1933年グッドリッチによるTPEの発明から、1960年前後のTPUの衝撃そして1980年前後のTPVの開発まで材料開発の歴史を昨日簡単にまとめた。そして、TPVが樹脂補強ゴムに追いついていない原因がプロセシングにあると述べた。
TPVは、樹脂補強ゴムに比較し性能は劣っていたが、当時存在したTPEの性能レベルは十分に満たしていた。1981年にMonsantoによるEPDMとPPによるTPVの工業化(サントプレーン)が行われた。その後30年間は、積極的にTPEの開発が行われ、1982年にAtochemによるポリアミド系TPE、1987年にはダイキンによるフッソ系TPEの工業化がされている。
TPVについては、この30年間樹脂補強ゴムを目標に開発が進められ、21世紀に入り、自動車用ゴム部品を置き換えるまでに至った。また、学会報告も多数行われ、樹脂が海で加硫ゴムが島なのに、柔らかいTPVを製造できる原理も分かってきた。
ゴム会社で樹脂補強ゴムの開発が行われた理由は、タイヤのビード部に用いる硬くてしなやかなゴムの製造技術が存在しなかったからである。すなわちそのようなゴムを製造する為には、繊維などを用いて複合化しなければならなかった。
そもそも柔らかいゴムを製造することは易しかった。分子運動性の高いゴム分子の加硫密度を低く設計すれば柔らかいゴムを製造できる。しかし硬いゴムは難しかった。加硫密度をあげるとゴムの靱性が著しく低下するのだ。そこでゴムにフィラーを添加し、ミクロ構造で複合化する技術が誕生する。フィラーにはカーボンブラックやシリカゾル(ホワイトカーボン)が用いられる。
フィラーと架橋密度で硬度と靱性のバランスの取れたゴムを設計する技術が100年以上続いた。しかし、車の重量を支え振動吸収も可能な硬いバネのようなゴムは、フィラーと架橋密度のバランスを調整するだけでは実現できず、繊維などでビード部を補強するマクロ的な複合を行わなければいけなかった。
フェノール樹脂を海に加硫ゴムを島とする樹脂補強ゴムは、1970年末に市場に登場したが、フィラーと架橋密度のバランス調整だけでは到達できない硬度と振動を吸収するバネの役割を見事に果たしていた。しかし、この樹脂補強ゴムをTPVで実現することは難しかった。
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30年以上前に開発された樹脂補強ゴムと類似組成および類似高次構造のTPVも存在するが、物性が大きく異なっている。特にTPVは耐久寿命と圧縮永久歪が悪い。この物性の差は、プロセシングも含めた処方設計の違いに由来する。何がどのように異なるか、そしてどのような技術開発を行えばその差を小さくできるかは、弊社のコンサルティング内容である。
TPVは、樹脂補強ゴムと同じ頃発明されているが、30数年間その性能差は縮まらなかった。今ようやく肉薄できる(?)ところまできて自動車部品に展開されている。およそ材料技術の進歩はこのぐらいのスピードである。大きなイノベーションが無い限り、飛躍的な進歩をできないのが材料技術である。
簡単にTPEの発展の技術史を紹介すると次のようである。1933年頃ゴム会社グッドリッチから軟質塩ビをTPEとして用いた特許が出願される。その後25年間は、射出成形で加硫ゴムなどできない、いやできる、といったような議論がされていた萌芽期と思われる。大した技術的進展はない。
しかし、DuPontからTPU(ポリウレタンのTPE)の特許出願がなされ、1959年にTPUの工業化が成功すると樹脂会社で一斉にTPUの研究開発が進む。その2年後DuPontからTPUと異なるタイプ(アイオノマー、サーリン)のTPEが1961年に工業化され、この分野でDuPontが独走態勢に入った。TPEの発展期である。ちなみにサーリンはゴルフボールのカバー材に使用されている硬いTPEである。
1970年前後になると、Phillipsからソルプレン、UniroyalからTPR、JSRからRBなど現在でも使用されているTPRが次々と上市された。このころから学術研究も活発になり、各種の樹脂とエラストマーのコポリマーが織りなす高次構造の研究発表などが出てくる。また、加硫ゴムの高い技術による参入障壁に守られていたタイヤ会社は危機感から、TPUを用いたタイヤ開発に乗り出した。すなわちRIMによるウレタンタイヤ開発である。
