高分子とカーボンブラックの組み合わせで混練がどこまで進行したのかカーボンブラックの分散状態から決めるのは難しい。理由は、カーボンブラックの凝集体の分散が見かけ上一定になっても、力学物性が安定していなかったからだ。すなわち電子顕微鏡で観察したカーボンブラックの分散状態に差異が無くともゴムの力学物性に差が存在した。
新入社員時代に練習用サンプルの混練を行っていたとき、日々サンプルの分析を分析グループの女性陣が親切にやってくれた。指導社員がそのように手配してくれていたわけだが、日々力学物性と分析データをつきあわせる会議は担当者に囲まれ一瞬のうちに1時間が過ぎた。混練の難しい配合に四苦八苦している姿を周囲は「いじめ」に見ていたようだが、内心は竜宮城に通うような日々であった。そこで混練の進み具合をカーボンブラックの分散状態から探るのは難しい、という結論となった。
当時は混練の進み具合の指標がよく分からず、結局力学物性が最良の状態で安定したところが合格ラインという結論になったのだが、この問題を再度考えるチャンスが50代に訪れた。写真会社でラインから外され、自由な時間が増えた時だ。その時にこの問題を考えるため外部のメーカーにお願いし混練機を借り、混練で樹脂の部分自由体積の変化がどうなるか調べた。処遇が原因で業務に対するモチベーションが下がった場合には、腐るのではなく若く希望に燃えていた時代を思い出すのが一番である。
ポリオレフィン樹脂を小型バンバリーで混練し、部分自由体積の変化を調べたところ、30分以上混練すると部分自由体積の量が一定になることを見いだした。部分自由体積の軸とレオロジーのパラメーターの軸で混練条件の異なるサンプルをプロットしたところ興味深い結果が得られた。
市販のポリオレフィン樹脂だけで混練を行ったときの変化を観察し、混練で進むのが分散だけでなく高分子の変性も行われていることをデータで確認できたわけだが、この結果からカーボンブラックの分散が見かけ上均一に見えたとしても、混練が不十分であると力学物性が安定化しない、といった新入社員時代に体験した現象について理解できた。
若い時には辛い仕事を楽しい環境で推進できモチベーションが上がったが、50代は辛い環境で楽しい仕事を行いモチベーションが下がるのを防いだ。仕事が楽しければ面白いように成果が出る。「サラリーマン、腐ったら負け」という言葉があるが本当だ。
運良く社長まで昇進できる人もいるが、社長になっていたら若い時に竜宮城で頂いた玉手箱を開ける機会もなかった。運良くラインからはずれたため実験を行う時間ができて写真会社でゴム会社で出会った問題を解くことができた。「自由に何でもしてよい」とは、当時の上司の言葉だが、50過ぎのサラリーマンの身には一瞬残酷に聞こえたが竜宮城の玉手箱の存在に気がつき、幸運の一言になった。
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混練時に樹脂に働く力は伸張流動と剪断流動の組み合わせで表現でき、分配混合と分散混合で混練は進行する。それでは、どのくらいの時間混練を行えば良いのだろうか。あるいはどれだけ混練を行えば、それ以上混練を進めても無駄である、という状態になるのか、このことを詳しく書いた教科書を見たことがない。ただし、混練された結果の写真は、学会報告などで度々登場する。
ゴム会社で指導社員から教えて頂いたのは、指導社員が混練したサンプルと同じ物性になったときが混練状態の最良の状態ということであった。指導社員が用意してくれたマスターバッチのゴム20kgを見て驚いたが、100g前後で練習しゴールを達成したときに、ほとんど無くなっていたことで混練の難しさを理解できた。
その練習期間に物性の変化を見ると、引張強度はじめ諸物性は向上するが、興味深かったのは、混練の「技」の習熟度が進むと圧縮永久歪などの耐久試験で著しく改善が見られたことである。周囲が「いじめ」と茶化したのは、練習に用いたゴムの処方が高い混練技術を要求される処方であると皆知っていたからだ。他の新入社員は簡単な処方から練習するが、いきなりウルトラC級の「技」が要求されるゴムで練習させられていたので「いじめ」とみられたのである。しかしおかげで混練がどういう「技」なのか体で理解することができた。
