破壊原因がケミカルアタックによるものであるか判定することは多くのケースで容易である。すなわち破壊箇所にオイルがついていて、膨潤したようになっていたらケミカルアタックによる破壊である。ゆえに問題が発生したときに樹脂の破壊箇所は解析が終了するまで汚染されないように保存をしなければならない。
破壊箇所についていたオイルを分析してそれがどこから由来したのかを推定し、工程で対策を行う、というのがケミカルアタックの一般的な工程対応の方法である。しかし、破壊箇所にオイルがついていなかった場合にどうするのか。
破壊箇所にオイルがついていなかった場合には、フラクトグラフィーにより破壊原因の解析を行う。そして破壊原因がオイル以外である可能性が高いならば、その対策を実施し問題解決する。オイルが付着し、それが揮発して分析時にはオイルが見つからなかった、というメカニズムではフラクトグラフィーを行った時にその痕跡が見つかる。しかし、その痕跡が見いだされなかったときには、オイル以外の要因を探す。
金型設計も含め成形技術要因であれば、管理された状態で実験を行うと再現可能である。ゆえにこの要因は最初につぶすことができる。難しいのは樹脂起因の場合である。フラクトグラフィーで破壊の起点が樹脂内部にあり、その起点情報から明確に樹脂起因であることが解る場合でも樹脂メーカーとの議論ではへりくつをつけてくる場合があるので慎重に原因解明を進める。
信頼できる樹脂メーカーの場合には彼らの協力を得ながら対策を行うが、信頼できない場合にはまず樹脂材料の問題解析を自分たちで行い、樹脂の問題をいくつか見いだしておく。また、樹脂の製造工程の見学を樹脂メーカーにお願いして実施し問題点の整理をしておく。そして樹脂の問題を明確にしてから樹脂メーカーとの議論を実施すると良い。
汎用樹脂についてはコストダウン競争が激しく日本の樹脂メーカーの中にも誠意の無い会社があるので注意を要する。かつて原材料メーカーの技術サービスは至れり尽くせりであった。しかし、退職前に出会った日本の樹脂メーカーの技術サービスはひどかった。巣のはいった樹脂を納入しながら、また解析結果すべてにへりくつをつけ、現場の混練機のシリンダー温度の異常な状態を写した写真までも無関係とし、樹脂の問題を最後まで認めずケミカルアタック説を押しつけてきたのである。
最後までオイルが見つからなかったケミカルアタックといういやな思い出であるが、「ケミカルアタック」という問題の難しさを示す事例でもある。またこの分野の高分子の評価技術がまだ不完全であることを示す事例でもあり、ケミカルアタックであるかどうかを判定する標準規格が必要である。
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昨日ケミカルアタックは樹脂のSP値と関係があるが、SP値には、計算で求められた値と実験値が混在している話を書いた。そして重要なのは実験値であり、実際にSP値既知の有機溶媒に樹脂を溶解し、正しいSP値を求めて判断する、と説明した。しかし樹脂のSP値では説明がつかないケミカルアタックも存在し、これが現場の混乱の基になる。
樹脂を実用化する場合には各種添加剤が添加される。また樹脂の物性や外観を向上させるために2種以上の樹脂をブレンドする場合がある。このとき油の樹脂への拡散は母材である樹脂のSP値だけでなく添加剤や組み合わせに用いた樹脂の影響を受ける。さらに密度の影響も出てくる。
すなわち現実の樹脂では配合処方によりケミカルアタックという現象が複雑になるわけで、そのため実際にオイルを樹脂に1週間以上接触させた後の引張試験で現物を確認することが重要になってくる。しかしこれは樹脂メーカーの責任で行うべきで、カタログにケミカルアタックを起こしやすいオイル情報を記載すべきである。
そして樹脂に付着しても良いオイルも記載し品質保証すべき問題であるがそのような樹脂メーカーは少なく、ひどい樹脂メーカーになると原因がケミカルアタックでなくとも、ケミカルアタックを原因にして責任回避を行う場合があるので注意をする必要がある。
ここは調達担当が樹脂メーカーに次のようなことを一筆ケミカルアタックに対する対応を書かせておくと良い。すなわちケミカルアタックが発生した場合には、その原因解明に協力し、使用可能なオイルを明らかにします、と約束させるのである。おそらくこのような保証をしてくれる樹脂メーカーは良心的だと思うが、このような約束を条件にコストを上げるメーカーも出てくると思う。
