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2014.03/07 STAP細胞の再現性(2)

昨日の産経新聞朝刊に理研がSTAP細胞の作成方法の詳細を公表した、という記事が載っていた。小保方博士が先月その再現実験手順を作成し、再現実験に成功した、という情報も同時に報じられていた。作成方法の公開記事よりも彼女が元気に実験手順を作成していたことを知りほっとした。

 

当方でも彼女の現在の状況で平常心による仕事ができたかどうか自信はないが、彼女は責任を全うした。相当強靱な精神力の研究者と思われ将来が楽しみなリケジョ(www.miragiken.com)である。現代の研究者にとって社会に受け入れられるかどうかは重要なことである。若い研究者のモラールを萎えさせることなく再現実験を即座に推進できるようにした理研の対応も立派、といえるだろう。そのような恵まれた環境で仕事をした経験がないだけにうらやましい限りである。

 

さて、昨日の記事には再現性のために重要な点として生後一週間を過ぎたマウスの体細胞では作成効率が大幅に落ちることや、細胞を浸す溶液の酸性の度合いが変化しやすいこと、雄マウスの体細胞の方が雌より効率の良いことなどが公開されていた。

 

これらはSTAP細胞作成のための制御因子である。おそらく制御因子の存在を十分に調査せず研究を進めてきた問題が今回の騒動を引き起こしたのだろう。また一方で、研究を独占する方法として、このような制御因子の詳細を研究者は公開したくないことも確かである。後者については、科学者には許されない我が儘であるが、時としてそのような研究者がいる。

 

但しこのような姿勢は研究者には許されないが技術者には許される。技術者はそれにより自らの立場を守ることができるからである。技術者が社会で長生きするためには、機能を創り出すまでのノウハウ(注)を公開せず、機能を実現する方法だけを提供することである。安定に繰り返し再現性が得られる生産システムを自ら開発し、それで社会に貢献すれば技術者の責任は全うされるのである。科学者のように全てを公開する責任を負わず、安全安心安定な技術を提供するだけで良い。そしてできあがった機能について科学的に保証すれば技術者の仕事は終わる。

 

科学者は真理を証明するために全てを公開する必要がある。もし公開せず技術者と同じ態度を取ったならば今回のような混乱を引き起こすだけである。科学者は全てを公開することで名誉を獲得できる。それにより新たな仕事を呼び込むことが可能になる。秘密主義の科学者に社会は研究費を提供しない。秘密の多い科学者は技術者よりも極めてリスクが高くなるからである。

 

おそらく彼女は今回見いだされた制御因子の詳細をご存じないのかもしれない。すなわち彼女の属人的スキルでうまくSTAP細胞を創ることができていたが、STAP細胞に関する科学的研究については山中博士が指摘されたようにこれからスタートする状況と言えるだろう。彼女はSTAP細胞の発見者として評価されるが、STAP細胞の研究者としては他の人が評価される可能性がある。

 

(注)ノウハウの一つが弊社で販売している研究開発必勝法プログラムである

(古くて新しいセルロース(2)は明日掲載します。)

 

カテゴリー : 一般 連載

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2014.03/06 古くて新しいセルロース(1)

合成セルロース系高分子は、他の合成高分子と異なり、モノマーの重合や縮合などによって得られるのではなく、天然の高分子であるセルロースを化学的にエステル化またはエーテル化することによって得られる種々のセルロース誘導体を主原料とし、これに可塑剤その他の添加剤を配合して製造される。セルロース自体は溶融せず、熱可塑性ではない。

 

しかしサランラップはじめ石油モノマーから合成されたフィルムの普及であまり見かけなくなったセロハンや、これも他の合成繊維の台頭で市場占有率が縮小したレーヨンなどのように、苛性ソーダと二硫化炭素でセルロースを処理後、酸性溶液中に押出して得られる再生セルロースは、他の熱可塑性高分子に似た性質も備えている。

 

かつてセルロースの化学を語るときには、セロハンやレーヨンを中心にまとめれば、それで興味深い読み物になった。また、石油系ラップフィルムと異なりセロハンには透湿性があり、石油系ラップフィルムで包むと湿気で食感の変化するお菓子や惣菜をおいしく包むことができ、そのフィルム物性について読者の興味を引く内容にまとめることができた。40年ほど前には、セルロースの化学は別名繊維素系樹脂として重要な合成高分子の一つであり、高校の化学の教科書にもそのような紹介がされていた。