ゴムの処方では、カーボンブラックを補強用フィラーとして添加する。ロール混練だけでカーボンブラックを分散するのは、ゴム種によっては少し大変な作業となる。すなわちカーボンブラックのカミコミの悪いゴムではロール周辺を汚し掃除が大変なのである。バンバリーを用いると5分もすれば、どのようなゴム種でも見かけ上分散したように見える。しかし、電子顕微鏡で見ると様々な大きさのカーボンの凝集体が分散しているだけである。
これがロール混練されるとある分散を持ったカーボンブラックの凝集体だけとなる。コロイド化学をご存じの方であれば、この様子は目に浮かぶかもしれない。コロイドとしての性質だけでなく、カーボンにはストラクチャーと呼ばれる製造条件由来の構造があり、一次粒子のサイズまで高分子中に分散を進めることは不可能である。また、カーボンのストラクチャーの単位まで分散を進めることも困難で、高分子中におけるカーボンの分散は凝集体で分散することになる。
その結果どこまで混練を行えば良いのか、という問いに対しては、平衡で決まるカーボンの凝集体のサイズまで行えば良い、というのは一つの答だが、そのサイズとはどのように考えればよいのか、という新たな問題が生じる。(明日に続く)
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昨日分配混合と分散混合を説明したが、スタティックミキサーは、分配混合に特化した混合装置である。このミキサーには駆動部が無く、ねじれた流路で流体を交互に反転させて効率的な位置交換を行いながら均一化を進める構造になっている(注)。
スタティックミキサーは、その構造から粘度が低い流体の混合に用いられるが、注意しなければならないのは、分散粒径の微細化が得意ではないことである。すなわちメカニカルに微細化を進めることができないので、ケミカルに微細化する仕掛けを流体の中に仕込んでおかない限り、数ミクロンオーダーの構造の分散までが限界であることを知っておく必要がある。
このオーダーであると最終的な材料の力学物性に影響を与えるケースがでてくる。例えば弾性率が高い材料の場合には靱性に影響が出る。もしスタティックミキサーで混合して得られた材料物性の力学強度が期待された値よりも低い場合や脆さが期待された感覚よりも脆い場合にはスタティックミキサーを疑った方が良い。スタティックミキサーには流体の均一化には効果があるが微細化にはあまり有効な混合方法ではない。
スタティックミキサーのこのような欠点や分散粒径が靱性に影響を与えることはあまり知られていない。また引張強度や曲強度は、靱性と弾性率に影響を受ける。すなわち分散粒径は強度と関係することになる。ただ、分散粒径と靱性の関係は材料の弾性率が変化すると変わるのでこの点に気がつかないことがあるが、これは線形破壊力学に書かれている科学の話である。またスタティックミキサーの欠点に気がついたのは経験の話である。その経験では痛い目に遭った。
スタティックミキサーは簡便な混合装置なので普及しているが、高機能部品の製造ラインにも用いられているのを見てびっくりした。例えばシリコーンLIMSの処方を混合するときにスタティックミキサーが頻繁に使用されているが、高機能シリコーン部品を実現できる実力があるとは思っていなかった。しかし高機能シリコーン部品でしばしば品質問題が起きている、という話をよく聞くし、先の痛い目にあった経験はシリコーンLIMSを使用した部品である。強度の問題であればスタティックミキサーすなわち分散を必要とする材料のできあがった構造を疑った方が良い。
ところでウトラッキーの伸張流動装置は、ギャップの狭い鋭利な空隙に流体を通過させて高い応力で伸張流動を発生させ、分散混合を進める機構である。この装置の問題点は微細化を進めるために伸張流動を発生させている空隙が流動を妨げ生産効率を落とす問題である。現在樹脂生産に用いられている時間当たり1t以上の吐出量の混練を実現しようとすると実現不可能な大きさの装置となる。
