樹脂の粘弾性測定を行い、温度分散のグラフを書くと、TgとTmの間に変曲点が観察される。面白いのはこの変曲点で金属に対する接着力がほとんど無くなる現象である。
この現象を知っていると、混練機の掃除が楽になる。混練実験終了後混練機のスクリューとシリンダーを清掃するためにクリーニング樹脂を流すことがお決まりであるが。
たいていは、混練した樹脂よりも低融点の専用の樹脂を使用するのだが、PPSコンパウンドの開発を行っていた時に、このクリーニング樹脂を使用せず、混練実験直後250℃前後の温度領域で清掃をしてみた。
驚くほどきれいに掃除ができたので、担当者にノウハウを指導したところ、最初は不思議そうな顔をして説明を聞いてくれた。不思議そうな顔が怪しい話を聞いている顔に変化したので、いくつか配合の異なるPPSコンパウンドのレオロジー特性を測るように命じた。
頭のいい担当者だったので、すぐに変曲点の存在に気づき、面白いコンパウンド評価法を開発してくれた。詳細をここに書けないが、この変曲点がコンパウンドの品質とも関わっていることを発見して、品質特性の評価法を作ってくれた。
この評価法は、タグチメソッドの基本機能としても使える方法に思われたので、新しく設計したPPSコンパウンドの最適化に使ってみたところ、びっくりする実験結果が得られた。
タグチメソッドではロバストを高めた条件から調整因子を用いて感度をあげる二段階手法となるのだが、ロバストと感度が相関し高くなる、という幸運な実験結果が得られている。一般に感度が高くなるとロバストは下がる傾向の実験結果となる。
18年前の実験結果であり、もう公開しても問題ないと思っているが、ここに詳細を書くにはあと2年待ちたい。これまで、だれか学会で発表するかもしれない、と期待していたが、現場で発見された現象であり、アカデミアでは気がつかない現象かもしれない。
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20世紀には、ロジカルシンキングやTRIZなど科学の手法による問題解決法のセミナーが流行した。弊社では、問題をシステムとしてとらえる新たな問題解決法を創業以来提供している。
この問題解決法については、企業の研修用として提供してきたが、来年度はこれを分割してセミナー教材としても提供することを企画している。
その中の一つにデータサイエンスを活用した問題解決法がある。データサイエンスについては、統計手法はじめ様々な手法が存在し、さらに数学の知識も要求されるので短時間のセミナーでは難しい分野である。
しかし、難しい数学についてはプログラムを配布することにより、その考え方の理解で活用できるようになる。Pythonが普及してきたのでこのプログラム配布という対策で数学の詳細説明を省略できるので1日のセミナーに手法の数々をまとめることが可能となる。
さらに、当方の40年以上の実績から事例を選択し説明するので実務に密着した問題解決法のセミナーに構成できる。ご期待していただきたい。
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今朝この欄を書いていたら、NHKニュースで農研機構で取り組んでいるお米の辞書作りという活動が紹介され、面白い試みということで書く内容を変更した。
朝のニュースのながら視聴であり、詳細は後で確認する予定でいるが、お米の味について食感も含め、4つのカテゴリーでその表現をまとめている、という内容である。
科学がうるさく言われるこの時代に、アナログ的というよりも情緒的な表現で200種類以上もあるお米について、「言葉により」分類しているという。
このニュースに耳が動いた背景は、通常このような作業では、計測器で分析なり評価を行い数値化して取り組み、何か尺度を決め、それを仕様として分類してゆく。
しかし、そのような数値に頼らず、主観的と呼びたくなるような表現でお米の特徴を表現してゆく作業は非科学的である。
TVに登場した研究者たちは、お米を試食しながら真顔でふっくらした、という平凡な表現から、草のかおりなど普段お米の味などで使わない表現を出し合い、お米の味についてまとめていた。
これ以上ここで書かないが、この作業について科学の方法を知らない人たちの作業、と感じた人は、時代遅れである。トランスサイエンスの問題では、このような取り組みでアプローチする工夫も必要であり、その結果をデータサイエンスで処理するという方法は、科学の方法と異なる問題解決の一手法である。