 

 

時代が変わり、環境ビジネスが取りざたされる昨今、天然高分子としてのセルロースにも注目が集まっている。しかし環境適合性の劣るプロセスで製造されるセロハンやレーヨンは、もはや研究対象ではなく、高度な機能性高分子としてのセルロース、あるいは環境に優しいプロセシングで製造されるセルロースおよびその応用製品の開発が期待されている。

 

(日本化学会から依頼され「科学と教育」へ4年前投稿した論文を本日から連続で掲載します。)

 

 

カテゴリー : 一般 連載 高分子

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2014.03/05 STAP細胞の再現性

STAP細胞の発表から1ケ月以上経過したところで何か怪しい動きがある。STAP細胞の実験について再現性が乏しいところもその一つ。当方は小保方さんの発明を信じているが、週刊紙にはえげつない書き方をしている例もある。科学者に任せておけばそのうち評価が固まるであろうが、このままでは若い研究者をつぶすことになりかねない。

 

当方も高純度SiCの新合成法を開発し学会発表したときなどはひどい目にあった。しかしそれが技術者として生きる決断になったのだから良かったのかもしれない。科学者の中には功名心から他人の足を引っ張る輩がいる。会社でFDを壊された嫌がらせもそのたぐいと捉えているが、今回のマスコミを巻き込んでの騒ぎは若い研究者にどれほどの心の傷を残すのであろう。しばらくそのままにできないのだろうか。

 

STAP細胞の再現性の乏しさは、その誕生の経緯からも予想がついた。小保方さんが行っていた実験は、彼女以外もやっていたはずで、その実験を担当した人には、皆STAP細胞発見のチャンスがあった。ではなぜ彼女だけがSTAP細胞を発見できたのか。

 

おそらくSTAP細胞は再現性の乏しい現象で、彼女以外も発見したかもしれないが、それを間違いの現象と決めつけたから、と想像される。科学に忠実になろうとしたならば、植物では起きるが動物では起きない、とされた学説を信じる以外になく、この学説を元に仮説を立てたならば、否定証明しかできないからである。

 

彼女は再現性の乏しい現象でも、自分を信じた。自然界がほんのわずかに見せたスキを逃さなかった。忍耐強く技術によるチャレンジを繰り返し、STAP細胞をある確率で創りだす技術を見いだした。まだ科学ではないのである。

 

このように技術が科学を生み出した場合に学会は冷たい行動をする。新しい科学の芽を技術による発明や発見が実現してきたことを忘れて。理系女子の未来技術というホームページ(www.miragiken.com)では、技術が科学を牽引する新しい時代として未来を捉えている。現代の発明や発見は、自然界で偶然接する機会だけでなく、新技術を用いた実験で行われる可能性が高いからだ。

 

 

 

カテゴリー : 一般

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2014.03/04 リケジョのページ

この数年理系女子が注目を集めている。流行を追いかけているわけではないが、ホームページ(www.miragiken.com)を立ち上げ、不定期に更新を始めた。

 

弊社の活動報告では、過去の技術開発経験を書いているが、理系女子のサイトでは未来技術の可能性について書いてゆく予定である。

 

書き出しは未来技術を開発するためには、「技術」が重要になってくる点に着目し、科学と技術の違いについて物語が展開してゆく。

 

20世紀は科学の時代であった。すなわち科学が技術を先導し、技術が発展してきた。しかし、iPS細胞やSTAP細胞の発明では、技術が先行し科学が構築されてゆく展開となっている。

 

STAP細胞については、科学が確立していない、ロバストの低い技術で生まれたばかりの状態が著名な科学雑誌に掲載されたために、騒がなくても良い週刊紙までもがあたかもインチキな発見のごとく書き立てている。

 

21世紀はこのような状態が、まだ現れるのではないだろうか。今年の6月に高分子学会のシンポジウムに招待講演者として講演依頼を受けたが、そこでは科学ではなく技術の講演を行う。

 

かつて高純度SiCの技術を日本化学会春季年会で初めて発表したとき、有機無機ハイブリッドなど概念が存在しなかった時代なので袋だたきにあった。今回は招待講演なのでその様なことはないと思うが、技術が先行してもそこに科学の芽を見いだし、育てるのはアカデミアの役目である。科学的ではない新しい技術をけなしてみても仕方がない。