特許は出ていないが、スタティックミキサーに伸張流動装置を組み合わせるのは良い方法で、本日この欄を読まれた読者は幸運である。シリコーンLIMSをスタティックミキサーで混合していて問題が発生したら伸張流動装置を組み合わせてみると良い。その他のアイデアもあるのでご興味を持たれた方はご質問ください。
(注)スタティックミキサーでも伸長流動と剪断流動が発生しているので微細化が進行する、と勘違いしている人がいる。バンバリーミキサーが微細化を不得意としているようにスタティックミキサーも微細化は得意では無い。微細化はできない装置とまで書きたいが、そこまで書くと間違いを指摘されそうなので書かないが、その程度の混合装置なので使用に当たって注意が必要である。スタティックミキサーで微細化を行いたいときには、化学の力をを必要とする。
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溶融した樹脂が混練で変形する時の変形の仕方、すなわち流動状態及びその時に樹脂に働く力は、剪断流動と伸張流動の2つの組み合わせで表現できるが、その結果混練機の中で2種以上の成分の混合が進行するモデルは、分配混合と分散混合の2種に分けて考えられている。これは最近の研究成果で30年以上前にはなかった考え方である。
分配混合は系全体にわたる各成分の均一化に相当するモデルであり、分散混合は、分散相の微細化に相当するモデルである。分配混合では、歪みの作用による各成分の引伸ばし、重ね合わせによる相対的な位置交換が重要となる。このため、各成分が濡れることができるかどうかが問題となり、その結果形成された界面へ作用する歪みの大きさとその方向が混合を進める支配因子となる。
昨日変形による歪み速度は、応力F/溶融状態におけるその時の粘度ηで表現されると書いたが、この関係から分かるように、樹脂の粘度で歪み速度が影響をうける。すなわち混合が進行しているときの樹脂の粘度で分配混合が影響を受けることになる。
このモデルで問題となるのは、樹脂の動的粘度は温度と周波数に依存して変化しているが、シミュレーションの時には適当な粘度を放り込んで計算していることである。なかなかシミュレーションと実際の樹脂の混合の様子が一致しないのは動的粘度の扱いが難しいことも影響している。混練の経験の無い人はここで勘違いをすることが多い。あるいは、このような考え方なので新しいアイデアを出せないあるいは目の前の問題解決で間違った対策をすることになる。
また、分散混合のモデルでは分散相の分裂と微細化の考え方が重要で、応力の作用が支配因子となる書き方が一般の教科書で書かれている。しかし、混練機の中では、壁面への衝突や熱輻射が働いており、単純に混練機のローターで働く剪断力だけでは応力の作用をモデル化できない。さらに無機のフィラーの混合では壁面で発生する摩耗の効果を考えなければならない。粘度や流動状態の影響があるのは分配混合と同じであるが、微細化過程の考え方は、多数の因子が働くので論文に書かれているような単純なモデルでは説明が難しいと思っている。
長い間、剪断流動により微細化は難しい、と言われてきた。10年ほど前の国研、高分子精密制御プロジェクトではナノテクノ本命技術を目指し、L/Dがとてつもなく大きい二軸混練機を製作し、伸張流動を中心にした混練が検討された。またウトラッキーにより発明された伸張流動装置も同時に検討された。それなりの成果が出て、ナノオーダーへの分散が機械装置でできることが示されたが、一方で産総研の研究結果では高速剪断流動でもナノオーダーの分散が進むことも発見された。
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樹脂が溶融したときに力が加わると大きく変形する。その時の変形による歪み速度は、応力F/溶融状態におけるその時の粘度ηである。また変形の仕方は、剪断変形と伸長変形の2つの組み合わせで表現できる。
すでに過去の活動報告で説明しているように剪断変形は、流動方向と粘性抵抗により発生する力の方向を含む面に垂直な法線方向に作用する力は働かないが、伸長流動では、ちょうど餅をひっぱったような状態をイメージして頂けば分かるが、xyz3方向の力を考えなければならない。ゆえに直感で伸長粘度は剪断粘度の3倍になることがイメージできるがこれがTrouton則である。