ケミカルアタックは製品設計と現場管理で防ぐことが可能と思われる品質問題である。しかし科学的に発生しうる可能性があるときには対応可能であるが、FMEAに現れない事象で発生した場合には新たな経験として対応するとともに伝承する努力をしなければ防止できない製造現場では厄介な問題であり、一度原因不明な状態になったら5Sの徹底など現場管理が重要となってくる。それでも発生するならば樹脂に問題があるのである。
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ケミカルアタックは、樹脂にオイルがついたまま放置すると樹脂がオイル(油)で膨潤し、オイルが可塑剤のように働き強度が低下する現象である。その名前から化学反応が起きているような錯覚を持つが、オイルの樹脂への浸透、拡散という物理現象である。
この現象は樹脂と油の組み合わせで起きるので、油に対する樹脂の溶解度を調べれば、ケミカルアタックを起こす油かどうかチェックできる。この溶解度についてはSP値という値があり、その熱力学的意味も充分に研究されており科学的に式が導かれている。そして油や樹脂のSP値の表ができている。似たような値にχパラメーターがあり、しばしばシミュレーションではχの値をSP値から求めているが、科学的に厳密な意味では別モノである。しかし教科書に明確に書かれていないから問題である。
χはフローリーハギンズ理論で高分子の相溶を議論するために「定義」されたパラメーターである。SP値は低分子の溶解現象を説明するために理論的に導かれたパラメーターである。ゆえに科学的に厳密な議論をする場合に、高分子であればχで議論するのが科学的に正しい。但しこれも科学的に正しいだけで、実務的に正しい値が得られる、と言うことではないので注意する必要がある。
SP値に関しては、低分子でよく当てはまるが高分子量の分子や分子の形状が複雑になってくると外れる事が知られている。すなわち、高分子と低分子の組み合わせや、高分子と高分子の組み合わせをSP値から推定すると外れる事が多くなる。経験的には6割前後の確率である。
だからケミカルアタックの品質問題を教科書に書かれたSP値から推定すると失敗する場合がある。ゴム会社にいたとき指導社員から高分子のSP値について必ずSP値既知の有機溶媒に溶かしてみて決定するように指導された。SP値は加成性が成立するので計算で求めることが可能だが、実技上はSP値既知の溶媒を用意し、その溶媒に高分子を溶解して決定する。溶媒には溶解度があるので、SP値の小数点以下の値は、SP値が1程度異なる2種の有機溶媒を混合し、その混合比率を変えてグラフを作成して決定する。
このように実際に低分子溶媒に高分子を溶かしてみて決められたSP値が、ゴム業界で使用されているSP値である。ところが公開されているSP値の表の中には計算値で作成されている場合が存在するので注意が必要だ。
ケミカルアタックは、SP値がかけ離れた油と樹脂の組み合わせでは生じないが、これがどの程度離れていたら大丈夫なのかは樹脂により異なるので厄介だ。実技的には、強度測定用樹脂サンプルをオイルにつけておき、引張試験を行い安全な油と樹脂の組みあわせを求める。
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ケミカルアタックは、現象を科学的に説明できるが、その科学的説明でごまかすこともできるので注意が必要である。
実際の体験を話すと、ある樹脂メーカーの特定の樹脂でボス部分が壊れやすい、という品質問題が発生した。樹脂メーカーの技術サービスがケミカルアタック説で解説し現場を丸め込んだ。しかし現場の担当者から油を使用していないので納得できない、と相談があった。ペレットを調べたら巣が入ったような状態のペレットが多く見つかった。経験上混練時に温度が高いときなどこのようなペレットができやすくなる。その樹脂には難燃剤が入っていたので、もし混練時にエラーが発生していたらDSCを調べたときに難燃剤の分解による吸熱が幅広く観察されるとの仮説で測定したらそのようなデータが出た。
また、巣のはいったペレットだけ集めて引張試験用のサンプルを作り引張試験を行ったところカタログ強度の半分のデータが得られた。明らかに樹脂の異常である。さっそく証拠固めのために射出成形体の強度データやIR,電子顕微鏡写真、熱分析データなどを揃え、樹脂メーカーと議論した。驚いたことに当方の測定データをことごとく科学的説明で否定してきた。例えばDSCについて測定方法が未熟でベースラインの揺らぎが観察されただけだ、と。
