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2014.04/24 燃料電池(2)

燃料電池の電極には白金系の触媒が用いられる。これがこの電池の泣き所で白金の使用量を少なくする技術開発も重要課題であると同時に白金以外の触媒探索は今でも行われている。

 

すでに固体高分子型燃料電池は実用化されているがリサイクルシステムが重要となっている。リサイクルシステムがうまく機能すれば、貴金属を使用していてもコストダウンが可能になる。例えば銀塩を使用していた写真感材では、銀回収システムがうまく機能しかつて100円以上したプリント1枚が10円プリントなどという安価なレベルまで下がった。

 

ところで白金の代替になりそうな触媒であるが、東工大を最近退官されたS先生のクラスター触媒が面白い。S先生のコンセプトの説明では、二核錯体で酵素反応をまねすることだとおっしゃっていたが、酸化還元もこのクラスター触媒で起こすことが可能である。残念なのはご研究半ばで退官されたことで、現在開発されている触媒は有機溶媒中の反応が確認されているだけである。

 

これまで固体触媒の研究は、触媒を専門とする研究者により推進されてきた。自動車用廃ガス触媒システムも彼らの成果であり、燃料電池の触媒探しも彼らにより行われている。しかし30年以上探索が行われてきても触媒量を減らすことはできたが、代替触媒は見つかっていない。

 

かつてディーゼルエンジンが発生するススをセラミックスフォームで、トラップレストラップ方式により取り除く開発のお手伝いをしたことがある。そのときススの酸化触媒には銅が用いられた。面白かったのは触媒研究の専門家は表面科学に強いが有機化学反応機構という分野に詳しくなかったことだ。ディーゼルエンジンに含まれるススには芳香族系の様々な化合物が含まれている。乱暴な表現で叱られるかもしれないが、彼らは十把一絡げにそれらを捉え考察していた。

 

このような研究の進め方ではS先生のコンセプトは生まれないと思う。S先生のコンセプトは、有機電子論に基づき論理的に発想された美しいアイデアに基づいている。最終講義を聴いていてその美しい論理展開に夢心地になり燃料電池の電極でS先生の触媒が作用している光景が見えた。

 

学生時代に有機金属合成の講座で一年間研究したが、固体触媒の研究文化と明らかに違っていた。燃料電池の電極反応の研究に異分野の研究者によるチャレンジが必要ではないのか。

 

カテゴリー : 連載 電気/電子材料

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2014.04/22 フィルム成形(3)

フィルム成形で問題になる工程帯電について、帯電防止の実務書にその対策が書かれているが、良心的な対策書では、現場対応の技術である、と書かれている。すなわち、標準的な対策で全てを解決できる問題ではなく、現場の対策が重要になってくる。

 

写真用PETフィルムでは、帯電防止層をインラインコートで塗布すると工程帯電に効果があるが、延伸前のフィルムのコート層の設計に技術がいる。20年前にこの開発を少し担当したが、ノウハウが要求される技術である。

 

界面活性剤で帯電防止を行う場合は比較的簡単だが、乳剤への影響を考慮し使用できる界面活性剤の制限がある。また、帯電防止レベルも低く、従来通りの工程帯電防止が必要である。イオン導電性高分子は一般に脆性材料が多く、そのまま使用すると延伸時にクラックが入る。電子伝導性高分子も同様の事情でそのまま使用できない。

 

工程帯電を防止できるインラインコート層について導電性高分子を用いるならば、素材の脆性を改善しなければならない。可塑剤の添加や靱性の高いバインダーとの併用というお決まりの対策になってくるのだが、ここで問題になるのがパーコレーション転移である。

 

導電性の成分を60vol%以上用いている場合にはパーコレーション転移の問題をあまり意識する必要は無いが、それが40vol%前後になってくると影響が現れる。パーコレーション転移の閾値は、真球の場合に30vol%程度であり、延伸により導電性相のアスペクト比が大きくなることが予想されるので理解に苦しむ問題になる。ご興味のある方は問い合わせて頂きたい。

カテゴリー : 連載 高分子

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2014.04/21 フィルム成形(2)

フィルム成形では、高分子材料を溶融し、押し出す。このとき問題となるのが、運転開始時に発生するコールドスラッジである。コールドスラッジは、運転条件が悪い場合には押出機の運転が定常状態になるまで続くこともある。コールドスラッジが稀に発生する場合には、どこかにエラーが存在する場合である。前者の問題は、再現よく発生するので問題解決しやすいが、後者の場合はエラーの原因を見つけるのに苦労する場合がある。