バンバリーから加硫工程まで多くのノウハウが必要なゴム製品の製造工程が、材料技術の進歩で簡単な成形工程に置き換わる、というのはタイヤ会社にとって破壊的なイノベーションである。1970年代は大手のタイヤ会社からウレタンタイヤの製造技術に関する特許が多数出願されている。
しかし、実用化されたのは一部の農作業用のタイヤやキャタピラー、遊園地の乗り物のタイヤぐらいである。TPUでは、高度の運動性能と高い品質を求められる自動車用タイヤを実現できなかった。ゴム会社がTPEの開発に本格的に参入した結果、動的加硫技術が生まれる。
1980年前後の頃、樹脂会社では動的加硫ゴム(TPV)の開発が、ゴム会社では樹脂補強ゴムの開発が進められた。両者の材料の高次構造は、樹脂が海で加硫ゴムが島である点は似ているが、品質や物性には天と地の差があった。この差は、プロセシング技術から生まれていた。
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TPEは射出成形可能なゴムである。弾性体として高機能を要求されない部分に普及してきた。しかし、高性能を要求されるタイヤや免震ゴム、エンジンマウントには未だに加硫ゴムの製造プロセスが使用されている。ところが圧縮永久歪やその他の物性実現にTPEでは難しく加硫ゴムが使われてきた自動車ウェザーシールがTPEで作られるようになってきた。
30数年前樹脂補強ゴムを開発した経験から、「ようやくそこまで」という実感である。すなわち、加硫ゴムを置き換えたTPEは、TPVと呼ばれ、動的加硫技術を用いたれっきとした加硫ゴムである。TPVは、樹脂の世界で進歩してきたTPEの流れの中の呼び名で、樹脂補強ゴムというのは、ゴム会社で開発された樹脂が海で加硫ゴムが島になっている材料である。
すなわちTPVも樹脂補強ゴムも材料としてその高次構造は同じであるが、TPVが樹脂補強ゴムの性能に追いつくまで30年近くかかった、ということだ。
樹脂が海でゴムが島という高次構造が同じ材料でありながら、樹脂補強ゴムとTPVで性能差が生まれるのは何故か。プロセシングが異なるためである。前者は、バンバリーによるノンプロ練り、ロールによるプロ練りを経て加硫工程において加圧成形と同時に加硫反応を行うゴムである。後者は、二軸混練機で混練しながら加硫反応を行い(これを動的加硫と呼ぶ)射出成形で成形を行うゴムである。
30年以上前樹脂補強ゴムは、タイヤのビード部に「強靱で硬く柔らかいゴム」として実用化された。スーパーマンをキャラクターに用いてスーパーフィラーとしてPRしたところ、アメリカのプレーボーイ誌で不適切な表現として叩かれたぐらいに普及した。
このスーパーフィラーは、フェノール樹脂が海で加硫ゴムが島となった海島構造になっており、フェノール樹脂が3次元化しているので極めて硬い材料でありながらゴム弾性を示す。そして振動吸収もする。後者はゴムの重要な物性であり、樹脂補強ゴムにより振動吸収できる樹脂のような硬い材料が実現されたのである。樹脂補強ゴムが登場する前のタイヤのビード部の設計はゴムと弾性率が高い繊維の織物の複合材料で設計されていた。それが樹脂補強ゴム一つで製造できるようになったのだから、軽量化とコストダウンに寄与した。
この樹脂補強ゴムは開発されるやいなや、自動車用エンジンマウントへの応用が検討され、1年ほどで実用化された。そのとき島は加硫ゴムであったが、海はPP系のコポリマー樹脂の樹脂補強ゴムであった。弾性率は樹脂の結晶化度に相関して高くなり、必要な硬度のゴムを自由に設計できるようになった。
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射出成形可能なゴムを熱可塑性エラストマーという。1930年代に軟質塩ビを用いて実用化されて以来、主に樹脂メーカーで開発が進められ、1980年前後に動的加硫技術が登場するまで様々なゴムと樹脂のコポリマーが開発された。すなわち古典的なTPEは、一次構造がゴムと樹脂のコポリマーであり、室温で樹脂の凝集部分が架橋点となってゴム弾性を示す。