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構造材料分野を眺めてみると、金属とセラミックス(ガラスも含む)、高分子と3種のカテゴリの材料が存在する。そして環境問題となると高分子材料にスポットライトが当てられる。
2015年頃から脱高分子とヒステリックに叫ばれたが、昨年再生材の活用に関する法律が施行され、脱高分子から再生材技術の開発へとブームが変化し、高分子再生材がバージン材よりも高騰するような事態となっている。
10年以上前から高分子再生材の技術開発を行ってきた当方は仕事がやりにくくなった。10年前は再生材の活用が多少なりともコストダウンにつながったのだが、最近では環境対応というプレミアがつき、どちらかと言えばスペシャリティーポリマーに近い感覚になってきた。
この感覚に変化したことによりぼやきたいことはたくさんあるのだが、スペシャリティーマテリアルズの開発であれば、金属やセラミックスの技術開発を支援していた方が楽しい。
機能性高分子の開発というテーマはそれなりに面白いが、機能性セラミックスの開発ほど楽しくない。この楽しみの尺度については少し書きにくいが、金属から高分子まで研究開発を行ってきた経験から、機能性材料の開発というテーマでは、有機材料よりも無機材料のほうが楽しいと思っている。
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金属やセラミックスの破壊機構やその寿命について形式知が存在し、予測が可能だ。そしてその予測法が裁判で用いられたりしている。御巣鷹山の旅客機墜落事故でもこの成果で、墜落した飛行機が以前羽田でしりもち事故を起こしたことが原因と結論が出ている。
この裁判で用いられたのは、フラクトグラフィーと呼ばれる手法だが、高分子材料技術者でご存知の方は少ない。そもそも高分子材料の破壊について詳しい研究者も少なくなった。
ゴムについては理解しているが、樹脂については知らない、と平気で答えるアカデミアの先生もいらっしゃる。しかし、この先生は誠実である。樹脂とゴムでは異なる破壊機構となる場合があるからだ。
また、樹脂の破壊原因とゴムの破壊原因では、前者の方が考察するときに困難を伴うこともある。当方が福井大学で客員教授をしていた時に講義でこの話をしたら、留学生の聴講生が材料力学の講義でそのような説明が無かった、と不満そうな質問をしてきた。
日本の大学で材料力学や応用力学の講義をするときに破壊の話まで扱わないからだが、これは、破壊力学の考え方のパラダイムが異なるためである。
当方はゴム会社でゴムからセラミックスまで扱ってきて、社内の破壊の専門家との交流を通じ、このことを学んでいる。特に一人ゴムの破壊についてマニアと呼んでも良い研究者がいたので、樹脂補強ゴムを開発していた時に大変鍛えられた。
ゴムの破壊機構が分かっていないのに樹脂で補強した材料を開発して寿命をどのように評価するのか、と当時は大変いじめられた。しかし、このいじめがあったおかげでよく勉強できた。
金属やセラミックスの破壊については、社内の優しい破壊の専門家からご指導いただき、やはりよく勉強できた。金属やセラミックスの破壊の研究者は優しかったが、ゴムの破壊マニアの研究者にはやたらといじめられた。
おそらく、形式知が完成していない分野だったので、いじめる以外知の伝達方法が無かったのだろう。素直に自分も良く分からない、と言ってもらえればうまくコミュニケーションも取れたのだが残念である。
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モビリティーショー2023で是非見学していただきたいのが未来の水素社会である。水素が燃料以外の分野にも応用され新たな商品が提供される様子が展示されている。
燃料として普及すればコストも下がるので応用分野が広がる。日本はEVで出遅れている、と言われるが、このような展示を見ると自動車のEV化を水素燃料電池も含めたときにかなり進んでいるような印象となる。
ただし、これまでのガソリンスタンドが、合成燃料や水素、電気と多種類のエネルギー供給ができるようになるためには、かなりの投資が必要だ。