 

コールドスラッジが、コンパウンドの状態に影響を受けて発生している場合に、原因を特定しにくい。コンパウンドのレオロジーデータを開発過程で多数収集し、コールドスラッジが発生したときの特徴を抑えておくことが重要である。

 

コンパウンド起因のコールドスラッジは、コールドスラッジとして観察される場合は幸運な方である。コールドスラッジとして観察されず、一様に発生するボツとして観察された場合には、問題解決が難しくなる。まずボツの原因がコンパウンドのレオロジーに影響を受けている、ということを理解するまでに時間がかかる。

 

コールドスラッジが発生する場合には、正体不明のボツがフィルムに発生している。フィルム成形で悩ましい問題は、ボツであり、異物が原因のボツはそれなりの対策を行えば解決できるが、正体不明のボツは、正体が分からないだけに対策が難しくなる。

 

正体不明のボツだけをあつめてレオロジーデータを収集するとその正体が浮き出てくる。「未溶融」物質である。すなわちゲルである。コンパウンドの成分にこのゲルが多数含まれているとボツ対策は困難になるのでコンパウンド段階で退治しなければならない。問題は混練工程の担当者がこのゲルの存在を理解できるかどうかである。混練工程の担当者が理解できない場合には解決は不可能になる。

カテゴリー : 連載 高分子

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2014.04/19 フィルム成形(1)

高分子加工技術の一つにフィルム成形がある。初めてPETの成膜実験を行なったときに、その延伸される様を見てびっくりした。パイロットプラントは工場と異なり同一フロアに押出工程から巻取工程まであるのでその壮大さを実プラントよりも実感できる。

 

このフィルム成形加工では、高分子物理の大半の知識を動員しなければトラブルが発生したときに対応出来ない。特にレオロジーは重要である。そのほか延伸に伴うモルフォロジーの変化についての知識も必要だ。

 

フィルム加工には大別してフラット法延伸とチューブラー法延伸がある。チューブラー法延伸はブラウン法あるいはインフレーション法とも呼ばれる。設備費があまりかからない方法である。フラット法延伸には、一軸延伸と二軸延伸で製造される場合がある。

 

例えば、最近廃PET樹脂で製造される卵パックは、一軸延伸のみで製造されたシートをパック形状に加工している。X線フィルムなどの写真フィルムに使用されるPETフィルムは、二軸延伸まで行い、平滑性を向上している。一軸延伸に比較して二軸延伸はプラントも大きくなり、生産性も劣るが、フィルムの面内均一性は高いので光学フィルムに適している。

 

このほかにフィルム成形には、押し出したままに近い成形も行われている。例えば薄膜ベルトの生産では、ほとんど延伸を行わずサイジングダイで径を制御する方法がとられているが、この場合にはフィルムのわずかな収縮に伴うエラーが品質に影響を与えることがある。

 

写真会社に転職して何がよかったか、といえば全てのフィルム成形加工技術を体験できたことだ。転職により、学位を取得したセラミックス分野から各種受賞した高分子材料分野まで専門性が広がった。単に材料の知識以外に、高分子の成形加工技術について射出成形からフィルム成形まで、さらにフィルム成形では、無端ベルトの押出加工から二軸延伸によるフィルム加工、さらにその表面加工まで担当した。

 

32年間の技術者生活は忙しく過ぎたが、材料知識とその成形加工の知識、半導体から防振ゴムさらには材料評価技術の知識と豊富な現場での経験が財産として残った。今でも身につけた知識分野について調査研究を行い、未来技術を発信するサイト(www.miragiken.com)を立ち上げたり、学会発表も時間を見つけては行っている。また、今年の6月には高分子学会から招待講演者として招待されている。ご興味のある方は弊社をご活用ください。

カテゴリー : 連載 高分子

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2014.04/16 薄膜塗布技術(4)

かつて「ガラ携」という言葉を聞いたときにすぐに意味が分からなかった。日本国内で独自進化した携帯電話のことだと息子に説明されて知ったが、写真会社の塗布液調整技術は「ガラ技」と呼んでもよいような状態だった。自己流で勉強してきたので正統派の塗布技術がどのようなものか分からないが、まるで料理を作るがごとくの担当者の手順はあざやかで手際よい。長年伝承され洗練された結果と思われる。

 