これに対して30年経った現在も活発に研究開発されている動的加硫技術を用いるTPE(これをTPVという)は、加硫されたゴムが樹脂に分散され、加硫ゴムが島で樹脂部分が海となった海島構造となっている。二軸混練機の中で樹脂とゴムを分散しながらゴムの加硫を進めるので動的加硫と言う。
古典的なTPEではゴムと樹脂のブロックコポリマーを用いる必要があるが、TPVではこれまで開発された加硫ゴムを用いることができるので古典的TPEよりも経済性が高く、性能も良くなる。ゆえに自動車用の加硫ゴム部品をTPVで置き換える動きが現在市場で進んでおり、隠れた材料イノベーションが起きつつあり、ゴム会社の開発戦略あるいは樹脂会社の開発戦略の見直しが求められている。
すなわちバンバリーとロール混練で性能を造り込むゴム技術や樹脂合成技術が無くても適当な材料技術者(注)を集めれば新規参入可能な分野となっている。二軸混練機を中心としたプロセシング技術と成形技術を新規に揃えれば、技術的知識のある誰でもゴム部品を製造可能になってきた。おそらくTPVの性能向上はどんどん進み、加硫ゴムと差異が無くなる時代が来るのかもしれない。
かつて加硫ゴムは、バンバリーでノンプロ練りを行い、ロールでプロ練りをしなければ材料として十分な性能の製品ができなかった。そしてこのゴム材料を用いて加硫を行いながら成形を同時に進める技術でゴム材料の性能が左右されるので、ゴム会社はその高度な技術的参入障壁に守られていた。しかし、TPVの改良が進み加硫ゴムを置き換えるレベルまでTPEの材料技術レベルが上がるとこの技術的な参入障壁は下がることになる。
(注)動的加硫技術は30年の歴史が有り、特許フリーで適当な材料を製造可能な時代になった。ゆえに安直に考える技術者が増えているが、ゴム材料技術は奥の深い技術である。
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7日は七草がゆが朝食であった。今年は正月に餅を題材に高分子の難燃化を書き始めたので、昨日までだらだらと続けてきたが、来月高分子の難燃化技術の講演を技術情報協会から依頼されている(2月27日開催)ので、本日その予告も兼ねて考え方をまとめてみる。
高分子の難燃化は未だに科学技術として扱いにくい分野である。分析評価技術などを駆使して「科学的に」進めることは可能であるが、力学物性など他の品質項目を満たした材料に仕上げようとするとやはり経験が要求される。
来月行う講演では、この30年間の進歩も踏まえ難燃性評価技術の問題も論じたいと思っている。高分子の難燃化技術を担当した30年以上前の時代に比較し、少し進歩している。というよりも高分子の難燃化技術を担当したときは、LOIの評価法が登場したり、建築基準の大幅な見直しが行われたりと評価技術の過渡期であった。
現在でも時折実際の建物を一戸燃やしてデータを収集したりしているが、当時は毎年どこかで実火災の実験を行っていた。そして毎回見学に行った記憶がある。八百屋お七ではないが、実火災の実験ではお手伝いもさせられたので妙な緊張感を感じ今でも鮮明に記憶している。有機高分子は、実火災ですべて燃える運命にあるのである。
難燃剤は、その延命策でしかないと、技術の無力さと限界を思い知らされた。無機高分子ではどうか、という意見があるが、すでに当時無機高分子の研究も進めていたので、そのような意見を聞くと脱力感を感じた。セラミックス以外は800℃以上の高温度が発生する実火災で酸化されるのである。
高分子の難燃化のツボは、燃焼が制御不能の酸化反応であることを十分に理解することである。お焦げのできない餅は制御可能であるが、一度火がつき勢いが増し始めた火災に対して消化剤をかけない限り可燃物があると燃え続けるのである。また、分子設計されていないフェノール樹脂から生成した炭化物のように中途半端な炭化物は、実火災では可燃物となるのである。講演会では、このような大ツボを前提に勘所も含め小ツボの幾つかを解説する。
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フェノール樹脂ではソフトセグメントの量が難燃性を左右していた。そしてソフトセグメントの量は触媒の種類と量、加熱プロセスで制御可能であった。すなわち、ソフトセグメントが多いと難燃性が悪くなる。これは現在一般的に言われている、炭化層の生成速度よりも可燃性のガス発生が多いと難燃性が悪くなるという高分子の難燃化機構に当てはまる。
