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2013.02/14 弊社の問題解決法について<28>

 K0チャートが作成されましたら、各K0ポイントごとに、K1チャートを作成します。K1チャートとは課題を実行するアクションとその成否を新QC七つ道具のPDPC図のようにゴールに向けて進行状況を見える化したものです。

 

 すなわち、ある課題を解決するためにアクションを実行しますと必ずアクションについて成功か失敗かという二つの事象の内どちらかの結果が出ます。通常アクションプランを考える時にはアクションが成功することを前提に計画表へ記入し、判断が必要なところで分岐点を設けるように計画表を作成しますが、K1チャートにつきましては、すべてのアクションについて、その結果の成否を記入するようにします。失敗する可能性が極めて低いときでも失敗の事象を記入します。

 

こうすることで、福島原発の事故でよく言われた想定外という言い訳が無くなります。すなわち、とるべきアクションについて成功と失敗の両事象を事前に考えていますから、不測の事態に迅速に対応できます。また、この方法はアクションの結果をすべて考えていることになりますので、アイデア漏れを防ぐ手段にもなっています。

 

それでは具体的な手順を以下に示します。

 ①各K0ポイントのゴールを確認する。K0ポイントが一つの場合には、そのゴールと「あるべき姿」とは一致する。

 ②K0ポイントに存在する課題を確認する。この作業では、問題の構造を表した系統図を用います。系統図に示された課題の中で、優先順位の高い課題、すなわち最初にやり終えなければならない課題を選択する。系統図は階層構造を表現しておりますので優先順位の高い課題を決めるのは難しくありません。系統図を作成せずにK0チャートを作成した場合には、この段階で課題を考えてください。

①  ②のプロセスで求めた課題について、知識ベースで達成手段すなわちアクションを

書き上げる。それぞれのアクションにおいて、それが成功した事象と、失敗した事象に分け、それぞれについて、次のアクションを考える。このアクションを考える場合には、必ず何か記入すること。具体的なアクションが無くなれば、その時点で失敗と記入する。アクションを思いつかないだけであれば“?”を記入する。

④  ③の作業において、アクションを起こした結果、問題の構造の系統図に示されている課題が発生したならば、アクションの結果に課題を書き入れる。そして次のアクションについては、この課題に対するアクションを考えることになる。

⑤  ④の作業において、アクションを起こした結果、問題の構造の系統図に示されていない新たな課題が見えてくることもあります。その時はアクションの結果に新たに見えた課題を書き入れる。そして次のアクションについては、この課題に対するアクションを考えることになる。

①  ③から⑤をゴールに到達するまで繰り返す。

 このゴールとは各K0ポイントのゴールのことですが、少なくとも一つはあるべき姿と一致します。

 

このK1チャートを作成するときのコツは、推論の性質をうまく使うことです。慣れてくれば、推論の性質を用いなくとも、K0チャート作成までの段階でK1チャートの様子が見えてくるようになります。問題の構造を系統図で表現するプロセスにおいて、ゴールである「あるべき姿」から逆向きの推論により課題を追加する場合があったなら、その時にK1チャートの全体像が見えたかもしれません。

 

本問題解決法に慣れますと、問題設定後すぐにK1チャートを作成することができるようになります。ここではK1チャートの意味を理解しやすいように前向きの推論を使用する方法で説明いたしましたが、「あるべき姿」から逆向きの推論で作り上げると必要なアクションが前向きの推論よりも少なくなります。K1チャートは逆向きの推論で作成するのが本来の姿ですが、逆向きの推論に慣れていない時にはK1チャート作成に時間がかかるようです。もし読者が逆向きの推論を日常使用してきたならば、K1チャートは逆向きの推論で作成してください。次の章で山中博士の研究を用いてK1チャートを後ろ向きで作成するとアクションが少なくなることを示します。

 

プロジェクトの成功体験を重ねるにつれ、K0チャートやK1チャートのパターンができてきます。また、K0チャートからK1チャートを作成する作業も、パターン化され、いわゆる問題解決の必勝パターンというものができます。研究開発において技術を伝承する時に、この問題解決の必勝パターンを伝承するのも良い方法です。

 

