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2015.11/29 酸化スズと技術者(9)

面白い仕事は人を育てる。特に技術の仕事は面白くする必要がある。どうしても泥臭いプロセスが仕事に入ってくるからだ。面白さが少しでもあれば、泥臭さが9割でも技術者は一生懸命仕事をやり、そして一生懸命仕事に打ち込み実践知を身につけ暗黙知を獲得してゆく。
 
酸化スズの帯電防止技術開発は何が面白かったのか。管理職の立場では、ライバル特許網に風穴を開ける醍醐味と、担当者の立場では、新発見ができた楽しさである。
 
薄膜評価では、クラックが発生して直流で正確な抵抗測定ができない障害にたびたび遭遇した。この問題については、インピーダンス法で評価する技術を開発した。
 
単なる薄膜のインピーダンス評価法だが、その周波数依存性とパーコレーション転移の関係、フィルム帯電の実技評価法である灰付着テストとの関係に新発見があった。
 
またゾルのような超微粒子を水溶性高分子に分散したときに生じるパーコレーション転移を自由に制御できる技術も技術として開発できた。これは一部日本化学会でパーコレーション転移の破壊として、技術に採用した逆の現象に置き換え発表している。これはノウハウを隠すためである。日本化学会からは若い技術者が講演賞を頂いている。
 
酸化スズゾルに含まれる微粒子は非晶質で科学的に大変怪しい材料である。しかし、技術としてその機能を制御することは可能で、帯電防止層として活用されてきた。
 
酸化スズの仕事では、日本化学会と化学工業協会から賞を頂き、さらにその技術を担当した若い技術者はその後学位をめざし無事取得している。形式知と実践知、そしてゴム会社で身につけた「技」暗黙知を駆使して、昭和35年の特許を実用化した仕事はサラリーマン生活における楽しい思い出の一つである。
   

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2015.11/28 酸化スズと技術者(8)

市販の酸化スズゾルに含まれていた微粒子の導電性と特公昭35-6616から推定された微粒子の導電性とは2桁程度異なっていた。そこで特許の実施例に書かれた酸化スズの合成法について、実施例に書かれていない因子を書き出し、魚の骨にまとめた。
 
やる気を喪失していた若い技術者がいたので、面白い大発見ができる、とおだてて、実施例に隠されていた因子について実験計画法を行い、酸化スズを合成してみた。
 
驚くべきことに、導電性は、1000000倍まで変動した18種の微粒子を合成することができた。最も良い条件では、実施例通りの1000Ωcmの特性が得られていた。
 
近くの都立科技大学(現在は都立大学)に導電性の専門家がいる、と聞いたので、その若い技術者を一年派遣して、この酸化スズの導電性の研究をやらせることにした。
 
本人は大変喜んで、一年後にはそれまで未発見の導電性準位があることを見つけてくれたが、大学の先生がアモルファスの同定は難しいので、と公開を辞退されたため学会発表を行っていない。
 
その後その技術者は自分の道を見つけてくれて、寿退社した。この酸化スズの実用化は、バトミントンに夢中になっていた技術者に引き継がれた。この仕事が面白かったのかどうか知らないが、化学工業協会から賞をいただける程度まで技術を完成させて、途中紆余曲折はあったが実用化できた。
    

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2015.11/27 酸化スズと技術者(7)

酸化スズゾルをシャーレに入れて、ドラフトの中に放置したところ、1ケ月弱で10%相当の重量になり、ゾルから固形分を取り出すことができた。その固形分を粉砕し、圧粉法で圧力を掛けながら導電性の変化をグラフ化し、外挿法で微粒子の導電性を求めた。
 
驚くべきことに、酸化スズゾルに含まれる微粒子は、10000Ωcm未満の半導体であることが分かった。しかし、過去の研究レポートでは、酸化スズゾルから生成した薄膜は絶縁体と評価されていた。研究レポートに従い、薄膜を製造しその評価をしたところ、確かに導電性は無かった。
 
不思議に思い、顕微鏡観察を行ったところ、薄膜には微細なクラックが観察された。すなわち微細なクラックが大きな接触抵抗をうみだし、絶縁性を示していたのだ。
 
薄膜に生成している微細なクラックは目視観察では気がつかない。薄膜に導電性がないことを疑って初めて見つかる現象であった。科学者はときおりこのようなミスを行う。STAP細胞では、何らかのミスが重なり、あのような大騒ぎになったのだろう。
 