ポリカーボネート(PC)はフェノール樹脂ほどではないが、LOIが27前後と難燃性レベルの高い樹脂である。また、外観品質も良好なのでUL94-5VBレベルが要求される外装材に多く用いられている。UL94-V2レベルならばPCを用いなくても難燃性の樹脂を実現できるが、UL94-V0以上になってくると難燃剤を大量に添加するか、あるいは高価なPCを使用するのか、難燃化技術の選択に迫られる。
電子機器の外装材では成形体の外観品質に影響するので無機フィラー系の難燃剤を大量に使用することができない。そのためPC系のポリマーアロイが多く用いられている。PC系のポリマーアロイであれば容易にLOIが21以上の樹脂を製造可能である。
例えばLOIが18前後であるABSやPP,PET樹脂などは、PCを70%前後用いると容易にLOIは23前後になり、このポリマーアロイに難燃剤を添加すればUL94-5VBの外装材を設計できる。また、文献などが多数公開されているので難燃剤の種類を選択すれば特許に抵触しない処方も設計可能である。ただし、逆に特許を取得したいときには難燃性で特許を取りにくいので「驚くような品質」をパラメーターに用いた特許を作成することになる。このような安直な特許が驚くほど多い。
PCとのポリマーアロイではLOIが18程度の樹脂も驚くほど難燃性が向上する効果があるが、PAやPBTとのポリマーアロイでは期待するほどの効果が得られずがっかりする事がある。ちなみにLOIが24のPAの場合にはPCとのポリマーアロイ化で逆にLOIが1ポイント低下する。LOIが20のPBTでは、せいぜい1から2程度の向上である。
これはPCがPAやPBTとポリマーアロイ化することで、それらのポリマーとのエステル交換反応やアミド化反応などが生じてPCの熱分解温度が下がるためである。PETやポリ乳酸の場合も同様の現象が起きているはずであるが、それらはPCとポリマーアロイ化したときのLOIの改善量が多いために問題になっていない。
高分子の難燃化技術は難燃剤の選択だけでなく、高分子の組み合わせや添加剤の影響も考慮に入れなければならないので経験の要求される技術分野である。また材料設計では強相関ソフトマテリアルという概念を用いることができる。
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一般のフェノール樹脂は、LOIが21以上の空気中で自己消火性を持った高分子であり、難燃剤を添加しなくともUL94-V2レベルは通過する。しかし、フェノール樹脂の分子構造の違いで、UL94-5VBを通過しないフェノール樹脂も存在する。
30数年前フェノール樹脂を用いた天井材の開発を担当し驚いたのは、フェノール樹脂の合成条件が変わるとLOIが22から35以上まで大きく変化する現象である。
フェノール樹脂にはアルカリ触媒を用いて合成したオリゴマーを酸触媒で縮重合を進め三次元化した高分子となるレゾール型フェノール樹脂と、酸触媒を用いて合成したオリゴマーをアルカリ触媒で高分子量化するノボラック型フェノール樹脂とが存在する。いずれも高い難燃性の樹脂を製造可能だが、合成条件によりその難燃性は大きく変化する。
天井材の開発では、オリゴマーを外部から購入しそれを発泡体に加工していたのだが、品質を満たす難燃性レベルに到達できず、難燃剤を添加して建築基準を満たす高防火性フェノール樹脂発泡体を商品化した。同じ頃、他社から難燃剤を使用しない高防火性フェノール樹脂発泡体が登場しびっくりした。
同一レベルの防火性とその他の物性を実現しているので、商品として評価したときに難燃剤の使用の有無がコストの差として現れるはずだが、販売価格は難燃剤を使用していないフェノール樹脂発泡体が高かった。この難燃剤を使用していないフェノール樹脂の特徴は、パルスNMRで分析したときにソフトセグメントの量が著しく少ないことであり、熱分析を工夫してその定量をすることができた。