ここまでの話を混練の教科書では数ページにわたり線形代数を用いて詳しく説明している。混練機の中における高分子の流動は教科書に書かれているような単純な状態ではない。しかし、モデル的に剪断流動と伸張流動の2つの組み合わせで混練が進む様式を表現できることはオープンロールでゴムを混練していて理解できた。
また、伸長粘度が剪断粘度よりも高いことは、バンバリーを用いること無くオープンロールで最初のプロセスからカーボンをゴムに分散するときに、剪断流動が頻繁に観察されることで容易に想像がつく。換言すれば、カーボンをとにかく分散したいときには、剪断流動を積極的に活用した方が効率良く進むということだ。
ゴムへカーボンを分散するときのように2種以上の成分を混合する場合の混合様式には分配混合と分散混合というものがあるが、これは明日説明する。その前に、難しいレオロジーによる理解よりも実際にオープンロールで混練を行い、分散が進む様子を眺め直感を鍛えることがいかに大切かを理解して頂きたい。
ゴム会社の新入社員時代に1週間ほど試行錯誤でゴムの混練をオープンロールで行い、悪戦苦闘していたときに、周囲は指導社員による「いじめ」といっていたが、ゴムの混練を理解する為に自分で観察工夫することの重要性を教えてくれた指導社員に今でも感謝している。
指導社員は、当時先端のレオロジーを研究していた京都大学大学院卒の物理屋で大変優秀な人であった。おそらく学問を理解しているゆえにゴムをレオロジーで記述することの難しさも良く理解しており、体で物性を理解することの重要性をご存じだったのだろう。
第三者から見るといじめに見えていたようだが、技術の伝承方法として優れていた。たった3ケ月間指導を受けただけだが、濃厚な日々で学生時代形式微分程度の理解であった常微分方程式も解けるようになった。マンツーマンの厳しい指導の成果である。しかし当時学んだダッシュポットとバネの高分子モデルは指導社員が言っていたように学問として時代遅れになっていた。
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二軸混練機でスクリューセグメントの設計を行うときに、通常はシミュレーションソフトを用いる。ところが混練の機構さえ把握しておればシミュレーションソフトを用いなくとも山勘でもできる。それぞれのスクリューセグメントの役割さえ分かっていれば、そこそこのレベルまでゆく。
乱暴に聞こえるかもしれないが、次のような実績がある。外部メーカーのコンパウンドを購入して開発を行う方針だったあるテーマで、外部メーカーに頼っていては製品ができないと判断し、テーマの決められた納期3ケ月前に中古機を導入した。その時、混練を行うスクリューセグメントを山勘で決めた。それにもかかわらず、外部の一流コンパウンドメーカーよりも性能の優れたコンパウンドを混練できた。
もう少し具体的に表現すれば、外部のコンパウンドメーカーのコンパウンドでは押出成形で合格品を製造するにはかなりの調整が必要なため歩留まりが30%以下で、ひどいときには製品の電気抵抗の偏差が2桁以上あり、品質を満たした製品を製造できないこともあった。ところが山勘で決めた混練システムで最初に得られた成果は歩留まり70%以上で抵抗偏差は0.2桁というすばらしい値であった。
山勘で二軸混練機のシステムを立ち上げたのだが、最適化はタグチメソッドで行っている。しかし、その時スクリューセグメントを因子に入れていない。但し、回転数と材料の投入量を因子に入れている。内製化であり、コンパウンドの生産量は押出成形のタクトタイムに合わせれば良いので、最初からコンパウンドの生産性を犠牲にする覚悟を決めていた。しかし、幸運なことにタグチメソッドで余裕のある条件が見つかった。幸運と表現したが、二軸混練機の押出量について十分な装置を準備した(注1)ので当たり前なのかもしれない。
このテーマでは外部のコンパウンドメーカーの技術サービスに混練条件の見直しをお願いしても埒があかなかった。スクリューセグメントの設計にはシミュレーション始め高度の技術が必要とかエンプラの難しい材料なので混練り条件を決めるのに1年以上かかり大変だったとかいわれたが、3ケ月でできた事実を彼らはどのように説明するのか。所詮混練技術とはこのような側面を持っているのである。