日常扱う素材であれば、この手順で何も問題が生じないが、新しい素材を処方するときに面白い行動となる。すなわち、早めにその素材の工程適正を判断し、工程適正無し、と結論を出すのである。これでは新技術を生み出すことはできない。

 

工程と同様の調整方法を実験室に持ち込んでいるので、その方法でうまくゆかなければ工程適正無し、と判断し、技術を棄却するのは確かに効率的である。工程の変更は処方の変更よりもお金がかかるのでコスト的にも有利な考え方である。イノベーションが不要であれば、これは良い方法かもしれない。

 

しかしその結果ライバル会社の技術に差をつけられていることに気がついていない。特許の実施例には塗布工程の詳細は書かれていないが、多数の塗布が難かしい素材で塗布経験をつんできたので、実用化経験は無かったが、実施例に書かれている塗布液が起こす現象のイメージをつかむことができた。

 

塗布液のレオロジーについても処方の組成で大きく変化する。界面活性剤などでレオロジーを調整できる粘度領域にも限界がある。しかしどうしてもその処方でなければ達成できない薄膜の機能であれば工程を変更する以外に技術手段は無い。その時将来どのような機能が要求されそれを実現するためにはどのような処方液を調製しなければならないのかシナリオを描き、工程をどのように改良してゆくと効率的なのかロードマップを作成した。

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2014.04/15 薄膜塗布技術(3)

水を溶媒に用いた塗布液について考えてみる。塗膜を形成するバインダーはラテックスあるいは水に溶解するPVAやゼラチンとなる。ここへ機能性粒子を分散し機能性薄膜にするのだが、ラテックスとゼラチンでは生成する薄膜の高次構造が大きく異なった結果となる。これは塗布技術を経験された方ならば容易に想像がつくだろう。

 

機能性粒子として導電性粒子を用いた場合では、導電性微粒子が形成するクラスターの構造に依存して薄膜の導電性が変化する。いわゆるパーコレーション転移である。大雑把に現象の違いを述べれば、ラテックスではパーコレーション転移の閾値が微粒子添加量で30vol%以下で生じ、ゼラチンの場合にはそれ以上になる。

 

しかし、ゼラチンの場合には塗布液の調整方法や塗布時の塗布液温度でこの閾値は大きく変化する。ラテックスの場合にも変化するのだが、ゼラチンの場合には閾値の変化の幅が大きいのである。ざっくりといえば、ゼラチンの場合20vol%から60vol%まで変化させた経験がある。

 

ラテックスでは、その変化幅はせいぜい10vol%前後であるからこの変化幅の大きさには驚いた。何も考えずゼラチン水溶液を扱うと閾値は40vol%以上となる。すなわちパーコレーション転移が起きにくい。しかし、分散方法その他を制御すると微粒子の添加量がを少なくてもパーコレーション転移が起きるようになるのだ。詳細は問い合わせて頂きたいが、これは塗布液の組成や調整条件で塗膜の高次構造が影響を受けている実例である。

 

転職したときに驚いたのはこのようなノウハウを担当者が知らなかったことである。ゴム会社でセラミックス材料開発を担当し、半導体用高純度SiC事業を立ち上げたが6年かかった。その6年間に様々な企画を行ったが、機能性セラミックス薄膜の企画では実際に塗布などの実験を行い、塗布工程よりも塗布液の調整方法の奥深さを学んでいた。

 

塗布工程はknow whoにより外部調達可能だが、塗布液の調整技術は文献にも簡単に書かれているだけである。複雑な機能性薄膜になってくると教科書通りではその実現が難しくなる。伝承された技術など無いから試行錯誤で塗布液の調整を行う事になり、我流ではあるが様々なノウハウを生み出した。写真会社に転職したときにすぐ研究開発に貢献できた背景には、セラミックス薄膜の研究開発で獲得したノウハウがあったからである。

 

 

 

カテゴリー : 連載 電気/電子材料 高分子

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2014.04/11 薄膜塗布技術(1)

フィルムの表面に薄膜を形成して機能性フィルムを製造する技術は、写真フィルムが発明された時代から技術開発が続けられ、未だに先端技術分野で扱われている。今ではフィルムにトランジスタをロールtoロールで形成する技術が実用化されつつある。

 

有機トランジスタ薄膜を形成する最先端技術から単なるフィルムの帯電防止薄膜塗布のような先端技術まで薄膜塗布技術を眺めてみると、科学的というよりも泥臭い経験の積み重ね技術の占める割合が大きいことに気がつく。すなわちノウハウの比重が大きい。