集められたデータすべてにエラーが観察されたのだが、それぞれのエラーについて科学的に樹脂のエラーでは無く評価法に問題がある、と説明してきたのである。誠意が感じられなかったので、最後にペレットの巣の問題と樹脂生産現場における温度異常を示す証拠写真を見せたら沈黙した。しかし後日この決定的な証拠にもへりくつをつけてきたが、巣のはいったペレットは確かに商品として好ましくないので、その点は改善すると回答してきた。そして巣とボス割れは無関係であるとの結論である。但し無関係を示す科学的データは無い。あるのは当方が巣を集めて作成したテストピースで異常に強度が低下するデータだけである。これすらも巣の入ったペレットだけを集めたデータなので恣意的な実験で科学的では無いと否定してきた。
最後まで樹脂メーカーはケミカルアタック説で押し通してきた。実は高分子の技術上の問題を科学的に完璧に説明できる現象は少なく現場で発生するエラーについて改善姿勢が無い限り、この場合のように集めたデータが無駄になることがある。当方も科学的限界を理解しているので、へりくつと解っていても認めざるを得ない。ケミカルアタックというエラーは樹脂の問題になったときに樹脂メーカーが改善姿勢を示さない限り、解析が難しい問題である。ケミカルアタックは油が無ければ発生しないが、油が無かったことを科学的に明らかにするのは難しく、問題解決のためには樹脂メーカーの協力が必要である。そのために誠意のある樹脂メーカーの製品を使う必要がある。成形工場の現場で全く油が無い状態を作り出す、ということは難しい。ゆえに樹脂のエラーとケミカルアタックの分離も樹脂メーカの協力が無い限り困難な問題となる。ちなみに体験談ではペレットの巣が無くなったら問題解決した。
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アインシュタインもニュートンも非科学的な方法で物理学の新世界を切り開いた。白川先生は学生が実験を失敗したおかげで導電性高分子を世界に先駆け発見することができノーベル賞受賞に輝いた。ヤマナカファクターも学生の度胸のある実験でそのヒントが見つかり、消去法で完成させた。科学的ではない方法で科学の大発見がなされていることに注目をすべきではないか。
科学的手順による問題解決をめざして50年以上前、旧ソ連の時代に研究されたTRIZやUSITを重視するのはなぜだろう。この方法で得られるのは科学的に導かれた当たり前の解決案であって技術的にできるかどうかの保証は無い。大切なのは技術的な問題解決案である。科学的に正しくても技術として意味の無いあるいは実現できない解決案も存在する。科学的に得られたことと技術的成果が等価という誤解がある。科学的に説明できないが技術として成立している例は多数存在する。ヤマナカファクターも4種類の遺伝子が見つかったときには科学的に説明ができなかった。その後この4種類の遺伝子について科学的研究を進めている状態である。このような手順の科学的研究を企業の現場で行っては問題なのか。
このような手順で行われることがある凡人の非科学的な技術成果を低く見るのはどうしてだろう。実際にアンケートを取ったことがないので少し説得力に欠けるが、アイデアが生まれる瞬間とは非科学的な行為の時が多いのではないだろうか。
30年間自ら考案したK0チャートやK1チャートを使用してきた。この方法は科学的ではないので300件弱の特許出願はすべて非科学的行為の成果といえる。会社では科学的思考プロセスが重視されたので、アイデアを考案後こじつけで科学的な論理を組み立て周囲へプレゼンテーションした。さも科学の成果のようにである。そうしなければ信じてもらえない風土である。だから学会活動も熱心に行った。しかしアイデアはすべて非科学的方法で考案した。
PPSと6ナイロンをカオス混合という生産性の高いプロセスで相溶させた電子写真用材料、半導体用高純度SiC新合成法、ガラスを生成して難燃化する手法、3種類の高性能電気粘性流体用粉体、耐久性の高い電気粘性流体その他数々の成果はK0チャートとK1チャートを用いて非科学的な方法でアイデアをひねり出した。実用化されたこれらの技術の中には未だ科学的に説明できていない現象も含まれている。
複屈折が大きくてレンズに実用化はできなかったが、ポリスチレンとポリオレフィンを相溶するアイデアは、実験を進める手順までフローリーハギンズ理論を意識しそのアンチテーゼとして考案した。この材料は偏光板に使用することは可能で、フィルムを延伸しそのフィルムでクロスニコルにすると暗くなる。会社で報告しても特許出願料が無いという理由で特許出願をあきらめたが、これは大切なアイデアとして今でも頭の中で温めている。この例のように科学を否定してアイデアを出す試みも行ってきた。