この問題解決法の長所は、ここまでの手順において、あるべき姿から問題を見直す作業が何度も出てきます。あるべき姿を具体化する作業と同様に、この作業はこの問題解決法の特徴で、問題解決案を得るために問題を詳細に分析する従来の問題解決法と異なる点です。

 

この問題解決法では、問題解決の道筋を重視し、問題の理解については、何度もあるべき姿を参照することで深めていきます。そして、このステップで作成するK1チャートは、問題解決の道筋を具体的なアクションで表現するためのものです。

 

 複数のK0ポイントがある場合も同様ですが、K0ポイントが一つの場合との違いは、各K0ポイントのゴールを具体的に決める作業をしなければいけない点です。

 

    <明日へ続く>

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2013.02/13 弊社の問題解決法について<27>

前節で完成した系統図について、新QC7つ道具の親和図法の考え方を適用し課題の整理を行います。すなわち、課題が階層的に結びつけられている系統図を眺めた時に、各課題を結びつけている線、すなわち各課題の関係を一度忘れてください。そして、親和性の高い課題を集めてグループを作成してみてください。

 

多くの場合、課題の系統図を眺めて、おおよそ見えてくるグループを手掛かりに整理できますが、状況によっては、系統図の関係を完全に破壊してグループ分けをしなくてはならないケースも出てきます。しかし、それでもかまいません。そして、このグループ分けの作業で作られた、それぞれのグループにふさわしい名前を付けてください。この名前が付けられた各グループをK0ポイントと呼びます。

 

K0ポイントの名前は、グループに含まれる課題を概念化したものを使いますと、K0チャートを考えるときに便利です。K0ポイントの数は、問題の構造に依存します。すなわち、問題の構造が複雑であるにもかかわらず、K0ポイントが1つだけの場合もあれば、課題の数だけK0ポイントができる場合があります。

 

この親和図法を用いてK0ポイントを導き出す作業は、改めて問題の構造を見直す作業となっています。この作業で、問題を2つ以上の問題に分けた方がよいと思われるのならば、問題を分割しここまでの作業を再度やり直してください。ここでは、問題が一つの場合を前提に説明しますが、問題が2つ以上になりましても、ここから先の作業は、それぞれの問題について共通です。すなわち、このK0ポイントを決める作業は、問題が1つであるかどうかを検証する作業でもあります。

 

ここまでの作業に慣れますと、系統図を用いて問題の構造を作らなくとも、直接K0ポイントを導き出しK0チャートを作ることができるようになります。

 

しかし、問題の認識を共有化するツールとして問題の構造を表す系統図を用いることができるので、直接K0ポイントを導き出した場合でも、問題の構造を課題で表す系統図を作成したほうがよいでしょう。問題を他の人と共有化する必要が無い場合であれば、問題設定後作成するK0チャートだけでもかまいません。

 

K0ポイントができましたら、K0ポイントを問題解決のゴールである「あるべき姿」から、後ろ向きの推論を行い並べます。一本の道筋でK0ポイントがつながることもあれば、並列にK0ポイントが並ぶこともあります。このK0ポイントを並べる作業は、慣れるまでは課題で形成された問題の構造を見ながら行うと、簡単にできます。

 

こうしてでき上がった、K0ポイントを「あるべき姿」へ向けて並べた図がK0チャートです。K0チャートは、問題解決の道筋を概念的に表現したものです。すなわち、各K0ポイントを攻略すれば問題解決できる、ということを表しています。

 

どんな複雑な問題でも、その構造が明確になりますと、問題解決が容易になります。それゆえ従来の問題解決法では分析的思考を行い、問題の構造を細かく解析することにエネルギーを使用してきました。そして得られたそれぞれのアイデアについて、問題解決に結びつくかどうか、前向きの推論を用いて検証する作業を行い、解決策を探しました。

 

これに対し、エージェント指向を真似た本問題解決法では、問題の詳細な分析を必要としていません。それどころか、系統図で表した問題の構造を改めて親和図法によりK0チャートとしてまとめ直すなど、分析とは逆の手法、すなわち、課題を大きな概念でまとめ上げ、総合的に問題を眺めるようにしています。そして、問題に対して答(ゴール)となる「あるべき姿」から逆向きの推論を行い、知識を用いて得られた仮の問題の構造とゴールである「あるべき姿」との比較で、プランを立て直しながら問題解決の道筋に隠れている課題を求めています。

 