 

技術内容については特許や学術論文で公開され、科学的に理解できる部分は公知であるが、それだけで実現できる世界ではないのが薄膜塗布技術である。簡単に思われる帯電防止薄膜についても経済的にも優れた技術になってくると科学の世界だけでは実現できない。タグチメソッドは一つの手段だが、システムが決まらなければそのメソッドも使用できない。

 

薄膜の世界では、kgあたりのコストではなく平米あたりのコストで論じられることが多い。付き量が性能を左右する事が多いので結局は重量当たりのコストも大切なのだが、単位面積当たりのコストで比較した方が便利なためである。また重量当たりのコストが高くても薄膜の機能を少ない付き量で実現するという技術開発テーマもあるので、付き量よりも機能を実現できる単位面積当たりのコスト比較が重要になってくる。

 

薄膜塗布技術で面倒なのは塗布設備が大規模になる場合が多いことだ。スプレー塗布の場合にはそれほどの規模にはならないが、塗布液の組成の自由度が小さいという問題がある。換言すれば、塗布液の工夫を行えば塗布設備を簡略化できる、ということだ。このあたりのカンどころは経験が無いと大失敗につながる。

 

いろいろな薄膜塗布の開発を経験すると、実現したい機能性薄膜から容易に処方液と塗布方式が見えてくるようになる。写真フィルムの会社に勤務して勉強になったのは、プロセス担当がイメージするシステムと処方設計の担当者がイメージするシステムが異なる場合が存在したことだ。すなわち薄膜塗布技術では処方設計から塗布プロセスまで全てに熟知している必要がある。そして両者がわかるとレオロジーという学問のありがたさが見えてくる。

 

 

 

カテゴリー : 連載 高分子

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2014.04/09 樹脂の熱膨張あるいは熱収縮(6)

材料の熱膨張と熱収縮を測定するとヒステリシスが必ず現れるのか、というとそうではない。例えばSiC。6HSiCは結晶系が異方性なのでa軸とc軸の線膨張率が異なる。この単結晶の線膨張率を2000℃まで計測してもそれぞれの軸にヒステリシスは観察されない。

 

それは、6HSiCの膨張と収縮が化学結合の膨張と収縮の結果であり、その構造からシミュレーションした値と実測値がうまく適合する。また、6HSiCから製造した焼結体の線膨張率については、結晶で計測された値の平均値として観察される。

 

ただし、これは、助剤としてBを0.2%、Cを2%用いたときの実験結果である。助剤がかわり粒界にガラス相が形成されると線膨張率にその影響が観察される。セラミックスでは熱膨張や熱収縮は大変分かりやすい現象である。

 

しかし高分子の熱膨張や熱収縮では、自由体積の影響、結晶化度の影響、アモルファス相が均一になっていない影響など複雑である。ゆえに樹脂の熱膨張や熱収縮ではわずかなヒステリシスが観察されたりする。高分子複合材料系になればもっと複雑な変化となる。

 

TMAはこれら複雑な変化を検出する実験装置であり、最近は熱膨張や熱収縮を実験できるだけでなく粘弾性の実験もできるように工夫した装置も発売されている。高分子材料の開発を行う場合には是非1台揃えておきたい装置である。

 

樹脂の熱膨張や熱収縮によるヒステリシスに時間のファクターが含まれていることは昇温速度を変えた実験を行いある程度理解することができる。この影響は熱衝撃による疲労に現れる。長時間熱衝撃の存在する環境で樹脂を使用していると変形やひび割れなどが成形体に現れる。微粒子分散系では靱性が下がるので破壊という結果になる。TMAを使い、これらの予測技術を開発することもできる。

カテゴリー : 連載 電気/電子材料 高分子

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2014.04/07 樹脂の熱膨張あるいは熱収縮(4)

樹脂の熱膨張あるいは熱収縮は、熱機械分析装置(TMA)で求める。Tgまでの熱膨張と熱収縮であればヒステリシス(注)は、現れないはずであるが、大きなヒステリシスが観察されることがある。昨日例示したポリオレフィン樹脂ではその大きさが射出成型条件に依存する。

 

樹脂に微粒子を分散した場合にも大きなヒステリシスが観察されることがある。この場合に、樹脂単体のヒステリシスと微粒子を分散した場合のヒステリシスを比較すると、微粒子の添加量によってもその大きさが変化する様子を観察することが可能である。