当然のことだが科学を否定するアイデアの成功確率は極めて低くなる。だからその確率を高める対策が必要で、それがK0チャートとK1チャートである。K1チャートから組み立てられる思考実験で、それまで思いつかなかったアイデアが浮かぶことはよくあった。また、直接業務とは無関係のアイデアも生まれることがある。
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液晶用フィルムと言えばセルロースフィルムの独壇場であったが、最近ポリオレフィンフィルムがこの市場へ入ってきてセルロースフィルムメーカーは大変だと聞いた。ポリオレフィンフィルムはセルロースフィルムの製造工程で必要な有機溶媒を使用しない押出成形で製造されるのでLCAの観点から有利である。セルロースフィルムメーカーもメチクロ溶媒を使用しない押出成形を研究開発しているようで、特許がこの十年たくさん出ている。
粘弾性の性質を調べればすぐに理解できるがTACやDACは射出成形や押出成形が難しい材料である。しかし似たような構造だが同じ多糖類でもミドリムシプラスチックスの物性は大きく異なり簡単に射出成形が可能だ。MFRの値を見てもTACやDACが可塑剤を多量に用いた値よりも良いデータが得られている。
今年のセルロース学会ですでに報告されたが、世間の反応は今ひとつである。藻の培養技術は健康食品会社においてすでに商業生産の実績があり、(株)デンソーではバイオディーゼルの開発に取り組んでいる。ミドリムシは「肥だめ」でも育つのである。試しにPETボトルの側面を切り取って簡易育成容器を作り育ててみると良い。元気によく育ちすぐに増える。
ミドリムシの育成は小学生の夏休みの宿題には格好のテーマとなる。さらに中学の科学クラブであればこのミドリムシから多糖類を抽出することは簡単にできる。理科実験のテーマに未来技術のバイオリファイナリーを取り入れてはいかが。
ミドリムシと名前にムシがついているが、藻の仲間でありムシという名前は無視してよい。ユーグレナと言った方が耳あたりが良いかもしれない。栄養食品でユーグレナという呼び名を使うのは飲みやすくするためか。材料の名前に用いるとユーグレナプラスチックスとなるが、夕暮れのイメージよりもミドリムシプラスチックスのほうがバイオ感あふれている。
なぜ光をあててミドリムシを育てると1種類の多糖類が1個体あたり50%の収率でできるのかミドリムシの光合成における詳細な機構を知らないが、抽出して変性し利用する技術は、公知の方法で可能である。ミドリムシプラスチックスは科学の世界で考えても技術の世界で考えても面白い。
今週ミドリムシプラスチックスについて連載で書こうとしたが、都合により明日からはまたアイデアについて書く。但しここまで読まれてミドリムシプラスチックスに関心を持たれた方のお問い合わせにはお答えいたします。但し問い合わせは電子メールでお願いいたします。昨日電話がつながらなかった方にはお詫び申し上げます。
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今年の夏は暑かった。ミドリムシがよく育った。健康食品の会社ユーグレナは南方の島でミドリムシを培養しているそうだが、理由の一つがわかりました。ミドリムシは栄養を与えなくとも空気中の二酸化炭素を栄養としてよく育つ(光合成)。しかも光を与えて育てると、ある一種類の多糖類だけを選択的に作るという面白い性質がある。暗がりで育てればバイオディーゼルに使用できる脂肪酸を生成する。
この性質を利用すると、暗がりでできた脂肪酸と光合成でできた多糖類とを組み合わせて100%ミドリムシの樹脂を製造可能である。但し実際には工業用脂肪酸が安価なのでこちらを使用した方が安くなり実用的にはセルロース系樹脂と同様にアセチル基やプロピル基で変性した材料になると思われる。
興味深いのは、同じ多糖類のセルロースの場合では植物からセルロースを抽出するときに多量にできるリグニンなどのアルデヒド類の処理が問題となるが、ミドリムシから多糖類を抽出するときにそれが不要な点である。これはセルロースに比較して大きなアドバンテージになる。また抽出方法も乾燥したミドリムシをある薬品で処理するだけで簡単に多糖類が沈殿として落ちてきて、ミドリムシ1固体あたり収率50%という効率の良さだ。この実験は台所でもできる。