これはエージェント指向のパラダイムの特徴であるプランニング機能です。常にゴールである「あるべき姿」を目標に、逆向きの推論を駆使して問題解決の道筋を求めるゴール至上主義は、エージェント指向が登場するよりも前に著された宮本武蔵の「五輪書」にもその思想があり、問題解決の必勝法と思っています。

<明日へ続く>

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2013.02/12 弊社の問題解決法について<26>

知識ベースで作成した前節の系統図を見ると、左端に問題が書かれ、右端にはいくつもの課題が並んだ構造になっています。その中に、「あるべき姿」を暗示させる課題があるでしょうか。例えば、右端のある課題が解決されたときに、あるべき姿が実現されるような系統図ができていれば良いわけですが、右端にある課題と「あるべき姿」に論理の隔たりが残っている場合があります。あるいは、幾つかの課題を組み合わせると、「あるべき姿」を実現できる場合もあるかもしれません。

 

いずれにせよ、系統図で問題の構造が明確になり問題解決の糸口が見えればよいですが、見えないときには「あるべき姿」から逆向きの推論を行い、不足している情報を探し出し追加すべき課題を考えます。すなわち、系統図で示された最も右端の課題に向けて、「あるべき姿」から逆向きの推論を行い、隠れている課題を探索するのです。具体的には、次のような質問をすればよいのです。

 

a.「あるべき姿」が達成されるためには、課題Xは、どのようになればよいのか。

b.「あるべき姿」が達成されるためには、課題Xに、どのような条件が揃えばよいのか。

c.「あるべき姿」が達成されるためには、課題Xの解決策として、何が考えられるのか。

 

これらの質問により、隠れていた課題が見えてきます。このような質問をしなくとも、単に末端の課題と「あるべき姿」との間の不足する情報を調べたり、「あるべき姿」の前段階の状態を考えるだけでも出てくる場合があります。この作業も慣れますと「あるべき姿」を達成するアクションを直接考えて課題として捉えることができるようになります。

 

しかし、どうしても「あるべき姿」に直接つながる課題が見つからなければ、専門家に相談してください。そして「あるべき姿」に直接つながる課題を必ず一つ見つけてください。この段階で見出された課題の一部、あるいは系統図に書かれた全ての課題を用いて、「問題」から「あるべき姿」までつながる問題解決の道筋のストーリーができたならば完成です。

 

ここまでの説明では、問題から前向きの推論を展開し系統図を書き上げる方法を説明しましたが、慣れましたら「あるべき姿」から逆向きの推論を展開して系統図を作るようにしてください。おそらく慣れますと逆向きの推論で系統図を作成するほうが簡単に思えるはずです。

 

一部だけ逆向きの推論を用い、系統図の大半を前向きの推論で作成する方法を最初に示しましたのは、これまでの指導経験で「あるべき姿」から逆向きの推論を行い、系統図を作ることに違和感を持たれる方が多かったためです。おそらく日常の技術開発で前向きの推論に慣れ親しんできたためだと思います。しかし、ここで作成する系統図を最初から逆向きの推論を展開して作成できるようになりますと不思議なことに開発現場でアイデアが出やすくなります。目の前の現象からすぐに逆向きの推論を展開できるようになるためと思っています。

<明日へ続く>

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2013.02/11 弊社の問題解決法について<25>

ところで問題の構造について、課題や課題相互の関係がわかるように系統図で表現しますと、問題の理解が深まるだけでなく、得られた系統図をコミュニケーションツールとしても使えます。

 

問題の構造を系統図で表現する作業については、知識に基づく我流でかまいませんが、参考までに新QC七道具にある連関図法を用いた手順の一例を以下に示します。この手順では連関図を用いますが、系統図の下書きを作る目的で使用しますので、新QC7つ道具の説明にあるような厳密な因果関係を作り上げる必要はありません。慣れてくれば、以下の作業を行わなくても、いきなり問題の構造を示す系統図を作成可能です。

 

まず大きな紙を用意し、その紙の真ん中に、「あるべき姿」や「現実」の具体化作業から明確になった「問題」を書きます。

 

①  問題を結果とみなし、その原因を考える。可能な限り問題の周りに思いつく原因を並べます。原因と思えないものでも課題として必要ならば書き加えます。ここで原因を考えるように説明していますのは、発想を刺激するためです。この手続きで、仮に原因1、原因2、原因3、原因4、原因5と考えることができたとします。