分析結果を参考に、同一構造のフェノール樹脂発泡体を合成しようと試みたが、単純にオリゴマーの変更や触媒の変更だけでは実現できなかった。但しプロセスを変更して高分子量化の反応をゆっくり行ったところ、分析結果を再現できる構造のフェノール樹脂発泡体を合成することができた。そして合成された発泡体の難燃性は、他社品と同等レベルであった。すなわちプロセスコストが他社品では高くなっていたのである。
しかし他社のプロセスを実際に見学したわけではないので、これは実験結果からの推定である。このように配合処方は分析技術の進歩で容易にリベールできるが、プロセスについては特許の明細書に書かれていない場合には、ブラックボックスとなっていた。
かつては人材の流動化が進んでいなかったのでプロセスを特許の明細書に書かなくてもブラックボックスにできた。しかし現在は雇用システムも変化しプロセスのブラックボックス化が難しくなってきたので、特許として公開したほうが良いかもしれない。また、研究報告など情報量も増え、容易にプロセスまでリベールできる時代である。
現在は見ただけでは分からないノウハウ以外は、特許で保護する戦略をとった方が良い時代かもしれない。プロセス要因が品質に現れているならばその検出は容易である。高分子材料は金属やセラミックスと異なり、プロセス要因を成形体から検出しやすい。
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1990年代に高分子の難燃化技術はほぼ完成したように見えたが、環境対応技術の社会的ニーズの高まりと法規制などが進み、一部の難燃化技術が使えなくなった。困ったことにそれが最も難燃化効率が高い手法も含まれていた。すなわち一部の臭素系難燃剤と酸化アンチモンの組み合わせ技術だが、自主規制として脱臭素系あるいは脱ハロゲン系難燃剤開発の動きが出てきた。
ハロゲン系化合物と酸化アンチモンの組み合わせが低コストで高分子を難燃化できる優れた方法だが環境規制の前に敬遠される動きがある。この優れた難燃化システムに次ぐ方法は、リン酸エステル系難燃剤を用いる方法だが、いくつかの高分子では、10%以上難燃剤を添加しなければいけない場合もある。
難燃化の指標として窒素と酸素の混合気体の中でサンプルを燃焼させ、燃焼が継続しないときの酸素濃度を指数に用いる評価法がある。極限酸素指数法(LOI)と呼ばれる方法である。空気中で火が消える高分子材料にするためにはこのLOIが21以上にならなくてはいけないが、リンの含有率とLOIの相関関係が確認されており、そのLOI増加率が高分子の種類で異なることまで知られている。
リン酸エステル系化合物では分子の中のリンの含有率が低くなるので、リンそのものを用いる難燃剤も市販されている。すなわちマッチにも使われている赤燐をそのまま高分子に添加するのである。この手法は経済性も優れており普及しているが難点は樹脂の外観が悪くなる、あるいはその他の物性に影響が出る点である。例えばICパッケージに用いられ、赤燐粒子のつながりが原因で引き起こされたコンピューターの暴走事件が10数年前起きている。
リン酸エステル系難燃剤がまったく環境問題に無関係か、といえばそうではない。そのためリン系化合物を用いない難燃化技術の研究も行われており、いくつか特許出願されているが、いずれも高分子の種類が限定される方法である。この高分子の難燃化技術の分野は、地味ではあるが、科学的研究が遅れている分野で技術が先行している。
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お餅は多糖類の高分子が水を抱きかかえた構造をしている。お餅をつくときの手垢も、ということは考えたくない。あるいは、町内の行事で行う餅つきでは砂埃も入る。こんな事を考えながらお餅を食べていたらせっかくのお餅の味が台無しである。
しかしお餅を焼きながら考えて頂きたいことがある。お餅を焦がさずに焼く方法である。難しいことではない。焼き上がるまで丁寧に何度も餅を裏返し、お餅が膨らむまで注意して焼き上げれば良いだけである。
子供の頃、お雑煮に入れる餅を焼く担当であった。餅を焼かずにそのまま入れたお雑煮ではどうしてもおつゆの粘度が上がる。お雑煮でおつゆの粘度を上げないコツはお餅を焼いてから入れる手順をとることだが、焦げ目のついたお餅ではお焦げの味がお雑煮に移りおいしくなくなる。ゆえに焦げ目をつけないで焼く技が必要になるのだがこれが難しい。