技術者は、自然現象から機能を取り出そうと努力をするので、愚直な実験方法を選ぶ。バカな方法でも、それが必要であれば、実行するのが技術者である。あくまでも現物にこだわり、その現物を用いたあらゆる条件の実験で仮説が否定されて初めて技術者は、一つの仮説を断念する。そして新たな仮説に基づき機能の取り出しを試みる。
 
あらゆる条件の実験をどのようにデザインするのかは、技術者の力量に依存する。科学的知識が豊かでも、技術者としての力量が低いために簡単な実験で早急に結論を出す人がいる。一方科学分野の知識が乏しくても心眼を使い、身の回りの設備を用いた可能な限りの実験を愚直に行い技術を創り上げる人もいる。ゴム会社と写真会社それぞれの会社で、後者のタイプの技術者に出会ったが、ゴム会社では評価されていたが写真会社では評価されていなかった。当方は後者の人を技術者として力量が高いと評価した。
 
面白いのは、科学的に実験を進めて非科学的な技術が出来上がったりする。話はそれるが、カオス混合装置を用いた中間転写ベルト用のコンパウンドは、科学的には相溶しないと言われている高分子の組み合わせで相溶現象を起こし、わずかに生じるスピノーダル分解を活用し凝集したカーボンの接触抵抗をコントロールしている非科学的成果である。PPSと各種ナイロンの組み合わせでコンパウンドを製造し、カーボンの凝集状態を観察しながら技術開発を進めた。これは酸化スズゾルのパーコレーション転移制御技術を担当してから15年後の成果である。
  

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2015.11/26 酸化スズと技術者(6)

1990年頃市販されていた酸化スズゾルが絶縁体である、という社内レポートは、科学的にレベルの高い否定証明の報告書だった。当時複合材料で一般に用いられていた複合則を用いて超微粒子の導電性まで推定していた。
 
このレポートを書いた技術者は、それなりの能力の技術者と思われたが、企業風土が悪かった。技術を追求する風土ではなかったのだ。日本の企業では、自然科学の優秀な研究者を採用している。
 
そして、やがてメンバーの一員として管理職に、さらには経営陣へ成長してゆくことが人材に求められている。このような風土では、技術者としての自己実現など目標にうっかり努力すればラインから外されてしまう。
 
日本の多くの企業では、技術者の将来として技術者のままでいることを期待していない。しかし、今の時代は技術者のジョブも高度化しているのでジョブ中心の採用と育成が求められている。
 
もし技術者が本当に酸化スズゾルの機能を実用化したいと考えたならば、酸化スズゾルの微粒子を取り出し、その導電性を直接評価する、という泥臭い方法を行わなければいけない。すなわち現物の機能を現物で評価する、という技術者の鉄則に従い業務を遂行する。
 
確かに10wt%程度の濃度のゾルから超粒子を取り出すのは大変で、それなりの「技」がいる。濾過して超微粒子を取り出すことなどできないからだ。
 
これをスプレードライ法で取り出す、というアイデアがひらめいた技術者はそれなりの実践知を持っているが、スプレードライでは加熱プロセスを避けて通れないので、「加熱により物質が変化する」という形式知に邪魔され、その採用ができない。
 
愚直に自然乾燥で取り出す、という方法があるが、意外にもこの方法を馬鹿にする技術者は多い。実際にある担当者にお願いしたら、「どうぞ暇に任せてご自分でやってください」と、言われた。シャーレに分取し、紙をかぶせてドラフトに放置するだけの15分もかからない作業であるが、絶縁体として結論が出ている材料ではmotivationそのものが沸いてこない。
  

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2015.11/25 酸化スズと技術者(5)

科学者は、形式知に精通しておれば、職業として成立するが、技術者は、形式知と実践知、そして暗黙知まで身につけていることが要求される職業である。そして、この3つの知識のバランスが技術者の知識労働者としての価値を決める。
 
例えば、暗黙知と実践知に偏りがある技術者は、昔の職人に近い技術者である。一方、形式知に偏りのある技術者は、科学者に近い。今学校教育では科学教育が行われているので、この形式知に偏りのある技術者が多くなっている。
 