②  次に原因1から原因5までの各原因を結果としてとらえ、それぞれの原因を考えます。

 

問題を中心にして、これをどんどん外側へ広がるように行いますが、この時、「あるべき姿」が最も外側にあることをいつも忘れないようにします。

 

もしこの連関図の作成作業で、同じ階層レベルに位置しながら、強い因果関係で結びつく項目があるならば、片方がノイズであるか、あるいはどちらか一方に含まれるべき情報かもしれません。ここでの作業は、問題の構造を示す系統図を作るために、補助的に連関図を作成しているだけですから、通常の連関図のように因子をすべて書き出す努力をする必要もありません。

 

 以上のようにして作成した連関図から系統図への展開方法は、難しくありません。中心にすえられた問題を左端に寄せて、系統図のように並べ替えれば良いだけです。

 

 この系統図を作成する作業に慣れますと、逆向きの推論を最初から行いこのあと説明するK1チャートを一気に作成でき、すぐに思考実験を始められるようになります。すなわち第一節から第四節までの作業を短縮してできるようになります。

                                     <明日へ続く>

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2013.02/09 弊社の問題解決法について<23>

 探偵小説の世界だけでなく、コンピューターの世界でも推論の向きによる二つの世界観があり、逆向きの推論によるエージェント指向ではフリーズしないコンピューターができると言われてます。このエージェント指向に似た問題解決法であればどんな問題でも解決できるかもしれません。

 

ところでオブジェクト指向プログラミングで使用される前向きの推論については、結論に至る道筋をすべて吟味しなければ解決の道筋を見つけられない、という特徴があります。一方、エージェント指向の特徴である逆向きの推論については、必要十分条件を前提に考えていますので、必ず結論に至る道筋だけを追及できる効率の良さがあります。

  

この推論の向きの特徴について、帰宅難民になりました2011年3月11日に考えた問題を事例にもう少し具体的に説明します。その日、都心の交通機関は止まったままでしたが、八王子駅周辺の交通機関は、一部動いていました。

 

「八王子駅近くの会社にいて、板橋区内の自宅玄関へ、出発時に予定した到着時間に確実にたどり着くにはどうしたらよいか」、

 

という問題で前向きに推論しますと、電車に乗った場合には、どこかの駅にたどりつき直接自宅玄関に着けません。自宅玄関につくためには、どこかの駅から、さらに歩く必要があります。最寄り駅についた場合も同様で、最寄り駅から自宅玄関まで歩く必要があります。ゆえに電車が順調に動いていない状況では、到着時間を予測することができません。

 

京王バスに乗った場合には、京王バスのどこかのバス停につきます。どこかのバス停から玄関までは、また電車に乗るか、歩かなければなりません。途中で電車に乗りました場合には、電車のどこかの駅にたどり着けますが、自宅玄関まで、そこからさらに歩く必要があります。電車に乗って無事に最寄り駅につけたとしても、最後に自宅玄関まで歩かなければなりません。

 

最初に電車や、京王バスに乗った場合には、自宅玄関に直接つけませんから、災害時には到着時間の予測もできません。八王子駅近くの会社から自宅まで、すべて歩いた場合にだけ、予想した到着時刻に直接自宅玄関にたどり着けます。

 

前向きの推論では、八王子駅近くの会社から板橋区内の自宅方向へ推論を展開し、電車、バス、徒歩の3通り以上の組み合わせを考えることになります。

 

しかし、自宅玄関から逆向きに推論した場合には、徒歩という手段だけを考えればよく、自宅玄関から八王子駅近くの会社まで行く見通しが一発で得られます。このようにスタート地点は八王子駅ですが、逆向きの推論では、ターゲットとなる自宅を起点に考えます。

 

インターネット情報では、当時自宅周辺の駅に停車する電車は、すべて運休していました。八王子駅周辺では京王バスが動いていましたが、自宅を起点に逆向きに推論を行いますと、途中で交通機関に乗車できる可能性はありません。サラリーマン最後の日は会社へ宿泊するという結論をすぐに出すことができました。

 

