを力不足ゆえに”学ぶ”機会として捉えることが大切で、真摯に努力を重ねれば必ずその成果はでる。社長から気合い一発の2憶4千万円を先行投資として受けた経験からそう信じている。

 

会社を起業して3年以上過ぎ、来年度末には5周年記念事業でもしたいと頑張っている。サラリーマン時代よりも挫折する機会は多く、学んだ項目の密度は若い時よりも高いような気がしている。ドラッカーはもう古い、と言われているが、経営者の道徳という観点では不変で、再度読み直している。

 

 

 

カテゴリー : 一般 連載

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