東京では本屋だけでなくガソリンスタンドまで減少している。地価の高い東京でこの状態を放置すれば東京都内で自動車の燃料補給が不便となる。見学しながら社会インフラが心配になってきた。
モビリティーショー2023では映像でこのあたりの未来図も見せてくれるが、はたしてそのようにうまくイノベーションが進捗するのか少し疑問がある。
東京モーターショーが単なる自動車ショーではなくなり、移動手段の未来展示ショーとなったので家族でこれから進行するイノベーションを語るきっかけの場として楽しめる。
また、遊園地のように遊べる仕掛けもあるので休日に家族で出かけられてはいかがだろうか。遊園地へ遊びに行く感覚で自動車マニアならば堂々と家族と1日楽しめる。
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昨日表題のショーのプレス発表を見学してきた。すでに昨日の夕方以降のニュースで報じられていたように、4年前まで開催されていた東京モーターショーが模様替えしたショーである。
東京モーターショーは、かつてアジア最大のモーターショーと呼ばれていたが、10年ほど前から上海モーターショーに抜かれ、6年前には出展しない自動車メーカーも現れた。
4年前、展示方法の一部見直しが行われ、家族が一日楽しめる催しとなったが、今回は名称も変わり、自動車以外の移動手段の乗り物が多く展示されるだけでなく、車に代わって新しい移動手段が使われた時の生活全体の変化を提案するような展示内容となっている。
これはアカデミアからの展示も同様であり、およそ車とは関係ない展示もあった。しかし、説明を聞くと、なるほどと納得できるので面白い。
子供だけでなく主婦にも配慮した展示が成され、まさに家族でモビリティーの未来を楽しむ展示会になっている。水素社会では、コーヒーまでも水素焙煎される、という説明には便乗しすぎの感もあったが、試飲をしてコーヒーメーカーの姿勢には納得してしまった。
かつては自動車ファンの展示会だったが、このような家族で未来社会を考える展示会は未来の消費社会創造の意味で、メーカーとしては未来も持続的活動をするうえで重要だろう。
共創が言われて久しいが、これまでメーカーが提案してきた消費社会がメーカーと消費者とが共創する時代に代わったことを実感できる展示会なので、家族で楽しむだけでなく、今回出展していないメーカーも共創というものを考える時に参考になる。
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「おーい、お茶」のCMにAIにより生成されたタレントが使われるという。見てみるとかわいい子である。そのような指摘を受けなければ気がつかない。これに対し、俳優の平岳大氏が「無神経」と警鐘を鳴らしたことに賛否両論の議論がなされている。
本件、今ひとつ理解できないところがある。日本でAIが生成したタレントを使うことに問題はないはずだ。さらに、平氏が指摘したアメリカで騒がれている問題について、何か結論が出たわけではない。
役者の市場がAIに奪われる心配をして無神経だ、と言っているだけ、と捉えれば賛否に意見が割れて議論するまでもない。現在のところ、どうでもよい問題かもしれない、と思っている。
どうでもよいのにこの欄で取り上げたのは、第三次AIブームが単なるAIブームではなく、DXの一翼となり展開している事実である。AIの生成したタレントCMは単なる話題だけで終わるのか、このようなCMが増えてゆくのかは、「おーい、お茶」の売れ行きで決まるかもしれない。
あるいは、売れ行きなど関係なく、続々とこのようなCMが一時的に増えるのかもしれない。しかし、すべてのCMが、このようなAI生成タレントに奪われるとは思えない。
「あの人の使っている、あの商品」というパターンで売れている商品があるからである。故平幹二郎氏は、何かお中元かお歳暮の宣伝をやっていたような記憶がある。彼が出てくると、亡父は「もうその時期か」と言っていた。
しかし、佐久間良子氏は、コーセー化粧品にSBカレー、旭化成のCMなど今ならばCMの女王と呼ばれそうなぐらい、いろいろなCMで見かけた記憶があり、そのイメージで浮かぶ特別な商品はコーセーぐらいである。
このように商品の顔ともなるCM出演者にアニメやAI生成タレントを使うかどうかは、その商品を売り込みたい市場で決まると思われるので、芸能人が心配するような仕事の減少にはならないように思う。