カテゴリー : 一般

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2014.03/04 有機無機複合ラテックス(3)

コアシェルラテックスを開発していた担当者とこの点を議論したが、不可能という回答であった。目の前に従来技術による理想的に混合されたマンガを書いて議論していたのだが、コロイド科学の知識を活用して見事な否定証明を展開した。

 

コアシェルラテックスと従来技術の比較を検討してくれたメンバーAをよび同様の議論をしてみた。すると、シリカゾルをミセルにしてラテックスを重合すれば良い、というアイデアが生まれた。すばらしいアイデアである。ゾルをミセルに用いたラテックス重合技術というのは当時誰も研究していない新規コンセプトであった。

 

この新規コンセプトについてラテックス重合を担当しているメンバーに話したが、やはり軽く否定証明でつぶされた。あまり軽妙に否定証明を展開してくれるので、コアシェルラテックス合成実験の全データをメンバーAに検討させたところ失敗した実験データの中から、ゾルをミセルにしたラテックス重合を実現できるヒントを見つけてくれた。

 

すなわちゾルをミセルにしたラテックス重合は、コアシェルラテックス検討過程の失敗条件から生まれた。さっそくメンバーAにラテックス重合技術を勉強させて、最適化検討を行ったところ、3週間ほどで、シリカゾルをミセルに用いたラテックスが完成した。驚くべきことに、このラテックス溶液にゼラチン水溶液を添加してもシリカゾルの凝集は生じなかった。

 

こうして従来技術の改良に成功し、できあがったゼラチンの性能についてコアシェルラテックスを用いた場合と比較したところ、2割ほど性能が優れていた。

 

ゾルをミセルに用いたラテックス重合技術が完成したので高分子学会賞に応募したら、審査会でそんなもの誰でも知っている、と言われ落選した。1996年のことである。その後ラングミュアという科学雑誌にイギリスの研究者によるゾルをミセルに用いたオイル分散の研究報告が載っていたが、そこには実験の成功は世界初と書かれていた。

 

カテゴリー : 一般 連載 高分子

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2014.03/03 有機無機複合ラテックス(2)

コアシェルラテックスはゼラチンの靱性改良技術として究極の方法と考えられた。少なくとも従来のシリカとラテックスを併用する方法で、それをナノレベルで一体化しているのだから究極と呼んでも良いだろう。

 

転職した会社では重要テーマと位置づけられ後追い技術が検討されていた。後追い技術では特許回避が必須となる。当然技術に無理が生じる。写真性能へ副作用が現れたり、工程で問題を起こしたりと様々な弊害が現れる。

 

何故同じ技術を追究しなければいけないのか担当者に尋ねた。担当者は他に技術が無いからだ、と答えてきた。また、コアシェルラテックスは自分たちも追求していた技術だという。頭が熱くなっている状態で他のアイデアを考えさせても無駄である。

 

3名ほど高分子物性に興味を持っている連中を集めて、従来技術とコアシェルラテックス技術の違いをまとめさせた。するとゼラチンを硬くする、という目的のためには、従来技術のほうがコアシェルラテックスよりも優れていることが分かった。換言すればコアシェルラテックスは、水で膨潤したときのゼラチンの硬度低下を和らげる程度であるが従来技術は、水で膨潤したゼラチンにある程度の硬さを持たせる効果があった。

 

コアシェルラテックスは究極の技術では無かったのである。シリカのまわりをラテックスで覆った副作用があったのだ。

 

一方従来技術では、シリカとゼラチンが直接接触しているので、ゼラチンを硬くする目的では、コアシェルラテックスよりも効率が高く、同一シリカの量で比較するとゼラチンの弾性率を高くできる。問題は、シリカとゼラチンを混合、あるいはシリカとラテックスを混合するときにシリカのゼータ電位が変化し、一部凝集する現象である。すなわちこの混合時に発生する凝集の問題を解決すれば従来技術でも超迅速に対応出来るゼラチンを作ることができる。(続く)

 

 

カテゴリー : 一般 高分子

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2014.03/02 有機無機複合ラテックス(1)

バブル崩壊直前に写真会社へ転職したころ、写真業界では脆いゼラチンを強靱化する検討がされていた。写真フィルムを現像処理すると、ゼラチンが水を吸って膨潤したときに割れやすくなり、その処理速度を速くすることができなかった。現像処理速度を速くするためには写真フィルムの感光層に使用されているゼラチンを強靱にする必要があった。