帰宅難民の事例ではゴールである自宅は変化しませんが、不確実性の時代における「あるべき姿」は、時の流れにより変化する可能性もあります。もし「あるべき姿」の見直しが必要になったなら、すぐに修正し改めて問題を設定しなおさなければなりません。問題解決で大切なのは「あるべき姿」であり、この「あるべき姿」をいつも正しく決めなければなりません。

 

本書では「あるべき姿」は不変として扱いますが、実際には変化するケースも出てきます。しかし、あるべき姿が変化する場合にもあるべき姿を修正した新たな問題で問題解決を進めればよいだけです。「あるべき姿」が時代に合っているかどうかの検証は、常に心がけねばなりません。あたかも「マトリックス」でエージェントがターゲットを追い続けたように、問題解決する時には時代に合った「あるべき姿」を追い求めねばなりません。

                       <明日へ続く>

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2013.02/08 弊社の問題解決法について<22>

 ところで、エージェント指向のパラダイムは、オブジェクト指向プログラミングの普及が始まった1980年代に登場しています。しかし、人工知能の技術が必要なため、そのパラダイムを実現できる安価な普及型言語は未だに登場していません。エージェント指向の解説書を読みますと、そのパラダイムはゴール至上主義であり、メッセージ至上主義のオブジェクト指向のパラダイムと全く異なっている、と説明されています。

 

例えば、オブジェクト指向では情報を頼りにしてアクションが決まるので受け身的振る舞いとなりますが、エージェント指向では状況判断が加わり能動的な振る舞いとなります。すなわち、この能動的振る舞いの特徴があるので、情報が無い時にアクションが止まってしまうオブジェクト指向の欠点が解決されています。そして情報が無くともアクションを中断することなく必ずゴールまでプログラムを実行し続けると説明されていますが、この仕様はエージェント指向の一番の特徴であり、「ゴール至上主義のパラダイム」と表現されたりします。不足している情報を「逆向きの推論」により自分で探し出したり作り出したりする仕掛け、人工知能がプログラムに組み込まれているので実現可能となる仕様です。

 

そのほか、エージェント指向プログラミングには、ゴールへの最短経路を探す性質や、不足している情報を探し属性やメソッドを自由に変化させて知識が増えてゆく人の成長を模倣した仕組みなど、問題解決プロセスに参考となる仕様がいくつか含まれています。 

 

 エージェント指向については、論文でその仕様を理解しただけですが、派手なワイヤーアクションで有名になった映画「マトリックス」は、まさにエージェント指向の世界観を取り込んだ秀作です。続編「リローデッド」や完結編「レヴォリューション」は少し本題から外れますので触れませんが、第一作では、仮想現実空間でネオがエージェントに執拗に追いかけられます。エージェントは人工知能で動いているのですが、どこからともなく現れてネオを追いつめてゆきます。あたかも彼らはネオの動きを逆向きに推論しているかのようです。結末はビデオで観てください。

                                        <明日へ続く>

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2013.02/07 弊社の問題解決法について<21>

 問題と課題が定義され、問題は課題を用いた構造で表せることがわかりました。また、問題認識や問題の共有化で生じる問題とその解決方法についても少し触れました。新しい問題解決法の説明に入る前に、なぜ問題解決でフリーズするのか、その原因について考えてみます。

 

コンピューターのソフトウェアー技法としてオブジェクト指向とエージェント指向という2つのパラダイムがあります。科学的問題解決法として有名なUSITの問題分析法は、このオブジェクト指向のパラダイムと似ています。

 

 オブジェクト指向プログラミング言語としてC++やC#、JAVAなどが知られています。これらはソフトウェアーに擬人化を持ち込んだ初めてのプログラミング技法と言われ、1980年代初めに登場しました。プログラムの固まりであるオブジェクトは、モノを構成するデータである属性と、モノの持つ機能であるメソッドで構成され、カプセル化(隠蔽化)されています。このオブジェクトにメッセージを与えるとプログラムの実行、すなわちアクションを起こします。

 

言い換えれば、データと機能を有するプログラムの「かたまり」をオブジェクトと言い、このオブジェクトにメッセージ、例えばデータを与えると、そのプログラム機能に沿ったアウトプットを吐き出す、ということです。

 

オブジェクト指向で作られた具体的なプログラムの例として、マイクロソフト社のWINDOWSプログラムがあり、アイコンをクリックした時に、そのアイコンのプログラムの動作する様子がオブジェクトのアクションに相当します。

