家を新築した時に壁掛け時計を購入した。それには壁掛け用の樹脂製フックがついていた。樹脂製ということで心配したが製品に付属しているならば大丈夫だろうと思って使用したら、18年経ったときに突然その時計が落下した。
幸い家族の誰もケガをしなかったが、時計は壊れ床に傷がついた。壊れた樹脂製フックの破断面を見たところ、内部欠陥を起点にしたクリープ破壊であることを理解できた。
18年間トラブルなしで精度の高い時計で残念だったが、新しい時計を購入した。その時計には金属製のネジ釘がついており、それで時計を固定するように説明がついていた。
さらに他の留め具で固定した場合の問題については品質保証しない旨の説明がついていたので、おそらく壁掛け時計の落下事故というのがそれなりの頻度で起きるものらしいことを理解できた。
さて、その新しい時計だが、1年も経たずからくり部分が壊れた。カタカタ音がするので中をのぞいたところ折れた樹脂製の棒が出てきた。破断面を見たところ、クリープ破壊特有の模様が現れていた。
内部欠陥があった樹脂製フックは、18年の寿命だったが、からくり時計の樹脂部品の寿命は1年持たなかったのだ。とりあえず購入店に壊れた時計を持ってゆき、修理を依頼した。
品質保証期間内だったので無償修理となったのだが、3年後再度同じ樹脂部品が壊れた。保証期間を過ぎていたので有償修理となるが、新しい時計を購入するより安いだろうと思って、問題点を指摘した手紙と前回の修理記録を添えて修理に出した。
修理して戻ってきた時計には、修理記録とともに今回保証期間を過ぎていても無償修理との断り書きが入っていた。その時計は8年経っても新品同様に精度の高い時を楽しいからくり動作とともに順調に稼働している。
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4月1日から新しい法律が施行され、高分子材料のリサイクルが促進される。そのため、高分子材料は混ぜ物ではなく単一組成が好ましい、と言われ始めた。
当方は反対に多成分高分子のポリマーアロイ技術を開発すべきと考えている。理由は、高分子はただ混ぜ合わせただけでは物性が低下するためである。
リサイクルシステムの中で単一組成の高分子を維持できれば良いが、単一組成の高分子だけで提供されている電気製品は少ない。大抵は2種以上の高分子が使用されている。
そうすると余ってくる組成が出てくる心配がある。それらはサーマルリサイクルすればよい、と言う考え方もあるが、脱二酸化炭素の観点から好ましくない。資源再利用の観点から多成分高分子のポリマーアロイ技術を開発すべきと考えている。
2成分以上のポリマーアロイで実用化されているABSあるいはPC/ABSは、組成が変化すると力学物性が大きく変化することが知られている。PC/ABSではPC含有率を80%以上にするとABSの組成が変化しても物性への影響が小さくなる。
多成分ポリマーアロイに関しては研究事例が少ないが、特許にはそのような視点の発明を見出すことができる。アカデミアの研究者がチャレンジすると面白いかもしれない。
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PETの射出成形が悪いこと、そしてそれを改良する手段があることを連続して述べてきたが、この射出成型性について、樹脂が早く固化することと勘違いしている技術者がいる。
射出成形に限らず、他の成型方法でも重要となるのは、樹脂の融体のレオロジー制御である。とりわけ温度依存性あるいは周波数依存性が重要になってくる。
PETの粘弾性について温度依存性を測定してやるとTc付近で一気に動的弾性率が高くなる。すなわち樹脂が硬化する。ゆえに硬化速度が遅いわけではない。
このような場合に何をもって遅いとするのか早いとするのか明確にしないと科学的ではないが、少なくとも実技において、成形性向上のために制御すべきはレオロジー特性の温度依存性の最適化である。
それゆえ多成分のポリマーアロイとしてレオロジーの温度依存性を制御するとともに、結晶化速度も制御している。さらに結晶化速度だけでなく多成分のポリマーアロイとしたことで結晶子サイズの制御まで行っているのだ。
このようなアイデアは教科書に書いてない非科学的アイデアだが、出来上がったコンパウンドはここに書いたような特性と機能を発揮している。非科学的アイデアだが、アイデアの根拠となる現象を多数経験している。
カテゴリー : 一般 高分子
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結晶化速度が遅いだけならばPCのように十分に遅いと良好な射出成形体となるが、PETのそれは中途半端なのだ。ゆえに、ただ結晶化速度を制御したPETを用いて注意深く射出成形しても外観不良が起きたりする。
安定な射出成型性を得るためにはそれなりの工夫が必要である。その工夫の一つは特許出願されており、多成分ポリマーを添加してレオロジーを制御する方法である。
この方法で退職前にPET80%含む樹脂ペレットで良好な射出成形体を得ることに成功した。PETも結晶化しているが、ナノ結晶である。
しかし、このコンパウンドでもオペレーションウィンドウが狭いということで伝家の宝刀カオス混合装置を用いてコンパウンド化を行ったところ、一気にオペレーションウィンドウが20℃ほど広がった。
さらに面白いことには、成形体の様々な部分を分析しても結晶化が完了しており、さらに分析データにばらつきがみられなかった。