それは新入社員時代に難しい樹脂補強ゴムの混練を行った経験から学んだ。指導社員から標準試料とその配合処方を手渡され、標準試料と同一物性のゴムを混練できるまで実験を始めるな、と言われた。事前にロール混練の原理や取り扱いについて一通り指導を受けたが、標準試料の混練手順については教えて頂けなかった。
指導社員がバンバリーで混練したマスターバッチがあり、それをロール混練で仕上げるだけの作業で、指導されたときの手順でロール混練して標準試料と同等のゴムを作ればよい、とだけ言われた。当方も初めての経験でありその程度の作業と思っていたら甘かった。
標準試料と同等の物性が得られるまで1週間かかったのだ。それもまわりの諸先輩の指導を受けながら悪戦苦闘して、である。理論派の指導社員が教えてくれたロール混練の原理など役にたたなかった。恐らく指導社員は混練が理論で伝わる技術ではないことを教えたかったのだと思う。諸先輩は「いじめ」だと言っていたが、標準試料の混練の難しさだけでなくロール混練にも流派があること、そしてある時間ロール作業を行って呼吸をするぐらい自然にゴムを扱えなければ良い混練ができない、という悟り(注2)のような世界を実体験し文章に表現できない多くの技術を学んだ。
(注1)中古機だったので選択の余地が無かったのは、やはり幸運かもしれない。ここは幸運なのか経験による成果なのか、読者に判断して頂きたい。
(注2)科学と技術の一番の相違点であろう。職人が身につけていてそれを文章でうまく表現できない技術もある。
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合成された高分子をそのまま使用するケースは少ない。ほとんどの応用分野では添加剤も含め何らかの化合物と混合して用いる。高分子と添加剤、あるいは他の高分子との混合では、合成時に添加したり合成後でも均一混合が可能な場合、例えばラテックス以外では混練機を用いる場合が多い。
混練技術についてアカデミアの研究者が少ないため実技経験者の知恵に頼らなければいけない分野である。このような技術で困るのは、混練した材料の経験が異なると考え方が異なる場合だ。例えば樹脂技術者とゴム技術者では水と油ぐらいに考え方が異なっている部分もある。退職5年間のわずかな経験でこのようなことを書くと叱られるかもしれないが、一流樹脂企業の技術サービスと激論した経験(注)からこの結論に至った。
混練時に働く力で重要なのは伸張流動と剪断流動であり、このあたりまでは意見の相違が無いが、ガラス繊維補強樹脂を混練した技術者はじめフィラーを分散した技術者と動的加硫や特殊な分散を行っている技術者、そしてゴム材料技術者ではプロセス設計の考え方になると様々な見解が出てくる。聞いていると、それぞれの材料がうまくいったときの経験を話しているに過ぎない。
ゴムや樹脂、あるいは射出成形用セラミックス前駆体を混練した経験から、ゴム材料技術者の考え方に軍配を上げたくなる。他の混練技術者が間違ったことを言っているわけではない。根底に混練がうまくいっていないときに配合を検討しても無駄であるという認識があるのかどうか、ということである。換言すれば樹脂の混練を行っている人で、混練に疑いを持っている人は少ない。しかし、ゴムの材料技術者はロール混練条件に不安を感じている人が多い。話していて分かるのである。
退職後の2年前たまたま学会でT社の樹脂技術者と話す機会があった。カオス混合を研究しているという。混練技術を検討するとこの技術にたどり着くのではないかと、初めて意見が一致した。写真会社に勤務しているときに出会っておれば、無理をして混練プラントを作ることもなかった、と悔しい思いをした。
話して気がついたことだが樹脂技術者の間で混練技術が見直されている気配を感じた。起業後しばらくは電池やミドリムシに注力しようとしたが、うまくゆかなかった。急遽混練技術に力を入れ始めたが、小さな仕事がいくつか舞い込むようになった。樹脂材料のプロセシングで困っている方は弊社へ相談されますとすっきりします。