 

この樹脂のヒステリシスの大きさが問題になるのは、物性の異なる材料とマクロ複合化して製品を組み立てる場合である。この時昇温時の線膨張率を基に設計すると失敗する。ヒステリシスを考慮していないために熱収縮歪みが大きくなったときに材料は破壊する。

 

ヒートサイクルが繰り返される用途にこのような材料を用いるときにTMAデータは不可欠である。ある装置メーカーにTMAの売り上げが落ちていることを聞いた。TGAやDSCに比較してTMAはその重要性が分からないと導入されないらしい。

 

しかし材料開発を行うときに線膨張率は重要な因子の一つで、その測定は欠かせないはずである。また、Tgについては、DSC測定でうまく現れないときにTMAでは必ず観察されるのでDSCとTMAの両者のTg評価は必要になる。また両者のTgの違いを考察することも重要である。

 

高分子のTgについては、まだ解明されていない部分が残っている。熱膨張と熱収縮の測定目的だけで無く、DSCで計測されたTgと比較する目的でもTMAは重要である。

 

(注)ある状態が現在加えられている力だけでなく、過去に加えられた力に依存して変化する事。履歴効果。

 

カテゴリー : 連載 電気/電子材料 高分子

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2014.03/17 古くて新しいセルロース(7)

20年ほど前に、バクテリアが生産するセルロースを取り出す技術が実用化され、まずスピーカーなどに活用されたが、これらのセルロースは、植物から得られるセルロースよりも2ケタ程度繊維構造が細く、水分散性がよく、細長い繊維状物質として得られる。

 

ゆえに水分散性の高分子用フィラーとして活用しやすい。植物由来のセルロースとこれらバクテリアの生産するセルロースとの最も大きな違いは、その純度で、医療材料のような純度の高い工業材料が要求される分野で期待されている。このようなセルロースからゲルを作ると、そのまま濾過膜として活用できる。

 

例えば酢酸菌などのバクテリアがつくるセルロースは、その繊維幅は植物セルロースに比べて100分の1~1000分の1という細さで、その極細の繊維が複雑に絡み合うことで、アルミニウムシート並の強さの濾過膜を作ることが可能である。また、ココナッツミルクの中で幾多の酢酸菌が縦横無尽に動き回るとセルロースゲルができあがるが、これをシロップ漬けにしたものがナタデココである。糖分を酢酸菌がセルロースに加工している様子を肉眼で見ることはできないが、ナタデココを食べるとその食感からセルロースが多糖類の一種であり繊維素と呼ばれるのもなんとなく理解できる。

 

バクテリアセルロース以外に、ホヤセルロースの研究もおこなわれている。ホヤは、俗に海のパイナップルと呼ばれる海産動物で、古くから食用とされ、養殖も盛んに行われている。現在のところ、ホヤは、体内でセルロースを合成することが確認された唯一の動物である。本来バクテリアが持っているセルロース合成遺伝子が、進化の過程で取り込まれ、セルロース合成のプロセシング機能を獲得できたと言われている。 ゆえにホヤ以外の動物からセルロースが発見される可能性が残っている。

 

バクテリアを含め、生物が生成するセルロースの、夢の活用の仕方として、運動可能な生物の特徴を利用したナノビルダーというアイデアがある。すなわち培地の上に生体高分子でつくったレールを配置し、酢酸菌がそのレール上を行き来すると、そこに排出されたナノ繊維が吸着され繊維が一方向に整列したフィルムができる可能性がある。

 

植物からセルロースを取り出す方法では製造できなかったナノ構造体をバクテリアの運動能力を用いて製造することができる。セルロース結晶の強靭なナノ構造体と他の機能素材とを複合し、ナノ機能材料を開発する分野は、バクテリアの運動制御のアイデアと材料設計技術が必要で、環境技術だけでなく生物材料科学としても期待される分野である。

 

セルロースについて以前「科学と教育」に掲載された内容を連載してきたが、最近はセルロースと同じ多糖類であるパラミロンの研究も行っている。パラミロンはミドリムシから容易に採取できる物質で、セルロースを変性したTACの製造プロセスをそのまま使用可能で、優れた環境樹脂を製造できる。ミドリムシの培養からパラミロンの抽出、アセチル化までは少し努力すれば一般家庭の台所でも実験できる。すでに光学用樹脂として特許を出願したのでご興味のある方は弊社へお問い合わせください。

カテゴリー : 一般 連載 高分子

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