 

クリックの仕方が悪いときには何も動作しない、というように、メッセージとメッセージが与えられた時のオブジェクトの条件が矛盾する場合には、アクションを起こさない、すなわちアイコンが指し示すプログラムが起動しないという現象が生じます。

 

このように、オブジェクト指向はメッセージ至上主義で、このパラダイムの特徴ゆえにオブジェクト指向を用いたプログラムでは、条件が完全に揃わない時にはプログラムが動作をしないケースが出てきます。すなわちソフトウェア―側でそのような場合の対応がされていない時には、プログラムは途中でフリーズすることになります。

 

オブジェクト指向によるソフトウェアーの作成プロセスは、オブジェクト指向分析に始まり、オブジェクト指向設計を行い、実装するという手順です。一般に、オブジェクト指向分析の結果が完成したソフトウェアーの品質を左右するといわれています。このソフトウェアー品質が、オブジェクト指向分析結果に依存する問題を解決するために、エージェント指向というパラダイムが同じ年代に登場しています。

 

オブジェクト指向のパラダイムでは、論理が「前向きの推論」でボトムアップ的に展開され、データ間の類似関係により体系化されてゆくという生物学の分類学にも似た美しさを持っています。オブジェクト指向のパラダイムとよく似たUSITなどが人気を集めているのは、その美しさからかもしれません。しかし、説明の美しさに比較し、USITを用いて問題解決した場合には分析的思考方法で苦しみ、前向きの推論における手続きの煩雑さに多くのユーザーが悩むことになります。そして苦労しても科学的な見地から当たり前の結果しか得られません。

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2013.02/06 弊社の問題解決法について<20>

問題認識が大きくずれるケースとして、問題の存在について意見が分かれる場合について考えてみます。震災後に顕在化した問題以外に、平和な日々の生活でも細波のごとく多くの問題が発生します。水害の連想で安直ですが、1974年の多摩川水害から生まれた新聞小説「岸辺のアルバム」というTVドラマでは、不倫をしている主人公が偽りの笑顔で家族写真を撮るシーンがあり、それは平和な家庭において主人公以外誰も気が付いていない問題を表現する象徴的なシーンでした。

 

現実とあるべき姿に乖離が見えないなら、誰も問題の存在に気がつきません。ゆえに問題の存在に気がついた人は、まず現実とあるべき姿の認識を共有化するために、それぞれを見える化する作業が最初の重要な仕事になります。誰も問題に気がついていない段階で、問題だけを主張しても、他の人は現実とあるべき姿の乖離が見えないために、問題の存在そのものを理解できません。

 

原子力発電の安全神話はその典型的な例であり、科学的に検証したので事故は起きないという原発の専門家達による誤った現実認識と、発電コストが安価でCOを排出せず環境に優しい未来エネルギーというあるべき姿を国民が共有化したために、問題が見えなくなり福島原発の事故を引き起こした、と反省する必要があります。

 

原発につきましては、一部の学者やジャーナリストから警鐘が鳴らされておりました。チェルノブイリの事故以来数多くの問題が具体的に指摘されてきましたが、あるべき姿や現実がうまく伝わらず、問題が共有化されなかったため福島原発の事故に至りました。

 

福島原発の事故原因解明は現在も進められておりますが、今回の事故処理も含め発電コストの試算を行いますと火力発電よりも高くなるという結果も報道されました。さらに環境汚染や食の安全の破綻の状況なども見えてきました。これらの問題を抱える発電システムとしての原発を含めた将来のエネルギーについてあるべき姿が議論されるようになって、ようやく原発の問題を共有化できる下地が整いました。

 

このような問題以外に、福島原発は全電源喪失から回復までに1時間以上かかったという報告があります。電源車を慌てて手配したが、コネクターの形状が合わずに電源回復が遅れた現実やY所長はじめ現地の技術者が運転設備の構造を十分に理解していなかった現実も新聞報道されています。事故後の報道で次々に明らかになる原発の現実は、「安全でクリーンなエネルギー」というあるべき姿から日に日に乖離してゆきます。

 

 このように問題というものは、現実とあるべき姿の乖離が大きくなって初めてその存在が分かるものであり、問題を指摘してもその理解や共感が得られない時には、現実とあるべき姿の共有化から作業を進める必要があります。