これまで混練のセミナーで技術の一部を公開しているが、ご興味のあるかたは問い合わせていただきたい。科学で考えていても見えてこないアイデアであり、弊社の問題解決法が必要となります。
カテゴリー : 一般 高分子
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科学誕生以前から化学という学問が存在していた。化学に限らず物理学も数学も科学誕生以前から存在していた。この当たり前の事実に気がついていない人が多い。
このようなことをあえて指摘する理由は、科学的方法以外の考え方が存在すること、そしてその方法が現象の理解や問題解決に科学的方法と同じように役立つことに気づいてほしいからである。
学校では科学的方法が唯一の方法のように教えられている。それが戦後長らく続いてきたが、最近はプログラミング教育が導入されたのでそれを通して非科学的方法を学べる環境ができてきた。
実はプログラミング教育以外でも科学によらない考え方を教える機会があっても教育指導要領の制約から教えられてこなかった。
高校生の時に、数学でユークリッド幾何学を学んだ。教科書は教師の手作りによるところが新鮮だった。物理でもニュートン力学として学んでいる。ところが化学はまるで暗記課目のような授業だった。
「水兵リーベーー」から「ふっくらーー」などただひたすらお経のように唱えながら周期律表を記憶している。本当はもう少し面白い教え方があったはずである。生徒として不満だった。
第二次オイルショックもあり、就職先の心配があったので教職の単位も学生時代取得している。高校で教育実習を行ったとき、2週間教科書を離れた教材の授業が許された。
しかし、結局化学の何たるかを今ほど考えていなかったので、生徒に迷惑をかけた授業になった、と反省している。化学で重要なことは、現象の変化をよく観察して、そこに機能している物質の変化(これが化学である)を見出すことだと大学院を修了する頃より考えるようになった。
大学4年の時にシクラメンの香りの合成経路について開発でき、アメリカ化学会誌に紹介されているが、それができて化学という学問について科学的でない側面に気がつき、大学4年から考えるようになっていたのかもしれない。
科学的には物理的変化と分類されても化学変化としてとらえた方がアイデアを発展できる現象がある。例えば吸着では、物理吸着と化学吸着がある。
物理吸着だけを扱っていては面白い製品開発が難しいが、化学吸着まで広げてアイデアを展開するという事例を説明すれば申し上げたいことが伝わるだろうか。
大学4年時に有機金属錯体の研究をしており、その時当時の触媒化学が前時代的学問のように感じられた。学会で議論を聞いていても有機金属化学における議論よりもレベルが低かったように思われた。
今はどうか知らないが、そんなこともあり、研究室がつぶされたときに大学院進学が決まっていたので思い切って無機化学の勉強をしようとSiCウィスカーを研究している講座へ進学している。
ただ、SiCウィスカーというものを本当に理解できたのは無機材質研究所に留学した時であり、ここでも学問の進化を実体験することになった。40年近く前は、同じ化学という領域内でも研究者によるレベル差が存在し、そこから学問の進歩を感じることができた時代である。
今も学会の発表を聞くと研究者による研究のレベル差が存在するが、それが学問の進歩ではなく不勉強によるものだと感じるのは年を取ったせいだろうか。
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PETは結晶化速度が遅く、射出成形に不向きなためフィルムやブロー成型、インフレーション成形用に使用されてきた。
フィルム用途では一軸延伸や二軸延伸により結晶化を行い、それなりの腰のあるフィルムを提供できるので、印刷用写真フィルムやレントゲン写真用フィルムとして使われてきた。
最近PETを射出成形に使用したいという希望が増えている。PETは射出成形しにくいが、結晶化速度を速める添加剤を添加すれば、狭いオペレーションウィンドウながらそれなりの射出成形体が得られる。
10年ほど前に結晶化速度を速める添加剤を用いずに良好な射出成形体を得ることに成功し、電子写真用部品として実用化された。
PETボトルのリサイクル材を用いた技術で、退職後に社長賞を受賞した、と言うことで記念品のPETボトルを1ダース送られてきたのでびっくりするとともに当方のことに気遣ってくれたメンバーに感謝した。
高純度SiCの事業化ではこのような良い思い出は無いが、写真会社の早期退職では、退職日が2011年3月11日であった不運が引っ掛かる思い出だが、FDを壊されるという人為的な災害ではないのでPETボトル1ダースを受け取った時には涙が出てきた。
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日本では桜の季節に新年度が始まる。本日新入社員の出社式をWEBで行う会社もあるかもしれないが、気になるニュースがある。第二新卒が話題となり、若者の転職が問題にされてかなり経つが、当時に比較して最近の若者の退職理由が大きく変わったという。
最近はぬるま湯的な会社の雰囲気に社会人としての成長ができないので、より厳しい会社へ転職するというニュースを読んだ。
このニュース以外に、最近若者の自己実現意欲に関わる話題が多い。偽りのない自分の姿で好きなことをして、それが社会貢献につながる状態が自己実現であるが、現代においてこの状態に至るにはそれなりの知識や経験が必要となる。