(注)写真会社に在職中、ケミカルアタックが原因ではなく混練プロセスに問題がある、という指摘をケミカルアタックによる破壊ではない証拠とスの入ったペレットとともに示しても、D社の技術サービスはケミカルアタック説を主張し続けた。議論が平行線になったので、中国までD社の現場を見に行った。
案の定混練プロセスは管理されておらず、混練機の制御盤の温度が設定値を20℃以上はずれていても生産を行っていた。ペレットのスの原因は混練時の温度が高すぎたためと推定されそれをD社に説明したが、20℃程度は大丈夫、と混練の問題を認めない。そもそもペレットにスが入っていたりDSCに一部分解が進んでいるような兆候が見られても混練温度に疑問を持たないというのはおかしいと思うのだが。
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32年間の材料開発で、セラミックスや金属、高分子材料まで担当し、金属以外の2つの材料分野で日本化学会や写真学会、化学工業協会、印刷学会などから賞を頂ける技術を研究開発成果として出すことができた。学位論文にはセラミックスと高分子材料のプロセシングがまとめられており、審査してくださる大学を探すのに苦労した。その過程で学位取得の裏側事情も知ることになり、学位というものが世間で評価されない理由も理解できた。
30歳を過ぎるまで物事の裏側事情など考えずに純粋に生きてきたが、学位取得の苦労で学問というものにも裏があるという現実に愕然とした。今は年を重ね、世間の多少のことには驚かなくなったが、当時はその裏側事情に接する度に驚きが新鮮な興味に変わっていった。
高分子材料技術にも裏側事情があり、例えば成形技術とコンパウンド技術の関係は面白い。前者の学会に参加し、その技術分野の最終ゴールを質問すると「どのようなコンパウンドでも成形できる技術」という回答が返ってくる。もの凄い理想であると同時にこの学問は永遠に完成しない、だから研究者は食いはぐれは無いだろう。学問として正しいゴールかどうかは知らないが、研究テーマに困らないゴールである。
後者は担当している材料により研究者の答は様々で、新材料を追求するというミッションを答える研究者が多い。高分子には多数の種類があるので組み合わせは無限に近く、こちらもテーマに困ることなく永遠に研究開発を継続できる分野である。
ところでタイヤのような高性能なゴム製品のプロセシングには未だに生産性の悪いバンバリーとロールが混練プロセスで用いられている。しかし、樹脂材料やTPEでは生産性の高い二軸混練機が用いられる。高性能ゴムに生産性の悪い混練プロセスが用いられているのは、そのプロセシングを用いなければ性能を出せないからである。すなわち、この事実は混練プロセスがコンパウンドの性能に大きく関わっている、ということを示している。
退職前の5年間外部の樹脂メーカーと性能の悪い樹脂について何度も議論したが、混練技術に問題は無い、と最初に必ず回答が返ってくる。すなわち樹脂の性能品質がお客様のニーズに合わない原因として混練技術は最初に除外事項とされてしまうのである。純粋な若僧であれば樹脂メーカーの技術者をうっかり信じてしまうが、成形技術を担当した時はその様な年齢ではなかった。
納期が目前に迫っていたあるテーマで、混練プロセスの中古機を買いそろえ3ケ月で生産立ち上げを行う、という離れ業をした。その時には同じ材料メーカーの原料を用いながら混練プロセスを変更しただけで、それまで樹脂メーカーが実現できていなかった性能を簡単に実現できた。
混練プロセスの変更に伴うコンパウンドの価格は、内製化のため原料の価格と設備の固定費で決まる。この時、樹脂メーカ-が混練プロセスを変更したくなかったのはコストへの影響のためだが、わずかなコスト上昇を躊躇したために、お客様の内製化という決断を引き出し市場を失うという結果になった。
混練プロセスの変更は利益を圧迫するので対策として採用したくない、というのが裏事情である。お客は混練プロセスなど知らないから問題ないとごまかせば、それで済む、と安直に考えたのか、その樹脂メーカーの技術レベルが低かったのか知らないが、どんなことがあっても混練プロセスを変更したくない、という裏事情が樹脂技術にはあるようだ。