昔は火鉢があったので炭火で餅を焼くことができ、お焦げを作らずに焼く技は容易であった。しかし、ガスの火力は強いので頻繁にひっくり返す必要がある。火鉢の中とガス台では餅の焼きあがるプロセスが異なるのだ。
餅は少しでも焦げ目がつくとその色が濃くなるスピードが早くなる。ゆえに最初の焦げ目が現れたらそれ以上焼かない方が良い。全くお焦げを作らないで焼くようにするには、この最初のお焦げに十分に気を配り、現れないようにすることである。
炭火で焼いた方が容易なのは、浸透性の高い遠赤外線が出ているためだが、ガスの火でも注意すれば焦げ目なしで焼くことはできる。とにかく焦げ目をつけないで餅に火を通し、それをお雑煮に入れると汁の粘度が上がらないおいしいお雑煮を作ることができる。
ところでなぜ焦げ目がつくと色が濃くなるのが早くなるのか。それは脱水反応から炭化反応に移行するためである。炭化反応はラジカル反応が中心になって進行するので早いのである。この餅を焼いているときに観察される現象は、高分子の難燃化に生かすことができる。
高分子の燃焼は酸化反応が急激に進行する現象である。急激に進行するので餅を焼いているときのような炭化反応が生じにくい。このことに気がつくと燃えにくい高分子と燃えやすい高分子の違いが炭化反応の起きやすさにありそうだ、と気がつく。これが高分子の難燃化技術開発では重要である。
正月にこのようなことを話していたら、電子レンジを使えば焦げ目無く餅を簡単に焼けると妻に教えられた。「ガスの技」の蘊蓄は無用であった。お雑煮は雑念を持たず食べるのが一番おいしい。
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混練は剪断流動と伸張流動で進行する。餅つきでも剪断流動と伸張流動が発生している。最初の段階は杵で餅米をつぶしながら粘りけを出す剪断流動だが、粘り気がでるとつき始める。この餅つきプロセスでは、一人の返し手が餅を折り曲げながらつき手がついてゆく。
杵が振り下ろされ餅に圧力が加わった瞬間は剪断流動と伸張流動が働く。その後返し手で餅を折りたたみ、そこへまた杵が振り下ろされる。あたかも偏芯二重円筒で発生するカオス混合のようなプロセスで餅つきは混練を行っている。餅つきで重要な点は剪断流動と伸張流動が高圧で同時に発生している点である。
混練が進む過程は何か色素を餅に添加すると確認することができる。例えば、ひな祭りに飾る紅餅の場合、食紅が拡散してゆく様子は不思議な光景である。数度つくだけで全体が赤くなる。子供の頃、年に3回餅つきをやっていた。2月と4月、12月である。2月の餅つきは混練に興味を持つきっかけとなる行事だった。また、餅つきの行事が無くなり、まずい餅の秘密を米屋の友人が見せてくれたのは好奇心を育てるのに十分な役割をした。
しかし、餅つき以外にも不思議な現象は身の回りにたくさんあった。いつのまにか餅つきで体験した新鮮な好奇心を忘れていたが、ゴムのロール混練で悪戦苦闘していたときに突然思い出した。それは指導社員がカオス混合を教えてくれたときである。指導社員は少し個性的な物理屋であったが、プロセシングの勘所をよく知っていた。
混練をモデル化するときの問題は実際の現象が極めて複雑なのにそれを単純化することだ、と不思議なことを言われたが、単純なロール混練でもそのモデル化は困難だろう、と説明を受け、早い話が混練プロセスをモデル化して解くことは難しい、と言っているだけと理解できた。ロール混練を観察すると剪断流動と伸張流動に分けてモデル化することができないことに気がつく。
ゴム種と混練条件でその現象が変化しているからだ。さらに混練が進行するとその比率も変化してゆく。ゴム技術を学んだ後、ポリウレタンの難燃化技術開発を経験したが、この技術ではRIMを始め低粘度の液体を混合し、反応させる「技」の難しさを知った。その後高純度SiCを発明し、セラミックス材料を扱うようになったが、粉体混合の科学が一番分かりやすかった。混練という混合プロセスは極めて難易度の高い技術で未だに科学的に解明されていない。
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