ゆえに、若者はそれを身につけることができる環境を求めて転職するという解説を最近読んだが、本当だろうか。石の上にも3年というが、現代の高度なキャリアが要求される社会ではとりあえず1か所に3年がむしゃらに努力してみることをお勧めする。
当方の新入社員時代、4月に入社し、半年間の集合研修をえて10月に配属された。初めて担当した1年間の新入社員テーマ、樹脂補強ゴムの開発をがむしゃらに仕事をして3か月でまとめた。
指導社員が極めて優秀な人で、毎朝3時間座学で高分子の基礎を指導してくださったおかげだが、この3か月の仕事のおかげで写真会社でカオス混合技術を開発できた。当方は新入社員の時に運が良かったのだろう。
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昨年6月に公告となった高分子材料の環境問題に対する日本政府の回答が施行される。環境省のホームページにはRenewableと4つ目のRが示されている。
2015年に海洋ゴミの問題が世界で認識され、その30%前後が日本製だったため、日本に対する風当たりが強くなるとともに、「脱高分子」が叫ばれるようになった。
それまで、3Rが環境問題解決のキーワードとされたが、そこに新たな「R」、Refuseが加えられた。日本では、ポリエチレン製買い物袋が有料化あるいは廃止されたため、買い物袋の携帯が必須となった。
それだけではない。プラ製トレイは紙製になるなど、高分子材料排除の動きが世界の潮流となった。しかし、これが経済的にも技術的にも環境問題解決に最適な解となっていないことは明らかで、Refuseに代わる新たなRの提案を当方は環境と高分子のセミナーで訴えてきた。
今回の法律ではRenewableが4つ目のRの提案となっており、これから海洋ゴミ削減の国際ルール作りが始まるので、日本の提案がどこまで国際的に評価されるのか注目される。
実は15年以上前に名古屋市は、プラごみに関して細かい分別回収を行い、日本政府に各自治体も見習うように提案したところ、環境省からそこまでやらなくてよい、という回答が返されたので、時の河村市長が噛みついた歴史がある。
最近は金メダルに嚙みついて有名になった河村市長だが、今回の法律についても是非噛みついて頂きたい。なぜなら今回の法律では河村市長が目指された目標が単なる努力目標にされているのだ。
河村市長は軽い人物と誤解されているが、実は広い視野で先進的な思考ができる数少ない政治家である。15年以上前に明日からの法律に適合する取り組みができたのもその表れであり、河村市長の環境省への突っ込みに期待したい。
恐らく、Renewableに関しては、これまでの実績から河村市長が自治体の首長の中で最も造詣が深いと思っている。弊社に一声かけていただければ、いつでもご協力いたします。
カテゴリー : 一般 高分子
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SiCの引張強度あるいは曲強度は、成形体(焼結体)製造のために用いた粉末の結晶系により左右される。ただし、成形体密度が99%前後の成形体密度のときであるが。
また成形体製造温度が2000℃以上であると3CのSiC(βSiC)は6Hへ転移するためにその差も分からなくなる。1960-2000℃の温度で制御した場合に原料粉末の結晶系の差が見られる。
成形体製造に高度な技術が要求されるが、注意深く制御しながら成形体を製造すると、3Cの結晶系の原料を用いた場合に6Hの結晶系の原料を用いた場合よりも強度は1-2割ほど向上する。
この原因は、3C結晶系が熱膨張に関し等方的であるのに対し、6H結晶系が異方性であるためだ。これは40年以上前に科学的に確認され、当方の学位論文に6H結晶系の異方性について実験データとともに考察している。
高分子材料も含め、材料強度評価は、成形体製造技術や評価技術の影響も受けるので、原材料の影響だけを正しく評価することが難しい。しかし、すべての材料物性は原材料製造プロセスから成形体製造プロセスまですべての履歴の影響を受ける、ということを知っておくことは重要である。
高分子材料については製造プロセスの履歴の影響が良く知られているが、セラミックスや金属では、高分子よりもその影響が小さくなるので話題にならない時もある。
カテゴリー : 一般 電気/電子材料
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高分子の成形体を製造するにあたり、高分子には何らかの添加剤が混合される、と以前この欄で書いている。その時、重要となるのは混練技術である、と説明している。
混練技術とは、混ぜることと練ることの両方で高分子を変性し機能を向上する技術なのだが、その説明が難しい。難しい理由は、形式知よりも経験知の占める割合が大きいからだ。
この経験知が占める割合が大きい、ということさえ、理解していない技術者も多いので困る。原因は適当な混練機で一応コンパウンドができてしまうからである。
高機能を要求しなければ、そのように製造された適当なコンパウンドでも成形体を製造可能なので、混練技術をあまく適当に捉えることになる。
謙虚に現象を眺めれば、高機能を要求されないコンパウンドでも、十分な混練ができていないことを物性の計測から知ることができるのだが、物事を甘く考える技術者には成形体物性の評価もいい加減である。
カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子
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