形式知に偏りがあるからと言っても、科学者ほど知識が深くないので、企業で漫然と実務をこなしていると中途半端な実力の技術者となる。そのような技術者は、酸化スズのような材料を技術として活用しようとする時に、否定証明に走る傾向がある。
 
本来技術者という職業は自然界から機能を取り出し、人類に有益な価値を提供することが仕事のはずなのだが、科学者のような仕事のやり方を行い、せっかく目の前にある機能を実用化する術を持たないために、チャンスが訪れてもそれを活かすことができない。
 
パーコレーション転移がポピュラーでなかった1980年代に、この形式知を知っているかどうかは、技術者の自己実現努力に左右される。材料系の学会においてその現象が複合則で議論されている状況でも、形式知としてそれがどのような意味なのかを体系づけて取り込む努力を怠らなければ、それが実践知に分類すべき知識であることに気づき、形式知としてパーコレーション転移を勉強するようになる(注)。
 
科学者の問題は、実践知をあたかも形式知の如く扱う人が稀にいる点である。STAP細胞もiPS細胞もそうである。後者については実用化研究が花盛りであるが、未だ「何故ヤマナカファクターで細胞を初期化できるのか、初期化できるのはヤマナカファクターだけなのか」という科学的な解明がなされていない。
 
この解明が進めばSTAP細胞が何故できないのか(あるいはできる条件があるかもしれないが)も明らかになるのかもしれない。iPS細胞の研究は、今科学ではなく技術として進められているのが現状である。世界中で技術開発競争が繰り広げられている科学分野では、形式知と実践知の混乱が起きる。STAP細胞の騒動はそのような事件だ。
 
特公昭35-6616を見つけたとき、慎重に企画の準備を進めた。ラッキーだったのは知財部門に優秀な人がいて知財戦略をアドバイスしてくださったことだ。転職した最初の一年は一生懸命特許を書いていた。また、都立科技大(現在の都立大)に留学生を送り、酸化スズゾルの導電性を研究しようとした。そしてパーコレーション転移シミュレーションソフトウェアーも開発した。この頃久しぶりに研究色の高い仕事をした思い出がある。
 
(注)この分野で有名なスタウファーの教科書は、1990年前後に登場するが、1980年前後には科学雑誌にパーコレーションの話題が取り上げられている。また、79年にゴム会社へ入社したときに指導社員はパーコレーション転移をご存じで、混合則で議論する問題を指摘されていた。

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2015.11/24 酸化スズと技術者(4)

高分子に導電性物質を分散したときに観察されるパーコレーション転移は、1980年代の材料科学の分野ではポピュラーな考え方ではなく、そのかわりに電気抵抗の並列接続と直列接続をモデルにした複合則が一般に用いられていた。
 
パーコレーション転移は数学の分野で発展した考え方であり、この20年前にボンド問題とサイト問題という有名な議論が展開され、パーコレーション転移の科学的理解は進み、当時は山火事などのシミュレーションに用いられていた。
 
パーコレーション転移は、形式知なので誰でも論文を理解すれば獲得できる(注)。一方材料科学分野では、パーコレーション転移で生じる現象を経験則から導かれた複合則(あるいは混合則と呼ばれていた)を用いた議論が行われていた。
 
化学という学問は科学の一分野でありながら、このように経験則を科学的議論に持ち込むようなことがよく行われるので注意が必要だ。例えばかつて高分子のレオロジーを論じるモデルとして、ダッシュポットとバネのモデルがあった。このモデルを用いてマックスウェルの方程式を解きながら現象理解を進めるという方法も実践知から生まれた形式知である。
 
ダッシュポットとバネのモデルではクリープ現象をうまく説明できなかったので、1990年代にこの考え方は消えていったが、防振ゴムや制震材を設計するときに用いると、材料設計を容易にできる、という便利さがあった。また、粘弾性測定の結果もこのモデルで理解すると、材料の高次構造理解に役だった。故に形式知としては廃れたが、実践知として今でも使用しているゴム技術者は多い。
 