 

ゼラチンは水に膨潤すると柔らかくスリキズがつきやすくなる。それを硬くするためにシリカと呼ばれる無機微粒子が添加されていた。しかし、無機微粒子が添加されたゼラチンが乾燥したときにひび割れやすくなるので、それを防止するためにラテックスと呼ばれる柔らかい微粒子が添加されていた。

 

すなわち硬くするためにシリカを添加し、その結果さらに脆くなったゼラチンの物性を改良するためにラテックスを添加していた。ややモグラたたき的技術のようだが、このシリカとラテックスを併用する方法は10年以上の実績があり、感光層のバインダー技術として重要であった。

 

しかし、現像処理速度が速くなるにつれて、その技術では対応出来なくなり、ライバルの写真会社から、シリカをコアにしてそのまわりをラテックスで覆ったコアシェルラテックスという技術が登場し、超迅速処理技術として注目された。

 

コアシェルラテックスはシリカとラテックスが一体化されているので、ゼラチン水溶液に分散してもシリカの凝集が発生せず安定なコロイドを生成する。そのためプロセス上のメリットも大きかった。

 

このコアシェルラテックス技術はナノテクとしても注目され、高分子学会でも取り上げられた。単なるシリカの表面処理では無く、シリカの微小な表面上でラテックス重合を制御するという極めて高度なナノテクであった。またできあがったコアシェルラテックスは有機無機複合ラテックスでもある。(続く)

カテゴリー : 連載 高分子

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2014.03/01 技術の伝承

科学は体系化されているのでその伝承は容易である。また人類の科学の成果は小学校から高校までかけて学ぶことになる。そして大学に進学すればそれぞれ専門の科学を学び、また新たな科学を生み出す研究に携わる。

 

しかし、技術についてその体系を学ぶ機会はメーカーに就職しない限り一般に無い。職能訓練の学校でも技術を学べるが、それは基礎的な技術であり、新たな商品を創り出す技術まで学べない。

 

「現場現物主義」という言葉があるが、ゴム会社に入るまでこの言葉を聞く機会は無かった。ゴム会社では科学よりもこの原理が優先された。まさにこれこそ技術の世界である。技術では、機能が実現されなければ間違っているのである。科学では、論理的に正しければ機能が実現されなくても正しいとされる。

 

また、科学では否定証明を得意とするので機能が実現されていない状態を「だからできないのだ」と証明してみせることは朝飯前である。技術では科学的に正しいのか間違いなのか関係なく、再現よく機能を実現できて初めて正しい技術となる。

 

新入社員の最初のテーマで難しい樹脂補強ゴムの開発を担当して良かった、と思っている。技術とは何か、という問題を体で考えることができたからである。メンターから渡されたのは、一つのゴムサンプルとその配合表及び物性表である。そしてこのサンプルゴムと同一のゴムができるまで新しい実験に進んではいけない、と言われた。

 

最初は2-3回の練習で何とかなるだろうと思っていたら、物性表と同一のデータが得られるまでに、周囲の諸先輩の御指導がありながら1週間かかったのである。頭で考える限り大した作業ではない。またメンターが手順を教えてくださったときにも大した「技」があるようにも見えなかった。しかし、配合物の計量から加硫工程、サンプルのエージングまでのプロセスには様々なノウハウがあり、一つでも手を抜くとメンターから渡されたサンプルゴムと同一のゴムができなかったのである。

 

幾つかのノウハウは反応速度論の観点から科学的な説明を与えることも可能であった。しかし大半はなぜその作業を行わなければならないのか今も不明である。しかし、その作業が行われなければ同一のゴムができなかったのである。

 

メンターは周囲から新入社員のいじめにならないか、とからかわれていたそうだが、技術の伝承という視点では、良い方法だった、と思っている。少なくとも科学で考えても分からない世界が存在することを、そしてその中で技術開発を進めなければならないことを学ぶには大変良いテーマだった。一週間大変だったが。

 

カテゴリー : 一般 高分子

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2014.02/28 電脳書店

弊社は、電子出版社としてスタートしました。1年ほど「電脳書店」という電子出版サイトを運営していたのですが、訪問者も少なく事業になりませんでした。毎月のように新刊の電子出版を行っていたのですが、それでも訪問者数増加につながりませんでした。

 