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2013.02/05 弊社の問題解決法について<19>

ところで問題の定義はできましたが、課題はまだ定義されていません。問題と課題の意味について、日常ではその区別が曖昧ですが、本書で使用する時には厳密に区別します。3.11の東日本大震災を話題に問題と課題の違いについて考えてみます。

 

東日本大震災は未曾有の規模であっただけでなく、福島原発の事故やその後の政府の対応のまずさなどが様々な問題を引き起こしました。次々と問題の連鎖が続く中、明確な課題である仮設住宅の設置や瓦礫撤去作業などが少しずつ進捗する様子をテレビは映し出しています。今テレビで放映されている仮設住宅建設や瓦礫撤去などを進めるのは、おそらく異論はないでしょう。現実の瓦礫の山を目にした誰もが、その作業の結果を具体的に予想することができ、作業完了後の姿について国民の理解が容易に得られる課題だからです。

 

すなわち、津波被害で発生した瓦礫の山をどうするのかという問題について、課題の一つは、生活環境を取り戻すために瓦礫撤去作業を進めることであり、この課題の迅速な実行に異論を唱える人はいません。しかし、他の課題について状況を調べてみますと、撤去して集められた瓦礫の処分やその費用を捻出することなど、解決の見通しがついていない課題もいくつかあります。ゆえに、生活環境を取り戻すことができても、瓦礫の山の問題が解決するわけではなく、他の課題もすべて解決されて初めて瓦礫の山の問題を解決できた、といえます。

 

ところで、「瓦礫撤去作業を進めること」という一つの課題を含む瓦礫の山の問題は、津波の被害という問題の一部の課題とみなすことができますが、それ自身は、先に述べましたようにいくつかの課題の集まりとなっています。さらに津波の被害という問題は、津波の被害対策をすること、と考えると、防災のためにしなければならないことになりますので、防災という問題の中の一つの課題ととらえることができます。このように問題から転化した課題というものは、問題を解決するためにしなければならない「こと」であり、問題を構成する「こと」という要素になりますので、問題と課題とは言葉の意味も、それぞれの位置関係も異なります。また、構成要素をすべて問題に転化し、問題が問題を含んでいるような複雑で大きな問題を考える問題のとらえ方は、問題を複雑で難しくすることになり賢明な方法ではありません。これに対して、含まれるすべての課題についてとるべきアクションとその結果が明確になっている問題は、たとえ課題が多くあっても、問題の見通しが得られている安心感があります。

 

ところで「問題」をあるべき姿と現実との乖離として定義しました。問題をこのように定義しますと、「課題」は、「現実」を「あるべき姿」へ一致させるためにしなければならない「こと」という定義になります。

 

課題が定義されますと、問題との関係が決まります。すなわち、問題というものは、問題に転化できる複数の課題で構成されるという構造を持ち、それぞれの課題の最終ゴールは、課題の目標達成に必要なアクションの実行で到達する「あるべき姿」になります。そして「問題を解決する」とは、問題の定義から「あるべき姿」と「現実」の乖離を無くすことであり、それを実現する方法とは、「現実」から課題の最終ゴールである「あるべき姿」へ、「課題」が解決されてゆく道筋を示せば良いことになります。ただし、それぞれの課題について目標達成のアクションが分からない場合には、その課題を問題としてとらえなおし、あらためて検討しなければなりません。

 

すなわち、本書で課題と表現したものは、「あるべき姿」へ向かう目標を達成できるアクションがわかっている前提で話を進めます。目標を達成するためのアクションがわからない課題は、すべて問題として扱うことにいたします。このような扱いで、問題の構造をアクションが明確になっている課題を用いて表現できた時に、問題解決の見通しが得られた、とみなすことができます。

 

ところで問題の構造の中には、一つの課題を解決すると他の課題も解決され、その結果を受けて別の課題も解決されるという、あたかもドミノ倒しのように課題が解決されていく構造もあります。絵に描いた餅に終わるかもしれませんが、このような解決の道筋が単純になる都合の良い課題を工夫して、課題のゴールとなる「あるべき姿」にむけて課題の組み替えを自由自在に変更できる仕組み、あるいは課題を問題に転化できますので、問題を構成する課題の数が少なくなるように複数の問題にわけ、一つ一つの問題の見通しを良くする工夫などを問題解決法に取り入れれば、「考える技術」として新しい試みになると思います。