多糖類をベースにしたバイオケミストリーの研究は進んでおり、あとはコストだけ、と言う段階である。ミドリムシから抽出される多糖類は高分子量なのでそのままでも生分解樹脂としての応用が可能であるが側鎖を修飾することにより、セルロース化学と同様の展開が可能である。さらにセルロースでは難しかった押出成形や射出成形が可能な材料になる。すなわち液晶用フィルムTACはフィルム製造プロセスでメチクロという環境に悪い有機溶媒を使用しており、それを押出成形で製造する特許が多数出願され、いまだ実用化されていないが、それを解決できるようになる。化粧品を開発しながらミドリムシを育て健康食品と光学用部材を開発する、という技術シナリオは面白いと思う。
ここまでの話はすでに公開された情報であるが、ミドリムシから抽出される多糖類の性質を活用すると様々な応用展開が考えられる。夢ではなく既存の技術でそれが達成可能であり、あとは工業生産を行うだけ、と言う状況である。
昨日までアイデアを出すコツとしてKKDの重要性を指摘してきたが、Dはともかくミドリムシについて調べるとKKの観点で極めて実用性の高い技術シーズであることに気がつく。特にTACやDACの押出成形で苦しんできた人がこの材料を扱うと驚くことになる。可塑剤が不要なのだ。ここまで読んで光学材料を扱ってきた人にアイデアが浮かばないとしたら、それはその人のKKに対する考え方に問題がある。
日頃KKを整理する努力を怠ると良いシーズを見落としたり、悪いシーズに執着して開発を失敗したりする。セルロースの分子構造及びそれを熱分析したレオロジーデータ等からなぜ可塑剤を大量に添加しなければ射出成形や押出成形ができないのかは、科学的にも想像ができ技術的な解決策としてミドリムシから抽出される多糖類へ思いが至る。
ミドリムシの商業生産は最近株価が上がっている(株)ユーグレナが成功し、健康食品の事業を展開している。放置しておけば肥溜めでも緑色に染めてしまうミドリムシを大量生産する方法は難しくない。藻の仲間については(株)デンソーがバイオディーゼルの商業生産をめざして取り組んでいるように原料価格150円/kg前後を見込める技術だ。ミドリムシから50%という高収率で1種類の多糖類が抽出されるのでさらに価格が下がる可能性はプラント開発を経験していれば技術的に想像がつく。
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ヤマナカファクター発見でノーベル賞を受賞された山中博士もKKDを活用していたことをNHKで語っておられた。KKDと明確におっしゃっていなかったが、ヤマナカファクター発見のキーとなる実験は、いわゆるKKDの賜物である。さらに「うまくいくかどうか解らないがやってみた」実験で大きなヒントが生まれている。
KKDで行った非科学的な実験でiPS細胞ができたことを確認すると、これまた消去法という非科学的手段でヤマナカファクターを決定している。放送では、このあたりの手順を特許との関係でそれまで隠していたが初めて番組の中で発表した、と述べておられた。おそらく、特許と無関係であっても、テレビ番組でなくては、あるいはノーベル賞受賞後でなければ語れないことだと思う。そうでなければ、非科学的な手法について批判されていたかもしれない。学会だったら高純度SiCの新合成法を発表したときのようにボロクソに言われたかもしれない。
ヤマナカファクター発見に至る詳細な手順は以前活動報告でも紹介したが、非科学的ではあるが極めてうまい方法である。まるで弊社のK0チャートとK1チャートを用いたような実験手順で行っている。すなわちK0チャートやK1チャートは非科学的ではあるが、アイデアをひねり出すには良い方法である。山中博士は実験を推進した学生を褒めていたが、K0チャートとK1チャートの扱いを学べばその学生と同じような仕事の進め方でアイデアを出すことが可能になる。
アイデアを出すには科学的方法でなくてもよいのである。非科学的な方法でも機能を実現できるアイデアを出すことができればそれを褒めるべきである。産業界ではTRIZやUSITが普及しているが、これは科学的方法でアイデアを出すツールである。当たり前の結果しか出ない、というのは現場の声だが、その原因は科学的に導くからである。科学的に導かれた答で当たり前でない場合には、間違っているか、大発見である。科学の進歩した時代に科学的大発見に凡人が出会う確率は低い。しかし、非科学的方法であればセレンディピティーがうまく機能し、こなした実験の数に比例しその確率はあがる。