同様に、高分子に導電性物質を分散したときに現れる現象について、科学的に論じるときに複合則を用いる人はもういなくなったが、かつては複合材料の教科書に書かれていた複合則を用いて、それを用いて計算される微粒子の導電性を議論していた。写真会社へ転職したときは、実践知と形式知をごちゃ混ぜにして誤った結論を導いてもそれが科学的論理で展開されていたなら正しい、と信じられていた時代である。今でもそのような光景が見られるので、弊社は新たな問題解決法を提案し、科学的間違いに早く気がつくツールを提供している。

 
(注)パーコレーション転移が形式知としてまとまってから、材料科学分野へ普及するのに20年以上かかっている。1979年にゴム会社へ入社したときに、指導社員はパーコレーション転移をご存じでカオス混合などのマカ不思議な言葉と同じように教えてくださった。大学で合成化学を専攻してきたので、数学物理系の指導社員に巡り会ったのは技術者として幸運だった。
  

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2015.11/23 酸化スズと技術者(3)

転職した当時に、新素材として酸化スズゾルという商品が多木化学から販売されていた。それは、四塩化スズの加水分解で製造された酸化スズをアンモニアに分散したゾルの水溶液で、特公昭35-6616の実施例に書かれた酸化スズゾルと同等の材料だった。
 
この材料については、ライバル特許に抵触しない可能性のある材料という理由で、十分な検討が社内でなされ、科学的な研究レポートが数報書かれていた。そしてそれらの最終レポートでは、この商品の酸化スズは絶縁体に近い、と結論されていた。
 
特公昭35-6616の実施例が正しいと信じて、この実施例の結果をシミュレーションしたところ、酸化スズゾルは帯電防止剤として十分な性能がある、と推定された。ところが、高分子にこの材料を分散した時に、パーコレーション転移が起きない場合には、十分な導電性が発現しないことがわかった。
 
すなわちシミュレーションの結果から、酸化スズに導電性が無いのではなく、適切な実験条件が選択されない場合には、パーコレーション転移が起きないので、あたかも絶縁体のような振る舞いになる。ただし、これは計算機上の結果であり、これを実証できる現物がなければ、この技術を用いた新たな商品化企画を周囲は受け入れない。
 
なぜなら、酸化スズを用いる帯電防止層は、すでに社内で検討済みという結論が出ている仕事なので、実際に現物で再現できることを示さない限り、周囲の同意が得られないだけでなく、提案の仕方を間違えると反発を招く可能性がある。
 
これは、ゴム会社で電気粘性流体の耐久性問題を解決した状況と類似で、進め方を間違えてFDを壊される(注)ようなひどい目にあった経験をマネジメントに活かすことができた。さらに、何もドープされていない酸化スズが本当に導電性を持つのか、という科学的疑問も個人的にあった。
 
個人的な興味という理由は、無機材質研究所から、高純度酸化スズ単結晶は絶縁体である、という論文がすでに公開されていたから非晶質でどうなるのか興味があったからである。ただ非晶質でも絶縁体であるかどうかは、科学的に証明されていない性質であった。
 
(注)ゴムから溶出する物質で電気粘性流体が増粘するという問題を一年かけて検討した結果、界面活性剤では問題解決できない、という科学的な証明が他の研究者から出されていたが、たった3日でその方法を用いて技術により問題を解決した。「できる」という実験結果が、「できない」という多くの実験結果で否定されたSTAP細胞の騒動では、一流の研究者が自殺するというショッキングな事件(注2)や、ES細胞の盗難疑惑を明らかにしようと警察へ刑事事件として告発する動きまで現れている。研究者で構成された社会では、時として信じられない事件が起きるケースがあるので、細心の注意のマネジメントが要求される。理研の環境やあの時の状況が特別なのではなく、一般企業の研究所でも、マネジメントに配慮しなければ、いじめなどの子供社会で起きるような事件が発生する可能性がある。被害者は事件が放置されると孤立感が進み恐怖感に変わってゆくものであり、マネジメントではメンタル面のケアが重要になるが、管理職にその知識が欠如している場合が多い。弊社では、研究所の健全な風土醸成のノウハウ提供も行っています。
(注2)STAP細胞の存在は未だに科学的にその存在が証明されていない。特定の条件で作ることができない、と科学的に証明されただけである。なぜSTAP現象が人間の細胞で起きないのか、という問いに対して科学的な解が出されない限り、できる可能性が残っている。この分野の素人でも理解できる状況で、一流の研究者は、否定証明の嵐の中で板挟みになったのだろう。誰かが他の組織を示してあげる必要があった。管理者は孤独なものだが、知識労働者は管理職でなくても孤独にさらされる。上位職者の役割は、孤立している当事者を改めて組織で機能できるように道筋を示してやることである。研究者は組織を失えば自己実現も貢献もできなくなる大変脆弱な職業である。組織(コミュニティー)が無くなれば、その職業をやめなければならない。
  