 

また、このような問題解決法において、課題と問題の関係は、課題が問題を構成する一要素というだけでなく、課題の組み合わせが問題解決の難易度に影響を与えるという特徴を持ちます。さらに、すでにアクションまで具体化されている課題で構成された問題は、問題認識の共有化を容易にします。

 

                   <明日へ続く>

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2013.02/04 弊社の問題解決法について<18>

問題を正しく設定できたと思われる場合でも、「問題」と「あるべき姿」や「現実」との整合性をチェックする作業は大切です。ただし、現実とあるべき姿や、そこから導かれた問題に対して分析的手法で整合性を吟味してはいけません。分析的思考方法については、情報工学において個人の資質に影響を受けることが問題になっています。問題解決法とは、問題解決の論理的な道筋を示すことが目的であり、問題の詳細な分析が目的ではありません。

 

本書で提案する問題解決法では、問題に対して分析的思考プロセスを使うことなく、あたかも刑事コロンボのようにひたすら「あるべき姿」から問題解決の道筋を追求します。それゆえ、あるべき姿の具体化が、本書の問題解決法では最も重要な作業となります。次に、「何が問題か」という作業では、あるべき姿と現実との乖離を検討し「問題」を設定していますから、問題とあるべき姿や現実とを改めてつきあわせる逆向きの作業が、問題設定の検証作業として重要になります。この作業は、三者の比較により進めます。

 

この整合性作業の進め方の一例として、「あるべき姿」、「問題」、「現実」の3列で構成された表を用いると簡便にできます。必要に応じて、あるべき姿と問題の間に「乖離の様子」という列を加えたものを使用すると、問題認識の確認もできるようになります。問題設定に慣れてくれば、ここまでの一連の作業を、この表だけで行うことも可能です。

 

余談ですが「何が問題か」を問い直す作業は、すでに着手し実行されている課題に対しても有効です。十分に吟味されずに実行されている課題が、本当に実行しなければならない課題であるとは限りません。

 

ドラッカーは著書「現代の経営」の中で「重要なことは答(問題解決案)を得ることではない。正しい問いを探すことである。」、「問題の定義と分類なくして事実を知ることはできない。」など、問題そのものをまず正しく把握することの重要性と、問題の分析ではなく、問題の定義と分類が問題解決のカギと説いています。十分に検証されていない問題から導き出された課題ならば中断して正しい問題の追及をあらためて行った方が問題解決の近道になります。

 

この「正しい問いを探すことである。」、すなわち「何が問題か」という金言と同じ意味の言葉を、筆者はタイヤ会社に就職した時に聞きました。新入社員の実習で、当時の技術担当常務(CTO)から、「君のプレゼンにある軽量化タイヤとは、どういうものか」と問われた言葉がそれで、今でも座右の銘として覚えています。

 

当時、オイルショックの影響で石油製品を扱う企業ではその対策に追われていました。タイヤ会社では低燃費対策と資源の消費削減の観点でタイヤ軽量化技術が、顧客創造のための急務の課題でした。多変量解析と有限要素法を駆使し目標スペックを満たす超軽量タイヤの試作に短期間で成功し自信を持って発表したのですが、CTOは、新入社員に向けて、まさに「何が問題か」という問いと同様の質問をされたのです。

 

タイヤという商品は、数値化されたスペックを満たしているだけでは目標品質を達成したとはいえず、信頼性を確保するためにスペックにできない長期の過酷なテストまで合格して初めて目標品質を達成した商品になることをCTOは新入社員に伝えたかったのです。CTOは、「最初に取り組むべき問題は、重量が軽いタイヤを作るということではなく、軽量化タイヤの信頼性設計とその評価をどのように行ったらよいか、というソフトウェアーの問題である。」、と説明されました。この体験談では、指導社員とその上司である管理職にタイヤを作る作業を中断し軽量化設計に関する評価技術開発を優先するようCTOは指示したのです。

 

このように「何が問題か」という問いは、問題解決法だけでなく、商品開発とはどのようなものか、ということを部下に教える時にも使える一言かもしれません。

                                              <明日へ続く>

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