さらに周囲が「驚くべき」アイデアを凡人が科学的に導くには相当の勉強が必要になるが、非科学的方法であれば、今の実力で充分である。科学的な方法では思いつかないアイデアが浮かぶ確率も、非科学的方法が高い。山中博士も非科学的方法でヤマナカファクターを見つけた。ただしヤマナカファクターを見つけてからは科学的に考察している。ここが大切である。
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写真会社へ転職して半年ほど自由な時間があった。セラミックスが専門と言うことで仕事に慣れるために会社が配慮してくれた。転職前からパーコレーション転移に興味があり、Lattice Cでシミュレーションプログラムを休日に開発していた。転職後は会社でもプログラムをコーディングする時間を取ることができたので転職後1ケ月してプログラムを完成させることができた。論文を書こうと文献調査を行ったら同じような考え方のプログラムが雑誌「炭素」から発表されたばかりであった。
同じ頃に同じようなことを考えていた人がいたわけである。アイデアが浮かんだ瞬間に世界に3人同じアイデアを持っている人がいると思え、と昔言われたことがある。すなわちアイデアが浮かんだらすぐ実行しないと他人に先を越される、という戒めである。プログラムのアイデアは1年以上前から持っていて、日曜日ごとにプログラミングしていたが、転職のゴタゴタで完成が遅れた。まさにアイデアが浮かんだらすぐに実行しなければいけない時代と感じた。また、材料分野で混合則からパーコレーション転移へ考え方が変わりつつある予感がした。
写真会社で帯電防止技術は基盤技術の一つのはずである。しかし、特許出願状況をみるとライバル会社に負けている。ライバル会社の技術を避けるような開発を行なわれていた。透明金属酸化物導電体をライバル会社は帯電防止層に使っていたが、転職した会社ではイオン導電体を使用していた。市場のワークフローが変わりつつある時代で、写真感材も画質以外の機能が重視されるようになってきた。また銀塩以外の感材ニーズも出てきており、感光層に影響を与えない透明金属酸化物導電体を用いた帯電防止層の技術が重要になってきた時代である。
特許を調べて驚いた。20年間にライバル会社から1000件以上も特許が出ていた。知財戦争は業界により様々であるが、ライバル会社の根性にびっくりした。特許を整理してこれまた驚いた。いわゆる戦略的にうまく出願されていた。特に酸化スズを用いた帯電防止技術について隙間は全く無く、転職した会社がなぜ金属酸化物を避けるように開発を進めていたのか理解できた。
1000件以上の特許群を整理して気になったのは、初期の特許群に酸化スズゾルが比較例として使われているのに、新しいところでは酸化スズゾルまでも権利範囲のごとく書かれていたのである。すなわち特許範囲に関してある時期から方針が大きく変わっていた。戦略的特許出願は重要だが戦略があまりにも整然としているとライバルに読み取られる問題がある。これをうまく利用するとアイデアをひねり出す方法になる。すなわち「敵からアイデアを学ぶ」のである。0からアイデアを出すのは難しいがヒントの存在するところからアイデアを出すのは容易である。技術は機能を実現する方法なので敵の戦略と異なるコンセプトを立案すれば良いのである。興味のある方は弊社へご相談ください。
酸化スズゾルを中心に特許を整理したところ、写真感材の帯電防止層としてそれを使用した20年以上前の特許があれば、ライバルの特許網に大穴を開けることができることを見いだした。さっそくセンター内でそのことを報告したら、だれもがそれを知っていた、という。酸化スズゾルで特許を回避できることに気がついたので実験を行ったら特許に書かれていたように性能が出ずダメだったのであきらめた、という。実験データも見せてくれた。ライバル特許の比較例を再現するデータばかりであった。しかし、酸化スズゾルから微粒子を取り出して電気特性を評価した人は一人もいなかった。
酸化スズゾルの合成は朝飯前であった。すぐに合成してドラフトに1週間放置したらゲルが得られた。それを乾燥したら粉末になった。錠剤成形機でペレットを作り電気特性を測定したところ1000Ωcm程度の体積固有抵抗であった。これは帯電防止層に必要な10の10乗Ωcm以下を充分達成可能な導電性である。しかも電子伝導性であった。