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2015.10/30 デンソーのSiCウェハー技術

今年の東京モーターショーでデンソーは、SiCウェハーの6インチサイズを展示していた。クリー社から8インチウェハー技術ができた、という発表があったが、まだ市場に出ていない。ゆえに、現段階では最先端の商品であり、自動車に興味のない人でもこの分野に興味のある人には、一度見に行って説明員から話を聞くと勉強になる。
 
東京モーターショーでは、よくコンパニオンが話題にされるが、美しいコンパニオンに目が奪われている技術者は、企画マンとして失格である。自動車は我が国の基幹産業であり、そこに展開される技術のトレンドを調査する現場として、東京モーターショーはコストパフォーマンスの大きい有益な情報源である。
 
今自動車は、石油原料から水素燃料へ、あるいは電気自動車へ技術革新が始まったばかりである。これから30年間進められる技術革新で、未来の車の姿が明確になり、新たな産業も立ち上がる。SiCウェハーは、インバーターに絶対必要なパワー半導体の本命であり、この産業がどのような展開をしてゆくのか興味がある。
 
すでにシリコーンウェハーと異なる発展の様相が見えてきており、異業種から新規参入するには良い機会である。おそらくこの10年は、最後の参入の機会になるのかもしれない。
 
デンソーは、従来の昇華再結晶法(レーリー法)と気相成長法の二刀流で技術開発に取り組んでおり、やがてクリー社を技術開発で追い抜く可能性がある。ウェハーからその応用されたデバイスまで開発できる市場のリーディングカンパニーという立ち位置が強みである。
 
かつてブリヂストンも日本化学会化学技術賞を受賞した時にSiCウェハーの開発を行っていると報告していたが、2011年にその開発をやめ、高純度SiCの創業時の事業である、ダミーウェハーやヒーターなどの半導体治工具(注)へ特化している。
 
ブリヂストンの高純度SiC技術に用いられる有機物前駆体からは、様々な状態の高純度SiCを合成することが可能で、昇華再結晶法に適した技術、と期待していただけに残念である。なお有機物前駆体法による高純度SiC技術の合成法とその速度論については学位論文として公開しているのでご興味のある方は問い合わせていただきたい。
 
(注)元住友金属工業(株)小島荘一氏のご尽力の賜物である。
 
 
 
 
 

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2015.10/19 高分子の難燃化技術(1)

高分子の難燃化技術は、科学として扱いにくい分野である。なぜなら、火災という現象が単純ではないからである。自然現象は複雑だから、それをモデル化して扱うのが科学であり、何を言っているのか、という批判が出てきそうだが、そのモデル化が難しいのである。
 
例えば燃焼は急激に進行する酸化反応である、と教科書には書かれている。単純に急激に進行する酸化反応をモデル化し、燃焼のしやすさを数値化したのが極限酸素指数法(LOI)で、1960年代にその原理は登場している。JIS化は1980年に入ってからである。しかし、このLOIは高分子の燃焼のしやすさの指標として一応使用可能だが、実火災を前提としたときには役に立たないケースが多い。
 
ちなみにLOIとは、試料が燃焼を続けるために必要な酸素濃度を指数化したもので、空気をLOIで表現すると21となる。ゆえにLOIが21を越える高分子は、空気中で燃焼を続けることができない(自己消火性を有するという)、と言いたいのだが、「いつでも」成立する真理ではない。雰囲気温度やサンプル温度も室温という条件の時成立(注)するだけである。
 
すなわち、小さなサンプルでLOIが21と計測されても、空気中で同じ材料の大きな物体に大きな火源で火をつければ、ばんばん燃える。LOIは、決められたサンプルの大きさと火源、管理された測定雰囲気だけで成り立つ指標である。だから、例えば電気製品の通常使用の状態における難燃性の指標には不適である。こちらにはUL94-V試験というのが適している。
 