声の出る中国語教則本や中国語基本5文型、電子セミナーなどユニークな書籍を揃えたのですがさっぱりでした。中国語基本5文型は、中国語の文型を解析し体系化した意欲作で、中国語が5文型で整理できる、という点でも画期的な書籍と思いましたが、日中関係の悪化とともに、閲覧者も0となりました。

 

32年間の開発体験をもとにまとめた高分子のツボセミナーは、そこそこ売れましたので我慢して継続する選択もありましたが、思い切って事業の見直しを行いました。会社のホームページもリニューアルし、この活動報告には32年間の研究開発の実績で若い人の参考になりそうな項目を取り上げ毎日書いてきました。

 

幸いなことに電脳書店の訪問者数を大幅に上回る訪問者が毎日弊社のホームページへ来訪し、質問やコンサルティングの依頼も頂けるようになりました。WEBの世界の特徴を少し学んだように思っています。

 

電脳書店を閉鎖して1年間にいろいろ活動してきまして、3月から全く新しい電子出版事業を試行することに致しました。すでにホームページ(www.miragiken.com)を立ち上げましたので一度ご覧ください。

 

このホームページは、電脳書店で販売を予定していた書籍を作り直した成果です。すなわち、他社で行われている書籍を電子化した電子出版とは異なる全く新しい形態を検討しWEBで物語を展開するアイデアをスタッフと検討しましたところ可能性が広がりました。

 

昨今流行のリケジョ物ですが、リケダンでもオタクやオッサンでも楽しめる展開を企画しておりますのでご期待ください。

カテゴリー : 一般 宣伝

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2014.02/27 「現場力」が新しい科学を生み出す

京大山中先生のiPS細胞によるノーベル賞に続き、若い理系女子小保方博士による「STAP細胞」の発見と現場力による生科学の大発見がこの2年間続いた。後者については研究者の稚拙なミスから週刊紙で騒がれているが、事実は変わらないだろう。

 

かつて高純度SiCの前駆体を有機無機ハイブリッドで合成する手法を生み出し、この材料の概念自体が新規な時代に日本化学会年会で発表したらこてんぱんに叩かれた。その2年後有機無機ハイブリッドの研究報告が日本化学会で活発に議論されるようになるのだが、この世界初の発表のことなど忘れ去られた。

 

さらにその前駆体の反応速度論の論文は、研究の発案者で実施者でもあり論文の著者なのに内容を相談した先生が筆頭となり発表された。30年前の出来事だが、科学が技術を牽引していた時代の話である。しかし昨今科学的成果に新技術を生み出すネタが少なくなってきた。さらに科学までも技術のように現場力で生み出される時代になった。

 

科学と技術は全く異なる概念で、科学は真理を追究することが目的の哲学であるが、技術は機能を実現する方法である。すなわち技術とは人間の本来の営みであり、これを車の両輪で表現する人がいるが、ラジアルタイヤと木製の車輪をつけた台車を動かしていることに気がついている人はどれだけいるのか。

 

技術では、機能が正しく発現しているのか、あるいは何か不具合が発生しないか見るために「現場力」が極めて重要である。そして何か問題が発生したならば、とりあえず機能を正常化するために対応をとることが大切である。この現場対応には科学的である必要は無い。それこそ機械を金槌で叩いて機能を正常化しても良いのである。大切なことは対策が機能正常化に有効な対策であることだ。だから金槌で叩くのは最後の手段でも行わない場合が多い。

 

現場力では常に逆から物事を考えることが要求される。なぜなら、現場では目の前の機能不全に対して直接有効な手段をとらなければいけないからである。科学的に正しいからといって、機能不全を解消できない対策を打ったところで問題解決したことにはならない。あくまでも機能を回復できたときに技術的に正しい答になる。

 

それが例え科学的に正しくなくても技術的に正しければ、科学が間違っているのかあるいはそのような対策を生み出す仮説しか立てられなかった科学の欠陥が原因である。STAP細胞は若いマウスの細胞をスポイトで分離している作業から見つかった。すなわちスポイトにいれた若い細胞には初期化可能な幹細胞が含まれていないのにスポイトからそれが出てくることに疑問を持ったからである。

 

小保方さんの現場力がそれを見落とさなかった。科学の欠陥として発見したのである。そして科学のしきたりで今騒がれているのである。いくら科学者が騒いでみても「現場力」が新しい科学を生み出している事実は変わらない。

カテゴリー : 一般 高分子

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