混練プロセスの変更は多くの場合コスト上昇となるが、この時の内製化技術ではコストへの影響を最小限とする方法で対応した。退職した会社から特許がすでに公開されているが、二軸混練機の先に弁当箱のような装置をつけただけである。ゆえに生産性への影響はほとんど無くコスト上昇は弁当箱の固定費分程度である。この弁当箱のような装置にはゴム技術で学んだ知識が詰められている。この弁当箱に興味のある方は問い合わせください。
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昨日まで中国の華南にある某会社に依頼されコンサルティングをしてきた。日本企業とは取引が無く中国国内の市場で成功している樹脂会社だが、そこで生産されている製品品質は日本の100円ショップのそれよりも劣っていた。しかし、それでも中国国内の市場で成功しているので中国のお客様の品質基準を満たしていることになる。
市場で成功していても経営者はそれなりの問題意識を持ち依頼してきたわけだから、向上心は旺盛である。恐らくこのような企業は指導すれば、1年程度でそこそこの品質を作れる会社になる可能性がある。
問題は、中国市場のお客様の品質感覚である。上海のデパートの樹脂製品は、海外製品が多いので品質がそれなりに見えた。しかし華南の市街にある雑貨店に並ぶ樹脂製品の品質は日本の100円ショップよりも明らかに劣っている。それでいて日本の100円ショップよりも値段の高い製品が存在する。このような市場へ同価格で高品質の製品を投入すれば確実に目立ち、さらに売り上げを伸ばすだろうと思った。
しかし、朝早く帰路の空港の喫茶店でサンドウィッチを頼んだら、待たされたあげくとんでもない見栄えのサンドウィッチが出てきた。食パンの端部(みみ)が使われているのだ。さらに目玉焼きとハムがはさまれているのだが、それが焦げている。炭にまでなっていないが黒焦げだ。店員にクレームをつけたかったが、複雑な中国語を話せない。
100円ショップの樹脂成型品よりも品質の劣る製品が売れる国である。焦げた目玉焼きやハムなど平気なのだろう。さらに食パンのストックが無かったから昨日の残りのみみでサンドウィッチを作ったのは良いアイデアとでも思ったのかもしれない。毎晩接待されたレストランは日本以上のサービスもあり高品質であった。品質のばらつきの大きな国である。このような国で売れていても自社の品質に問題意識を持った社長は優れた経営者だろう。
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SiCには結晶系の異なるα-SiCとβ-SiCの2種類が有り、α-SiCは積層形態でさらに多数の結晶に分類される。これをポリモルフィズムというが、セラミックスの力学物性を考えるときに立方晶であるβ-SiC以外の結晶ではその異方性が問題となる。
無機材質研究所へ留学したとき、最初に担当した仕事は、6H型SiCの線膨張率に観察される異方性を計測する仕事であった。四軸回折計に取り付けた6H型SiC単結晶にレーザーを直接照射し、昇温しながらX線回折を計測して結晶の座標を決め、線膨張率の異方性をその場観察したのだが、とても企業でできる実験ではない、と思った。
しかし、科学としては異方性の存在とその大きさを実験結果で示す必要があり、その異方性の割合が物性にどの程度影響を与えているのか明らかにするのは重要な仕事である。重要な仕事と分かってはいても何度も失敗をすると、何故この仕事をしなければいけないのか、と当時は考えることがあった。
おそらく自然科学の研究は、先人のこうした悩みや苦労の積み重ねの賜物なのだろう。a軸とc軸の線膨張の温度依存性というたった一つのグラフを作成するために3ケ月を費やした。樹脂補強ゴムの開発では、2ケ月で50以上ものグラフを書いた。そしてその結果3ケ月後には商品化できる配合処方が完成した。
学位論文の1ページにこの時のグラフがあるが、時々眺めては科学と技術について考えるヒントになっている。科学は真実であれば何年経ってもその価値は変わらないが、技術はいつでも新しい技術に置き換えられ、やがて忘れ去られてゆく。
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