ライバル会社も転職先の会社の担当者もパーコレーション転移を知らないだけだと思った。さっそく作ったばかりのシミュレーションプログラムを活用し、得られた結果をメンバーに説明して開発プロジェクトを立ち上げた。実験室では、ばらつきが大きく現象をうまく把握できないときにシミュレーションは便利な道具で、コンピューターという空間で管理された実験を行い、把握しにくい自然現象からアイデアをひねり出すことが可能となる。
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フェノール樹脂とポリエチルシリケートとのリアクティブブレンドで均一な前駆体を合成するアイデアを力づくで実現した。できるかどうかわからない材料は、科学的に否定されない限り、できると思ってチャレンジすべきである。そしてあきらめないことである。
仮に科学的に否定されるような仮説でも、その否定の根拠となる理論が怪しければ、やはりチャレンジすべきである。例えばχが大きい高分子は相溶しない、だからコパチビライザーが必要だ、という考え方はフローリーハギンズ理論からきている。しかし、これは学生時代から少し怪しいと感じていた。単なる一つの考え方を示したに過ぎない、とも思っていた。
多数のヒモを丸めて床に落としてみても教科書に書かれているような状態に決してならない。面白いのは太い紐と細い紐をぐちゃぐちゃに丸めて床に落とすと太い糸に細い糸が絡みついた状態で塊になる。このマクロで観察した現象と分子レベルで起きる現象も同じようだ、と考えることに今は躊躇するが、若い時には教科書の絵との狭間で悶々としていた。亀井勝一郎の「若者はストイックであれ」という言葉が妙に理解できる状態である。このようなときにもアイデアは出る。
ゴム会社に入ったときに出会った指導社員は欲求不満の解消法をいろいろと指導してくれた。リアクティブブレンドやカオス混合も教えてくださったが、レオロジーが専門のその人はダッシュポットとバネのモデルの限界に厭世観を持っていた。そして技術に対する欲求不満には未来を開く力があり、それがいかに健全かを話してくれた。厭世観からはアイデアが生まれないが欲求不満からは爆発的にアイデアが出る、だから青年はストイックでなければならないと指導してくれた。どこかで聞いたような言葉や仮説の確認ではなく欲求不満を解消するために実験を行う、という考え方は独特であったがその後の人生に役だった。やってみなければ分からない現象は、どんどん実験で確認することが大切である。
高純度βSiCの前駆体合成実験以外に、この精神で実施したいくつか成功体験がある。実用化はされなかったが光学用ポリオレフィン樹脂とポリスチレン樹脂のコンパチビライザーを用いない相溶実験がある。ある合成条件で重合したポリスチレン樹脂が光学用ポリオレフィン樹脂に相溶し透明な樹脂が得られたのだ。若い時の欲求不満がこの実験で解消された。
今度はフローリーハギンズ理論をどのように理解すれば良いのか、という新たな悩みが生まれ、指導社員から聞いた伝説のカオス混合で相溶を進める実験をしたいという新たな欲求が生まれた。欲求不満のまま5年が過ぎて、PPSと6ナイロンの系を相溶化剤無しで相溶させなければいけない、という状況のテーマと遭遇した。開発ステージが進み処方変更ができずテーマを中止をするのかそのまま進めるのか判断をしなければいけない役割であった。迷わず単身赴任を決断しテーマをカオス混合で成功させた。KKD+欲求不満から出てきたアイデアの賜物である。
科学がこれだけ発展していても、世の中にはやってみなければ解らない現象が多い。目の前にそのような仕事が現れたら迷わず汗をかいてみることである。現象をよく観察していると、どのような凡才でもそこからアイデアが生まれる。ところが、やってみなければ解らない現象でも、解っているかのように説明してくれる優秀で親切な人がいる。しかし心を空にして聞いていると、その説明では大なり小なり欲求不満が生まれる。この欲求不満を大切にするのである。70歳まで働かなければいけない時代である。すぐに解決できなくても長い人生どこかでそれを解消できる場面に出くわす。求めていた現象に遭遇したときに新しいアイデアが生まれる。
頭の良い人は仮説を立てて、と言われるが、欲求不満というものは、凡人が問題意識の芽生えで味わう仮説のタネのようなものである。コーチングでうまい刺激を与えるとそこから芽が出る可能性が高い。弊社の問題解決法はそこに着目している。弊社の方法で若者の欲求不満を解消できる。
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