それよりも、このCM戦略が成功するかどうかのほうが商品の宣伝担当者にとって問題だろう。当方もこのAI生成タレントCMが成功するかどうか、そしてその社会的影響に関心がある。
平幹二郎といえばお中元かお歳暮、佐久間良子ならばコーセーとなるが、AIタレントでおーいお茶、とはならないような気がする。
おーい、お茶は、そのネーミングの良さが新発売された時に話題となっているが、おくりびとのお茶のようにCMタレントを思い出せない。お茶を買う時には自然と緑のキレイなデザインのお茶を手にする習慣となっている。伊右エ門である。
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材料技術者としてゴム会社でスタートできたことは、自己実現を考慮した時に幸福だった。特に混練の神様のような指導社員に3か月指導していただいた記憶は今でも鮮明に思い出される。
その時の講義録を基に、ゴムタイムズ社から混練プロセスの本を出版させていただいたが、もし、混練に興味が出てきたら一度読んでいただきたい。巷の混練について書かれた書籍と少し内容が異なる。
混練でおきる現象を考えるために参考となるようにまとめているので、読みやすいと思う。また、二軸混練機についても説明を加えているのでゴム技術者から樹脂技術者まで広い読者の参考となるはずだ。
さて、この本には書いていないが、相容化剤が添加されていなくてもプロセシングで相溶現象を起こすことが可能である。しかし、これは非科学的な現象なので、本では実験データだけ示した。
実はロールでゴムのブレンドを行うと、しばしば観察される現象である。また、指導社員からロール混練では、ロール上で起きる現象について科学にとらわれず観察するように指導された。
2成分のゴムのブレンドでは、その組み合わせにより、全体が透明になって混練が進行するケースや半透明で進行するケースなど様々である。これらを観察することでカオス混合のアイデアが生まれた。
カテゴリー : 一般 高分子
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ゴムでも樹脂でも二種類以上の高分子を均一に混ぜたいときにコンパチビライザー(相容化剤)を検討する。高分子が相溶する組み合わせの場合には必要ないが、多くの組み合わせではこの添加が必要となる。
添加をしなくても混練機を使えば混ざったように見えるが、電子顕微鏡で見ると少ない方の樹脂なりゴムが島状に分散している様子を観察することができる。電子顕微鏡でなくても光学顕微鏡でも観察可能だ。この島のサイズが大きな時には肉眼でもあるいは手触り感でも確認できる。
ゴム会社に入社し、研究所へ配属された時の初めてのテーマが樹脂補強ゴムだった。1年間のテーマを3か月でやり遂げ、褒められるのかと思ったら職場異動となり、高分子の難燃化技術で新しいテーマ企画をすることになった。
難燃化技術で世界初の技術を企画せよ、と指示を受けたので、難燃剤を添加しなくても高い難燃化効果の得られるホスファゼン変性ポリウレタン発泡体を企画している。
もっともこの発泡体はホスファゼンで変性されているので、難燃剤で変性した発泡体とみることができるが、当方の頭に浮かんだのは嵩高い基で変性された時のポリウレタンの物性変化である。
また、ホスファゼンはポリエーテルに相溶しないので、コンパチビライザーを用いずにうまく分散する技術の可能性を検討したかった。技術開発において世界初の要素が多い技術はその数だけ難易度が高くなる。
樹脂補強ゴムは、指導社員の助けもあり、3か月で製品の配合までまとめ上げたが、ホスファゼン変性ポリウレタン発泡体は、工場試作を成功させるまで半年かかった。それでも早い方だったらしく、上司から褒めていただいたが、それは一瞬だった。一か月後には当方が始末書を書かされている。
工場のラインを使っても、コンパチビライザーを用いず分子レベルでホスファゼンをポリウレタンに分散させることができたので当方は満足だった。
1970年代にフローリーハギンズ理論が活発に研究され始め、1980年代には、コンパチビライザーの新製品がいくつか開発された。しかし、コンパチビライザーを用いなくても均一に分散できる技術は未だにその手段は少ない。
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