以前新幹線で自殺者が原因で初めての火災があったが、鉄道用の難燃試験では、あのような状況を想定していなかったので、車内は丸焦げ状態になった。飛行機では航空機用の厳しい試験法があり、あのような事件が起きても、シートが燃えないので火を消すことが可能となる。そもそも大量の可燃性液体を飛行機内に持ち込めないので類似事件の心配はないが、飛行機のシートと鉄道車両のシートでは難燃基準が異なるので、飛行機で同じ状況になっても火を消すことが可能となる。
 
LOIに関して、その測定値については多くの燃焼試験の中で比較的科学的に得られ繰り返し再現性も高い。また、その測定値の考察において他の科学的な分析データと同様に扱え科学的論文を書くには便利な試験法である。しかし実火災に適用する場合には、それぞれの業界が作成した燃焼試験法が使用される。
 
(注)サンプルに着火して燃焼すると、サンプルも雰囲気も温度が上がる。ゆえに、LOIの測定では常にフレッシュな酸素と窒素の混合気体を流しながら行い、雰囲気温度を上げないようにしている。しかし、それでも測定時に注意をしないと、雰囲気温度が高くなる。あらかじめ、ローソクの炎よりも小さくちょろちょろと燃え続ける条件を求めてから、酸素濃度を0.5さげてやる(酸素が少なくなる)と着火してもすぐに火が消えるか、着火しなくなる。その後、酸素濃度を0.2上げてやると同様の現象となるか、あるいは、ちょろちょろと燃え続けるようになる。次に再度0.1下げて、火が消えるかどうか確認してLOIを決定する。結構面倒な測定方法で、フィラーが入ってくるとサンプルのばらつきも加わり難しくなる。
    

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2015.09/19 SiCの不純物として含まれる酸素について

SiCに含まれる不純物の酸素は、高温度で焼結助剤のBと反応し助剤を失活させるという話を以前書いた。この不純物の酸素には二種類の形態が存在する。一つはSiC表面が酸化されて生成した表面のSiOの形態として、他の一つは、SiC粒子内部に取り込まれた酸素の形態として存在している。
 
市販されているSiCの合成法には二種類あって、一つはシリカ還元法により直接SiC紛体を製造する方法と、他の一つはエジソンの弟子アチソンにより開発されたアチソン法だ。アチソン法では大きなインゴットとして得られるので粉体にするためにはこのインゴットを粉砕するプロセスが必要になる。
 
直接粉体を合成できるシリカ還元法では、βSiCが得られるが、一個の粒子はβSiCの微結晶が凝集した構成になっている。ゆえに結晶子サイズが小さい粒子ではおよそ0.8%から1.3%前後まで多量の不純物の酸素を抱きかかえている。結晶子サイズとこの内部に抱き込まれた不純物の酸素の量とは相関する。内部に抱き込まれた不純物酸素以外に表面にも不純物酸素は存在し、内部と表面の不純物酸素の合計は、1%以上になる。
 
アチソン法で得られる粉体に含まれる不純物の酸素の量がシリカ還元法で得られる粉体に含まれるそれよりも少ないのは、内部に抱き込まれた酸素が少ないためだ。またアチソン法の粉体の結晶子サイズは一般に大きい。
 
市販されていないが、ゴム会社で生産されているフェノール樹脂とエチルシリケートから製造される高純度SiCの合成法はシリカ還元法に分類され、できる粉体もβSiCだが、一般のシリカ還元法で得られる粉体よりも不純物酸素の量が極端に少ない。そして結晶子サイズも大きい。これは前駆体の構造が分子レベルで均一になっているからである。
 
このようにSiCに含まれる不純物の酸素の量は製造プロセスによりおおよそ決まってくる。粒子の外側の不純物酸素は1400℃から1500℃の温度領域で真空にしてやると簡単に除去できるが粒子内部に取り込まれた不純物の酸素は、この処理で完全に取り除くことができないので、常圧焼結において密度のばらつきや物性のばらつきに影響を与えている。そしてこれが少ないことが高純度SiCの長所の一つとなっている。
 

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